刺青羅刹・新宿迷宮の戦い~光ささぬ地の底で

    作者:六堂ぱるな

    「なるほど、刺青羅刹にはああいう手合もいるのか。正直、俺の勝ち目は薄そうだな」
    「鞍馬天狗の軍が来ます! 外道丸さん、どうしますか……!?」
    「あいつの狙いはお前じゃなく、明確に俺の『刺青』だ。そして俺よりも強く、こちらの陣容も筒抜けっぽいな。力量と情報で敵わないなら、俺達にあるのは地の利だけだ」
    「地の利……あっ、昨日教わった『大勢と喧嘩する時は狭い場所で』、ですね!」
    「その通り。それに、奴等の狙いが俺なら、俺が移動すれば街にダメージは無ぇ。
     新宿迷宮で籠城戦だ。全員俺についてこい!」
     
    ●争いあうは刺青の二雄、狭間をゆくは青きくろがね
     ざわつく廊下の様子が気になっていたのだろう。教室の入口を見ていた埜楼・玄乃(中学生エクスブレイン・dn0167)は、入室するなりファイルを手に立ち上がった。
    「またしても大規模作戦だ。説明せねばならぬことが多々ある。よく聞いて選択してもらいたい」
     ひと息ついて、玄乃は続けた。
    「先の戦争で見られた鞍馬天狗が、歌舞伎町の外道丸一派を襲撃した」

     鞍馬天狗にはロード・パラジウムが同行していたこともあり、外道丸率いる羅刹一派は惨敗する。しかし生き残った精鋭を連れ、外道丸は新宿迷宮に立て籠もった。地の利を活かした籠城戦に鞍馬天狗側は手こずっている。
    「だが数の有利は大きい。外道丸が敗北し、刺青を奪われるのは時間の問題だ」
     無論、そうなれば鞍馬天狗は更に強大な力を得るだろう。鞍馬天狗による刺青の強奪を阻止しようと思うなら、灼滅者の手で外道丸を灼滅しなくてはならない。鞍馬天狗勢との戦いを潜り抜けて、だ。
     また、この抗争の隙をつくことで、鞍馬天狗やロード・パラジウムの灼滅も狙えるかもしれない。外道丸の灼滅と同様、これも簡単ではない。しかし間違いなく好機なのだ。
    「全てを得るのは困難だろう。だが皆が生命を賭ける戦いだ、せめてより多い戦果を得られるように祈っている」
     眼鏡のブリッジを押し上げ、玄乃は一同を見渡した。
     
     外道丸は生き延びた精鋭を率いて新宿迷宮に籠城中。彼は今も、八犬士のひとり『智』の犬士カンナビスが探していた『何者か』――ロード・パラジウムが入手の隙を窺う『何者か』を保護しているという。
    「正体は現在も不明だが、こちらで確保するチャンスではある」
     咳払いをして、玄乃は続けた。
     一方鞍馬天狗は、新宿迷宮の浅い階層を既に配下によって制圧。本人は精鋭を連れて新宿迷宮の深部を探索している。ここで第三者による大規模な襲撃があれば、鞍馬天狗は撤退を始めるだろう。
     もし鞍馬天狗が撤退、あるいは灼滅などとなれば、ロード・パラジウムも撤退する。彼女の灼滅を狙っての行動も可能だ。
    「ただしロード・パラジウムの灼滅は、なかなかの難事だとは言っておく」
     鞍馬天狗一派とロード・パラジウムが撤退、あるいは灼滅という事態に持ち込めた場合は、外道丸勢力を攻撃することが出来るだろう。
     この戦いで何を優先するか、誰との戦いを選ぶか。目的を明確に定める必要がある。
    「敵味方入り乱れての戦いだ、今回も危険度は高い。作戦行動と状況によっては、すぐに帰らぬものが出るかもしれないことは承知している」
     一通りの説明を終えてファイルを閉じると、玄乃は眉間にしわを寄せた。
    「それでも皆、可能な限り無事に戻ってもらいたい。我々は帰りを待っている」


    参加者
    玄鳥・一浄(風戯ゑ・d00882)
    華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)
    一之瀬・暦(電攻刹華・d02063)
    詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)
    アストル・シュテラート(星の柩・d08011)
    王・苺龍(点心爛漫中華娘・d13356)
    ライン・ルーイゲン(ツヴァイシュピール・d16171)
    鳳翔・音々(小悪魔天使・d21655)

    ■リプレイ

    ●地の底で相争うものたち
     羅刹同士の争いは熾烈だったが、外道丸の強さは圧倒的だった。とても劣勢であるとは思われないほど、その立ち居振る舞いは落ち着いている。物腰に焦りが感じられず、玄鳥・一浄(風戯ゑ・d00882)は不思議な感慨を覚えていた。
     その傍らで、アストル・シュテラート(星の柩・d08011)もつい考える。絶対に鞍馬天狗に彼の刺青を奪わせるわけにはいかない、けれど。
    (「ダークネスは絶対悪だなんて、どうして言いきれるんだ」)
    「……いいじゃねぇか、負けが確定してる喧嘩も。だが、ただじゃ負けねぇ」
    「承知です。あの世まで、お供いたしやす」
     一礼した護衛たちが下っ端羅刹たちへ檄を飛ばす。
    「いいかお前ら! 外道丸のアニキがいるかぎり、俺らに負けはねぇ! 死に物狂いで戦いやがれ!!」
    「「「おお!!」」」
     意気上がる羅刹の群れ。これほど部下に慕われているのだ、身内にとっては恐らく、とても人情家なのであろう。
    (「外道丸サンのような人の力が鞍馬天狗に渡るのを見過ごすわけには、いかないアルな」)
     王・苺龍(点心爛漫中華娘・d13356)は胸の裡で呟いた。
     敵へと突っ込んだ外道丸が解放した刺青の力が、八つの首をもつ蛇の姿で荒れ狂った。その威力たるや、五人もの羅刹が一撃のもとに葬り去られる。響く悲鳴と迷宮を揺るがす衝撃に、詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)は思わず首をすくめた。
     鞍馬天狗の一派が押されてゆくのを見て、鳳翔・音々(小悪魔天使・d21655)は他チームとタイミングを図っていた。確実に退路を断ちたいところだ。
    「俺達に畏れをなして、逃げやがった……ということでは無さそうだな」
     外道丸は不満そうに鼻を鳴らす。その顔が、ぐるりとこちらを向いた。
    「なぁ、灼滅者さんたちよぉ?」
     気付かれていた。奇襲が不可能なのなら素早く仕掛けるしかない。一之瀬・暦(電攻刹華・d02063)がカードを解放した。
    「善悪無き殲滅(ヴァイス・シュバルツ)」
     相手は外道丸、相手にとって不足はなし。華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)が宣言する。
    「ごきげんよう、外道丸さん。あなたの命の火を消しに来ました」
     だが外道丸の耳には届かなかったようだった。
    「あやめママたちは左の方にいるやつらを頼む」
     外道丸の指示のもと、派手な衣装を着た三人の羅刹がこちらを向く。
     ごつい身体を女ものの衣装で包み、三人ともが厚化粧。一人は淡い赤紫色のチャイナドレスをまとい、紫色のイブニングドレスの裾を気にする者がおり、一番背の高い羅刹は青紫色のあやめの柄の着物を身につけていた。これがあやめママであろう。
     ライン・ルーイゲン(ツヴァイシュピール・d16171)は倒すべき敵を見渡した。その傍らで彼女のナノナノ、シャルがふわりと舞う。

     紅緋はギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)が無茶をしないか気にかかっていた。
     一緒にお勤めなんて変な感じ。
     廃校の悪魔の時はアリスさんと一緒だったけど、役割は違ったし。
    「とりあえず、足手まといにならないでください」
     懸念を振り切り、目の前の敵に向き直る。
    「少しばかり派手に行くのは見逃してくださいな」
     笑みを含んだようなギィの声は、紅緋の耳に届いていた。
     まずは雄叫びをあげて群がる下っ端羅刹たちを片付けなくてはならない。
    「之だけの人数がいても、危険な事もあるだろう。油断せずにね」
     暦が落ち着いた表情で呟く。大規模作戦には違いないが、やることはいつもと同じだ。
     互いに相容れぬが故の戦い、とはいえ。
    (「殺しあわないですむ可能性を切り捨ててしまうなら、それは悪と変わらない……」)
     なおも、アストルは感情をもてあましていた。

    ●敵するは血路を開かんとするもの
     下っ端羅刹たちに紅緋が立ちはだかる。
    「華宮・紅緋、これより灼滅を開始します」
     音々は恋人のプレゼントである右手のリボンをギュッと握った。交渉の余地のない相手、倒すか倒されるかだ。作戦の成功を祈ると、その上から寄生体で腕を覆っていく。
    「お前達に構っている暇はないんでね、蹴散らすよ」
     暦が宣言と同時に、巨大なガントレットで殴りかかった。一浄もわずかに微笑む。
    「火事と喧嘩は春の華、でしょか」
     下っ端羅刹たちだとて弱くはないが、連携行動を念頭においた灼滅者たちの前では無力だった。油断はしないが相手を過大にも考えない。的確に一体ずつ倒していく。
     しかしその後ろから現れた女装の羅刹たちは、少しばかり違っていた。
    「あなたたち、背後ががら空きよ。遠慮なく突っ込ませてヒーヒー言わせてあげちゃう♪」
     外道丸があやめママと呼んでいた、厚化粧の羅刹が艶っぽく笑う。
     次の瞬間、異形化した巨大な腕を振り上げたチャイナドレスの羅刹が一浄へ、カクテルドレスを身につけた羅刹が沙月へと襲いかかった。咄嗟に一浄のカバーに入った紅緋の骨が軋みをあげる。
     重い打撃に沙月も思わず顔を歪めた。忌まわしい記憶と恐怖が甦りかける。羅刹に襲われ、大切な人を失った過去が理性を呑み込みそうになるが、なんとかそれを飲み下した。
     あやめから音々へ迸った風の刃を受けた暦も、深々と切り裂かれて血がしぶく。
    「片付けるわよ、えびねちゃん、すみれちゃん」
    「はぁい、ママ」
     甘ったるい口調で話す女装の三人は、今まで蹴散らしてきた羅刹とは完全に格が違った。
     自分たちの背後に控える班はいない。突破されれば外道丸に退路を与えることになる。
     退路を断つ布陣を選んだことで、外道丸を除けばもっとも危険な敵を、一行は相手にすることとなったのだ。

     反撃開始だ。チャイナドレスの羅刹へ一浄の精神を斬る剣が唸りをあげた。間一髪、カクテルドレスの羅刹がその一撃を引き受ける。
    「さあ、殴り合いましょう!」
     傷を入れたものから倒す方針に従い、紅緋の叫びとともに、彼女とアストルの鬼の力を得た打撃が捻じ込まれた。更に暦の掲げる、身長の3分の2はあろうかという巨大なバベルブレイカーが直撃。しかし驚くべき頑丈さで羅刹が踏みとどまる。
    「油断しちゃだめよ、すみれちゃん!」
     チャイナドレスの羅刹の叫びを切り裂くように、沙月の風の刃がすみれちゃんと呼ばれた羅刹の身体に傷を刻んだ。凛とした音々から巻き起こる柔らかな風が前衛たちを包むが、まだあまりに傷は深く、ラインの祭霊光とシャルのハートがとぶ。苺龍の構えたナイフを紅蓮の炎が包み、チャイナドレスの羅刹を切り裂きついでに火を点けた。
    「これでも食らうといいアル!」
     ラインへ飛んだすみれの神薙刃を受けた沙月、えびねというのであろう羅刹の打撃を受けた暦。音々が、ラインが、シャルがかける回復が追いつかず、暦は自ら傷を癒す。お返しとばかり一浄とアストルの連携攻撃、紅緋の放った神薙刃。沙月の斬撃が攻撃力を削ぎ、苺龍のナイフがすみれにジグザグの傷を刻みつける。
     えびねから唸りをあげて風の刃がラインを狙ったが、紅緋が割りこんだ。深い裂傷にくらりと視界が回る。
    「坊や、ハグしてあげちゃう♪」
     すみれがアストルへと掴みかかったが、滑りこんだのは沙月。ヒグマも真っ青の鯖折りで骨が数か所危悲鳴をあげる。
    「くっ……!」
     しかも沙月の体力を吸い上げたようだ。だがあやめママの清めの風も、すみれを苛む炎を消しきれない。
     一浄とアストルが精神を切り裂く斬撃の連携を加え、すみれがたたらを踏む。ふらつきながらも紅緋はあやめママの不意を突き、石化の呪いを仕掛けた。その紅緋へと回復の符を飛ばし、膝が崩れそうな沙月も思わず吐息をつく。
     暦の足元から幾重にも影の鎖が溢れだすと、すみれへと絡みつきその身体を呑み込んだ。襲いかかるトラウマに絶叫が響く。その隙にラインの癒しの光が沙月の傷を塞ぎ、もはや治せる傷はわずかの紅緋にはシャルからハートが飛んだ。
     苺龍のナイフから巻き起こった毒の竜巻が二人の羅刹を襲い、音々から生まれる風が味方を癒し清める。
    「アナタたち、さっきから痛いのよ!」
     声を荒げたすみれが振りあげた異形の腕の先には一浄。受け切れると踏んだ紅緋が一浄を庇ったが、飛び込んだ場所が運悪く、最大インパクトの焦点だった。
    「紅緋はん!」
     一浄の叫びを置き去りに、紅緋の身体が音々の傍らまで吹き飛んだ。
     あやめママの清めの風がすみれの炎を消し止めたが、一浄の返す刀の斬撃とアストルの鬼神変が、遂にすみれの足を止める。
    「これで終わりだ!」
     バベルブレイカーのジェットが唸りをあげ、暦の打ち出す杭が羅刹の死の中心点を貫いた。
    「すみれちゃん!」

    ●戦うは立ち塞がるもの
     二人の羅刹の悲鳴が迷宮に消えるより早く、紫色のイブニングドレスの羅刹の身体は風にほどけるようにして消えていく。
    「……灼滅者ごときが、よくも!」
     目を吊り上げたえびねがアストルへと拳を振り下ろした。側にいた暦が彼を庇うと同時に、沙月の放った神薙刃がえびねを切り裂く。
    「Schall!」
     ラインとシャルが揃って暦の傷を癒すが、治せない傷が蓄積し増えて行く出血を止められない。苺龍から立ち込める霧が前衛たちの気配を朧にしていくが、通用するだろうか。羅刹はあと二人いるのに、暦はもってあと一撃。
     音々は唇を噛みしめて、残る暦の傷を塞ぐ風を吹かせた。
    「絶対押し切らなきゃいけないの、えびねちゃん!」
    「わかってる!」
     叫び返し、風を引き裂いてえびねが振り下ろした一撃は暦が引き受けた。圧倒的な膂力に骨が折れる音が響く。迷宮の床に叩きつけられた暦の身体は、衝撃で数度はねて転がった。
     思わずアストルが目で追い、その彼へあやめママが放った神薙刃の前に立ち塞がった沙月が、思わず膝をついた。
    「こない状況なってもうて……やからこそ、俺らに望む事はありまへんか。終わるだけや勿体無うおすやろ」
    「聞きたければ私たちを倒して、外道丸ちゃんの前に立つのね!!」
     外道丸へ向けてかけられた一浄の言葉を、あやめママが轟くような声で遮った。
     えびねとあやめママの表情には余裕など微塵もない。
     ただ外道丸を逃がす活路を切り開くことを考えている、必死そのもので。
     唇を結んだ一浄の斬撃、アストルの杖が流し込んだ魔力の爆発で、えびねが短く苦鳴をもらした。寄生体が呑み込んだ妖の槍で音々が追撃を加えれば、苺龍の斬撃が火の粉を散らし、えびねの身体を焼き始める。
     沙月の傷を癒しながら、ラインは焦燥に胸を噛まれていた。

     あやめママの袂から現れ音をたてて開いたのは鉄扇。あやめが花開くようなオーラが広がったかと思うと、舞うように前衛へと襲いかかる。アストルは咄嗟にかわしたが、打撃に息を詰まらせる一浄の傍ら、仲間を庇うこともままならず遂に沙月が力尽きた。通路の壁まで吹き飛ばされてくたりと倒れる。
     えびねの神薙刃の直撃を受けた音々の防具が軋みをあげたが、なんとか踏みとどまった。
     互いに庇い手を失った今、あとは削り合いでしかない。
     首を刎ねんばかりの一浄の斬撃は深く、アストルが加えた拳の連撃が遂にえびねの生命を奪った。
    「暫し涅槃で待っておくれやす」
     一浄の言葉は届いたか、えびねの身体が霞のように消えて行く。
     音々が気合いを入れて自身の体力を回復し、苺龍の歌声とシャルの放つハートがわずかに一浄を癒すが、どう考えても回復が追いつかない。
     と、前へと進み出たラインの魂が不吉な翳りを帯びて行く。気付いた苺龍が思わず声をあげた。
    「だめアルよ!」
     まだ外道丸は倒れていない。闇堕ちすればここを凌げるかもしれないが、もし外道丸の灼滅が無理なら、ラインを残して撤退しなくてはならなくなる。
     自分も考えていたことだけに、音々はラインを制止した。
    「やるなら外道丸の前に立ってからです!」
     確かに闇堕ちを選んでから状況が変わっては、仲間を守り切れるかわかったものではない。唇を噛んだラインが頷く。
    「お互い、詰んじゃったわねぇ」
     厚い化粧も崩れかけで笑うあやめママの打撃をアストルはなんとか凌いだ。次の一撃を受け切れないとみた一浄は、回復を捨てて羅刹の精神を切り刻む。アストルの鬼神変がしたたかに入り、ラインのバイオレンスギターの唸りが打ちのめしたがあやめママは退かない。
     音々も魔杖を操って魔力を撃ち込み、苺龍が炎をまとった斬撃を加えた。
    「落ちなさい!」
     再びあやめの花が開くようにオーラが広がった。うなる鉄扇を受けてラインが苦鳴をあげ、まともに受けた一浄が吹き飛ぶ。ぎりぎりこらえたアストルは、ぞっと身体が総毛立つのを感じた。もう、大切な人が目の前からいなくなるのは嫌だ。
     アストルの杖から流し込まれた魔力があやめママの身体を内側から弾かせ、ラインの歌声が激しく意識を揺さぶる。音々が繰り出す槍の一撃をかわそうとしたあやめママが、がくんと動きを止めた。その足が石と化している。紅緋が残した呪いが姿を現したのだ。
    「紅緋さん、ありがとアルよ!」
     音々と苺龍の斬撃があやめママを捉えた。苦し紛れの神薙刃がラインを引き裂いたが、その隙にアストルが渾身の力で拳を捻じ込んだ。
    「ごめんなさいね、外道丸ちゃん……」
     遂にがくりと膝をついたあやめママが、かすれた声で呟く。その大きな身体が倒れると、紫色の花びらが散るように姿かたちを失っていった。

    ●ついた決着と見えぬ未来
     結果として、一行の戦いはこの場でもっとも長いものとなっていた。ひどく身体が痛むものの、音々はすぐさま外道丸と戦っていた班の様子を確認した。
     どうやら闇堕ちを出したものの、外道丸を灼滅はできたようだ。作戦目標はクリア、と言っていいだろう。握りこんだ大切なリボンの感触を、改めて確かめる。
     この場の誰もが、次の一撃を堪えられないほど傷ついていた。
    「皆さん、ご無事ですか?」
     意識が戻った紅緋が仲間を気遣う。自身も意識を保っているのがやっとのラインが、シャルと治療をしながら慌てて制止した。
    「じっとしててください」
    「気分は悪くありませんか?」
     自身を癒した音々の治療で沙月が目を覚ましたものの、暦と一浄の意識は戻らない。
     一浄を抱えて、ぽつりとアストルの唇から吐息がもれた。
     彼を守るためなら戦うことに躊躇はない、けれど。あやめママやすみれ、えびねの必死の表情が甦る。彼らも外道丸のために生命を賭けた。
     その想いに違いはあるだろうか。
    「難しいよ……じーちゃん」

     新宿地下迷宮での戦いは激しい消耗を強い、しかし確かな戦果をあげて終結した。
     外道丸の死がもたらす新たな世界の局面がいかなるものか。
     それを知る術は今はない。

    作者:六堂ぱるな 重傷:玄鳥・一浄(風戯ゑ・d00882) 一之瀬・暦(電攻刹華・d02063) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月22日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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