「おにいちゃん、おっきな夕日だよ」
「おお、真っ赤だなー……って、ほら、もう帰るぞ」
河原を歩く兄妹はそんな会話をしながら夕日を背にして歩き出す。
「そういえば知ってるか? 火の玉ちゃんの話」
「火の玉ちゃん?」
兄の言葉に妹が首を傾げる。
「夕日に向かって『火の玉ちゃん、遊びましょ』って言うと、炎の髪をした子供が現れるんだってさ」
「えー? 火の玉ちゃんは、髪の毛あっちっちなのー?」
妹がそう言うと兄はちょっぴり意地悪な顔で言葉を続ける。
「そうだぞ。だから、もしもリナが火の玉ちゃんと遊んだら、いっぱいあっちっちーになっちゃうかもなー」
「えー、リナそんなのやだー!」
妹は頬を膨らませると、兄の背中をバシバシ叩いた。
「お集まりいただき、ありがとうございます」
園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)はそう言うと手元の資料を開き、依頼の説明を始めた。
「今回は、『火の玉ちゃん』と呼ばれる炎の髪をした女の子姿の都市伝説が現れました」
どうやら子供達のたわいもない噂がサイキックエナジーと融合し、都市伝説となってしまったらしい。
都市伝説の詳細は次の通りだ。
河原で夕日を眺め、火の玉ちゃんを遊びに誘う。すると夕日がユラユラと揺れ、炎の髪を持つ女の子が現れる。
火の玉ちゃんは見た目は4歳くらいの女の子で、呼び出された相手と遊ぼうとする。だが、炎の髪はメラメラと燃えており、その体も火のように熱い。一般人が遊びの相手をするのはまず無理だろう。
「そこで……この都市伝説が誰かに危害を加える前に、みなさんの手で灼滅していただきたいんです」
槙奈はそう言うと暫しの沈黙を置き、再び口を開いた。
「……ただ、この都市伝説は遊ぼうと誘われて出てきただけなので……。みなさんが攻撃することなく都市伝説と遊び、この都市伝説を満足させてあげることが出来れば自然消滅するはずです」
とはいえ、幼子のようなこの都市伝説は、はしゃいだりすると無意識にサイキックを使うことがあるようだ。遊ぶとしても、回復サイキックは必要になるだろう。
「灼滅か自然消滅。……どちらにせよ、ダメージを受ける覚悟は必要な相手です。どちらを選ぶかはみなさんにお任せしますね」
槙奈はそう言うと資料をめくった。
「では、戦闘能力についてもお伝えします。この都市伝説はファイアブラッドに似たサイキックを使います。みなさんのお力なら、油断さえしなければ問題なく倒せる相手でしょう」
槙奈はそう告げると手元の資料を閉じ、灼滅者達を見つめた。
「お忙しいところ申し訳ありませんが……被害が及ぶ前に、都市伝説への対応をお願いいたします」
槙奈はそう言うと、おさげ頭をペコリと下げた。
参加者 | |
---|---|
七里・奈々(ある意味はずれの女子大生・d00267) |
八嶋・源一郎(颶風扇・d03269) |
華槻・灯倭(月夜見・d06983) |
茂多・静穂(千荊万棘・d17863) |
多鴨戸・千幻(超人幻想・d19776) |
風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897) |
七篠・零(旅人・d23315) |
ガル・フェンリル(小学生ファイアブラッド・d24565) |
●夕焼け染まる河原にて
河原に着いた灼滅者8人は、まず手始めに平和的な人払いを試みることにした。
茂多・静穂(千荊万棘・d17863)はプラチナチケットを使いつつ、河原に接近する一般人に『この先は工事中』だと説明し、人を払う。一方、七篠・零(旅人・d23315)はラブフェロモンを発動しつつ、一般人に声をかけていた。学校の仲間との親睦を深めるため、今日だけ河原を借り切りたいと伝え、了承を得る。
だが、河原は不特定多数の人が往来する場所。人払いをしてみても、ちらほら人がやってくる。万が一の事態を考えると、河原の人払いは万全を期すほうが良いだろう。結局、華槻・灯倭(月夜見・d06983)が殺界形成を発動することで、河原の人払い完了とした。
準備が整ったところで風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)はサウンドシャッターを発動した。今回、ポジションは全員ディフェンダー。回復の手に抜かりは無い。というか、回復しかする気は無い!
全てが整い、灼滅者達は夕日に向かって叫んだ。
「火の玉ちゃん、遊びましょ!」
夕日がユラユラと揺れ、その中から火の玉に似た物体が現れる。よく見ると、それは少女の髪の毛だった。クルッと回転しながら河原に着地。
都市伝説の登場だ。
「わぁ、本当に髪が炎だね……夕焼けに照らされて、とっても綺麗」
火の玉ちゃんを見て灯倭がそう言うと、火の玉ちゃんはニコッと笑った。
「あーそーぼー! ……わんわんおー!」
ガル・フェンリル(小学生ファイアブラッド・d24565)が言うと、火の玉ちゃんもキャッキャと喜ぶ。
「いーいーよー! 何してあそぶ?」
ガルをモフッと抱きしめながら火の玉ちゃんが問う。ガルの体になんかこう、ジワジワくるけど気にしない。あとで隠れて殉教者ワクチン打つから問題無い。ガルは気合でカバーし、2本の尻尾をブンブン振った。
「じゃあ、まずは鬼ごっこしよっ」
「わあ、鬼ごっこーっ!」
七里・奈々(ある意味はずれの女子大生・d00267)の提案に火の玉ちゃんが目を輝かせる。
「お主が満足するまでとことん付き合おう」
八嶋・源一郎(颶風扇・d03269)がそう言うと、火の玉ちゃんは炎の髪をポッポと燃やして喜んだ。最初の遊びは鬼ごっこ。じゃんけんの結果、最初の鬼は多鴨戸・千幻(超人幻想・d19776)に決まった。
●遊びという名の耐久レース
「きゃ~♪」
火の玉ちゃんが灼滅者達と共に河原をテトテト駆ける。その隙に源一郎はワイドガードを展開した。
「待てー……」
千幻は火の玉ちゃんを追いかける。すると、捕まりそうな火の玉ちゃんを零がヒョイッと抱き上げ、肩車をしながら走り去った。触れた部分は滅茶苦茶熱いが、零は気力で耐え忍ぶ。
生きている実感が得られるし、痛いくらいがちょうどいい。
そんなことを思いつつ、火の玉ちゃんの熱で毛先がチリチリになっても零は笑顔を絶やさない。
「わあ! たっか~い!」
喜ぶ火の玉ちゃんを肩に乗せ、へらっと締まりのない笑みを浮かべる零。そしてチリチリ。なんだろう。端から見ると、色々心配されそうな状況だ。
「さあ、火の玉ちゃん。私の胸にも飛び込んでください」
走る零の傍に寄ってきた静穂が両手を広げてそう言った。火の玉ちゃんはピョンと静穂にダイブする。熱い可愛い熱い熱い。可愛いけれど、すごく熱い。だが、それがいいのだ。問題無い。
(「亡くなった両親も、こうやって抱きしめてくれました」)
幼い頃の記憶を思い出し、静穂は火の玉ちゃんを抱きしめる。静穂がしばし思い出に浸っていると、いつの間にか千幻とさんぽが背後に迫って来ていた。
「やーん! つかまっちゃう」
火の玉ちゃんは静穂の胸から飛び降りるとテトテト逃げる。その隙に優歌はソーサルガーダーで零を癒し、奈々は静穂を集気法で癒した。
「……追い詰めた」
そう言う千幻。ジリジリと近づいてくる千幻に火の玉ちゃんは両手をブンブン振り回す。
「きゃーっ、やーんっ!」
その言葉と同時に渾身のパンチが千幻を襲った。まさかのバニシングフレア発動だ。
河原が火の海と化す。なんかもう、全員巻き込まれたけど気にしない。霊犬2匹は浄霊眼で己を癒し、灯倭もシャウトで自身を癒した。
「おにいちゃん、だいじょーぶ?」
火の玉ちゃんが目の前でうずくまる千幻を覗き込む。
「子供の本気パンチなんて痛えもんだし……」
火の玉ちゃんを捕まえ、そう言う千幻。その目にはうっすら涙が浮かんでいたが、エンジェリックなボイスで童謡を歌い、千幻は己のダメージをそっと回復したのだった。
●投げて走ってキャッチする
その後、鬼ごっこ10回、だるまさんがころんだ8回を経て今に至る。その間にも幾度となく無邪気な攻撃を喰らったが、灼滅者達は耐え抜いた。
「わあ! おねえちゃん、すごーい!」
今現在、火の玉ちゃんは静穂が作った影の鳥や蝶を見つめてご機嫌だ。
「じゃあ次は、フリスビーしよ!」
「ふりすびー!」
灯倭の言葉に火の玉ちゃんは両手を叩いて喜んだ。霊犬2匹も尻尾をフリフリ、大興奮だ。灯倭が遊び方の説明をすると、火の玉ちゃんはガルをジュワジュワと『燃やし撫で』しつつ、一生懸命聞いていた。
「まずはお手本を見せるね」
そう言ってフリスビーを投げる灯倭。それを追いかける一惺とさんぽ……と火の玉ちゃん。何故か火の玉ちゃんは霊犬と一緒にフリスビーを追いかけていた。その隙に優歌がソーサルガーダーでガルを癒す。ガルも殉教者ワクチンで己を癒した。
「おやおや……、元気だのう」
笑みを浮かべてそう言う源一郎。フリスビーをキャッチしたのは一惺だった。霊犬達と火の玉ちゃんは仲良く灼滅者達の元へと戻ってくる。
「わんちゃんにとられちゃったー」
ニコニコしながらそう言う火の玉ちゃんを源一郎が抱き上げる。触れた部分はとんでもなく熱いが源一郎は穏やかな笑みを浮かべた。
「お主もなかなかじゃったぞ」
「うん!」
火の玉ちゃんは元気に頷くと、灯倭からフリスビーを受け取り遠くへ投げる。走り出す霊犬2匹、その後を火の玉ちゃんが追いかける。
「せなかにのりなよ! わんわんおー!」
「ガルちゃんだあ」
ガルは火の玉ちゃんを背中に乗せると、霊犬達を追い抜いた。そしてそのままジャンプする。火の玉ちゃんが両手を伸ばし、フリスビーをキャッチした。
「とったあ!」
「おー、すごいね。火の玉ちゃん」
喜ぶ火の玉ちゃんに零が言う。
「おにいちゃんにもあげるね!」
褒められて嬉しくなった火の玉ちゃんは、フリスビーを零に向かって放り投げた。炎を纏ったフリスビーが零に向かって飛んでくる。
つまり、それは……うん。レーヴァテインだった。
「わあ! おにいちゃん上手!」
零は気合でそれをキャッチした。もちろん素手で。両手が大惨事である。
「火の玉ちゃんはフリスビーが上手だねっ! じゃあ次はかけっこだよ!」
奈々がガルの背中に乗っている火の玉ちゃんを抱き上げそう言うと、火の玉ちゃんを追いかけ始める。キャッキャとはしゃぐ火の玉ちゃん。その隙に仲間がガルと零をガッツリ癒した。
●火の玉サンセット
「つかまえちゃうぞ~っ」
「きゃ~♪」
奈々がチャイナ服を翻しながら火の玉ちゃんを追いかける。なんとも眩しい絶対領域。
追い、追われ、今度は火の玉ちゃんが奈々を追いかける。
「おねえちゃ~ん!」
「火の玉ちゃーん!」
がしっ! むぎゅううううっ!
追いかけっこのはずが、最終的には奈々の柔らかい胸に火の玉ちゃんは捕まっていた。
熱いけど……ものすごく熱いけど、回復すれば怖くないっ!
気力で火の玉ちゃんを愛で続ける奈々。ジワジワとダメージ蓄積中だ。
そこに颯爽と現れたのは優歌だった。火の玉ちゃんの目の前で、優歌は指先から出した炎を黄色や青緑色に変えていく。
「わあ! きれい!」
火の玉ちゃんが優歌の元へとやって来る。その隙に奈々は集気法で自己回復した。
「手品だよ。火の玉ちゃんもやってみる?」
微笑む優歌の手にはスプレーボトルがいくつも握られている。ナトリウムや銅などの化合物の溶液が入っているのだ。炎に溶液を吹きかけるたび、ボワッと炎の色が変わる。炎色反応を利用した手品に火の玉ちゃんは目を輝かせた。
「すごいねー。しゅっしゅ、ぼわん!」
火の玉ちゃんが炎にシュッシュと溶液を吹きかけると、青緑色の炎に変わる。色が変わる不思議に夢中な火の玉ちゃん。それを優歌は穏やかな笑みで見守った。
優歌は大火災で家族を失った過去を持つ。炎が脅威になることは、優歌自身、身を以って知っている。
だが、炎が人を傷つけるだけではなく、心を楽しませるために使うこともできることを炎を纏う少女に見せてあげたい。
優歌はそう思ったのだ。
「花火みたいだね」
灯倭が言う。気づけば日は沈み、辺りは外灯によって照らされていた。河原に浮かぶ色とりどりの炎は、まるで季節外れの花火のようだ。
「しゅっしゅ、ぼわん! しゅっしゅ、ぼわん!」
楽しそうな火の玉ちゃんを見守る灼滅者達。次第に火の玉ちゃんの体が透けていく。
別れの時が来たようだ。
「満足なようじゃな」
源一郎が微笑みながらそう言った。千幻は無言で火の玉ちゃんを見守っているが、その足元ではさんぽが主の代わりに尻尾を振って見送っていた。
「火の玉ちゃん、楽しかった?」
灯倭が問いかけると元気な声で『たのしかった!』と答える火の玉ちゃん。
「ありがとうございます、火の玉ちゃん」
静穂の言葉に火の玉ちゃんはニッコリ笑った。
「またあそぼうね」
ポッポと燃える頭を撫でつつ、零が言う。消えていく者に『また』は無いけど、思わず言葉がついて出た。
「またあそぼーね!! ……わうー! わんわんおー!!」
ガルも尻尾をブンブン振って見送った。
もしも生まれ変わりがあるのなら、次は人に害を与える存在じゃないことを切に願う。
都市伝説が消えた河原に広がる夜空。
一番星が瞬いていた。
作者:星原なゆた |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年4月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 1
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