刺青羅刹・新宿迷宮の戦い~戦場の欠片

    作者:天木一

    「なるほど、刺青羅刹にはああいう手合もいるのか。正直、俺の勝ち目は薄そうだな」
    「鞍馬天狗の軍が来ます! 外道丸さん、どうしますか……!?」
    「あいつの狙いはお前じゃなく、明確に俺の『刺青』だ。そして俺よりも強く、こちらの陣容も筒抜けっぽいな。力量と情報で敵わないなら、俺達にあるのは地の利だけだ」
    「地の利……あっ、昨日教わった『大勢と喧嘩する時は狭い場所で』、ですね!」
    「その通り。それに、奴等の狙いが俺なら、俺が移動すれば街にダメージは無ぇ。
     新宿迷宮で籠城戦だ。全員俺についてこい!」
      
    「やあ、みんな集まったみたいだね。朱雀門から外道丸の情報を得る事が出来たんだよ」
     能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)の切り出した言葉に、灼滅者達の目が真剣になる。
    「鞍馬天狗はアメリカンコンドルを撤退に追い込んだ精鋭と、外道丸の拾い物を回収に同行していたロード・パラジウムと手を組み、歌舞伎町の外道丸の勢力を叩きのめしたんだ」
     だが外道丸本人と一部の仲間を取り逃がした。
    「外道丸は現在、仲間を引き連れて新宿迷宮に撤退して籠城しているんだ」
     少数とはいえ激戦を生き残った精鋭達だ。
    「籠城戦では数の有利を活かせずに鞍馬天狗側も苦戦を強いられるみたいだよ」
     だがそれは所詮延命効果でしかない。結局は数の力で押し切られ外道丸の刺青は奪われる。
    「時間稼ぎをしても援軍のない今、鞍馬天狗側の勝利は揺るぎないんだ。でもそれはこのままの状況なら、だよ」
     そう言って誠一郎は灼滅者を見る。言われずともその意味を理解した。
    「うん、刺青の奪取を阻止するには、みんなが第三勢力となって介入して、先に外道丸を倒してしまうしかないんだ」
     誠一郎の言葉に灼滅者は頷く。
    「上手く戦況をコントロール出来れば、鞍馬天狗やロード・パラジウムを灼滅する事も可能かもしれないよ」
     全ての戦果を得るのは難しいだろうが、挑戦してみる価値はある。
    「それじゃあ、戦場の情報を伝えるよ、よく聞いて欲しい」
     話始めた誠一郎の説明を纏めると以下の事が分かる。
     ・外道丸は新宿迷宮に籠城中である事。
     ・智の犬士カンナビスが捜索し、ロード・パラジウムが狙っている何かは、外道丸が保護している事。
     ・鞍馬天狗の精鋭は新宿迷宮の深部を探索中である事。
     ・新宿迷宮の浅い階層も、鞍馬天狗配下により制圧されている事。
     ・大規模な襲撃があれば、鞍馬天狗は撤退を始める事。
     ・鞍馬天狗が灼滅或いは撤退される状況になれば、ロード・パラジウムも撤退する事。
     ・鞍馬天狗とロード・パラジウムを灼滅或いは撤退させれば、外道丸勢力を攻撃することが可能である事。
    「ここに集まったみんながどんな行動をするのかは、話し合って決めて欲しい。何を優先し、どう戦うのか。みんなの行動が戦場という大きなジグソーパズルのピースになるんだ。どんな結果が描かれるかは、戦場に向かう全員の選択次第だよ」
     長い説明を終えて、誠一郎は一息吐く。
    「今回は大きな戦いになるよ。ここだけでなく他の仲間達とも力を合わせないと勝利には届かないと思う。でも、今まで幾つもの戦場を戦ってきたみんななら、きっと攻略可能だと信じてるよ」
     誠一郎は仲間を送り出す、必ず勝って帰ってくると信じて。


    参加者
    置始・瑞樹(殞籠・d00403)
    今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)
    神代・紫(宵猫メランコリー・d01774)
    霧島・絶奈(胞霧城塞のアヴァロン・d03009)
    風花・蓬(上天の花・d04821)
    鎮杜・玖耀(黄昏の神魔・d06759)
    桐屋・綾鷹(紅麗月華・d10144)

    ■リプレイ

    ●新宿迷宮
     入り組んだ道、点滅する照明。その先が行き止まりなのか通じているのかも分からない。
    「クソッなんでこんなところに逃げ込むんだよ、めんどくせーな」
     そんな新宿迷宮の中を、鞍馬天狗の配下である男は愚痴を吐きながらも警戒して進んでいく。その時背後から物音が響いた。
    「……敵か?」
     男は慎重に物音のしたほうへ近づく。角からチラリと顔を覗かせる。すると人影と目が合う。
    「まずは先手、こちらから行かせてもらいましょう」
     桐屋・綾鷹(紅麗月華・d10144)が剣を振るう。その刀身は鞭のようにしなって伸びると、角に身を隠した男の体に絡みつく。
    「な!?」
     驚きながらも男は手にした斧でそれを断ち切ろうとする。
    「そうはさせん」
     刀袋から取り出した刀、天ツ風を構え、風花・蓬(上天の花・d04821)は物陰から低い姿勢で飛び出すと刀を抜き打った。刃は男の腕を深く斬り、握力を失った手から斧が落下した。
    「よし、このまま敵を押し込む」
     慌てて斧を拾い上げる敵に向け、置始・瑞樹(殞籠・d00403)が正面から突撃する。片腕で振り抜かれる斧をオオミズアオが羽を広げるように展開する淡緑色のエネルギーの盾で防ぐと、そのまま駆け寄った勢いで押し切り壁にぶつける。
    「げはっこのっ」
     男が斧を振り上げた。そこへ十字架が頭上に現われ、放たれる光線に腕が穿たれた。手からするりと斧が抜け落ちて地面に刺さる。
    「これで腕は封じたよ!」
     光を放った今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)の声に、仲間が一斉に殺到する。
     両方の腕を傷つけられ、男は逃げ出そうとした。
    「そんなに走ったら転けちゃうよ」
     神代・紫(宵猫メランコリー・d01774)の足元から黒猫が駆け出す。それは紫の影、男の足に纏わり付くと刃物で切ったようにズボンごと肉を削る。
    「うおっ」
     足を傷つけられ男は転ぶ。そしてその先にあった斧を抱くように持ち上げ両腕で無理やり振り回す。
    「悪足掻きはさせませんよ」
     鎮杜・玖耀(黄昏の神魔・d06759)は光輪を投げ、分裂させた光輪を敵の周囲に浮かせた。斧はそれに当たる度に勢いを失う。
    「こんなところで死ねるか!」
    「一人で行動していたのがあなたの敗因です」
     霧島・絶奈(胞霧城塞のアヴァロン・d03009)が巨大な杭を地面に撃ち込む。衝撃に崩れる足場に飲み込まれ男は身動きがとれなくなる。
    「鞍馬天狗の思い通りにはさせないよ」
     ラシェリール・ハプスリンゲン(白虹孔雀・d09458)は星の如き煌めきを放つ剣を抜いた。振り下ろした刃を男は斧で受け止めようとする。だがその一刀は斧を両断し、男の首筋から胴へと撫で斬りにした。
     男の体は土のように崩れ消え去る。
    「この調子で、他の敵も見つけましょう」
     敵の灼滅を確認して武器を下ろした絶奈の言葉に皆も頷き、次の敵を探しに迷宮を進む。

    ●潜むもの
     通路の先の照明の届かない場所から微かな物音が聞こえる。
    「今こっちから何か音がしたような……」
     近くの仲間に身振りで報せながら、紫が暗がりを覗く。するとそこから何かが飛んで来た。視認できずに勘で屈むと、頭のあった位置にナイフが通り過ぎ壁に突き刺さった。
    「ちっ外したか」
     暗闇から黒装束で影のような細身の男が現われると、新しいナイフを投げてくる。
    「敵だよ!」
     よく通る声が周囲に響く。紫は叫びながらも月の如き輝きの盾を展開すると、飛来したナイフを弾く。だがその後ろに続けてもう一本のナイフが飛んできていた。キンと甲高い音と共にそのナイフは軌道を変え壁に突き刺さる。紫の前には霊犬の久遠が口に刀を咥えて現われていた。
    「ありがとう久遠!」
     久遠はパタパタと尻尾を振って返事をする。
    「ちっならこれでどうだ! 血に濡れろ!」
     男は両手に8本のナイフを構えた。それを僅かに差をつけて投げつける。その刃の雨の中に立ち塞がる人影。
    「その程度ではにわか雨だな」
     盾を構える瑞樹が腕や足に刺さったナイフを払い除け、表情を変えずに前に出る。
    「舐めるな!」
     更に敵がナイフを投げようとするところへ、綾鷹が鞭剣を伸ばして腕に絡ませる。
    「捕らえましたよ」
    「勝機!」
     そこに蓬が壁を蹴って頭上から襲い掛かる。頭を叩き割る刃を男はもう片方のナイフで受けた。そして反撃にナイフを投げようとするが、その腕を蹴って蓬は壁に跳ぶ。男の視線はその動きを追った。
    「戦場で余所見をしている余裕があると思いますか?」
     その攻防の隙に絶奈が距離を詰めていた。男は咄嗟にナイフを構えるが間に合わない。絶奈の振り下ろした剣が肩を抉る。
    「ぐぁっ……がぁ!」
     男は唸りながら腕を異形化させて振り抜く。絶奈は剣で受けたが押し負け壁に叩きつけられる。
    「次はそちらが吹き飛ぶ番だよ」
     敵が振り抜いた腕を戻さぬ内に、ラシェリールが魔力を籠めた黄金の鉄扇を脇腹に叩き込む。骨の折れる感触と共に敵を吹き飛ばし、壁に叩き付けた。
    「げぅっ」
     衝撃で埃が舞う中、男は壁に寄り掛かるように立ち、近づく灼滅者に向かってナイフを投げつける。
    「紅葉の魔法で動きを止めるね」
     紅葉は人差し指に嵌めた指輪に口付けをする。すると指輪の魔力が引き出され、魔法の弾丸が形成されて敵目掛けて撃ち放たれる。弾丸は男の胸に当たって穿つと周辺に魔力を刻み込む。
    「ここでは不利かっ」
     暗闇の方へと男が逃げようとすると刻まれた魔力が動きを阻害する。動きの鈍ったところへ玖耀が光輪を放つ。
    「逃がしません」
     光輪は障害物を避けるように曲線を描き男の背中を斬り裂いた。
    「逃げられると思ったのか」
     瑞樹が男の前に回りこみ、一歩も通さんとオーラを纏った拳で打ち据える。
    「こなくそがぁ!」
     男はナイフを手に襲い掛かる。だがその横手から紫が影の猫を走らせた。男の体を駆け上った猫の爪は、一瞬で首を掻き切って絶命させた。
    「これで2体目ですね。敵は単独行動しているのでしょうか?」
    「どうもそうみたいですね」
     蓬の言葉に、瑞樹の傷を癒していた玖耀が答える。
    「これで怪我はもう大丈夫」
    「ありがとうございます」
     絶奈の治療を終えた紅葉はまだまだ奥の深い迷宮を見る。
     灼滅者は一息吐くと、敵を求めて奥へと足を踏み入れた。

    ●巡回
    「ちっ奴らも厄介な場所に逃げ込みやがったぜ」
    「それに後ろからも敵って何もんだよ、外道丸の奴らが回りこんだのか?」
     自分達を襲撃している敵が居ると情報が入った為、二人組の男が敵を探しに迷宮を巡回する。そんな視線の先を人影が通り過ぎる。
    「女?!」
    「追うぞ!」
    「鬼さん、こちらだよ~」
     男達は走って追いかけ始める。無邪気な笑みを浮かべた紫は跳ねるように通路を駆けた。
    「待ちやがれ!」
     曲がり角を曲がった時、そこに待ち構えていたのは綾鷹だった。
    「桐屋……いや、霧夜家五代目家督、霧夜綾鷹がお相手しましょう……来なせい!!」
     剣を鞭のように振り回す。刃の渦が男達を呑み込み、その体を切り刻んでいく。
    「おおおぉ!」
     一人の男が腕を巨大化してその刃を掴んで止める。
    「チクショウめ、こいつらか、後ろから襲撃してるって奴は! なにもんだ!」
     もう一人の男が刀を抜いて綾鷹に襲い掛かる。だがその前に大きな壁の如く瑞樹が立ち塞がる。
    「名乗るほどの者ではない……ただお前達が気に入らないだけだ」
     振り下ろされた刃を盾で受ける。男はそこから蹴りを放って瑞樹の鳩尾を穿つ。だが瑞樹は一歩も引かず、逆に踏み込み押し込んだ。
    「1人増えてさっきより大変だけど、みんなで力を合わせればなんとかなるよ!」
     紅葉が光を放つ。すると腕を巨大化させていた男は掴んでいた刃を手放し拳で弾く。そして全身に力を籠めると筋肉を膨張させて服を突き破る。頭には大きな一本角が生えた。それはまさに鬼の如き姿。
    「ククッ勝てると思っているのか餓鬼ども!」
     鬼の声が振動をもって周囲を威圧する。そして巻き起こった風が刃となって襲い来る。
    「久遠、行くよ!」
     紫と久遠がその風の前に立つ。盾で受け止め、刀で斬り裂く。だが防ぎ損なった刃が腕を、足を切りつける。止まず吹き荒ぶ風がふっと弱まる。見れば周囲に光輪が浮かび風の勢いを弱めていた。
    「補助は任せてください」
     続けて玖耀は涼やかな風を起こして紫と久遠の出血を塞ぐ。
    「さて、それじゃあ鬼退治といこうかな!」
     ラシェリールは剣で風を斬り裂きながら前に進む。そして刃を鬼に振り下ろした。鬼はそれを鋼のような腕で受け止める。だが刃は喰い込み骨まで達した。
    「おら、その首貰うぞ!」
     低く飛び込んだ男がラシェリールの首を狙って刀を奔らせる。その刃を絶奈が剣で受け止めた。
    「残念ですが、あなた方に渡すほど私達の首は安くありません」
     絶奈は剣を振り切って男を引かせる。そこへ蓬が背後から斬り掛かる。
    「こちらが首を貰う!」
     首筋に伸びた刃を男は刀を立てて受ける。刃と刃がぶつかり火花が散った。鍔迫り合いとなり互いに押し合う。
    「ざけんなよっ! まだオムツも取れねぇような小娘に、俺の首をやれるか!」
     男は刀を滑らせて蓬の腕を裂く。蓬は咄嗟に斬られた手を離して刃から逃れるように距離を離した。
    「傷はすぐに塞いじゃいますから!」
     紅葉が光を当てると、腕の傷はあっという間に塞がって消えた。
    「オオオオオォ!」
     鬼が咆えて腕を振るう。唸りをあげて襲いくる暴威を瑞樹は正面から受け止める。
    「ぬぅっ……おおおおお!」
     盾を貫き鬼の拳が左腕を折る。だが瑞樹も負けじと咆えると、右の拳を固めて鬼の脇腹に突き立てた。鎧のような筋肉を貫き肋骨を砕く。
    「フンッこの俺と張り合おうというのか、小僧!」
     鬼は瑞樹の腹を蹴り上げる。瑞樹の長身が軽々と持ち上げられ壁に叩きつけられる。鬼はそこへ拳を振り上げた。
    「それ以上はさせませんよ」
     綾鷹は鞭剣で鬼の腕を絡め取る。刃が喰い込み鬼の腕から血が流れ落ちる。その間にナノナノのサクラはハートを飛ばして、玖耀も光輪を投げて瑞樹の傷を癒す。
    「これで骨は繋がったはずです」
    「小賢しい!」
     鬼は傷つくのも構わず全力で剣を引っ張った。剣を持つ綾鷹は引き寄せられそうになるのを、何とか踏ん張って耐える。
    「綱引きをしている暇はないと思うけど」
     ラシェリールが鉄扇で鬼の顔を殴りつける。ぐらりと鬼が体勢を崩し力が弱まった隙に綾鷹は剣を引き戻した。
    「憤っ!」
     鬼は地面に拳を叩き付ける。衝撃波が周囲を呑み込もうと広がる。
    「ならばこちらも参ります!」
     だがそれと同時に絶奈も地面に大きな杭を撃ち込む。衝撃波がぶつかり合い相殺される。
    「死ねぇ!」
     力がぶつかり合って出来た緩衝空間を抜け、疾風の如き速さで男が絶奈に刃を向ける。
    「こっちの鬼さんは素早いね、でも私も速いんだよっ」
     同じように反対側から猫のように素早く駆ける紫が、縛霊手を嵌めた腕を差し込んで刃を受ける。そしてそのまま縛霊手を展開させて男を結界に閉じ込める。
    「ちぃっ」
     男の放つ突きは結界を貫いて紫を襲う。縛霊手を盾にするが刃はそれすらも貫いて喉元に届く。紫は縛霊手を手放して飛び退いた。
     その隙に久遠が駆け咥えた刀で男の胴を斬る。男は苦痛に顔を歪めながら久遠を蹴り飛ばした。
    「くそ犬が!」
     怒り任せのそれは大きな隙だった。機を窺っていた蓬が踏み込む。気付いた男は横に刀を薙ぐ。それは出足の膝を狙う一太刀。蓬は跳躍して躱すとそのまま膝蹴りを顔面に叩き込む。よろけたところへ着地と共に横一閃。首を斬り飛ばした。
    「首級確かに頂戴した」
     背を向けた蓬は刀を振って血を払う。

    ●欠片
    「オオオオ! カトォォォォ!」
     殺られた仲間の名前を呼んで鬼が咆える。そして突進して蓬に迫る。
    「気をつけてください」
     光輪を投げて牽制しながら玖耀が警告すると、灼滅者は散開して鬼を囲む。
    「それでは残った鬼退治と参りましょう」
     綾鷹が剣に緋色のオーラを纏わせ鬼の背後から背中を斬り裂く。続けてサクラが風を巻き起こして鬼の動きを封じようとする。
    「オオオオッ!」
     だが鬼は風を引き千切り綾鷹に向け腕を伸ばす。しかしその腕は途中で掴まれた。
    「俺の相手を先にしてもらおう」
     瑞樹はがっしりと鬼と組み合う。
    「まだ懲りんのか小僧!」
     鬼は瑞樹を持ち上げて壁に叩き付ける。
    「ぐふっ……」
     口から血を流す瑞樹はそれでも組み合ったまま歯を喰いしばる。
    「おおおおおおお!」
     咆えながら全身の力で鬼を持ち上げ壁に叩き付けた。そして力尽きて手を離す。
    「がっ……なんだと……」
    「一気に決めちゃうよ」
     驚く鬼に紅葉が漆黒の弾丸を撃ち込む。それは胸を穿ち肉を黒く侵食していく。
     そして紫と蓬が左右から影と刀で挟撃する。黒猫は鬼の足を切り、刃は腕を裂く。
    「俺がこんな糞餓鬼どもに!」
    「そんな糞餓鬼にあなたは負けるのです」
     鬼の拳を剣で受け流し、絶奈は刃を胸に突き立てる。だが急所を捉える前に筋肉が引き締まり刃が止まる。そして鬼の拳が絶奈の脇腹を抉った。
    「っは」
     息が漏れ思わず剣から手が離れそうになる。だがぐっと力を入れて握り、刀身に緋色のオーラを纏わせた。鬼の体内に埋まった剣から血が滴り流れる。すると絶奈の傷の痛みが緩和されていく。
    「貴様!」
     もう一度放たれる鬼の拳を絶奈は剣を手放して避ける。そこへ入れ替わるようにラシェリールが踏み込んだ。
    「さあ、これで終わりにしようじゃないか」
     ラシェリールは左手に持った鉄扇を振り下ろす。鬼はそれを腕で受け止めた。だがそれは隙を作る布石、本命の赤い閃光が横に薙がれる。右手には剣。その軌跡には星の如き輝きが残った。
    「こんな……」
     胴が切断されて上半身がずれ落ちると、鬼は絶命した。

    「待って、足音がするよ」
    「それも複数のようですね」
     紫と綾鷹の言葉に戦闘が終わって一息吐いた皆に緊張が走る。
    「隠れて様子をみましょう」
     絶奈の言葉に頷き、脇道へと入り身を隠してそっと様子を窺う。すると大勢の足音が鳴り響き、整然とした様子で無傷の羅刹達、そして鞍馬天狗が堂々と入り口へ向けて進んでいた。
     こちらに気付く事もなく、そのまま通り過ぎて行く。足音が聞こえなくなると緊張が解けた。
    「あれは鞍馬天狗本隊ですね」
     玖耀の言葉に皆も肯定の返事をした。
    「つまり戦力が減少して撤退したという事か、他の班も上手くやったんだな」
     瑞樹は倒れそうな疲労に耐えながら、壁に寄りかかる。
    「一先ずは鞍馬天狗の行動を阻止できたって事かな」
    「よかった、作戦成功って事だよね!」
     鞍馬天狗を倒せなかったのは残念だったけどと、ラシェリールは穏やかに表情を緩ませ、紅葉は喜びの笑みを浮かべる。
    「後は他の作戦次第ですね」
     刀を鞘に納め、蓬はまだ終わっていないだろう深部での戦いを想う。
     戦場のピースは一つ埋める事が出来た。後は仲間達を信じて待つことしかできない。だが灼滅者達の顔に不安は無かった。

    作者:天木一 重傷:置始・瑞樹(殞籠・d00403) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月22日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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