白き狼と血の因果

    作者:波多野志郎

     白き獣が、疾走する。その姿は、ニホンオオカミのそれだ。風に揺れる白い毛並み。青い炎のごときオーラを揺らし、木々が作る影に軌跡を残しながら森の中を疾走していく。
     やがて、獣は立ち止まる。そこは、大自然の滝の前だ。ザア――、と間断ない水音、大量の水が落ちる滝壺に近付き、獣は天を仰いだ。
    『――――!!』
     ――天を刺し貫くような、尾を引く咆哮が自然の中に響き渡る。その呼びかけに答え、滝壺から姿を現わしたのは……。

    「スサノオによって、古の畏れが生み出されようとしているっす」
     湾野・翠織(小学生エクスブレイン・dn0039)の表情には二種類の感情が混ざっていた。喜びも緊張、相反する二つの感情だ。
    「ついに、っす。ついにスサノオとの因縁を持つ灼滅者が多くなったことで、不完全ながらも介入できるようになったっすよ!」
     その言葉の意味に、灼滅者達がざわめく。ついにスサノオ本体と戦える時が来たのだ。
    「スサノオと戦う方法は二つっす。一つは、スサノオが古の畏れを呼び出そうとした直後に襲撃する方法っす」
     この場合、六分以内にスサノオを撃破できなかった場合、古の畏れが現れてスサノオの配下として戦闘に加わる。古の畏れが現れた後は、スサノオが戦いを古の畏れに任せて撤退してしまう可能性もある――短期決戦が必要となるだろう。
    「もう一つは、スサノオが古の畏れを呼び出して去っていこうとする所を襲撃する事っす。この場合、スサノオとの戦闘に勝利した後、古の畏れとも戦う必要があるっす」
     この場合は、スサノオと戦い場合の時間制限がなくなる。ただし、必ず連戦となる――それ相応の実力と継戦能力が必要となるだろう。
    「スサノオの戦闘能力は……正直、未知数っす」
     使用するサイキックは、その個体が蘇らせた古の畏れが使用していたものとなる――翠織の緊張の元は、それだ。
    「ようするに、このスサノオの場合――八体の古の畏れの能力が使えるって事っす」
     その意味を、灼滅者達は戦慄と共に理解した。ただ、と翠織は言葉を続けた。
    「一度に使って来るのは、五つが限界のようっすから、そこはそれ。みんなで意見を出し合って、対処方法を考えておいて欲しいっす」
     そして、このスサノオが呼び出そうとしている古の畏れだが。それは血にまみれた鎧武者だ。この滝には、かつて戦国時代から伝わる伝承がある。合戦に負けた武将がこの地まで逃げ込んだ時、一つの光景を目にして死を覚悟したのだという。
    「それは、自分の配下達の亡骸っす」
     滝を、滝壺を、血により真っ赤に染めるほどの配下達の亡骸。それを見た武将は死を覚悟し、その場で腹を切って果てた――とされる。
    「それ以来、その滝壺には血まみれの鎧武者が現われ迷い込んだ者を殺す、と言われ続けて来たっす。つい最近までは、地元の人も何があっても踏み入らなかったらしいっす」
     もしも、短期決戦を挑むのならこの滝壺前の平地が戦場だ。障害物もなく、戦いやすい立地となっている。
     スサノオが古の畏れを呼び出して去っていこうとする所を襲撃する場合は、森の中での戦闘となる。障害物となる木々をいかに活かして戦うかが肝となるだろう。
    「時間は昼っす。そういう意味では戦いやすい……? どうしたっすか?」
    「――いや」
     翠織が察して問いかけた先は、レイン・ティエラ(氷雪の華・d10887)だ。その表情には陰りがある――言葉に出来ない胸のざわめきを感じたレインは、静かに告げた。
    「スサノオは、祖先から聞いた我が血族の宿敵に似ているのだ。偶然だとは思うのだが……もしそうならば俺がこの依頼に参加する事には、何か意味があるのかもしれない」
     その言葉に、翠織はうなずく。八体もの古の畏れを呼び起こしたスサノオ――その果てに、灼滅者達は集ったのだ。
    「何にせよ、敵は数多くの古の畏れを呼び起こして力を蓄えているはずのスサノオっす。万全をきして、挑んで欲しいっす」


    参加者
    天方・矜人(疾走する魂・d01499)
    不知火・隼人(蒼王殺し・d02291)
    嵯神・松庵(星の銀貨・d03055)
    戒道・蔵乃祐(錆のアデプト・d06549)
    レイン・ティエラ(氷雪の華・d10887)
    越坂・夏海(残炎・d12717)
    氷月・燎(高校生デモノイドヒューマン・d20233)
    佐倉・結希(ファントムブレイズ・d21733)

    ■リプレイ


     遠くから、滝の落ちる音が届く――森は、それほどに静かだった。
    (「違う、息を潜めてやがるって感じだな」)
     髑髏の仮面の下から、静かな森を眺めて天方・矜人(疾走する魂・d01499)は心の中で言い捨てた。
    「ようやくつかんだスサノオのしっぽだ。ここで一気に片を付けたいところだな」
    「ああ」
     嵯神・松庵(星の銀貨・d03055)の言葉に、矜人も短くうなずく。緊張で体が動かない、そんな者は誰も居ない。痛いほど張り詰めた空気が、そこにはあった。
    「気になる事多いけど、しっかりやってやるで」
    「この戦いから何か情報が手に入れば良いんだけどな」
     氷月・燎(高校生デモノイドヒューマン・d20233)と越坂・夏海(残炎・d12717)の視線は、レイン・ティエラ(氷雪の華・d10887)へと向かっていた。レインの表情は、緊張のものとは違う硬さがある。
    「あれ」
     短い佐倉・結希(ファントムブレイズ・d21733)の言葉に、仲間達の間に緊張が走る。結希の指し示した先、そこに遠く白い獣の姿が見えたからだ。
     純白の毛並みをした狼だ。躍動感に溢れるその疾走する姿は、自然の中でも緩まない。その身を覆う青いオーラで軌跡を描く姿は、まるで夜空を走る流れ星のようだった。
    「祖先より伝わる我が宿敵と似通った姿……俺がここに参ずる事で何か起こるのなら、この身を以てして。逃げず、そして逃がさず立ち向かっていこうじゃないか」
     レインの独白に、仲間達はうなずく。不意を打つ、そのために――息を潜めて近づいてくるのを待った。
    (「凄い……雰囲気だけでも強いってわかります……でもっ」)
     近づいてくるスサノオの姿に、結希は息を飲む。後、十メートル。後、五メートル――散っていた灼滅者達が、木陰で身構え。
    「血に宿りし力よ!」
     解放後、オの一音から始まる狼のように一吠え、レインが地面を蹴る。完全に、不意を打ったタイミング――そのはずだった。
    「――――!?」
     ゾクリ、とウロボロスブレイドを構えていた戒道・蔵乃祐(錆のアデプト・d06549)の背筋に戦慄が走った。スサノオに対する違和感、それに急激に襲われたのだ。しかし、視覚情報から感じ取ったその違和感を、言葉として理解する時間がなかった。
     だからこそ、蔵乃祐に出来たのはただ一つの事だった。
    「――待って下さい!」
     制止の声、蔵乃祐のそれに不知火・隼人(蒼王殺し・d02291)もその突撃を止めた。そして、気付く。不意を打とうとした標的――スサノオの視線が、自分を確かに捉えていた事を。
     半瞬遅れて、ゴォ! と唸りを上げて急停止した灼滅者達の眼前を青い軌跡が薙ぎ払っていく――その軌道に、隼人には見覚えがあった。
    「あの時の、武人の蹴りか!?」
     吹き荒れる旋風蹴りは、その青いオーラによるものだ。その中心に立つスサノオは、悠然と灼滅者達に視線を走らせた。
    「あ……」
     その視線に、蔵乃祐は思い至る。あの時に感じた違和感――それは、スサノオの視線の動きだ。こちらが隠れていた、わずかな痕跡。それを冷静に見つけ出した、その意志を確かに感じたのだ。
     そこには、確かにあったのだ。まるで――。

    「やはり来たか、人狼どもめ。だが、今の我は、充分に力を取り込んだ。簡単に灼滅できるとは思わぬことだ」

     ――人間に近しい、理性が。


     ゾワリ、と灼滅者達の背筋に、冷たいものが走った。空気が凍りつく――まるで……否、自分達の常識が覆される状況に、突然放り込まれたからだ。
    「――話せるのか?」
     松庵が、そう口を開く。問いかけにも満たない確認、しかし、その声には震え一つない――結希は、むしろ松庵に感心してしまったほどだ。
    「笑止。何を驚く? それとも、言葉も操れぬ幼子を狩り続けた故、我らスサノオの本性を知らぬというのか」
     スサノオの、口の端が持ち上がる。その流暢な言葉はもちろん、牙を剥くその仕種にも明確な笑いがあり、からかいがあった。人間に等しい、あるいはそれ以上の知性を目の前の獣が持っていると確信するに十分だった。
     スサノオが、一歩前に踏み出す。そこに生まれた緊張に――不意に、夏海が笑った。
    「く、ははははは!」
     それに、スサノオが目を細める。仲間達の視線に、ひとしきり笑い終えた夏海が、深い息を吐きながら言ってのけた。
    「目の前にいるのは、倒すべき敵だ。話せるぐらいで何だっていうんだ?」
    「――ああ、まったくだ。相手に不足はねぇぜ?」
     夏海の言葉に、矜人もマテリアルロッドを構え言い放つ。空気の硬さが、失われていく――ただ、戦いに挑む緊張感だけが残った。
     面倒見がよく、前向きな夏海だからこその空気の変換だ。スサノオの瞳から、笑みが消える。もしも、空気に飲まれたままであったのならばそのまま蹂躙していただろう。
     しかし、その瞳にはもう嘲りも、空気を重くするための煽りもなかった。
    「闘争の空気か。ならば良し、お前達が灼滅した同胞の仇を取らせてもらおう」
     低く言い捨てたスサノオが、遠吠えを上げる。森の静寂を打ち破る咆哮、直後に青いオーラが生み出した巨大な両腕が地面を掴み、礫を灼滅者達へと投げつけた。
    「礫が来るぞ!」
     松庵が言い捨てたのと同時、ドドドドドドドドドドドドドドドドドッ! と礫の雨が降り注ぐ。巻き起こる土煙、その中を霊犬のギンによる浄霊眼を受けたレインが駆け抜けた。純白の狼と、純白のウールヴヘジン――その一体と一人が、激突した。レインの雪の華を散らしながらオーラを集中させたシールドの一撃を、スサノオはオーラを無数の剣や槍に変えて受け止める!
    「その程度か、人狼!」
     視線を交わし、レインに向けてスサノオが言い放つ。レインが言葉を紡ぐよりも速く、巨大なオーラの腕が頭上から押し潰すように伸ばされた。
    「人食い鬼の腕と、巨大熊のものか――!」
     しかし、そこには既に矜人が踏み込んでいる。放たれる雷を宿した拳の一撃に、スサノオの体が宙へ浮いた。
     しかし、手から伝わる衝撃はあまりにも軽い。スサノオが拳を受けながら、自分で跳んだのだ。トン、と軽い調子で木の幹に着地すると、スサノオが跳躍した。
    「――ほう?」
     スサノオが、目を細める。薄れていく土煙、その中で日本刀を振り下ろした体勢の松庵を見つけたのだ。
    「相殺したか」
    「一度、見たからな」
     雲耀剣を振り下ろした体勢から、下段に切り上げる。音もなく走った影が、空中でスサノオの手足を縛り上げ――切れない!
    「一度は、一度だ」
     バチン! と青いオーラからあふれ出した濁流が影を相殺、弾き飛ばしたのだ。影を弾いたスサノオが着地する、そこへ隼人が踏み込む!
    「どんな相手も――ただ打ち貫くのみ」
     射突機甲杭“激震牙”が、炎に包まれる。その隼人のレーヴァテインの一撃を、スサノオはオーラで生み出した巨大なハサミで受け止めた。
    「行きます!」
     そこへ、Close with Talesを振り下ろした結希が続いた。その豪快な一撃に、隼人の一撃を受け止めた直後のオーラが揺れる。
     オーラが掻き乱される、そこへ蔵乃祐のウロボロスブレイドが放たれた。
    「――ッ!」
     しかし、その牙が蛇腹の切っ先を弾き、牙が刃を食い止める。
    「まだまだぁ!!」
     そこに、妖の槍を頭上で回転させた夏海が続いた。スサノオはその旋風輪に切り裂かれながら、駆けていく。
    「回復は、俺がしっかりこなすで?」
     クルセイドソードを、燎が振り払う。そこから巻き起こる一陣の風、セイクリッドウインドが砂塵を切り払い、仲間達を回復させた。
     改めて、距離を測って灼滅者達と向かい合うとスサノオがグルグルと喉を鳴らす。それが笑いなのだと、その瞳を見てすぐに理解出来た。
    「――理解した。渾身で当たる」
     スサノオが、身を低く構える。ジャリ、と爪痕が地面に刻まれる――まるで、引き絞った矢のように、スサノオが地を蹴った。
     オーラが形成する巨大ハサミ、それによる旋風蹴りが灼滅者達を切り裂いた。


    「えい!」
     結希がClose with Talesを突き出した瞬間、巨大な氷柱が森を走る。スサノオは、オーラの腕でそれを受け止めるが――そこへ夏海が、強引に異形の巨腕と化した右腕を振り下ろした。
    「――――」
     その夏海の視線を受けて、レインの両腕が地面を叩く。まるで狼のように構えたレインの手足の下から影の茨がスサノオへと伸びた。
     それをスサノオは、跳躍で回避――しかし、右腕を砲門に変化させた蔵乃祐がDCPキャノンを撃ち込む!
    「――ッ!?」
    「今です!」
     スサノオの着地が、わずかに狂う。それを見切った蔵乃祐の言葉に、矜人と隼人が同時に跳び込んだ。渾身の力で振り下ろされる白く輝く矜人の斬撃に、隼人の回転する杭の一撃が、スサノオを捉える。
    「――見事」
     その感嘆の声と同時、ゴォ! とスサノオを中心に荒れ狂う濁流が、森の中を蹂躙した。
    「ギン……!」
     レインは、その濁流に飲まれて木へ叩き付けられたギンに視線を送る。しかし、ギンが起き上がる事はなかった。
    「まだです!」
     その結希の言葉の直後、濁流が内側から弾けた。再行動だ――旋風をまとい突進したスサノオの爪が、蔵乃祐の肩口へと深々と突き刺さる!
    「単独の、遊撃手――厄介は、早めに刈り取らせてもらおう」
    「く、あ……ッ!」
     ガァ!! 追撃の牙が、蔵乃祐に食らいついた。そのまま、地面へと投げつけられるのを、松庵が抱き留めてかろうじて防いだ。
    「みんな、立て直しや!」
     セイクリッドウインドを吹かせた燎の言葉に、全員がスサノオから間合いをあける。安全圏に松庵が蔵乃祐を横たえる、その時間を稼ぐために。
    (「八体の古の畏れの力を得た、とか……この強さは、まさにやな」)
     呼吸を乱したまま、燎が内心で吐き捨てる。例えば、スサノオが先ほど巻き起こした濁流、アレは燎自身が戦った大蛇の力だ。
     オーラが形成する巨大なハサミ、あれは話に聞いた祟り蟹だろう。武器は熊の背に刺さった武器、レインには人食い鬼の腕がそうだとわかった。
    「……回復は、天狗のやつだな」
    「さっきの牙は、旋風の狼のです」
     言い捨てる夏海に、結希も視線を外さずにそう告げる。これに大猿の礫に、武人の蹴り――おそらくは、このスサノオのみの特徴なのだろうが、オーラの形で呼び出した古の畏れがどんなものだったのか、それがよくわかった。
    「ああ、痺れるほど強いな」
     矜人が、髑髏の仮面の下で笑う。意識しなくても、武器を握る手に痛いほど力がこもった。自分の実力を残らず引き出される相手との、ひりつくような戦いに血が騒ぐのだ。
     そして、誰よりも血が騒いだのは、レインだったろう。真っ直ぐ向けられたその視線に、スサノオも理性のある瞳で真っ向から受け止めた。
    「なるほど、理解した。お前達は、人狼ではないようだが……如何?」
    「……俺の祖先はおそらく人狼だったのだろう」
     スサノオを目の前にして、レインはざわめく胸元を抑えて言い捨てる。それは、確証のない確信だ。あるのは、この鼓動のざわめきのみ――しかし、スサノオはそれを笑わなかった。
    「だが、今の俺は……俺達は、武蔵坂学園の灼滅者だ」
    「得心した」
     スサノオはコクリと一つうなずき、身を低く構えて言い放つ。
    「ならば、死力を尽くせ。我が培った爪牙、存分に振るおう」
    「上等だ」
     答え、隼人が、灼滅者達も身構えていく。ただ構える、それだけでも疲労した体が悲鳴を上げた。それでも、闘志は消えない。今なら、万全以上に動ける――そんな事さえ、思った。
     研ぎ澄まされる空気、その中で戦いは激しさを増していく。一撃一撃の重さは、古の畏れとは比べるべくもない。もはや、誰もが正確な時間経過など理解する余地はない――ひたすら、スサノオに死に物狂いで食らいつくのみだった。
    「――ぉお!」
     松庵の刀が、横一閃薙ぎ払われる。その一閃をスサノオは身を屈め、やりすごした――しかし、松庵の動きは止まらなかった。横回転した松庵の左手、その鞘が下段からスサノオの顎を強打、衝撃でのけぞらせた。
    「動かない、で――!」
     すがるような想いで、結希が繰る影がスサノオを巻き上げていく! ミシリ、とのけぞった体勢のまま、振りほどこうとしたスサノオへ跳躍から舞い降りた夏海の鬼神変の拳が振り下ろされた。
    「グル、ハ、ハ――!」
    「ッ! 退け!!」
     夏海の拳に押し潰されたまま、喉を鳴らしてスサノオがドォ! と濁流を巻き起こした。それは、前衛を一気に飲み込んだ――だが、それだけでは終わらない!
    「ク、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
     オーラの腕で、スサノオは跳躍。再行動で、後衛へと礫を投擲したのだ。ヒュガガガガガガガガガガガガガガガガッ! と、豪雨のように降り注ぐ礫――それに、結希が吹き飛ばされて地面に転がった。
    「夏海、先輩……!?」
    「悪い、後、頼んだ……」
     目の前で崩れ落ちる大きな背中に、燎が目を見張った。夏海が、燎を寸前で庇ったのだ。
    「俺はいい、前衛を回復させろ!」
     すかさずシャウトで回復する隼人に、燎は矜人を一条の霊光、祭霊光で癒した。
    「こっからが、正念場か!」
    「そうだな」
     矜人の雷の拳打に合わせ、レインの影の茨がスサノオを飲み込む。だが、スサノオはなおも地を駆けた。今もない白さを失わない躍動――それは、恐ろしいほどに美しく、幻想的だった。
    「逃がすか」
     その前へ立ちふさがり、松庵が刀を振り下ろす。地面をふみ砕くほどの踏み込み、そこから生み出された力の流れを己の腕にも等しいほどに馴染んだ刀へ伝え、スサノオを大上段に切り裂いた。
     しかし、スサノオは止まらない。その爪と牙が、松庵を捉えた――が、松庵の口元に浮かんでいた笑みに、スサノオはその目を細めた。
    「良い覚悟だ――!」
     松庵が、地面に叩き付けられる。松庵は、立ち上がれない――しかし、確かに『次』へと繋いだのだ。
    「さあ、ヒーロータイムだ!」
     マテリアルロッドを腰溜めに構えた矜人が、駆ける。疾走の加速と横回転の遠心力――そして、ヒーロー魂を込めた一撃がスサノオを強打した。
    「ガ、ア――!」
     スサノオが、衝撃に吹き飛ばされて地面を転がる。スサノオは青いオーラの巨大ハサミを地面に突き立て、強引に停止した。
    「いったれ!!」
     そこへ、燎が生み出した魔法の矢が降り注いだ。ヒュガガガガガガガガガガ! とスサノオはオーラの巨腕を頭上でクロスさせ、それを凌ぐ――。
    「ここまで繋がれて、外せるか!!」
     そこへ、隼人が突進した。自身を象徴する武装、射突機甲杖“蒼王破”を全力を込めて、叩き込む!
    『レイン!』
    「レイン、先輩!!」
     矜人と隼人、燎が、仲間の名を呼ぶ。その三人だけではない、蔵乃祐が、松庵が、夏海が、結希が、ギンが――大事な仲間達が、繋いでくれた好機だ。
     レインが、地面を蹴る。狼のごとき疾走、それをスサノオは口の端を持ち上げ、吼えた。
    「来い、武蔵坂学園の灼滅者!!」
     スサノオも、駆ける。加速をつけたWOKシールドによるレインの一撃、それをスサノオは爪で迎え撃つ――しかし、レインの疾走は止まらない。ガキン! と火花を散らしてスサノオの爪を吹き飛ばし、加速を乗せてシールドバッシュが叩き込まれた。
     しかし――スサノオは、倒れない! ザッ! と四肢で地面を踏みしめ、身構えた。
    「――ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
     スサノオの牙が、レインの喉笛へと食い込む――直前だ。バキン! と、雪の華が、鮮やかに咲いたのだ。
     レインの再行動だ、CLARUSの白をまとった右拳がスサノオの顔面を捉え――すぐさま、レインは左の拳打を繰り出す!
     ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ! と、レインの閃光百裂拳がスサノオを連打していった。拳を止めたら、もう動けないのではないか? そんな予感に突き動かされながら、渾身の力で一打一打、まさに雪の華による花園にレインはスサノオを埋めていく。
    (「似てる……かもな、俺とお前。おれに宿れ、白き獣よ!」)
     刹那、視線を交わして、レインは右拳を振り上げる。もはや、足をもつれさせ全体重を乗せるように――!
    「……今は、眠れ」
     振り下ろされた拳の一撃が、スサノオを地面に叩き付ける。それが、最後の止めとなった――膝から崩れ落ちるように、レインはスサノオの柔らかな毛並みに倒れ込んだ……。


    「撤退、するしかないな」
     隼人のその判断に、結希はうなずくしかなかった。
    「そうですね……あまりにも、消耗が激しすぎます」
     結希は、かろうじて戦闘不能ですんだ。しかし、三人もの重傷者が出ているのだ。このまま、古の畏れに挑んだとしても――決して、勝てるとは言い切れなかった。
    「しばらくこの周辺に留まってみたかったんやけどな」
    「まずは、情報を学園に持ち帰るべきだろう」
     燎の言葉に、矜人は口ではそう言いながらその声色には口惜しさが混じった。傷を負った仲間まで、危険に巻き込む訳にはいかない――その想いが、その場に踏みとどまらせたいた。
    「……行こう」
     レインは、夏海を背負ってそう告げた。矜人は蔵乃祐を、燎は松庵を。そして、重傷者達を背負った仲間を守るように、結希が続いた。

     そして、満身創痍で学園に戻った灼滅者達は出現していた古の畏れが、何者かに灼滅されていた事を聞かされる事となる。その時、燎はふと蔵乃祐が言っていた言葉を思い出した。
    『僕は……スサノオを宿敵とする組織が存在すると思っていました』
     それは、蔵乃祐の想像に過ぎない。しかし、もしかしたら――その報を聞いた仲間達は、そう思わずにはいられなかった……。

    作者:波多野志郎 重傷:嵯神・松庵(星の銀貨・d03055) 戒道・蔵乃祐(ソロモンの影・d06549) 越坂・夏海(残炎・d12717) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月22日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 36/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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