夢見がち屋上心中ストーリー

    作者:一縷野望

     三度目の医学部受験に失敗した小野田青年の生活は、四月になっても変らなかった。
     朝から予備校に行き、夜に帰る。機械的に繰り返す毎日――来年の春、医学部生になれるとは限らないのに。
     人生の内ごくごく短い青春の瞬間を、ただ無駄に費やしているだけではなかろうかと、むなしさを抱えて屋上に上がる、それは去年夏からの日課だ。
     目を灼くような夕焼け、そのまま目を潰してくれればいいのに、と小野田はわざと瞬きを遅らせる。
    「もう、死んでしまいたい?」
     その声は、投げやりな目ではなくて虚ろな耳に飛び込んでくる。
     振り返れば、風に長い髪を遊ばせる儘にしたセーラー服の少女が、全てを見透かすように小野田を見ていた。
     彼女は打ちっ放しのコンクリートを歩み、小野田にぴたりと寄り添うと磨いた爪の指で頬をなぞる。
    「一緒に、飛び降りてあげようか? ――そしたらお兄さん、綺麗なままでいられるよ?」
     死んでしまいたいわけではなかった。
     はず。
     はず、なのに。
     その蠱惑的な声に抗えない。

     このまま浪費するだけの人生よりも、彼女と果てる方が余程有意義な気がするんだ、確かに。
     

    「この後飛び降りて死ぬのは彼だけ」
     だって彼女はダークネスだから。8階から飛び降りたぐらいじゃ、死なない。
     灯道・標(小学生エクスブレイン・dn0085)は、灯火色の瞳とは裏腹に氷のように冷たく言い切った。
    「拐かされた彼が悪い……そう言い切るのは簡単だけど、できれば助けてくれないかな?」
     幸いにもこの事件は飛び降りる寸前に介入するコトができるから。
     淫魔『せつ』が小野田を拐かすのは、予備校の入るビルの屋上だ。
    「この予備校、中学のクラスもあるから潜入は難しくないよ。さすがに小学校の低学年だと、エイティーンの使用など考えた方がいーかもだけど」
     夜からのクラスに来た素振りで入り、エレベーターで屋上手前まで昇り後は階段で屋上まで行けばよい。
     せつが小野田を抱えて柵を乗り越える寸前なので、まずはなんとかして止めるコト。
     心中を邪魔したら戦いに移行する。
     敵はせつ、そしてせつがてなづけた強化一般人が四人、彼らは戦闘になると乱入してくる。
    「面倒なのはさ、彼らが『小野田さんを殺そうとする』点かな」
     せつが心中に持ち込むのは余程気に入られているから、それを知る彼らは嫉妬を殺意に変えて小野田にぶつける。
     だから小野田をESPで無力化すれば思うつぼ、あっさりと殺されるのがオチだろう。
    「彼ら四人はそれぞれ『せつ』に惚れ込んでて、互いへの敵愾心も強い」
     最終的に彼らは皆『せつと心中したい』と心から願っている。そこをうまく煽れば強化一般人の同士討ちや、その攻撃を灼滅者へ向ける事が可能かもしれない。
    「ただ、強化一般人の統制がとれないとヤバイってせつも自覚してるから、改めて誘惑し返すと思う。その駆け引きも案外重要かもね」
     ともあれ、せつを倒せば彼らを元に戻す事ができるので、せつの灼滅は必須条件だ。
    「せつはそれなりに強いから油断しないでね」
     標はそう念を押すと、手元の手帳を閉じた。


    参加者
    西・辰彦(ひとでなし・d01544)
    上河・水華(歌姫と共に歩む道・d01954)
    神山・楼炎(蒼き銀の堕人・d03456)
    三影・幽(知識の探求者・d05436)
    雨積・舞依(個包装・d06186)
    高峰・紫姫(白銀の偽善者・d09272)
    篠崎・壱(非定型ステップ・d20895)
    龍宮・白姫(白金の静龍・d26134)

    ■リプレイ

    ●或る日の屋上で
     駆け抜ける風で裏返ったスカーフが夕日の茜に塗りつぶされたその刹那、小野田は自分の躰が地面から浮くのを、感じた。
    『あたしの首筋に手を回して。大丈夫、ずっと一緒よ』
     せつは耳元で囁き膝の裏に回した腕を確りと折ると、コンクリートを軽く蹴る。
     ふわ。
     小野田が目を開いたら、空と建物のギリギリにつま先が影刻むのが見えた。そう、柵を乗り越えたのだ。
     目視したのは小野田だけではない。屋上直下の階段踊り場、窓から様子を伺う二人の灼滅者達も、である。
    「……」
     窓から吹き込む風に前髪を遊ばせて、三影・幽(知識の探求者・d05436)は頭上で踊る踵をしっかり瞳を納める。淫魔せつの傲慢さに嘆息を漏らしながら、憐れな子羊を助く時を、待つ。
    (「……生きてさえいれば……受験程度、なんでもないと思えるのに」)
     陽炎のように揺らめく心の綾につけ込むやり方に、揺らがぬ眼差しの巫女龍宮・白姫(白金の静龍・d26134)は、密やかな憤りを抱く。
    『ずっと一緒。綺麗なまま、一緒……』
     嗚呼、最期だ――!
     麻酔のような陶酔に脳を侵された小野田の元へ、冷水をさすような声が、届いた。
    「死ぬ気はないのに『心中』はないわよね」
     全てをないまぜにする黄昏の中、左に明瞭なる銀と紫を連れた篠崎・壱(非定型ステップ・d20895)は、鉄扉を開け放つと真っ直ぐに駆け込む。
     ……不合格の悔しさをわかるとは言えない、けれど酩酊めいた『夢』で命を落とさせるわけには、いかない。
    「悪いね兄さん、出歯亀しちった♪」
     下卑た口調、口元に浮かぶはタチの悪い三日月の笑み。西・辰彦(ひとでなし・d01544)が悪いなんて欠片も考えてない事は明白だ。
    「ちょっとその飛び降りは待って頂けますか?」
     悪趣味。
     死を願わない者を惑わすだけその罪は重いと、高峰・紫姫(白銀の偽善者・d09272)はこちら側を向いたせつの眼差しに糾弾の色を纏う紅を絡める。
    「自殺なんてしてどうする」
     涼やかな髪色に反して上河・水華(歌姫と共に歩む道・d01954)は、烈火の如き感情を小野田へ向ける。
    「それは逃げる事と変わらないぞ!」
    『……ッ』
     手元の小野田が身じろいだのに、せつは小さく舌打ちをする。
     その間に神山・楼炎(蒼き銀の堕人・d03456)が悪魔の翼を羽ばたかせるように剣を携え距離を詰めた。
    『あっ、あぁ……あのっ、離して……』
     カチカチカチカチ。
     会わなくなった歯の根がたてる音、萎むような語尾、それらは小野田の酔いが冷めたことを意味していた。元より即席、お手軽な耽溺、心を奪い取れたわけもなし。
    「愛がなければ美しくないわね」
     今までの茶番を、雨積・舞依(個包装・d06186)は無造作に切って捨てる。心中という響きのロマンチックさに理解は示す。が、此は余りにお粗末だと、感情ののらぬ瞳で語り。
    「そう、あなたが醜いって言ってんのよ」
     更に抉り込むように、不快さを淫魔へつきつける。
    『……ッ』
     それが引き金となった。
     せつはもはや怒りを隠そうともせずに灼滅者達を睨みつけると、腹いせのように虚空へ飛び出した。

    ●死は醜悪
     小野田は学ぶ――死、この場合、心中は美しくなんかないってコトを。
     未練を塗した濁った悲鳴が耳をつく、死へ誘う女に騙されたという後悔しか湧いてこない。更には千切れそうに引かれる腕が、痛い。
    「……良かった、間に合った」
     柔らかな、安堵。
    「へ?」
     見下ろしてくるのは壱の夜雪の瞳。
    「死ぬよりつらいことがあるかもしれない、けれど生きてる方が良いっていうのがアタシの持論」
     押し付けないけどお節介はすると笑めば、小野田の表情が砕けた。
    「逃げずに乗り越えなければ、努力なんて報われない……という説教はもう必要ないか」
     頬緩めた水華に頷こうとしても躰が強ばって無理だった。
    「死ぬとか簡単に考えないで」
     それでも舞依は言わずにいられない。死した両親の思い出が、命を無為にする者に甘い顔など無理だと急き立てる。
    「人の生き死にを職業にしようという人間が、そういうの」
     生を選べず命尽きた人への冒涜だと叱れば、小野田は顔をぐしゃぐしゃにして涙を垂らす。真摯な台詞は彼を再び学びへと駆り立てる。
    『しっ……死にだぐ、ないぃ。ごめんなざい~』
    「暴れないで、どうかじっとしていてくださいね」
     情けなく嗚咽まみれの小野田の腕の痛みが和らいだ。箒に乗り近づいた幽が腰に手を回し支えるように抱いたからだ。
     白姫は金の瞳を細めてせつを一瞥した後で、箒を小野田の下へ移動させる。
    「……降ります」
     白姫は小野田を抱え後ろに座らせると、彼が落ちないよう空に平行なままで高度を下げていく。
     幽の見つけた待機場所が的確だった事もあり、小野田救出の流れは危なげなく優れたモノであった。
    「心中って言葉は綺麗だけど、実際はそんな素敵なモンじゃねえやな」
     小野田の背へ語って聞かせる素振りで辰彦の視線はせつへ。彼女はとっくの昔に抱擁を解き、柵の上に腰掛け髪を指に巻き付け退屈を持てあましていた。
     嗚呼、ロクでもない。
     やれ、愉し。
     辰彦の口から危うく笑いが零れ落ちそうに、なる。
    「わうっ!」
     主の怒りを受けて、ケイがつぶらな瞳をつり上げうなり声をあげ飛びかかった。
    「悪戯が失敗してつまらない、そんな所でしょうか?」
     奔放な彼女に僅かだが惹かれる自分を感じ取り紫姫は自己嫌悪を噛みつぶした。
    『そうね。だからあなた達を苛めさせてもらうわね』
     空へ向けて口笛をひとつ。
     給水塔のドアがあいて、息を潜めていた男が四人、雪崩れるように飛び降りてくる。
    『いつも一緒にいてくれてありがとう』
     柵の上に立ち上がると、せつは瞳を血走らせた四人へ小首を傾げ微笑みかける。
    『あたし、そろそろ選ぶつもりよ――』
     ……勝った人と飛び降りて、アゲル。

    ●欲塗れ
     煽られた男達は、淫らなサバトを行う前の高揚とふしだらさを纏い奇声をあげて灼滅者達に襲いかかってきた。
    「そんなに死にたいのなら、私がご一緒しましょうか?」
    『ハッ、てめェなんざお呼びじゃねェよッ』
     解体ナイフを握り締めた素行不良を絵に描いたような男の返事は紫姫の想定内。
    「だったら、私がせつさんと飛び降ります!」
     嘘か誠か迫真の演技――稀い自覚、彼女は彼女へ惹かれる性質。紫姫の眼差しにせつは喉をくつくつと鳴らす。
    『なら、そうする? あたしは歓迎よ』
     からかいかそれとも紫姫が隠すモノを察してか、髪を手櫛で梳かすよう編んだ糸は紫姫含む後衛へ精神圧迫を仕掛けてくる。
    「……薄っぺらい愛、ですね……」
     張り巡らされたせつの邪を断ち切るように、幽は端的に言いきった。惑わしが紡がれる前に、自身のバベルの鎖の志向性を彼女へと切り替える。
     男達の中心で舞うように外套を翻し、紫姫は彼らの躰を斬り裂いた。
    「影よすべてを喰らいつくせ!」
     楼炎の獣が男の一人に喰らいつく。飛び散る血しぶきがあけた所で、男達の同士討ちを狙い言葉を弄する灼滅者達。
    「愛した人とどこまでも一緒でいたい気持ちはわかるわ」
    「ところで、誰が、彼女のいちばんなのかしら?」
     舞依と壱は軽妙に問い掛け男達を見据えた。不安、疑念、覆う影は熱狂を徐々に書き換えていく。
    「すくなくとも一緒に自殺できるのは一人だろう」
     すまし顔の水華はまったくもって人が悪い。辰彦は軽薄に唇を歪め「ひーふーみー」とわざとらしく男達を数え上げる。
    「……あれ、多くね?」
    「この中だと三人が選ばれないってことよね」
     残酷だわとわざとらしく壱は眉を下げアンニュイな溜息。
    「真っ先に排除するべきは……」
     ついっと水華は男達をランダムに指さして、誘導するように胸を反らした。
    『排除すべきは……ぐあっ』
     バトルオーラを纏った筋骨隆々な男の腹から刃が生える。日本刀の男は無言で刀を鞘に収めると反撃を躱すように一歩引いた。
    「はじまったわね。気分はどう?」
     同士討ちを前に舞依は盾を構えせつへ狙いを定めた。が、すぐにせつを殴るのは無理だと気づく。男達の壁は後衛で狙いを研ぎ澄ますせつを近接攻撃で傷つける事を阻むのだ。
    「貴様の相手は俺だ、余所見はさせんぞ?」
    『あたしの視線が欲しいなら、もっと憐れみ誘うといいわ』
     水華の魔道書から溢れる厭な気配を、せつは歌声で相殺する。
    (「見切られないためには、せつのみをターゲットにはできないわね」)
     壱は指輪をなぞり、まずはクルセイドソードを振り回すサラリーマン風の男へトラウマの拳を見舞う。
     辰彦がバベルの鎖を最適化する背をすりぬけて、舞依はチェーンソー剣を振りかざしサラリーマン風の男を騒音と共に斬り裂いた。
     しゃらり。
     波打つような髪の元、滅多と変らぬ面差しに浮かぶは笑みか。

    「……もう、大丈夫……ですから」
     一方地上では、下ろされた小野田は糸の切れた人形のように一度だけかくり、と頷いた。
    「……建物には、近づかないで、ください……」
     白姫は今一度念を押すと、アスファルトを蹴り屋上を目指す。

    ●悪夢がち心中
    『するべきコトがわからない莫迦は嫌いよ』
     白姫が屋上に戻った時に出迎えたのは、そんなせつの苛つき孕みの声だった。天を刺す槍のような柵の上、バレエのように踊り、前に立つ灼滅者達を傷つける。
    『敵を見失った回数、ちゃんと数えてるから』
     切れ長の瞳でかけるプレッシャーに男達は気色ばむ。
    「……身勝手、すぎます」
     好きも嫌いも言う権利などないと言いたげに、白姫は箒から降りると身の丈ほどの弓から矢を放つ。
    『つ、冷たいッ』
    『なんだこれ?!』
     矢尻から産まれる冷気に身もだえする男達へ疎ましげに「失せろ」と吐き捨て、楼炎は死の領域を展開した。
    「根源の、黒……!」
     幽は巨大な刃を白き床につきたてて、解体ナイフの男を蝕んだ。
    「愛の形は様々……けれど、あえて私の価値観で言わせて頂きます……」
     ケイのあたたかな瞳で傷が塞がれるのを感じながら、幽はせつを睨みつける。
    「相手を本当の意味で幸せにせずに、何が愛ですか……?」
    『どうしてあたしがエサの幸せを願わなきゃなんないの?』
    「ひどい言いぐさもあったもんだな」
     先程壱が放った弾丸の戒めに足を取られたせつに、水華は蛇剣を絡みつけ吐き捨てる。
    『あたしとの心中が幸せだって、勝ち取るために争ってるわ』
     苛つきと愛しさをない交ぜにしたせつの笑みは、やはりどこか傲慢だ。
    「そんなに死にたいのなら、俺達で引導を渡してやる」
     覚悟しておけと柄を握る指に力を篭めれば、より締まる蛇にせつの悲鳴が裏返る。
    「せつ、やっぱり醜いわ。その声耳障りよ」
     もう聞かせるなと言わんばかりに舞依は殺戮の領域を広げて息の根を止めにかかる。人の心を弄び、命を駒にするこの女を赦す理由など、舞依には欠片も思い当たれない。
     仲間達の傷の深さを見定めた紫姫は、自分の足下に視線を落とす。招かれるように現れたのは黒猫。
    「喰らい尽くせ、黒猫!」
     惑うように一瞬揺らぎ、サラリーマンへ飛びかかる。
    『やぁだ、そんなにしてまであたしと堕ちたいの?』
    「……違います」
     灼滅者の籠絡すら愉しむ様に壱は肩を竦める。
    「自分の意志で動けないとか、ぞっとするわ……」
     そして腰砕けのサラリーマンへ紅纏いし斬撃を見舞う。
     淫魔の拐かされての殺し合い、ならば責める台詞など持つはずもなく。
     がしゃん。
     骨が砕けるような音をたてて、クルセイドソードを振りかぶった男へ続けてハンマーがめり込んだ。
    「んひひひ……いやホント醜いねェ」
     争う彼らも後ろで嘲笑う彼女も、醜くも余りに正直で辰彦の心も共鳴するように昂ぶっていく。

    ●夜は泡沫へ
     せつへ集中攻撃を仕掛けるのか、男達を1人1人排除するのか――灼滅者の間でも微妙に統制が取れておらず、男達の同士討ちを誘えたにも関わらず、戦いは長期戦へともつれ込んだ。
    『俺が、俺が心中だぁあ!』
     滅茶苦茶に振り回したナイフで楼炎の切っ先を弾きながら、ガラの悪い男は満足げに叫ぶ。
    「……そうは、いきません……」
     淡々と矢をつがえ、白姫は男の胸を凍らせる。白を束ねる朱が揺れ、風孕んだ巫女装束が靡いた刹那、最後の一人は血を吐き出して膝を折った。
     此より仕上げ――紫姫は清浄なる声を天へ解き放ち、仲間達が崩れぬようにと祈りを捧ぐ。
     ……自らの『死』は必ずしも厭わない、だが捨て鉢に『闇』へと踏み込みたいわけでは、ない。
    「ようやく殴れるわ」
     駒がなくなりがら空きになった前へ舞依は躍り込み渾身の力をのせて盾で殴りつけた。
    「これで灼滅できる」
     はじめましてと改めて、灼滅しに来たのよともう一度――舞依に応えるように、仲間達も総攻撃を、かける。

    「誘惑するなたァ云わねえよ、それが生き様だもんな」
    『だったら見逃して……ッ』
     肉の潰れる瑞々しい音。
    「飛び降りたら綺麗なままでいられる訳ねえでしょうよ」
     嘘吐きだからこんな風にぐしゃり潰れるのだと、辰彦はハンマーについた肉塊を指先で拭う。
    「言ったろう? 俺達はしつこいと」
    『だった……かしら?』
     荒い息を吐きながら、せつは後ろ手に柵を握り締めてもたれかかる。瞳に映るのは、水華の持つ書物から立ち上る読み解けぬ文字列。
     滅びを刻まれ痙攣するせつは力を振り絞って倒れ込むように飛び降りようと試みる、が。
     キンッ――。
     ケイの加えた刃に弾かれたたらを踏んだ所を、幽の剣で招き寄せられるように柵から引きはがされた。
     包む光は紫の夜明け空。
     ……まだ、夕暮れ。
     …………まだ、夜にもなっていないのに、一気に明け方。
    『あはは、やぁだ……あたし』
     ――死ぬの?
     その問いに応えるように、壱はしゃがみ込むとせつの耳元でそっと囁く。
    「そうよ」
     おやすみなさい――紅で印をつけるように斬り裂き、命を喰らう。眠りへの誘いはトラウマよりはよかろう、そんなコトを思いながら。
     夜は此から。
     悪い酒に酔うたような夢は五人の男達には訪れない、灼滅者がかきかえたから。

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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