魔人生徒会~開催! わんわんグランプリ!

    作者:黒柴好人

     武蔵坂学園には謎が多い。
     少なくとも、つい最近まで校長の姿すら見た者はいなかったという程には謎が多い。
     であれば規模や所属員の正体、その全てが謎に包まれた組織が存在しても何ら不思議ではないだろう。
     某日、某武蔵坂学園某キャンパス某階某教室では『魔人生徒会』と呼ばれる某集団がある会談を行っていた。
    「W-1コンテスト?」
     魔人生徒会の一員である少年が正面の黒板に記された文字を読み、首を傾げた。
     その言葉を書いた張本人は手に付いたチョークを払いながら頷く。
    「前に『ライドキャリバーグランプリ』というイベントがあったよね?」
    「ライドキャリバーを使ってレースした、あの」
    「そう、それを思い出して思いついたんだけど」
     黒板の前に立つ立案者は、チョークの粉が取れた手で自らの顔を覆う仮面の位置を直し、正面を、つまり魔人生徒会役員らを見据える格好を取る。
     立案者はやや低くくぐもった声をしているが、これはわざとそうしているのか、あるいは仮面を被っているからか。
     その仮面は龍。そして、龍の頭の下には同じく龍が舞う白い振り袖、龍の鱗を思わせる青い帯を締めた格好をしている。
     体型、そして手や首筋に見える肌の白さを見る限り、立案者は少女だろうか。
     とすれば、振り袖を着るにはジャストフィットでスレンダーな……。
    「胸が無いとかゆーなっ!」
    「ひゃ、ひゃいっ!?」
     しげしげと立案者を見つめていた少年は驚き、立ち上がった。
    「そ、そんな事言ってないし!?」
    「心の声が聞こえた気がする! ……こ、コホン。あー、えーっと……つまりだね」
     咳払いをひとつ、元の落ち着いた話し方に戻す。
    「武蔵坂学園一の霊犬を決めるもふもふの祭典、名付けて『W-1コンテスト』をやるというのはどうかな?」
     読みは「ワン・ワン」であると補足する。
     某教室内は、しばし「わんわん……?」「わんわん……」と可愛らしい呟きに包まれた。

     ある日、いつの間にか武蔵坂学園のあちこちにある告知が掲示された。
     そしてその時、たまたま、偶然、全くの仕込み無しで霊犬を腕に抱えた1組の男女が同時にその告知を眺めていた。
    「W-1グランプリ?」
    「霊犬の毛艶や武装の手入れ具合を競う『見た目審査』と技のキレや美しさを競う『実技審査』を行い、その総合点の高い霊犬がナンバーワンとして表彰され、使役者はトップ霊犬ブリーダーとして讃えられる……だと……?」
     魔人生徒会主導のイベントの詳細が決まり、開催が実現したのだ。
     ちなみにコンテストよりもグランプリの方がそれっぽくて良いとの意見が募り、イベント名は当初のものとは若干変更されている。
    「参加者だけではなく、審査員も募集しているみたいね」
    「ふむ。グランプリに参加せず、霊犬同士の、霊犬愛好家同士のコミュニケーションの場としても活用していい、と」
    「でも」
    「だが」
     2人は同時に叫んだ。
    「世界一可愛いのは」
    「宇宙一可愛いのは」
    「ウチの子よ!!」
    「ウチの子だ!!」
     各々の灼滅者が各々の霊犬をナンバーワンだと考えるのは必然。
     なればこそ、真の覇者と覇犬を決めるべき時が来たのだろう。
     だが、揺るぎなき1つの理がある。
     それは――霊犬マジラブリー。


    ■リプレイ


    「実況はこの俺、中島九十三式・銀都が引き受けるぜ! 思う存分、自分の相棒自慢を聞かせてくれっ!」
     会場にはとてつもない数の霊犬が集まっている! この高揚感、熱気は尋常じゃないっ!
     熱くたぎる胸の内を表現しようと、このGPのために考えたという曲をファルケに披露して貰おう!
    「俺の華麗なるテーマソングを聴けぇえええっ」
     と、歌い出す寸前に魔神生徒会の補佐役がファルケを拘束してしまった!
     えー、とにかく……わんわんグランプリ開催だっ!

     今回は6体を1グループとし、同グループを同時に審査していく事をご了承願いたい!
     では最初のグループ!
    「しなやかなライン、艶のある黒い毛並み、そして知性溢れる眼差し……素敵でしょう?」
     猟犬型のヴェインを従える鶫、カメラを片手に全てを記録する気十分か!
     勿論競技にも大期待!
     一方、赤柴の八千代と千代子。
    「ちゃーむぽいんとはやはりこの尻尾じゃな」
     このふわふわ尻尾は実に触りたい!
     朝夕に櫛で梳いている徹底ぶりだそうだ!
     ここからはコースを走る霊犬を見ていこう。
     OESの白いもふもふ霊犬にエステルは、
    「おふとんバランスなのです~」
     何ともふもふ布団を咥えさせて一本橋を進ませる!
    「あっ、清助! ちゃんと前を見てください!」
     柴の清助、エステルの霊犬が咥える布団が気になっていたが、縁の声を聞き慌てつつもしっかりとコースを進む!
    「これでゴールだ! 霊犬式、真っ向斬り落とし!」
     疾風迅雷の身のこなしで他を圧倒したしっぺと薫。
     鋭い眼差しで的を綺麗に真っ二つに切断だっ!
    「負けていられないね。わんこすけ!」
     鎗輔の指示を受け的を撃破するパピヨンのわんこすけ!
     これでいいのかと眉根を寄せ、首を傾げるぞ。
    「かっこいいから、お前はかっこいいから! 自信を持て。な?」

    「この子はいつも石鹸のイイ臭いがするし、外で運動するからおひさまの香りがして、しかも筋肉のバランスがいいんだ!」
     べた褒めされるトウジロウとする琉嘉!
     凛々しくも慈愛に満ちた顔付きだ!
    「うちのマトラもブラッシングやシャンプーを欠かさないからもふもふでは負けないからね」
     対抗するマトラと凪は装備の刀もお揃いにしているという徹底ぶりだ!
     マトラは期待に沿おうとしっかりポーズを取っている!
    「私たちの絆を見せるっす!」
     コースでは蒼が奔り、翠里が拳を握りしめながら応援する!
    「蒼は相棒でもあり、友達なんすから!」
     その想い、力となるか!
    「僕たちも負けないぞ。野山で鍛えられたその脚を存分に見せつけてやれ!」
     声を聞き、白い霊犬のタコと界はさらに加速する!
     色的にイカじゃないのとか思ってはいけないぞ!
    「無駄な筋肉がなく、鍛錬された体躯。そして正しい絆で結ばれている感じが素晴らしいな」
     審査員・千李の評価も上々だ!
     的前にはサニーと金糸雀が到着。だがしかしサニー、的に怯えてしまっているのか後ずさる!
    「仕方ないわね……何時までもびくつくならあたし、改竄するわよ?」
     首を思い切り振りながら的に突撃したが、一体何が……。
    「実戦経験が豊富ならこの程度お手の物やね」
     采とその相棒ペアは難なく的を粉砕!
     って、その破片が鼻先に命中し、目を白黒させているっ!
    「まあその……うちの子、お茶目やろ?」

    「是非、是非触ってあげて! 喜ぶから!」
    「あ、うん……。おお……」
     灯倭は客席にいた手頃な少年、レンを呼ぶとアラスカンマラミュートの一惺に触れさせている。
    「一惺はお利口さんで、触ってもらうのが好きなんだよ!」
     気持ちよさそうに撫でられる一惺に、緊張していたレンもどこか表情が和らいできたぞ!
    「わたしはは病院一のモフリストとして『モフられた時、どんなに大人しくしていられるか』で評価します。この子はなかなかのものですね」
     いつの間にか審査員・レクシィも混ざっていた!
    「もふもふ具合はギエヌイが上手ですよ……?」
     チベットの高級犬風のギエヌイ、毛の量が半端ないぞ!
    「洗う時は抱きつくようにしています」
     と、使役者のジジは静か胸を張る!
    「次は僕たちだ。行こう、犬彦……犬彦?」
     柴の犬彦、龍一の足元で固まってしまっている!
    「お弁当作って来ましたから後で一緒に食べましょう。だから二人とも頑張って!」
     客席から声を掛けるのは紗里亜。龍一の彼女だとか!
    「ありがとう! だってさ。やろう、犬彦!」
     親しい人の声を聞いたためか、犬彦は尻尾を振りながら立ち上がった!
    「う、狭いなにそれ……」
     一本橋上ではこう、ちょっぴりむっちりしたシーズーのみーくんがじわじわと進んでいる。
     幅は、かなりギリだぞ!
    「みーくん、気を付け――」
     雅の心配虚しく落下ー! あ、だが何だその着地時のふわほわした可愛いポーズは!?
     全てを許せる魅力があるぞ!
    「最後はカッコ良く決めよう……」
     ルーと蓮は目にも留まらぬ速さで的まで到達。疲れているのは使役者の蓮の方かもしれない!
    「行くよ、ルーちゃん!」
     白い旋風は真正面から的を捉えた!
     それより若干遅れてスピッツの篝と聖人が今、的を撃滅しフィニッシュ!
    「よく頑張りましたね、篝! おあずけだったおもちゃもありますよ!」
     転がり喜ぶ篝を、そのお腹を撫でて労うぞ、聖人!

    「豚毛のブラシと椿オイルはハインの毛並みの手入れには欠かせないな」
     シェパードのハインと蓮ペア、黒く輝く毛と躍動的な体躯にあちこちから感嘆の声があがる!
    「手入れって手間かかんのね」
     そう呟くのは何故かおにぎりをもぐもぐしている白柴のむすびと舞子!
    「腹が減っていは戦はできぬってね! ちなみにうちはお風呂の後は自然乾燥よ」
     色々ワイルドすぎる!
     一方コースでは柴の花と誠士郎が華麗に駆けている!
    「その調子だ、花。花の魅力を咲き誇らせるのだ」
     声高に鳴いて返事をする花。そして、熱心な視線を感じたのかその方向にウィンクをもしてみせる!
    「あれが絆で結ばれた霊犬さんと使役者さん……」
     ウィンクされた優歌はとても興味深そうにしている!
    「うちのくーちゃんが一等賞なのですー!」
     何やら異様な砂埃が立っているが、あれは丸っこいクロウと藺生!
     あれは、背泳ぎでもしているというのか!? 背を地に付けずりずりと這っているっ!
     とても珍妙だが、手入れが台無しにならないか!?
     と、ゴールでは今2体の霊犬が同時に的を倒し、ゴール!
    「綾波ー♪」
     刃を咥え直しポーズを取るスピッツの綾波・天霧ペアと、
    「ひとつ!」
     黄に近い赤柴のひとつ・三義ペアだ!
    「えらいえらいっ! あとで斬魔包丁研ぎ直してあげるね♪」
    「完走できるって信じてたよ。ん、斬魔刀研いで欲しいのか。勿論、咥えながらな」
     これも霊犬ならではのコミュニケーションか!

    「この子はエアです。太陽の毛並みと夜明け空の瞳が特徴なんです」
     エアレーズングとリヒトは丁寧に頭を下げ自己紹介。
     エアは小さめな体躯に合わせ得物も短刀を用い、機動戦闘を得意としているようだ!
    「手入れはしていないしちょっと太ましいけれど、どんな霊犬よりも愛らしい自信があるわ」
     シュビドゥビ・クラウディオのペアはどこか独特!
    「シュビドゥビはワタシの分身。ただ傍にいる、それだけでいいの」
     それもまた真理か!
     白い毛並みに蒼い炎をなびかせるルミとミカは絶賛走行中!
    「いいよ、ルミ! あれ、どこ行……余裕だからってトンネルは往復しなくていいよ!?」
     ルミは実に得意気にトンネルを駆け回っている。クールな見た目を凌駕するお茶目っぷりだ!
    「夢中になったその後ふとご主人のことを思い出して上目遣いで見たりして……うーん、あたい的には最高だねー♪」
     審査員・ミカエラも太鼓判を押す可愛さ!
     それを横目に走るのはコーギーのコセイと悠花!
    「悠花ちゃんもコセイちゃんもがんばれー! 文太もまけないでーって応援してるよー♪」
     応援席から向日葵の大声援を受け、順調な走りに輪を掛けて、
    「ごふっ、コーギーの短足走りは反則……!」
     いや、悠花がメロメロでダウン寸前だー!
     コセイは意に介さないようにわふっと進んでいるから、まあいいのか?
     ゴール前、ミナカタと炎次郎は今まさに、的を居合い斬りで一刀両断!
     が、ミナカタはボロボロになっている……!
    「ミナカタは不器用やからなぁ、こけただけやで。ま、不器用なところもワイルドって事で!」
     コースでは常に傍で指示を出していた狛犬っぽい柴の鬼茂と冥。
     指揮は的確で、無駄のない動きで障害をハイスピードクリア!
     勇猛な顔付きの鬼茂は破顔し、冥に擦り寄っている!
    「走破と同時にこれか。全く、仕方ないな……」
     これには冥も思わずだっこ。抗えない何かがあるのだ!

     黒い狼の子供風の刃とディアナは、その毛並みを特にアピール!
    「……はい刃、おまわり、ふせ」
     賢さと同時に芸の1つ1つに俊敏さが見て取れるぞ。
    「……と、おけちゅ」
     そして最後にお尻を上げ、ふさふさ尻尾を魅せつける!
    「もふもふひゃっはー!! ――はっ、つい。うちのコナ見て下さい!」
     他の参加霊犬にうつつを抜かしそうになっていた花梨は足元にいたコナを抱き上げる!
     コナの小刀と花梨の剣には同じ珈琲カップの刻印が施されているぞ!
     その間コースを攻略しているのは柴の紅蓮と沙月!
    「紅蓮、練習通りにいきましょう」
     装備一式が赤で統一されており、走る姿はまさに紅蓮の炎のようだ!
    「わっふ~、ぽち、頑張ろうね~っ♪」
     柴のぽちと歩は元気いっぱいに駆け出し、するすると突破!
    「僕も一緒に走ろうかな!」
     ここで歩、なんと犬変身だ! 2人でじゃれあうように走る光景は和むものがある!
    「きしめん、スパッと決めてやれー!」
     耳元に杜若の花を飾ったきしめんと小次郎、慎重に狙いを付けて的を一撃粉砕!
    「ほら、審査員サンに笑顔笑顔!」
     きしめんスマイルも忘れないぞ! その可愛さは、
    「きしめんなんであんなかわいいの。ふこふこのふっさふっさなの。なんなの天使の生まれ変わりなの。ごめん天使だった」
     葉が失神するレベル、と言っておこう。 
    「いいぞ白、最後は斬魔刀で――白?」
     サモエドの白と兎斗、ここまで順調だが。
     なんと勢い余って的に体当たりしてしまったー!
     当の白は小首を傾げて尻尾をふりふり。瞳はらんらんと輝いている!
    「テンションを抑えきれなくなったか……。いや、よくやった」

    「ミッキーの良い所は何と言ってもこの眼力!」
     ゴールデンレトリバーのミッキーと來鯉が登場!
     強者のみが醸し出せる眼力とはこの事か! 赤い炎と相まって最強に見える!
     一方の天照とフゲ、真っ白な毛に尻尾の先だけ黒なのが特徴でマイペースそうな霊犬だ!
    「この子のごはんの食べっぷりは見てるだけで元気を貰えるんだよ♪」
     札がお揃いだったりと、仲の良さは抜群そうだぞ!
    「さ、て。がんばっちゃおうね、芝丸」
     エールに声を掛けられた芝丸は、「わふ」と、見た目からは想像できない程しっぶい鳴き声で応える!
     完璧なまでに磨かれた各装備を光らせ、次々と障害物を乗り越えていく!
    「行くよ、くろ丸」
     跳躍したくろ丸と冷静に指示するイチ。くろ丸は空中から六文銭を撃ち込み、着地と同時に一閃!
     そしてなんと倒した的を浄霊眼で回復しようとしている!
    「……この子が、僕の自慢の相棒」
     黒柴のちいさいおとーさんとさちこ、的まで辿り着いたがどうやら的に怯えている様子!
     そこでさちこ、一計を案じ。
    「きゃー! たすけてー、たべられるー!」
     いかにもダークネスに襲われていそうに振る舞う。が、依然と尻尾が下がり動けない!
    「ちいさいおとーさん! お前は強いんだ! 思いっきり、行け!」
    「きーちゃん!」
     客席のキィンの声で目が覚めたか、ついに的を撃破!
    「やったー! ちいさいおとーさんが一ばんすき!」
    「ははっ、妬けるなこの男前!」


    「なあ、実とクロ助ってまだ出てきてないよな?」
    「朝見た時は毛並みの艶も良かったし、絶好調だったから辞退したわけじゃないと思うけど」
     錠と葉月は親友とその相棒の活躍を見に来たのだが、どこにも見当たらない。
    「あ、見てあの子たち! もうかわいすぎる! 胸がくるしい!」
    「今ゴールした子ッスか? 秋田犬とビーグル犬みたいスねー」
     隣からGPを観戦している同じクラブの時生と真昼の声が耳に入る。
    「審査員からのインタビューがあるのね。えっ、あれは……」
    「へえ、あの審査員まるでクロ助みたいな……は?」
     時生と葉月は同時に疑問の声をあげた。
     審査員席に霊犬がいる事自体驚きだが、それ以上にその霊犬には見覚えがあった。
    「アイツクロ助じゃん!」
     クロ助は一度錠たちの方を向くと一吠えし、『職務』へと戻った。
     小柄な秋田犬のリキとビーグルの椿は、クロ助の「わんっ?」などのインタビューに鳴き声で返したりしている。
    「凄い走りだったな。ゴールまで一直線で」
    「ありがとうございます~。でも普段からイタズラが過ぎて。誰とでも仲良くなれる性格なのはいいんですけどね」
    「確かに、うちのリキや審査員の霊犬とももう仲がいいみたいだな」
     それぞれの使役者である朔耶と八重子も、お互いに談笑しながらその様子を微笑ましく見守っている。
     暫くして、クロ助と実が真昼たちの元に戻ってきた。
    「まさか桃野センパイとクロ助があんなトコにいるとは思わなかったッスよ!」
    「全くだな。らいもんがクロ助の所に行きたがって大変だったんだぞ……って、落ち着け」
     貫は自分の頭上にいるナノナノ・らいもんが必至に身を乗り出そうとするのを抑えながら苦笑する。
    「……つい、ノリで」
     貫とらいもんをそれぞれ一瞥すると、
    「乗る……?」
     クロ助の背中を差した瞬間、らいもんは一目散に飛び出した。
     ほんわかする光景に、仲間たちは笑顔になるのだった。

    「ナディアせんぱいはね、犬派? 猫派?」
     視界に広がる霊犬に目を輝かせながら尋ねる杏子に、
    「……羊派、かなぁ」
     ナディアは第3の答えを持ち出した。
    「ふぅん? ボルゾイって雰囲気だと思ったのねっ!」
    「へえ、それはつまり俺イケメンってことだよな?」
    「別にボルゾイ飼ったからってイケメンにはならないだろ」
     明莉はキメ顔のナディアを冷静にツッコんだ。
    「あかりんぶちょうは座敷猫とかっ、こたつ犬とかっ、なの!」
    「え」
    「さすがキョンさん、的確」
    「それどういう……いや別にいいけどね。俺は兎派だし、別にわんこをもふりたいとかそんなことは」
     だが待って欲しい。明莉の腕の中には。
    「もふもふなのは勿論、射干玉の瞳も最高だろう?」
    「最高!」
     友梨が使役する晴嵐がしっかりと収まっていた。
     柴犬型であり、特有の丸まった尻尾やふわふさな毛皮などもう最高だった。
    「まー、もふは正義だよな」
    「堪能してるならいいけどな」
     夜斗は嘆息すると、自分の相棒である咲沙へと目を向ける。
     白い毛並みの咲沙はぽつんとしていた同じく白い、白銀のウルフドッグの霊犬を見つけるや楽しそうに駆け寄っていった。
    「雪、遊びのお誘いのようですよ」
     使役者の氷室の方を見上げた雪は、「行っておいで」という言葉に、どこか嬉しそうに咲沙と遊びだした。
    「おっと、大丈夫だったのか?」
    「はい。わたしも雪も、他の方の霊犬に興味がありましたし」
    「それならよかったぜ! よかったらオレたちともふっていこうぜ!」
    「晴嵐さんも雪ゆきさんもおいでー。きびなごあげるよー」
    「一緒にもふもふするのっ!」

     白と黒のコーギー型霊犬が出店の前でお尻をふりふり、可愛く呼び込みをしていた。
     それぞれをブランシュとノワールといい、その可愛さに足を止める霊犬愛好家も多いようだ。
     文具もそんな1人。
    「W-1GPグッズを販売しております~♪」
    「グッズですか。糊、見ていく?」
     店主のイヴマリーはシベリアンハスキー型霊犬の糊の姿を認めると、明るい表情に更に花を咲かせて文具に話しかける。
    「可愛いコですね! もふもふさせて下さい~!」
    「勿論大歓迎ですっ! しっとりしていて撫で心地最高ですよ」
     糊をイヴマリーやブランシュたちと遊ばせている間、文具は店の商品に目をやった。
    「いらっしゃい」
     もう1人の店主、エリノアが静かに歓迎する。
     首飾りやストラップ、軽食なども並んでいるようだ。
    「これ、全部手作りなんですか?」
     ひょっこりと顔を出した誘薙の言葉にその通りだと頷くエリノア。
    「すごいですね……五樹、さっきからずっと不機嫌そうだけど……えっ、もしかしてGPに参加したかった?」
     誘薙の霊犬・五樹は肯定するように駈け出してしまった。
    「あっ! え、と、失礼します!」
     誘薙と入れ替わりに貴明と和泉が話をしながら店に入ってきた。
    「和泉は出場しないのか?」
    「そりゃうちのハルは負けない自信はあっけど、今日はのんびりしたいと思ってなー。お、ドリンクもあるのか」
    「まあ、それも良いかもな。少し休んでいくか」
     和泉たちはハルをもふもふしながら、時に既に集まっていた霊犬や競技の様子を見てのんびりと過ごす事にした。
     休憩所の先客である雪緒と清十郎、それから霊犬の八風と鯖味噌は会場の雰囲気を楽しんでいた。
    「モフモフが沢山……!」
    「これだけ集まると壮観だなぁ」
     隣り合って眺めているだけでも楽しく心癒されるが、
    「そうだ、次はエントリーしてみようぜ。雪緒も八風と一緒に、な!」
    「ふふ、清十郎と鯖味噌さんには負けないのですよー」
     新たな誓いを胸に、2人は笑いあった。


     黒柴のシグ・ザウエル。両者は仲の良い兄弟といってもいいだろう!
     シグの装備はやや大きめだが、それがまた可愛さを演出している!
    「お兄さんやお姉さんばっかだ。でも、シグが一番可愛くてかっこいー!」
     その叫びにシグもキリリとポーズ!
    「やはり和犬、とりわけ柴犬は素敵です!」
     うむ! 赤柴のまっちゃと桃香、一段と気合が入っている様子!
     抹茶を彷彿とさせる炎につやつやの毛、白い足先もキュート!
     耳には桃香お手製、お揃いの花飾りがいい味!
    「よーし、つっきー行っくよー! 優勝目指して、一直線!」
     ポメラニアンのつっきー、鴇羽が全力で走り出す!
     鴇羽は「イケるイケる!」と応援しながら、つっきーは応えるように脚を動かす。胸が暖かくなってくるぞ!
     ピース、波琉那のペアも負けてはいない。的確な身のこなしは相当な集中力が窺える!
    「いやー、『イイところ見せれば他の霊犬ちゃん達にモテるよ』とか吹き込んだのは秘密ね?」
     何というか、現金だった!
    「もういいかな、おやすみなさ……あぅ」
     ゴール直前、いきなり全てを放棄しようとした亜綾を烈光がハリセンで叩き起こす!
    「仕方ないですねぇ」
     眠そうな亜綾は無造作に烈光を掴むと、そのまま的に投げつけた!?
    「必殺、烈光さんミサイルですぅっ。互いに信頼しているからこそ成せる技ですねぇ」
     烈光が勘弁して欲しいといった顔をしている気が……。
     星空をイメージした武装で軽やかに舞台を舞うのはユエとリノ。
    「あずまくんとナツマだ! おーい!」
    「リノさんにユエ! 最後までがんばってくださ――ってナツマ、そんなに身を乗り出したら危ないって!」
    「あずまくんたちも楽しそうやんね!」
     途中、春と霊犬のナツマと軽快に挨拶を交わしながら的へと突き進む!
    「皆が楽しんでくれる方が私もユエも嬉しいから!」
     ユエはくるりと一回転。しばしの天体ショーを演じ、完走だ!

     パグの庵胡と瞳が、尻尾と手を振りながら登場!
     パグ特有のユニークな顔とむにゅもふな首元のたるみもナイス。
    「グランプリといえど戦い。牛乳を飲んで骨を作り、強くなるんだ」
     骨平の牛乳フリークな声援を受けつつ、
    「皆と楽しい時間を満喫したいから……庵胡、お願いね!」
     瞳は大きく息を吸い込み、鼻歌を刻み出した! それに合わせて庵胡も吠え、踊りだす!
    「ふたりの大好きって思う気持ち、伝わってくる……。矢宵ちゃん、あたしたちも!」
    「やっちゃう? よーし、サウンドソルジャーの血が騒ぐぜ! ほら、骨平くんも!」
    「俺もか? 今、牛乳パックしか持ってないぞ」
    「音が鳴れば大丈夫!」
     和奏と矢宵、それから骨平はそれぞれ自分の声や楽器、即席の楽器をも持ち出して庵胡や瞳と音を併せ出した。これはセッションだ!
     他にも多くの観客をも巻き込み、会場はちょっとしたライブ会場と化した!
     ライブも一段落した頃。
     セディと梗香がコースに突入!
    「さあセディ、今日は思いっきり走っておいで」
     ゴーサインが出るや、脅威の瞬発力で飛び出した! よく鍛えられた脚力が成せる技か!
     一方ではサモエドのマナボシとさくらが一緒に走って……。
    「あっ!?」
     ああっと! さくら、転倒してしまった!
     やや先行していたマナボシは一瞬の躊躇いもなく引き返すと負傷したさくらを舐めて心配そうに見上げている!
    「ありがと、あとでばんそーこー貼るからね♪」
     さくらは少し擦りむいただけのようだ。しかしこれは見事な絆だ!
     ゴール前には柴のガンマが到達!
     まるで忍のような俊敏さと柔軟さで六文銭を投射、流れるような動作で最後の一太刀!
    「良く出来たんだよ、ガンマちゃん。いつも通りできたんだよ」
     祭莉に迎えられ、頭をなでられるガンマはどこか誇らしげだ!
    「鉄、突っ走ってジャンプだ! お前が一番だぜ!」
     駆けるポメラニアンの鉄、駆ける一!
     回転跳躍、そのまま的を完膚なきまでに粉砕したー!
     遠吠えを残し、最初から最後までワイルドを貫き通した!

    「どうよこの青い毛並み! うちのほむらーんこそ最強よ!」
     ほむらーんと瑠音、堂々登場!
     主人に似たのかほむらーんも巨大武器が好きらしく、装備する刀もまたゴツい!
    「ほむらーん、すごく可愛いよー」
     客席からは翠葉が声援を送る!
    「でも瑠音の方がもっと……」
    「ん。翠葉、何か言ったか?」
    「あ、いや。がんばれー」
    「おお! 実技審査も華麗にキメてくれるぜ!」
     ますらと都乃、
    「何と言ってもこのくびれのない足首。どこだろうが逞しく駆けていくに違いないこの足首こそが最萌えポイント。そしてこの真白でもっふもふの毛並。共に様々な秘湯を巡り――」
     た、淡々としかし熱く語る!
     エスキーのギンとレインはお揃いのアクセが自慢!
    「人懐っこくて外で遊ぶのが大好きなんだ。ギンの友達になってくれると嬉しい」
     ふわふわな毛は手入れを怠っていない証だ!
     スキッパーキのシェルヴァはフローレンスの指示がなくても上手く潜り抜け、走る!
    「賢いこの子なら一度の説明で十分でしょう」
     フローレンスのギターが細かい指令となり、より精密にシェルヴァが動く!
    「いつも通りにねっ。ゴーッ!」
     静香の掛け声にじゃれていたフレーズは元気な鳴き声をひとつ、飛び出す!
    「わたしと服の分け合いっこするんですよっ」
     走りなびく衣装がピンクの毛と相まって何とも可愛らしいぞ!
    「確りと信頼関係が出来ていないと行動に迷いがでてくるのです。しかし、様々な工夫や日頃の生活でそれは問題なくクリアしているようですね」
     厳しい目の審査員・愛美も納得の絆を見た!
    「茶々、ターゲットロックオン!」
     柴の茶々丸は立派な刀を咥え、射撃から斬撃へと連なる攻撃で的を殲滅!
    「よく頑張ったね?帰りに大好きなおはぎ買ってあげるね?」
     蓮花の御褒美宣言に茶々丸、尻尾が超振動している!

    「まず皆様にご紹介いたしましょう。私の姉的存在、『スェーミ』です」
     黒と白のシベリアンハスキー・スェーミとユーリー、赤マントを風に流し登場はいいが……赤絨毯、赤絨毯を歩いている!
     その優雅な歩行術は当然の嗜みか!
    「活目せよ。我が輝銀の獣の白銀の武具と毛並み、そして丸い瞳が合わされば最早敵はいないだろう!」
     レイディアントシルバーウルフ、と美亜は呼ぶ。
     何という厨ニ力か……!
    「いやはや、利発そうな子はいいですねぇ。盾とも剣ともなる意思疎通の完全さ、それもあるようで私は満足ですよ……」
     審査員・流希は静かに頷いている!
    「ティン君を自慢しに来ました!」
     ボーダーコリーのティンと夕月、武装の刃が黒色なのがナイス!
     応援席からも登の大きな声援が響く!
    「夕月姉ちゃんもティン君もガンバレ! ってあれ、ミック? アッシュ、出場するんじゃなかったの?」
    「そう思ってたけど、ミックがじゃれついちゃってなー。遊ぶことにしたのだっ」
    「遊ぶの? なら待っててー!」
     一方ではクロシバと冥が能力自慢中!
    「実は松茸を探し当てる力を持っていてな……ん、クロシバどこへ行く?」
     客席に知った顔、シュウを見つけたクロシバは尻尾を振りながらダッシュだ!
    「やあクロシバ。ん、やっぱ可愛いな」
     撫でられ、クロシバは嬉しそうに目を細めているぞ。
    「面と向かって勝てると思ってるとは言えないけど……優勝攫ってこいよ」
    「シュウだったか。見ていろ、今からめろきゅんにして見せよう」
     コース内ではハスキーのお藤と式夜が活躍している!
    「女の子で凛々しくて、面倒見良くて愛嬌もあって俺よりモテモテで……あ、あれ。目からしょっぱい汁が……」
     皆、式夜も応援しよう!
     紀州犬のかのこと穂純が今、的に到達!
    「公園や河川敷で特訓してきた成果を見せるんだよ! かのこ!」
     指を突き付けた先を目掛け、逆袈裟の形で一刀両断!
     その場で半回転し、かのこに振り返りおすわりで小首を傾げる瀟洒なかのこに拍手を!

     イングリッシュブルドッグの春宣、走り転がりながら登場!
    「見た目はチャーミングだけど、実は熱血なんだ!」
     そう語りながら如一は春宣の顎をたぷたぷする。あれは触りたい!
     衝撃度が大きいといえばこのペアだろうか。ノブナガ元帥と姫!
    「元帥、少しは運動しましょうね……」
     その太さ、貫禄はまさに元帥。だが、動く気配が……。まあ、これはこれで!
    「くー、応援してくれてる殊亜くんの為にも全力全開だよ!」
     ハスキーの久遠、紫がトンネルに差し掛かる!
     もこもこっとしながらトンネルを抜け、ない! ぴょっと顔だけを覗かせ、耳を動かす!
    「あれ見て! くーの外を覗く仕草が一番じゃない!?」
     審査員席の殊亜、立ち上がって拳を握り、熱く語る! が、審査はどうした!?
    「勿論する! でもくーが一番じゃない!?」
    「もう、殊亜くんてば……」
     そんな声を聞いてか聞かずか、柴の小春と薫が堂々コースイン!
    「うちの小春が一番可愛いです。ええ、可愛いです」
     薫の指示に時に可愛く、時に従順に動く小春は確かにぐっとくる!
    「2週間くらいかな」
     白柴のステラを見守る透夜、その眼差しはどこまでも優しい!
    「君との出逢いが僕は何よりの……えっ」
     ステラ、荒ぶって的をぺしぺししているー!
     それもまた可愛いか!
     ボーダーコリーのましろと昴、静かな昴と反対にとても行動的なましろ!
    「普段は大人しいけど、本領を発揮できる場ではあんなに凄いんだな……」
     応援する陽丞もうっとりとしているぞ!
     ましろはトップスピードで曲剣を突き立て、振り抜く!
    「かっこよさアピールはこれで完璧だな」

     黒柴の塩豆と千穂が、
    「いよっ、相談役、クール! そのクールさ、イエスだよ!」
    「キャー塩千穂さーん! こっち見なくても見てますよぉ、ヒヒ!」
     瑛多や円蔵の大声援を受けながら登場!
     『クールビューティ☆塩豆相談役』と書かれた段幕やタオルが乱舞している!
    「先ずは御覧下さい! 凛としつつも円な瞳に麻呂眉! すっっごく稀に笑う所が……あ、ほら今!」
     貴重なシーンだ! が、とても微妙な変化だ!
     続く響と奏。勇敢さをアピールしたいとの事!
    「俺に投げつけられたマグロケーキを代わりに食べてくれた事があってな……うぅ、思い出したら涙が。響……!」
     何だその胡乱な食べ物は!?
     白いシェパードのゼファー・優夜ペア。
    「僕の指示がなくても障害くらい突破できると思うよ。逆にヘタな指示出すとジト目を返してくるし……」
     今もほら、きっと猫着ぐるみを着ている事を問い詰めたい目をしているぞ!
    「そこをビュワって曲がって一直線はバビューンで……はいそこでシュバーンです!」
     擬音な指示だが、霊犬たまはなこたの言いたい事が分かるのだろう。きっとこれが絆の力、かな?
    「小次郎! GO!」
     黒柴の小次郎、碧凛の一声で的を細切れに!
    「やったね! 小次郎!」
     得物を口の中で咥え直し小次郎、勝利の一鳴き!
    「目指すは優勝です。蒼葉!」
     優雅さと勇敢さを兼ね揃えた蒼葉と陽菜。空中から躍りかかり、的撃破!
     蒼緑のりボンを揺らし、誇らしげにゴールだ!


     いよいよ審査結果の発表だっ!
     優勝の他に急遽次点にあたる賞も用意したぞ!
    「アクシデントとかで一瞬慌てて主を振り返る、そういう瞬間いいよなー、うん」
     審査員・周からは咄嗟のリカバリーで絆を見た、という事で転んだ主人を助けに戻ったマナボシとシグに次点を!
     さらに、
    「霊犬は普通の犬じゃないからさ。俺は霊犬たらしめる部分を重点的に見た。護符や武具に拘った霊犬は多かったが、今回はしっぺを表彰したいと思う!」
     審査員・雄一が感心した、刀の状態によって砥石を変えたり戦闘面での拘りが特に強く現れていたしっぺも次点となった!
     ではいよいよ、栄えある第1回W-1GPのトップ霊犬とトップ霊犬ブリーダーを審査員・落葉から紹介しよう!
    「どいつもこいつも愛いやつじゃ! 我だけでは決められんかったのぅ。他にも体つきや動きも悪くなく、ボケ最速ツッコミもできる――」
     それは!
    「イチが使役するくろ丸、じゃ! このわんこ、倒した的にただ唯一浄霊眼を使ったのじゃ。ナンバーワンよりオンリーワンなのじゃ……霊犬だけにな!」
     落葉のドヤ顔はさておき、トップ霊犬ブリーダーの称号は青和・イチに決定だー!
     この場にいる全ての霊犬、霊犬を愛する者に幸あれっ!
     これが俺たちの青春だー!!

    作者:黒柴好人 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月26日
    難度:簡単
    参加:130人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 3/素敵だった 16/キャラが大事にされていた 8
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