求道者の会す場所

    作者:魂蛙

    ●業大老
     ガイオウガ、そしてスサノオ大神……。
     大地を喰らう幻獣種共が「竜種」に目覚める日も、そう遠くはない……。
     サイキックエナジーの隆起がゴッドモンスターさえも呼び起こしたこの状況で、未だ十分に動けぬとはいえ、日本沿海を我が「間合い」に収めることができたのは、まさに僥倖。

     小賢しき雑魚共の縄張り争いも、王を僭称する簒奪者共の暗躍にも興味は無い。
     我が望むは、我と死合うに値する強者のみ!
     「武神大戦殲術陣」発動!
     眠れる強者よ現れよ。武神の蒼き頂こそが、これより汝の宿命となるのだ!

    ●武神大戦天覧儀
    「業大老の一派が、武闘会を開くんだ。その名も武神大戦天覧儀。これをこのまま放置しておくと、アンブレイカブルがあの柴崎・明をも上回る力を手に入れてしまう可能性もあるんだよ。そうなる前に、みんなに武神大戦天覧儀に介入して欲しいんだ」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は真剣な表情のまま、灼滅者達に説明を続ける。
    「武神大戦天覧儀の試合会場と開始時間は、日本各地の海が見える場所で、かつ周囲に一般人がいない時間。今回の予知では、長崎県内にある小さな砂浜が会場になるんだ。みんなが砂浜に着く頃には、アンブレイカブルの天翁・信(てんおう・のぶ)が現れているから、そのまま戦闘を仕掛けてもらうことになるよ」
     そこまで説明したまりんは1つ息をつき、そして表情を強ばらせる。
    「武神大戦天覧儀の勝者には、大きな力を与えられる。アンブレイカブルならただ強くなるだけなんだけど、みんなの場合……闇堕ちすることになるんだよ」
     灼滅者全員が闇堕ちするわけではなく、信に止めを刺した者が闇堕ちする。
     この闇堕ちに抗う術はない。信を倒す為には、闇堕ちを覚悟しなければならない、ということだ。
    「ただ、余力を残してアンブレイカブルを倒せれば、その場で闇堕ちした人を救出する事もできると思うんだ。希望があるなら、諦めちゃダメだよね!」
     闇堕ちした灼滅者を救うためには、一度戦闘して倒さなくてはならない。つまり、闇堕ちした仲間に連戦を挑むだけの余力を残しつつ、信に勝利する必要がある。

    「みんなが戦うことになる天翁・信は若い赤毛の男の人の姿をした、ちょっと変わった戦闘スタイルのアンブレイカブルで、業大老の門弟ではないみたいだよ。力と力の真っ向勝負にはこだわらず、勝った者が強いっていう思想の持ち主で、搦手も使ってくるから充分に気をつけてね」
     アンブレイカブルには勝負の過程を楽しむ者が多いが、信は勝利という結果を重視するタイプ、と言えるだろう。
    「戦闘時のポジションはジャマーで、使用するのはそれぞれストリートファイターの抗雷撃、殺人鬼の鏖殺領域、バスターライフルのバスタービーム、影業の斬影刃、咎人の大鎌の虚空ギロチンに似た性能を持つ5種類のサイキックだよ」
     信は灼滅者のバトルオーラと同様の武器の使い手だが、オーラを自在に操り多彩な攻撃手段に用いて戦う。また、口の方もそれなりに達者なようだ。

    「武神大戦天覧儀……強制的に闇堕ちさせるなんて、恐ろしい大会だけど、みんなならアンブレイカブルに勝って、闇堕ちした仲間も救えるって信じてるよ!」
     まりんは力を込めたエールで、灼滅者達を送り出す。
    「みんなが揃って無事に帰ってくるのを、待ってるからね!」


    参加者
    相良・太一(再戦の誓い・d01936)
    フィズィ・デュール(麺道四段・d02661)
    九条・都香(凪の騎士・d02695)
    明鏡・止水(高校生シャドウハンター・d07017)
    ローゼマリー・ランケ(ヴァイスティガー・d15114)
    天城・翡桜(碧色奇術・d15645)
    万道・透(カウンターバランス・d18760)
    大塚・左斗彌(大鎌の穢れし生贄・d20942)

    ■リプレイ

    ●嘯く拳
    「へえ。てっきり、ごっついオッサンが来るもんだとばかり思ってたんだが」
     海を眺めるように立つ天翁・信は、灼滅者達を振り返り意外そうに眉を跳ねさせた。
    「僕達じゃ物足りないって?」
     大塚・左斗彌(大鎌の穢れし生贄・d20942)の挑戦的な視線を、信は大袈裟に肩をすくめて受け流した。
    「いんや、大歓迎だ。殴り合うなら、筋肉過多の岩石達磨みてーなオッサンより、あんたらのが断然爽やかで――」
     パァン! という乾いた音が信の言葉を遮り、反射的に首を傾けた信の赤髪を数本、空気の刃が千切って持っていった。
     頬に僅かに血を滲ませながら、しかし飄逸とした笑みを崩さない信に、万道・透(カウンターバランス・d18760)は刃を撃ち出した左拳をそのまま突きつけ構える。
    「多勢で囲んで、その上不意打ちかい?」
    「勝たなきゃ意味ないからな」
    「そりゃそうだ」
     同意した信が半身に構えふらりと左拳を持ち上げると、態度とは対照的な重厚なオーラが表出する。対する灼滅者達もスレイヤーカードを解放し、注意深く信の出方を窺う。
    「来ないなら、こっちから行っちゃうぜ!」
     信が軽くステップを踏んで前に出ると、同時にローゼマリー・ランケ(ヴァイスティガー・d15114)が飛び出し迎え撃つ。が、信はローゼマリーの間合いの一歩手前で砂を巻き上げながら急制動をかけ、バックステップで下がった。
     追いつけない速さではない。ローゼマリーが一気に間合いを詰めようと踏み込んだ瞬間、ビハインドのベルトーシカがローゼマリーを突き飛ばした。
    「ベルトーシカ!?」
     砂の上を転がり振り返ったローゼマリーが見たのは、今しがた己が踏み抜いた地面を破り飛び出したオーラ光の刃が、ベルトーシカを突き上げる光景だった。
    「地雷……!?」
    「さぁて、次に踏んじまうのは一体誰かね?」
     信の言葉に足を縛られたかのように灼滅者達の出足が鈍る中、九条・都香(凪の騎士・d02695)がハーレイの愛称で呼ぶライドキャリバーのハートレスレッドに跨り、アクセルを全開に飛び出した。
    「地雷があるなら――」
     都香は機銃を連射しながら突進するハーレイのシートからカタパルトよろしく跳躍し、手の甲にWOKシールドを展開しつつ信に飛び掛る。
    「――踏まなければいい話よ!」
    「仰る通りで!」
     旋転から逆水平に振り抜く都香のシールドを信がガードで受けると、都香は着地から身を沈め足払いを仕掛ける。軸足を蹴り払われながらも跳んだ信は倒立で着地し、鋭く振り下ろすような蹴りを都香の肩に叩き込んだ。
     両手で地を突き後退する信を、フィズィ・デュール(麺道四段・d02661)が追撃する。
     突っ込んでくるフィズィを引き付けた信が派手に砂を蹴り上げ後ろへ跳ぶと、同時にフィズィは急制動を掛けて横へ跳んだ。
    「見切ったですよ!」
     地表を破り突き上げるオーラの刃。それはフィズィを足元ではなく、信が跳ぶ直前まで立っていた場所で炸裂した。
    「踏んでもいない地雷が、爆発したようですが?」
    「もうバレてやんの。イヤだね疑り深くて」
     皮肉たっぷりなフィズィの言葉に、信が苦笑を浮かべる。
     後退際に足元に打ち込んだオーラの刃が、一瞬間を置いて急上昇する。やたらと砂を撒き散らして下がっていたのは目くらましだ。種を明かせば、単純な時間差攻撃である。
     そうと分かればいくらでも対処は可能だ。相良・太一(再戦の誓い・d01936)と明鏡・止水(高校生シャドウハンター・d07017)、天城・翡桜(碧色奇術・d15645)とビハインドの唯織が散開して多方向から信を攻め立てる。
     唯織が霊障波で信を牽制し、左右から踏み込み交差する翡桜のクルセイドソードと止水のサイキックソードが、信が纏うオーラを薙ぎ払い霧散させる。怯んだ信の懐に太一が飛び込み、炎を宿した右拳を振り抜いた。
     後退させられながら踏み堪える信を、太一の影業が追いかける。太一は影業を踏み叩き着火、信の背後にまで回り込んだ影業を炎が走った。
    「俺の炎はちと熱いだろ?」
     右、左、後方。視線を巡らせた信を炎の壁で完全に包囲し、太一は挑戦的に問いかけた。
    「さあどうする?」


    ●八方手を尽くしてでも
    「こうするってのはどうだ?」
     強く口の端を吊り上げた信は、自ら炎の中に身を投げ出し太一を吃驚させた。
     信は身を焼かれるのにも構わず炎に紛れながら太一の背後に回り込み、炎から飛び出すと同時に練り上げたオーラの光弾を撃ち出す。
     太一は振り返りガードを上げたが、衝撃が来ない。訝しむ太一がガードの隙間から見たのは、眼前で停止して浮かぶ光弾だった。
     タイミングをずらして太一の思考の虚を突いた光弾が、再加速して太一を弾き飛ばす。
     フォローに入った左斗彌とビハインドのかいんが、信を挟撃する。
     左斗彌がバベルブレイカーのロケットに点火し飛び出すと、信はかいんの霊障波を右に左にステップしていなしつつオーラの槍を投げ飛ばす。左斗彌は深く身を沈めて槍を潜り、一気に信に肉迫した。
    「そのやり口はお見通しだよ!」
     そこで踏み込む脚に力を込めて急制動をかけた左斗彌は反転してバベルブレイカーを振り抜き、Uターンして再度背後から飛んできていたオーラの槍を粉砕した。
    「お見事だが、結局背中ががら空きだぜ!」
     眼前で背中を向けた左斗彌に殴りかかる信を、横から突進してきたローゼマリーがシールドバッシュで弾き飛ばした。
    「私達は一人じゃナイ!」
    「キミみたいに性格悪いと、背中を預けられる仲間なんていないだろうね?」
    「背中を守りたきゃ、甲羅でも背負ってみるさ!」
     2人の言葉に信は軽口を返しつつ跳ね起き、その場で構える。
    「とは言え、袋叩きは勘弁願いたいんでね」
     纏うオーラを膨張させた信は、それを無数の刃へと練り上げ周囲に展開する。視界を埋め尽くさんばかりの刃の群れは、灼滅者達を戦慄させるに充分であった。
    「パワープレイでゴリ押す!」
     信が鋭く気を吐くと、同時に刃が灼滅者達に殺到する。到底避け切れる数ではなく、ガードを固めて凌ぐしかない。
     盾として前面に出たベルトーシカとかいんを容赦なく貫いた刃の嵐が、灼滅者達を飲み込み荒れ狂った。
     畳みかけようと踏み出す信を押し止めたのは、透の清めの風だった。仲間を癒す風を吹かせた透が、果敢に打って出る。
    「あんたは強くなって何をしたいんだ?」
    「石を拾ったら、ぶん投げるのが道理ってもんだろ?」
     当然のように語る信の言葉に透が感じたのは、信との間に横たわるおぞましいまでに深い溝だった。
    「そんな道理は無理を通してでも引っ込ませる!」
     それが、拾った石を投げる行為であろうとも。信に石を投げさせるわけにはいかない。
     透は重心を落としながら踏み込み、逆水平の平手打ちで左の掌に練り上げたオーラを信の胸に押し込み動きを止め、放った右ストレートでオーラごと信をブチ抜いた!
     大きく吹っ飛ぶ信を、止水が追撃する。
     闇をグローブのように纏った拳を握り固めた止水は、跳躍から信の上を取ってハンマースレッジで叩き落とし、受身を取った信の眼前に着地、アッパーを突き上げ強引に立ち上がらせる。フォロースルーから溜めを作って繰り出す体重を乗せきった止水の右拳は、信が反射的に上げた緩いガードを叩き割って直撃した!
     信の受身を許さずハーレイで撥ね飛ばし、更に都香はハーレイから飛び降り信を追いかける。
     空中で姿勢を制御し着地した信と都香が対峙する。信が爪先を砂中に捩じ込んだ瞬間、都香は震脚で砂地を踏み抜いていた。
    「甘いッ!」
    「げ?!」
     都香の気迫が発散する風圧が、信が蹴り上げる砂を押し返す。結果、信は巻き上げた砂を自分が頭から被る羽目になった。
     都香は隙を逃さず踏み込み左右の直突き連打から肘打ち、上段廻し蹴りと畳み掛ける。
    「悪いけど、そういう戦い方する相手には慣れているのよ。うちの弟も似たタイプなのよね」
    「そいつは、素敵な弟さんをお持ちのようで」
     最後の蹴りだけは何とかガードで受けた信だったが、返すのは軽口が精一杯だ。
     オーラを分厚く纏い直して呼吸を整えようとする信に、翡桜がクルセイドソードで斬りかかる。
     信の左ハイキックを翡桜は剣の腹で受け、そのまま踏み出しながら剣を突き出す。それをすぇーバックでいなした信が体勢を戻す勢いを利用して左のストレートを返すと、翡桜はサイドステップで躱しそのまま旋転しつつ回り込み、遠心力に乗せて逆水平に剣を振り抜いた。
     信の体が大きくよろめくと、翡桜と入れ代わりフィズィが一気に前に出る。
     翡桜とフィズィがすれ違い様に目を合わせて、頷く。ほんの一瞬のそれが、この後に起きるであろう出来事に対する覚悟の誓い立てであった。
    「あの手この手とよくも思いついたものですねー」
    「不意討ち闇討ち騙し討ち。使えるもんは何だって使う主義なんでね!」
     ガトリングガンを乱射しながら間合いを詰めるフィズィを信が肘打ちで迎え撃つと、フィズィはガードを上げて受け止める。
    「勝った奴が強いってその考え……嫌いじゃねーですよ」
    「んじゃ、俺の事も好きになってくれるかい?」
     信の言葉にフィズィは一瞬呆けるも、鼻で笑って一蹴しつつガトリングガンの銃口を信の土手っ腹に押し当て――、
    「それはお断りですね」
     ――トリガーを引いた!

    ●勝者の責務
     赤熱した弾丸の奔流をまともに浴びた信は力なく数歩後退し、肩で呼吸する灼滅者達を見返す。
    「押し切れると思ったんだが……ま、仕方ねーか」
     言葉とは裏腹に最期までファイティングポーズを解くことはなく、信は炎に包まれやがて燃え尽き消えていった。
     灼滅者達は互いに顔を見合わせて頷き、フィズィを取り囲む。
    「フィズィさん?」
    「そんナニ慌てなくトモ、私は逃げタリしませんヨ?」
     翡桜の問いかけに答えた彼女は、既に灼滅者達の知るフィズィではなかった。
     腐臭混じりのオーラを体から噴出させながら、フィズィはゆっくりと灼滅者達を振り返る。
    「じゃあ、シにまショウか……!」
     弾けるように飛び出したフィズィが、ローゼマリーに襲い掛かる。フィズィ一瞬で間合いを詰めフック気味の一撃でガードを弾き飛ばし、ローゼマリーが姿勢を崩した所に握り固めてヘドロのようなオーラを圧縮した拳を叩きこんだ。
     吹っ飛ばされたローゼマリーに透が駆け寄り、祭霊光で治療を施す。
    「仲間の闇堕ちなんて、見たくなかったけど……」
    「私達が救い出せばいいのデス。そのタメに、戦っているのデショウ?」
     力強く笑んでみせるローゼマリーに、透が頷いた。
    「コノ力……最高の気分デすね!」
    「闇堕ちして得る力なんて紛い物だろ。元に戻れ!」
     拳を握り開きして獣性を帯びた笑みを浮かべたフィズィは、飛び掛かる透の拳を受け捌き肘打を返した。
     後退させられる透に代わり、間を置かず左斗彌が影業を伸ばし仕掛ける。蛇の群れのように殺到した影業が、フィズィに巻き付き締め上げた。
    「約束だからね。首根っこを掴んででも、連れ帰らせてもらうよ!」
    「そんナ約束、覚えがナイですね!」
     オーラを膨張させて影業を弾き飛ばしたフィズィに、太一が挑みかかる。同時に繰り出す太一とフィズィの拳がぶつかり合い、オーラが互いを喰い合うようにせめぎ合う。
    「フィズィ、聞こえてるよな!? 自分の意思でも何でもなく、勝手に堕とされるのは腹立つよな! ふざけんなって思うだろ!? なら抗え! 戦え! お前も灼滅者だろ!」
     太一の拳を包む炎が激しく燃え上がり、フィズィの腕を肩口まで飲み込む。フィズィが怯むように下がると、深く踏み込み間合いを詰めた太一のアッパーが、火柱を衝き上げフィズィをぶっ飛ばした!

    ●誰一人欠けることなく
     止水の鋼糸が右から左から鋭く伸び、打ち上げられたフィズィを包囲する。
    「捕まえた!」
     止水が鋼糸を繰り寄せてフィズィに巻き付かせると、そのまま振り下ろし受け身を許さず地面に叩き付けた。
     派手に砂を巻き上げ地面を弾んだフィズィは受け身を取り、すぐさま構えを取り直して迫る都香を迎え撃つ。
    「フィズィさん! ダークネスに負けては駄目! 打ち勝つのよ!」
     フィズィは背中からぶちかましを仕掛けて都香の体勢を崩し、そのまま旋転から裏拳に繋げる。震脚の踏み込みから放つ右の直突きが、都香の額を直撃した。
     瞬間、フィズィの笑みが歪む。
    「あなたが諦めない限り――」
     都香の相打ちのボディフックが、フィズィの脇腹に突き刺さっていた。
    「――私達も諦めないっ!」
     フィズィの動きを寸断した都香はスタンスを踏み替え重心を落とし、左右の連打を叩き込んだ!
     吹っ飛び地面にかじりついて制動をかけたフィズィに、跳躍した翡桜が大上段からクルセイドソード振り下ろす。が、その刃がフィズィに届くより早く、バク転したフィズィのサマーソルトキックが翡桜を弾き飛ばした。
    「もう元ニは戻ラナイ! 諦めてシぬがいいのデす!」
     フィズィが追撃せんとクラウチングスタートで飛び出すと、割り込んだローゼマリーがフィズィの飛び蹴りを受け止めた。
    「誰も、殺させはシナイ!」
     ローゼマリーは大きく後退しながらも、砂塵を巻き上げ踏み止まる。
    「そしてアナタも……失うワケにはいかナイ!」
    「一緒に帰りましょう、フィズィさん!」
     ローゼマリーと翡桜が並び立ち、同時に飛び出した。
     一気に踏み込んだ翡桜がフィズィのボディを叩いて体をくの字に折らせ、
     跳躍したローゼマリーが前宙から踵落としを後頭部に叩き付け、
     翡桜が左のフックから右のアッパーをカチ上げ、
     ローゼマリーがバク宙の着地から即座に飛び込み足刀をねじ込み、
     2人が背中を合わせ鏡写しの構えで弓を引くように雷光閃く拳を引き込み――、
    『ハァアアアアアッ!!』
     ――渾身の拳打を叩き込んだ!!
     吹き荒れる衝撃が、フィズィの禍々しいオーラを消し飛ばす。フィズィは力なく膝を折り、崩れるように倒れた。
     意識を失ったフィズィを仲間達が介抱する間、ローゼマリーと翡桜は周辺の調査を行っていた。
    「これといって怪しい物はないみたいデスネ」
    「フィズィさんが闇堕ちした時の様子も、異常は見当たりませんでしたし……」
     翡桜は頷きながら、気遣わしげもフィズィを見やる。
     本人の意思に反して闇堕ちする、という事象は過去に幾つか例があるが、それらと比べても大きな差異はないように感じた。
    「フィズィが気が付いたぞ!」
     太一が声を上げ、2人がフィズィに駆け寄る。
    「体に異常はない?」
     フィズィは左斗彌の問いに頷き、安堵の笑みを浮かべていた。
    「何とかなった……みたいですね」
     透はフィズィが体を起こすのを手伝い、ふと思い出したように拳を差し出した。
    「それじゃ、帰ろうか。……皆一緒に」
     フィズィは透の意図を察して差し出された拳と自分の拳を打ち合わせ、そして笑顔で頷いた。
    「はいなー!」

    作者:魂蛙 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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