夕暮れの埠頭にて待つ

    作者:温水ミチ

     ガイオウガ、そしてスサノオ大神……。
     大地を喰らう幻獣種共が「竜種」に目覚める日も、そう遠くはない……。
     サイキックエナジーの隆起がゴッドモンスターさえも呼び起こしたこの状況で、未だ十分に動けぬとはいえ、日本沿海を我が「間合い」に収めることができたのは、まさに僥倖。

     小賢しき雑魚共の縄張り争いも、王を僭称する簒奪者共の暗躍にも興味は無い。
     我が望むは、我と死合うに値する強者のみ!
     「武神大戦殲術陣」発動!
     眠れる強者よ現れよ。武神の蒼き頂こそが、これより汝の宿命となるのだ!

    「さあて、お耳を拝借。ったく、次から次へと忙しないねぇ。何、今度は業大老一派が動き出したらしいんだよ」
     短い髪を掻きまわして、尾木・九郎(若年寄エクスブレイン・dn0177)は溜息をつく。そして集まった灼滅者達に背を向けると、黒板にチョークを走らせた。書き記したのは『武神大戦天覧儀』の文字だ。
    「武神大戦天覧儀……御大層な名前だがねぇ。要するにアンブレイカブル同士を戦わせて、より強い師範代を生み出そうってことらしい」
     先日の大戦で『柴崎・アキラ』を失った業大老一派。彼らが新たな師範代を生み出す為に発動したのが『武神大戦天覧儀』という訳だ。しかし名前こそ『武闘会』だが、どこかに参加者が集結して行われるもののではないらしい。
    「どうやらさ、アンブレイカブル達はそれぞれ国内の海の見える場所に導かれるらしいねぇ。で、導かれた者同士で勝手に戦うようなのさ」
     そして今回は、そのうちの一戦について予測したのだと九郎は告げた。
    「現れるアンブレイカブルの名はテオ・ロリス。……黒髪に浅黒い肌をした異国情緒漂う男だよ」
     そして、テオが姿を現すのは都内にあるコンテナ埠頭だ。立ち並ぶ倉庫やコンテナの片隅――夕日に輝く赤く輝く海に面した、青いコンテナの前でテオは静かに対戦相手を待っている。
     テオはアンブレイカブルらしく、己の拳を武器にした真っ向からの戦いを好む。戦いは厳しいものになるだろうが、それでも油断さえしなければ灼滅者達が勝利するだろうと九郎は言った。――しかし。
    「ただしねぇ、武神大戦天覧儀……厄介なもんだよ。この戦いの勝者は、より強い力を得ることができるらしい。そしてお前さん達、灼滅者が勝利すると……止めを刺した誰かが闇堕ちしちまうのさ」
     苦い顔でそう言った九郎に、集まった灼滅者達がざわめいた。
    「つまりお前さん達はテオを倒して、さらに闇堕ちした仲間と対峙する事態になるって訳だ」
     テオとの戦いの後に、闇堕ちした仲間と連戦し救出することも可能ではある。だが、その為には連戦をする余裕を残しておく必要があるだろう。さらに対策を怠れば、闇堕ちした仲間が撤退してしまう危険性も孕んでいる。
    「敵に止めを刺したものが闇堕ちしてしまう……なんてさ。業大老一派も心底厄介なことを始めてくれたもんだ」
     くるりとチョークを指で回しながら、九郎は眉を顰める。
    「だが、お前さん達なら上手いことやってくれるって信じてるよ。闇堕ちしちまった仲間も一緒に、無事に帰ってきてくれるってねぇ」
     そう言った九郎は、やれやれと溜息をついて灼滅者達を見送るのだった。


    参加者
    アプリコーゼ・トルテ(三下わんこ純情派・d00684)
    神元・睦月(縁の下の力任せ・d00812)
    久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)
    各務・樹(ミモザ・d02313)
    水晶・黒那(ヘラクレス系女子・d08432)
    如月・春香(クラッキングレッドムーン・d09535)
    ヒオ・スノゥフレーク(雪のかけら・d15042)
    日影・莉那(ハンター・d16285)

    ■リプレイ

    ●不吉の赤と、青いコンテナ
     赤く、どこか不吉に輝く夕暮れの海。辺りに満ちるのは濃い潮の香りに、寄せてはコンクリートの埠頭に打ちつけられ砕ける波音と海鳥の声だ。埠頭には停泊中の船も人影もないが、立ち並ぶ倉庫の中にはかすかに人の気配がある。だが、その気配も如月・春香(クラッキングレッドムーン・d09535)が殺気を放てば次第に遠ざかっていくようだった。
    「仕事をしておるところ、申し訳ないがのう。しかし巻き込むわけにもいかぬじゃろう」
    「幸い、この先には倉庫もないようだし……心配はなさそうね」
     静まり返る倉庫の方をちらりと見て水晶・黒那(ヘラクレス系女子・d08432)が呟けば、行く手を見た各務・樹(ミモザ・d02313)がそれに答える。
    「武神大戦天覧儀……また、めんどくさいことをやってくれるものっすね」
     コンテナの間を進むアプリコーゼ・トルテ(三下わんこ純情派・d00684)が言えば。
    「多少はマシだが、結局は蟲毒みたいなものか。……まあ全部殴り飛ばすだけなんだが」
     日影・莉那(ハンター・d16285)も肩をすくめてみせるが、対戦相手が待つという場所を探すその足取りに迷いはない。
    「ダークネス倒したらダークネスになっちゃうのは複雑ですがー。それでもやるしかねーなら頑張るですよぅ! 皆で笑顔で帰れるように!」
     気合十分、ヒオ・スノゥフレーク(雪のかけら・d15042)も仲間達にそう笑顔を向けた。
     一方、仲間達と共に歩きながら神元・睦月(縁の下の力任せ・d00812)は何かを思案していたが、ふと手近なコンテナを見つめて小さく首を振る。
    「邪魔なコンテナを整理しておけたらと思いましたが……これを動かすのは中々大変そうですね」
     睦月の言葉通り、埠頭に整然と並ぶコンテナはひとつひとつ見上げるほどの大きさがある。その重量も、気軽に動かせるものではない。『怪力無双』を使えばあるいは移動可能だろうが――。
    「まぁ、今回は小細工抜きで真正面から行くとしよう。……どうやら、お待ちかねのようだしな」
     そう声を潜めた莉那が指差した先、そこには大きな青いコンテナと――それに背を預け、静かに目を瞑って『対戦相手』を待っているテオ・ロリスの姿があった。
     短く切られた黒い巻き毛と、浅黒い肌。白いワイシャツと革のパンツを身につけ、身体は細身だが引き締まっている。
     テオはただ自然体でそこに立っていた。それはまるで、普通に誰かと待ち合わせているかのような光景で。灼滅者達は思わず顔を見合わせる。だが、いつまでもこうしてテオを眺めている訳にもいかない。
    「なにが目的かはよーわかりませんが、ちょーっと待ったぁ! ですよぅ!」
     真っ先にテオの前へと躍り出たのはヒオだった。ゴシックパンク風メイド服のフリルを揺らして飛び出してきたヒオを、困惑したように首を傾げ見つめるテオ。その表情は、ヒオに次いで灼滅者達がコンテナの影から姿を現せば、一層不思議そうなものへと変わった。
    『キミ達は……ダレ? ワタシは』
    「対戦相手をお望みならば! ヒオ達がお相手するですよぅ!」
     テオの言葉を遮ると、解放した武器を突きつけ高らかに宣戦布告するヒオ。
     途端、どこか穏やかですらあったテオの雰囲気は一転した。膨れ上がる殺気が周囲の空気をビリビリと震わせ、テオの瞳に宿るのは獰猛な輝き。
    「……武神大戦天覧儀、相手はわたしたちよ」
     その台詞を裏付ける様にして樹が透明な石の光るロッドを構えれば、テオは心底楽しそうに――。
    『キミ達がワタシの相手を、ですか。ソレはいい。……とても、面白い』
     歯を剥き出して、ニヤリと笑った。その笑みが、全てを物語っている。戦いこそが、殺し合いこそが、彼の求める『唯一』なのだと。
    「ちょっと変則的っすがね。あっしらがあいてするっすよ」
     そう付け加えたアプリコーゼに、テオもまた笑みで応えた。
    『変則的でも構わないでしょう。ワタシはタダ、殺し合いたいのです』
     だから祈りましょう、とテオは笑顔のままに言う。キミ達がワタシのよき相手である事をと。
    (「誰かが消えるか、それとも欠けぬか。終った時の楽しみ」)
     強く吹いた潮風に踊った黒髪をそっと指で押さえ、テオを眺めた久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)はひっそりと微笑みを深め――そして。
    「その前に、やるべき事をやりましょう。……殺戮・兵装」
     着物の袂から取り出したスレイヤーカード。それに撫子はそっと口付け――戦いの始まりを、穏やかに告げた。

    ●彼女達が対峙するは、異国の男
     ついに始まった『武神大戦天覧儀』――その初手をとったのはテオだ。
    『サァ、殺し合いましょう。まずは……キミ、だッ』
     気合と共にテオの両手から放たれたオーラがアプリコーゼを襲う。しかしオーラがアプリコーゼへと届くよりも早く、その射線へと飛び込んだヒオが身体で受け止め盛大に跳ね飛ばされる。
     小さく悲鳴を上げたヒオにちらりと心配そうな視線を投げながらも、駆け出した樹は腕を鬼のものへと変じテオへと飛びかかった。
     一方戦場に音を封じ込めた莉那は、拳を固く握りしめるとテオの鳩尾に叩き込んだ。鍛え抜かれた拳に打ち抜かれたテオは、その衝撃に『ぐっ』と息を詰め灼滅者達と距離をとる。しかし、それを牽制するように莉那の霊犬ライラプスが六文銭を撃ち出して。
    「千秋……私達も行くわよ」
     さらに、春香の霊犬千秋がそれに続いた。六文銭がテオの身体を穿つ傍ら、春香はテオの拳に吹き飛ばされたヒオを癒し立ち上がらせる旋律を奏でる。
    「油断せずに行きましょう」
     撫子は仲間達に微笑みかけ、同時に彼女の構えた槍に炎が宿った。身の丈を越える十文字鎌槍を撫子が振るえば、桜の花弁の如く炎は舞う。
    「あっしもいくっすよ!」
     杖を振れば、そこから放たれた光の中で魔法少女の姿に変身するアプリコーゼ。フリフリのミニスカにロングジャケットの裾をひるがえして、アプリコーゼはバベルの鎖を己の瞳へと集中させた。
    「私も参るかのう……」
     呟き、すっと無表情になった黒那が放つ渾身の蹴り。それを腕で受け止めたテオだったが、衝撃を殺しけれずに背後のコンテナへと叩きつけられた。鉄のコンテナはガンと騒々しい音を立て、空気を震わせる。
    「強さを求める果て。私も思う所はありますが何れかは私もそう考え始めるのかもしれません」
     すぐに体勢を立て直したテオから仲間達を庇うように進み出て、睦月が言う。同時に唸りを上げた、ライドキャリバーのライバー。
    「どちらにしても迷惑になる存在なので灼滅して終わらせましょう」
     睦月が淡々と言った瞬間、ライバーは次々と弾丸を撃ち出した。襲いかかる弾丸に思わずたたらを踏んだテオに、半ば武器に振り回されるようにしてヒオが踊りかかる。
     破邪の剣に斬り裂かれたテオは、血を吐き捨てると真っ赤に濡れた唇を歪めた。傷は痛むはずだ。しかし、テオの顔にあるのは戦いの喜びのみ。
     今度は真っ直ぐに樹に向かって駈け出したテオ。繰り出されようとしているその拳は決して軽くない。樹は訪れる痛みを覚悟して身構えた。
     が、彼女とテオの間に割り込んだ小柄な体。睦月はテオの拳をその手で受け流し、空振りに傾いだテオの身体を自分の拳でドンと重く打ち抜いた。『ガッ』と肺の空気と共に血を吐いて地面へと叩きつけられたテオは。
    『フ、アハハ……ッ、素晴らしいです。ヒサシブリだ。こんなにいい殺し合いは』
     不思議なことに、灼滅者達が攻撃を重ねれば重ねるほどテオの表情には喜びの色が増していくのだ。樹が注ぎ込んだ魔力に体内から爆ぜ、莉那が雷を宿す拳で打ち抜いても、テオの瞳が輝きを失うことはない。明らかにダメージは積もっていっているはずだった。だが、それでもテオは躊躇なく、嬉々として、灼滅者達に向かってくる。そして、繰り出される一撃一撃が、確実に灼滅者達の身体を蝕んでいた。

    「戦うことが、そんなにもお好きですか」
     戦い始めて、どのくらいが経過しただろうか。小首を傾げた撫子が尋ね、同時にテオの死角をとった。しかし斬り裂かれたテオは、寒気すら感じる凶器の笑顔を浮かべ問いに答える。
    『スキです。何よりも、タダ、ダレよりも強くあることがワタシの幸福なのです』
     その答えに春香はかすかに眉を寄せつつ、再びギターを爪弾いた。その調べに背を押されるように、アプリコーゼは激しい風の刃をテオに放つ。
    「お主……しぶといのう」
     未だ、灼滅者達は誰も欠けてはいない。だが黒那の見たところ、特に前衛はダメージが大きい。黒那は『祝福の言葉』を唇に乗せ、前線へと癒しの風を吹き渡らせた。
     その風を受けたライバーはタイヤを激しく唸らせながらテオへと突っ込み、撥ねられよろけたテオをヒオの拳が次々と穿つ。
    「まだ……終わりじゃないのよ」
     ヒオの拳が止まったと思いきや、次いで繰り出される樹の拳がさらにテオを追い詰めていった。成す術もなく拳を受けて揺れるテオの身体。やがて、耐え切れなくなったかのようにガクリとテオの膝が折れる。
    『こ、んなにもキズを負うとは……フフ、ホントウに予想外でした』
     テオはぐぃと口元の血を手の甲で拭い――次の瞬間、その手が莉那を掴んでいた。強く襟元を引き寄せられた莉那は抗うように足に力を入れたが――はっと気がついた時には宙へと投げ飛ばされ、コンテナに叩きつけられる。莉那の目の前が、かすみ始めていた。しかし気遣うように寄せられたライラプスの鼻を撫で、莉那はよろめきながらも立ち上がる。
    「ふん……これぐらいで倒れてたまるか」
     ふっと短く息を吐いた莉那がテオの身体に叩きつける、渾身の拳。声を上げることすら出来ずに地面へ崩れ落ちたテオだったが。
    「これ以上、やらせはしないっすよ」
     莉那の背後で杖を構えたアプリコーゼ。その杖先が魔法陣を描けば、放たれた魔法の矢がテオの身体を縫いとめるように突き刺さった。
    「わたくしにはまだ、やるべきことが残っているのです!」
     撫子も鋭く息を吐き、ふらつき始めた身体に気合を入れる。まだ、これで終わりではないのだ。間違いなく、テオの限界は近いだろう。しかし、テオを倒した後には今肩を並べている仲間の誰かと今度は刃を交わらせなければならなくなる。撫子は気を引き締め、テオへと槍を突きつけた。
    (「流石に、強いな。……だが、この勝負には絶対に勝つ」)
     よろめきながらも構えをとったテオを見て、春香は冷静に思考した。この勝負には勝てるだろう。だが、その後は。犠牲を出さない為にも、自分が倒れるわけにはいかないと善なる光条をその身に浴びた。千秋はそんな春香を守るように駆け、テオを斬魔刀で斬り裂く。
     笑みこそ浮かべているものの、テオは最早気力のみで立っているようだった。これ以上、戦いを長引かせはしないと黒那の剣はテオの魂を串刺し、それを支える様に睦月はオーラを癒しの力へと転換した。――そして。
     振りかざされた白い刀身が、光を放って輝く。テオはヒオの一太刀を正面から受け止め、コンテナに手をついて身体を支えようとしたが叶わずズルズルと崩れ落ちる。
    『ク、ハハ……キミ達、強いですね。サァ……ドウゾ、終わらせて下さい』
     清々しい顔でテオは灼滅者達を見つめ、最後の一撃を受け入れる様にゆっくりと両腕を広げた。そんなテオへ、ゆっくりと足を踏み出したのは。

    ●いずれ逢いましょう
    「前に別のひとと戦ったとき、背負ってるものが違うわたしは強い、そういわれたわ」
     呟くようにして踏み出した、樹の足元でこつりとヒールが鳴る。
    (「何もできなかった自分が嫌で、もう誰かを目の前で喪うのが嫌なだけで」)
     こつり、また1歩。踏み出すと同時に、ロッドを握る樹の手には力がこもって。
    (「今だってまだ足手まといでしかない。力を手に入れることができたら変われるのかしら。……そうだったとしたら」)
     振り上げられたロッド。テオはそれを静かに見つめ、樹はそんなテオをどこか遠くを見るような目で見降ろしていた。
    (「わたしは……望む」)
     力を、と望んだ樹が振り下ろしたロッド。叩きつけられた先から溢れ出した魔力が関を切ったようにテオの体内へと流れ込み――ついに、爆ぜる。轟音と共に弾けたテオの身体は、赤い夕焼けの中に散っていった。その最後を灼滅者達は、そして樹はしばし見つめて。
     ふ、と樹が笑うのを、睦月はすぐ近くで聞いた。え、と声を上げる間もなく、睦月の身体を襲う重い重い打撃。倒れる睦月が最後に見たのは、暗い笑みを浮かべて自分を見下ろす樹の姿。
     睦月の名を、灼滅者達が口々に叫んだ。だが、樹の足元に倒れた睦月はピクリとも動かない。そして何より――そんな睦月の前で、樹は今、ひどく満足げに己の拳を見つめていた。
    「やれやれ、借り物の力で強くなっても仕方ないだろ?」
     闇へと堕ちた仲間へと挑発するように言いながら、莉那は彼女を逃さないように立ち位置を変える。それを見た仲間達もまた、樹を囲い込むようにして動き。
    「自分を鍛えるのが大事だろ、その手伝いくらいはしてやるさ」
     だから、帰ってこいと。莉那はそんな思いのこもった拳を樹へと叩きつけた。
    「帰りますよ、全員で!」
     次いで撫子は激しく燃える業火を宿した槍を手に舞った。その一方で春香は、全員が生き残る為にまずはと黒那の傷を癒していく。
    「帰りを待ってる人もいるんすからとっとと戻ってくるっす」
     アプリコーゼはそう言いながら激しい風を起こし、黒那は怒りで樹の意識を引きつけようとビームを放った。
    「そうですよぅ! ヒオと一緒に帰らねーとダメなんですよぅ!」
     だから、どうか戻ってきてとヒオは祈るような気持ちで叫んだ。けれどヒオ自身、消耗が激しい。どうしたら……とバベルの鎖を瞳へと集中させながらヒオは考え――。
    「やっぱりここは一度引いて、万全な状態で助けにくるべきかもしれねーですよぅ」
     そう、仲間達に告げた。仲間達からは、勿論様々な反応が返る。
     その間も樹は葛藤する灼滅者達へと、まるで遊ぶようにして攻撃を数度重ねた。――やがて、得た力に満足げな笑みを浮かべた樹の手には箒が握られていて。
    「何じゃお主! まさか先程の戦いで、傷ついてボロボロな私達相手に逃げるのか!」
     黒那が挑発するように放った言葉は、少なからず真実。灼滅者達はすでに満身創痍に近い。笑みを形作る黒那の顔を、冷や汗が一筋伝う。
    『そうね。……今日はもう、これで終わりにしましょう』
    「おや、折角力を手に入れたのに試していかないのか?」
     樹の言葉に、莉那はそう挑発を重ねたが。
    『……いずれ逢いましょう』
     それに答えることなく、樹は宙へと浮かび箒に乗って飛び去っていった。
     夕暮れの空の中へ溶けていく樹の背を、残された灼滅者達はただ見つめて――。

    作者:温水ミチ 重傷:神元・睦月(縁の下の力任せ・d00812) 
    死亡:なし
    闇堕ち:各務・樹(カンパニュラ・d02313) 
    種類:
    公開:2014年4月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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