●業大老
ガイオウガ、そしてスサノオ大神……。
大地を喰らう幻獣種共が「竜種」に目覚める日も、そう遠くはない……。
サイキックエナジーの隆起がゴッドモンスターさえも呼び起こしたこの状況で、未だ十分に動けぬとはいえ、日本沿海を我が「間合い」に収めることができたのは、まさに僥倖。
小賢しき雑魚共の縄張り争いも、王を僭称する簒奪者共の暗躍にも興味は無い。
我が望むは、我と死合うに値する強者のみ!
「武神大戦殲術陣」発動!
眠れる強者よ現れよ。武神の蒼き頂こそが、これより汝の宿命となるのだ!
●『harapan』それはインドネシア語で『希望』を意味する言葉
「みんな、説明を始めるよ」
教室に集まった灼滅者達を前に天野川・カノン(中学生エクスブレイン・dn0180)は説明を始めた。
「師範代である柴崎・アキラを失った業大老一派が、新たな師範代を生み出すべく『武神大戦天覧儀』という武闘会を行おうとしているみたい」
武闘会といっても、全員が集まって順番に戦うのでは無く、日本各地の海が見える場所に導かれたアンブレイカブル同士が、それぞれ勝手に試合を行うという形で進められる。
「試合会場は日本各地の海の見える場所で、周囲に一般人がいない時が選ばれるよ」
試合会場には、どこからともなくアンブレイカブルがやってくる。
灼滅者達は試合会場にやってきたアンブレイカブルを灼滅してもらうことになる。
「武神大戦天覧儀の勝利者には力が与えられるみたいなんだけど、灼滅者であるみんながアンブレイカブルに止めを刺した場合、止めを刺した人は闇堕ちしてしまうんだよ」
試合に参加するアンブレイカブルを灼滅する為には、自分が闇堕ちすることを覚悟しなければならない。
「ただアンブレイカブルを灼滅した後で闇堕ちしてしまうから、その場で邪魔されることなく止めを刺した人を闇堕ちから救い出すことも出来るかもしれないよ」
闇堕ちした直後数分間、意志の力でダークネスを抑え込んでいる間に救出を試みれば、ダークネスに肉体を乗っ取られた後で救出するよりは簡単に闇堕ちから救出することが出来るかもしれない。
「みんなに戦ってもらうアンブレイカブルは原田・戟(はらだ・げき)、今まで2度の戦いで灼滅することの出来なかった強敵だよ」
原田戟は海の見える浜辺で、対戦相手を待っている。
灼滅者達はそこへ襲撃を掛けることになるだろう。
「原田戟の戦闘能力については、2度間近で原田戟との戦いを見ている玉緒ちゃんにお願いするね」
カノンに促されて、隣に立っていた朱月・玉緒(中学生ストリートファイター・dn0121)が小さく頷いた。
「原田戟は一見すると武人然とした巨漢なんだけど、中身は女の子に腹パンすることしか考えていないような変態よ」
しかし変態を拗らせて武を極めてしまった恐ろしいアンブレイカブルである。
その業として、イラッとするようなドヤ顔の少女を見ると、つい反射的に可愛いと思って、何にも優先して腹パンしようとしてしまう習性を持っている。
この習性を利用することで、原田戟の攻撃の標的を誘導することは容易である。
「偶然だけど『harapan』って、インドネシア語で希望とか、夢とか、祈りみたいな意味があるみたいだよ」
横からカノンが仁左衛門を使ってネットで調べてきた雑学を、したり顔で披露した。
「……今の天野川さんなら、原田戟は間違いなく腹パンしてると思うわ」
そう説明しながら玉緒は若干ウンザリしたような表情になる。
「原田戟はその特異性からボディーブローの冴えばかり目立つように見えるけど、厄介なのはあの巨体からは想像できないほどの巧みな体捌きを使った回避能力の高さよ」
実際部位狙いしかしてこないことを、まるでハンデとしない鍛え抜かれた拳も脅威ではある。
「だからまず徹底的にその動きを鈍らせることが、原田戟を灼滅するための鍵になると思うわ」
まず攻撃を命中させることが出来るようにすることが重要だ。
「繰り返しになるけど、原田戟は今まで2度の戦闘で灼滅し切れなかった強敵よ。油断はできないわ」
止めを刺した仲間を闇堕ちから救出することも大事だが、それにばかり気を取られて戦闘の準備を怠れば、返り討ちに遭ってしまうかもしれない。
もしそうなれば武神大戦天覧儀によって原田戟は更なる力を得てしまうだろう。
それだけは避けたい。
「でもわたしはみんななら、原田戟を灼滅した上で、闇堕ちした仲間も救って帰って来てくれるって信じているよ」
カノンは笑顔でそう言って、玉緒と共に教室を出て行く灼滅者達を見送った。
参加者 | |
---|---|
石弓・矧(狂刃・d00299) |
最上川・耕平(若き昇竜・d00987) |
ツェツィーリア・マカロワ(唯我独奏ロコケストラ・d03888) |
フィリア・スローター(アステローペファミリー・d10952) |
木嶋・央(幸楼幻夢・d11342) |
阿久沢・木菟(灰色八門・d12081) |
刄・才蔵(陰灯篭・d15909) |
ティルメア・エスパーダ(カラドリウスの雛・d16209) |
●腹パン、それは希望
「ほう、気まぐれに余興に付き合ってみれば、灼滅者が現れるとはな」
人気のない浜辺に佇む胴着姿の巨漢、原田戟は意外そうな表情を浮かべる。
「何人か見た顔もいるな。好かろう。むさ苦しい同類を相手にするより、お前らを相手にする方が幾分潤いがある」
阿久沢・木菟(灰色八門・d12081)、石弓・矧(狂刃・d00299)、朱月・玉緒(中学生ストリートファイター・dn0121)を一瞥した後、原田戟は拳を握り込んで戦闘態勢に入る。
拳にはオーラが凝縮されていき、視線は後列の灼滅者、しかし隙のない構えを取りながら、原田戟は何かを誘うように一拍の間を開ける。
「ハラパニスト死すべし、慈悲はない。なんつって、まー喧嘩できりゃそれでいいぜ」
ツェツィーリア・マカロワ(唯我独奏ロコケストラ・d03888)は原田戟の意図を察して一歩前に出た。
「おい、変態。こんな美女を前にして何か言うことはねえのか?」
「その挑発乗ってやろう。俺は口下手でな。その分はこの拳で存分に語らせてもらおうか」
ツェツィーリアはロングコートの前を開いており、インナーにはチューブトップ、そこには腹筋が浮き出るほど鍛え上げられた腹部が露出している。
その彫像めいた美しさを醸し出しているツェツィーリアの腹部が、腹パニストの目に普通以上に魅力的に映ることは想像に難くない。
拳に集束していたオーラは電流となり原田戟の腕を走った。
灼滅者達がそれを目にした直後には、相変わらずの雷の如き速度で原田戟の姿が元いた場所から消失する。
「よく鍛えられた良い腹筋だ」
ツェツィーリアが立っていた場所に原田戟が現れ、空気を裂くような破裂音が後からやってくる。
(「まだ戦闘続行には支障ねえか」)
どんなに速くても、目で追うことが出来なくても、どこに当たるかわかっていれば対策のしようがある。
ツェツィーリアは原田戟が踏み込み動作に入ると同時に後方に跳ぶことでダメージを最低限に抑えることに成功していた。
それでもツェツィーリアの腹部には人間の頭部大の拳で殴られた痣が刻まれ、口の端からは一筋血が流れ、的確な打撃によりダメージ以上の痛覚を内臓に受けていた。
「前回のリベンジです。これで戦いを有利に進められるはず」
矧は夜霧を後衛の仲間達を覆うように展開し、攻撃担当の仲間達が狙いをつけている姿を原田戟の視界から隠す。
「これはまた……いっそ清々しいくらいの外道だね……これ程打ちのめす事に何の躊躇いも持たなくて良さそうな輩も珍しいや」
報告書で読むより、伝聞として聞くより、実際目で見た方が原田戟の変態性は伝わってくる。
それだけではなくダメージを最低限に抑えたとはいえ、ツェツィーリアに回復が必要なことは一目で理解できた。
最上川・耕平(若き昇竜・d00987)はシールドリングを手早く飛ばしてツェツィーリアの守りを固める。
「よっしゃ! 腹パン狩りリベンジマッチでござる!」
原田戟の灼滅に一際気合の入った木菟が夜霧から飛び出し、鋼糸によって繰り出された黒死斬が原田戟の丸太のような脚に赤い血の筋を刻み込む。
「強さを求めるってのは同じ男として分からなくもないが、それが女に腹パンするためってどういうことだ。馬鹿じゃないのか」
女子達、特にフィリア・スローター(アステローペファミリー・d10952)を盾にしなければならないことに苛立ちながら、木嶋・央(幸楼幻夢・d11342)は左手で生成した氷剣を投擲した。
それが範囲攻撃であると読んだ原田戟は氷剣が足許に突き立つより早く跳躍して距離を取る。
「さっきのお返しだ。お前の腹に風穴開けてやる」
着地を狙ってツェツィーリアがバベルブレイカーを豪快に振り回すが、射出された高速回転する杭を原田戟は側面から手の平で受け流した。
「2回も闘って灼滅出来なかったって、どれだけ強いのかなって思ってたけど、これは……三度目の正直、絶対に倒さなきゃ」
ティルメア・エスパーダ(カラドリウスの雛・d16209)はまず予言者の瞳でバベルの鎖を瞳に集中させながら原田戟の動きを見た。
命中対策をした練度の高い灼滅者達の攻撃が必中にならない。
ここで自分達が原田戟を灼滅しなければ武神大戦天覧儀によって原田戟は更に強くなるという事実にティルメアは戦慄した。
「女をいたぶって楽しいのか? 脆弱だな」
ビハインドの白景が正面から霊撃を仕掛けたのを囮に刄・才蔵(陰灯篭・d15909)が原田戟の陰から忍刀で原田戟の四肢を斬りつける。
「……お兄ちゃんと一緒。……凍りつかせる」
フィリアは央に倣うようにフリージングデスの範囲を指定するための氷剣を投げた。
しかしその巨体からは想像できない身軽さで原田戟は易々とその範囲を離脱する。
●腹パン、それは夢
「…………」
「まだ大丈夫だ」
フィリアは先ほど攻撃を受けたツェツィーリアから視線を外すことがない原田戟の注意を引こうとするが、それをツェツィーリアが手で制す。
内臓に響くような鈍痛が残ってはいるがまだツェツィーリアが仲間の中で一番高い耐久力を維持していた。
「いくぞ」
発語と同時に原田戟の闘気が膨れ上がり、それが直進でありながら、そして結果がわかっていても原田戟の姿が灼滅者達の視界から消える。
「カハッ……」
前回と同じようにツェツィーリアは思い切り後方に跳ぶが、それに合わせるように宙にいるツェツィーリアの腹を超硬度の拳が打ち抜いた。
ツェツィーリアの体が砲弾のように吹き飛ばされ砂浜を何度もバウンドしながら転がる。
「まだ寝るには早いのではないか」
仰向けに倒れ苦しげに呻くツェツィーリア目掛けて再び原田戟が突進する構えを取る。
「もう我慢の限界だ。わかっていて目の前でみすみす女性を殴らせはしない」
原田戟の姿が霞む直前に才蔵が倒れるツェツィーリアの前に立ち原田戟の進路を阻む。
「その意気や良し」
原田戟は瞬時に狙いを才蔵に切り替え、雷を纏った拳が砂浜擦れ擦れから才蔵の腹に直撃し才蔵は10メートル近く空中に打ち上げられた。
頭から落下してうつ伏せに倒れた才蔵の口から吐き出された血で砂が赤く染まる。
「ツェツィーリアさん、一度退いて」
「ああ、すまねえ……2分で戻る」
耕平からのシールドリングを受けつつまだ脚が震えて上手く立ち上がれないツェツィーリアは転がるようにして後列に下がった。
「そんなに腹パンが好きならくれてやるでござる!」
才蔵が倒れたことに戸惑うことなく原田戟の攻撃後の隙をついて木菟の影を宿した拳が原田戟の胴に直撃する。
「その動き封じさせてもらう」
央がマテリアルロッドに影業を纏わせ太刀を扱うように振るう。
原田戟はその一閃を見切って躱すがマテリアルロッドから剥がれた影業が太刀筋から広がり原田戟の手足を捕らえた。
「狙い撃たせてもらうよ」
ティルメアの指先から撃たれたデッドブラスターの漆黒の弾丸が、影業に動きを抑えられながら最低限の動きで背後から襲い掛かった矧の斬撃を回避することに気を取られた原田戟に命中する。
「グッ……」
更に立て続けに才蔵を守るように立つ白景の霊障波が原田戟に直撃した。
「手が届かんのは残念だが確実に数を減らさせて……」
後列に下がり未だ満足に回避行動を取れないツェツィーリアを狙って原田戟が拳にオーラを集中し始める。
「……どや。……かわいい?」
そこへフィリアが原田戟の注意を引こうと横ピースでポーズをキメた。
口では『どや』って言ってるけど口調は平坦で無表情である。
「…………!」
可愛かったかどうかは原田戟の拳がフィリアのお腹に叩き込まれ数メートル砂浜を足が引っ掻くようにフィリアが吹き飛んだことで明らかであろう。
容赦がないことに肋骨が折れ内臓を傷めたのかフィリアは大量の血を吐きながら気力だけで膝をつくまいと立ち続けていた。
「隙だらけだな。もう一撃愉しませてもらおうか」
再び原田戟の腕に電流が走るとその姿が掻き消える。
しかし瀕死のフィリアにその拳が届く前に主である才蔵と同じように白景がフィリアを庇い身を盾にして霧散した。
「こんな足場が悪いとこで戦うもんだから自慢の回避力落ちたんじゃござらんかな?」
フィリアが立ち直り離脱するだけの時間を稼ぐため木菟と央が同時に仕掛ける。
木菟の鋼糸を使った黒死斬が原田戟の両脚を捕らえている間に央の鋼鉄拳が原田戟の纏った雷の守りを打ち破った。
「そう思うなら試してみるか?」
そう言って原田戟は腹パンのために踏み込む時と同じ瞬間移動するような速度で10メートルほど移動する。
これほどの勢いで移動していながら原田戟の足が完璧に砂を掴んでいるのか砂浜が荒れることはない。
原田戟が元いた場所を矧の制約の弾丸が通過するが挑発されたとはいえ今まで最低限の動きで攻撃を捌いていた原田戟が踏み込みを使って大きく回避した。
「当たって」
しかし大きな動きは攻撃後同様に大きな隙となりティルメアのオーラキャノンが直撃する。
「……おかえし」
お腹を押さえながらフィリアの投げた氷剣が原田戟の足の甲に突き刺さり急激に温度が下がったことで原田戟の全身を氷が覆った。
●腹パン、それは祈り
「待たせたな、変態。また相手してくれよ」
耕平のシールドリングと玉緒のソーサルガーダーで四重の防護を纏ったツェツィーリアが再び原田戟の前に立つ。
「その程度の守りで我が拳を阻めるつもりか?」
ツェツィーリアの腹部を凝視しながら原田戟は拳を握りしめた。
「試してみろよ、変態」
自分が原田戟の攻撃を一発でも耐えればそれだけ味方に攻撃する機会が回る。
ツェツィーリアは一歩も退かずに真っ直ぐ原田戟を見据えた。
「我が拳、受けてみるがいい」
原田戟の超硬度の拳が2枚までシールドをガラスのように砕きながら進む。
ツェツィーリアは数メートル吹き飛ばされるがシールドのおかげで辛うじて自分の足で着地することに成功した。
「ほう、まだ耐えるか。だがこれはどうだ」
(「やばいな。また連続攻撃か」)
シールドがなければ今の一撃で確実に意識を持っていかれていたがシールドの上からでも肋骨が何本か折れ喉を競り上がる血液でツェツィーリアは言葉を形にすることもできない。
その目の前で原田戟の全身を走る電流が灼滅者達の打ち込んだ楔を打ち消しながら右腕に集束し電磁加速するように飛び出した。
「……っ」
これまでの戦いで原田戟が連続した攻撃を同じ標的に行うことを読んでいたフィリアがツェツィーリアを庇い代わりに原田戟の昇打を受けて放物線を描くように吹き飛び盛大な砂柱を立てる。
「くそ、仇は取ってやるからな……」
その場に留まり自分も身を盾にしようという考えを引き剥がしながらツェツィーリアはヨロヨロとした足取りで後列に下がり得物を構える。
自分に原田戟の注意が集中している内に原田戟の不得手な距離から一撃でも多く攻撃する方が有効だと判断したのだ。
「取り敢えず……貴様の顔は見飽きたでござるわ!」
木菟のトラウナックルが原田戟を捉える。
「よくもフィリアを」
央が飛び掛かるようにしながら振るったマテリアルロッドを原田戟は腕で受けるがマテリアルロッドから影業が蛇のように原田戟を締め上げた。
「今度こそ」
原田戟が影業に縛られている隙に矧の解体ナイフが何度も何度も原田戟の脚を切り刻む。
「もう一発」
ティルメアのデッドブラスターが原田戟を撃ち貫き毒がその体を蝕んだ。
「鋼鉄拳、入ります」
連撃に怯んだ原田戟の懐に玉緒が踏み込み中段突きで原田戟が纏った雷の防護を一撃で粉砕する。
「くくく、楽しいな灼滅者」
口の端から血を滲ませながら原田戟は凄絶な笑みを浮かべた。
その視線の先にはあと一撃で倒れてしまいそうなツェツィーリア。
(「やれやれ、ついにあたしの番か」)
玉緒はダンッと砂が爆ぜるほど強く足を踏みしめ原田戟の視線を目の前の自分に向けさせる。
「こんなカワイイ美少女と三度会って一回も手を出さないなんて目が腐ってるんじゃないですか? 可哀想ですね」
金髪をなびかせ自分より遥かに高い位置にある原田戟の顔を上目遣いに睨みつけながら玉緒はそう言った。
そしてその直後に川を切る小石のように波打ち際を跳ねていた。
「電光石火! 逃げられないよ!」
耕平の轟雷が原田戟を撃つ。
耕平は仲間の回復に徹していたがもう回復可能なダメージを抱えた仲間はいなかった。
「いい加減その体捌きも鈍ってきたようでござるな!」
そう言いながら木菟の黒死斬が更に原田戟の脚を抉る。
原田戟の状態異常回復能力を崩しながら回避力を削る灼滅者達の作戦がここに来て効果を発揮し始めた。
「今なら氷の上から叩かれれば痛いんじゃないか?」
央の左手で投擲された氷剣を今度は原田戟が効果範囲から離脱することができずに体表を凍らせる。
「もう足が動かないようですね」
矧の言うとおりまるで攻撃の当たらなかった原田戟に矧の制約の弾丸が命中した。
「散々殴ってくれたお返しだ。仲間の分までくらえ!」
ツェツィーリアの余力を振り絞ったバベルブレイカーの一撃を、原田戟は致命傷を避けようと手を伸ばすが上手く受け流すことができずに手の平に杭で穴が穿たれる。
「まだだ。まだ俺は倒れていないぞ」
残った利き手を握り込み原田戟は攻撃後に自分から距離を取ろうとするツェツィーリアにオーラキャノンを放つ。
拳を模したオーラの塊がシールドに阻まれながらも弱っていたツェツィーリアの意識を刈り取った。
「フン!」
更に雷を纏いながら衰えることのない目で追えない踏み込みからの昇打が矧を襲う。
「どんなに速く重い攻撃でも耐えて掴めば、こちらのものです」
「何だと……」
拳を受けた矧は口の端から大量の血をこぼしながら原田戟の腕を渾身の力で掴み押さえる。
原田戟の声には色濃い焦りの色が見えた。
「その卑劣な行為、ここで終わりだよ。吹き荒べ、神風よ!」
この絶好の機会を逃せば易々とトドメを刺せる相手ではないと判断した耕平は矧が原田戟を押さえている間に神薙刃を放つ。
風の刃は原田戟の左肩から袈裟懸けに深々と筋肉の鎧を斬り裂き心臓に達する。
「我が拳もここまでか……楽しませてもらったぞ、灼滅者」
その言葉を最期にアンブレイカブル原田戟は息絶えた。
●闇に抗う力
「ぐっ、後は……頼むね」
原田戟にトドメを刺した耕平に武神大戦天覧儀による力が流れ込み闇堕ちが始まる。
そこへ原田戟が灼滅されたことを確認して戦場を確保する手助けをしてくれていた学園の仲間達が駆けつけた。
闇堕ちしようとしている耕平に意識を保つように各々呼びかけるが、その中から耕平の顔見知りの少女二人が危険を顧みず耕平のすぐ側まで近づく。
「何しよるか! ほら、しっかりっすよ! 師匠も早く目ぇ覚ませって言ってるっすよ! 一緒に帰って、おやつ食べるっす!」
朔羅は容赦なく耕平の目に柑橘類の汁をかけ、朔羅のナノナノの師匠も耕平の頭に齧りついた。
「ココで堕ちたまんま逃げようモンなら、クラブ員から袋叩きの刑にされんぞー、オマエ。今のうちにとっとと戻ってきやがれってんだ!」
治胡は額がくっ付くほど耕平の顔を覗き込むようにして睨みつけながら叱咤する。
「覚悟の上の一撃だったんだ。なら、帰ってくるまでが本当の勝負ってモンだろ? 見せてくれよ。灼滅者は自分の中のダークネスなんかに屈しねェってとこを!」
二人からは一歩離れた距離から他の仲間達を代表して十夜が言葉を締め括るように呼びかけた。
「そうだね……弱気になってた。5分でも10分でも耐えてみせるから、皆その間に任せたよ!」
耕平の瞳に自らの中の闇に抗う意志の光が灯る。
「あとは任せるでござるよ」
木菟は耕平の肩をポンと叩くと展開した鋼糸で耕平の四肢を絡め取り、顔面に思い切り影を宿した拳を叩き込んだ。
「ほら、戻ってきやがれ。ダークネスぶちのめして俺たちの完全勝利で終わらせんぞ」
鋼糸に引っ張られ反動で前に出る耕平に正面から回転の遠心力を乗せた央のフォースブレイクが炸裂する。
「このまま堕ちんじゃねえ。学園に残してるモノがあるだろ!」
更に央はマテリアルロッドを耕平の鳩尾に突き込み、迸った魔力が雷のようにスパークしながら爆発を起こす。
「痛いでしょうが我慢してくださいね」
矧は契約の指輪から魔力弾を撃ち耕平の動きに制約を加えるとナイフで四肢を斬りつけ機動力を削いだ。
「せっかく出てきたのに、悪いけど。オレだって友達を失いたくない。戻ってきてよ……お願いだから」
闇堕ちから救うためとはいえ仲間と戦うことに抵抗のあるティルメアは、だからこそ仲間を救うために悲痛な声を絞り出しながら攻撃する。
ティルメアの影業が耕平を飲み込むように覆い尽くし影の塊となった耕平に至近距離からマジックミサイルを連射して影の塊を蜂の巣にして剥がしていく。
影業から解放された耕平は仰向けに倒れ込み彼を覆っていた闇のオーラは霧散して消えていた。
「さて、帰ろうか。皆で、学園に」
意識を失う直前に耕平は自分の顔を覗き込む仲間達に向かって笑顔でそう言った。
灼滅者達は無事に原田戟を灼滅し耕平を救い出すことに成功したのだった。
作者:刀道信三 |
重傷:フィリア・スローター(ゴシックアンドスローター・d10952) 刄・才蔵(陰灯篭・d15909) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2014年4月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|