波打際の決闘~黒狼~

    作者:相原あきと

     ガイオウガ、そしてスサノオ大神……。
     大地を喰らう幻獣種共が「竜種」に目覚める日もそう遠くはない……。
     サイキックエナジーの隆起がゴッドモンスターさえも呼び起こしたこの状況で、未だ十分に動けぬとはいえ日本沿海を我が「間合い」に収めることができたのは、まさに僥倖。

     小賢しき雑魚共の縄張り争いも、王を僭称する簒奪者共の暗躍にも興味は無い。
     我が望むは、我と死合うに値する強者のみ!
     「武神大戦殲術陣」発動!
     眠れる強者よ現れよ。武神の蒼き頂こそが、これより汝の宿命となるのだ!
     

    「みんな聞いて、武神大戦天覧儀が開催されるわ!」
     教室に集まったみんなに鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が話しだす。
     武神大戦天覧儀、それは日本各地から試合会場である『海が見える場所』へアンブレイカブルが集まり戦う武闘大会。
     まぁ、大会と言っても導かれたアンブレイカブル同士が勝手に闘うストリートファイト形式である。
     場所は日本各地の海が見える場所。
     時刻は周囲に一般人がいない時刻。
     勝利条件は相手のアンブレイカブルにトドメを刺すこと。
    「みなには対戦相手が来るのを待っているアンブレイカブルの所に行って、先に灼滅しちゃって欲しいの。ただ、1つ問題があって……」
     珠希が言うには、この武神大戦天覧儀で勝利した者には『力』が与えられるらしい。
     武神大戦天覧儀で勝ち続ければ、やがて柴崎アキラよりも強いアンブレイカブルが生まれるのは確実、業大老一派の狙いはつまりソレなのだろう。
     ちなみにこの『力』が問題で、灼滅者が手に入れた場合は闇堕ちしてしまうと言うのだ。
    「アンブレイカブルにトドメを刺す人は、酷い言いようだけど絶対に闇堕ちしてしまうの」
     もっとも上手く戦えばアンブレイカブルと闇堕ちした仲間と連戦が可能だと珠希は言う。
     目的はアンブレイカブルの灼滅だが、可能ならそこで連戦して闇堕ちした仲間と戦い救出まで行えるとベストと言うわけだ。
    「みなに向かって貰いたいのは日本海が見えるとある海岸線で、そこには黒狼のクロっていう少年アンブレイカブルがいるわ」
     クロは黒い道着を着た少年格闘家で、道着はボロボロ、髪の毛も伸ばし放題、口から覗く八重歯が牙っぽいヤンチャな感じの子供らしい。
     使ってくるのはストリートファイターと龍砕斧にシャウトに似たサイキック。
     得意能力値は気魄で、防御を捨てて攻撃して来る。
     多数を相手にする場合は、1人ずつ確実に仕留めてから次の標的に移るらしい。
    「クロの対戦相手はまだまだ来る予定は無さそうだし、クロのトドメを刺して闇堕ちした仲間との連戦中に誰か他のアンブレイカブルに割って入られる事は無いと思うわ」
     最後に珠希は皆の顔を1人ずつ見て言う。
    「誰が闇堕ちして連戦になるか解らないけど、きっとみなならアンブレイカブルの灼滅と仲間の救出、両方出来ると思う。だから、頑張って」


    参加者
    藤柴・裕士(藍色花びら・d00459)
    犬神・夕(黑百合・d01568)
    御盾崎・力生(ホワイトイージス・d04166)
    月雲・螢(線香花火の女王・d06312)
    太治・陽己(薄暮を行く・d09343)
    ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)
    遠野森・信彦(蒼狼・d18583)
    卦山・達郎(彼女欲しいゴン・d19114)

    ■リプレイ


     そこは日本海に面したとある磯だった。
     潮風に流されぬよう髪を片手で押さえながら月雲・螢(線香花火の女王・d06312)が先客へと声をかける。
    「映画みたいな場所での闘いね……あなたが、クロかしら?」
    「なんでオレの名前を」
     少年アンブレイカブルのクロが疑問を浮かべるも、螢は余裕の笑みで懐からカードを取り出す。
    「こういうことよ?……忌わしき血よ、枯れ果てなさいッ」
     螢に続き他の7人の仲間も次々と殲術道具を解放し装備していく。
    「頭数をそろえればオレに勝てるって?」
     不機嫌に聞いてくるクロに「まぁ、そんな所よ」と返す螢。
    「しっかし、ほんま武道家みたいな格好やなぁ……チンチクリンの坊主のくせに」
     遠慮なく挑発するのは藤柴・裕士(藍色花びら・d00459)だ。
    「あぁ、実際そうなんやっけ?」
     ニヤリと上から目線でクロを見つめる裕士、対するクロは拳を握りしめると。
    「ぶっ飛ばす!」
     大地を蹴って裕士へクロが疾走。
     だが裕士に接敵する直前、クロは何かを感じ取って強引に地を蹴り急停止する。
     ――ドシュッ!
     その鼻の先をカスっていくのは犬神・夕(黑百合・d01568)のバベルブレイカーだ。ドリルのように回転する杭がクロの前髪を数本消し飛ばす。
    「っと、あっぶねぇな!」
     口を尖らすクロだが、避けられた夕はすぐにクロへと向き直る。クロへの返事はしない。
     だがそんな夕に何かを感じとったのか。
    「ははっ、なんか姉ちゃんとのバトルは楽しそうだな! なぁ、一対一でやろうぜ!」
     夕は無言で宙に跳躍すると仲間たちの最後尾へと着地。
     自分の何をクロが気に入ったのか……だが、それにつき合うつもりはない。冷静にクレバーに、己が目的のため自分は戦うのみ。
    「ちぇ、つまんないの」
    「だったら俺とはどうよ!」
     同時、ジェット噴射の勢いで突っ込んでくるのは卦山・達郎(彼女欲しいゴン・d19114)。
     しかし、アンブレイカブルの少年は達郎のバベルブレイカーを両手で受け止め。
    「力比べなら負けないぜ!」
     プスッ。
     肩に走り痛み。見れば肩口に針のようなものが突き刺っていた。
    「ニンジャケンポー殺人注射」
    「この!」
     クロが振り払ってくる腕をハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)はトンボを切って回避。
    「どうした、後ろがガラ空きだぞ!」
     背後からの声にハッとし振り向けば、視界一面が炎に包まれる。御盾崎・力生(ホワイトイージス・d04166)のブレイジングバーストだ。とっさにしゃがみ込むクロ。だが狙っていたかのように地を滑るよう太治・陽己(薄暮を行く・d09343)が迫り、その変化した異形の腕が眼前へ。
     慌てて両手をクロスし防ぐクロ。
    「がはっ!?」
     両手でガードした瞬間、横合いから何発もの拳打を食らい吹き飛んだ。
     コンビネーションの最後を飾ったのは遠野森・信彦(蒼狼・d18583)だ。
    「くっそぉ、油断した!」
     狼のごとく獰猛な笑みを浮かべ、クロが元気よく起きあがる。
    「いいさ! ライバルのあいつと決着をつける前哨戦だ! 相手してやんぜ!」


    「鉄爪拳!」
     クロが挑発してくる裕士を狙って来るが、そこに力生が割って入り裕士を守る。
    「またかよ!」
     挑発してくる裕士を執拗に狙うクロは、何度目かの力生の妨害にイラ立っていた。
     そして意識がソレた瞬間、ナイフの刃を煌めかせながら夕が飛び込んでくる。
     正確無比な剣筋はクロが強引に避けてもその脇腹を抉り斬った。
    「くそ、さっきからチョロチョロと!」
     クロが夕を睨みながら叫ぶが、そうしている間にも螢が祝福の言葉を乃乗せた風で前衛達をまとめて回復する。
    「相変わらず我が弱いのか心配性なのか……」
    「前に出て戦いたかったか?」
     そんな螢の意を汲むのは力生だ、拳の握力を確かめながら礼も言う。
    「気にしないで。それに、今回はそれだけじゃないでしょう?」
     螢の言葉に他の仲間も頷く。
     クロはアンブレイカブルとしては未熟な方なのだろう、しっかり対策を取って相対すればピンチにはならずに灼滅できそうではあった。だからこそ、クロの得意な気魄を織り交ぜた気術2色での攻撃は非効率で……。
    「オ、オレは……シ……ロ……決着……」
     やがてボロボロになったクロが必死に立ち上がり拳を構える。
    「(こーいうの、苦手なんやけどな……でも、頑張るしかないわ)」
     心の中で呟くと同時、裕士が叫ぶ。
    「そろそろ終いや! ここからは覚悟あるもんだけでいくで!」
     突き出した両手から激しい風の刃をクロへ叩きつける裕士。
     風で一瞬身動きが取れなくなるクロ。
     そこに躊躇無く飛び込んで行ったのは陽己だ。
     非実体化させた刀身で一気にクロを斬り捨てる。
    「オレは……まだ……」
     足りない。
     次は信彦と達郎がお互いに頷き合う。
     先に動いたのは達郎だ、龍が食らいつくように3本の杭が回転しながらクロへと迫る。
     クロは2本の手で杭を抑え込もうとするが。
    「両手でこと足りるとか、甘いぜ!」
     達郎の気合と共に掴まれていない3本目の杭がクロの腹にめり込んでいく。
    「こ、このぐらいじゃ……!」
     クロが強引に2本の腕で押し返そうと――。
    「武闘大会ってのは燃えるけどな……」
     背後から聞こえる声、信彦がクロの背へと手を付き一気に魔力を流し込む。
     どさッ……。
     倒れ込むクロ。
    「ま、勝ち進む度に強くなるなら、その前に潰すだけだ」
    「お前じゃ少し、力不足だったな」
     信彦と達郎が呟き倒れたクロに背を向け――。

    「黒牙旋風脚」

     背後から声が聞こえると同時、前衛全員が衝撃波で吹き飛ばされる。
    「オ、オレ……は……」
     そこには満身創痍で立ち上がったクロの姿があった。
     なぜ立ち上がれたのか。
     何かの想いが灼滅者のように凌駕したのか。
     それともトドメを刺すと闇堕ちするという仕様に、無意識に信彦も達郎も躊躇していた(もちろんたった1つのボタンを押すか否か程度)からだろうか。
     とにかく……自然、フィニッシュの効果を持つ者へと視線が集まる。
    「まかせるでゴザル」
     そう言うと高く跳躍するハリー。
    「必殺、ニンジャケンポーご当地キーック!」
     クリティカルに命中させ、スチャっと着地を決めるハリー。
     その背後で、ついにクロは灼滅されたのだった。


    「オオオオオオッ!」
     叫ぶハリーから目を放さず達郎が仲間達へ聞く。
    「もちろん連戦だよな?……ま、帰りたい奴がいれば帰っても良いぜ?」
     双斧を構え直しつつ返事の解りきった問いを仲間にすれば。
    「ふざけるな!」
     陽己が叫ぶ。叫び続けるハリー、陽己はそこに別の人物を重ね合わせる。
     それは仲間だった男、闇堕ちし、二度と帰ってこなかった男。
    「二度と……もう二度と、諦めてたまるか!」
     ガランとクロ戦では捨てなかった鞘を放り投げる。
    「誰だって、犠牲になって良い訳あるか。絶対に……救うぞ」
     陽己の凄みある言葉に、誰もが緊張を高め強く頷く。
     そして――。
    「HAHAHAHAHAHA!……ふぅぅ、ベリーベリーグッドな気分デース」
     それはもうハリー・クリントンではなかった。
     忍者装束こそ素人目には同じだがその頭部は人間のソレではなく……栗だった。
    「栗……やて?」
     裕士が思わず呟けば、闇堕ちしたハリーはゆっくりとポーズを取り始める。
    「HAHAHA、自己紹介がまだデシタネ……ミーこそは絶滅しかけている世界4大栗の1つ、アメリカ栗の使者! その名のも――」
     シュババッと最後はスピードを付けてポーズを決め。
    「アメリカンご当地怪人、イガヘッド!」
     さらにポーズを変えて天を指差し。
    「ジャスティス!」
     決まった。
    「ちょ、まてやー!? お前なに完全にのっとられてんねん! お前がほんまに居る場所はそこちゃうやろ!」
     裕士がイガヘッドの空気に巻き込まれずにツッコミを入れる。
    「ノー、ミーこそイガヘッド……ジャスティス!」
    「アホか!」
     裕士がイガヘッドの腕を掴む。
     唐突の事に驚くダークネス。
    「絶対に8人で帰るんや。俺らだけやない、学園の皆も待っとる!」
    「ドンッタッチミー!」
     それでもイガヘッドの腕を離さない裕士。だが――。
     ドサッ……。
     裕士が糸が切れた人形のように倒れ伏す。
     見ればイガヘッドの手には細長い針のような物が握られ、裕士の血が滴っていた。
    「乱暴者は悪に決まってマース!」
     倒れた裕士を足蹴にする怪人。
    「彼はさっきの戦いで狙われ続けていたから……でも、私は違うわ」
     前に踏み出しつつ語るは螢。
    「ずっと支援だったから元気があり余ってるのよね」
    「ミーの忍術を防げると思っているなら、大きな間違いデース!」
    「そう? あなたの攻撃は1つも通させないつもりだけど?」
     イガヘッドの挑発に不敵に返す螢。
     そんな螢とは逆に仲間達の後ろへと周るのは力生だ。
     壁役と治癒役を螢と交代する。ポジションのスイッチ、これは優秀な作戦だと言える。
    「俺は、父から正しく生きろと教えられた……お前はどうだ?」
    「HAHAHA! せっかく手にしたフリーダム、ミーの邪魔をするなら……慈悲は無いデース!」
     力生の問いを無視し、鋭い栗の刺のような針を構えるイガヘッド。
     そして闇堕ちした仲間との戦いが始まった。

     戦いながら、クロより強敵だとほぞを噛むのは夕だった。
     螢が前衛に出なかった場合、自分が前に出て戦おうと思っていたのだが……。
    「HAHAHA、それは残像デース!」
     ドグマスパイクを回避されたのは何度目だろう。
     それでも何度か命中させれたのはスナイパーゆえだ。
    「くそっ!」
     舌打ち混じりに吐き捨てるのは達郎だ。達郎も夕と同じく気魄と術式のサイキックしかもって来なかった1人だ。
     ハリーや数人の仲間は事前に言っていたのだ、堕ちた時は神秘を弱点に……と。
     そしてそれらの積み重ねは戦いが長引く結果へ――。
    「はぁ……はぁ……」
     肩で息をするのは螢。
     なんとか皆を庇って戦っているが。
    「なぁ、お前はそれでいいのか?」
     イガヘッドが声の主、信彦を見る。
    「ダークネスに好き勝手されて、仲間を傷つけて、こんなのはお前だって嫌だろうが」
    「シャァラップ!」
     イガヘッドが信彦へと駆ける。
     左右に残像を作りながら距離を詰めてくるイガヘッド。
    「どっちかわからねーんなら!」
     信彦は右を縛霊手で薙ぎ払い、左に影業を飛ばして牽制する。
     ズッ!
     右のイガヘッドが消滅する。そして左のイガヘッドが……消滅した。
    「なに!?」
    「両方フェイクデース!」
     頭上からの声。
     完全に不意をつかれ動けない信彦、次の瞬間、のしかかられて大地へ倒れた。
     針に貫かれ血だまりが広がって行く。
    「お前……」
     信彦に覆いかぶさったのはイガヘッド、ではなく螢だった。
     イガヘッドの動きを読み信彦を庇ったのだ。
    「皆を守る、役目、ですから……これぐらいは、我を通させて下、さい……あとは――」
     言葉続かず意識を失う螢。
    「シット! まあ良いデス、順番が変わったダケデショウ」
     倒れた螢を見て呟くイガヘッドだが、すっくと立ち上がった信彦は告げる。
    「任せておけ」


     その後、イガヘッドの攻撃は信彦に集中した。
    「それでも、絶対……」
     信彦がオーラによって輝く右拳をイガヘッドの下顎へ叩き込む。
    『ぐは!?』
     だが、それと同時に信彦にイガヘッドのかかと落としが決まる。
     クロスカウンター。
     倒れたのは……。
    「み、峰打ち、デース」
     なんとか仁王立ちのまま宣言するイガヘッド。
     ノーガードで戦い続けた信彦がドサリと倒れる。
     しかしイガヘッドの疲労も相当なものなのだが、イガヘッドは残った5人に向け。
    「ユーたちに衝撃のトゥルーを教えてあげまショウ」
     息を整えながら言うイガヘッド。
    「ミーは、まだ本気ではありまセーン……今逃げるというのなら、見逃してあげマース」
    「本気じゃない、だと?」
     力生が聞く。
    「ソウデース、ビームも手裏剣も封印してマース、ユー達への攻撃も大怪我にはなっていないデース。なぜだかホワイ?」
     警戒しつつも顔を見合わせる灼滅者。
    「ミーにもワカリマセーン……ナンデデショウ?」
     真面目に首(栗)を傾げるイガヘッド。
     だが、灼滅者たちは思い当っていた。
     遠距離技と得良武器の封印、それらは事前にハリーが宣言していた事だ。
     つまりハリーもイガヘッドの中で抵抗し続けている!

     陽己の剣がイガヘッドの頭を狙うが、ガッと白刃取りするイガヘッド。
     だが、それは狙い通り。
     空いた手の平から風の刃が解き放たれイガヘッドの胴に命中する。
     吹き飛ぶその先にいるのは達郎だ。
     杭を回転させながら振りかぶるが、咄嗟に武器から手を離すと拳でイガヘッドを殴りつける。それは雷を纏った拳だ。
    「勝て! お前はこんな所で負ける様な奴じゃないだろ!」
     よろめくイガヘッド、そこにトドメとばかりに陽己も走り込む。
    「ミーはアメリカンなイガニンジャ、アメリカンこそジャスティス、ミーこそジャスティス!」
     イガヘッドの回し蹴りが達郎のコメカミにヒットし、一瞬で意識を刈りとられる。
     攻撃した後の隙を付こうと剣を振りかぶる陽己。
     だが、再びイガヘッドが動きその後ろ回し蹴りが陽己の顎へと命中する。
     凌駕すらできないご当地怪人のキック、しかも予想外の連続攻撃で一気に2人が戦闘不能となる。
    「あと2人……デース」
     明らかに満身創痍ながらも未だ立つイガヘッド。
     普通、闇堕ちした仲間の救出には8人が駆りだされる。
     今回はそれが7人であるだけでなく、前哨戦を行ったあとなのだ。
     少しずつ非効率な行動をとったツケが周って来ていた。
     だがそれでも……。
     夕が一気に距離を詰める。
    「まだ逃げないのデスカ?」
     夕が閃光百裂拳で何度も殴りつける。
    「逃げません」
     イガヘッドの身体が宙に浮くまで殴り終わり、夕が呟く。
    「最初から、誰一人、撤退は考えていませんでしたから」
     たぶん、どこかで灼滅者は撤退するもの……そうイガヘッドは思っていたのだろう。それが誤算だった。
     ヨロヨロと倒れそうになるイガヘッド、その身体を抱きとめるよう支えたのは力生だ。
    「ま、まさか……エスケープしないだなんて……クレイジー、デス」
     イガヘッドが放せと言わんばかりに力生に針をつきたてる。
     だが力生は放さない。
    「偽物の出番は終わりだ。戻ってこい、本物の、正義のヒーロー」
     流れた血が手にしたガトリングガンへと流れ込み、それが火となり零距離でイガヘッドに撃ち込まれる。
     イガヘッドから力が抜け、大地へと倒れる頃には金髪のハリーの顔へと戻っていた。
    「戻ったんだ、な」
    「皆の、おかげで、ござるよ……」
     ハリーの言葉に力生が。
    「任務は完了だ。さあ、学園へ帰ろう」
    「ハハ……もちろん、でも……少しだけ、今は、ゆっくりしたいでござる」
     大の字で言うハリーの言葉に異を唱えるものはいない。
     荒々しい波の音が、今だけは子守唄のように聞こえたのだった。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 20/感動した 5/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 6
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