正義の心は躊躇わない

    作者:飛翔優

    ●それは、とある夕方に起きてしまう殺戮劇
     人が増えれば街は賑わう、トラブルも否応なしに増えてしまう。
     時は夕刻、場は社会人や学業を終えた学生たちでごった返す渋谷駅。出口近くの待ち合わせ場所で、一人の女子高校生が五人の男たちと口論を行っていた。
     女子高校生の後ろには、震えている一人の少女。会話の端々からは男たちが少女をナンパしていたこと、無理やり連れ出そうとしていたことが伝わってきた。
     数の優位を確信してかニヤつく男たちに、女子高校生は言い放つ。
    「大の大人が、こんな事をして恥ずかしくないの? ま、警察を呼ぶよう頼んだから調子に乗れるのも今のうちだけど」
    「なんだと!」
     警察を呼んだ。その言葉に激昂し、一人の男が女子高校生を突き飛ばした。
    「きゃっ!?」
     女子高校生は勢いを殺せず、街灯に頭をぶつけてしまい倒れ伏す。一秒、二秒と時を重ねても起き上がらぬ様子に、人々がざわつき始めていく。
     救急車を呼んだほうが……との言葉も聞こえ始めた時、女子高校生の体が蒼に染まった。
     腕が、足が、体が頭が肥大化し、蒼の巨人……デモノイドへと変貌する!
     渋谷駅前は血に染まる。女子高校生が助けたかった少女ですら命を落とす。抗えるものなど一人もいない……。

    ●放課後の教室にて
     集まった灼滅者たちを前にして、倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は小さく頭を下げた。
    「とある女子高校生がひょんなきっかけからデモノイドと化し、殺戮を行ってしまう……そんな事件が発生しようとしています」
     デモノイドとなった彼女は、理性もなく暴れ回り多くの被害を出してしまう。しかし、今ならばデモノイドが事件を起こす直前に、現場へと突入する事ができる。
     また、今回の場合、デモノイドになったばかりの状態ならば、多少の人間の心が残っている可能性がある。
     人間の心に訴えかけることができれば、灼滅した後に、デモノイドヒューマンとして助け出す事ができるかもしれない。
    「救出できるかどうかは、デモノイドとなった彼女が、どれだけ強く、人間に戻りたいと願うかどうかにかかっています。そのため、デモノイドとなった後に人を殺してしまった場合は人間に戻りたいという願いが弱くなる可能性が非常に高いため、助けるのは難しくなってしまうでしょう」
     そのため、迅速に行動を行う必要がある。
     続いて……と、葉月は地図を広げながら説明を続けた。
    「事件が起きるのは東京都渋谷区の駅前。時刻は夕方四時頃になります」
     デモノイドと化してしまう女子高校生の名は天野梨恵、十五歳。明るく活発な、正義感に溢れる少女。
     友人と買い物来ていたその日、出入口近くで一人の少女を強引にナンパしようとしてる五人の男を発見した。友人に警察を呼ぶよう頼んだ上で仲介に入り、口論の末突き飛ばされ、頭を打ったことがきっかけでデモノイドに……というのが当日の流れである。
    「ですので、梨恵さんが頭をぶつけた直後が勝負になります」
     何とかして飛び込み、デモノイドと化した梨恵の気を引き、一般人も逃がす。
     それを行った上で本格的な戦いに移行する事となる。戦って勝利した上で、梨恵に人間の心が強く残り人間に戻りたいと願っていた場合に、彼女はデモノイドヒューマンとして生き残る事ができるのだから。
     敵戦力はデモノイドと化した梨恵のみ。力量は八人を相手取れる程度で、一撃受けただけでもレッドゾーンに突入しかねないほどの破壊力を持っている。
     攻撃方法は、腕を無造作に振り回し加護ごと周囲を砕く、円柱状に変化させた腕を振り下ろし毒などに耐える力を得る、両手の指をピストルに変えて掃射する、の三種を無秩序に用いてくる。
    「以上で説明を終了します」
     地図など必要な物を手渡し、葉月は灼滅者たちを見据えていく。
    「梨恵さんは本来、正義感に溢れる少女。殺戮など望んでいようはずもありません。ですから……」
     頭を下げ、締めくくった。
    「どうか、全力での救済を。何よりも無事に帰ってきて下さいね? 約束ですよ?」


    参加者
    透純・瀝(エメラルドライド・d02203)
    月雲・悠一(紅焔・d02499)
    碓氷・炯(白羽衣・d11168)
    亜寒・まりも(メリメロソレイユ・d16853)
    河内原・実里(誰が為のサムズアップ・d17068)
    湊元・ひかる(コワレモノ・d22533)
    成瀬・ピアノ(敬天愛人・d22793)
    琶咲・輝乃(過去と知識を想いし者・d24803)

    ■リプレイ

    ●正義の御手は穢させない
     空が淡い炎の色に染まり始めていく夕刻の、様々な人々でごった返す渋谷駅前。天野梨恵が五人の男たちと言い争っていた。
     そんな、梨恵がデモノイドと化してしまう光景を前にして、柱の陰に身を隠す河内原・実里(誰が為のサムズアップ・d17068)は物陰にライフルを置いていく。
    「今回は、このシールドか。使い慣れてないが、仕方ない」
     防衛領域を展開する盾を腕にはめながら、改めて梨恵たちの様子を伺っていく。
     数秒後、男の一人が梨恵を突き飛ばした。
    「行きましょう」
     碓氷・炯(白羽衣・d11168)は混乱をもたらす力を放つと共に駆け出していく。
     亜寒・まりも(メリメロソレイユ・d16853)は遊園地の乗れる熊に似たライドキャリバーのヘペレに避難誘導を指示しつつ、頭をぶつけ体を蒼く染めていく梨恵に刃へと変貌させた腕で斬りかかった。
    「天野おねーちゃん!!」
     蒼く肥大化した方へとぶつければ、梨恵の視線をまりもへと向けられた。
     瞳に宿る光が、戸惑いから殺意へと代わった。梨恵が、理性なきデモノイドへの変化を完了させたのだ。
     デモノイドは腕を円柱状の柱へと変化させ、ゆっくりと振り上げて――。
    「こっちだぁああああ!!」
     ――まりもへと至る軌道上に、ライドキャリバーのスロットに跨る実里が割り込んだ。
     防衛領域を全開にした盾を掲げ、円柱状の柱と真正面からぶつかり合っていく。
     タイヤが地面と擦れ空い、白い煙を上げていく。エンジンも異常な音を奏でたが、実里が後退指示を出すことはない。
     ただただデモノイドの瞳を、その向こう側で震えているだろう梨恵を見据えていく。
    「キミの正義のあり方は、そうであってはならない」
     少女を助けようとした梨恵が、デモノイドとして暴れること。そんなこと、彼女が望んでいようはずもないだろう。
     事実、盾とぶつかり合う力が僅かに緩んだ。
    「そう、キミは正しい事を正しいと言え、行える。そんな力もきっと正しい事に使える。負けるな!」
     力を込めて押し返し、一旦デモノイドの後方へと走り抜ける。
     振り向いた時、デモノイドは己の手を見つめていた。
     悶えるように、腕をむちゃくちゃに振り回した。
     最悪へと至る可能性を完膚なきまでに潰すため、月雲・悠一(紅焔・d02499)が少女の方へ振り下ろされた腕を真紅の光で受け流し、赤き戦鎚で受け止め、跳ね除けた直後に頭をぶん殴られた。
     視界が霞む。
     倒れはしない。
     膝をつくことすら全力で耐えた。
     体中から炎を燃え上がらせながら、焦点を取り戻そうとしている瞳でデモノイドの瞳を見つめていく。
    「正直な話、君の正義感の強さはすごいと思う」
     恐れることなく、五人の男に立ち向かっていった梨恵。正義感があっても、中々できることではない善行だ。
    「だからこそ、感情に飲まれて力を振るっちゃいけない。絶対に助けるから、少しだけイタイのを耐えて欲しい」
     救い出すためには、梨恵が意思を強く持つだけでは足りない。
     倒さなければならないのだと、静かに微笑み真紅の閃光を放っていく。
     今はまだ、ぶつかり合いデモノイドの意識を引き続ける。避難誘導が完了するまではそれが……梨恵が人を殺めない事が最優先事項なのだから……。

     灼滅者たちの操る力に掻き立てられ、駅や商店、大通りへと逃げていく一般人。
     早々なる避難を完了させるため、戦場から離れ誘導に注力する灼滅者たちが数人。
     その一人、右顔を桜咲く仮面で隠した琶咲・輝乃(過去と知識を想いし者・d24803)は遮る事のできぬ力を喉に込め、駅の方角を示し続けている。
    「ここから逃げて、できるだけここから離れるか、建物の中に入って」
    「虹、こちらの子供を乗せてってくれ。俺はお婆さんを連れて行く」
     透純・瀝(エメラルドライド・d02203)も霊犬の虹と共に、上手く動けない子どもや老人、けが人などを率先して建物へと導いていた。
     同様に避難指示を出しながら、湊元・ひかる(コワレモノ・d22533)は足を震わせる。
     使命感や正義感、そんな立派な理由で動いているわけではない。
     逃げている普通の人達に向けられる力を、ただ見てることなんてできないから。人が死ぬのを見たくはないから。……ただただ恐怖に駆られるまま、デモノイドに殺さないでと願うのだ。
     屑で役立たず。いても皆の足を引っ張るだけだけど、何もしなかったら好きな人に嫌われてしまう。そんなのは嫌だから……そんな、後ろ向きな理由で動いているに過ぎない。人を助けることなんて、できるはずもないのだけれど……。
     ――事実は違う。彼女によって避難に成功した者も数多い。他の者たち同様、人々には救いの女神に見えていただろう。
     震えながらも怯えながらも、確実に、着実に、己の役目を果たしているひかるから、成瀬・ピアノ(敬天愛人・d22793)は安堵の息を吐くと共に視線を外す。改めて、大きな声を上げていく。
    「早く逃げよう!」
     逃げ遅れる者がいないよう。少しでも早く戦場へ、梨恵の救出へと戻れるように……。

     デモノイドの一撃は重い。全て、二撃受けられるかも分からない。
     攻撃対象は散らさなければならない。
     故に炯が魔力を込めた脇差しの峰で左腕をぶん殴り、魔力を爆発させた。
    「っ!」
     構う事なく流れた腕を、峰で受けながらふっ飛ばされるままに後退する。
     なおも風を唸らせ振り回される腕を悠一は真正面から受け止めた。
    「こっちだ!」
     体中から更なる炎を滾らせながら、デモノイドの足元へと転がり込み真紅の光纏う拳でぶん殴る。
     視線が悠一の方角を向いた直後、腕を刃へと変貌させたまりもが反対側から斬りかかった。
     一斬、二斬と折り重ね関節へと食い込ませた時、ギラつく視線を向けさせる事に成功。強い光を湛えた瞳で見つめ返していく。
    「天野のおねーちゃんは、人を傷つけたりはしたくないんだよね。……本当は守りたい筈だよね」
     人を助けたい梨恵が、人を傷つけたりしたいわけがない。だから早く目を覚まさせてあげたいのだと、関節に食い込む刃に更なる力を込めるのだ。
    「沢山の男の人に立ち向かえる程強いおねーちゃんが、自分の中の闇なんかに負ける訳ないよね」
     返事はない。
     代わりに腕が円柱状に変化し、ゆっくりを振り上げられていく。
     構わずまりもは言葉を続けた。
    「早く、目を覚ましてよ! ほんとうの天野のおねーちゃんに戻って!」
     刃を引き、一歩退いていくまりも。
     デモノイドは踏み込み腕を振り下ろす。
    「っ!」
     硬質な音が響いた。
     再び、タイヤが煙を上げ始めた。
     実里が、スロット共に体を割りこませ受け止めたのだ。
    「うおらぁあああ!!」
     気合と共に押し返し、体中をきしませながらも勢いのままに背後を取っていく。
    「ありがとう、河内原おにーちゃん! ……あっ!」
     まりもが頭を下げた時、聞き慣れたエンジン音が聞こえてきた。
     視線を向ければ、ヘペレと避難誘導を行っていた仲間たち。改めて周囲を見回せば、すでに一般人の姿はない。
    「それじゃ、ここからが本番だね! ヘペレ、力一杯戦うよ!」
     更なる力を拳に込めて、まりもはデモノイドへと向かっていく。
     もう、デモノイドが人を殺める事はない。後は可能な限り素早く倒し、梨恵を救出するだけ……!

    ●心のままに、想いの果てに
     デモノイドを抑えていた者たちの疲労は大きい。
     合流後、すぐさま治療が始まったが、専任者はひかるとナノナノだけ。両面を担う輝乃も治療に意識を傾けたが、ギリギリ安全圏へ持っていけるか否かといった所。幸いなのは、実里がサポート役に移動し優先順位が下がった点だろうか。
     故に、万全に近いピアノは率先してデモノイドの気を引いた。
     円柱状に変化した腕の一撃を己の意志がままに輝く刃で受け止めて、鍔迫り合いへと持ち込んでいく。
    「……天野さん、今怖くない? 助けたい人を傷つけるかも知れなかったんだから」
     さなかには素早く体を寄せ、優しく語りかけていく。
    「あの子、五人もの男の人たちに囲まれてて怖がってたよね。それを助けようとしてくれてたんだもん。絶対に言ってくれるよ。笑顔で、ありがとう、って」
     梨恵が、梨恵であるための言の葉を。怪物へと変わってなお、受け取るべき勲章を。
    「大丈夫、私達が手を貸すよ。ね、だから大丈夫。天野さんはあの子を傷つけたりしない」
     不意に、刃にかかる力が弱まった。
    「私はあなたを助けたい。あなたの正義感を守りたい。強い心を守りたい。そんな怪物に汚させたりはしない。だから……」
     押し返す代わりに身を捩り、刃先を蒼き腕に滑らせる。
     そのまま切っ先を胸に向け、ただ真っ直ぐに突き出した。
    「怪物の心に押し潰されちゃダメだよ」
     左胸へと突き刺して、熱く確かな鼓動を耳にする。
     ピアノが口元に笑みを浮かべて退く中、ひかるは喉を震わせていた。
     パニックに陥っていたであろう梨恵。説得が重なるに連れて徐々にデモノイドを抑えられるようになった彼女の心を、更に優しく穏やかな物へと変えるため。
     それでなお、全員を癒やしきる事はできていない。
     ナノナノが二択を迫られ、ひかるに命じられるまま悠一へとハートを飛ばした。
     治療しきれなかったスロットを巻き込む形で、デモノイドが腕を振り回す。受けきれなかったスロットが、一時的な消滅を迎えていく。
     口元を歪めながらも、輝乃はデモノイドから視線を逸らさない。
    「梨恵。あなたが今振るっている力は、確かに危ないものだと思う」
     事実、たった今スロットが消え去った。悠一や実里なども、次の瞬間には倒れていかねない状態。その中に、同様に守護を担うピアノやヘペレも加わろうとしている。
    「でも、ボクたちはあなたと同じ力を使える。梨恵を助けるために、使っている」
     静かな光を湛える左の瞳で示す先、まりもが元気よく刃へと変えた腕を振るっていた。それはここにいる誰よりも、デモノイドに……梨恵に近い能力だ。
    「今、あなたが振るっている力を、誰かを助けるために使える! だから、闇に負けないで!」
     この場さえ脱することができたなら、梨恵もまた闇に抗うための力を手に入れる。だからこそ輝乃は光輪を引き寄せ悠一へと投げ渡すのだ。
     デモノイドの動きが鈍っているのは攻撃を重ねたから、呪縛を重ねたから……だけではない。
     梨恵が心を奮わせている、それが、最も大きな理由のはずだから……!

     腕によるなぎ払いは前衛陣を無慈悲に、平等に一撃を与えていく。
     誰をも癒やさなければならない状況だから、ひかるは歌い続けていく。
     ナノナノもピアノへハートを渡したが、次なる標的はヘペレ。円柱状の腕に叩き潰されて、一時的な消滅へと追い込まれていく。
     更に、即座にデモノイドの指先が変貌し、後衛陣への掃射が始まった。
     瀝は防衛領域を全開にし、影の花も咲き誇らせた。
     花を砕き、領域の隙間を抜けてきた弾丸を浴びてなお、瀝は口元に笑みを浮かべていく。
    「うへぇ、効くなぁ。でも大丈夫だぜ、あんたはもっと強いんだからな」
     戻ってこれると信じているから。本来望んでいた形を取り戻せるはずだから。
     だから……。
    「……こんな時はな、たいてい絶対的な暴力が勝っちまうんだ」
     伝えていく、己の思いを真っ直ぐに。
    「だけど、心が何よりも強い時ってのがあるんだぜ。少なくとも俺は見てきたからな」
     救い出す、ただその想いを力に変えて。
    「あんたも証明してくれよ! 頼りにしてるぜ!」
     虹の放つ六文が導くままに、デモノイドの腕に注射針を突き刺した。
    「俺達が勝ったらあんたの勝ちだぜ。不思議だな?」
     視線を向けられればニカッと笑い、力を貰って飛び退る。
     デモノイドは後を追うように腕を振り上げるも、それが振り下ろされる事はない。
     止めてくれたのだ、梨恵が。全力で!
     震えるデモノイドの背後へと、炯が音もなく回り込む。
    「……背中ががら空きですよ」
     静かな言葉と共に、魔力を込めた峰で背中を強打。魔力を爆発させた上で退いて、脇差しを非物質化させていく。
     一呼吸遅れて、デモノイドは輝乃に向かって腕を振り下ろした。
     輝乃は避けない、動かない。真横を砕いていく様を見つめた後、瞳を細め懐へと踏み込んだ。
    「ボクに続いて。ここで終わらせるよ」
     拳を連打し、押し返す。
     呼応し大槌が肩を砕く。刃が外殻を切り裂けば、杖が蒼にひびを入れていく。弾丸が爆発すれば燃え上がり、光輪は縦横無尽に切り刻んだ。
     影が手足を捉えた時、炯があえて正面へと回り込む。
    「貴方は正しいことをしました」
     非物質化させた脇差しで、デモノイドであるための力を両断する。
    「ここで暴れれば、貴女の成そうとした正義が台無しになってしまう。けれど、そうはならなかった」
     消え行く蒼の中へと踏み込んで、ただ真っ直ぐに手を伸ばした。
    「貴女が抗う事ができたから、僕達が救いだすことができたんです」
     暖かな腕を掴みとり、倒れぬよう引き寄せる。
     小さく、けれども確かに頷き返してくれた梨恵に、瀝が笑いかけた。
    「お帰り、梨恵。言った通りだったろ?」
     梨恵が勝利したのだと伝えるために。

    ●躊躇わぬ心の向かう先
     傷の手当てや周囲の片付け、力の解除やスロット、ヘペレの復活……梨恵を介抱する傍ら様々な事後処理を行う最中、まりもは不満げに唇を尖らせた。
    「不良さんたち逃げちゃったみたい。ひきょうものー」
     ヘペレがそんな彼女に寄り添う内に、ベンチに寝かされていた梨恵が目覚めた。
     体を起こした梨恵は、姿勢を正し灼滅者たちへ感謝の言葉を投げかけた。
     正面から受け取る形になったピアノは、優しく微笑み返していく。
    「どういたしました。それと……おかえりなさい」
    「……うん、ただいま」
     頬を染め、梨恵は屈託のない笑顔を浮かべていく。体も心も無事だと伝えていく。
     だから悠一は歩み寄り、学園の連絡先を手渡した。
    「具体的な説明は場所を移したから……の方がいいか?」
    「ここでもいいけど……とりあえず友達に連絡しないと」
     警察を呼んで欲しいと別れた梨恵の友人。おそらく、先ほど避難させた者の中にいる。
     故に、連絡を行い待つ。
     さなかに学園のことを説明し、実里が手を差し伸べた。
    「梨恵となら、やっていける。どうだい?」
    「……うん、そうね。私も、この力が役に立つんなら……」
     力強く握り返してくれたから、快活な笑顔でサムズアップ。
     笑い合い落ち着いた頃を見計らい、瀝が反対側の手を取り引っ張り起こした。
    「えっ」
    「ええと、ほら、立ってまっすぐ進まえねえと。いや、あんたはそういう人に見えたからさ」
     正義が故に、デモノイド変化への引き金を引いてしまった梨恵。それを経験した今ですら、本質はおそらく変わらない。
    「……そうね。うん、ありがとう」
     力強い笑顔がその証。
     正義の心を曲げぬまま、彼女もまた、武蔵坂の門戸を叩く!

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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