白昼堂々! 迫る死者の群れ

     かつては買い物客でにぎわっていたこの大型スーパーマーケットも、不況の影響か、今は閉鎖されて解体工事を待つばかりとなっている。
     しかし――今日は工事の騒音すらなく、ショッピングモール内は不気味に静まり返っている。
     いや、耳を澄ませば、非常階段を駆け上る靴音。
     作業服の男が、屋上のドアの向こうから転がりこんできた。
    「ひいいいっ!」
     悲鳴を上げつつ、男はもつれる足で何かから逃げようとしている。
     その「何か」が、異臭とともに姿を現した。
     皮膚のはげ落ちた半顔に死相を浮かべたその目は白く濁り、この世のどこも見てはいない――動く死体、ゾンビ。
     生ける死者の本能か、緩慢に、しかし確実に男を屋上の端へと追い詰めていく。
     男は逃げ場のない屋上へ来てしまった自分の愚行を呪うことすらできないまま、地上へと身を投げた。
     みなさん、集まってくれてありがとうございます。
     エクスブレインの園川・槙奈(そのかわ・まきな)です。
     あの、覚えてますか?
     ちょっと前の事件……そう、閉鎖された遊園地にゾンビが現れた、っていう……。
     鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)からの報告で、あれと同じような事件が、今度はスーパーマーケットで起こることがわかったんです。
     今度の相手も同じゾンビで、数は10体。
     まとまった行動は取ってません。施設内に散在してるみたいです。
     集団で囲まれて、っていうことはないでしょうけど、逆に全部のゾンビを見つけ出すのはなかなか難しいと思います。
     建物、広いですし……。
     それにゾンビの中に2体、特別強いのがいます。
     このゾンビは口から強酸性の粘液を吐きかけてきます。
     障害物を溶かしてしまうので、壁とかに隠れてやり過ごす……っていうのは難しい、でしょうね。範囲も広いのでうまく避けてください!
     スーパーマーケットは3階建てで、解体工事はまだあんまり進んでません。
     商品が運び出されているくらいで、棚や照明なんかはまだ残っています。
     成功条件はもちろんゾンビの全滅。
     広い場所だけじゃなくて、トイレや警備員室なんかも念入りに探すようにしてください。施設全体をまんべんなく調べる必要があります。
     スーパーマーケットにゾンビなんて、なんだか映画みたいなシチュエーションですよね。
     でも、ハリウッドヒーローが助けに来てくれる……なんてことは期待できません。
     皆さんの力で、ゾンビたちを倒してきてください!
     あ……も、もちろん、無事に帰ってきてくれないとだめですからね!


    参加者
    織元・麗音(ブラッディローズ・d05636)
    霧渡・ラルフ(愛染奇劇・d09884)
    白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)
    セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)
    夜桜・紅桜(純粋な殲滅者・d19716)
    佐門・芽瑠(歩く速射砲台・d22925)
    セトラスフィーノ・イアハート(編纂イデア・d23371)
    天目・宗国(生太刀の刀匠・d24544)

    ■リプレイ

     夕方の空にそびえたつ無人のショッピングモールは、これからの惨劇を暗示するように、壁面を血の色に染め上げている。
    「ショッピングモールにゾンビ……ふふ、あつらえたようなシチュエーションですね。うふふふぅ……楽しみ、楽しみだわぁ」
     ピクニックにでも来たように楽しそうにしているのは、織元・麗音(ブラッディローズ・d05636)。
    「アメリカの映画によくあるシチュエーションでしたっけ?」
     どこか人を食ったような漂然とした口調でショッピングモールを見上げているのは、霧渡・ラルフ(愛染奇劇・d09884)。
    「紅桜嬢は、ゾンビ退治のご経験は?」 
    「ボク? んー、探索しながら、っていうのは今回が初めてかな。ま、うまくやるよ」
     そう問われた夜桜・紅桜(純粋な殲滅者・d19716)は、長い黒髪をかき上げながら得意げに微笑んで見せた。
     敷地内に足を踏み入れた一行を、不気味な静寂が迎えた。
     3階建てのスーパーマーケットは、まるで巨大な墓標のようだ。
    「これは結構、骨の折れるお掃除になりそうなのよ」
    「確かに広いけど、でもまあゾンビ10体で済むんだから、さっさとカタつけちゃおうぜっ」
     背丈ほどもある巨大なハンマーを軽々と肩に担いだ天目・宗国(生太刀の刀匠・d24544)が、建物を見上げながらつぶやくのに、茶色の髪をなびかせた、少女と見まごう可憐な容姿をした少年、白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)が応じる。
    「ゾンビ退治ですか……突然扉が開いて現れるイメージですがどうなのでしょうね。セトラスさんは、ゾンビはお好きですか?」
    「うーん、あんまり好きな人はいないんじゃないかな……でも、ちょっとわくわくかもっ」
     神秘的な色をたたえる紫色の瞳をしばたたかせているセレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)の質問に、セトラスフィーノ・イアハート(編纂イデア・d23371)は、興奮したように両手を胸の前でぎゅっと握りしめて答えた。
     商品が撤去され、照明の落とされたショッピングモールは、もうそれだけで異世界の様相を呈している。
    「私も楽しみですよ、掃討戦っていうだけで。ふふふ……」
     佐門・芽瑠(歩く速射砲台・d22925)が、愛用のガトリングガンを構えつつ薄く笑っている。
     白い肌と銀髪が、モール内の薄暗闇にぼんやりと浮かび上がるようだ。
    「ふぅん……これは隠れる場所には困らなさそうですね」
    「とはいっても相手はゾンビ、身を隠して奇襲……なんて知恵はないでショウ」
    「でも、くまなく探さなきゃいけないのには変わりない……なのよ」
    「じゃあ打ち合わせ通り、班分けだな。オレはB班だったよな」
     A班は紅桜、芽瑠、セトラスフィーノ、宗国。
     B班は麗音、ラルフ、ジュン、セレスティと別れている。
    「探索済みの場所に鳴子を仕掛けるの、忘れないようにしなきゃですねっ」
    「ふふ、セトラスさんったら、はしゃいじゃって」
    「障害物多いなあ……ボク、ちょっと戦いにくいかも」
    「では、そろそろ出発しまショウか。みなさん、しばしのお別れデス。ごきげんよう……」
     大げさなお辞儀をするラルフに笑みをこぼしながら、一行は建物の両側へと別れて進んでいった。
     1階は食品売り場だ。
     ブースの中、倉庫などを確認しつつ進んでいく一行。
     と、紅桜が倉庫へのドアの前で足を止めた。
    「いる……?」
     おそるおそる尋ねるセトラスフィーノに、ドアの前の紅桜は目顔で肯定する。
     目くばせし、ドアの左右に紅桜と宗国が、少し離れたところに芽瑠が陣取る。
    「じゃ、開けるよ……」
     セトラスフィーノがそろりとドアノブに手を伸ばし――その瞬間ドアが内側から破られた!
     破ったのは、バールを握った腐りかけた腕。
     ばりばりとドアを力任せに引き裂いて現れたのは、2体のゾンビだ。
     緩慢な動作で振りかぶられたバールの爪が、壁を削りながら迫る!
    「させませんっ!」
     バベルブレイカーでバールを受け止めつつ、セトラスフィーノはそのままバールをひっかけるようにして1体を投げ飛ばす。
    「ふふふ、追い打ち、行きますよ」
     ゾンビがフロアにたたきつけられるのを待たず、芽瑠のガトリングガン掃射がゾンビをハチの巣にする。
    「はいはい、こっちこっち~……なのよ」
     もう1体のゾンビの攻撃をさばきつつ、宗国は横目で隠れていた紅桜に合図を送る。
    「しゅっ!」
     鋭い呼気とともに繰り出された突きは、見事一撃でゾンビの頭を貫いた。
     そのまま穂先をひねると、ゾンビの頭が床に転がった。
    「ふう……2体くらいならこんなものなのよ」
    「さて……B班のほうはどうかしらね?」
     一方、B班は――。
     1階の探索を終えて2階、衣料品フロアへの階段を上っていた麗音が、後続の仲間に「待て」の合図を送る。
     手すりに身を隠しつつ、立ち並ぶマネキンの林の向こうをうかがう。
    「お客さんは何名ほどご来店でショウ?」
    「3名様、です……こちらには気づいてませんね」
    「では、一気に……?」
    「じゃあ、オレが2体ひきつけるから、残りの1体、頼むぜ……!」
     落ち窪んだ眼窩が一行を向いた時には、すでにジュンのきゃしゃな体はフロアのど真ん中に躍り出ていた。
    「マジピュア・ウェイクアップ!」
     叫ぶなり、薄暗いフロアが真昼の明るさに反転した。
     光が収まった時には、ジュンはきらびやかなコスチュームに身を包んだ姿に。
     そのままチェーンソー剣を振りかぶり、ゾンビの頭上から振り下ろす。
     刀身を受け止めようとした大型のナイフが火花を散らす。
    「お背中、失礼しますね……!」
     その背後から、マテリアルロッドをビリヤードのキューのように構えたセレスティが、ロッドの先端をゾンビの背中に突き立てた。
     ジュンが素早くバックステップで飛び退るのと、フォースブレイクのエネルギーがゾンビの半身を吹き飛ばすのが同時。
    「さぁてもう1体! セレスティさん、行きますよ!」
    「ふふふ、ジュンさんったら、はしゃいじゃって……」
     柔和な笑みを浮かべて、セレスティはロッドを構えなおした。
    「向こうはなかなか派手にやってるみたいですね」
    「では、こちらも負けずに派手にいきまショウ」
     麗音とラルフのいるほうには、大きな斧を持ったゾンビが向かってきた。
     大きく振りかぶられた鉈が、横薙ぎにラルフを狙う。
    「では、切り刻んで差し上げますね?」
     ぶうん、と大鎌を振りかざし、麗音がそれを弾き飛ばす。
     赤いドレスを翻して刃をふるうたび、まわりに林立するマネキンの首が飛び、胴が切り裂かれる。
     その破片を器用によけながら、ラルフは愛用の斬艦刀を抜く。
     暗がりの中、湾曲した刀身が三日月のように浮かび上がった。
    「ふッ!」
     気合一閃、逆袈裟に振るわれた麗音の大鎌が、斧を持った両腕を切り落とす。
     ほぼ同時にラルフの一閃が、ゾンビの胴体を両断した。
     残った1体も、ジュンとセレスティが押している。
    「マジピュア・ハートフラッシュ!」
     ジュンの放った閃光がゾンビの右腕を吹き飛ばした。
     残った左腕が振りかざしてきた鉈を、セレスティがロッドの先端でからめ捕る。
    「えいっ!」
     隙を逃さず放たれたティアーズリッパーが、袈裟がけにゾンビを切り裂いた。
    「鳴子の音は……まだ聞こえませんね。大丈夫みたい」
    「このままいけば、A班と3階で合流できますね。一応ハンドフォンで連絡しておきましょう」
    「えーと、あと残ってるのは……」
    「連絡終わりました。A班は2体倒したみたいですね。だから、あとはゾンビが5体と、ボスが2体……」
    「怪我とかは、大丈夫そうですか?」
     心配そうな顔をするセレスティに、麗音は優しく笑って見せた。
    「みんな無事みたいです、大丈夫」
    「さて、では最後のパーティ会場へ向かいまショウか」
     ラルフの言葉に従って、一行は3階への非常階段を上り始めた。
     その頃、A班は――。
    「しっ! 止まって……」
     先頭に立って3階への階段へ向かおうとしていた紅桜が、足を止めた。
     紅桜は、あたりを鋭い目つきで見回している。何かを感じたらしい。
    「いるの……?」
     胸の前で両手を握りしめながら、セトラスフィーノがその視線を追うと、そこには非常階段へのドアがあった。
    「たぶん、中にいるよ」
    「階段かあ……上のほうから襲われると厄介そうなのよ」
    「でも、見過ごすわけにはいきませんね。扉ごとハチの巣にしちゃいます?」
    「芽瑠、撃ちたくてうずうずしてるのよ」
    「ええ、それはもう……」
    「悪いけど、も少し後にとっといて」
    「あ、はいっ。じゃ、慎重に……」
     恐る恐るといった感じでドアに手をかけるセトラスフィーノ。
    「開けたら、わたしと紅桜が飛び込んで様子を見るのよ」
    「見つけたら、一気にたたみこむのがよさそうだね」
    「よーし……じゃ、いち、にの、さんで開けますからね……。いち、にの……」
     セトラスフィーノが思い切り扉を開くと同時に、宗国と紅桜のふたりが暗がりに飛び込んだ。
     素早く視線を巡らせる――上に1体、下に1体!
    「見ぃつけたぁ!」
    「……なのよ!」
     奇しくも二人は同時に閃光百烈拳を放つ。
     それぞれ上と下に吹っ飛ばされ階段の手すりに叩き付けられるも、ゾンビは起き上がって手にした鉄パイプを振り下ろしてきた。
     狭い階段の上ではよけるスペースもない。
     防戦一方になるかと思えたが、ゾンビの無防備な背中にセトラスフィーノのバベルインパクトと、芽瑠のマジックミサイルが突き刺さった。
    「ふたりとも、大丈夫!?」
    「ボクのほうは大丈夫。宗国、キミは?」
    「へっちゃらなのよ。まだ本番も残ってるし、こんなところでへばってるわけにはいかないのよ」
     A班の一行は、そのまま非常階段で3階に移動した。
     扉を開けると、そこは書籍売り場。
     空っぽの本棚が林立していて、視界は悪い。
    「B班のみんなも、そろそろ――」
     来るかな?と言いかけて、セトラスフィーノはとっさに身を翻した。
     そばにあった本棚の一部が、じゅうじゅうと音を立てて溶けている!
    「ひゃあ、あっぶなーい……いきなりボスだよ!」
     暗闇の中、ゆらゆらと歩いてくるのは、ほかのゾンビよりも一回りほど肥大化したゾンビだった。
     大きく開けた口からは、緑色の粘液があふれている。
    「本棚は盾としては使えないね、じゃあまずは……」
    「ええ、言われるまでもありません。さっきからずうっと待ってましたよ」
     ガトリングガンを構えた芽瑠が歩み出るなり、一気に掃射!
     本棚はたちまち吹き飛んでいく。
    「おー、これで見晴らしがよくなったの。それじゃあ……」
     言うが早いか、宗国は一気に踏み込んで間合いを詰める。
    「切り捨てごめーん……なのよ」
     真正面から迫る粘液をかわし、抜き胴の要領でボスゾンビの脇腹を斬る。
     が、浅い!
    「ち、思ったより固いのよ……!」
     その脇から、残っていた2体のゾンビが襲ってきた。
     と、うす暗闇を白光が一閃、宗国を攻撃しようとしていたゾンビの腕を弾き飛ばす。
    「あ、みんなあ! セレスティも!」
    「セトラスさん! 無事でよかった……!」
     セトラスフィーノの視線の先にいたのは、B班のメンバーだ。
     服がすすけたりはしているものの、全員大きなけがはない様子だ。
    「パーティには遅刻せずに済んだみたいデスね」
    「せっかくのパーティーだけど、さっさと終わらせましょう?」
     おどけてそう言うラルフに、麗音が応じる。
    「残るはボスゾンビ2体にゾンビ2体か、一気に終わらせちゃいますよ!」
     暗いフロアは、ジュンのハートフラッシュと芽瑠の掃射で、たちまちライトアップされる。
     そのステージで、紅桜、セトラスフィーノ、宗国の3人とボスゾンビが対峙している。
    「いっきますよぉ!!」
     吐きかけられた粘液を、小柄な体を生かしてかわしつつ、まず最初にセトラスフィーノの閃光百烈拳が、ボスゾンビの腹に直撃した。
     ボスゾンビの巨躯はそのまま後ろに吹っ飛ば……ない!
    「こっちもぉ、くらええっ!」
     素早く背後に回り込んでいた紅桜が、同じく背中から百烈拳!
     さらに頭上、天井近くまで跳躍した宗国が、手にしたハンマーを全身のばねを使って振り下ろす!
    「おらららららぁー……なのよ」
     前後、そして上から攻撃を受け、ボスゾンビの巨躯は文字通り叩き潰された。
    「こちらも、一気に行きますよ」
    「ご一緒しまショウ」
     氷上を滑るような軽やかなステップで円を描いた麗音とラルフの一閃が、ゾンビの首を跳ね飛ばす。
     そのままの勢いで、最後に残ったボスゾンビの両腕を切り落とした。
    「安らかに、お眠りなさい!」
     金髪を闇になびかせて、セレスティが一気に間合いを詰め、肥大化したボスゾンビの腹を神霊剣で切り裂いた。
     緑色の粘液と赤黒い血をまき散らす、おぞましいスプリンクラーと化したボスゾンビから、そばにいたメンバーは素早く退避。
     ジュンのハートフラッシュと芽瑠の掃射がそこに集中し、ボスゾンビはほとんど爆発するように体液を吹きあげ、そして動かなくなった。
    「ふう。これで、お掃除完了なのよ」
    「はぁーっ、疲れたけど、なんだか映画みたいで楽しかったよぉ!」
    「ふふ、セトラスさんったら、相変わらずですねぇ……」
     場の空気は一気に和み、メンバーの表情もほぐれている。
    「あ! しまったぁ……」
     声を上げるジュンに、なにごとかと一行の視線が集まる。
    「いや……どうせ変身するなら、屋上でやればよかったなー、って」
    「なるほど。ヒーローショーといえば屋上ですからネ」
    「ラルフ、そこはヒロインじゃないんですか?」
     モールの中に、笑い声が響く。
     そこだけが、今この時だけ楽しかった時の空気を取り戻していた。

    作者:神室樹麟太郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ