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ガイオウガ、そしてスサノオ大神……。
大地を喰らう幻獣種共が「竜種」に目覚める日も、そう遠くはない……。
サイキックエナジーの隆起がゴッドモンスターさえも呼び起こしたこの状況で、未だ十分に動けぬとはいえ、日本沿海を我が「間合い」に収めることができたのは、まさに僥倖。
小賢しき雑魚共の縄張り争いも、王を僭称する簒奪者共の暗躍にも興味は無い。
我が望むは、我と死合うに値する強者のみ!
「武神大戦殲術陣」発動!
眠れる強者よ現れよ。武神の蒼き頂こそが、これより汝の宿命となるのだ!
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「アンブレイカブルの灼滅をお願いします。川崎に向かって下さい」
石切・峻(高校生エクスブレイン・dn0153)が切り出した。毎度のことだが、単刀直入。
「先般、柴崎・アキラを失った業大老一派が、新たな師範代を生み出すために『武神大戦天覧儀』を執り行うらしい」
武神大戦天覧儀。ホワイトボードに書いた文字は、四角く厳つい。極太マーカーが良く似合う。
「要はアンブレイカブル同士の試合なのだけれど、この大会の勝者にはより強い力が与えられる。勝ち抜けば勝ち抜くほど、強くなるわけだ」
奮えば柴崎・アキラを超えることも夢ではない。
「そして彼らが導かれる先は、日本各地の海が見えるところ、かつひと気のない刻と決まっているようだ。君たちにお願いしたいのは、ここ」
と、貼り出したのは臨海工業地帯の夜景だった。暗い夜の海にプラントの明かりが煌々と映り込んでいる。
「深夜24時、ここにアンブレイカブルが現れる。通称、スアダム。胴衣の上に黒い法衣姿。三十歳前後の男で、得物は棍。棒術使いだな」
背丈は平均的だが、筋力と体力のバランスが取れている。使用する技は、追撃を伴う殴り、ドレインを伴う蹴り、棍での薙ぎ払い、遠距離複数に及ぶ地打ちの、全四種。
場所は見晴らしの良い埠頭。工業地帯の明かりがあるので、思いのほか明るい。天候は晴れ。
「楽とは言わないけれど、相手は一体だ。手堅く戦えば勝機はある。ただし、一つ問題があって」
峻は、片眉をひそめて首裏を掻く。ぼりぼりと、二度やって息を抜いた。
「天覧儀の仕組み上、相手に止めを刺した灼滅者は強い力を得て、結果、闇堕ちする」
眼差しに苦渋の色が濃い。どうしようもないからだ。
「ただ、危機に瀕して堕ちるわけではないので、他の仲間がその場で救出することも不可能じゃない」
その際には、足りるだけの戦力を残しておくことと状況に応じた対処を講じることが求められる。合意形成が大切だ。
「アンブレイカブルに力を渡してしまうわけにはいかない。困った話だが、そこを何とか君たちに解決して欲しい。お願いします」
夜の海。光る闇。それを黙って見詰め、峻は皆へと向き直った。
「全員での帰還を、俺は待っている」
参加者 | |
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久織・想司(錆い蛇・d03466) |
三角・啓(蠍火・d03584) |
刀狩・刃兵衛(剣客少女・d04445) |
天神・ウルル(イルミナティ・d08820) |
小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372) |
久次来・奏(凰焔の光・d15485) |
渋谷・百合(きまぐれストレイキャット・d17603) |
徳長・箱(焦げ付き・d25781) |
●道行き
京浜工業地帯深夜24時。
プラントの鉄の骨格が、金と緑に光って浮かび上がっている。白煙なのか雲なのか。空は白く明るく、海はなめし皮の艶を放っていた。
だだっ広い埠頭の端で、アンブレイカブルが振り返る。夜景撮影者たちもここまでは入り込めないはず。だが、周囲には幾多の足音。気付けば、駆け付けた灼滅者たちが、辺りを取り囲んでいる。
久織・想司(錆い蛇・d03466)が、いくつかの明かりを設置し始めた。更なる明かるさに、光の真砂が色褪せた。遠退く暗闇の誘い。
小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)がカードを手にし、
「あたいは、小野屋・小町」
淀みなく声を放つ。それを聞いたダークネスが、彼女の顔を見詰め直した。暗闇に何かを探して、
「プラサート・ブンナーク」
忘れかけていた本名を名乗り返す。垂直に立てた棍の内に手を入れ、構えを取った。小町が戦端を開く。振るうのは紅の三日月。
「さぁ、断罪のお時間だよ!」
上体でくぐったスワダムが、棍の先を脇から背後に跳ね上げた。
ゴッ。
クルセイドソードで切り結んだ三角・啓(蠍火・d03584)のライトが眩い。目尻で察した敵は、更に身を落とした。そして、啓の放つ光の中に浮かび上がった者を見る。
カードを掲げた天神・ウルル(イルミナティ・d08820)の瞳が、紫に輝いていた。
「闇夜を照らせ、再生の光」
解除と同時、その四肢を包むオーラが外殻の姿を帯び始める。LUMINARIA//Hypokrisis。ヴンと熊蜂の羽音を立てて旋回する棍は、彼女の護りを打って跳ね返る。
「っ、逃げるとも思えませんけど逃がさないのですよ」
「ああ」
そこに更に眩い光が差し込む。ライトの明かりを帯びた久次来・奏(凰焔の光・d15485)が、正面に出た。
「力を与え、闇へと誘う……また厄介なモノが現れたのう。さて。己れ達が相手じゃ」
カードを解除。
「焔、舞え」
どっと火柱が上がった。髪の焦げる匂いが、潮の気配を塗りつぶす。熱い。
「強き敵との闘争、善きかな、善きかな。存分に楽しませてもらうでのう」
横顔を炙られたアンブレイカブルが、軸足を残して逆へと身を返す。そこに渋谷・百合(きまぐれストレイキャット・d17603)の拳があった。
淡とかつ複雑に突っ込まれた一撃に、敵が一歩下がる。その隙に、徳長・箱(焦げ付き・d25781)がビハインド ・ビョーホルトを前に出す。
また、一歩。スワダムが下がった方角は、埠頭の突端だ。黒い海が護岸を舐め、白々と泡を吹き上げて弾ける。
風が来た。ザン、と高鳴る波の音。刀狩・刃兵衛(剣客少女・d04445)が、踏み込んだ。緋の花を散らして抜刀。真っ直ぐに日本刀・風桜を振り下ろす。
「――!」
棍で受け止めはしたが、ダークネスの方が一息遅れた。肩口に切っ先が埋まり、両者の間で花びらが更に赤く染まる。このアンブレイカブルの血はまだ人と同じ色だ。
「これが私の選んだ道」
刃兵衛の太刀筋には迷いがない。
「或いは人斬りとしての血の宿命かも知れない」
スワダムが、ざらつく地を素足で擦った。共に武具はただ一つ。顔を跳ね上げて相手を凝視し、棍を握る指に力を込める。
「サ、ヌ……ッ」
真っ向へと蹴りを放った。
「あぁ……花、だ」
瞳が黒々と深み、語尾が微かに揺れる。それは、法悦の色。
●黄金の林檎
埠頭の上に叩き付けられた仲間へと、箱が手の中の光の輪を砕く。両手で握り放つ小さな光輪は、無数の癒し。
そうしている間に想司が槍穂を正眼に構え、唸りと共に突き出す。
「正々堂々の真っ向勝負。嫌いじゃありません」
その口許で笑みの弧を描きながら。
「ああ、一対多だからと難癖は付けませんよね? あなたは人外。おれはまだこちら側なんですから」
法衣の片側を引き裂かれ、敵の胴衣が半身、赤黒く染まった。身を入れ替えがてら、棍を腕の内に回して逆の手を拳に握る。
正拳を突っ込むつもりだ。
「……!」
ウルルが想司を庇い、痛打を引き受けた。首が外へと大きく振られ、頬骨に鈍く重たい衝撃が走る。
(「私は強くなりたい。強くなくっちゃだめなのです」)
刀身を盾とするも大きく後ろに叩き付けられ、埠頭の上を転がった。息が詰まる。
(「自分の闇に負けたくないから、闇を照らす本物の希望の光になる為に」)
海をすぐ背後とする位置まで下がったスワダムが、棍を逆手に入れ替えた。
ゴッと地を打つ音。ダークネスの足許から前方の灼滅者たちへ、一瞬、薄黒い亀裂が走った。そして、ぐらりとくる眩暈と痛み。
「……っ、う」
その一撃に抗した啓が、負傷した仲間の許へと駆ける。背後が海ならと、すぐ脇の退路を絶ちに回っていたのが幸い。
「あんたが逃げるとは思わねえけど、勝負がついたと思うにはまだ早いんじゃねえのか」
スワダムは、浅く顎を引いた。全員と正面対峙する位置を選んだのは、こいつの方だ。横顔からは無駄な色が全て削げ落ちている。稚拙な発音でこの国の言葉を操った。
「そうだ、な」
裂けた法衣から腕を抜き、身頃を背に払い退ける。大きく踏み込んで、棍をぶん回した。風が鳴り、百合と奏が巻き込まれ互いにぶつかり合って地に倒れる。
「っあ」
鉄錆び色に染まる埠頭。味方の傷つき具合を指針とするメンバーが、互いへと視線を投げ合った。思いのほか消耗が激しい。どうするか。
その時、小町の手許から魔弾が飛んだ。距離があればなんとかなろう。死ぬくらいならば闇堕ちを選ぶが。アンブレイカブルの上体が、ガクンと前後する。
それを決着の好機と見て、真っ先に駆け込む影が一つ。翻る黒髪。刃兵衛だ。
(「堕ちるのが怖くないと言えば嘘になるが、覚悟は既に決めている」)
彼女の背には傷がある。争いの中に母を失った後悔が、その背を押す。強く、柄を握った。
海を背に立ちはだかるダークネスが、突を肩の高さに上げる。指先は、見えない何かをまだ掴もうとするかのような動き。
――そこにある高みよ。
「この身を犠牲にしてでも儀式は絶対阻止してみせる!」
抜刀、一閃。闇に荒れる緋色の花吹雪。汚す血煙はダークネスのもの。
「……ぐっ、う!」
ぎちっ、という音が刃兵衛のうなじに響く。肘を回したアンブレイカブルが、彼女の首をへし折ろうとする音だった。奥歯を食い縛っている。
「……ド……ゥ」
闇の目が赤い目を見ている。歯軋りに入り混じる微かな声。刀身が肉を絶つ手応えは重たい。刃がぬめり、頚骨の軋みが次第に弱まっていくのがわかる。
「……ぅ」
薄く動いた男の唇が末期の一息を吐き、刃兵衛の額に鮮血を引いて落ちる。肉の器が、足許にばしゃりと崩れて跳ねた。
悲鳴にも似た港湾のサイレン。うねる夜の海を凝視したまま、殺人鬼であった少女が変貌を始める。その身を支えているのは、今は刀一つ。
「……は」
振り返った時、潮風に乱れる髪は浴びた血を啜ったかのように赤かった。
●夜光の修羅
海鳴りが全員の腹の底を揺さぶった。
どうするか。
箱が仲間を見渡した。
(「出来るならすぐに救出したい、全員で帰れないと後味が悪くなる」)
忌まわしきはダークネスの企み。各々の判断は――戦闘続行、救出あるのみ。
「お主ら、が!」
その目の前で、ビョーホルトが斬り伏せられた。スワダムとの戦闘で綻びた包囲を、七人が再度、固め始める。
最も間近にいたのはウルルだが、先のダメージでまだ地に手をついたまま。足許の影に意識を向ける。
「ごめんなさい、でも逃がす訳にはいかないのですよ」
首を横に振り、影の突端を鋭く立ち上げた。ザクリ、という鋭利な一撃。
「ちゃんと帰りましょ、待ってる人達の元へ」
だが、六六六人衆と化した仲間が発したものは、自らの痛みを吹き払う裂帛の気合だった。刃が潮風を引き連れる。
「ハァッ!」
小町の真っ赤な三日月が、刀身を受け止めた。切り結びながら、じり、じり、と押される。まさに、修羅だ。
ギィン、という音を響かせて、二つの刃が跳ね、離れる。
上がった肘の下へと飛び込んだのは、百合だった。先の負傷が重い。痛む肘関節を叱咤して、固い拳を構える。
「……君抜きで、おめおめと学園へは帰れないのよ。信用して送り出してくれた人を、裏切れない」
六六六人衆と化した瞳が、百合の拳を見つめていた。その視線は、苦痛が間近と知っても逸れない。炸裂した拳はアッパーから裏に返って正面に戻り、反動にぶれる相手を逃さない。血泡が飛び散った。
「ハ……ッ、グ」
「……早く、私の手を取りなさい。一人も欠けずに、皆で帰る。……そのために、死力を尽くしたのだか、っ」
緋の花びらが、百合の眉間を滑り降りた。
「ら――!」
ザンッ、という一太刀が、差し出された手を切り裂いていた。す、と暗闇が広がり、百合の膝が埠頭に落ちる。
口に溜まった血を吐き捨てて拭い、刃兵衛の姿を持った者が百合の足を跨ぎ越した。唇が震えている。
(「例え誰が闇堕ちしても必ず全員で帰還する」)
それは彼女の刃兵衛の思いでもあった。強い思い。だから、傷持つ背に皆を信じて敵を断ち斬りに行った。
「ク……ゥ」
味方であった者たちの血に濡れて、切っ先がガクガクと揺れながら上がる。血塗れの修羅の相貌が、カッ、と炎の色に照らされた。
「諦めるな」
啓が自らの背を引き裂いて劫火の翼を大きく広げていた。パチリ、パチリ。炎の爆ぜる音が、流れた血を一気に乾かし始める。その炎の向こうで、箱が負傷者の搬出を始めた。
「しっかりしぃ」
命はある。だが、急がなくては自分も危ない。間を置かず、闇に堕ちた刃が翻った。そこに真っ白な冷気が迸る。
「氷柱よ貫け、光輝き賜え!」
妖の槍を構えた奏が斬の間隙を縫い、ぐるり、と柄を返して構え直す。きらめく氷柱は、プラントの明かりを受けてソーダ硝子のような光を放った。
「イ……ッ」
肘で氷柱を防ぎ、六六六人衆の動きが鈍った。手の甲で血飛沫が爆ぜる。奏が呼びかけた。
「汝の覚悟、無駄にはせんよ」
誰が勝負を決するのか、この場になってみなくてはわからなかった。それぞれが意を決していたから。
仲間へと皆で投げかける言葉は拳のように荒削りだが、それだけに飾り立てられることもない。べたつくはずの潮風も、焼かれ、凍り、散り散りだった。
風桜が、夜闇を切り裂いて落ちてくる。逃げ道のないそれを胸板に受けて、ぐらりと傾きながら啓が相手の死角に回った。
「荒っぽくなるが文句なら後で聞くからよ」
片膝を落とし、斬撃を放つのは踵の真上。自分の痛みなら切り離している。
「ただし本人からな」
すぱり、といった。互いから流れ落ちる鮮血が、二つの影を塗り込め始める。じわり、じわり、と。さしもの六六六人衆も、踏み込みの足が動かない。
小さく何かが触れ合う音が聞こえた。居合いのために一度納められダークネスの刀からだ。爪の先が鍔を擦っている。そこに抗う殺人鬼がいる。
「あ…ぁ、あ」
アンブレイカブルの血を浴びた瞳が、何度も何度も瞬いていた。顎先から赤い雫が落ちる。想司が、ぐっと拳を握った。
「そんな力に溺れてはいけませんよ」
真正面から突き込んだ一撃は、うねるように顎先から頭上へ。
「ッ、アアッ!!」
情けの苦痛が頭蓋に突き抜け、闇堕ちを引き受けた身が係留杭まで跳ね飛んで弾む。
「ア……」
砕ける波の音。大きく翻った髪がはらはらと乱れ、眉間を引き絞った顔へと落ちかかって来る。
「……」
固唾を呑んで見守る仲間たちの前で、それは、洗われたかのように黒い。鼻筋を撫で、頬を滑り、耳へとかかる。
「刃兵衛?」
呼びかけにぎこちなく動いた顎先が、小さく頷いた。応えようと懸命に唇をわななかせている。
ああ。彼女だ。
●個かつ全
皆の背から、重たい海鳴りが聞こえる。
固く冷たいのは、人の手によって作られたコンクリートの感触だ。潮の香りは、血臭と似ている。いや、これは真に血の匂いか。
どれが誰の流したものかも血溜まりとなればわからない。存外、ひとは同じものでできている。ばらばらにぶっ倒れてしばらくは声もないが、傷だらけなのは驚くほどに同じだ。
百合の青い瞳がぽかりと開いた時、そこには無数の光の粒が踊っていた。持ち上げてみると、傷ついた手も動く。握ることも、握り返すこともできる。
帰ろうか。
誰かが言った。
帰ろう。
皆が答えた。
光る海が静かに見送っていた。
作者:来野 |
重傷:渋谷・百合(きまぐれストレイキャット・d17603) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年5月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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