都内某所。
「ハッ、勝手に死ぬたぁ、手間が省けたぜ」
大型の披露宴施設が併設されているその神社は、大人数で行われる結婚式場としても人々に人気があった。
格式ある神社で神前式を取り行い、横の会場で移動して披露宴を行う。
今日もあるカップルが神の御前で将来を近い、2人を祝福する約300人の参列客が今は披露宴会場に着席している。
「闇堕ちゲームだか暗殺ゲームだか……偉そうに……」
新郎新婦がお色直しで出払っているその披露宴会場に、1人の男が歩いて行く。
いくら和装の結婚式とはいえ、その男の服装は燕が銀糸で刺繍された黒羽二重の着流し姿、余興にしても雰囲気が合わない。
見とがめたスタッフが声をかけるが、男は腰に差した2本の日本刀の片方を抜き放ち、すれ違い様に切り捨てる。
「殺したいから殺す。見つけたいなら……選ばず大勢殺しゃあいい」
披露宴会場ではお色直しをした新郎新婦が再入場するタイミングとなり、司会が促し証明が入口を照らす。
だが――。
乱暴に扉が開き、ゴロゴロと何かボールのようなものが2つ披露宴会場へと転がりこむ。
『きゃああああああ!』
ソレに気付いた付近の招待客が悲鳴をあげる。
ソレは……新郎新婦、2人の生首だった。
「ずいぶんと大勢いるじゃねーか」
遅れて扉から入ってくる来るのは血に濡れた刀を下げた着流し男。
悲鳴を上げるもの、腰を抜かすもの、茫然とするもの、スタッフに他の出口はと詰め寄るもの。
そんな招待客を見回し、着流し男は「こっちから行くか」と片側(新婦側の参列席)へと近づき……。
ズシャッ!
問答無用で次々に近場の人間を斬り殺し始める。
大混乱が巻き起こる。
新婦側の参列者は着流し男から離れようと高砂(新郎新婦が座る席)側へと押し寄せ、逆に新郎側の参列者は着流し男がドアから離れたため我先に唯一の出口である扉へ殺到しようとする。
「おいおい、誰が逃げて良いって言った!」
着流し男が刀を振るうと、月のような斬撃が飛び扉に群がっていた招待客が血を吹いて倒れ、恐怖から扉に近づくものはいなくなる。
再び新婦側の席へ視線を戻せば、状況を飲み込めず逃げ遅れた赤子がいた。
「ああ! お願い! その子は! この子は助けて下さい!」
母親が恐怖も忘れて男に詰め寄り懇願するも、着流し男は赤子の腕を乱暴に掴んで持ちあげる。
「う、うう、オギャアアアアっ!」
乱暴に握られているため、痛さで泣きだす赤子。
「あああ、子供が痛がってます、ど、どうか!」
必死に叫ぶ母親を見て男はニヤリと笑い、手にした日本刀で赤ん坊の首を斬りとばす。
「あ、ああああああ!」
母親が泣きならが悲鳴をあげる。
「五月蠅ぇ虫ケラだ……お前も、死ね」
そして男は、雑に日本刀を振り下ろす。
……その日は、2人の若者の新たな旅立ちとなる予定だった。しかしたった1人の六六六人衆によって、約300人もの人間が死出の旅路へと向うこととなったのだった。
「六六六人衆のダークネス、鬼哭・燕斬(きこく・えんざん)について覚えてる?」
教室に集まった灼滅者たちを見回しながら鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が皆に聞く。
「今回、みなにお願いしたいのは鬼哭燕斬の殺戮から一般人たちを守って欲しいの……」
事件が起こるのはとある神社に併設された披露宴会場。
神社で結婚式を挙げたカップルを祝福するため、披露宴が執り行われているのだが、新郎新婦がお色直しで出払ったあと悲劇が起こる。
「被害に会うのはお色直しをしていた新郎新婦と会場のスタッフ、それに披露宴会場にいる招待客と同じくスタッフ、全部合わせて約300人よ」
甚大な被害に集まった灼滅者達の間に緊張が走る。
新郎新婦と付きそいのスタッフは、披露宴会場へと入ろうとした所で殺され。会場にいる人間は、その後に全員殺されるという。
披露宴会場は体育館の半分ほどの広さがある正方形の部屋で、正面に大きな扉が1つ、そして隠れているが高砂のある奥側の左右に1つずつスタッフ用の扉がある。
敵は正面の大きな扉向こうで新郎新婦と付きそいを殺してから、披露宴会場へと乱入して殺戮を開始するらしい。
「敵が持つバベルの鎖を回避するにはいくつか条件があるの……」
珠希はそう言うと以下の条件を説明する。
条件1。
灼滅者全員が招待客として披露宴会場に紛れこみ、待機しておくこと。
条件2。
司会者が新郎新婦の入場のナレーションをするまで動かないこと。
この2つを守れば、敵のバベルの鎖に気付かれずに戦闘に持ち込む事が可能らしい。
「招待客に紛れこむ時の注意としては、新婦さんは有名な絵の先生で芸術関係の参列者が多く、新郎の方は大手のビジネスマンらしく会社員っぽい人が多いわ」
くれぐれも全身鎧や黒一色の中二ファッションで周囲から浮いてみられる格好は止めた方が良いし、女性の場合は新婦より派手な格好というのもNGとなる。
珠希はそこまで言うと一度口を結び。一応……と再び口を開く。
「一応……もし、一般人が被害に遭う事になった場合だけど……相手が相手だから……その……60人ぐらいまでなら、仕方が無いって……そう、思う、わ」
悔しくても納得できなくても、それが依頼の難易度的に精一杯だろう。
「鬼哭燕斬と戦闘を開始しても一般人300人はその場に存在する。注意をこちらに向けさせ一般人に被害を出さない為には、鬼哭燕斬の意識が一般人に向かわないよう常に攻め立てる必要があるわ」
珠希が言うには1分間に7回以上は常に燕斬を攻撃しないと、燕斬は一般人に襲いかかるとのことだ。
1度の攻撃で燕斬が一般人を殺害する人数は……ざっくり30人。
燕斬は一般人が会場から誰もいなくなれば勝手に撤退するらしい。
パニック状態となる会場から、一般人300人が逃げだすための時間は10分程度。
うまく誘導する事ができれば多少は時間を短縮できるだろうが……。
その為には工夫が必要だろう。
珠希が灼滅者達の顔を一巡し、一度目を閉じ次の説明に入る。
「鬼哭燕斬は殺人鬼と日本刀に似たサイキック、場合によってはシャウトも使ってくるわ。解体ナイフと影業に似た技も使えるみたいだけど……その2つはぎりぎりまで使わないみたい」
燕斬の性格は狡猾で残忍。挑発やハッタリはお勧めしない。
さらに通常はディフェンダーとして戦うが、気に入らない性格の相手を殺す場合はクラッシャーにポジションを変えてくる。ちなみに得意な能力値は術式だ。
珠希は最後に真剣な表情で言葉をしめる。
「敵は一般人をほとんど殺せなかった場合、一般人が全員いなくなった後も皆を狙ってくる可能性があるわ。その場合はただ逃げるのでなく……何か、考えおいた方が良いかもしれないわね。みな、最後まで気を抜かず……そして、死なないで」
参加者 | |
---|---|
葛葉・有栖(紅き焔を秘めし者・d00843) |
神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914) |
佐津・仁貴(厨二病殺刃鬼・d06044) |
近衛・一樹(創世のクリュエル・d10268) |
七峠・ホナミ(撥る少女・d12041) |
星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622) |
飯倉・福郎(弱肉強美味肉・d20367) |
月姫・舞(炊事場の主・d20689) |
●
その披露宴会場では新郎新婦の再入場を300人の参列者が心待ちにしていた。
司会者によるナレーションが始まり正面扉へスポットライトがあてられる。
ゆっくりと眼鏡を外し腕捲りする近衛・一樹(創世のクリュエル・d10268)。カメラ片手にボレロとワンピース姿の七峠・ホナミ(撥る少女・d12041)や、大人っぽい私服の神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)もこれから始まる事態に備えて呼吸を整える。
そしてナレーションが終わる。
瞬間。正面扉が乱暴に開け放――。
「アローサル」
アフタヌーンドレスの少女、葛葉・有栖(紅き焔を秘めし者・d00843)の手には紅い日本刀に紅い石の指輪、扉に見えた浪人姿の影に魔力の弾丸を打ち放つ。
ダダダダダダダッ!
有栖に追随し他の7人も一斉に攻撃サイキックを叩き込み、唐突の出来事と轟音に会場の視線が一気に集まる。
『高砂のある奥側の左右に一つずつ出口があります。混乱が起きれば誰も助かりません。落ち着いて逃げて下さい』
それは星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)の割り込みヴォイスだった。
ドヨめく会場。
だが、次の瞬間――。
ドンッ、ゴロゴロ……。
新郎新婦の生首がボールのように投げ込まれ、それを見た人々が悲鳴をあげる。
そんな中、ゆっくりと会場内へ姿を現したのは黒羽二重の着流し男、六六六人衆の鬼哭・燕斬(きこく・えんざん)だった。
「鬼哭さんは昇進おめでとうございます」
笑顔で軽口を叩くのは飯倉・福郎(弱肉強美味肉・d20367)。さりげなく参列者たちとの間になるよう立つ。
「誰か知らんが、俺に殺されに来たか?」
燕斬が転がった生首を顎で指差すと月姫・舞(炊事場の主・d20689)がちらりと一瞥、つまらなそうに燕斬へと視線を戻す。
「どうでもいいわ……それより、早く殺し合いましょう」
すらりとナイフを抜いた舞が、呼吸をするかのような自然さで燕斬へと斬りかかるのだった。
●
白い燕が飛ぶ。
それは後列全員へ襲いかかる白刃。
一樹が、明日等のライドキャリバーが、そして福郎のビハインド「シェフ」が身を呈して仲間を庇うが、全員を庇える訳も無く数人が斬り裂かれた。
次はこちらの番と明日等がオーラの塊を撃ち出し、同時に燕斬へと走り込むは佐津・仁貴(厨二病殺刃鬼・d06044)。燕斬はオーラの塊を刀で打ち弾くと仁貴へと刃を振るう。
ギンッ!
火花が飛び散り仁貴が燕斬と鍔迫り合いを行う。
動きの止まった燕斬に魔法弾を撃ち放ちつつ、有栖は意識を一般人へと向け……ふと、過去の悔恨がチクリと胸を刺した。
――失うのはもう一杯だよ……。
混乱するスタッフと参列客に、正面以外の出口について声に出して伝える有栖。
「慌てず速やかに、正面か奥の扉から外へ」
同じく声に出して伝えるはホナミ、もちろんシールドリングによる仲間の回復も忘れない。
「ほぅ、奥にも出口があったか……」
仁貴を蹴り飛ばした燕斬がつぶやく。
対して視線を向けられていることに気づいたホナミが。
「これで正義だ善意だなんて言わないわよね」
「あ?」
「私は、私たちは……あなたを奇襲するため、結婚する2人の首が落ちるのを待っていた……」
「悲観するな。誰だって命は惜しい」
「そう……ね。でも、例え私がどんな人間であれ、これ以上、あんたの好き勝手させるのは我慢がならないわ」
キッと燕斬を睨みつける。
だが燕斬は何がおかしいのか笑い続け。
「くくく、ははははは……悪い悪い、間違えた」
「?」
「ブタの命に、惜しいと思うような価値など無かったな!」
燕斬がホナミを狙って刀を振りかぶり、だがソレが振り下ろされる前に眼前へと男が飛び込んでくる。
咄嗟に半身で回避する燕斬だが、その胸元を紅蓮の手刀が僅かにかする。
「さーて、休んでる暇はあらへんで」
そのまま左右の拳で連撃へと繋げる一樹。
「こっちは客人の避難完了の時間を稼がなあかん……覚悟せい」
燕斬に一般人を狙う暇を与えぬよう灼滅者たちの猛攻が続く。だが――。
「(避難がそんなに進んでいない……?)」
仲間を夜霧隠れで回復させつつ冷静に状況を確認していた舞が気がつく。
そう、戦闘開始時や戦闘中に避難を促しはした。だが、根本的に混乱が収まっているわけではない。避難を早めるためには強引にでも冷静にさせる必要があったのだろう。
「月姫さん!」
舞が振り向くと眼前に黒い殺意の壁が迫っていた。燕斬の鏖殺領域だ。
「しまっ――」
舞が、いや後列の全員が飲み込まれる。
だが殺意の闇が晴れた時、そこには後列の5人の無事な姿があった。
「ええ、十分頑張ったわ……」
明日等が自身をかばってエンジン音を止めたキャリバーに声をかければ、舞の目の前では盾となったコック帽のサーヴァントが無言で消滅していく。
ガギンッ!
一時の沈黙を破る金属音は、燕斬に切りかかった福郎の肉屋の包丁と燕斬の刀、濡れ燕がぶつかり合う音だった。
「自分のサーヴァントが消えて嬉しいのか?」
笑顔の福郎に対し挑発するように燕斬が言う。
「いえいえ、『拳で殴るなら笑顔で殴れ、効くから』……私の座右の銘でして」
これ以上は押し込めない、と福郎は包丁を引き後ろへ跳躍。
だが燕斬は居合いの構えで、地を滑るようピタリと追いすがる。
「簡単に逃げられると思うなよ?」
斬られる――覚悟を決める福郎だが、自身の背後からすれ違うように曲線の刃が滑り込み、それは燕斬の胴へと肉薄。
「チッ」
咄嗟に居合いから半身だけ刃を抜いた状態で、大鎌の切っ先を防御する燕斬。
冷や汗を垂らす福郎の横には、氷の大鎌を引き戻し構える綾が立つ。
「燕斬さん、あなたほど判りやすい犯人はいない」
「あ?」
ビシリと鎌を突きつけ綾は言う。
「自己紹介がまだでしたね。私は探偵の星陵院綾、私は探偵として犯人から人々を助けさせてもらいます」
「ほぅ……そうか」
燕斬が何かつまらなそうに綾を見ると。完全にバカにした口調で吐き捨てる。
「悪いが、ブタの名前に興味はねえ」
●
辻斬り燕斬との戦いは続く。
サーヴァントが消えた時点で回復役のホナミは攻撃に周り、今や舞が回復役を専属で行い続けている。
一般人の避難はやっと半数を越えたぐらいだろうか。
死角からの鎌の一撃を背面越しに刀で受けられ、反撃を食らう前に距離を置き、次の仲間とスイッチしながら綾が視線を巡らせる。
燕斬の攻撃は思った以上に重い。今更ながらに壁役を5人揃えるなら6人にしておけばよかったと思う。このままでは10分を耐えるのはギリギリかもしれない。
「死ね」
ズザンッ!
仁貴の死角から燕斬が刀を振り下ろす。
パッと舞う血飛沫。
反射的に己の周囲を刺の生えた背骨状の刃、黒脊柱・戦刃で包み傷を回復させる仁貴。
仁貴が自己回復に回った……それはつまり。
「大丈夫、こっちの方が柄にあっていますし」
燕斬への攻撃回数を稼ぐため、回復を止めて今だけ攻撃に転じる舞。
ナイフで空間を切りつければ軌跡から生まれたリングの刃が燕斬へと向かう。
「ちっ」
燕斬が舌打ちし、再び灼滅者に対応をせざるを得なくなる。
だが、この選択は……。
再び白い燕が飛んだのはそれから数分後だった。
ドサリ、明日等と有栖が白刃に倒れ伏す。
「……どうやら、まだ虫ケラどもが残っているようだな」
燕斬が一般人達へと目を向ける。その中には足の悪いお年寄りや、赤子をあやす母親の姿も見えた。
「させない……」
カッと刀を杖代わりに立ち上がるのは有栖。
「最後の最後まで……魂の全てを使っても……全力で」
ボッと杖代わりの日本刀が炎に包まれ、完全に立ち上がった有栖は炎刀を床から抜き構える。
「もう、誰も失いたくない!」
ゴッ!
不意打ち気味に殴り飛ばされ、床を滑り途中で回転して体制を整える燕斬。
「チッ、貴様もか」
「もっと余所見をしてくれてよかったのに、残念ね」
そこには有栖と同じく魂の力で立ち上がった明日等が、燕斬を殴り飛ばした格好で立っていた。
「どんなに序列が上がっても、やる事は前と変わらないみたいね……悪いけど今回も阻止させてもらうわ!」
しかし、その時はくる。
三度目の燕が……飛んだ。
月の如き鋭い光の白刃が後列を襲い、有栖と明日等が糸の切れた人形のように床へと転がる。さらに――。
「事件の解決前に……た、探偵が、退場するわけには」
なんとか凌駕する綾。
2人が倒れた……。
一樹は高砂のほうを慌てて見るがまだ30人ほど残っている。
間に合わない。
「なあ、燕斬。お前、なんでここを狙いに決めたんや? こんなめでたい場やなくてもええやろ!」
思わず叫ぶ。
このままでは……。
「はっ、おまえ等ブタどもこそ、息を吸うのに場所を選ぶのか? 違うだろうが」
「………………アホが」
ふと過去の記憶が頭をよぎる。
目の前の殺人鬼が憎くて憎くて、そして何より手が届かなかった自分が……。
「ハッピーエンドは保証できません」
気楽な口調でいう福郎を一樹が睨むが、福郎は気にしたそぶりもなく。
「ああ、ただの口癖です。ですが……終わりは終わりですがね」
あと30人が逃げるまで1分、攻撃回数は6回。
ほんの僅かに届かない。
皆が絶望する中、ゆっくりと燕斬に近づくのは仁貴。
「おい、殺されたいなら後にしな。まずはあの虫けらどもを殺してやる。くくくくく、残念だったな」
しかし仁貴はピクリともせず自然体に言葉を発する。
「俺は……悪を許さない」
ぴくり。
「自分を正義だと言うつもりはない……が、ダークネスであろうとなかろうと、俺は悪を……許さない」
仁貴は思う。この言葉は本音だが、燕斬がどう取るかは不明だった。
もし流されたのならそれまで。
だがもしも……。
「悪は許さない、か……それがお前の『道』か」
コクリと頷く仁貴。
「くくくくく……はーっはっはっはっはっはっ!」
燕斬の左手が腰の長ドスの柄に触れ、ゆっくり引き抜く。
「貴様に俺の『道』を教えてやる」
誰もが動けなかった。
燕斬の中で膨れ上がっていく何かが肌を突き刺してくる。
ギロリ、片目を見開くよう燕斬が灼滅者たちを睨みつけ。
「俺が往くは『邪悪道』! 俺が俺の思うがまま、邪悪の限りを尽くす道!」
一気に殺気が爆発する。
「悪を許さぬと言うのなら、お前は、お前達は、俺の敵だ!」
邪悪な殺気が吹き荒れる。
だが、その時。
「撤退を!」
皆、我に返る。
声を発したのはホナミ。
気がつけば最後の一般人が扉から姿を消した所だった。
●
燕斬が攻撃特化な構えに変わる間に一般人の待避は完了した。
あとは撤退するだけ。
だが、正面扉を、手近な扉を、合流を……撤退時に統一されていなかった部分が浮き彫りになり、各自の選択に刹那の間が生まれる。
「ぐは……」
「3人目」
それぞれが投げた発煙筒の煙が充満し始める中、一瞬の間隙を付いて燕斬に斬られた仁貴が倒れる。
即座に逃げられなかった時点で誰かが足止めをするしかない。
動いたのは――。
「いらっしゃいませ」
燕斬の前にブッチャーナイフを携えたコック、福郎が立ち塞がる。
「あ? 注文でもして欲しいのか?」
面白そうに燕斬が笑う。
だが、福郎の足下から奇妙な影がビチビチと別の生命体のようにあふれ出し、同時にサイキックエナジーが一気に高まる。
「注文は受け付けません。今宵のメニューはシェフのお勧め、六六六人衆のなます切りのみでございます」
「飯倉さん!」
仲間たちの声が煙幕の向こうから聞こえるが、闇堕ちした福郎は。
――合理的判断です。
そう呟き、燕斬へと襲いかかっていった。
「2人をホウキへ」
高砂脇の扉まで下がり、ホウキに跨がったホナミが指示を出す。
意識の無い有栖と明日等を乗せるとフワリと浮き上がる。
2人を乗せた分性能は低下するが障害物無く移動するのは利点だし、途中で窓があればそこから逃げることも可能な良い手だった。
ホナミが有栖と明日等を連れ飛んでいった後、発煙筒により視界の悪くなった会場内に燕斬の声が響きわたる。
「おいブタども! 奥の扉から逃げるつもりだろうが、逃がすと思うか!」
近づいてくる燕斬の殺気。
撤退時の策として動いたのは一樹だった。
制約の弾丸を燕斬がいるだろう足下へと撃ち放つ。
足に当たれば儲けもの……。
うっすらと燕斬がいる方から何かが飛んでくる。
一樹は咄嗟にカウンターで――。
「ダメです!」
腕を綾に捕まれ紅蓮撃をキャンセル。
バギャンッ!
飛んできた何か、それは仁貴だった。派手な音を立てて高砂に激突する。
慌てて舞が意識の無い仁貴を抱え。
「ぐはっ」
背後で悲鳴、それは一樹のものだった。
「なん……やて……」
途切れそうになる意識を、必死に魂の力で繋いで一樹が2、3歩と下がる。
そこに立っていたのは黒い着流しの辻斬りだった。福郎が傷付けたのかあちこちから血を流している。
「攻撃して来たのはお前だろうが。やるなら、煙幕を張る前にやるんだったな」
ニヤリと笑う燕斬。
事実、煙幕は大変有効な手ではあったのだが……。
「じゃあ、トドメだといくか」
一樹を殺そうとする燕斬の前に、綾が立ち塞がる。
「すいません。私、先ほど嘘をつきました」
瞬きだけで謝ると綾は続ける。
「実は私、正義とか善意とか自己犠牲とか、大好きなんです。だって……だってその為に、私は探偵になったのですから!」
後半はいわば叫ぶように。
そんな綾に完全に一樹から視線を移した燕斬は。
「……それで? 殺される覚悟はできたんだろうな」
怒気をはらむ燕斬の言葉に、綾は人差し指を一本立て、ニヤリ。
「いいえ、覚悟は無理です……でも、時間稼ぎはできました」
言うと同時、燕斬の背後の煙を突き抜け福郎が現れる。
「ちっ」
燕斬が福郎へと向き直り左右の刃で攻め立てるも、福郎はそれらを捌きつつ。
「皆さん、閉店時間です。早く帰って下さい」
福郎が言う。
呆然とする一樹の腕を掴んだのは綾だ。
「行きましょう。今のうちです。
舞も仁貴を引っ張りだし一樹に言う。
「まだ、私たちは倒れていません。なら、無事に逃げるべきです」
ごめんなさい……と口の中で呟く。
一樹は2人に頷き仁貴を受け取ると、悔しさで爪がめり込み血が流れるほど拳を握りしめ。
「すまん、絶対……助けるで……絶対にや」
その日、300人もの一般人が殺される惨劇は阻止された。
だがその代償を、300人の一般人が……知ることは、無い。
作者:相原あきと |
重傷:葛葉・有栖(紅き焔を秘めし者・d00843) 神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914) 佐津・仁貴(未来の学園警備員殺刃鬼・d06044) 死亡:なし 闇堕ち:飯倉・福郎(草葉の影在住・d20367) |
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種類:
公開:2014年5月2日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 21/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
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