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ガイオウガ、そしてスサノオ大神……。
大地を喰らう幻獣種共が「竜種」に目覚める日も、そう遠くはない……。
サイキックエナジーの隆起がゴッドモンスターさえも呼び起こしたこの状況で、未だ十分に動けぬとはいえ、日本沿海を我が「間合い」に収めることができたのは、まさに僥倖。
小賢しき雑魚共の縄張り争いも、王を僭称する簒奪者共の暗躍にも興味は無い。
我が望むは、我と死合うに値する強者のみ!
「武神大戦殲術陣」発動!
眠れる強者よ現れよ。武神の蒼き頂こそが、これより汝の宿命となるのだ!
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『武神大戦天覧儀開催のお知らせ』
ホワイトボードに、丸っこい字で、木佐貫・みもざ(高校生エクスブレイン・dn0082)はそう書き記した。
「みんなももう知ってると思うけど、アンブレイカブル同士のタイマンガチンコバトルなのだ」
会場は秋田県にある某海岸。つまりは日本海。
「演歌が良く似合いそうな場所なのだ」
みもざの性格上、前振りで着物を着てきそうなものなのだが、たぶん着付けができないのだろう。
「場所がすっごい断崖絶壁なので、昼間でも殆ど人は立ち入らないのだ。こんな場所に人がくるのは、テレビの2時間サスペンスものくらいなのだ」
そう言いながら、聖母たちが腹這いをしてどうのとかいう歌を歌う。
「で、ここで待っていると、いかにもサラリーマン的なおっちゃんがやってくるのだ。そのおっちゃんの名は、火木土・終(かもくど・おわる)」
このアンブレイカブルの撃破が、今回のみもざからの依頼だった。
「まぁ、もう知ってるだろうけど、ちょっと厄介なのだ、これ」
みもざは困ったような顔をする。
「アンブレイカブルに止めを刺した灼滅者は、絶対、必ず、確実に、闇堕ちしていまうのだ」
なので、止めと刺す場合は、覚悟が必要になってくる。
「だけど、誰が闇堕ちするか予め決めて、余力を充分に残しておけば、連戦してボコボコにして、その日のうちに連れ帰ることは可能なのだ」
つまり闇堕ちする者は、その後、仲間にボコボコにされる覚悟も必要になってくる。
「火木土・終は、ストリートファイターの3つのサイキックの他に、ドラゴンパワーとヴォルテックスを使ってくるのだ。どう見てもアタッシュケースにしか見えないのが龍砕斧で、限りなくビール瓶ぽいのがマテリアルロッドのようなのだ。因みに、頭にネクタイを巻いてるのだ」
とはいえ、身なりはしっかりしている。高級そうなビジネススーツを着ているらしい。なんか、色々と間違ってそうな人だ。
「見た目はとっても弱そうだけど、油断してはいけないのだ。みんななら、火木土・終を倒した上で、闇堕ちした人も救出しちゃうと信じてるのだ」
みもざは拳を振り上げる。
「強い者に会いに行け! これが武蔵坂学園よってところを見せてやるのだ」
参加者 | |
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本山・葵(緑色の香辛料・d02310) |
皇樹・桜(家族を守る剣・d06215) |
阿剛・桜花(目指すは可愛い系マッスル女子・d07132) |
紅羽・流希(挑戦者・d10975) |
リステアリス・エールブランシェ(今は幼き金色オオカミ・d17506) |
北南・朋恵(複音楽団・d19917) |
鞍石・世陀(勇猛果敢クライシス・d21902) |
アレン・クロード(チェーンソー剣愛好家・d24508) |
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春の日本海は、比較的穏やかに見えるという。
だが、岩肌に打ち寄せる波は激しく、ジッと見つめているとどこか手招きされているような錯覚を覚える。
確かに、こんな場所に好きこのんでくる者はいないだろう。
灼滅者達は岩陰に身を潜ませ、息を殺す。
「決闘ですか……。格闘技を嗜んだ者なら、一度はやってみたいものですがねぇ……」
紅羽・流希(挑戦者・d10975)は呟く。
「私…闇堕ちするの…は、怖くない………ん、変…かな…?」
リステアリス・エールブランシェ(今は幼き金色オオカミ・d17506)は闇堕ちに対しては、特に抵抗はない。彼女が恐れるのは、今の自分の記憶を失うこと。闇堕ちは、自分が自分でなくなること。自分でなくなるのならば、記憶を無くしたことに気付かないはずだ。その方が苦しくない。彼女はそう考えていた。
待つこと一時間。灼滅者達が痺れを切らし始めた頃、上機嫌で演歌を口ずさみながら、ビジネススーツを身につけたおっさんが、ふらふらとやってきた。火木土・終(かもくど・おわる)だ。
「おっ、犯人……じゃなくて火木土が来やがったぜ」
いち早く、本山・葵(緑色の香辛料・d02310)が火木土・終の姿を見咎める。
「業大老も粋な事をしてくれる……」
鞍石・世陀(勇猛果敢クライシス・d21902)が、楽しげに微笑を浮かべた。
直ぐ後ろに、阿剛・桜花(目指すは可愛い系マッスル女子・d07132)と流希が隠れているなど露知らず、火木土・終は目に留まった岩に「よっこらせ」と腰を下ろす。ポケットから煙草を取り出すと、100円ライターで火を付けた。旨そうに一服する。
「対戦者はまだ来てないのか……」
海を見ながら、口からふぅと勢いよく紫煙を吐き出す。半分ほど吸うと、携帯灰皿に先端を押し付けて火を消す。
「勿体ないから、残りはまた後で吸おう」
のんびりとした口調で呟くと、また海を眺めた。
「柴崎さんかぁ。直接会ったことはないけど、この大会で勝ち続ければ、柴崎さんを超える力が手に入るっていうんだから、ちょっと魅力的だよね」
自分の言葉に納得し、火木土・終はうんうんと肯いている。
「……ならば、乱入しその計画を打ち砕いてやろう!」
岩陰から、世陀が飛び出してきた。
「対戦者? あれ、でも今、乱入って言った?」
「言った」
世陀は肯く。
「いつの間に乱入フラグ立てたんだ?」
火木土・終が首を捻って思案している間に、灼滅者達は素早くその周囲を取り囲む。
「あれ、あれ、あれ? 何でこんなに対戦者がいるの?」
「殺しがいがあるといいな。楽しませてね」
皇樹・桜(家族を守る剣・d06215)が素早く身構えた。大きな胸が上下に揺れる。
「凄い……」
火木土・終が生唾を飲み込んでいる。
「変態……」
「うっ!?」
ボソリと呟いたリステアリスの声が耳に届いたらしく、火木土・終はあからさまに狼狽えた。
「こういうのが、セクハラって言うんだよね?」
北南・朋恵(複音楽団・d19917)が、相棒のナノナノのクリスロッテに確認している。クリスロッテは真面目な顔で肯く。
「せ、セクハラ……」
「大丈夫なんですかね、この人」
呆れたように肩を竦めるアレン・クロード(チェーンソー剣愛好家・d24508)だったが、油断なく身構える。
「闇堕ちしていない人間を闇堕ちさせるほどの力……厄介ですね。ボコボコにしましょう」
「さてと、なんかすっごい厄介な依頼だけど、さっさと灼滅しちゃおう」
桜が応じた。
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「お、お前たち卑怯だぞっ。俺1人相手に、8人掛かりなんて」
ちょっと及び腰で身構える火木土・終。腰が引けて不格好な構えなのだが、なにげに隙がない。
「正々堂々、1対1で戦おうではないか!」
胸を張って豪語する火木土・終だったが、灼滅者たちの耳には入らない。というか、無視した。
「みんな、今日は必ず全員で帰ろうぜ!」
仲間たちに一声掛けると、葵が挑み掛かる。勢いよく踏み込むと、目にも留まらぬ早さで拳を叩き込む。
「むむむっ」
アタッシュケースを抱え、火木土・終はその拳を防ぐ。
「ひょおおおっ。反撃の拳ぃぃぃっ」
奇声を開けながら、火木土・終は強烈な拳を繰り出してきた。
「させません!!」
桜花がカバーに入った。WOKシールドでその拳を受け止める。凄まじい衝撃に、腕が痺れた。
「見た目と違って、なかなか重い拳を放ちますわね……。それでこそ闘い甲斐がありますわ!」
火木土・終は、見た目こそ普通のサラリーマンだが、その実力は本物のようだ。伊達に武神大戦天覧儀に参加しているわけではないようだ。
「大人をナメたらあかんぜよ! ひょおおおっ」
勝ち誇ったような言い放つと、火木土・終は妙ちくりんなポーズを取った。どうやら、この変なポーズが、彼の「構え」であるらしい。
「…ん、足元…注意…ッ!」
「へ?」
いつの間にか死角に回り込んでいたリステアリスが、強烈な斬撃を見舞う。
「あうっ」
火木土・終は痛めた右足を抱えながら、左足でぴょんぴょんと跳ねた。
「ごめんね、おじさん」
てててっと駆けてきた朋恵が、すれ違い様にクルセイドソードを振るった。
「お、おのれぇ。卑劣なやつらめ。幼女にこんな真似をさせるなどっ。……ん?」
憤懣やる方なしと、鼻息を荒くした火木土・終だったが、足下に伸びてきた影に気付き視線を落とした。
影によって形成されたチェーンソーが、火木土・終の左脛をガリガリと削る。アレンの黒死斬だ。
「おのれ、ちょこざいなっ。風よ吹けぇぇぇっ」
ビール瓶を天に掲げると、凄まじい風が発生した。暴風は、後方にいた朋恵と世陀に襲い掛かった。朋恵のスカートが捲れ上がった。
「このド変態! 少女の『ピーーーーッ』が、そんなに見たいのか!」
「しまったぁ。そんなつもりでは……」
世陀に怒鳴りつけられ、火木土・終は恐縮しきりだ。一応、今のは不可抗力であったらしい。
「だが、許さん」
葵や桜、桜花、流希、そしてリステアリスが、火木土・終に殺到し、強烈な攻撃を叩き込む。
「うがぁーーーっ」
火木土・終は怒り狂ったように吠えると、流希の肩をむんずと掴み、力任せに放り投げた。きりもみ状態で投げ飛ばされる流希。
「男には手加減無しだ」
キリッ。
直ぐさま身を翻し、今度はアレンに対して鋼鉄の拳を打ち込んだ。
「……成る程、確かに見た目に騙されてはいけないようです」
アレンは拳を受けた腹を押さえ、片膝を突いた。
ふよふよと漂ってきたクリスロッテが、アレンを甲斐甲斐しく治療する。
「ひょぉっほっほっほっ」
人を小馬鹿にしたように、火木土・終は笑いながら戯けてみせた。
「ぶっ潰ーす!!」
火木土・終の脳天目掛けて、葵がマテリアルロッドを振り下ろした。
「おうっ!?」
脳天に魔力が次々に注ぎ込まれる。
ボン!
注ぎ込まれた魔力は爆発し、何故か鼻血が噴出した。
「美少女の胸はお好きですか?」
「はっ!」
葵の胸元を凝視して鼻血を出している火木土・終に、桜の冷ややかな言葉が投げ掛けられる。慌てて我に返ったようだが、時既に遅し。
「全力…で、撃ち込む…!」
背後に回り込んでいたリステアリスが、フォースブレイクで追撃した。
美少女たちに殴られるのが嬉しいのか、やられているというのに火木土・終は鼻の下を伸ばし、なんだかとっても幸せそうだ。
しかし、行動がいちいちセクハラっぽいし、見た目も全く冴えない男なのだが、相変わらずクソ重たい攻撃を繰り出してくる。
強烈な一撃がアレンの体力を根刮ぎ奪い取ったが、気合いでどうにか持ち堪えた。
「流石は強者達と言う事か…!」
凌駕して耐えたアレンを回復させつつ、世陀の心は滾る。強者同士の鬩ぎ合いに、知らず知らずのうちに心が躍っていた。
火木土・終は善戦したが、やはり多勢に無勢。
「龍の力よ、我にぃぃぃ」
龍の因子を解放して粘りを見せたが、待ってましたとばかりに放たれた朋恵の神霊剣によって一瞬にして守りは打ち砕かれた。
身も心も打ち砕かれた火木土・終は、その場に崩れ落ちた。
「お、俺はもう駄目だ……。せ、せめて美少女がトドメを刺してくれ……」
情けない声で懇願してきた。
葵が目顔で仲間たちに確認を取る。
大きく肯いて、流希が歩み出た。
「や、やだ! 男はやだっ。女の子がいい!!」
お願いだからトドメを刺してと、女の子たちを見回したが、完全に無視された。
「約束を破ってしまったな……」
悲しげに流希は呟いた。闇堕ちは絶対にしないと弟分たちと約束していたのだが、ここにいる女の子たちに手を上げるのは自分のポリシーに反する。故に、誓いに背くことを選択した。
「鬼ぃぃぃっっっ」
泣き叫ぶ火木土・終に、流希の無慈悲な一撃が叩き込まれた。
●
優しげだった流希の表情が一変した。瞳は鋭く、そして狂気の色を宿す。
「闇堕ちした人は、逃がさないようにこっちに戻さないとね♪」
桜が気合いを入れ直した。
「さて、仲間ですが、闇堕ちしたからにはボコボコにしてあげましょう」
手加減する気は毛頭無いと、アレンは身構えた。
「すぐに元に戻してみせるから、ちょっとの間だけ我慢してくれ!」
葵が仕掛けた。
(「避けるな!」)
闇堕ち直後のため、まだ辛うじて自我が残っていた。流希は心の中で自分に呼び掛け、闇に堕ちた自分への抵抗を試みる。しかし、体は自らの意志に反し、寸での所で葵の攻撃を躱してしまう。仲間の動きがスローに見える。
条件反射で腕が動く。
「く……っ。体が勝手に……!」
まるで何者かに操られているかのように、体が勝手に躍動する。これが自分なのかと思えるほどの、凄まじい威力のティアーズリッパーを放っていた。
直撃を食らった桜花が、激痛に表情を歪ませる。
「手加減している余裕はなさそうだな。味方が敵になっただけの事。容赦なくぶん殴るぞ!」
早く元に戻してあげたいが、手を抜いていては自分たちがやられてしまう。世陀は全力で挑むことに決めた。全力で戦い。彼を元に戻す。
流希が反撃してくる。容赦のない攻撃だ。
戦え! 戦え! 破壊こそ我が望み!
自分の内に眠っていた狂える武人の魂が、心に叫びかけてくる。
(「駄目だ……。何とかしないと……!」)
僅かに残った自我で、尚も抵抗を試みる。だが、手加減して攻撃を加えようと思っていても、体が言うことを聞いてくれない。
自分が繰り出した攻撃によって、葵が膝を突いたのが見えた。自分に向かって何か叫んでいる。しかし、何と言っているのか分からない。
仲間たちの声が聞こえない。
自分の心が、闇に沈もうとしている。
(「……これが、『闇堕ち』……」)
諦めかけたとき、閃光のように声が脳裏を貫いた。
「紅羽さん……お友達やクラブの仲間があなたを待っていますわ。皆さんを心配させないためにも、早く戻ってきて下さいまし!」
桜花の言葉だった。
消滅しかけた流希の意識が覚醒する。
「何…願って堕ちたの…? …思い、出して…」
神秘的な輝きを持つリステアリスの紫色の瞳が、自分を真っ直ぐに見つめている。
弟分たちとの誓いを破ってまで、闇に堕ちたのは何のためだったか。
自分がトドメを刺し、事切れた男の姿が視界の隅に映った。
「お前は此処で終わるタマか?!」
世陀の声にハッとなる。
「戻ってきてください、です」
朋恵の呼び掛けが、はっきりと聞こえた。
無名刀を持つ手が震える。しかし、まだ体の支配を完全に取り戻したわけではない。
意識に反して右手が動く。桜花に向かって居合いを繰り出すつもりのようだ。
(「止まれぇぇぇ!!」)
●
直撃を食らう――。
バランスを崩しているので避けきれない。桜花は覚悟を決めた。
しかし、予想に反して、無名刀が鞘から抜かれることはなかった。
「ふぅ……」
大きく息を吐き出し、流希はその場に座り込んだ。
「戻ってきたのですね?」
桜花の声に、流希は顔を上げた。汗でぐっしょりと濡れているが、普段の穏やかな彼の表情に戻っている。
「一件落着だな」
世陀が構えを解いた。
「申し訳ありません。思うように手加減できませんでした」
「気にするなって」
流希の謝罪に、葵は白い歯を見せた。
「私たちも手加減してる余裕なかったし、おあいこかな☆」
桜も柔らかい笑みを浮かべた。
「…お帰り…なさい」
リステアリスの言葉が、耳に心地よい。
周囲を調べていた朋恵が、クリスロッテを抱っこして戻ってきた。武神大戦殲術陣に関しての何らかの情報がないか調べていたのだが、残念ならば何の痕跡も確認できなかった。
「ボッコボッコにしたりませんでしたけど……」
アレンは小さく笑みを浮かべながら、流希に手を差し伸べた。
「お腹も空いたことだし、ご飯食べに行かない?」
桜の提案に、異議を唱える者はいなかった。
海の幸をふんだんに使った美味しい料理を食べたいと、灼滅者たちはその場を後にするのだった。
作者:日向環 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年5月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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