キミと一緒に潮干狩り

    作者:春風わかな

     4月も終わろうとしているとある日の出来事。
     海に近い町にある幼稚園では恒例となった春の潮干狩りを控え、園児たちは大はしゃぎ。
     だが、その中に浮かない顔の少年が一人いた。
    「どうしたの、みっくん。何か悲しいことあった?」
     優しく問いかける担任の先生にみっくんはぶんぶんと首を横に振る。
    「ちがうの? じゃぁ、よかったら先生に教えてくれる?」
    「…………サメこわい」
    「え?」
    「うみってサメいるんでしょ? ボク、サメこわい! たべられちゃう!」
     どうやらテレビで人喰いサメが出てくる映画か何かを見たらしい。
     堪えきれずにわぁっと泣き出した少年の不安が伝わったのか園児たちは顔を見合わせた。
    「サメってなに?」
    「すっごくおおきくってね、わたしたち、バクってたべられちゃうかも!」
    「やだーサメいたらこわいー」
     気づけばクラス中の園児たちがサメに怯えてめそめそとベソをかく。
    「だ、だいじょうぶよ……サメがいたら先生がえいっ! てやっつけてあげるから、ね」
     いるはずのないサメを怖がる園児たちを先生は必至に慰めるのだった……。

     ぽかぽかと暖かい日差しに包まれた教室でちょうど満開を迎えたツツジを見つめていた久椚・來未(中学生エクスブレイン・dn0054)は教室に灼滅者達が集まったことに気付くとゆっくりと口を開く。
    「新しい、都市伝説の出現を、予知した――」
     それは潮干狩りを楽しむ人々で賑わう砂浜に現れた都市伝説『サメさん』。
     近所の幼稚園児たちが生み出したこの都市伝説は潮干狩り会場の一番奥にある危険区域を自身のテリトリーとみなしているようだ。
     サメさんはテリトリーに入り込んだ人に襲いかかるという。危険区域は一般人の立ち入りは禁止されているものの、会場関係者は立ち入る可能性がある。また、サメさんがテリトリーを拡大しないとも限らないので被害者が出る前に退治してほしい、と來未は告げた。
    「來未ちゃん、サメさんは海の中にいるの?」
     ユメたちも水中でたたかうの?
     困ったような顔で首を傾げる星咲・夢羽(小学生シャドウハンター・dn0134)に來未は「違う」と首を横に振る。
    「サメさんは、空を泳いでる」
     都市伝説なのでふよふよと宙に漂っているらしい。 
     そのサメさん、テリトリーに侵入した人々を見つけたら問答無用で襲い掛かってくる。
     攻撃時はロケットハンマーによく似たサイキックを使用し、ターゲットを一人ずつ確実に仕留めることを好み体力には自信があるらしく非常にタフだという。
     サメさんと戦うのは早朝の人が少ない時間帯の方が一般の人を気にせず戦えるのでおススメだ。
    「サメさんを退治したら、潮干狩り、してもいいかも」
     ちょうど朝の早い時間に干潮を迎えるとあり、潮干狩りには絶好のチャンス。
     潮干狩りの他にぱしゃぱしゃと海辺で水遊びをしてもよいし、砂浜で砂遊びをするのも良いだろう。
     基本的に一般人が立ち入らない場所なのでサーヴァントと一緒に遊ぶのも問題ない。 
    「やったー! 小梅、いっしょにしおひがりしようね!」
     嬉しそうに声を弾ませる夢羽に小梅も甘えた声で鳴いて応えた。
    「みんなが、安心して遊べるように、砂浜を守って」
     サメさん退治して潮干狩り。
     春の海へと出かける灼滅者たちを來未は静かに見送るのだった。


    参加者
    八槻・十織(黙さぬ箱・d05764)
    八咫・宗次郎(絢爛舞踏・d14456)
    エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)
    葉新・百花(お昼ね羽根まくら・d14789)
    巳越・愛華(ピンクブーケ・d15290)
    流阿武・知信(優しき炎の盾・d20203)
    時雨・翔(ウソツキ・d20588)
    桜乃宮・萌愛(閑花素琴・d22357)

    ■リプレイ

    ●空泳ぐサメさん
     朝日が昇ってまだ間もない早朝の砂浜。
     普段であれば人のいないはずの危険区域と称されている場所で9人の灼滅者たちが武器を振るっていた。彼らは対峙する都市伝説――サメさんに狙いを定めてガドリングガンを連射し、鋭く刃のように尖った影が襲い掛かる。
    「それにしてもサメさんが空を飛ぶなんて……。少しはTPOをわきまえて欲しいですね」
     桜乃宮・萌愛(閑花素琴・d22357)は両手で握り締めたマテリアルロッドにぐっと力を込めた。
    「早々に引き取ってもらいます!」
     萌愛が放った強烈な雷がまっすぐにサメさんの尾を撃ち抜く。
    「そうそう、オレたちこの後に大事な予定があるんだよね」
     自らの腕を巨大な砲台へと変えた時雨・翔(ウソツキ・d20588)の銃口から放たれた死の光線もまたサメさんの背びれを貫いた。
    「可愛い女の子を待たせるわけにはいかないからね。だから、この砂浜の平和を脅かす輩は早く退治しないとね♪」
     灼滅者たちの連撃を受けたサメさんは煩わしそうに大きく身体をブンっと振る。綺麗な弧を描いて迫りくる強烈な殴打から仲間を守るために流阿武・知信(優しき炎の盾・d20203)は恐れることなくスウィングの軌道に自らの身体を滑り込ませた。
    「なんだ、こんな程度か……っ」
     フフン、と挑戦的な瞳で知信はサメさんを睨み付ける。
    「今の、本気? たいしたことないね、全然効いてないよ」
    『グワァァァッ』
     強気な知信にサメさんは大きく牙を剥いた。

     ――話は10分ほど前に遡る。
     波の音だけが静かに響く無人の浜辺で八咫・宗次郎(絢爛舞踏・d14456)はサメさんが現れるという危険区域を探していた。
    「あ、看板がありますね。あの辺りが危険区域ですね」
     宗次郎が指差した方角には観光客へ向けた警告を示す看板が立っている。
     急ぎましょう、と宗次郎を先頭に一向は看板の傍へと足を向けた。
    「夢羽ちゃんと小梅ちゃんも一緒にサメさん退治、頑張ろうねっ」
     にっこりと微笑む巳越・愛華(ピンクブーケ・d15290)に「うん!」と笑顔で応える星咲・夢羽(小学生シャドウハンター・dn0134)は両手を大きく広げて得意気に言う。夢羽の足元では霊犬の小梅が打ち寄せる波に戸惑いを隠せなかった。
    「ユメ、みんなのこといーっぱいかいふくしてあげるね!」
    「それは心強いな。夢羽も小梅も、よろしく頼む」
     戦闘前の和やかな一時にエアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)も優しい視線を向けたが、彼の隣を歩く葉新・百花(お昼ね羽根まくら・d14789)が「ダメ!」と思わず口を挟む。
    「えあんさんがちょびっとでも怪我したら、ももが回復するんだもん!」
    「ありがとう、もも」
     大切な人の可愛い嫉妬にエアンの顔も綻び、そっと頭を撫でた。ほにゃっと笑顔を浮かべる百花だったが、怪我を負ったエアンを想像したのか幸せそうだった顔がさっと曇る。そして、百花はじっとエアンを見つめると小さな声で呟いた。
    「でも……やっぱり怪我しないように気を付けて……」
     エアンはすっと身を屈めると百花の頬を撫で耳元で優しく囁く。
    「わかってる。ももも、あまり無理はしないでくれよ?」
     そこへ、周囲の様子を確認しに行っていた雛杜・百火(d12000)と式守・太郎(d04726)が戻ってきた。
    「周辺を見回ってきたが、一般人はおらんようじゃのう」
     百火の言葉に皆ほっと胸を撫で下ろす。
     だが、この後も朝の散歩を楽しむ誰かがふらりとやってくる可能性は否定できない。
     心配そうに眉をひそめる百火の言葉に「でも」と太郎が口を開いた。
    「安心してください。戦闘中に一般人が近づかないように俺たちが見張ってますから」
    「ありがとな、助かる」
     任せたぜと頷く八槻・十織(黙さぬ箱・d05764)の背後から夢羽がひょこっと顔を出す。
    「百火ちゃん、太郎くん、がんばってね!」
    「ユメハと小梅もサメさん退治、頑張って」
     ぴっと敬礼する夢羽を真似て、太郎も姿勢を正すと額に手を当て敬礼の姿勢をとった。
     再びパトロールへ向かった2人を見送った十織は振り返ると仲間たちをぐるりと見回す。
    「さてさて。それじゃそろそろ始めるか」
     十織の合図に合わせ「せーの!」と灼滅者たちは危険区域へと一歩を踏み出したのだった。

    ●砂浜でサメ退治
    「ジンベエザメみたいな大人しくて可愛いサメもいるのになぁ……」
     残念そうに呟く愛華の足元から伸びた黒い影が刃のような形へと姿を変え、一斉にサメさんの体を切り裂く。尖った影はサメさんの皮膚を容赦なく切り刻むが、体力自慢を誇るサメさんは鬱陶しそうに顔を歪ませるだけ。
     愛華と同じ攻撃を担う者同士で視線を交わし、萌愛もサメさんへと向かって足元の影を伸ばした。いくつもの歯車のような形へと変化した影がサメさんの体を大きく包み込む。
    「なかなかしぶといですね……ですが私たちも負けるわけにはいきません!」
     仲間同士で言葉や視線を交わし上手く攻撃を繋げてサメさんを攻撃する灼滅者たち。
     3匹のサーヴァントたちも攻撃に回復にと忙しく立ち回り、状況は灼滅者優位のように見えていた。だが、いまだサメさんは弱った素振りを見せることはない。
    「ったく……海は皆のものだろ」
    「ナノナノっ!」
     十織のガドリングガンから爆炎を込めた弾丸が連射され、サメさんへと炎の雨が降り注ぐ。間髪入れずにナノナノの九紡が放ったたつまきがサメさんへと襲い掛かった。
    「独り占めはマナー違反だ」
     ……独り? 一匹?
     サメさんだから『一匹占め』が正解だろうかと首を傾げる十織に九紡も「……ナノ?」とちょこんと首を傾げる。
    「そういえば……空を飛ぶサメが出てくるB級映画があったっけ」
     炎を身に纏いたつまきに煽られるサメさんを見てエアンは独りごちた。
     確か、あの映画では巨大な竜巻に乗って都市を襲うサメの群れと戦ってたな。
     チェーンソーでサメに挑む主人公を思い出しながらエアンはガドリングガンを構え直す。
     再び炎に包まれたサメさんはじたばたと尾びれを振り回し、怒りの声をあげた。
    『キシャァァァァー!』
     ビッタンビッタンとサメさんが尾びれを砂浜に叩きつけると衝撃波が生まれ、前に立つ灼滅者たちを一気に薙ぎ払う。
     すぐさま態勢を立て直した宗次郎が仲間たちに声をかけた。
    「皆さん、大丈夫ですか? 今、回復しますね」
     宗次郎が招いた優しい風が傷ついた仲間たちをふわりと包み込む。浄化をもたらす清らかな風は怪我や疲労を癒すだけでなく、足元に纏わりつく見えない鎖をも吹き飛ばした。
    「もーぅ……この後えあんさんと一緒に潮干狩り楽しむんだから……っ!」
     ぷくぅと頬を膨らませた百花が鞭剣を伸ばしてサメさんの体へと巻き付ける。そして両手にぐっと力を込めてそのまま一気にサメさんを引き裂いた。
    「早く、帰って!!」
     一瞬サメさんが怯んだ隙を見逃さず、即座に翔が両手に集中させたオーラをサメさんに向かって放出する。
    「砂浜の平和、というか可愛い子たちの平和は俺が守る! ……なんてね♪」
     翔を援護するように霊犬の一心も礫の如く六文銭をサメさんへと向かって飛ばした。
    『ギャァァァァァッ』
     ボロボロになりながらもまだ牙を剥いて翔へと襲いかかるサメさん。だが、その攻撃は翔へは届かなかった。
    「なんだ、そんな程度? 無理しない方がいいんじゃない?」
     翔の前に立った知信が顔の前で組んだ両手を下ろしてサメさんを見上げる。
     炎を体に纏い毒に蝕まれ呻き声をあげるサメさんの体はボロボロだった。だが、最後の力を振り絞って宗次郎に向かって突っ込んでくる。
    「ぐっ……」
     両足にぐっと力を堪えてサメさんの攻撃を受け止める宗次郎。宗次郎がサメさんを抑えている隙をついて愛華が氷の礫をサメさんへと撃ち込んだ。
    「さぁ、海へお帰りっ!」
     冷気の弾はサメさんの僅かに残っていた体力を奪い去る。サメさんはばたばたと胸びれを動かしていたが……パタリとその動きを止めると同時にすぅっと煙のようなものへと姿を変えると静かに空へと還って行った。
    「やれやれ……帰ったか」
     十織が怪我はないかと仲間たちを見回す。幸い、大きな怪我を負っているものは1人もいない。癒し手たちが頑張っていたからだな、と十織に褒められた夢羽が誇らしげに一心と小梅を抱きしめた。
     砂浜に平和が戻った後は――楽しい時間が待っている。

    ●わいわいのんびり潮干狩り
     朝日に照らされた水面がきらきらと輝く。
     ある者はさっそく靴を脱いで裸足になり、またある者は熊手を用意し皆準備万端。
    「えあんさん、潮干狩りって……何が採れるの?」
     初めての潮干狩り。弾む心を押え切れない様子の百花を愛しそうに見つめエアンが優しく答えた。
    「俺もよく判らないけど、アサリとかハマグリが採れるらしいよ」
    「そっか、晩御飯のおかずにぴったりね♪」
     エアンと百花は顔を見合わせると仲良く浜辺を歩きながら思いついた料理名をあげる。
    「そうだ。どちらが多く貝を見つけるか競争でもしてみる?」
     どう? と問うエアンに百花は迷わず頷いた。
    「じゃぁ、負けた方が今日のお料理の味付け担当ね」
     ここは頑張って是非ともエアンの味付けでお料理を食べたいところ。張り切る百花の手をそっと取り、エアンは貝が多そうな場所を探す。
    「小梅! 早く早く~」
    「あ、夢羽さん。ちょっと待ってください」
     小さなバケツを持って浜辺へと駆けだそうとする夢羽を萌愛が呼び止めた。
    「この時期の日差しは結構キツイですからね……ちゃんとケアをしておきましょうね」
     萌愛は夢羽の手に白い日焼け止めクリームをちょこんと載せる。
     ありがとう、と夢羽は嬉しそうにクリームを塗って準備完了。
    「夢羽ちゃーん、こっちにいっぱい貝がいるよー!」
     手招きする愛華に両手を振って夢羽は応えると、傍らの萌愛に「行こう」と促した。
    「夢羽さん、小梅さんとの貝探し競争に私もご一緒させていただいてもよろしいですか?」
    「うん、いいよ! でもユメ負けないもん!」
    「ふふふ、私も負けないように頑張ります」
    「2人とも早くおいでよー!」
     愛華に呼ばれ、萌愛と夢羽は急いで浜辺へと向かうのだった。
    「潮干狩りのコツ?」
    「俺、潮干狩り初めてだし。せっかくやるならいっぱい採って夕飯に使いたい」
     函南・喬市(d03131)の質問に十織は暫し考え込む。教える側に立つのは新鮮だ。
    「砂浜に小さな穴があったら掘る。以上」
    「なんだそれ、コツが知りたいんだコツが」
    「まぁ、やってみりゃわかるだろ」
     帽子代わりに九紡を頭に乗せ、喬市と十織も砂浜にしゃがみ込んだ。
     ぎゅっと熊手を握りしめホワイト・パール(d20509)は リオン・ウォーカー(d03541)の説明を黙って耳を傾ける。だが、結局どうすればよいかわからない。
    「ほら、ホワイさん! ここ掘ってみてください」
     リオンに言われるままに砂浜の穴を狙って掘ると中から貝が現れた。貝を摘まみ上げホワイトは小さく首を傾げる。
    「これ……どうやって食べるの?」
    「そうですね、お吸い物とかにすると美味しいですよ。――今日の夕飯で作りましょうか」
     他には何を作ろうか。2人の楽しい時間はまだ始まったばかり。
     宗次郎は無心で貝を掘り続けていた。
     ふと手元の網を覗き込んでみるといつのまにかそこには結構な量の貝が入っている。
    「もうこんなに採ってましたか」
     ずしりと重くなった網を持ち上げ宗次郎は本日の夕飯の献立は何にしようかと考え込んだ。定番のクラムチャウダーやボンゴレ、アサリの酒蒸し。それともここはやはりシンプルに味噌汁にすべきか。
     どれも捨てがたいと頭を悩ませる宗次郎の出した答えは。
    「……もう少し採っておくことにしましょう」
     明日の夕飯の分を確保すべくさらに貝を採るのだった。
     裸足で砂浜を歩く知信の足元に穏やかな波が打ち寄せる。
     足に当たる波の感触の心地良さに目を細め、知信はパシャンと小さな波を蹴りあげた。
    (「夏だったら泳いで汗も流せるのになぁ」)
     残念そうに砂浜を見つめる知信の視線の先で小さなヤドカリが波に流されぬように必死に歩いている。懸命に歩くヤドカリをじっと見つめる知信の黒い髪が初夏の潮風にふわりと揺れた。

    ●お楽しみは帰宅後も続く
     今日、採った貝で彼女が手料理を作ってくれる。
     嬉しい約束に心弾ませながら翔は桃咲・音愛(d24887)と一緒に貝を採っていた。貝を採るのに夢中になって離れていく音愛を翔は慌てて目で追いかける。
    「あわわっ!?」
     案の定、そこには砂に足を取られて転びそうになる音愛の姿が。
    (「転ぶ!」)
     ぎゅっと目を瞑った音愛の腕を大きな手ががっしりと掴んだ。
    「大丈夫かい、音愛?」
    「わ、はわ、ごめんねだよ……っ」
     恥ずかしさと安堵と混じった顔を見られたくなくて。咄嗟に音愛は顔を伏せる。
    「気をつけなきゃダメだよ~」
    「あ、ありがとうだよっ!」
     自分のドジさに呆れつつも頬に撥ねた泥を翔に拭ってもらい音愛の心はほんわか温かくなった。
     翔おにーちゃん、と名前を呼ぶ音愛に「何?」と翔は笑顔を向ける。
    「おいしい貝料理、作るからね!」
     任せて! と張り切って再び貝を採り始めた音愛を愛おしそうに翔は見守っていた。
    「ね、愛華ちゃん。このあなをほればいいの?」
    「そうだよ、それは貝が目を出してる穴だからね。その下に貝がいるんだよ」
     砂浜にポコポコと開いた穴を夢羽と愛華は丁寧に掘り進める。
    「わぁ、あったー!」
     嬉しそうに貝を掲げる夢羽の傍で波に慣れた小梅も貝を見つけては萌愛にバケツへ入れて貰っていた。
     ふと、愛華は萌愛のバケツの中に見慣れぬ貝がいることに気付く。
    「萌愛先輩、その細長い貝は?」
    「これはマテガイという貝ですよ。この貝を採るにはこれが必要なんです」
     にこりと微笑み萌愛は塩の入った小瓶を取り出した。そして、マテガイの巣穴を探し萌愛はぱらぱらと塩をかける。
    「よく見ててくださいね」
    「わぁ!? なにか出てきたー!」
     巣穴からニョキっと姿を見せたマテガイを夢羽はぐっと掴んで引っ張り出した。
    「むむむっ、夢羽ばっかりずるいのじゃ! 我も負けぬぞ!」
     響塚・落葉(d26561)も負けじと砂浜を掘るが、山暮らしの落葉に海は新鮮。
    「おお! 波じゃー!」
     寄せては返す波を見てはしゃぎカニを追いかけ。落葉の潮干狩りはなかなか進まない。
    「夢羽、あれはなんじゃ!?」
     落葉が指差す先には砂のオブジェ。それはロードローラーのように見える。
    「ユメ、見てくる!」
     小梅と落葉と共に夢羽が駆けていくと、そこでは外法院・ウツロギ(d01207)が砂でロードローラーを作っていた。
    「我ながら上手く再現できたな。後は細部の仕上げを……」
    「すごーい!」
     満足そうに作品を見つめるウツロギの目の前で夢羽たちがぴょんと飛び乗る。
    「あぁぁ! 僕のロードローラーが!」
     砂のロードローラーは無残にぐしゃりと崩れ落ちた。
    「ナノっ、ナノ~」
     水が苦手な九紡は少し大きな波が打ち寄せるたびに喬市の頭にぎゅっとしがみつく。
    「九紡……君は帽子代わりでいいのか?」
     落ちないように九紡を支えてやる喬市に十織は嬉しそうな声をあげた。
    「キョウ見てみろ、ヤドカリだ! こっちにはカニがいるぞ!」
     ヤドカリだカニだとはしゃぐ大きな子供を喬市は呆れ半分に見つめる。持って帰って飼おうかと言いかけた十織に喬市は容赦なく現実を突きつけた。
    「貝が採れなければ夕飯はないぞ」
    「ハイ、食材調達ですね」
    「ナノナノ!」
     頑張れ、と九紡に応援され、再び2人は砂を掘り始める。
    「えあんさん、見て!」
     嬉しそうな百花の声にエアンが振り返る。
    「ほらほら、カニさんげっと~♪」
     百花は嬉しそうに籠にぽいっと放り込み。そしてまたカニを見つけて籠に放り込む百花を見てエアンは思わず声に出して笑った。
    「もも、カニじゃなくて貝を獲るんだろう?」
    「あ! ……そだった。貝を探さなくちゃ」
     エアンの的確なツッコミに百花は赤面しながら貝を探す。
     これだけ採れればエアンとの勝負も勝てるだろうか。
     百花は籠を抱えてエアンに話しかけた。
    「えあんさん、どう? いっぱい採れた?」
    「うん、まあまあかな。ももは? ちゃんと貝採ってる?」
     くすりと笑いながら意地悪をいうエアンに百花は「とれてるもん!」と口を尖らせる。
    「ごめんね……あ、泥が跳ねてる」
     笑いながら謝るエアンは彼女の顔に跳ねた泥を優しく指で拭った。
    「やだ!? ……ありがとう、えあんさん」
     泥跳ねも気にせず貝を掘り続けた愛しい彼女のために、今日は美味しい貝料理を作ろうとエアンは微笑むのだった。
    「どう? 夢羽ちゃん、いっぱい採れた?」
    「うん、見て! 萌愛ちゃんにはかなわなかったけど、小梅にはかったよ!」
     愛華に得意気にバケツを見せる夢羽。そこには愛華や萌愛の手助けもあり色々な種類の貝が入っていた。
    「やったね! 今夜のお味噌汁の具はこれで決まりっ!」
    「うんっ! おうちかえったら作ってもらうんだ~」

     そろそろ観光客も来る時間帯。
     帰り支度を終えた灼滅者たちはこっそりと浜辺を後にする。
     皆の今夜の食卓には美味しい貝料理が並ぶのだろう。
     楽しい想い出とたくさんの貝をお土産に帰路につくのだった。

    作者:春風わかな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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