●地獄合宿~札幌・東京地獄マラソン! 線路に駆ける~
「みんな。今年の地獄合宿、発表されたみたいだよ?」
クリスが半ば苦笑を浮かべながら、紙を見せる。
ゴールデンウィーク恒例、地獄合宿。
北海道、東京、名古屋、大阪、そして博多と、各地で灼滅者達を集め、虐め……いやいや、訓練させようという、学園の一大イベント。
そういえば去年の北海道の地獄合宿は、とてつもなく寒い雪山、大雪山で繰り広げられた……そして、今年は……。
『札幌・東京1100km、地獄マラソン!』
……ぱっと見て、数名の目が点になった。
いや、目が点になるのも仕方ないだろう……だって、現実離れしすぎてる。
でも、灼滅者だから大丈夫だよね、という学園のノリは、ある意味学園らしいとも言えるけれど……。
と、クリスは、その要項説明をかみ砕きつつ、更に説明する。
「今年の北海道の地獄合宿。一本列島とも言われる、全国各地に繋がった線路の内、札幌から東京までの約1100kmの線路沿いを一泊二日で走り抜け……というものみたいだね。一泊二日だと……一日550キロ走れって事になるから、その時点で凄まじいと思うんだけど……」
額に汗を浮かべるクリス。とは言え地獄合宿という名があるからこそ、灼滅者達に地獄を見せるような、過酷な試練でなければならないのだろうか……。
「一泊二日、つまり48時間という規定時間の中でゴールすれば、一応クリアになるみたい。勿論、順位はつくみたいだね。一応サーヴァントの部と、一般の部に分けられてるみたい」
「サーヴァントの部は、例えばライドキャリバーに乗って参加とかの人はこっちみたい。単純にサーヴァントと一緒に、自分の脚で走って参加の場合は、一般の部になるみたいだから安心してね?」
「勿論一泊二日の時間の間なら、走る路線、コースは自由……と言っても、2日間の間でゴールするとなると、最短経路しかないかな? 当然途中で休憩したり、観光したり、野宿したり、ホテルに泊まったりするのもOK、とはあるけど……」
「……何にせよ凄まじい長距離だから、適度に休憩を取りつつ走らないとへばっちゃうと思うんだ。そこらへんは皆、タッグを組む人とかと一緒に考えて見るといいんじゃないかな? 途中駅での名産品食べ歩きとかも可能だと思うよ」
「まぁ、何にせよ一泊二日でゴールを目指す、という地獄合宿。我こそはという人は、参加してみたらどうかな? ……自信ないけど、僕も参加してみるから」
くすりを微笑むクリス。
不安と、期待が入り交じる地獄合宿……その火蓋は、切って落とされるのであった。
●地獄への旅路
2014年、地獄合宿。北海道から東京までの間、1100kmを走破。
「今年の地獄合宿はマラソンからか……まだ地獄の一丁目とはいえ、厳しい内容だな」
「ええ……ちょっと想像を絶していますね! 睡眠や休憩の時間を引いた、走るのに使える時間から計算すると、時速16kmですか……」
「そうですね。とはいえマラソン選手でも、時速20km以上は2時間が限度らしいんだけど……無理すぎますね……」
「ああ。ざっくりだと、不眠不休でないと間に合わねえ位じゃん!」
「……本当、去年も色々と酷かったが、今年はそれ以上だな……」
友衛、敬厳と睦月と淼、久遠の会話。
しかし、このような無茶苦茶な話は、灼滅者だからこそ。
しかしそれに怒りを覚える灼滅者も……。
「……まず言いたいです。くたばれ、バベルの鎖! なんですか、このふざけた日程と内容は! バベルの鎖さえ無ければ学園訴えて勝てるわよ、これ。そもそもまずこの札幌東京1100km地獄マラソンって考えたヤツ出てきなさいと言いたいわ。灼滅者だからとかの問題じゃないでしょうに!」
「まぁ……そうですねぇ。今年も強烈なモノが来たモノです」
「ええ……」(「どうして私がこんな事を……!」)
「本当、理不尽きわまりない内容だ」
「そう、企画者は、一回自分のみで試してみれば良いと想うの」
妃那、流希、ステラにアヅマ、夕月らが口々に苦言を呈する。
一方。
「……早く到達出来るよう頑張る……目指すは頂点のみ」
「そうです。今から特訓しておけば、今度のマラソンで上位に入れるはず! 『継続は力なり』だからね!」
「ええ……そうですね。頑張って下さいね?」
蔵人の言葉に、法子と小次郎のように、トップ目指して気持ちを奮い立たせるのもいるし。
「オレンジさんの希望で参加した訳だけど……オレンジさん、頑張れる?」
「ナノ!!」
「すごいねー、オレンジさん、漢上げてるね。とはいえ乙葉ちゃんも、気をつけてね?」
「ええ……頑張りますよ」
と、漢を上げるナノナノの為に、参加を決意した者や。
「イーーヤーーッ!!」
……引っ張られてきて、参加する羽目になった梵我のように、不可抗力で参加することになってしまったり。
「今の自分はこのままで良いのか? 本当に自分は、メイドと言える存在なのか……?」
と、喜一のように自分について見つめ直したり。
「やる気はあるんですが、出発直前に腰と膝とチャクラ穴に矢を受けてしまってな……」
「……えーっと……多分、それじゃ無理だと思うよ?」
そんな拓海の言い訳に苦笑するクリスとか。
ただ、蔵人、慧悟、里桜やサーシャのように。
「目指すは期限内に共に完走。順位が着くなら優勝を狙うつもりだが」
「ん……まぁ、期限内の完走が、目的……勝ち負けより、そっちが重要。だから、焦らない……でも、里桜さんが、その気なら……負けない」
「うん……前回のマラソン大会で上位になった慧悟さんの走り、見せて貰うよ」
「……ああ」
「……部、長……で、盟、友……の、姉、様……から、課さ……れた、訓練……ロシ……ア、村……では、わた……し……だけ……最後……まで、たた、かえ……なかった……強、く……なり、たい……がん、ばろ……ママ……」
一位を目指す。
地獄合宿という名の訓練だけれど、毅然と受け入れる嘉哉や、望、脩弥、蘭花のようなのが、ある意味清々しい。
「ま、極寒で風景もほぼ変わらずの去年と比べればまぁ、マシだ。時間内であれば観光も出来るし、ちゃんと泊まれるし、まぁ……色々だ」
「鍛えようかなぁと想って参加したんだけど、なんか甘くない感じだよね。地獄合宿だしね……」
「持久力と速さには自信がありますし、タダで北海道から東京まで縦断可能……地獄合宿様々です。幸い、普段余り使わないので、お金に余裕はありますしね」
「うん転校してきて初めての行事だし、頑張って完走するつもり! まぁ、趣味の鉄道旅行の下見も兼ねてるんだけど、いいよね?」
「いいと想います。グルメ好きな私にとって、今回のマラソンは各地の駅弁を食べられる絶好の機会。地獄合宿を開催した生徒会の皆さんに感謝……さぁ、北海道~東京駅弁巡りツアーの開催です」
と、自分なりに……。
「よし、さぁみんな、我等着ぐるみ野郎Aチーム、行くぞー!」
「「「おー!!」」」
……何故か着ぐるみを身につけて参加している達郎、ファニー、香代、玄のように、これも自分なりの愉しみだからいいとしよう。
「よっしゃ、それじゃーいくぜー!!」
と、利戈が拳を振り上げ、そして……0時丁度の刻を待つ。
「今年は殺る気満々な魔人生徒会ですね……更に電車に轢かれる可能性もあるので、去年より恐ろしいですが……」
「そうだね。でも頑張るよ! ふん! Fightーー!!」
と菫にラトリアが気合いを入れ、更に芽生とナハトムジークも。
「とりあえず、そんなに寄りたいところもナイし、サボルにしても、もうフィールドには出てしまってるから諦め……」
「ナハトさん、一位目指して頑張りましょうね♪」
「……ああ」
と、そんな会話を交わしていると、0時。
先陣を切って出て行くは、ライドキャリバーに乗った瑠々、ディートリッヒ、ナディア。
「さぁ行きますよファルケ! お前の力を見せてやりなさい!」
「さて……ライドキャリバー使いとしては悪くない内容じゃ。だが最速を目指して風になるも良いが、折角日本横断するのじゃし、相棒と共にこの世界の日本の風景を満喫しつつ、優雅な旅としゃれ込むとするかの」
そんな気持ちを抱きつつ、ライドキャリバー達は札幌の地を駆けていく。
バイクとヒト……速さは違う訳で、まずはそれを見送ってから。
「世界記録を超えた走りに挑戦ですね……さて、一泊二日の旅かぁ……さて、どのルートを選ぼうかぁ……」
「ええ……まぁ、学園推奨ルートを先ずは進むとしましょうか」
「そやそや。ペースと栄養、水分補給はしっかりするんやで?」
真一に小太郎、クリミネルの言葉が紡がれると共に、走る灼滅者達もスタートを切るのであった。
●いざ、地獄へ!
「凄いね……2時間走ったのに、まだまだ先かぁ……」
「そうね……本当……よくもまあ考えついたわ。本当……死ねばいいのに、校長」
「まぁまぁ……何か考えがあるのかもしれないし」
「考えがあったとしても、線路上を走れだなんて、危ない事この上なさすぎよ」
「そうだね……僕、何の目を出して、こんな罰ゲーム受けてるんだろう……」
「えーっと……」
クリスの言葉に、妃那の舌禍は止まらず、真一も溜息を吐く。
怒りを覚えるのは、当然な無茶苦茶な地獄合宿。
そんな二人の横をカイジと久遠が。
「二人とも、そんなに騒ぐと、後半だれるぞ?」
「ああ。これは鍛錬が目的だ。一応順位はつくかもしれんが、完走が目的だしな……風雪も、ゴールまで気を抜くなよ?」
『ワン!』
久遠の傍らには、霊犬の風雪も一緒に走る。
そう、この合宿はある意味、共に歩むサーヴァントとの鍛錬、という考え方も出来る。
とは言っても、一般人の枠で括ることが出来ない灼滅者だから、地獄という枠でくくるとなると、それだけ訓練も厳しい。
「……はぁ、はぁ……ま、待ってー……休憩、休憩を……」
走る中、玉川上水キャンパス高校1年9組のこのかは、クラスメイト達に息も切れ切れで声を上げる。
「雪羽様……ちょっと、待って下さい。このか様が、遅れてきています……」
「ん? …ああ」
立ち止まり、仲間を待つ……そして、彼女は。
「はぁ、はぁ……ねー、雪羽さん、箒乗せてよー。箒。どうせ使う気だったんでしょー? 私インドア派だから、運動は苦手なの。お願いー……焼きそばパン、買ってくるからー」
「はいはい……解った解った」
と箒を取り出し、雪羽に続けてのるこのか。
……ふわり、と空高く飛び上がると……。
「! いーーやー!! 降ろして! おーろ--しーてー!!」
じたばたと暴れるこのか。当然バランスを崩すし、そんなに箒の動きも速くない。
そんな二人を見上げながら、アポロニアと九音、ナイが。
「ははは……なんだろう。あれじゃー無理だよねー」
「そうだなぁ……箒で飛んでてズルしてまーす、と言いたかったけど、あれじゃ無理だな」
「そうですね……」
「あ、降りてくるよ!」
流石に暴れるこのかをこのまま乗せていくのは難しくて、降りる二人……。
「はぁ、はぁ……」
「……全く、高所恐怖症なら乗らなきゃいいのに」
「だって、疲れたんだもん……うう」
その時、ぐぅぅ、とお腹の音が鳴り響く……。
「あれ? お腹空いた? なら折角だし、大沼牛を食べようよ! ちゃーんと予約してあったんだ!」
「バーベキュー、ですか……それも良いですね」
ニコリと肉を差し出し、更にバーベキューセットを広げていくアポロニアに、頷くナイ。
始まって二時間で、早速バーベキューを愉しむ1年9組の面々。
……そして食べ終われば、片付けて。
「……暫くバーベキューセットの運搬、交代しますよ……重いでしょう?」
と、ナイがバーベキューセットを半分持って、更に向かう……。
そして、走り始めて3時間位が経過……仁木の辺り。
「懐かしいな、ここ……そう言えば、去年の二月、アンデッドになった家族を滅ぼして、そのまま放浪の旅に出たんだったな」
と呟くのは久良。それにクリミネルが。
「そうなん?」
「ああ……夏の日みたいな笑顔のじいちゃんは、今のオレと逢ったらどんな顔をするのかな……夏休みになったら、帰ろう」
「そうやねぇ。時々は帰ってやらへんと。きっと喜ぶ筈や」
ニカッと笑うクリミネルに、照れるように頷く久良であった。
そしてトップ集団が、次々と青函トンネルへとさしかかる。
「やっと青函トンネル……これで、約1/4って所ですか……」
「そうですね……喜一先輩、大丈夫ですか?」
「ん、大丈夫大丈夫……しかしこの先って、青函トンネルの中を潜っていけ、って事ですよね……それもまた、無茶苦茶な気がしますが……」
文具の言う通り、青函トンネルを越えなければ本州には辿り着けない。
「あの、青函トンネルを歩いて渡るのは、法律に違反するのでは……でも、そんな事言っても、魔人生徒会には無駄なんでしょうね……中君。仕方ないから、泳ごう」
と、良太がビハインドと共に、いそいそと泳ぐ準備を整える一方……在来線でワープしようとする真一。
「危険だから、僕ここから在来線で蟹田まで行くねー」
「あ……まぁ、距離も短いからいいんだろうけど……多分、魔人生徒会に監視されてるよ?」
「大丈夫大丈夫」
手をヒラヒラ~、と振りながら時刻表を確認……次の列車は11時。
……ある意味走った方が早いかも知れない、という感じ……まぁ、その選択は各自自由。
そして青函トンネルへ足を踏み入れると……以外に明るく、不安感はない。
「……危……ない、殺気、は……わか、り……やす、い……けど……電車……には、ない……から……音、注意、する……ママ、気を、つけ……て……」
サーシャの言葉にこくりと頷くビハインド。
……そして暫く進んでいくと……後ろの方から、光が。
「……来たようだな……雪乃城……こっちだ」
「え? きゃっ」
クーガーが肩を抱き寄せるようにして、避難場所に身を潜らせる……。
「あ、えと……あ、ありがとうございますねぇ……」
ニコリと笑う菖蒲に、ああ、と頷くクーガー。
その後も、幾度となく前、後ろからやってくる特急。
ラトリアは兎変身したり、普通に佐奈のように避難スペースに身を潜めてやりすごしたりしながら……どうにか青函トンネルを抜けるのであった。
●新緑に彩られし青き森
そして東北地方、青森、岩手。
先陣切って移動しているライドキャリバーの三組。
「ほーら、休まず全力疾走ですよ! もしオレが寝てしまったら、揺り動かしたりして安眠を妨害しない程度に走る事!」
とディートリッヒの指示に、エンジンをふかす音をするライドキャリバー。
その一方、瑠々は。
「~♪」
鼻歌を歌いながらツーリングを愉しんでみたり。
「最短距離全力疾走、疲れたら休むでいいよね……って、イドさんこれ対向車線っ!!」
ライドキャリバーにちょっと振り回されているナディアだったり……。
そんなライドキャリバー乗り達は、走る組に対して遥かに早く、思い思いに地獄合宿を愉しむ。
一方、新青森まで向かう線路を急ぐ走る者達……当然、脚は結構痛くなりはじめる。
「流石に脚が痛くなってきましたね……」
「まぁ……流石に身体に負担の少ない走り方を為ないといけないよね……こんな走り方で、大丈夫なのかな……身体に負担の少ない走り方ねぇ……」
「ん? ……そうやね……」
悠蛇に、雛菊が目の前で……踵から、しっかり着地するように走ってみせる。
「これこれ、踵から着地で地面を蹴る事を意識するんが、身体に負担の少ない走り方らしいんよ。マラソン大会でも有効やったからね」
ニコッと笑う雛菊……そうですか、という悠蛇は、何処か表情が硬くて。
そんな悠蛇を、まあまぁ、と緊張をほぐすように……。
「一人で走るより、一緒に走る人が居るのって、精神的にも有り難いし、有り難う、せんぱ……ってっ!?
……いつの間にか、肩を抱いてくる雛菊……悠蛇は顔を真っ赤に。
「……あれ? どうしたん、悠蛇くん?」
「あ、えっと……」
(「……そんなに引っ付いたら、嬉しくない訳じゃないけど……うぅ……」)
鼻を押さえる悠蛇……雛菊はそう、と微笑み続ける。
……そんな二人を横目に見つつ、青森県に入ってらすぐにガイアチャージでパワーを吸収するアリエス。
そして菫とラトリアと一緒に、新青森駅へ到着。
「これから先は新幹線ルートだね」
「そうだな……在来線よりは直線的だし、混雑も避けられるだろう。新幹線を避ける必要は在るが……青函トンネルと同じだしな」
真一に頷く友衛。
これから先は、新幹線のルートもある……勿論、新幹線の線路上を進むとなれば、前後にかなりの注意をしなければならないだろう。
「まぁ、でも悩んでいても始まらないよね。諦めずに走れば、脚を前に出し続ければゴールには着く。絶対にゴールするんだ!」
と久良は拳を振り上げると、久遠、望も。
「ああ……これはまだ一つ目の合宿だしな。次へ向けて、英気を養いながら進むとしよう」
「ええ。折角ここまで来たんですから……部の皆と一緒に食べたいものもあります。出来るだけ、これからは多くの店を巡れればいいのですが……」
望は影業で、沢山の手を作り出して、既に北海道からここまでのルートで買った沢山のお土産物が……。
こういう地獄合宿だからこそ、そういう愉しみも欲しい訳で……。
「林檎の御菓子購入完了ー♪ 東京に着いたら食べるんだ。だから食べるためにもがんばるっ!!」
唯のように、ゴールのご褒美にお土産を買うのも居れば、流希のように。
「さて、ここの名物はせんべい汁ですね……」
と、名物を食べに行く者。
……そんな感じで、思い思いに短時間ではありながら、愉しんでいると……新幹線の発車のベルが。
ナハトムジークと芽生、そして着ぐるみ野郎Aチームのように、新幹線に取り憑いて楽をしようと……。
「さあ、俺等Aチームの勇ましさを他の連中にも見せてやるぞ! さぁ……全員、飛びかかれぇええ!!」
「着ぐるみ野郎! それは地獄合宿を着ぐるみで生き抜く馬鹿野郎の事だぁあ!!」「イヤッホォオオオウ!! 観てるか魔人生徒会、観てるでござるか~!!」
と、達郎の号令一下、ファニー、玄も新幹線の後ろへと飛びかかる。
が……流石に時速300kmを越える新幹線。更に空力抵抗を極限まで下げる為に、掴むところが無い新幹線に掴まるのは至難の業。
掴めずに、次々と新幹線から振り落とされていく……。
「ぐ、自分だけでは墜ちぬでござる! みんなで墜ちれば怖く無いいい!!」
「お、おい玄やめろ離せええええ!!」
……玄は自分だけでなく、他の人も道連れにして墜ちていく。
「無茶ばっかりして……お怪我ありませんか?」
「……」
ぴく、ぴく……と、線路上に投げ出されている仲間達を線路街に引き摺っていき、そして膝枕をして、介抱する香代。
そして衣照が。
「……ウィールチェア、先導してね。新幹線が来そうだったら、教えてね?」
衣照の指示に彼の周りをくるくる回って応えるライドキャリバー。
ライドキャリバー乗りだけど、あえて自分の脚で走る事を選んだ衣照……これもまた、地獄合宿の一つだと思いつつ、新幹線ルートの移動開始。
……幾つものトンネルがある中、黙々と走るアヅマ。
「しかし……過酷なルート……夕月さん、大丈夫かな……?」
とぽつり呟いていると……その視線の先に、夕月が。
「さー、地獄が始まってるぜー!」
と声を上げながら、山の上を駈けていて。
「……夕月さん……元気ですね……」
と、苦笑しきりなのであった。
●わんこの里から
一日目夜……岩手県は盛岡市。
「しかしまぁ一位狙いというものの、そこまではいけんよなぁ……」
「そうだね。あとどれくらいかな……半分くらい?」
「ああ……後半分かと思うと、中々骨が折れる話だな、本当にな……」
榛に佐奈と淼の言葉。
距離としてはほぼ半分……とは言え皆、疲労困憊。
そんな岩手県の新幹線沿線には、幾つも温泉地がある。
温泉に浸かって疲労困憊の身体を休めたり、ホテルに泊まってしっかりと身体を休めていく。
「……大丈夫ですか? 脚がパンパンになっていたりしませんか?」
「ん……まぁ、ちょっと張っている感じはあるけど、大丈夫大丈夫」
「……本当ですか? ……ほら、張ってますよ」
「ああ……うん、えーっと……ありがと」
小次郎と、法子の会話の様に、筋肉をしっかりとほぐして疲労を解く。
その一方、唯水流と乙葉も。
「お疲れ様……一生懸命な乙葉ちゃんも、オレンジさんも頑張ったね。格好良いし、頑張ったと思うよ?」
唯水流が乙葉とナノナノを労うのだが。
『ナノー……』
「うん、オレンジさん、疲れたよね……私も疲れた。でも……まだ一日目だし、二日目もあるんだよね」
『ナノナノ……ナ、ナノ!!』
「そうだね。オレンジさん、明日も頑張らないとね?」
『ナノ!!』
オレンジさんが気合いを入れると、乙葉もうんうん、と頷き、気合いを入れる。
勿論、ホテルや温泉旅館を選ばず、野宿を進んで選ぶ、脩弥等もいる。
とはいえしっかりと身体を休めないと、次の日に響くから、しっかりと休む。
……まぁ、そのまま深夜ぶっつづけで走ると決意した人達は、そのまま頑張って走り通す事になるが……。
そして、休息を取りつつも、凛華は。
「折角岩手まで来たんだから、盛岡冷麺は食べなきゃね。美味しいと評判のお店は、勿論チェック済みよ」
「冷麺……って、何?」
「まぁ、スパゲッティのような麺を、冷たい汁で食べる物よ。一緒行ってみる?」
「そうだね……いいかな?」
「うん。一緒に行きましょ」
と、クリスの言葉に凛華は手を引いて連れて行く……連れだって盛岡冷麺を食べにいく。
一方、菖蒲とクーガーは。
「まぁ、桜は散り頃でしょうか……行ってみてからのお楽しみですね」
「そうだな。だが、こういう時にしか見れないからな……」
「ええ……まぁ、何だかんだ何処でも言ってますが……こんなに色々観ながら走るのは珍しいですよねぇ」
「そうだな」
と、盛岡駅の近くにある石割り桜を訪れる。
花崗岩の割れ目から育った見事な桜は、4月末という事でやはり散り際の桜の儚さを見せている。
が……その儚さが、岩を割る桜との対比になり、力強さも垣間見えて。
「……昔、ここが火災になった時も、一部が焼けたみたいだけど、全焼は免れて、次の年も華を咲かせたんですって」
「そうなのか……桜は儚い、しかし……強いんだな」
と……夜の月明かりに灯された桜を、静かに見上げ……時間は過ぎゆく。
と、多くの灼滅者達が盛岡で休んでいる頃……新青森駅の新幹線の線路に立っていたのは、未空。
当然新幹線の終電も終わり、線路上には列車は無く……静寂。
「さてと……始めましょうか。この時間帯が勝負。誰もこの作戦には気付くかないだろうし」
準備運動をして、全力疾走開始の準備。
深夜の時間帯であれば、新幹線が走っていないだろう……ならば、前にも、後ろにも気をつける必要は無い、というのが未空の作戦。
確かに列車は無い……けど、既に夜通し走る先頭集団は、遥か先にいる筈。
追いつけるかどうかは、ある意味賭けではある……が、これが最良の作戦と信じて、彼女は走り始めたのである。
●猛将構え
そして二日目……盛岡スタート。
流石に二日目、自分の思う走り方で走り始める。
数時間して、仙台へと到着。
先ず、駅前の伊達政宗公の像の前で記念撮影するのは敬厳。
騎馬にのった伊達政宗公の像は、威風堂々たる姿。
「政宗公……かなりはじけた性格をされていた様ですが、戦国の世を生き抜いた器量と、仙台藩発展の基礎を築いた手腕は疑うべくもありませんね。いずれ家を継ぐ身としてオレも、かくありたい……そう思います」
と、政宗公の像に向けて、ぐっと決意する敬厳。
……その一方で、イリスは新幹線ホームで、様々な列車を見ながら。
「あれが盛岡で接続する新幹線、あれは福島駅で接続する新幹線……後は、あのカメラを構えているのが鉄道オタクですね。うん……こうして見ていると、さすがターミナル駅ですね」
「……うん。まぁ……今迄も、何度も危なく、サイドを通過されててた気がしますが……どうして、私がこんな事を……」
と、溜息を吐くステラ……そんな二人を見ながら、蘭花は。
『ずずずず……』
と、立ち食い蕎麦を啜る。
「あれ……駅弁じゃないの?」
と、友衛が小首を傾げると、蘭花は。
「駅弁買うにも、学生の私にはそんなにお金が無いし、走るのに駅弁は邪魔でしょう? 逆に駅で食べるソバは、安いですし、ゴミもでない。それに最高に美味しいですよ!」
蘭花が言うと、友衛は苦笑しつつ。
「でも、厳しい合宿だからこそ、せめて食べ物くらいは愉しみたくない?」
「まぁ……そうですけどね。いいんです、今迄何駅で立ち食い蕎麦を食べてきたら、それぞれの駅で味が違うんですよ? もう、すっかりはまっちゃいました」
と、蘭花は微笑む。
一方、サーシャは。
「……ここ……カキ、ごや……?」
偶然通りがかったカキ小屋。
焼きガキの美味しそうな匂いに、ふら……っと。
「……いい、にお……い……おい、し……そう……」
ふらふら、とカキ小屋に脚が向く……そんなサーシャに、ママは引き留めようとするが。
「……ママ、いこ……? ……ん……食べ、たら……ちゃん、と……走、る……完走……ちゃん、と……する……から……ね?」
そんなサーシャの言葉に、ママは仕方ないわね、と言った感じで……その背中に着いていく。
そして、食に愉しみを持つ仲間達の一方。
「ねぇねぇギル、統弥。あの動物園の中、見て行こうよ!!」
と、ギーゼルベルトと統弥の手を引くフローズヴィトニル。
三人が訪れたのは、仙台近くの動物園。とても気になるから、絶対に行きたい、と彼女が行っていたスポット。
そして動物園の中ではしゃぐフローズヴィトニル。
「フレン、次は何を見るんだ?」
「ん。うん、あれ!!」
凄く嬉しそうなフローズヴィトニルに、ギーゼルベルトは苦笑しつつも、笑う。
そんな二人の仲睦まじい光景を……隠れて、カメラに取る統弥なのであった。
……その頃、ゴール地点。
ライドキャリバーのナディア、ディートリッヒ、瑠々の三人が、ラストスパートのチェイスとなっていた。
「うわぁあ!!」
「っ! 負けません!」
いや、熾烈なカーチェイスは二人で、瑠々は歌を歌いながらマイペース。
……とは言えカーチェイスの二人は、熾烈なラリーを繰り広げつつ……ギリギリ、ゴールを先に通ったのは……ディートリッヒ。
「……やりました。お疲れ様です、ファルケ!」
ニッ、と笑いながら、ライドキャリバーを撫でるディートリッヒ……ファルケは嬉しそうにエンジンの音を響かせる。
そして次点で到着したナディアは……ライドキャリバーの上で荒い呼吸。
「……なんだか、普通に走るより、疲れた気がするのは気のせいかな……」
「まぁ……振り回されておったようじゃしな」
「ああ……けど、なんも考えないで、全力出し切ってただ走るって機会は、実はそんな無いのかもな……イドも楽しかったか?」
瑠々とナディアの言葉に、イドも同意するようにエンジンを吹かせる。
……まぁ、ライドキャリバー達三人の勝負は、雷撃の様な勝負。
しかしながら、ライドキャリバーの全力での勝負は、中々出来るようなものでなく、三人は心の底から愉しむのであった。
そして、仙台から、東京へのルート。
常磐線側を通るか、そのまま新幹線ルートを通るか……勿論、地獄合宿としては、2日以内に東京に帰ってくる事が目的であり、どちらのルートでも問題無い訳で。
「……よし。俺達は……常磐線の方に行こう。足湯、あるみたいだしな……そこで、脚、休めていかないか?」
「足湯か……面白そうだな。んじゃ俺達はそっちに行くか」
と慧悟、里桜らは、湯本のある常磐線の方へと向かう。
……湯本駅の足湯は、そんなに広くは無いけれど、ベンチに座ってゆっくりするには丁度良い感じ。
慧悟と里桜は、その足湯に脚を漬けながら、ほっと一息……。
……ふと、里桜は、慧悟を見て……。
「そういえば……包帯を巻いたままで走っていて、苦しくは無いのか?」
「……? 包帯、いつもだから、もう慣れた」
「慣れるものなのか……」
と、感嘆の言葉を紡ぐ里桜。慧悟はそれに。
「……もう、長いしな……」
と、呟きつつも……暫しの後。
「……さて、と……余り、のんびりもしていられないしな……急ごう」
慧悟の言葉にああ、と頷きつつ、里桜と共に、二人また走り始めた。
●地獄の果てに
そして、間もなくゴール。
「……東京……まで、あと……もう……すこしでつく……はず……みんな……大丈夫……?」
佐奈の言葉に、カイジが。
「……ま、まだだ……俺は、蝦夷ブルー。コレしき……」
辛そうながらも、唇を噛みしめて走り続けるカイジ。
既にボロボロ……クリミネルとかは、眠気に耐えながら走っていて、停車中の電車の真っ正面からぶつかったり。
とは言え、残り後少し。
「う、うわあああ!! わんこおおお!!」
……一際元気な叫び声を上げながら、走って行くファニーが通過。
その後ろからは、香代の霊犬、アスラが彼を追い立てる。
「あと一息です。頑張りましょうね」
「だ、だからってアスラをけしかけるなぁああ!」
ある意味、スパルタなラストスパートをかけさせる香代。
そして……東京駅のゴール。
先頭集団が近付く。
末空、淼、榛や咲楽、蔵人にイリス、クリミネル、利戈や慧悟、里桜……夜通し走ってきた面々が次々と、東京駅に到着。
「……完走お疲れ様、だ。また……私と、走ってくれないか?」
里桜がハイタッチを待つように、手を上げると。
「……ん」
と……ハイタッチに応える慧悟。
そんな立ち続ける元気があるのならまだいい……ゴールを過ぎて、大きくバタン、と倒れ込みながら利戈は。
「どうだおらー! やってやったぞごらー!!」
と、叫び、爆睡……。
……先頭集団から数時間して、休みながらやってきた二次集団も、次々とゴールへ。
「う、うう、やっと……ゴール……」
「あ、ああ……うう……つかれた……ぁ」
ゴールでぱったり、うつぶせでピクピクしてるアリエス、ファニー、玄。
「はぁ、はぁ……ゴール。流石に地獄だけあって辛い! 筋肉痛通り越した気がする!!」
「ええ……そのうち、北海道道の駅スタンプラリーを、マラソン、自転車、スキーのどれかでやれ、とか言い出してきそうな気がしますね……」
「そうだな……え、次の合宿? い、いやああああーーー!!」
脩弥、琥太郎に、梵我が開け部。
……次の地獄合宿に連れて行かれる梵我、そして香代は。
「ええ……引き続き、次の合宿頑張って下さいね?」
と、笑顔で送り出す……。
そして、第二陣のゴールの後、暫しして。
小次郎は、ゴール間近で立ち止まる。
「……ほら、行って下さい。ゴールを踏むのは、法子さんですよ」
「……」
小次郎に背中を押された法子……しかし法子は、小次郎の腕をぐっと掴んで。
「ほら、軍師! 君も一緒に行くんだよ!」
と、強制的に一緒にゴールへと連れて行く。
法子は。
「……ありがとね、軍師」
と、優しく笑い掛ける……小次郎は、頬を掻きつつ、頷く。
……そして無事、地獄合宿参加者70人、皆がゴール。
「さて、と……ゴールしましたし、これを、このマラソンを考えた人に、じっくりと意見が出尽きるまで話し合いながら、口の中に捻り込んであげなければいけませんねぇ……」
と流希はジンギスカンキャラメルを手にとって、くすりと笑う。
そんな流希の微笑みに、クリスが。
「え、っと……」
明らかに轢いている……それに流希は。
「あ、冗談ですよ……そんなに引かないでくださいねぇ……」
と、もう一つ微笑み返す。
そんな流希に苦笑しつつ、雛菊と悠蛇は。
「そう、お腹すいたよなぁ……」
「うん。そうだね……流石に、お腹空いたね……確か、色んなお店があるんだっけ。時間以外に体調的にも……余裕はある、かな?」
「そやなぁ……確かに余り時間無いかもやけど……食事、行こか?」
「……うん」
頷く悠蛇に、雛菊も頷いて、二人は地下街へ。
……次の合宿は、72時間お勉強合宿。
体力を使い切った後は、頭も使い切ろうという……連続の地獄合宿は、まだまだ終わらないのであった。
作者:幾夜緋琉 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年5月5日
難度:簡単
参加:70人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 32
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