闇降る森

    作者:零夢

     その森には古い伝承があった。
     今はもう、忘れ去られた言い伝え。
    『日が落ちたら森へ入ってはいけないよ。双子の鬼に、食べられてしまうから』

     月の明るい夜だった。
     老いた樹木の茂る森の奥、寂れた祠の前に黒いオオカミが降り立つ。
     その片方の目には深い古傷が走り、もう一方の瞳だけが夜に染まった世界を映していた。
     苔むした屋根の下に並ぶのは二体の地蔵。
     オオカミは何をすることもない。
     ただそれらをじっと見つめ、静かに時を待ち――やがて、祠の陰で小さな二つの人影が動き出した。
     

    「ついにスサノオの行方を突き止めたぞ」
     教室に最後の灼滅者が入ってきたことを確認すると、帚木・夜鶴(高校生エクスブレイン・dn0068)はずばりと本題に切りこんだ。
    「今まではブレイズゲートのような力に邪魔されていたんだがな、どうやらスサノオと因縁を持つ灼滅者が増えたことで、不完全ながらも介入できるようになったらしい。……つまり、きみたちのお陰という事だな」
     ありがとう――夜鶴はふっと表情を和らげる。
     そして、来たる戦いに気を引き締めると説明を続けた。
    「スサノオは古の畏れを呼び起こすべく、とある森の奥にある祠付近に現れる。つまりここが戦場となるわけだな。そして、そのスサノオと戦う方法は二つある」
     言って、夜鶴は二本の指を立てる。
    「まず一つ目は、スサノオが古の畏れを呼び出そうとした直後に襲撃すること。この場合、6分以内にスサノオを倒さないと面倒なことが生じる」
     もしもそれ以上の時間をかければ、古の畏れは完全に具象化し、スサノオの配下として戦闘に加わる。
     こうなると戦力的な問題は勿論、スサノオが古の畏れに戦いを任せ撤退してしまう可能性は相当高い。
    「……合流されれば厳しい戦いとなるのは明らかだし、スサノオを逃しては元も子もない。ただ、短期決戦に自信があるのならば、私はこちらを勧める。時間内の灼滅に成功すれば、古の畏れと戦う必要がなくなるからな」
     夜鶴は一本指を折ると、次の方法へ話を移す。
    「もう一つは、古の畏れを呼び出したスサノオの去り際を襲撃すること」
     スサノオが古の畏れからある程度離れたところで襲撃すれば、合流されることはないという。
    「この場合のメリットは、スサノオとの戦闘に時間制限がないことだな。ただし、スサノオに勝利しても古の畏れを鎮めなくてはならない。これは必ず連戦となる。身体を休める時間はないと思ってくれ」
     つまり、この策をとった場合は、それ相応の実力と持久力が必要となる。
     どちらが楽とは安易に言い切れない分、よく考えて決めて欲しい。
    「そしてこのスサノオの能力なんだがな、どうやら過去に呼び出した古の畏れの力に基づいているらしい」
     それは自ら子を殺めた母親の影。
     それは自由に焦がれた神子の星。
     それは人知れず散った娘の白花。
     特筆すべき点があるとすれば、この中のどれにしろ、威力が桁違いになっているということか。
    「あとは……出現しない可能性もあるが、一応、古の畏れについても説明しておこう。こちらは遠い昔、この森に捨てられた双子の伝説がもとになっているらしい」
     遡ること数百年、双子が生まれたら二人が十になる年に森の神に捧げるというしきたりを持つ村があった。
     さもなくば、村に災いをもたらすから――と。
     地蔵は奉げられた子供たちを慰めるためのものだという。
     珍しい物は吉か凶かの両極端。
     多数から外れた者が生きにくいのはいつの時代も変わらない。
    「気になるのは、二人が古びた刀と槍などという物騒なものを武器としていることだな。十歳といえばそれなりに行動力はある。ひょっとすると……子供なりにも生き残るべく、必死にもがいていた、とかな」
     もしも武器が落ちていて、その使い道に気づいてしまったら、人はそれを望まずにいられるのだろうか。
     たとえば野盗。たとえば追剥。
     それが伝説に尾ひれを付けたのだろう。
     ――日が落ちたら森へ入ってはいけないよ。双子の鬼に、食べられてしまうから。
     夜鶴は伝承の一節を口ずさむと、小さく息を吐き、話をまとめる。
    「……ともあれ、ようやく掴んだ好機だ。最優先事項はスサノオの灼滅。万が一、失敗しても二度目は無い」
     だからこそ。
    「悔いのない選択を、頼んだぞ」


    参加者
    十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)
    橘名・九里(喪失の太刀花・d02006)
    鈴木・総一郎(鈴木さん家の・d03568)
    琴葉・いろは(とかなくて・d11000)
    灰神楽・硝子(零時から始まる物語・d19818)
    化野・十四行(エントロピカレスク・d21790)
    災禍・瑠璃(ショコラクラシック・d23453)
    エスメラルダ・ロベリアルティラ(硝子ノ小鳥・d23455)

    ■リプレイ

     夜の森で草木の擦れる音がした。
     風のせいではない。
     それは一匹の獣の――。

    「お戻りですか?」
     祠から離れた森の一角、獣道を阻むように姿を見せたのは琴葉・いろは(とかなくて・d11000)だった。
    「……と言いましても、どちらへ戻られるのかは存じませんが」
     静かに見据えた視線の先で足を止めるのは隻眼の黒狼。さらに言えば、それは数々の古の畏れを呼び起こし、今もこの森に『双子の鬼』を生み落したスサノオに他ならなかった。
    「私たちの言葉がわかりますか?」
     灰神楽・硝子(零時から始まる物語・d19818)は問いかけ、暗がりから現れると、他の者たちも後に続く。
     八人の灼滅者と三体のサーヴァント。
     総勢十一名で敷いた包囲網はそう簡単に突破できるものではない。
     刹那の睨み合い。
     やがてスサノオは一歩後ろ足を下げると、肩を怒らせ全身の毛を逆立てた。
    「……明らかな敵意、だね」
    「口を利かないくせに話は早いな、お前さん」 
     スサノオの意を訳したエスメラルダ・ロベリアルティラ(硝子ノ小鳥・d23455)に、化野・十四行(エントロピカレスク・d21790)はニヤと笑って軽口を飛ばす。
     次の瞬間、狼が尾をひらめかせるや否や、夜の森は戦場へと変貌した。
     一斉に矢面に飛び出す霊犬とライドキャリバー、行く手を塞ぐ邪魔者を蹴散らすように降り注ぐのは百億の願い星。
    「――まずはそれ、すか」
     微笑とも苦笑とも形容しがたい表情を浮かべ、十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)はバベルの鎖を瞳に集中させる。
     かつて彼の前でその星々を呼んだのは、自由に焦がれた神子だった。
     月より眩い星明りに、災禍・瑠璃(ショコラクラシック・d23453)の葡萄酒色の瞳を煌めかせると、天星弓を引き絞り、星屑を散らすように癒しの矢を放つ。
     夜を引き裂く無数の流星、前衛達を包み込むのは十四行の清めの風。
     それでも全快に及ばぬ一息がスサノオと灼滅者達との実力差か。
     だが、回復ばかりで踏み出さなければ勝利はない。
     橘名・九里(喪失の太刀花・d02006)は携えた巨大な籠手をスサノオへと突きつけると、瞬時に結界を構築し自由を奪った。
     そこへ、いろはと鈴木・総一郎(鈴木さん家の・d03568)がサーヴァントたちと共に攻撃を叩き込む。
     槍が放つ冷気の結晶、霊犬の六文銭。
     両手から迸るオーラがスサノオを撃ち貫けば、突撃したキャリバーが傷口を広げる。
     揺るがぬ黒狼。
     硝子のキャリバー、カーボが威嚇のように駆動音を轟かせると、主は剣を片手に飛び出した。
    「私を導いて、Cinderella!」
     振り下ろされる刃にはためく黒い尾――月明かりが照らした影が地を滑り、パシンと剣を弾く。
     思わず体勢を崩した硝子に、しかしスサノオが追討ちをかけるより早く、エスメラルダが破邪の剣で斬りつけた。
     反射的に飛び退くスサノオ。
     逃すまいと九里の影が追いかける。
    「こちらは見えにくいのではないですか? ……貴方から片目を奪った強者は何方でしょうかね」
    「あ、それ、俺も気になってたんすよ」
     教えてくれません? と狭霧も剣を振り被る。
     襲い来る連撃を払うようにスサノオが首を振るえば、牙剥く影は耳に喰いつき、白光を帯びた斬撃はその額に振り下ろされる。
     衝撃の反動を利用し、距離を取るべく空へ跳ねる狭霧。
     入れ違いに潜り込んだのは、エスメラルダだった。
     青き水晶に覆われた腕を伸ばすと、瞬く間に殲術執刀法を施し、完了させる。
    「答えがないのは言葉を持たないということかい? あるいは、その気がないということか」
     獣はやはり口を開かない。だが、
    「どちらにしても、これ以上力をつける前に灼滅させてもらうけどね!」
     言った総一郎は、トラウマを呼び覚ます闇を纏った拳で殴りつける。
     ともに響くけたたましい銃撃音。
     その音源ではキャリバーに搭載された機銃が熱を帯び、あらん限りの弾を吐き出していた。されど四肢を踏み張るスサノオは微塵たりとも動かない――と思えば、足元の影が音もなく走り出した。
    「危ない!」
     咄嗟に身を滑らせた硝子が、黒き刃を受け止める。
     切り裂かれた服の隙間からは肌があらわれ、鮮やかな深紅がしたたり落ちていた。しかし彼女は精一杯の虚勢を張る。
    「――っ、女の子の服を破るなんて、許さないんですからね!」
     言葉と共に突きつけた人差し指は九割が強がり。
     サーヴァントを使役していることもあってか、当たり所が悪いと体力的に相当キツい。何としても正面から喰らうことだけは避けなくては。これでディフェンダーでなかったらと思うとゾッとする。
     主を守るように走り出すカーボ、その隙に瑠璃と十四行が傷を塞ぐ。
     いろはも霊犬を従えると、バベルブレイカーを手に踏み込んだ。
     高速回転と共に撃ち付ける巨大杭、サーヴァントたちの突撃と斬撃が続けて決まる。
     いくら覚悟を決めてきたとはいえ、直接目の当たりにしたスサノオの攻撃力はやはり脅威に値する。それに比べ、こちらの攻撃は果たして効いているのだろうか? その顔色からは、窺い知れない。
     しかし攻め手を緩められるはずもなく、傷の癒えた硝子が神霊剣を振るえば、狭霧、総一郎、エスメラルダ――クラッシャー陣が一気にサイキックを繰り出した。
     流石のスサノオもそれには押され、空を仰いで花を呼ぶ。椿じゃない。舞い乱れるは白き桜花――まだ体力に余裕があるということか?
     回復に備える瑠璃と十四行。
     その二人を、夜桜の嵐が包み込む。
    「だめ……っ!」
     花が見せる幻影、奪う正気。
     朦朧とした感覚の中で番えた矢が、瑠璃の指先を離れる。
     ――そして、回復したのはスサノオだった。
    「……気にするな。いくらでも取り戻せる」
     十四行は唇を引き結んだ瑠璃に声をかけると、風を起こして幻惑を解く。
     まだ戦いは始まったばかりだ。ましてや時間制限もない。けれどそれはスサノオにとっても同じことで、実力差がある以上、悠長に構えていては追い詰められるのはこちらだろう。
     打つべき手は打てる時に打ち尽くさねば、勝機はない。
     灼滅者達は武器を取り、あくまで黒き狼へと挑む。
     剣を突き立て杖を振るい、糸で締め上げれば花が落ちる。
     吹きそよぐ風、縛りつける影と斬りかかる影。
     徐々に積み重なるのは消えない傷痕。
     夜が、深々と更けていく。

     一体、何分経ったのだろう。
     気を張り詰め続けた灼滅差たちには、時の流れが一瞬のようでもあり、永遠のようでもあった。
     スサノオが再び星を招く。
     前に飛び出すディフェンダーとサーヴァント。しかし全てを庇いきれるわけではない。耐えかねたいろはの霊犬と総一郎のキャリバーが消滅する。どうにか持ち堪えた硝子のキャリバーも、かなり厳しい。
     だが、言い換えれば彼らが傷を引き受けてくれたからこそ、灼滅者達が立っているともいえるのだ。嘆いている暇はない。
     硝子が腕の時計に目をやれば、戦闘が始まってから七分が経過していた。既に古の畏れが生まれている以上、だからどうということもないのだが、小さな時計の長針に少しだけ肯定された気がした。自分たちの選択は、間違っていなかったのだと。
     そして始まる八分め。
     得物を手に駆けだした硝子といろはに、スサノオは動じることなく桜吹雪を巻き起こす。狙いはメディック。幸か皮肉か、無傷で吹雪を突き抜けた彼女たちの斬撃と氷柱が埋まれば、瑠璃は白衣のポケットから回復薬を取り出した。
     彼女は真っ直ぐにスサノオに向かい、言い放つ。
    「何度も助けてもらえると思わないで」
     過剰投与の対象は自分自身。人造灼滅者専用のそれが、焼け付くように体内を駆け巡る。
     背に畳んだ血色の翼を広げると、羽織った白衣が翻った。
     スサノオ自身にキュア能力がない以上、灼滅者の力を利用せずに、己に掛けられた幾重もの枷を消すことはできない。
     少しずつ、着実に追い詰めた手負いの獣を、九里の鋼糸が締め上げる。
    「地に繋がれた古の畏れの如く、貴方も縛られてみては如何です。声を持つなら存分に啼いて下さって結構ですよ?」
     言われ、それでも黒狼は頑なに口を閉ざす。その身に巻き付く糸を引き千切らんと強引に動けばさらに食い込み、眺める九里は冷ややかな笑みを口元に乗せた。
    「――もっとも、啼こうと啼くまいと、加減は致しませんが」
     斬。
     と、十の指を振り抜くとともに、スサノオに刻み込まれる無数の傷。
    「……中々いい性格をしているな、橘名」
    「いえ、犬は躾が肝心と言いますから」
     十四行が言えば、さらりと応える九里。
     成程、そういうものかもしれない。
     十四行は小さく笑うと、より疲労の色濃い前衛達を癒すべく風を送った。
    「たしかに、犬相手にここで犬死などやってられんな」
    「右に同じく。……ここまで来たら、せめて勝たなきゃね」
     総一郎は大きく頷き、構えた両手にオーラを溜める。
     痛みで集中力が切れかかるが、こんなときこそ冗談でも飛ばさねばやっていられない。
     撃ち放つオーラキャノン、凄まじい気魄の奔流に呑まれながら、スサノオはそれでも倒れない。どころか、その影がむくりと起き上がり、大きく口を開けた。
    「……本体もこれくらい素直に口を開いてくれると楽なんだがね」
    「ほんとっすよ」
     やれやれと言い合うエスメラルダと狭霧。
     苦笑気味の表情で誤魔化してはいるが、彼らとて余裕があるわけではない。極限状態でこそないものの、万が一、会心の一撃を喰らえば良くて相討ち、悪くてKO――無論、そんなのどちらも願い下げだ。
    「てわけで、そろそろ大人しく眠ってもらいましょ!」
    「あぁ」
     地を蹴る二人。
     瞬間、同じく動き出した影を、狭霧が跳ねるような身のこなしで引き付ける。噛まれるようなヘマはしない。握りしめた杖の先、揺れる星燈が夜の森の道しるべ。
     エスメラルダは水晶の翼をはためかせると、一息にスサノオとの距離を詰める。
     交錯する人と獣の視線。
     黒い毛皮を貫くのは、白き聖剣。
    「終わりだね」
     どさりと倒れる音を最後に、あとには静寂だけが残された。

     スサノオとの戦闘を終えた灼滅者達は、しばしの休息を挟み、森の奥へと歩みを進める。
     倒れたサーヴァントは再召喚し、手負いの者へは可能な限りの心霊手術も施した。
     あとは古の畏れを灼滅するだけ、
     なのに。
     辿り着いた小さな祠――そこには、何もいなかった。
    「……え?」
     初めに声を上げたのは誰だったか。
     本能的に危険を察した身体が感覚を研ぎ澄ませれば、茂みの奥で鎖が鳴る。奪われる注意。途端、完全に逆の方向から槍が飛び出した。
    「――ッ!」
     どうにかいろはが受け止めれば、僅かな時間差で反対側――鎖の鳴った方から日本刀が襲い来る。
     それは、明らかに作為的な不意打ちだった。
     すぐさま身構える九里、しかし容赦なく振り下ろされた一刀が腕に重く圧し掛かる。
     刀の使い手は、未だ年端もいかぬ、みすぼらしいほどに痩けた少女。双子である以上、槍使いの方も同じようなものだろう。
    「哀れな双子というわけですか……気に入りませんねぇ」
     彼は現れた古の畏れを一瞥すると、袖に染み出す鮮血も厭わず言い捨てる。
     そうして移る反撃、九里が放つ除霊結界。動きが麻痺した所へいろはが氷柱を撃ち抜き、霊犬は斬魔刀で斬りかかる。割り込む槍使い。だが構わない。先に壁を崩すことが、灼滅者達の狙いでもある。
     キャリバーを走らせた総一郎はありったけのオーラを解き放ち、壁として立ちはだかるその子に叩きつければ、剣を握った硝子があとに続く。
    「教えて。あなたたちはどこで生まれ、何をしようとしているの?」
     白光を帯びた一閃を浴びせ、彼女は問うが、少女はただ無表情に答えを返す。
    「さぁ? 私たちはただ、生き延びるために死ぬまで通りすがる人々を殺め続けるの」
     それは、人を信じることを知らぬ者の瞳。
     きっと二人には、何を言ってもわからない。伝わらない。
     狭霧は人知れず目を眇めると、実体をなき霊剣でその魂を斬り伏せた。
     そして、盾が壊れる。
    「あなたで最後、だね」
     この地に留まる因縁も、スサノオが呼び起こした執念も。
     静かにそう告げた瑠璃は、古き伝承に幕を引くべく、癒し手から攻め手へとその身を転じる。
     細い指で闇に切るのは逆十字――血色に浮かび上がったそれは残る双子の片割れを引き裂き、エスメラルダがそこへ更なる剣技を重ねた。
     甲高い金属音が、森に響く。
     身を庇うように振り上げられた少女の日本刀が剣とぶつかり合い、古びた刀の刃が毀れる。
     まずい――瞬時にそう悟ったのだろう。少女は逃げるように後ろへ飛び跳ね、それを、十四行が捕えた。
     振り下ろされる縛霊手。霊力の網が彼女を縛れば、すかさず総一郎が間合いに踏み込む。
    「今と昔、どちらがいいとは言えないけれど、さ」
     影を宿した拳を引き締め、渾身の力で突き出すと同時に腕を駆け抜ける衝撃、確かな手応え。
     小さな身体は力を失い、指をすり抜けた刀が音もなく地に転がる。
    「……御休み」
     今度こそ、安らかに眠れますように。

     星月の輝く夜空に、ひとすじの雲がたなびく。
     森が元の閑静な姿を取り戻してから、半時は過ぎただろうか。
     スサノオを倒し、古の畏れを鎮めたのち、灼滅者達は念のために第三者の来訪に備えていたのだが、どうやら現れる気配はない。
     人狼のこと、人語を操るスサノオのこと――この森へと赴く前、学園で耳にした情報を繰り返し思案してみるが、待つにもそろそろ潮時か。
     八人は草の上に横たわる黒きスサノオの傍らに武蔵坂の校章を残すと、そっとその場を後にする。
     ひとまずこのスサノオによる事件は決着したものの、大局的には未だ読み切れない部分も多い。
     だからこそ、今はただ学園に戻ろう。
     傷を癒し、前へと進むために。

    作者:零夢 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月8日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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