彼女のリブレ

    作者:一縷野望

     ぱきり。
     夜に咲いた大輪の白が、萎んだ。
     彼女がリンネル地にフリルをあしらった日傘を閉じたからだ。
     だがまた新たな花が咲く。ボリューミーな白いゴシックドレスに飛び散った紅の、花が。
    「あっけないものですわね」
     傘を閉じるまでもなかったと、妙齢の彼女……アヴァランシュは肩を竦め折り重なるミニスカート制服の女子高生の弾けた肉から滴る血に指を浸す。
     ぬるい。
     だが、心地よい。
     奴隷として戒められた日々の中、叶わなかった甘美なる香りと触感に喉が鳴る。その時に軽く擦れた首輪に、彼女は銀の形良い眉を顰める。
    「本当、悪趣味な意匠ですこと」
     隷属の証したる首輪を、ローズベリーとブラッドレッドで飾られた指引っかけて、アヴァランシュは口元を歪める。
     だが唇はすぐにおっとりとした微笑に形を変えた。
     まぁいい。
     これをつける事と引き替えに自由が得られたのだから、我慢は必要だ。幸いにもこのフラストレーションを晴らせるアテは、夜だというのにそこら中をうようよ歩いているのだから。
     

    「今回灼滅して欲しいのは妙齢のご婦人――ヴァンパイアだよ」
     灯道・標(小学生エクスブレイン・dn0085)の口にした種族は、そうそうは灼滅に至れない強敵。またその強大な力故に制限も課せられる事が多い者達でもある。
    「現在行方不明のロイアンタイガーの捜索に、彼らは奴隷として扱っていた同族を差し向けたんだ」
     彼らは力を奪われ爵位級ヴァンパイアの奴隷に甘んじていたが、捜索と引き替えに外に出て来たらしい。
    「で、自由の身に浮かれちゃって絶賛お遊び中ー。仕事ほっぽり出して、路地裏にいる夜遊び女子高生を殺して悦に入ってるよ」
     放っておくと己の快楽を貪るがままに殺戮を繰り返す。飽きれば捜索に戻るだろうがそれまで放置しておくわけにもいかない。
     
    「接触できるのは、路地裏で二人の女子高生を手にかけた後だよ」
     残念ながら彼女達を救うことは、できない。
     路地裏は戦うには充分の広さがあるのでその点は問題ない。
    「彼女、アヴァランシュはダンピールとクルセイドソードに似たサイキックを使用してくるよ」
     弱体化しているとはいえ相手はヴァンパイア、充分に強いので注意されたし。
     特筆点として、彼女は『弱い』と見下した相手には、クルセイドソード相当の日傘をさしたままで戦う――つまり、クルセイドソードのサイキックを使用しないのだ。
    「ただ生半可なやり方だとダメ」
     防御、回復に極端に寄せた布陣で与えるダメージを抑える、灼滅者側の回復をかなり遅らせて被害甚大に見せかける……等々、彼女の意識を騙すにはそれ相応の危険が伴うのも事実。
    「もちろん日傘を閉じさせて、全力の彼女と真っ向から戦うのもアリだと思う。どっちがいいとか悪いとか一概には言えない。判断はキミ達に任せるよ」
     幸いなのはプライドが高いため、逃走を図るというメンタリティが薄い点か。
     彼女の自慢はフリフリの甘い白ゴスロリ。銀髪と蒼い瞳によく似合う……と、言いたいが、着こなすにはいささかトウが立っている。
     もちろんそんな外見年齢でも、きちんと身繕いすれば可憐に着こなせる人は沢山いる。だが彼女は自分の美に慢心しているためか、メンテナンスが些か雑なのでちぐはぐなことになっている。
    「心の底ではわかってるんだろーね。若い女性ばかりを襲ってる」
     その辺りを絡めて挑発すれば、逃げる事はまずないだろう。
     お人形遊びのノリで人を殺してまわる
     これ以上の被害がでるか否かは灼滅者達の動きに掛かっているのだ。


    参加者
    ミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019)
    犬神・夕(黑百合・d01568)
    紀伊野・壱里(風軌・d02556)
    嶌森・イコ(セイリオスの眸・d05432)
    蓬莱・烏衣(スワロー・d07027)
    リュカ・シャリエール(いばらの騎士・d11909)
    スィラン・アルベンスタール(白の吸血児・d13486)
    御手洗・花緒(雪隠小僧・d14544)

    ■リプレイ


     花が手折られ夥しい樹液が弾け溢れる。
     血。
     陰惨な殺戮現場を前に、逸る感情と零れる甘い樹液を味わいたい衝動に身を灼く少年がいた、リュカ・シャリエール(いばらの騎士・d11909)だ。
     胸に充ち満ちた高揚を周囲に撒いて犠牲者が来ぬよう謀るリュカが、陶然と息を吐く隣、そっくりの感情を強き意志と共に抱く少年が、いる。
    「本物と……戦える日を、ずっと待ってた」
     スィラン・アルベンスタール(白の吸血児・d13486)の夜闇に沈まぬ銀の髪が、耳元でこう謳う。
    「ヴァンパイア……俺の、宿敵。戦う……倒す、灼滅する」
     喰らい尽くせ、と。音を封じたこの中で。
    「……そうだね」
     闇へ娘を引き摺った母の姿が一瞬重なるも、別人。
     ミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019)の純美な黒を前にすれば、同種の白を纏う女はただただ下賤に、見えた。
    (「中々……厄介な敵、ですね……」)
     気迫や気概に満ちた彼らの精神状態は、何処か通常域を佚している。対する御手洗・花緒(雪隠小僧・d14544)の彷徨う視線は、幾分か人めいていた。
    「……先生」
     こつんと鼻面を擦りつける白妙の霊犬の存在に誓いせり上がる――そう、これ以上の犠牲を出してはいけない。
    『あら、こんな子供が夜遊びなんて』
     ヴァンパイア・アヴァランシュは日傘を再びひらくと肩にかけ、いたいけな少女がするように小首を傾げた。
     にたにたといたぶるモノの嗤いを前に、嶌森・イコ(セイリオスの眸・d05432)は一瞬だけ眉を顰めるもすぐに怒りを消した。
     手にしたランタンよりほのり浮かび上がるは、狩猟心擽る真白の華奢な手足。
    『まぁ、綺麗な花が咲きそうな肌。この子達はダメでしたわ。不純物がベタベタついていて』
     エナメルの艶やかなつま先が化粧した顔を蹴飛ばすのを、蓬莱・烏衣(スワロー・d07027)は割り入り止める。
    「悪いな、助けられなくて」
     腕に下げた灯りに浮かぶ鮮やかな染め髪が大切な妹に重なって、悔しさがより燻る。
    『失礼な人!』
     無視されて鼻の頭に皺を寄せる吸血鬼に、烏衣は敵愾心を込めた眼差しを向ける、それが挨拶だ。
     仲間達がアヴァランシュと邂逅を果たす間に、犬神・夕(黑百合・d01568)は通りの構造を把握し逃走経路を潰す立ち位置を探る。ポケットに詰めた円筒状のライトの束を握れば、ヂャリと濁った音がした。
    「名のあるヴァンパイアとお見受けした」
     紀伊野・壱里(風軌・d02556)は、真白の日傘がさも眩しいと瞳を眇め、彼女のプライドを擽るように言葉を選ぶ。
     落ち着いた声音は、透明なガラスの籠に封じられたかの如く外には零れ落ちぬ寸法。しかし彼女には確り届く。
    「一手手合わせ願いたいと」
     欲のため散らした命への怒りは胸に潜ませて。


     戦うに不自由せぬよう携えたほのかな灯。それらあれど、路地裏は未だ夜の領域だ。
     だが。
     髪を金色に変えし夕によりばら撒かれた無数のケミカルライトにより、アスファルトは陽の元にさらけ出されたかの如く見目を変える。
     その様は、リュカが妖精の円舞を招くのと引き替えに瞳の光を消したのと、ある意味対照的でもあった。贈り主のアイスブルーの瞳は胸で輝いたままだというのに、彼は決戦存在たる自己へ身を委ねゆく。
    『まぁ、これはこれは……』
     白手袋の掌を頬に宛て、アヴァランシュはうっそりと頬を染め瞳を蕩けさせた。
    『なんという素敵な趣向でございましょう!』
     ミルドレッドが薔薇つれし大鎌を翻す前に、
     烏衣が掌に雷を寄せる前に、
     ――女はしな垂れかかるようにイコの隣に立っていた。
    『やっぱり木目の整った良質のお肌ですわ』
     優雅に手袋を外し露わな二の腕に爪をたてへし折らんばかりに握り締める。
    「……うッ、くッ」
     内心は護り手の自分に攻撃が向いたのをほくそ笑みながら、わざとらしくならぬ程度にに苦を漏らす。
    『んふ、甘ったるい……あぁ、本当自由って最高!』
    「浸ってる暇なんてあるのかな?」
     ミルドレッドの切っ先が掠め薄くフリルを裂いた。傷つけるに至らぬは、これぐらい格上であればありがちなコト。だが震える声に強がりと驚愕を滲ませて、まだ断罪者の冷酷さは隠しておく。
    「余所見してんなよ」
     バチィ。
     爆ぜる雷に仰け反る白い徒花に、烏衣は不敵に笑んでみせる。狙い定め『当てた』のだが、ラッキーヒットを拾えたと浮ついた感情を出すのも忘れない。
    「よくも……」
     壱里はイコへ気遣わし気な視線を向けた後、蛇の戒めを解くように地に垂らす。
     ひゅ。
     地を薙ぎ天を掻き呼んだ風圧は、彼女を刻み彼に力を授けた。
    「非常が難敵あるます。ただちに傷を塞ぎますになりましょう」
     まずは攻撃、歯が立たぬと演じる。その上で仲間の強化も行動の軸に設定しているリュカは紅の霧で前衛を包む。
    「同意します」
     夕はイコの腕に気を注ぎ更に回復を重ねた。戦術上は明らかに過剰回復だが、それだけ怯えているのだと現わすためである。
     さらに一本残していたライトをアヴァランシュの方へ転がして気を惹いた。
    『ふふ。焦らないで。次は貴方を味わって差し上げますわ。そう、綺麗ですわねぇ。まるで……』
     妙齢の令嬢は天に手を翳すと視線を月からみすぼらしい街灯へ移す。
    『アレに集る惨めな蛾のよう!』
     あははははは……。
     血に濡れた指で口元を覆い胸を揺らす不遜な彼女を、翡翠飾り連れた槍が近づき突き抜けていった。
    『あらあら、外れましたわ。そんなに傷が痛むのかしら?』
     イコは悔しげに瞳を揺らす。
    「先生……」
     やけに気配の稀薄な少年の声に白い犬が銭をばら撒くも、それらは地面に当りむなしく跳ね返る。
    「……本当に、厄介です……ね」
     切り揃えた前髪が花緒の黒耀の瞳に影を落とす。
     戦闘開始直後に刹那悩んだ彼は今はディフェンダーに位置していた。何故なら、前衛に施そうとした護りがメディックだと届かぬと気づいたからだ。
     自ら含め護りで包むと、戻るべきアラタカ先生の立つ場所へ視線を送る。 
    「……図に乗るな」
     カン……ッ!
     アスファルトに墓標をつきたてて身を踊らせる。スィランの撓る腕の先、拳は肩飾るレースを掠めるに留まった。動きが鈍らぬ格上に当てるのはやはり難しい、だからこそ、滾る。


     豪奢に華麗に膨らむ裾翻し、アヴァランシュはケミカルライトとランタンに照らされし舞台で、血花の舞いを得意気に踊る。
     血で滑り転んだままの燕の無様さにニィと嗤えば、攻撃を知らせる風圧が頬を掠める。
    「今度こそ……」
    『大立ち回りだから見切られるのですわ』
     スィランの攻撃をいなし肩に乗せた日傘をくるくる。
     油断、慢心……それらを買う点においてはこの上なく成功していた。実際に彼女は日傘を一切閉じようとしない。
     だが――攻撃がスナイパー二人以外、余り当らないのは誤算でもあった。わざと外している、そう嘯くには強がりになってしまう程に。
    『手ごたえがなさ過ぎですわ。こんなモノを怖れるなんて……』
     忌々しげに首輪を引っ張り、彼女はつけた存在の目が曇ったとの嘲りを唇に乗せる。
    『退屈。そろそろ終わりにしませんこと?』
     催眠をアラタカ先生の眼差しに解かれた花緒を血塗れの指でさし、再び十字架を見舞いに掛かる。傷つけても癒すその繰り返し、無為に思える戦いの基点が、癒し手の花緒だと踏んだのだ。
    「あ……」
    「仲間は傷つけさせません……!」
     ピシ、リ。
     代わりに裂かれたのはイコだった。
     即座に降り注ぐ惑い。仲間を打てと割れ鐘のように響く声に奥歯を噛みしめながら、その矜持を現わすように身を包む焔の穂先が白銀に輝いた。
    「――」
     夕は練り上げた気を解放し悪しき絡繰りの糸を剥がし傷を塞ぐ。
    (「理想も道徳も捨て、全ての犠牲を厭わず、綺麗事では済まされない戦い……」)
     それを強いられるわけには、いかない。
     それには、付けいる隙と嘯ける時点で切り替えねば、ならない。
     ……傘は閉じそうに、ない。
     …………だが、これ以上の防戦も、厳しい。
    (「潮時だな」)
     烏衣は立ち上がると彼女の嘲りに負けぬぐらいに、毒々しい笑みを浮かべて顎をあげた。
    「へっ、ババアにしては結構やるんだな!」
    『ッ?! 貴方、今なんて言ったの?!』
    「バ・バ・ア」
     悪辣なあげつらいが響く中、示し合わせたとバレぬよう今までと変らぬ風情で、灼滅者達は殲滅道具を握る指に力を篭める。
     理知的な壱里の翡翠は仲間の足並みが揃っているのを把握する。
     判断基準は攻撃手が各々しっかり描いていたため、作戦を瓦解させる認識のズレは、ない。
    (「ならば」)
     壱里は道を切り拓くように翼を女の喉笛に押し付けた。
     流し込まれる魔力に噎せ返りながら、
    『マグレですわ』
     未だ彼女は夢から醒めない。
    「……ボクが、使命」
     むしろここからが勝負と、リュカはランプに浮かぶ無情の瞳のままで、咎与えから暴虐手へ変じる。
     ――アヴァランシュが防戦からスイッチした灼滅者達をいつまで舐めていてくれるか、それで勝ち負けは、決る。


     ……最初に違和を感じたのは、ミルドレッドに二度足の腱を斬られた時だった。
    「ヴァンパイアは殺すよ」
     澄んだ声は酷薄に響き、華やぎの赤薔薇が頷くように花弁を揺らした。
     それを皮切りに、灼滅者側の攻撃が外れにくくなっていく。
    「待たせたな……やっとお前を、『喰える』!」
     変らぬ殺気を纏うスィランの攻撃は故に避けやすいはずだったのに、予想と違う動きと足の痛みに対応が遅れた。
     ナニカが、おかしい。
     皆回復より攻撃に転じているはずなのに……隠す必要もないと壱里が声をかけ、花緒と先生が的確に回復するが故に、先程より却って崩しにくくなっている。
    『くっ……仕方ありませんわね』
     彼女は初めて肩から日傘を外し、血塗れの指をはじきに宛がった。
    「夜に咲く氷れる華のよなお姿、其方の方があなたにはお似合いになるわ」
     それを見て取ったイコは、まるで友人の服を選んでやるように愉しげに煽る。
    『!』
     カキリ。
     奥歯が叩き合う音が脳に響き、アヴァランシュの唇が戦慄いた。
    『お黙りなさい、小娘!』
     かきり。
     生き残るためとの言い訳で屈辱を噛み砕き、女は夜闇の花を萎ませる。
     口元で呪詛のように紡がれた言葉は日傘を剣と見なし、戒め祓えと強請った。
    「小娘か、自覚あったんだ」
     ミルドレッドは艶やかな黒レースでまとめた左右の髪を揺らし小首を傾げる。
    「似合ってないよ」
     ずっとアヴァランシュがやっていた仕草を、遥かに自然で遥かに優雅に見せつける。
    『失礼な口を聞いていられるのも今の内ですわぁ! このあたくしが日傘を閉じた……』
     じーーー。
     大見得切りは、夕の凝視により尻すぼみ。当らぬ殺意から一変、苛烈な攻撃を見舞う娘が手を止めたのだ、なにを企んでいるのか伺おうというモノ。
    「……プフっ」
     吹きだした。
    「……いえ、お気になさらず、何でもありませんから続けてください」
     逸らした瞳、表情は見えないがぷるぷると震える肩から伺い知れる。
    「……あ、の」
     花緒も何言おうと口をもごもご動かすも台詞がでてこない。代わりに前に出て攻撃を見舞われたリュカへ祭壇の光を放つ。
    『愚弄したコトを後悔させてあげますわあっ!』
     傘で指し示す先に現れたのは、壱里の姿だった。彼からはすっかり穏やかな気配は消えアヴァランシュへの怒りが灯る。
    「欲の為に人を手にかけていること」
     握りこんだ裏拳で顔面を思う様打ち、
    「赦しがたいね。絶対に」
     左右の頬を張り飛ばすように追撃を見舞う。
     何度も、
     何度も何度も。
     冷静な作戦遂行故に戒めた感情を解き放つように。
    「……直視出来ない」
     頬を赤くして左に浮いたが余りに無様で、夕は押し殺し切れぬ笑いを漏らしつつ固めた拳で右に殴って差し上げる。
    『くぅっ』
     庇うように顔を覆えばあの忌わしい首輪に指が触れる。引き千切るように無茶苦茶に引っ張る彼女の目の前に、髪色飾りを連れた槍を携えたイコが立つ。
    「――あなたが縛られて居たのは首輪じゃないの」
     囁けばマラカイトグリーンに眩い暁が挿した。
    「己の慾に、囚われたのね」
     この清浄なる焔でもってしても、祓うことできぬ深い深い、慾。
     揺れた躰を打つようにアスファルトに刺された墓標。日傘のお陰で躰も軽いと避け……たつもりだった。
    「お前を……殺す!」
     だがスィランの腕に沿うように隠れていたチェーンソーが逃がさぬと、劈く音を響かせて胴体を裂いた。
     殺す。
     殺す殺す。
     衝動に塗れながらも、スィランの熱は徐々に醒めいく――何故なら、彼女は『違う』から。
    「……どいつだ?」
     声にならぬ前半に繋がる敵探す台詞に呼応するように、入れ代わりリュカのチェーンソーが自慢の白ゴスを無残に斬り裂く。
     裂いて。
     裂いて裂いて。
    「やっと、やっと、やっと……やっと……現れた!」
     ボクは『どれでも良い』。
     何故なら、ボクは全てのヴァンパイアを灼滅するのが、使命。そして故郷のファミーユ達の願い。
     だから、逢えた歓喜に爛々と瞳を昂ぶらせて、リュカはいつまでもいつまでも執拗に彼女の服を裂く。
    「その首もらった!」
     負けじとミルドレッドが大鎌を薙げば、残念ながら首ではなく左足首がちぎれ飛んだ。それは格上の彼女を捉えた攻撃を繰り出した彼女の集大成のような、一撃。
    『あっ……あぁ、あっあっあ……』
     日傘を杖に辛うじて立つアヴァランシュを見下ろすは、紅藤の瞳。暖か色にもかかわらず、何処までも冷たい烏衣の瞳。
    「人を遊びで殺す様な奴はオレが殺してやる……覚えておけよ」
     旋回する杭の先、肉が爆ぜ骨の砕ける音。もはや白のゴシックドレスとは言い難い色のボロ屑を纏った女は命を手放した。
    「まぁ、言っても解らねぇと思うけど」
     首輪ごとこの世界から消え去る女にはもう聞こえない。
     ――彼女の自由。望み手にしたモノならば笑えばいいのに、死路へ堕ちた女の顔は幸せとは真逆であった。

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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