彷徨う黒い災厄

    作者:六堂ぱるな

    ●歩いてくる災厄
     ――逢魔が刻。
     踏み込んだものは、何も言わず嵐のようにその場を蹂躙した。
     たむろしていた者たちも堅気とは言えなかったし、物騒な武器も持っていたが、手も足も出ずに殺戮されていく。
     十数人が引き裂かれ、砕かれ、吹き飛ばされたのはほんの数分間の出来事だった。
     踏み込み、暴虐の限りを尽くした男の額には、二本の黒曜石の角があった。異形と化した腕から滴る血をそのままに、ぐるりと周囲を睥睨する。
     もはや、動くものは誰もいない。
     外道丸派の羅刹がいるという話だったのだが、この手応えのなさ、どうやら情報は間違いだったようだ。
    「ふん、くだらん」
     羅刹はもう一瞥もせず、血の海となった路地裏を後にした。
     どうあれ、この街のどこかには居るであろう。
     可能性を潰し続ければ、いずれ出会うに違いない。
     
    ●災厄を迎え討て
     新宿で起きる事件を察知した、と埜楼・玄乃(中学生エクスブレイン・dn0167)は集まった灼滅者に語った。
    「もっとも、その可能性が高いと華宮から聞いてのことだ。華宮、感謝する」
    「いえ。やはり鞍馬天狗の一派でしたか?」
    「間違いない」
     華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)の言葉に、玄乃が頷く。
     場所は新宿の裏通り、時刻は夕暮れ時。
     付近では有名な評判の宜しくない一団が、路地の突き当たりにある閉店した薬局の前で集まっているところを、鞍馬天狗一派の羅刹に襲われる。
     どうやら目的は外道丸の残党狩りだったらしい。それらしき集団を見つけて皆殺しにしたが、羅刹がいなかったので立ち去り、また適当に羅刹がいそうな集団を襲う。
    「褒められた一般人とは言えないとはいえ、座視はできん。それに放っておけば被害は拡大するだろう。この羅刹を止めてくれ」
     玄乃が不快そうに唸った。
     
     羅刹は一見したところ三十代ぐらいの、日に焼けた肌に黒髪の羅刹だ。動きやすい黒のつなぎの服を身につけ、羅刹としてのサイキックの他に符も使うらしい。
    「名を雷矢という。単独行動で、当日、付近に仲間はいない」
     治安のよい場所ではないので一般人が通りかかる可能性は少ないが、ゼロとは言えないので、対策が必要だろう。
     接触タイミングの話になると、玄乃はファイルから顔を上げた。
    「雷矢は17時少し前に路地に現れる。奇襲をしようと思えば、物騒な一般人たちが襲われている最中に包囲するのが確実だ」
     壁歩きなどでビルを回りこめば包囲は可能だ。
     だがもちろん、その場合一般人たちは全滅する。
    「遭遇直前に一般人たちを薬局の中に避難させられれば、奇襲は不可能だが見殺しにはせずに済む。どちらを選ぶかは諸兄らに判断を委ねる」
     その場合、薬局の扉をこじ開ける方法と、一般人たちに言うことを聞かせる方法が必要になるだろう。
    「行きあたりばったりで次々一般人を殺されてはたまらん。強敵ではあるが、何としても打倒して貰いたい」
     くれぐれも、全員無事での帰還を願う。
     そう言って、玄乃は灼滅者たちを送り出した。


    参加者
    華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)
    廿楽・燈(すろーらいふがーる・d08173)
    木元・明莉(楽天陽和・d14267)
    深山・戒(翠眼の鷹・d15576)
    四宮・依沙(追想花・d19995)
    山田・霞(オッサン系マッチョファイター・d25173)
    午傍・猛(高校生ストリートファイター・d25499)
    風間・紅詩(風琴・d26231)

    ■リプレイ

    ●挑むは人の子
     放っておけば数分後には累々たる屍だけが転がっていたはずの路地の奥。まっとうな者なら足を踏み入れない物騒な界隈へ、どう見ても子供と学生で構成されている一団は足早に近づいていた。
    「心配が当たっちゃいましたね。新宿にはもう、外道丸さんが率いていた羅刹は勢力と言えるほどにも残っていないのに」
     華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)の呟きは遠い。羅刹の残党狩りで誤って一般人を殺戮など、とんだとばっちりだ。
    「それでも念入りに後顧の憂いを断とうというのは、鞍馬天狗さんの完璧主義なところかな?」
    「同じ羅刹同士で潰し合うってのがどうにも気に食わない」
     仲間意識を大事にとか綺麗事言う訳じゃないけどな、と木元・明莉(楽天陽和・d14267)は唸った。頭の居なくなった残党を狩って行くのは常套手段だとは思う。だが、どうもいけ好かない。
     一方で深山・戒(翠眼の鷹・d15576)は、同族であっても、敵対勢力であれば潰し合うのは当たり前だと思う。頭を失い瓦解しかけの状態の所に追撃を叩きこむのも有効な手段だ。だからその事について別に責めもしない。
    「……ただ、一般人を巻き込むのは頂けないかな。たとえそれがまっとうな道の人間でなくとも」
     戒の呟きに、着物の裾を翻しながら四宮・依沙(追想花・d19995)も頷く。
    「一般的に褒められた人たちではないですが……命は命です」
     正直なところ風間・紅詩(風琴・d26231)としては、今回の犠牲者――未然に防ぐ関係上、要救助者と言うべきか――の生死に興味を持てない。そも堅気でないのなら、暴力で殺される可能性だとて承知しているはずではないか。
    (「今まで大勢の方に迷惑もかけてきた訳でしょうしね」)
     だが別に、彼らを助けることに異を唱えるつもりはなかった。
     背後からちりちりするような感覚。バベルの鎖が近づく羅刹を察知している。
    「潰し合うのは構わないが、こちらにも害が有るのならば捨て置く事は出来ないな」
     同じことを感じているのだろう、山田・霞(オッサン系マッチョファイター・d25173)が大柄な身体の肩越しにちらりと後ろへ目をやる。その傍らを歩きながら、廿楽・燈(すろーらいふがーる・d08173)は夕暮れ近い空を見上げた。綺麗な夕焼けならいいが、その色を地上にぶちまけられてはかなわない。
    「被害が増える前に何とかして倒さないとね……」
    「ったく、好き勝手暴れてくれるぜ。手当たり次第に殺して回るってのがとにかくいただけねぇ」
     吐き捨てた午傍・猛(高校生ストリートファイター・d25499)は、拳を掌へ打ちつけてにかりと笑った。回避できないものなら悔しいが、幸い今回はそうではない。
    「そんなのは俺らがびしっと止めねぇとな! 一丁鬼退治と洒落込もうじゃねぇか!」
     猛の咆哮と同時に、一行は路地の突き当たりに躊躇なく踏み込んでいった。

    ●災厄が来る前に
     たむろしていた男たちが一行へ不審げに目を向ける。紅緋と猛がタイミングを合わせてサウンドシャッターを展開すると、一行は二手に分かれた。
     路地を警戒する紅緋や燈を背に、保護班が『物騒な一般人の皆さん』を包囲する。
     明莉は足を止めず、数人の男をかわして薬局の扉の前に立って手をかけた。次の瞬間、扉備え付けの電子錠が火花を散らして引きちぎられ、扉が耳障りな音を立てて開かれる。
     唖然とする男たちへ、猛が倉庫を指して怒鳴った。
    「兄さん方、死にたくなかったらとっととその建物ん中に入んな!」
     続けて依沙から抗し難い圧力を伴った言葉が発せられる。
    「ぼさっとしていないで早く中に入りなさい!」
     普段の依沙とはあまりに違う強い口調であることを、もちろん男たちは誰も知らない。だが充分に竦みあがった。気の弱い者たちは一も二もなく、大きな荷物を抱えて出てきた明莉とすれ違い倉庫へと入っていく。反射的に着衣の内側へ手が入る男を見て、猛の声のトーンが一段階落ちた。
    「その脇やら腰やらにぶら下げてるもんだけどよ、使ってもいいが意味は無いぜ。俺たちがそれでどうこうできると思ったら大間違いだ」
     その一言で男が凍りつく。事実、簡単に開くはずのない倉庫の扉を、屈強とは言えない明莉がこじ開けたのだ。
     近づく災厄の気配に焦れた霞が、ずいと距離を詰めた。
    「死にたくなければ、行け」
     言葉にこめられた強い精神波がパニックを巻き起こす――パニックテレパスだ。わっと残っていた男たちが薬局へ動き出す。おろおろと路地の方を見る男の衿を掴み、戒はサングラスをかけたままで薬局へと突き飛ばした。
    「さっさと行きな。命が惜しいと思うならね」
    「ほらほら、急いで。死んでも知りませんよ?」
     紅詩も追い込み漁さながら、男たちを後方から煽って追いかける。混雑した入口で転んだ者を掴み上げて放り込み、明莉は扉を乱暴に閉めると入口に1トンはある荷物をどんと下ろした。これで外には出てこられない。
     紅緋が快活な声をあげたのは、その時だった。
    「こんにちは、羅刹さん。その服、そろそろ暑くないですか?」
     かすかに眉をひそめたのは、紅緋からすれば見上げるような大柄な男。額の両端から生えた黒曜石の角、黒一色の着衣に浅黒い肌。
     この路地を蹂躙するはずだった羅刹は、胡乱げに灼滅者たちを一瞥した。

    ●宵闇を閃く雷の如く
     燈が人を寄せ付けない殺気を放つと、薬局の中でがたごとと音がした。この場から離れたい男たちが壁にへばりつき、離れられないことに悶絶していることだろう。罪なき一般人が巻き込まれないための処置だ、やむを得ない。
     傍らにビハインドの暗を顕現させながら、明莉は仲間と合流した。
    「ゴミ処理に黒いツナギは分かりますけどね。返り血が目立たない」
    「……わかっているなら問うな」
     ゆっくりと包囲する灼滅者へ目をやりながら、羅刹は紅緋の言葉を一蹴した。
    「羅刹にもいろんな集団があるんだねぇ。ま、利害が一致しなかったら同族であっても対立するのは当然のことだね」
     サングラスを外しながら戒が水を向けると、面倒そうに黙る。彼――雷矢は会話が好きではないらしい。手を掲げ、開くと護符の束が手品のように現れた。
    「用は済んだか? 俺の用を済ませるぞ」
     
     動き出したのはほぼ同時、戦いの火蓋が切られる。

    「華宮・紅緋、これより灼滅を開始します」
     宣言と同時に紅緋の小柄な身体を赤いオーラが包んだ。
     雷矢の周囲に符が奔ると、彼を中心とした輝く五芒星が攻性防壁を組み上げる。素早くその魔手を逃れた紅緋は、巨大化した異形の腕で挑みかかった。鞍馬天狗が単独行動を許した以上、この羅刹は強いはずだ。
     新宿地下迷宮で相対した、あのすみれママという羅刹とどちらが上なのか。
     雷矢が怯まず受け止めたその手応えに、思わず紅緋の眉が寄る。これはすみれママほどの力量はないのではないか?
     一方で結界に触れた灼滅者たちを、符の魔力が雷光のように輝いて襲う。
     五星結界符の直撃を受けた猛を庇った明莉は、燈の怪我を引き受けた暗と共に軽い痺れに襲われていた。庇い手の自分がこのダメージとはなかなかに厳しい。構わず距離を詰め、暗の霊撃とのコンビネーションで拳の連撃を見舞う。
     受け止めかねた雷矢が一歩下がったところへ、燈がガンナイフを手に零距離格闘を仕掛けた。心地よい緊張感と隙を見出す感覚を楽しみながら、雷矢に傷を刻みつける。
     霞が暗へとオーラの盾を飛ばし、紅詩が力強く掻き鳴らすギターの響きが傷ついた前衛を癒す。雷矢の死角から関節を狙って斬撃を繰り出し、深々と引き裂いて戒が囁いた。
    「鬼の考えそうなことくらい、対策してないと思ってるの?」
     しぶく血に表情を変えない雷矢へ、猛が自身の生命力と攻撃力を引き上げながら笑う。
    「雷矢っつったか? 羅刹とやり合うのは初めてなんで楽しみにして来てんだ。がっかりさせないでくれよな!」
    「しゃらくさい!」
     雷矢の肩がぼこりと膨れ上がる。圧倒的な膂力を秘めた異形の腕を振り上げて紅緋へと迫った雷矢だが、その間に明莉が割りこんだ。
    「そうはさせるか!」
     叩きつけられた衝撃で路上を押し返されはしたが、明莉は凌いだ。彼と入れ替わりに前へ出た紅緋のデッドブラスターが至近距離から雷矢を襲う。避けきれない漆黒の弾丸は毒をもたらしたが、それでも雷矢は暗の霊障波をかわして跳び退った。
     明莉が闇の契約で自己回復する横を抜け、猛が闇の宿るロケットハンマーを振りかぶって雷矢に迫る。
    「精神的にも肉体的にもぶちのめす!」
     避けようとした雷矢がよろけた。関節を狙った攻撃が動きを鈍らせている。ハンマーに続いて岩をも砕く霞の鋼鉄拳も命中し、紅詩の魔力のこもった歌声が意識を揺さぶる。
     戒は明莉の回復をしたかったのだが、別の戦列では集気法が届かない。前列へと移動しながら、疑問を投げかけた。
    「大将の命で残党狩りに来たのかい? だとしたら随分忠義深いね、あんた」
     雷矢は応えない。燈の弾丸を振りきれない彼に、依沙が符を掲げた。
    「後の禍根になる前に……お覚悟を!」
     放たれた導眠符が雷矢の意識をかすませる。

     状況が不利になりつつあることを雷矢は悟っていた。自身を蝕むあらゆる異常を清めの風でキャンセルする。それだけ手を焼いているということだ。
     紅緋の放つ紅い光を帯びた神薙刃が至近距離から雷矢をとらえた。迸った血が地に落ちるより早く、明莉と暗の連携攻撃が追いすがる。霊撃で再び腕の自由を侵されると同時に石化の呪いに蝕まれ、ぐらりと傾いだ雷矢に燈が肉薄した。
    「繋いでいこう!」
     仲間のほうへ押しこみながらの燈の零距離格闘にすかさず猛が続く。
    「そら、潰しちまうぜ!」
     ハンマーがジェット噴射で加速すると、雷矢の頭部を直撃した。同時に紅詩の足元から滑りだした影がずたずたに切り裂く。
    「単騎で来たのは目立たないためかい? それとも、一人で十分、っていう自信?」
     明莉を癒しながらの戒の揶揄するような言葉に、雷矢が怒りの唸りをあげた。
     癒しきれない明莉の傷を、依沙が防護符で必死に塞ぐ。

    ●断ち切る白刃の如く
     攻性防壁の輝きが稲妻のように奔る。明莉を襲うダメージは暗が肩代わりし、燈と戒も避けきれなかった。まともに符を食らうかに見えた猛の前に盾を捻じ込むようにして、霞が割り込み庇う。
    「これしき、温いな」
     癒せない傷の蓄積は深刻だったが、獰猛な笑みを浮かべて雷矢を挑発。
     符に触れた紅緋は、鬼のそれと化した腕で自らを捕える陣を無理矢理引き裂いた。その勢いのまま、驚愕に目を瞠る雷矢へと躍りかかる。
    「雷矢さん、他の人と遊ばないで、もっと私の相手をしてくださいよ!」
     言いざま振り下ろした爪は雷矢を深々と切り裂いた。暗の霊障波で毒が刻まれ、明莉の拳の連撃が叩きつけられ、続いて雷の尾を引く猛の拳が鳩尾へと捻じ込まれた。
    「ぐおっ!」
     頭を振って雷矢が向き直るより早く、霞がシールドバッシュで更なる挑発を加える。
    「他所見していていいのかい?」
     怒りで眉を逆立て、歯を食いしばる様はまさに鬼の名にふさわしい。
    「羅刹だけにしぶといですね」
     ぼやきながら紅詩はギターの弦を掻き鳴らす手を止めない。五星結界符は毎回甚大なダメージを与えてくる。燈も清めの風を吹かせるが、庇い手たちの癒せぬ傷が増える。
    「役割を果たすために私は此処にいる。存分に戦ってくれ」
     仲間を庇い続けの暗を戒が癒し、燈の傷は依沙がヒーリングライトで塞いだ。
    「小童めらが!」
     怒りに任せて雷矢は霞を襲った。異形の腕が繰り出すばかげた膂力の打撃を防具が堪えて、軋みながらも霞を守り切る。
     この人数差で一手でも失うのは苦しいはず、紅緋が掲げた指輪から凝縮された魔力の弾丸を放って、動きが鈍くなってきた雷矢に麻痺を与える。暗の霊撃でよろけたところに明莉から撃ち込まれた石化の呪いが食いこみ、くぐもった苦鳴をこぼす。
     深い傷を負いながらも、隙を見逃す燈ではなかった。治療を待たずに懐へ踏み込む。
    「……がら空きだよ」
     黒いつなぎごと、燈のガンナイフが雷矢を切り裂いた。引き裂かれた傷から噴き出した血がばっと散った、次の瞬間。

     血を吐いた羅刹の身体が崩れ、膝をつき、倒れるよりも早く、その身体が爆発するように粉々に砕けた。欠片はさらに細かく、輝く小さな粒となって舞う。
     あっけなく、雷矢はこの世から姿を消した。

    ●目に見えぬ災厄
     緋色のオーラを収めて、紅緋が呟いた。
    「灼滅完了です。強敵でしたね」
     まさにその通り、満身創痍の仲間に依沙が急いで声をかける。
    「木元さん、山田さんも傷を見せてください。治療しましょう」
     なにしろ明莉や暗、霞は見るからに傷が重い。一撃もらっただけの戒や燈もかなりの怪我だが、戦闘不能も出さずに勝てたのは上々だ。
    「羅刹騒ぎでそれどころじゃなかったがよ、ここって結構やばい場所だよな?」
     我に返った猛に、明莉が依沙の治療を受けながら頷いた。
    「この際だからこのままにしといて、警察に通報しよう。物騒な人達の『薬局』の『倉庫』なんて、ロクなモンが入っているとは思えないしね」
     生命は助かったのだ、行いの報いぐらいはよかろう。
    「物騒な人達も中の荷物も、野放しにしていいもんでもないだろう、多分」
    「違いない」
     明莉の言葉に霞も異論はなかった。猛が携帯で警察へ通報する。
     戒は雷矢の持ちものが残っていないか調べていた。しかし身ひとつで来ていたらしく、符から着衣から、体と一緒に崩れている。
     輪状の武器はないし、雷矢が鞍馬天狗派の羅刹なのは間違いない。鞍馬天狗派と慈眼衆は全くの別派であり、慈眼衆の手掛かりはなさそうだ。
     やがて駆け付けた警察が苦労して『荷物』をずらし、物騒な一般人たちを警察署へ連行するのを、灼滅者たちは物陰で確認した。『荷物』も押収されている。
    「ん、これで安心だね。学園へ帰ろう?」
     燈が明るい声で一同を促す。任務は完了、物騒な一般人たちも警察行きで申し分ない。
     だがそれでも、明莉は胸苦しいものを感じていた。
     人だって一枚岩ではない、皆が仲良く出来るなんて事ある訳がない。
     だから、羅刹にだって色んな個性も事情もあるんだろうし、そもそもご当地怪人のように結束が固い訳でもないだろう――そうは思いつつも、釈然としない気分がする。
    (「……バッカくせぇ、ダークネスに変な『理想』押し付けてんのかな」)
     羅刹が羅刹を狩る、その構図に何となくため息がもれる。

     同じ種同士でさえ築き得ない平和。
     人もダークネスも、それは今同じなのかもしれない。
     今日もどこかで、誰かの敵意が誰かを狩らんと彷徨っている。

    作者:六堂ぱるな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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