ロードローラー(青)が現れた!!

    作者:夏河まなせ

     ブァオオオオオオォォォン、ブオアアアァァァオン、ウゥォオオオオン、ウゥォオオオオン……。
     極端に車高を下げ、今にもアスファルトを擦りそうなシャシー。
     ぱらりらぱらりら、ぱらりららー。
     まるで煙突のように高く突き出した、ありえない長さの改造マフラー。
     意味もなく音を立てて吹かされるエンジンと、ひっきりなしに鳴らされるクラクション。
     その夜、郊外をつらぬく幹線道路を我が物顔に爆走していたのは、違法改造を施したバイクや自動車で、無法な運転を楽しむ無軌道な若者たちだった。
     …………………………………………ゴゴゴゴゴゴ…………。
     しかし彼らは気づかない。邪魔する者はいないと思い込んだ公道に、とんでもない化け物が放たれたことを。
     …………………ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………。
     そして、それはもう、自分たちのすぐ後ろに迫ってきていることを。
     ………ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………。
     気づいたときは、もう遅かった。
     ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴズリゴゴゴゴシュゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴペキゴゴゴゴゴゴゴゴゴバチバチバチペキゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴプチプチプチッゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………。
     悲鳴も苦痛も、何もかも押しつぶし。
     アスファルトの表面には、ただ惨劇の跡が残るだけ……。
     そして、その化け物は、いっそ無関心に思えるほどの様子で、そこを通り過ぎて行ったのだった。
     
     灼滅者の一員である外法院・ウツロギ(毒電波発信源・d01207)が学園から行方をくらまし、闇堕ちしたらしい、という知らせは、あっという間に学生たちの間を駆け抜けた。
    「外法院くん……ううん、外法院くんを乗っ取っている六六六人衆、よね。そいつ、さっそく動き出したようよ」
     時村・薫子(自動描画のエクスブレイン・dn0113)は教室に灼滅者を何人か呼び集めると、そう告げた。
    「そいつにはどうやら、ちょっと特殊な素質があったらしいわ」
     かつて灼滅者たちが遭遇した、『クリスマス爆破男』。存在自体がネタとしか思えないくせに序列は二八八位という六六六人衆だったが、どうやら外法院・ウツロギの抱えたダークネスは、それと同じ素質を持つらしい。
     すなわち「分裂」。複数の分身のような存在を生み出し、同時に活動できるという性質だ。それゆえに上位の六六六人衆に目を付けられた可能性がある。
    「分裂……?」
    「ええ。私たちエクスブレインも、複数の別の『彼』の存在を感知したわ。私が感じ取ったのは、これ……サイキックアブソーバーが私に描かせたの」
     そういって薫子は、いつも持ち歩いている大判のスケッチブックを広げ、皆に見せた。
     そこに描かれているのは、そう。
    「ロードローラー…………?」
     ロードローラー。一般に、道路のアスファルト舗装を押し固めるなどの用途で運用される建設機械。官公庁用語では「締固め用機械(しめがためようきかい)」とも呼ばれる。
     薫子のスケッチブックに描かれているのは、まさにそれだった。――前面に「殺戮第一」と大書され、全体が青くペイントされている。
     そして、「虚」の一字を大書した目隠しを巻いた、男の顔が生えていた――外法院・ウツロギの顔が。
    「武器と身体を一体化させたダークネス。『クリスマス爆破男』に代わって序列二八八位に位置する『ロードローラー』よ」
     
    「この分裂した『ロードローラー』なんだけど、カラバリがあるみたいね。色ごとに違う対象をターゲットにしているようなの」
     青いロードローラーは、ダークネスではなく一般人を狙う。夜中に騒音をまき散らして走る迷惑な若者たちを、そのとてつもない重量でペチャンコにしてしまうのだ。
    「まあ、いくら地域のご迷惑とはいっても、さすがに殺されるのは見過ごせないし、ダークネスを野放しにはできないわ。皆、退治に向かってくれる?」
     暴走グループは、公園に集合した後、しばらく街中の道路を走ってから大通りに出る。
    「大通りに出て、さあ本格的に走るぞ、ってときに、後ろからロードローラーが追いかけてきて……という感じね」
     そうなる前に、若者たちを現場から追い払ってしまえば、彼らはこの不条理な存在に出会わずに済む。何も知らないまま翌朝を迎えられるだろう。
    「ただ、一応タイミングには注意してね。公園を出る前だと、分裂ロードローラーの『バベルの鎖』の予知にひっかかるみたい」
     予知をかいくぐって行動できるのは、若者たちが公園を出発してから大通りに出るまでの十分間くらいだろうか。まあ、いくら血気盛んな若者といっても、普通の人間である。ESPのひとつも使えば、簡単に行先を変えてしまえるだろう。
    「暴走グループを追い払ったら、皆が代わりに騒音を立てながら大通りを走ればいいわ」
     ある程度の速度があって騒音であればよいので、自転車で爆走しながらブブゼラを吹くとか、ライドキャリバーで走りながらコンドルホーン(パフパフいうアレ)を鳴らすとか、いっそラジカセ担いで走るとかでも構わない。
     ロードローラーは、純粋な物理的暴力によって若者たちを圧殺しようとする。それはサイキックによる攻撃ではない。灼滅者が受けても多少痛いだけで、実際のダメージはない。
    「この分裂ロードローラー、どうやら、学園の皆の顔を記憶してるわけじゃないみたい。そのへんも個体差があるのかもしれないわね。皆のことを一般人だと思い込んで突っ込んでくるわ。それは皆にはまったく効かない。初手は完全な不意打ちが可能ってことね」
     ただ、演技がまずかったなどの理由で不意打ちに失敗した場合、苦戦は必至だ。なにしろ、『ロードローラー』は序列二八八位を引き継ぐことを認められている。今回対峙するのはあくまで分裂体だが、もとが強力なら分身もそのぶん強いのは間違いないのだ。
    「それから、もうひとつ。このロードローラーはあくまで分裂体だから、説得とか救出とかは、不可能よ。いつもどおり、ダークネスと戦うつもりでやってね。……外法院くんを連れ戻すのは…………今は続報を待って、としか言えないわ」
     薫子は最後に、現場の地図を一同に配ると、こう締めくくった。
    「これ、他のエクスブレインからも毎回言われているでしょうけど。どんなにネタっぽい外見でも、ダークネスだからね! 油断しちゃだめよ。ちゃんと皆、無事で帰ってくるのよ。いいわね?」


    参加者
    風雅・晶(陰陽交叉・d00066)
    大堂寺・勇飛(三千大千世界・d00263)
    叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)
    那賀・津比呂(ウザカッコ悪い系・d02278)
    風見・孤影(夜霧に溶けし虚影・d04902)
    森沢・心太(二代目天魁星・d10363)
    桜井・かごめ(つめたいよる・d12900)
    九十九・御尾神(エンド・d26490)

    ■リプレイ

     夜の公園を出発した若者たちは非生産的なエグゾーストノートを夜空に放っていた。
     そしていざ大通りへ出撃しようとしたとき、桜井・かごめ(つめたいよる・d12900)が集団の先頭に声をかける。
    「ねえ、今日は大通りで警察の取り締まりをしてるらしいから、ここから先は出ちゃ駄目だよ?」
    「あぁ!?」
     細くした眉毛と染めた金髪(根元が黒い)の、リーダー格と思われる青年が不機嫌そうに顔をしかめた。少女のかごめを恐れるに足りずと見たのだろう、凄んでみせる。
    「ぁんだよ、誰に聞いたんだよんなことをよォ。ァン?」
    「……へえ? 僕の言うことが信用できないって、言うの?」
    「う、いや、その……」
     一転かごめの口調が冷たくなる。ESP王者の風が、普段なら少々の喧嘩くらいは喜んで買いそうな若者たちを委縮させた。
    「今日はもう解散です。音を余り立てないように、静かに帰ってくださいね」
    「早くうせねーとケツの穴から歯ァ突っ込んで手ェガタガタ言わせっぞー!!」
    「歯を突っ込むってひぃ!? す、すんませんっしたーーー!」
     森沢・心太(二代目天魁星・d10363)が、さらに王者の風を発動させ、若者たちを圧倒した。そして戦意を喪失したタイミングで那賀・津比呂(ウザカッコ悪い系・d02278)がパニックテレパスを放ちながら一喝。若者たちは突っ込みもそこそこに一目散に逃げ去った。
    「さて」
     これで今夜、ロードローラーが一般人の犠牲を出すことは阻止できた。肝心なのはこれからだ。
     彼らに代わって大通りを暴走し囮になる七人とは別に、引き続きESPによる人払いを続行する風見・孤影(夜霧に溶けし虚影・d04902)が、静かに暗がりに姿を消す。大堂寺・勇飛(三千大千世界・d00263)のライドキャリバー龍星号も、サーヴァントが姿を見せることで囮と見破られぬよう、物陰に身を隠した。

     自転車で全力疾走しつつ、かごめはリコーダーを吹く。音楽の教科書にも載っている、どこか哀愁を帯びた素朴なメロディ。
    (「……どうせ近所迷惑なら、ちょっとでも耳障りじゃない方が良いじゃん?」)
     彼女の選曲にはそんな意図があった。が。
     ぶぇええええええ!! ぶええええええ!!
     じゃじゃじゃーん!!
     ぶええええええ!! じゃじゃじゃーん!! ぴぷぷーぶええええええ!!
     他の灼滅者から発生する騒音が、彼女の気遣いを分子レベルにまで粉砕していた。
     鉢巻で懐中電灯を頭に固定し、スクーターに乗った津比呂は実に楽しそうにブブゼラを鳴らしまくる。
     風雅・晶(陰陽交叉・d00066)などはバイクを片手運転しながら「大音量で、とは具体的にどの程度なんでしょうね?」といきなりボリュームMAXでラジカセのスイッチを入れたので、その瞬間に爆音が炸裂し、一同耳が死にそうになった。灼滅者でなければ本気で聴覚を損ねていたかもしれない。ワーグナーの名曲も、ここまでの大音量だと風情もへったくれもない。まずは格好からと、腹にサラシを巻き、ニッカボッカを履いて、特攻服に身を固めたフル装備だ。勇飛も同様の特攻服姿で、エンジンをふかしながらバイクを飛ばす。
     かごめ同様、主に法定年齢的な理由で自転車を駆る面々も負けずにフリーダムだった。
     心太はタイヤが焦げそうな勢いで自転車を漕ぎまくりつつブブゼラを吹きまくり、叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)はラジオを大音量で流しながら、九十九・御尾神(エンド・d26490)はライトで当たりを照らしながら爆走している。
     ぶぇええええええ!! ぶええええええ!!
     ぷぷぴぴぷぷぴぷぷー。ぴぷぷーぴぷぷー。
     ぶええええええ!! じゃじゃじゃーん!! ぴぷぷーぶええええええ!!
     ……リコーダーと音楽とブブゼラが混ざり合って、うるさいどころの騒ぎじゃなかった。孤影が少し離れたところで継続している殺界形成のおかげで新たに人が近づいてこないことが、せめてもの救いかも知れない。

     ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………。

     やがて聞こえてくる重低音と、道路を伝わる振動。間違えようはない。来た。灼滅者たちの間に緊張が走る。
    「って、なんなんですか、あれ!?」
     振り向いた心太の言葉。道幅一杯を占める巨体と、高速で回転する、馬鹿でかいふたつの円筒形。一般人の演技をしている最中ではあるが、超重量級の巨大車両が轟音とともに追いかけてくるその現実に、一般人と灼滅者の別など関係ない、本能的な身の危険を感じた。
     ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
     地響きを立てながらロードローラーが迫ってくる。灼滅者はバイクや自転車の速度を上げた。逃げる演技のためではあるが、逃げずにいられない気持ちになるのもまた事実。
     実際、本気で逃げたとしてもロードローラーを引き離すことはできそうになかった。灼滅者たち以上のペースで速度を増し、視界の中でぐんぐん大きくなってくる。そして。
    「追いつかれる! 追いつかれる! というか、轢かれる! 轢かれる! 轢かr」
     ぷち。
    「ひでぶっ」
     ゴゴゴゴゴツッゴツゴトゴトゴトゴトゴゴゴゴゴゴゴ………猛スピードで回転するローラーの下に、灼滅者たちはどんどん引き込まれていった。
    「ひぎぃ! 性格以外も薄っぺらくなっちゃうー!!」
     なんだか余裕のあるっぽい悲鳴が上がったが、灼滅者を襲う衝撃は半端なものではない。普通の人間なら痛いと思った瞬間には安らかにこの世からおさらばできるが、あいにく灼滅者はサイキック以外では死ねないので、超重量にのしかかられて引き倒され、自分の肉体がローラーをかけられていくのをじっくりと実感しなければならないのだから、たまったものではなかった。
     ゴゴゴゴゴゴツゴトゴツッゴツッゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………。
     前輪が終わったと思ったら後輪。背中にローラー、体の前面にアスファルト。痛すぎて死んでる場合じゃない。
    「……っ、この……」
     ようやくロードローラーが通過する。飛び起きる灼滅者たち。孤影と龍星号も呼吸を合わせてその場に飛び出す。
    「意外と痛いっつーの!」
     涙目で放つかごめのマジックミサイルが、初撃となった。

    「これがろーどろーらーですか。話には聞いていましたが、なんともまあ」
     心太は盾の力場を解放して分裂体ウツロギに叩きつけた。至近距離で見れば見るほど、シュールな姿である。
    「まーなんだ」
     肉体を活性化させつつ勇飛がぽつり。いくら闇堕ちと言ってもこの姿はナイ。
     ウツロギを部長とするクラブのメンバー三人も、それぞれの反応を見せていた。
    「面白そうなことやってるよね。オレと遊ぼうぜー」
    「我らの部長、その闇堕ち姿がこれとは……」
     楽しそうに鬼神変をぶち込む津比呂の横で、部長のあまりの状況に当惑する御尾神。
    「これは虚像だ、さっさと片付ければいい――ようこそ私の領域へ! 殺人鬼の恐怖、たっぷり味わせてやる」
     そして御尾神の言葉を受け、孤影は宣言する。その身体から、殺意に満ちた力が溢れ出す。さらに晶からも鏖殺領域が展開された。どす黒い殺気が戦場を包み、ロードローラーをむしばむ。
    「一凶、披露仕る……」
     得物を抜いた宗嗣が、死角から斬りかかる。顔以外はどこから見ても建設機械の、どのあたりに刃を突き立てればよいか。ひとまず車体と車輪の隙間に刀身を滑り込ませ、すれ違いざまに斬り抜けた。
     続いて御尾神。一度戦いに気持ちを切り替えれば戸惑いはない。低い体勢から腕を斜め上に高速で振りぬき、装甲を切り裂く。
    「さすがに堅い……な」
     手ごたえはあるが、それ以上に堅いと感じる。
     加えられたサイキック攻撃に、つい先ほど踏みつぶした人間が一般人でないことを悟ったロードローラーはいきなり急加速した。
    「……!」
     見た目からは信じがたい高速の突進に、何人かが弾き飛ばされて転がる。かごめがすかさず回復を図るが、やはり超重量級の身体から繰り出される一撃は重かった。
    「外法院・ウツロギ……その名は聞き及んでいる。手練れの殺人鬼だとな……と言っても、その相手がこの姿では、な」
     回復を受け、体勢を立て直した次の瞬間には宗嗣はすでに斬りこんでいる。
    「どちらにしても、少しずつ積み重ねていくしかありませんね……これはどうです」
     晶が続き、まっすぐに刃を振り下ろす。
    「……ああ、バイク買い替えないと……」
     十字の軌跡を描きながら、津比呂が嘆く。灼滅者が持ち込んだバイクも自転車も、それこそダンプに轢かれた空き缶みたいにペッタンコになって、アスファルト上で敷物になっていた。
     クラブのメンバー他、学園の仲間を識別しているのかいないのか、青いロードローラーの上部に生えた顔はクヒッ、と笑った。裂けたような唇の端がさらに吊り上がる。
    (「外法院さんとは一緒のクラブにいるけど、正直なにを考えているのかよく分からない人だ」)
     孤影は、楽しげに唇をなめる顔を一瞥した。いつもの外法院・ウツロギも決してわかりやすい人物ではなかったが、今のこの顔はそもそも、話の通じる相手と思えない。
    「虚像はさっさと消えろ」
     見えざる力が結界となり、ロードローラーの霊的因子に強制的に働きかける。車輪の回転がほんの少し、しかし確かに鈍った。そこへ御尾神が突進する。
    「部長の闇堕ちした姿を見ることになるとは……だが、この様なものと戦える機会だけには、感謝しておくとしよう」
     思い切り振りかぶった拳に光が集まった。
    「重機を破壊するなど、普通は無いものであるからな!」
     体重とサイキックエナジーを乗せて突き出す。ガツンと鈍い音がし、確かな手ごたえが伝わってきた。しかし直後、拳の下で車輪が再度回転を始めるのを感じ取り、飛び退る。軋むような音を立てて急発進するロードローラーを、間一髪でかわした。
     御尾神を撥ねそこねたロードローラーはスピンターンを決めると、再度突進してくる。その進路に心太が一見無防備に立った。
     突っ込んでくる質量の塊をまともに受けたと同時に、車体の突起部分に手をかけ、その勢いを巧みに利用して投げ飛ばした。
    「頼みます!」
    「応!」
     巨体が一瞬浮かび上がる先に視線をやりながら心太が叫ぶ。それに応えて勇飛と、彼のライドキャリバー龍星号が走った。
     ロードローラーがアスファルトに叩きつけられると同時に、龍星号が機体ごとぶつかり、火花が散った。そこに勇飛は長大な剣を打ち下ろす。ついにロードローラーの青い車体に亀裂が生まれる。
    「あと少し……!」
    「――では」
     心太に癒しの光を放ちながら、かごめが呼びかけた。涼やかな声で応え、その横をすり抜ける姿。
     滑るようにロードローラーに接近し、晶はふた振りの小太刀で黝と白の三日月を描く。亀裂はさらに伸び、鋼鉄の巨体が菓子のように切り裂かれた。
     キュイン、キュイン、キュイン……。
     走り出そうとしてもはや動けないロードローラーに、いまひとり肉薄しているのは黒装束の姿――宗嗣。そして漆黒の斬撃。
     ロードローラーは今度こそ沈黙し、そして消滅した。
    「次は是非、素面でやり合ってみたいものだ、な……?」
     消えゆくダークネスに、宗嗣はそうつぶやいた。

    「外法院……」
     ぽつり、と津比呂の口から、部長の名が漏れる。
     つい先日まで日常の一部として友人づきあいをしていた相手が、突如消息を絶ち異形の分裂体として現れたともなれば、思い悩んでしまうのも無理はない。
    「……連れてかれて改造されてロボになって、悪の組織と戦ってたりしてないかな。うらやま、心配だ……」
     ……無理はない。これは部長の安否を気遣うクラブ員の素直な心情である。
    「せめて祈ろう。汝の魂に幸いあれ……ん?」
     祈りをささげる言葉を口にしかけて、勇飛はふと考え込んだ。えらく楽しそうだった分裂体ウツロギの表情を思い出し、思わずこめかみに指が動く。
    「分裂体は他にも多く居るようだ。では本体はどこで何をしているのだろうな?」
     そもそも分裂体に魂は存在するのだろうか、という勇飛の思考にシンクロでもしたかのように、孤影が口にした。
    「本体はまだ現れていないだけなのか、それとも……」
    「ですが、こうやって数を減らしていけば、いつかは外法院先輩を救える機会があるはずです」
    「そうだね。これでいいんだよね、きっと」
     心太が明るい口調で言い、かごめが続けた。
    「もうちょい待っててくれたら、きっと助けられるね」
    「頑張りましょう」
     今は現れた分裂体を片っ端から潰していっているだけだが、良い形での解決に向けて進むことができているのだと思いたい。
     ひとまず、誰も犠牲になることなく任務を達成したことを喜びながら、灼滅者たちはその場をあとにした。

    作者:夏河まなせ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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