青い重機が夜を征く

    作者:海乃もずく

    「う゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」
    「な、何だあれはぁぁぁぁぁあ!」
     夜の市街地を、改造バイクの若者たちが泣きながら爆走している。
     恐怖の形相で、アクセルをいっぱいにふかし、轟音を立てて。
     ズゴゴゴゴゴゴ……!
     地響きも高らかに、彼らのバイクに迫るものがある。
     外灯を鈍く受け止める青い金属光沢。アスファルトを砕き猛回転する鉄輪ローラー。車体に輝く『六六六建設』の文字。
     ……それは、紛うことなきロードローラー。
    「はっ、ぐ、だ、誰か、助けっ――ぐぎゃあああああ!」 
     バイクに追いついたロードローラーは、次々にバイクと若者たちを轢き潰す。
     どかばきぐしゃめきょ、ばこばこばこどこ、ごすんごすんごすんどすん。
     あっという間にスクラップ&ミンチになる、若者とバイク。
     ロードローラーは破壊と惨劇をふりまくだけふりまして、夜の向こうへと走り去っていった。
     
    「謎に包まれた六六六人衆、『???(トリプルクエスチョン)』によって、新たな六六六人衆、『ロードローラー』が現れました」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は、どう話を切り出せばいいものか、いつになく迷っている風だった。
    「この序列二八八位『ロードローラー』ですが……。実は、武蔵坂学園の灼滅者『外法院ウツロギ』さんの、闇堕ちした姿です」
     姫子の言葉に、誰かが息を呑む音が聞こえた。
     『外法院ウツロギ』の素質に目をつけた『???(トリプルクエスチョン)』は、彼を闇落ちさせることで、分裂という稀有な特性を持つ六六六人衆を生み出したのだという。
     現在、ロードローラーの序列は二八八位。『クリスマス爆破男』の空位を埋めた形になる。そして今、ロードローラーは分裂により、日本各地で次々に事件を起こそうとしている。断じて見逃すわけにはいかない。
    「それで、私が今回予知したのは……ロードローラーが一般人を轢き殺す事件です」
     姫子は説明を続ける。
     犠牲者は、騒音をまき散らしながら改造バイクを走らせる若者グループ。まずは彼らの行為を、何らかの方法でとめて欲しい。
     その後、自分たちが彼らの代わりに、迷惑な騒音をまき散らして夜の市街地を走る。これでロードローラーをおびき寄せることができる。
    「騒音をまき散らしながら走ればいいので、乗り物は自転車でも構いません。一定のスピードが出せるなら、自分の足で走ってもいいでしょう」
     うまくいけば、ロードローラーは予知で判明している場所に姿を現す。
    「ロードローラーの最初の攻撃は、一般人をロードローラーでペシャンコにする攻撃です。しかしこれはダークネスや灼滅者への攻撃では無いので、皆さんならば痛いだけで無傷ですむはず。回避を考えなくていいだけでなく、一方的に反撃が可能です」
     ただし、騒音をまきちらして走る若者を演じきれなかった場合、灼滅者とばれてしまうので、最初から普通の戦闘になるという。
     ロードローラーは鏖殺領域相当のサイキックの他、1人を念入りに挽き潰す「突進」と、まとめて挽き潰す「蹂躙」の攻撃を使うという。
    「今回のロードローラーは分裂体なので、救出も交渉もできません。確実な灼滅を、どうかよろしくお願いします」
     姫子は、そんなふうに言葉を結んだ。


    参加者
    喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788)
    槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)
    月舘・架乃(ストレンジファントム・d03961)
    ピアット・ベルティン(リトルバヨネット・d04427)
    闇縫・椿(時を刻まぬモノ・d06320)
    ルリ・リュミエール(バースデイ・d08863)
    霞代・弥由姫(忌下憬月・d13152)
    可罰・恣欠(私・d25421)

    ■リプレイ

    ●青い重機を誘い出せ
     暴走する若者たちを轢き潰す、ロードローラーが現れる……エクスブレインがそう予知した市街地へと、灼滅者たちは駆けつける。
    「たとえ暴走する若者たちとはいえ、見捨てる理由にはならないからね!」
     若者全員がESPで深く眠ったことを確認し、ルリ・リュミエール(バースデイ・d08863)はふうと息をつく。
    「王者の風って、この人たちを止めるためだったんだね」
     てっきりロードローラーとの接触後に使うものと、と喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788)は申し訳なさそうに頭をかいた。
     威圧されて素直に暴走をやめる者もいたが、声が届かずそのまま走り去ろうとする者もいた。少々手こずったが、何とか大人しくさせた若者たちを道のすみへと移動させる。
    「こういう、騒音を撒き散らしながら爆走する人達は凄く迷惑と思う気持ちは分かるの。でも、だからといって轢かれるのを放っておくわけにはいかないの」
    「ベルティン様。こいつらもそちらに運べばよろしいのテ?」
     若者をよいしょと持ち上げるピアット・ベルティン(リトルバヨネット・d04427)を手伝い、可罰・恣欠(私・d25421)はひょいひょいとバイクを持ち上げる。怪力無双はこういう時に重宝する。
    「さあ、行こうぜ……スピードの向こう側へ……!」
     若者たちの移動を終え、ルリの目がきらりと光る。ノリノリでコスプレ特攻服を翻せば、背中に輝くのは『棲麗耶亜(すれいやあ)』の四文字。
    「こんな感じか? 似合うかー?」
    「ばっちりだよ、康也さん!」
     槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)もルリと同じく白い特攻服姿。髪もそれっぽくセットし、サングラスをかけて――ただし乗るのは、自転車。
     たとえバベルの鎖があったとしても、順法精神は大事です。
    「分裂体だがウツロギと戦えるなんてな……ふふ……」
     黒スーツ姿の闇縫・椿(時を刻まぬモノ・d06320)は、街灯の並ぶ道路の向こうに目を向ける。その表情は読めないが、金の瞳にはごくわずかに楽しげな光が浮かんでいた。
    「弥由姫ちゃんも、気合い入った格好だね!」
     そう言う月舘・架乃(ストレンジファントム・d03961)の自転車は、服装に合わせた黒いゴシックパンク。目の細かな黒レースで全体を飾り、要所要所に銀の十字架とドクロをあしらって、ド派手にデコレーションされている。
     一方、霞代・弥由姫(忌下憬月・d13152)は大きなマスクで終始無言。背負った木刀は殲術道具ではなくスタイルを追求した小道具。目つきは睨みつけるように。
    (「……暴走行為をするにあたっての格好を調べてみましたが……これで合っているのでしょうか……」)
     ……大筋は合っているけれど、カゴ付き自転車で暴走行為をする人は、滅多にいないと思われます、はい。
    「それじゃ爆音を響かせるぜ……夜露死苦……なんてね!」
     インラインスケートを履いた波琉那が、携帯音楽プレーヤーのスイッチをオンにする。スピーカーから流れる音楽は、大音量のヒップホップ。
     さあ走ろう、夜の道をどこまでも。賑やかに騒がしく、ロードローラーが出現するまで。

    ●夜道を疾駆する灼滅者たち
    「ぱらりらぱらりらー!」
     大音量の音楽に負けない大声で、康也が声を張り上げる。
     それはもう思いきり賑やかに、灼滅者達は夜の道をひた走っていた。主に自転車で。
     時には直進、時には蛇行。法定速度で走る一般車両は豪快に追い抜き、走り去る。
    「気合ブリバリだあ! 仏痴義理(ぶっちぎり)だぜい!」
     ママチャリを全力で漕ぐルリが、『棲麗耶亜』『安全二の次』の幟をはためかす恣欠の自転車を追い抜く。ルリのスピーカーから流れる爆音は、スマホでエンドレス再生している暴走族動画から。
     普段どおりの胡散臭い笑顔のまま、恣欠がルリを追い抜く。インラインスケートを履いた波琉那が、大きく蛇行して恣欠の先へ。
    「ごっばああああ、ぎゃひひひひひひ、がふぉおおおおおお」
     スピードに乗り、奇声を上げるルリ。心の声のつもりらしいが、思いきり声が漏れているような。
    (「……早いところ出てきて頂かないと、こちらの耳がヤられそうですわね……」)
     しゃこしゃこ自転車をこぎながら、弥由姫はちらりと後方を振り返る。それぞれがスピーカーだの、楽器だのを使っているため不協和音はすさまじい。
    (「……うるさくして、ごめんなさいなの」)
     まだかまだかとロードローラーを待ち望んでいるのは、ピアットも同じ。ハンドマイクに自転車での疾走は仕方ない。でもやっぱり、騒音を出しながら爆走するのは気がひける。
    「あはは! 止めてぇんなら警察軍隊なんでもこーい!」
     ご機嫌でラッパホーンを鳴らす架乃の耳に、ゴゴゴゴゴ……と地鳴りに似た音が聞こえてくる。
    「来たか、ウツロギの分裂体」
     先頭を走る椿は、かすかに笑みを浮かべる。片手に鉄パイプ、片手にベル。けたたましくベルを鳴らしながら、自転車のスピードを一段上げる。
     ゴロゴロゴロゴロ……と鉄輪を猛スピードで回転させながら彼らに迫る影。
     設計速度を遥かに無視し、あっという間に暴走自転車の群れに追いつくソレは――。
    「うへえー! なんだあれー! ロードローラーだーっ!」
     康也が、多少わざとらしくも大声で叫ぶ。
    「危ねえ! 皆逃げろー!」
    「来んなあぁぁー!」
     大袈裟に驚いてみせつつ、康也も架乃もめいっぱいスピードを上げ、コースを選ぶ。
    (「正直轢かれるのは嫌だけど……まあ、最初は我慢我慢」)
     自分に言い聞かせる架乃の真後ろ、至近に迫るロードローラー。
    (「まるで映画みたい、あっちは岩だったけど。轢かれたらぺしゃんこになるのは同じだよね」)
     ピアットも思わず振り返る。相対距離はあと2メートル。あと1メートル。あと50センチ。……ゼロ。
     次の瞬間、彼らの頭上に降ってきたのは――ロードローラーだッ!
     まず恣欠が胡散臭い笑顔でローラーの下敷きになり、次いで架乃が、そして康也が踏み潰され……。
    「――ただで轢かれると思ったら、大間違いなの!」
     ピアットが力強く宣言し、灼滅者達は一気に攻勢へと転じる。
    「いくよっ!」
    「ORAORAORAORAORA!!」
     波琉那のシールドバッシュ、ルリの閃光百烈拳がロードローラーに直撃。
    「やっと出てきて頂けましたか」
    「ここまでだね、結構楽しくやらせてもらったよ!」
     弥由姫のバベルブレイカー、そして架乃のバスターライフルPunishmentが火を吹き、青い車体がべこりと曲がる。
     ほぼ全ての攻撃を受けたロードローラーは猛スピン、急制動。灼滅者たちは、ロードローラーを取り囲む。
    「不本意だが轢かれてやったぞ。……説得の必要もないことだし……」
     椿は鉄パイプを投げ捨て、クルセイドソードを構える。
    「……さぁ、楽しい殺しあいをしようか」
     青いロードローラーについている顔が、街灯の下でニイッと笑った。

    ●何でも舗装してしまいそうな
     人払いのESPをひととおり使い終えれば、路上には灼滅者とロードローラーだけが残る。
    「……ふぅ……息苦しかったですが、ようやく解除ですわね」
     大判のマスクを外し、弥由姫は夜気を吸い込んだ。目の前には、どこからどう見ても非の打ちどころのないロードローラー。
    「ほ……本当にロードローラー……。こいつをぶっ飛ばせばいい、んだよ、な?」
     康也は胸元の焦げたクリップに手をやりながら、やや困惑気味に相手を見上げる。
    (「俺も闇堕ち経験者だし、闇堕ちした仲間と戦うのは複雑……な筈なんだけど」)
     いかんせん、目の前にいるのはロードローラーなのだ。
    「で、でも、ウツロギおにーちゃんを早く闇堕う為にも、まずこいつを倒さないといけないよね!」
     ピアットがそう宣言して、右腕を異形へと変える。
     と、ロードローラーの顔がぐいんと回って、ピアットを捉えた。
     ギュイイイイン!
     およそロードローラーらしくない轟音を上げ、やおら前輪を持ち上げてウイリー走行。
     先ほどとは異なる、サイキックを帯びた力が集束する。ゴウンゴウンと回転する鉄輪が、ピアットに、そして架乃に迫る――!
    「暴走の時間は、終わりだよ!」
     体ごと突っ込みロードローラーを止めた波琉那が、ごりごり轢かれながらも反撃に転じる。展開した縛霊手から網状の霊力が放射され、ロードローラーを包み込む。
     霊犬ピースに回復を任せ、波琉那は後方へと合図する。
    「今だよ!」
    「ありがとう、波琉那ちゃん! ……ウツロギくん、これも人命の為、救出の為だから恨まないでね!」
     絶妙のタイミングで、架乃はバスターライフルを撃ち込む。ロードローラーの土手っ腹に大きな穴が開く。
     急バックで距離をとるロードローラーは、中央分離帯もなぎ倒し、街路樹も舗装して、うなりをあげて椿へと突進する。
    「分裂体には、さっさと退場してもらおうか」
     椿は鋼鉄の重機へとクルセイドソードを叩きつける。一片の容赦もなく、むしろより苛烈に、わずかな隙や死角も遠慮なくつく勢いで。
     キィン、と金属音を響かせ後退したロードローラー。そこへ、小柄なルリが肉迫する。
    「不運(ハードラック)と踊(ダンス)っちまったね!」
     ロードローラーの鉄輪がルリの鬼神変と激突し、ぴしり、と双方にヒビが走る。ギュリリリリン! とロードローラーの鉄輪が回り、ヒビを拡大させながらルリを押し潰す。
    「灼滅者が闇に堕ち、人を殺めル……そのような結末は嘘にしなければいけませんネ」
     早め早めの回復を心がけていた恣欠が、いち早くルリへと回復を飛ばす。縛霊手に集められた癒しの霊力に力を得て、ルリは元気いっぱいにロードローラーの下から抜け出した。

    ●次はどこの道、どこの工事現場で
     夜の市街地に響く、ロードローラーの駆動音。光や炎が閃き、金属音が残響する。
     火花が飛び散り、また前列の何人かが押し潰される。ロードローラーはごろごろと回転を続けて体勢を立て直し、再びアクセルをふかす。路上には青い破片が転がっていた。
    「……っは……楽しくなってきた」
     口数少なく戦う中、酷薄な笑みを深くした椿がロードローラーの上に飛び乗る。そのまま外法院・ウツロギの顔面へと、ティアーズリッパーの一撃を入れた。
    「分裂体だから容赦はしないよ!」
     椿を振り落とすさんばかりの勢いで疾走するロードローラーを、架乃は影喰らいで包みこむ。そうしながら、ふと架乃は首を傾げた。
    「……けど、記憶の共有とかしてたらどうしよ……」
    「でも月舘おねーちゃん、ピアたちだって、自転車が轢かれてぺしゃんこになって切ないです。……自転車の恨み、晴らすの!」
     ピアットが妖の槍を大きくふるう。槍から変換された冷気のつららはロードローラーを穴だらけにしていく。ガゴン、とどこかの軸が折れた音がした。
    「あと、もう一息ですナ」
     戦いを見渡す後方に位置する恣欠が、動きが鈍くなりつつあるロードローラーを見て言った。
    「任せとけ、最後まで誰もやらせねー! シッカリ守りきるし、ガッツリぶっ飛ばす!」
     何度もロードローラーに相対する康也は打撲傷だらけだが、橙の瞳は変わらず強い光を放っている。康也の足もとから伸びる影技シャドウビーストは、ロードローラーへとその牙を突き立てる。
    「ロードローラーが麻痺するのかという気もしますが…ま、当ててみましょうか」
    「もう、どこの道も走らせはしないよ! 絶対に止めてみせる!」
     弥由姫の発射する巨大な杭は、ロードローラーの動きを的確に鈍らせる。そこにルリがフォースブレイクを叩き込む。
     ばらりばらりと、ロードローラーから部品が落ちる。
    「今度生まれる時は、もうちょっとまともな変態さんになって来てね……」
     やたらとしみじみとした口調で言う波琉那の、力任せのシールドバッシュ。ほぼ同時に撃ち込まれた椿の連打が後押しとなり、ロードローラーの駆動音は完全にやんだ。

     灼滅されたロードローラーは、塵となって夜風に散っていった。
    「終わったな! みんな、お疲れ!」
     康也が配るおでん缶をもらいつつ、全員でぺしゃんこになった自転車の回収。
    「今何時だっけ? これで補導されたらカッコ悪いなー……」
     架乃が時間を確認すると、時刻は既に夜の2時を回っている。
    「今は、ゆっくり眠るといいよ」
     去り際、妙にしんみりとお祈りを捧げる波琉那は、本体はまだ健在なのを忘れている様子。そんな彼女を霊犬のピースが見上げる。
    「全く、本物はどこに行ったのやら……」
     戦闘前の無表情に戻った椿が、路上に向けて小さく呟いた。

    作者:海乃もずく 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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