トマトな揚げ餃子怪人VS黄色いロードローラ!

    作者:日向環


    「そらそらそらっ。餃子怪人さん、頑張って走ってね☆」
     轟音を上げて爆走する、黄色に塗装された巨大なロードローラ。正面には「殺伐第一」の文字が輝く「六六六建設」の重機だ。だが、ただの重機ではない。体こそ重機そのものではあるが、そこには人間の「頭」が乗っかっていた。
    「何よ!? どうして追い掛けてくるのよ!? トマちゃんが何かしたっていうの!?」
     決死の形相で逃げているのは、女の子の餃子怪人だ。お目々ぱっちり、マントにミニスカート。前垂れには「北本のるんるん」と記されている。揚げ餃子らしく、お肌がモチモチしていないのが、ちょっと残念なところ。だが、出るところはきちんと出ていて、括れもキュートなのでスタイルは良い。
    「餃子怪人は死滅する運命にあるのだよ♪」
    「だから、どうして!?」
    「教えてあげない♪」
    「お願い助けて! スカート捲っていいから☆」
    「断る!」
     立ち止まってスカートの裾をひらひらさせた餃子怪人を、無情にもロードローラが踏み潰す。
    「この感覚が堪らないんだよね☆」
     ロードローラは次なる獲物を求めて、街中を暴走する。


    「ゴ~ルデンウィ~~~ク、とつ、にゅう☆ でも、お仕事なのだっ」
     木佐貫・みもざ(高校生エクスブレイン・dn0082)はツインテールを揺らし、なにやら変なポーズを取る。本人的にはセクシーポーズのつもりらしい。
     見てはならぬものを見てしまったと、教室に集まった灼滅者たちは、そっと視線を逸らした。
    「全てが謎に包まれた六六六人衆の『???(トリプルクエスチョン)』さんが動き出したようなのだ」
     彼は、六六六人衆の序列二八八位『クリスマス爆破男』と同じく、分裂型ダークネスの素質を持つ者として、一人の灼滅者に目を付けた。
    「外法院・ウツロギ(毒電波発信源・d01207)先輩に怪電波を発して、ウツロギ先輩を闇堕ちさせちゃったのだ」
     闇堕ちした外法院・ウツロギ改め、六六六人衆「ロードローラ」は、クリスマス爆破男が灼滅され空席となっていた序列二八八位を獲得したらしい。
    「ロードローラは分裂して日本各地に散って、次々に事件を起こそうとしているのだ。ゴ~ルデンウィ~~~ク中に悪いけど、みんなにはこの分裂したロードローラが起こす事件の解決に動いてほしいのだ」
     みもざは再びツインテールを揺らす。分裂したロードローラは、赤、青、黄、緑、そして灰色の五色に色分けされ、更に各色の中でも分裂しているという。
    「黄色いロードローラは、なんでか理由がさっぱり分からないんだけど、餃子怪人を目の敵にしているのだ」
     理由は、たぶん本人にしか分からない。狙われている餃子怪人たちにも、身に覚えが全く無いらしい。
    「ロードローラは強敵なのだ。だけど、今回は助っ人がいるのだ」
     その「助っ人」とは、即ちロードローラーに追い回されている餃子怪人だ。
    「みんなに向かってほしいのは、埼玉県の北本市なのだ。北本市には、ちょっと変わった揚げ餃子があるのだ」
     地元特産の完熟トマトを具に入れ、カラッと揚げた揚げ餃子が、B級グルメとして巷では有名らしい。
    「名前の中に『ルンルン』が入っているのだ」
     誰が名付けたかルンルン餃子。完熟トマトが詰め込まれ、揚げていることでるんるんな気分に浸れるということなのか。
    「北本るんるん餃子怪人さんは、可愛い女の子怪人なのだ。た、たぶん可愛いのだ。ロードローラに追いかけ回されているるんるんちゃんを助けて、一緒にロードローラを撃退する作戦なのだ」
     北本るんるん餃子怪人は、例え相手が武蔵坂学園の灼滅者であろうとも、窮地を救ってくれた恩義を感じ、無条件で協力してくれるという。
    「なので、るんるんちゃんが踏み潰されちゃう前に合流しなければならないのだ」
     みもざはそう言いながら、灼滅者たちに地図を渡した。そこには、ロードローラが移動する道が、黄色で塗りつぶされていた。そして一箇所、赤い「×」の印がある。
    「ロードローラとるんるんちゃんが踏切を通過したのを確認したら、みんなはこの空き地に向かうのだ。そうすれば、先回りができるのだ」
     先回りして迎え撃てということらしい。
    「ロードローラーを撃破後に、余力があればるんるんちゃんも灼滅することができるかもしれないのだ。だけど、どうするかはみんなの判断に任せるのだ」
     みもざはそう告げると「るんるん♪」と鼻歌を歌いながら、スキップして教室から去っていった。


    参加者
    長姫・麗羽(高校生シャドウハンター・d02536)
    ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)
    松苗・知子(なんちゃってボクサーガール・d04345)
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    羊飼丘・子羊(北国のニューヒーロー・d08166)
    三条院・榛(猿猴捉月・d14583)
    風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)
    十・七(コールドハート・d22973)

    ■リプレイ


     埼玉県の北本市は、中山道の宿場町としても知られている街である。日本の五大桜のひとつでもある、樹齢800年以上のカバザクラの古木・石戸蒲ザクラが有名だ。特産品はトマトである。地元の名を取り「北本トマト」として、ブランド化を図っているという。
     その北本トマトをふんだんに使った揚げ餃子がB級グルメとして、巷では評判らしいのだが、今、その揚げ餃子由来のご当地怪人が、絶体絶命の危機に陥っていた。
    「何よ!? どうして追い掛けてくるのよぉぉぉ!?」
     涙目で全力ダッシュをしているのが、北本トマト揚げ餃子怪人のるんるんちゃんである。
    「餃子怪人は死滅する運命にあるのだよ♪」
     ゴォォォォォォォォッ。
     地響きをあげ、あり得ない速さで疾走している黄色いロードローラー。闇堕ちした外法院・ウツロギ改め、六六六人衆「ロードローラー」の分身体だ。彼が何ゆえ餃子怪人を目の敵にしているのかは、全くの謎である。だが、狙われる餃子怪人からしてみれば、良い迷惑だ。
    「いやぁぁぁっ。こないでぇぇぇっっっ」
     ズゴォォォォォォォッ。
     ガコガゴガコッ。
     ゴゴゴゴゴォォォォッ。
    「……踏切通過確認」
     羊飼丘・子羊(北国のニューヒーロー・d08166)は、電信柱の陰から様子を窺っていた。
    「ほな、空き地に向かおか」
     三条院・榛(猿猴捉月・d14583)が仲間たちを促した。その後、エクスブレインが予知した空き地に向かえば、彼女たちより先回りできることになっている。
    「なんなのかしらこの状況……なんなのかしらこの状況! ていうか絵面!」
     かなりシュールだと、松苗・知子(なんちゃってボクサーガール・d04345)は思った。どう控え目に見ても、ギャグ漫画の一幕である。
     滅多に見られない光景を目の当たりにして惚けている暇はない。直ちに、空き地に直行しなければならない。
     灼滅者たちは、全力ダッシュで指定された空き地へと急いだ。のんびりしていて間に合わなかったら洒落にならない。
     空き地に移動して待つこと10分――。
     ゴォォォォォォォォッ。
    「しつこい人キライィィィッ!!」
    「嫌いでけっこう☆」
     ドゴゴゴゴッ。
     土煙をあげながら激走している北本トマト揚げ餃子怪人のるんるんちゃんと、それを追うロードローラーの姿が見えた。
     るんるんちゃんはもうへろへろである。轢き殺されるのも時間の問題だろう。
     どちらもダークネスである。本来なら、2体とも灼滅対象である。
    「まぁ、どっちが脅威かといったら……六六六人衆よね」
     十・七(コールドハート・d22973)が大きく肩を竦めた。分身体とはいえ、ロードローラーは序列二八八位だ。その実力は侮れない。2体同時に灼滅することは極めて困難である。共闘することが可能であるならば、利用しない手はない。
    「かわいいそうな子が、気持ち悪いのに襲われてる!」
     物陰から飛び出してきたミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)が、2体を指差して大声で叫んだ。その声は、2体のダークネスの耳にも届いた。
    「かわいそうな子?」
    「気持ち悪いの?」
     立ち止まると、2体とも深刻な表情で首を傾げた。自分がどっちに当てはまるのか、真剣に悩んでいるようだ。何を悩む必要があるのかさっぱり分からないのだが、とにかく2体ともマジで悩んでいる。
    「武蔵坂の爛々ヒマワリこと、みっきー! 勢いで助太刀いたす!」
     ダダダダダッと駆け出すと、ミカエラはロードローラーに体当たりをぶちかました。
     ゴォォォォォンンンンン……。
    「いたいぃぃぃっっっ」
     右肩を押さえて涙目のミカエラ。ローラーはとっても固かった。
     友人の醜態を目の当たりにして、文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)が頭を抱えて蹲っている。
    「大丈夫ですか?」
     風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)が慰めてくれた。
     気を取り直して、咲哉は立ち上がった。今のは見なかったことにしよう、うん。
    「それにしても、ウツロギの奴、何やってるんだか。違和感ないのがまた始末に悪いぜ」
     深い溜息を吐いた。外法院・ウツロギは、咲哉が所属するクラブの部長でもある。残念ながら、闇堕ちしてしまっているので、ロードローラーは咲哉のことが分かっていない。ケタケタと不気味な笑いを浮かべている。
    「取り敢えず斬っとくか」
     咲哉が武器を構える。いつになく生き生きしているように見えるのは、気のせいだということにしておこう。
    「ダークネスとはいえ、女の子を一方的に痛めつけるってのはいただけないね」
     長姫・麗羽(高校生シャドウハンター・d02536)も武器を構えた。
    「力があるのなら、守ってみせてこその力じゃないかな」
    「いや、でもウツロギだし」
    「ふむ」
     咲哉の言葉に、全員が納得する。「ウツロギだからな」の一言で全て説明できてしまうあたりは、彼の日頃からの行いの賜(?)であろう。
    「なにはともあれ、助太刀するのよ!」
     状況がまだ飲み込めていないらしいるんるんちゃんに向かって、知子が叫んだ。
    「それってつまり、るんるんちゃんを助けてくれるってこと?」
    「とりあえず手伝うから、こいつ倒しちゃお? 気持ち悪いし!」
     立ち直ったミカエラは、るんるんちゃんの返事も待たずに臨戦態勢。ロードローラー(の顔)に向かってWOKシールドを叩き付けた。
    「ぷぎゃっ」
     顔面をぶっ叩かれたロードローラーは、激怒してミカエラに突っ込んでくる。
    「タッチ!」
    「いや待て! それは何かが間違ってる!」
     咲哉が慌てて回避行動に移る。
    「なんか面白そう♪ るんるんちゃんも混ぜて、混ぜてー」
     るんるんちゃんも共闘オーケーらしい。


    「こいつを倒すわよ、貴女も手伝って。このままじゃどのみち逃げ切れないんだから、他に手段はないと思うわよ」
     七が後方から声を掛ける。
    「ところで、何で助けてくれるの?」
    「ダークネスといえども困ってるんならお互い様、ってね」
    「なんて素敵な人たち♪」
     麗羽の返答を耳にすると、るんるんちゃんは瞳をキラキラさせた。感激しているらしい。
     麗羽は壁役に徹するため、るんるんちゃんを庇うようにしてロードローラーの正面に立った。知子が隣に並び、咲哉に押し戻されたミカエラも最前線に並ぶ。榛も前線に立った。強固な4枚の壁だ。
    「おおっ。なんか壮観かもっ」
     感動しながら、るんるんちゃんは最前線に立った4人に対してるんるん防御壁を展開してくれた。
    「餃子と一緒に踏み潰ーーーすっ☆」
     ンゴゴゴゴ……ッ。
    「そうはさせるか」
     突進しようとしたロードローラーの死角から、咲哉がティアーズリッパーで仕掛けた。
     更に知子が、閃光百裂拳を叩き込む。
    「か、かってーのよ!」
     さすがは重機。見た目通りの硬さだった。殴った手の方が痛い。
    「ご当地を愛する者同士、時には助け合いも必要だよね!」
     僅かに遅れて、子羊が鬼神変で殴りかかった。やっぱり手の方が痛い。とはいえ、それなりにダメージは与えているようだ。
     ウツロギの顔が、ちょっと痛そうな表情をしている。
     ロードローラーが逆襲してきた。前衛陣に向かって毒電波を放ってくる。知子と榛が毒電波を浴びて苦しむ中、るんるんちゃんは無傷だった。逃げ回っていても、そこはやはりダークネス。それなりに強いのかもしれない。
    「直してあげるねー」
     るんるんちゃんはオーラを放って、先ずは知子を治療する。榛も同時に負傷していたのだが、そこはレディーファーストということらしい。
    「君がウツロギ君だとか、ロードローラーだとか、六六六人衆だとか、序列二八八位だとか、分身だとかどうでもいい!! どんな理由であれ、ご当地愛を轢き殺す所業は許さない!」
     子羊が気を吐く。毒電波による守りを粉砕すべく、巨大化させた腕を振り回す。
     ガリガリガリッ。
     凄まじい音を響かせながら、何とドリフトしてその攻撃を回避する。アスファルトが削れている。恐らく、この道路の修復に税金が大量に使われることだろう。
    「纏めて踏み潰す♪」
     ノリノリの笑顔を浮かべて、ロードローラーは物凄い勢いで突っ込んできた。
     ゴゴゴゴゴ……ッ。
     ローラーが前衛陣を蹂躙する。
    「うぎゃーーーっ」
    「わーーーっ」
     痛いったらありゃしない。
    「もう! 痛いじゃない! お兄さぁん、ちょっと手加減してほしーの♪」
     さすがのるんるんちゃんも、今のは避けられなかったようだ。色っぽい声を上げ、るんるんちゃんは自分のスカートを捲ろうとする。相手の気を引く作戦らしい。
    「やめなさいな、女の子がそんな事」
     榛が止めた。どんな理由であれ、好ましい行為とはいえない。
    「余計なことするんじゃない!」
     肩透かしを食らったロードローラーが、榛に八つ当たりをしてきた。絶望の連打だ。ローラーの下に引き摺り込まれそうな勢いだ。
     咲哉が側面に回り込む。閃光百裂拳を叩き込むと同時に、ミカエラが影縛りを放つ。2人の動きに引っ張られて、優歌と七も同時に攻撃を繰り出した。4人による綺麗なコンビネーション攻撃だ。
    「ぐはっ」
     さすがのロードローラーも、少し身を引いた。ローラーの魔手から逃れた榛が、トラウナックルで逆襲する。
    「ご当地に喧嘩を売ったらどうなるか……覚悟、出来てるよね? うふふ♪」
     いつの間に重機の上に乗っていた子羊が、殺意をしこたま込めた笑顔で、ウツロギの顔を見下ろしていた。気合いと共に、ヒーロー☆ロッドを顔面に向けて振り下ろした。
     強固な体の中にあって、唯一ウツロギだったものの痕跡を残した顔に、強烈なフォースブレイクが炸裂した。
    「うぎょ!?」
     これはさすがに超痛かったらしい。めっちゃ涙目だ。蹂躙を解放し、回復を試みつつ守りを固めた。
     優歌がギターを掻き鳴らす。咲哉の影喰らいと麗羽のトラウナックルが、更に追い打ちを掛けた。
     ロードローラーが何か訳の分からないことを叫びながら、同じ場所をぐるぐると回り出した。トラウマ塗れになってしまったらしい。彼にしか分からない何者かと、必死に何かを争っているらしい。
    「しかしウツロギの……いや、ロードローラーのトラウマって何だ??」
     咲哉が顎を撫でる。が、それはロードローラーにしか分からない。きっと、ウツロギ本人にも分からない。
    「おのれ、おのれ、おのれぇぇぇ」
     ロードローラーは喚きながら藻掻く。
     七が縛霊撃で、ロードローラーの動きを封じに掛かる。ミカエラの影縛りもロードローラーを捉えた。
    「るんるんちゃん、今だよ!」
     ミカエラが声を掛けた。
    「袖触れ合うも多生の縁ってな、行くぜ!」
     咲哉が合わせる。【十六夜】を片手に、ティアーズリッパーで牽制。
    「どっせーーい!」
     るんるんちゃんはその細い腕で、自分の体の数倍はあるロードローラーを持ち上げると、バックドロップ気味に放り投げた。るんるんあげあげダイナミックだ。見た目に寄らず、けっこうパワフルだ。
    「ぐげっ」
     地面に叩き付けられたロードローラーは、逆さまの状態になってしまった。まともに動くこと叶わず、更には得体の知れない何かに襲われ、完全にパニクってしまっている。ローラーにも罅が入っている。かなりの威力だ。るんるんちゃん侮りがたし!
    「ね、何でるんるん、狙うの? 美味しそうだから? 潰してみたかっただけ?」
     ひっくり返って苦しそうなウツロギの顔を覗き込むようにして、ミカエラが尋ねた。
    「おしえてやんない☆」
     この期に及んで、アッカンベーで応じてきた。
    「質問は無駄らしいね」
     素早く飛び乗った麗羽が、剥き出しになったロードローラーの下部(腹?)に向かって、怒濤の如く拳を叩き込む。
    「ボディー! ボディー!」
     知子も拳を凄まじい勢いで打ち込んだ。立て続けに拳の連打を食らっては、さしものロードローラーも戦意喪失。
    「のぉぉぉっっっ!! だから餃子は嫌いなんだよっ」
     悲鳴を上げながら消滅していった。


    「きゃーっ。やったわー♪ はっ!?」
     大喜びのるんるんちゃんだったが、はたと我に返った。
    「る、るんるんちゃんは、食べても美味しくないよ?」
     次に灼滅されるのは自分だと思ったらしい。
     武器を手にしたまま、麗羽は仲間たちの反応を待つ。
    「……やりあっても構わないけど、そういう気分じゃないのよね。貴女もそうでしょ?」
     七がそう言うと、るんるんちゃんは神妙な顔で肯いた。
    「どうして助けてくれたの?
    「女の子が襲われとったから助けただけやで、なぁにダークネス女子助けんのもこれで三回目や」
     榛は、だけどと付け加える。
    「ただ人に被害を出されると次は……だから今やってる……えーっと、なんだっけ、あれ、あれとか止めといた方が嬉しいかのぅ」
     何か裏で企んでないか探りを入れたつもりなのだが、
    「トマト餃子を世界に広める作戦のこと? う~~~ん。約束はできないけど、考えとくね」
     大した企みではなかった。
    「だいじょぶ? 中身出てない?」
     るんるんちゃんの傷口を、ミカエラは心配そうに覗き込んだ。
    「うん、へーきへーき」
     るんるんちゃんはニコニコ笑っている。たぶん可愛いのだろうが、顔はカピカピの揚げ餃子仕様なので、ビジュアル的には可愛いとは言い難い。でもパッチリしたお目々は可愛い。
    「襲われる心あたりは?」
     優歌の問い掛けに、るんるんちゃんは首をぶるんぶるんと振った。心当たりが全くないらしい。
    「あなたたち日本怪人を外国怪人が邪魔と思い六六六人衆に暗殺依頼したのかも。それならまた襲ってきますね」
    「うーん。そうなのかな?」
     るんるんちゃんは可愛らしく首を傾げた。優歌が思っていた情報は、残念ながら得られそうにない。
    「北本のトマト美味いよな」
     咲哉は北本トマトを食したことがあるようだ。
    「それをパリパリサクサクの揚げ餃子にするとは、地元の人の深い愛情を感じるじゃないか」
     最初に考えたのが誰なのかは、謎ではある。
    「うん。美味しいよ。ヘルシーよ」
    「巷じゃ、やれドイツ化だロシアンだアメリカンだと騒いでるが、お前も声かけられてるのか?」
    「るんるんちゃん、よく分かんない」
     嘘を言っている様子はない。本当に何も分かっていないようだ。
    「それじゃ、るんるんちゃんはお家に帰るね」
    「トマト餃子食べに行くときは、案内してねえ」
     去って行くるんるんちゃんに、知子は手を振る。
    「今度食べに来るから!」
     トマト餃子の正体を今ひとつ掴み切れていない知子だったが、興味はあるのだ。トマトラーメンは結構いけたから、トマト餃子もイイカンジなんじゃないかと思う。
    「地元の声に報いるべく頑張れよ」
     咲哉も声を掛けた。
    「うん、ありがとう♪」
     るんるんちゃんは手を振り替えしてきた。それに答えるように、子羊も手を振る。ご当地怪人は、本来なら宿敵である。だが、たまには笑顔で終わるのも悪くない。そう思っていた。

    作者:日向環 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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