丁度、彼女は一つ『手に入れた』所であった。
廃工場の瓦礫に埋もれるようにして、二つの骸が転がっている。彼女はじっとその骸を見下ろしていたが、ひょいとしゃがみ込むと骸を漁った。
懐に入っていた学生手帳には彼女達の名前が記されている。
「月光(ひかり)と巴、か。……んー、名前は止めておこ」
一先ず、欲しかったカーディガンは手に入れた。
ふらりと歩き出すと、空に月が浮かんでいた。こうして他人のモノを奪い歩くようになって、幾日が過ぎたのだろうか。
時間の感覚も、そして時の経過すら忘れかけていた。
いつでも楽しいモノを奪い、いつでも殺したいものを殺して来た。彼女は欲しくないものは奪わないが、欲しいモノは何としても奪う。
たまたま、今は六六六人衆のランクというものが欲しくなかったのだろうか。
……彼女はまだ、六六六人衆六二一番目の『戦国しづは』であった。
「映画でも見に行こうかな」
そう思い立って、骸からお金を奪い取ると、しづはは歩き出した。
工場の建物から出てきた所である。
どこからか、ゴロゴロと音が聞こえてきたのである。何の音だか分からなかったしづはであるが、何となくそれがただならぬモノであるとは察していた。
ナイフを腰から抜き放つ。
だが、道路から敷地に入ってきたのはロードローラー。
「ん? ……あ? ……え?」
首をかしげるしづはであったが、そのロードローラーの上に頭がついている事に気付く。
そう、そこに居たのは高位の六六六人衆であった。
でも何故、こんな低ランクの自分の所に高位が来たのだ。しづはは焦るが、逃げても逃げても追いかけてくる。
しかもロードローラー。
ナイフを弾き返すロードローラーに攻めあぐね、ついにしづはは……。
「こんなのにやられるのは嫌ーーーー!!!」
プチッとひき殺されたのであった。
どんな顔をして迎えれば良いのか、相良・隼人(高校生エクスブレイン・dn0022)も分からなかった。
非常に難しい依頼には違いないのだが、笑っていいのか起こって良いのか悲しんで良いのか……。
隼人、話を進めろと灼滅者の一人が促すと、隼人は口を開いた。
「どうやら六六六人衆『???(トリプルクエスチョン)』が動いたらしい。奴の事はまだ詳しくは分かって居ないが、こいつが我が校の灼滅者、外法院ウツロギに目を付けて闇堕ちさせた。外法院は堕ちた後、クリスマス爆破男の後釜に据えられた」
これにより、新たに六六六人衆二八八位『ロードローラー』が生まれる事になったのである。
ただし、このロードローラーは『分裂』という特異な力を持っている。ロードローラーは分裂を繰り返し、日本各地に次々と事件を起こし始めた。
「外法院……いや、ロードローラーは倒したダークネスのサイキックエナジーを利用し、更に分裂体を生みだそうとしている。これを阻止する為に、ダークネスを先回りして倒してくれ」
隼人が言うには、到着後ロードローラーがやって来るまでは10分しかないという。10分以内に倒す事が出来なければ、ロードローラーが乱入してしまうだろう。
「ロードローラーは恐らく、灼滅者の背後から襲いかかって来る。ここでロードローラーにターゲットを替えると、逃げ出すチャンスとばかりにダークネスは逃走を図るだろう。ロードローラーは手強い相手だし、この状態でダークネスもロードローラーも相手にするのは無茶だ」
だから、10分で倒す事が出来ない場合は素直に逃走しろと隼人は言った。
ここで隼人が、一つの報告書を取り出してきた。それは、一年以上前の報告書『戦国しづは』に関するものであった。
今回襲われるダークネスとは、彼女なのだ。
「……んー、手を焼かせてくれた戦国が、よもやロードローラーに潰されて果てるとは思いもしなかった」
ぜひロードローラーに潰される所を見て見たい気もするが、そうもいかない。
しづはは丁度、一仕事終えて廃工場に居るという。この事件自体を阻止する余裕も時間も無いが、ここでしづはを倒せば新たな事件もロードローラーの企みも阻止出来る。
「よろしく頼んだぞ。あの時は苦戦させられたが、今のお前達なら倒せるはずだ」
隼人はそう激励し、送り出したのだった。
参加者 | |
---|---|
両角・式夜(黒猫ラプソディ・d00319) |
天上・花之介(連刃・d00664) |
媛神・まほろ(夢見鳥の唄・d01074) |
一・葉(デッドロック・d02409) |
葉月・十三(高校生元殺人鬼・d03857) |
吉沢・昴(ダブルフェイス・d09361) |
カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918) |
ターニャ・アラタ(破滅の黄金・d24320) |
ざわざわと生ぬるい風が吹き荒れる。
覆い尽くす空は雲が早足で通り過ぎ、月を隠しては現してゆく。空を見上げた媛神・まほろ(夢見鳥の唄・d01074)が、髪を庇いながら刻を確認する。
「どうやら、刻限に間に合ったようですね」
「タイムリミットまでは……十一分、戦闘開始からは十分って所か」
パタパタ服に手をやって持ち物の中の時計を確認すると、吉沢・昴(ダブルフェイス・d09361)は意識を集中させた。
時間は接触から十分間と、きちんと時計を合わせて確認する昴。吉沢・昴(ダブルフェイス・d09361)は隼人から聞いたロードローラーの話を思いだしつつ、退路を確認するように見まわした。
「撤退時は、元来た道を引き返すのが良さそうだな」
準備はいいか、とナイフに手を添えながらターニャ・アラタ(破滅の黄金・d24320)が声を掛ける。既に周囲に、殺気で人払いは掛けた。
皆それぞれ、灼滅者達の表情は三者三様。だが仲間に緊張の色は見て取れず、ターニャは安心して戦闘へと思考を傾けたのだった。
この廃虚のどこかに居るはずの殺人鬼の所に、一・葉(デッドロック・d02409)と葉月・十三(高校生元殺人鬼・d03857)は弾かれたように駆け出す。バベルインパクトを構えた天上・花之介(連刃・d00664)は、全力疾走で鋒を前にして突き進んだ。
一人、二人と続き両角・式夜(黒猫ラプソディ・d00319)と彼の霊犬もその後に続くと、彼らの影に隠れるようにして昴も歩き出した。
その影が獣のモノに変わっている事を除いて、昴は何も変わっちゃいない。
「ヴァレン、慎重に」
昴のあとに続くカリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)は、自分の傍に霊犬を呼び寄せると足音を忍ばせる。
一気に攻めた仲間と。
そして、カリルと昴のようにしづはの裏をかく方法を選んだ者と。いずれにせよタイムリミットはあと十分であり、モタモタしている余裕は無かった。
カチコチと、昴の所持した時計は時を刻む。
物陰に隠れるようにして、しづはの姿を探す昴の視界にぽつんと影が見えたのは、敷地に入った直後の事であった。
「いました」
小さく、カリルが呟く。
多分、先頭で攻撃を仕掛けた葉はここでようやくしづはの事を思いだしただろう。ゆっくりと振り返る頃には、既にナイフを両刀抜き放っていた。
彼女の体は前に傾いており、目が合うと同時に飛び込んで来ていた。
「しづは!」
十三が声を掛けると、ぞくりと葉の背筋に冷たいものが走る。
ああ。
あの時も確か……十三が声を掛けて、そうして最初の犠牲者が出たんだ。ただ、あの時よりもずっと葉と十三は経験を積んでおり、しづはの動きを目で追えるようになっていた。
にんまりと笑ったしづはの嬉しそうな顔。
もしかすると、自分も時々はそんな顔をしている事もあるだろうか、と十三は考えながら縛霊手を構える。
「アハハハハ!」
楽しそうに笑いながら、しづはがナイフで十三を抉った。
とっさに飛び出したカリルが突き飛ばし、致命傷を避ける。十三の首から血が吹き出していたが、ひたりと手を当てると血は止まり掛けていた。
今度はヒヤリとしたのは十三の方である。
ふらりと目眩のような感覚に襲われ、二散歩後ろに後退する十三。後退で突っ込んできた花之助のドグマスパイクを受け流すと、ひょいと花之助のライトを指した。
「こんな工場の廃虚なんかで隠れもせず、ライト装備して戦る気満々の連中相手に、どうしてやろうか?」
笑い声を上げるしづはの背後に、昴が回り込む。
瞬時に犬化を解除した昴が、体勢を整える事が出来ずに居る間にしづはが振り返る。犬化を解いてからのタイムラグはどうしても避けられない。
だが、しづはが応対するより先に体ごと飛びかかった。
「正面突破ばかりじゃないぜ!」
「くっ……」
浅い、が当たった。
昴は太刀で片腕を削られながら、ナンパされた時みたいにケラリと笑うしづはをじっと見据えていた。
太刀を流しながら、距離を開ける昴。
しづはは、ぐるりと見まわした。
「いちにーさん……人間が八人、と犬か。そんで、今更灼滅者さんがあたしに何の用? ゲームとか何とか、あたしは興味ないんですけど」
肩をすくめてしづはが聞いた。
ターニャは改めて、しづはに一礼する。
「慌ただしい挨拶になるが、初めまして戦国しづは嬢。そしてさようなら」
「さようなら、か。良いねぇ」
しづはにとって、楽しい事を奪えればそれで良いのである。ひとまず今は、奪ったお金で映画を見に行くことであろう。
ちらりと式夜が視線を昴の背後に向けると、そこには殺されたばかりの少女の骸がふたつ転がっていた。
こいつは間の悪い所に遭遇したもんだ、と式夜は目を細めた。
「実は知り合いがロードローラーになって……」
「はぁ?」
「うん、分からないよね。でも俺も分からないんだ」
首をかしげるしづはに、式夜もやれやれと溜息をついた。
話ながら、サウンドシャッターで包囲する。元々人気のない所であったが、更に一般人が介入するような事はナシにしたい。
霊犬のお藤に指示してしづはを包囲すように動くが、しづははまだ動かない。
「あなたがロードローラーに殺されるのを見るのは忍びない、という人が居たもんだから連れてきたんだよ」
「勝手な事を言わないでください、恨みを晴らそうと思ってきただけですよ。ええ、一年半分の恨みつらみですよ」
十三はそう答えると、槍から冷気を放った。
キンと冷たい氷塊が次々と放たれ、走り出したしづはの足元に突き刺さる。挟み込むようにして葉がバベルブレイカーで突っ込むと、足を止めたしづはに氷塊が襲いかかった。
それでも、葉の攻撃を止めたのはさすがに六六六人衆といった所。
「恨みって何なのよ、あんただれ?」
眉を寄せて、しづはが聞く。
ガッカリですね、こちらは片時も忘れた事はないというのに……と十三が言い返す。生憎と自分も忘れていたのは、葉の方であったが。
すっかり忘れて、忘れた頃に聞いた訳だ。
「あんたの事を狙ってる六六六人衆が居るってんだよ」
「あたしらはいっつも狙われっぱなしだよ」
切り結びながら、しづはは答える。
ナイフを構える女子高生は、攻め込む葉と氷を放つ十三に目を見張った。彼らの話が確かであるなら、自分はいとも簡単に彼らを追い払ったはずである。
その彼らが、ここまで自分に攻め込むとは。
背後から斬魔刀で斬りかかったお藤をナイフで払うと、しづはは一息大きく深呼吸をして髪を撫でつけた。
「ロードローラーって何なのさ」
「聞いてるぜ?」
葉が式夜を振り返ると、彼はふむ、と一つ溜息をついた。
憂いをおびた表情から、漏れた言葉。
「……俺の知人のロードローラーだよ。今は六六六人衆の高位だと聞いたんだけど、何か知らないか?」
「ロードローラーの知り合いはいない。……要するに、ロードローラーに殺されるかあんたらに殺されるか、二者択一ってわけ?」
「さすがに察しが良くて助かるよ」
式夜はふわりと笑顔を浮かべた。
カチコチと、昴の時計は時間を告げる。
一見すると普通の女子高生にしか見えない、六六六人衆の少女はすうっと身構えた。
反応は早く、動体視力も優れている。
先ほどからカリルがガードを努めているのは、理解したようだ。するりと動き出すと、カリルのディフェンスをかいくぐるように攻撃を繰り出す。
動きは相手の方が早く、上手であった。
「時間がありません、一気に片付けましょう」
カリルと皆にエールを送ると、ヴァレンもしづはのガードに回るように視線を送る。カリルの意志を受け取ったヴァレンと、そして式夜を守るお藤とでしづはの行く手を翻弄する。
攻撃は激しく、カリルの体は血にまみれていく。
それでも凛としづはを見据えたまま、カリルは引き下がる事はない。
「ぼろくそにやられた相手がロードローラーにやられる所なんざ、見たくねぇからよ!」
そう言う葉は、拳をひたすら振るいながら笑っている。
楽しいの?
としづはが聞くと、楽しくない奴はいないと葉は答えた。
「ロードローラーより楽しい殺し合いで終わらせてやるぜ」
「……アハハ、それじゃああたしが負けたらあたしのものを一つだけ奪って行ってよ」
しづはからのお願い。
可愛らしい猫なで声で言うと、しづははナイフで葉の腹を抉った。カウンターで、葉のバベルブレイカーが深く穿つ。
引き抜きながら葉が後退すると、ターニャが光を放った。ターニャは厳しい表情で傷を見つめるが、柔らかな光は葉から痛みを取り去っていく。
「残り時間も少ない、ここからは私も攻めに加わろう」
「お互い得意分野での攻め合いですから、全力でいかないと消耗戦になります」
カリルがターニャに言った。
つまりは、ここからは回復を気にせず攻めねば保たないという事だ。
それがどういう事かは、自分も分かって居る。なおも追ってくるしづはの前に花之介が立ちふさがり、後方のターニャの話に短く分かった、と答えた。
あとは全力で。
それさえ分かれば上等だ。
バベルインパクトでしづはの動きを追うが、しづはは上手く受け流して躱す。じっと動きを見つつ、即座に切り替える花之介。
「あんたも『同じ』なんでしょう? あたしの得意な事はあんたも得意。同じ事してちゃ、勝てやしないわよ」
笑うしづはは、誘っているように見えた。
それでも自分の得意な事は、自分がよく分かって居る。花之介は、輪生六花を掴むと式夜をちらりと振り返った。
何時の間にか、式夜は一歩下がって後方からしづはを狙っている。
「時間稼ぎをしている余裕はない。切り崩すぞ」
花之介が言うと、式夜はバベルブレイカーを構えた。
一瞬早く花之介が飛び込み、しづはの手元を狙う。ナイフを弾き落とし、返す刃で切り上げてしづはの足元を切り裂く。
だが飛び込んだ花之介の背には、まだ式夜が『居る』。
彼の背後から飛び出した式夜がしづはの手首を切り裂いた。ナイフを握る手が痺れ、しづはが構えをわずかに解く。
二段構えの攻撃に、しづはの動きは次第に遅れていた。
「せめて、殺し合いの中で終わらせてやる。……精一杯に、な」
低い花之介の声は、しづはに届いただろうか。
俯き加減のしづはは、すうっと笑った。
「さあおいでよ。あたしから奪ってみなさい」
「言われなくとも、ロードローラーに勝ちを譲るつもりなんてないもんでね」
式夜はそう言い、構えを解いた。
それが合図であったかのように。
それが終わりだと、分かって居たように。
後ろにいたまほろが、クルセイドソードを構えて突きを繰り出した。飛び込むようにして、剣を真っ直ぐに突き刺す。
体中血塗れになりながら、しづははナイフを構えていた。
闇雲に繰り出すナイフを受けていたヴァレンが倒れ、そしてカリルがそのナイフを受け続けながらもリングスラッシャーを放った。
「さあ、もう終わりなの?」
武器が手元を離れた瞬間、しづはの刃がカリルの体を深々と突き刺す。
ずるりと崩れるカリルの体を、ターニャが後ろから受け止めて引きずるようにして離す。しづはの止めが届くより先に、お藤が制止に割って入った。
先ほど、昴のタイマーが鳴ったのをまほろは耳にしていた。
「あなたは私達が送ります。……必ず!」
柔らかな言葉であったが、まほろの繰り出す攻撃は鋭く正確であった。風を纏った刃を繰り出し、剣撃を交えた攻撃でせめ立てる。
しづはの攻撃を、まほろはここまでずっと後ろから見てきた。
多分、彼女は優しさなど要らないと言うのであろう。
「あなたがそれを望むのであれば、最後までおつきあいしましょう」
まほろはそう言うと、ふと一瞬空を見上げた。
月明かりが照らす空から、力を貰ったように……まほろは笑顔を取り戻して構え直す。一閃した刃が繰り出した風は、しづはを包み込んで鮮血を散らしたのであった。
両手に持ったナイフが、その手を離れてからりと堕ちる。
彼女は笑顔のまま、どこかを見ていた。
「ロードローラーって……あいつ、か……」
「……来たようです」
振り返ったまほろの視界に、ロードローラーが映った。武器を構え直そうとしたまほろの手に、しづはが何かを押し込む。
その手の中にあるものを確認すると、まほろは後ろを振り返った。
高らかに、昴の時計が鳴り響く。
「やべ、残り三十秒って所か」
昴は呟くと、ターニャが支えていたカリルを抱えた。倒れたしづはにはまだ意識はあるようだったが、もう一度視線を落とすとすでに消失してしまっていた。
ダークネスの最後に、言葉を失う昴。
「奪う奴は、いつかは奪われる……」
「急いでくれ、バッティングなんてごめんだよ」
式夜に急かされ、昴は仲間の後を追って駆け出した。
ロードローラーの音が、遠くに響いている。
カリルが目を覚ました時、工場から少し離れた歓楽街の離れに居た。工場まではあまり離れていない為か、微かにロードローラーの音が聞こえてくる。
「終わった……んですよね」
「お疲れさん」
カリルが見上げると、昴がふっと笑った。
傷の具合は良くないが、命に関わるほどではなかった。ふと、昴は思いだしてまほろの方へと視線をやる。
「お前、確かしづはから何か受け取ってなかったか?」
「……そういえばそうですね」
まほろが掌を開くと、そこには一冊の生徒手帳が載っていた。
覗き込んだ十三がそれを手に取るが、開いた中身はしづはのものではなかった。いや、正確には『一応、しづはのものになった』生徒手帳である。
「戦国しづはが最後に奪ったのが、この一冊の手帳って訳ですか」
十三はそう言うと、黙り込んでじっと手帳を見つめた。
彼女は今まで楽しんできたのだろうか。後悔などしていなかっただろうか。色々聞いておきたかったことはあるが、結局戦う事で精一杯であった。
「戦って終わったんだから、満足じゃないか?」
と花之介は言う。
ロードローラーに潰される、という物悲しい最後を迎える事はなかったのだから。花之介は笑うに笑えない死に方をしなかったしづはを思う。
それから、思いだしたようにもう一度生徒手帳を見た。
「そういえば、あいつの本名って、戦国って言うのか?」
「あー、何か言ってたな。国……くに、何とか」
葉が、考え込む。
「国枝?」
「いや、そんな名前じゃなかった。もういいや、戦国って事にしておこうぜ」
戦国と書き換え、葉はそっと道の片隅に置いて行く。
式夜は一端工場跡地の様子を見に行こうとしたが、既にその頃はもうロードローラーは立ち去った後であった。
「執念深く、しづはが消えた痕を地ならししてあったよ」
「……ロードローラーが戻って来る前に撤収するとしようか」
願わくば、灰色のヤツに出会わないようにとターニャは祈りながら歩き出した。
作者:立川司郎 |
重傷:カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年5月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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