黒き雫のバロック

    作者:東城エリ

     最終電車の車両から乗客が数人降り、足早に改札口へとやってくる。
     改札口はひとつだけだ。
     そして一階分ほどの階段を下りれば、バスターミナルへ続くようになっていた。
     階下に1人の男性が立っている。
     闇に溶けるような黒のスーツ。
     階段を下りる人々は、その姿を何気なく視界に収めながらも、危険とは判断してはいなかった。
     駅の周辺では、広告チラシを配布しようと立っている人々も多いからだ。
     帰宅すべく急ぐ人々は、黒衣の男を避けるように通り過ぎようとした。
     が、そうはならずに、階段をおりていた人々は、風船が破裂するように、身体を弾けさせた。
     照明の灯る天井と両側の壁、階段へと身体を構成する血や肉体、千切れた服などがぼたぼたと降り注ぐ。
     絶命の声も出す間もない。
     爆ぜた音だけが、ほんの夜闇に響いただけ。
     黒衣の男は手にしていた魔道書を閉じ、満足げに頷く。
     年齢は30歳前後だろうか。
     アスコットタイで隠すように頸に填っているのは首輪だ。
    「久方ぶりの自由。我はもうすこし楽しませてもらおうか」
     淡い金髪に緑の瞳は、柔らかな印象を与えるが、紡ぐ言葉と声音には残酷さが感じられた。

    「あと少しで家に着くよ」
    『ぱぱぁ、はやくぅ。あっ、こら、あなた早く帰ってきてね』
    「ああ」
     娘と妻の声に安堵し、幸せそうな笑みを浮かべる。
     化粧室にでも寄っていたのか、男性が通話をしながら、やってきた。
    『今日はあなたの好きなカレーなんだけど、夜遅いけど食べられる? 駄目だったら、何か別の物を用意するわ』
    「カレーがいいな」
     男性は妻の作るカレーが大好きだった。
     階段をおりてこようとしたところで、咄嗟に身体が歩みを止めていた。
     得も言われぬ匂いが漂ってくる。
     惨劇が視界に入り、この惨状を引き起こした元凶を見た。
     見てしまった。
    『あなた? どうかしたの?』
     恐怖で、歯ががちがちと鳴った。
    「まだ残っていたのか。先に逝った者どもの後を追うが良い」
     男性は切り裂かれ、覚めぬ眠りへと落ちていく。
     妻の声が遠くに聞こえた。
     必死に安否を気遣う声。
     黒衣の男の足下に落下した携帯電話は踏みつけ、砕かれた。
     
    「それでは説明を始めましょう」
     斎芳院・晄(高校生エクスブレイン・dn0127)が黒革のファイルを手に話し始める。
     新潟ロシア村の戦いの後、行方不明になったロシアンタイガーをヴァンパイア達が捜索しようと動き出したようです。
     ロシアンタイガーを狙っていたのは、業大老配下のアンブレイカブルでしたが、有力な指揮官であった柴崎明が灼滅された為、ロシアンタイガーの捜索まで手がまわっていない状態のようです。
     強い力を持つヴァンパイアは、その多くが活動を制限されていますが、今回捜索に出てくるのは『爵位級ヴァンパイアの奴隷として力を奪われたヴァンパイア』達。
     彼らは、奴隷から解放される事と引き換えに、単身での捜索に赴きました。
     ですが、長い間奴隷として扱われていた鬱憤もあるのでしょう、捜索よりも己の快楽を優先しているようです。
     捜索よりも殺戮の快楽。
     今の彼らは、それらを楽しんでいます。
     いずれは満足を覚え、ロシアンタイガーの捜索に切り替えるでしょうが、黙って見過ごすことは出来ません。
     皆さんには現場に向かい、ヴァンパイアの灼滅をお願いしたいのです。
     
    「ヴァンパイアの名はレイファス」
     30歳前後で、淡い金髪に緑瞳、黒のスーツを身に纏ったの男性です。冷酷さ感じさせる容姿に、高い矜恃。
     レイファスが現れるのは、ベッドタウンとなっている地域のとある駅です。
     皆さんが接触出来る状況ですが、レイファスが殺戮を行った後となります。
     最終電車の車両から降りた乗客が改札口を出、バスのターミナルに繋がる階段でレイファスに殺されてしまいます。
     後から遅れて階段にやってくる男性は、その前に皆さんがレイファスと戦闘に入れば救えるかも知れません。
     能力は、ダンピールのサイキック、魔導書とガンナイフのサイキックを使います。
     
    「奴隷として力を奪われたヴァンパイアとはいえ、その力は十分に強いものです。油断せず対処し、灼滅をお願いします」
     晄はそういうと、皆を見送ったのだった。


    参加者
    迫水・優志(秋霜烈日・d01249)
    風花・クラレット(葡萄シューター・d01548)
    一之瀬・祇鶴(リードオアダイ・d02609)
    堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)
    辰峯・飛鳥(紅の剣士・d04715)
    西洞院・レオン(翠蒼菊・d08240)
    ルビードール・ノアテレイン(さまようルビー・d11011)
    瀬河・辰巳(宵闇の幻想・d17801)

    ■リプレイ

    ●波立つ感情
     昼間は暑いとさえ感じる気温も、夜も更ければ一転肌寒くなる。
     身体を動かしていればいずれは温かくなるし、何よりこれから相手にする事を思えば、熱を帯びようと言うものだ。
    (「連中の目的を阻止するのも無論だけど、何よりも…道楽や自分の快楽の為に殺戮など、赦せる筈もない。必ず灼滅する」)
     迫水・優志(秋霜烈日・d01249)は、胸に強く抱く。
     殺される人々にも家族や恋人などが居るだろう。その後に生まれる悲しみを考えれば、怒りは沸こうものだ。
     車内を煌々と照らす電車が駅のホームから出て行くのが見えた。
     最終電車より1本前の電車だ。
    (「最初の殺戮には、間に合わない…のね。でも、急げば息のある人だってもしかして! 希望は捨てないわ」)
     風花・クラレット(葡萄シューター・d01548)は、悲しみを抱きながらも希望を見いだそうとする。長い髪が跳ねるように靡いている。
     背には猫変身したルビードール・ノアテレイン(さまようルビー・d11011)がぴったりとしがみついている。ふわふわの長毛種だ。
    (「お父さんに会いたい」)
     助けることの出来る可能性がある男性の事と、灼滅するために立ち向かう吸血鬼の事。
     その両方にルビードールは父親を重ねてしまい、幼い心が揺れる。
     もう会えないと分かっているのに、どこかでずっと探している。
     会いたい、大切な人。
     自分がそうだから、わかる気持ち。
    (「電話の家族も、ずっとお父さんを待ち続けてしまうって。おかえり、って言えるようにしたいの」)
     会わせてあげたい人。
     駅の階段から帰宅する人々が、ターミナルに停車していたこの日最後のバスに乗り込む姿や、徒歩、駅の傍にある個人経営らしい小規模な駐輪場から自転車を引き出し、帰宅の途についていく。
     タクシーの姿はない。この駅のもう一つ前の駅の方に集中させているのだろう。
     最終電車が来てもバスがないのは、徒歩圏内なら利用するが、それよりも距離があるのなら一駅前で降りてタクシーを利用するといった使い方だからかも知れない。
    (「助けられる人がいるなら、助けたい。負ける訳にはいかないのう」)
     美しい碧の瞳を周囲に向けながら、西洞院・レオン(翠蒼菊・d08240)は内心呟く。
     人の気配が少なくなり、ざわつきが去り夜独特の静寂へとほんの少しのあいだ戻った。
     現場近い場所で一息ついた頃、電車がレールの上を走る独特の音が耳に入る。
    (「ヴァンパイアたちの企みを見過ごせないのはもちろんだけど、何よりも自分の快楽のために罪のない大勢の人をいとも簡単に殺すなんて、絶対に許せない! …虐殺の全てを止められないのは辛いけど、せめて、あの男の人だけでも助けなくちゃ」)
     いつは笑顔を浮かべている辰峯・飛鳥(紅の剣士・d04715)の表情は、凛々しさを湛えている。
     見上げれば、電車が停車の為に減速し、ホームへと入っていく所だった。
     住宅街から、黒衣の男が現れると半円状になっているバスターミナルをショートカットして縦断し、階段下に立つ。
     最終電車の車両から乗客が数人降り、ただ一つの改札口へとやってくると、ターミナルへと続く階段へと足早にやって来た。
     階段下に男が居るのを視界に収めては居たが、自然と避けるように階段を下りようとする。
     階段をおりていた人々は、突如風船が破裂するように、身体を弾けさせた。
    「弥栄、命ある限り、守り抜いてみせようぞ」
     レオンは解除コードを口にし、戦場となる場所へと踏み入れる。
    (「命を大切にしない者は好かん。人の命なぞ、ダークネスにとっては、ちっぽけな物かもしれん。それでもわしは守りたいのじゃ」)
     照明の灯る天井と両側の壁に赤い血の雨が降り注ぐ。
     ターミナル側からやって来た堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)達は、キャンバスにぶちまけられた絵の具の様な光景を見ることになった。
     朱那は殺界形成使用し、一般人が戦場へと近づかないようにする。後からやって来る筈の男性は、この効果でやって来るのが少しでも遅くなればと思う。
     声も出す間もなく、絶たれた数々の命。
    (「本能の赴くままに、ただ血を啜るとはね。 堕ちる所まで堕ちきった、ということかしら? 悪いけれど、このままのさばらせておくわけにはいかないわね」)
     感情を面に出す事はないが、一之瀬・祇鶴(リードオアダイ・d02609)の心は雄弁だ。
    「さぁ、思い残すことはないかしら? 自由がそんなに欲しいのなら、私達が貴方を現世の頚木から解き放ってあげるわ。 さぁ、終りを始めましょうか」
     謳うように言葉を紡ぎ、スレイヤーカードの封印を解除する。
     爆ぜた音を心地よい音楽のように耳を傾けていた男は、手にしていた魔道書を閉じながら満足げに笑みを浮かべた。
    「久方ぶりの自由。楽しまなくてはな」
     血の噎せ返るような香りが、夜風に乗って漂う。
    「はぁ…ヴァンパイアにはホント困ったもんだ…」
     瀬河・辰巳(宵闇の幻想・d17801)は、血の香りが呼び水のように吸血衝動に駆られるが、己の唇を嚙んで押さえ込む。
    「こっち向け! 奴隷落ちのクズヴァンパイア!!」
     残虐さを感じさせる敵を前にするのはあまりなく、悔しさと悲しみで胸がいっぱいになるが、今は悲しんでいるときではないと振り払う。
     湧き上がるのは怒り。
     クラレットが大声で叫び、レイファスから関心を抱かせることに成功したのか、気に入らないフレーズを含んだ言葉に不快げに眉根を寄せ視線を向けてきた。
     優志が同時にサウンドシャッターを展開し、戦場外への音が漏れない様にする。
    「弱き者が良く吠えるわ」
     レイファスはダメージと共に怒りを抱かせる。
    (「遅れた男性は絶対に助ける。何の罪もない、家族思いの父親を、殺させはしない」)
     怒りは、レイファスにぶつけるのだ。
     辰巳は普段の戦闘ではどこか冷めた風で感情も面に出ることは無いのだが、宿敵のヴァンパイアが相手とあって、珍しく少し出ているようだ。眼には微かに狂気の様なものが宿っているよう。
     ヴァンパイア灼滅の機会が訪れたのもあって、積極的になっているのかもしれない。とはいえ、警戒は怠らない。
    「あはは、お前の血でもっと赤く染めないか? きっと汚らしいだろうな! お前に灼滅って自由を与えてやるよ」
     黒髪に一房だけ違う髪が流れ、その奥にある赤い眼が深く色づいた。
     優志が右手中指に填めた月虹緋華から制約の弾丸を放つ。
    「下衆の極みだな、ヴァンパイア。貴様には奴隷という身分が似合いだよ」
     奴隷という言葉は、レイファスを苛立たせるキーワードらしく、口にされる度に睨みつけてくる。
     望んで奴隷になっているわけではないのだろうから、不快になろうもの。
    「下賎な下僕にも成りきれず、欲望のまま動く様はまるで獣ね。 いえ、命惜しさに上位の存在に自らの尊厳すら差し出した貴方には相応しい姿かしら?」
     祇鶴は手の甲に装着したWOKシールドを叩きつける。
    「蹂躙される者どもが囀りおるわ」
    (「爵位級ヴァンパイアの奴隷として力を奪われたヴァンパイアとはいえ、駅の階段で殺戮に耽るとは落ちたものじゃな。命を弄ぶ鬼畜よ、ここで成敗してくれる!」)
     レオンはヴァンパイアと直接相まみえる貴重な機会ながら、本来の意味で殺人鬼のような事をしているとは、と溜息にも似た感情を滲ませる。
     先に犠牲者が出てしまったのは無念なれど、せめてこれ以上の犠牲は出したくないもの。
    「こんなところで殺人ごっこなど、所詮は奴隷かのう?」
     レオンが中性的に見える面が嘲りを含んだ表情を浮かべて見せた。
     片腕を巨大化させると、その膂力を使い殴りつける。
     クラレットがダブルジャンプを使いながらレイファスの後方、階段へと向かう。
     ジャンプの一番高い地点に到達したとき、クラレットの背にぴったりとくっついていた猫姿のルビードールが更に高い地点を目指して跳躍した。
     目指すのは遅れてくる男性の保護。
     素早く立ち位置を変えようとするレイファスに、着地したクラレットは立ちふさがるようにして立ち、勢いよくクラレットロッドで殴りつけた。
     近くにレイファスの顔に近づき、囁くように語りかける。
    「お似合いの首輪ね。番犬ごっこ?」
     クラレットとレイファスの視線が交差した。
    (「よし、今の内に!」)
     その間に朱那と飛鳥がアイコンタクトを交わすと、レイファスを挟むようにして通り抜ける。
     朱那は階段下に留まり、飛鳥はルビードールの背後を守るように階段を駆け上がっていく。
     階段の上段に到達すると、ルビードールを送り出すと、階下にいるレイファスの元へ。
     レイファスを取り囲む様に前後、弧を描く包囲網。
    「エセ紳士サン、身なり整えてみても首輪は隠しきれないみたいダネ?」
     朱那が指で自分の頸元を示し、わざと苛立たせるような笑みを浮かべて見せる。惨劇の跡に思う所はあるが、今は秘めたまま。
    「黙れ」
     上手くいったと朱那は、にやりとして見せた。
     妖の槍を螺旋を描く様に捻り、その力で穿つ。
    「焼き尽くす! この炎で!!」
     飛鳥は参式斬撃刀に炎を纏わせ、降下の勢いも乗せるように、なぎ払う。
     炎の熱に煽られ、飛鳥のポニーテールにしている髪が幾筋か舞い踊る。
    「センスのない殺し方だな。頭詰まってんの奴隷野郎?」
     馬鹿にしつつも、辰巳の眼差しは油断なくレイファスの動作に注意を払う。
     バベルブレイカーをドリルのように高速回転させ、穿ち乍らねじ切ろうとする。
    「家畜をどのように扱おうと我の気分次第だ」
     何の感慨も浮かばぬわと、口にした。

    ●迷子の少女
     ルビードールは改札口をするりと通り抜けると猫変身を解き、男性の姿を探す。
     すぐに男性を見つけると、すうっと息を吸い込み、演技を始める。
    「お父さ~ん! お父さ~ん、どこに居るの」
     ルビーを見つけてと、わめきながら頼りなく歩く。
     ふと顔をを上げたとき、男性とルビードールの視線が合った。
    「お父さん、見つからないの。いっしょに探して」
     男性の子どもも同じ位の年齢なのだろう、困っている子どもが居れば、助けの手を差し出さないわけは無く。
    「お父さんとはぐれたのかな」
     鞄を提げた男性が近づいてくる。
    「トイレにいるかもしれないの」
     ルビードールが手を繋いで一緒に探してと、手を差し伸べる。
     男性はルビードールと手を繋ぎ、男性化粧室へと入っていく。
     そして、ルビードールは繋いでいた手を解くと個室に男性の背を押し込んで、座らせた。
    「な、何を…」
     状況が掴めない男性は、狼狽えるばかり。
     ルビーの様な瞳を輝かせ、初めての吸血捕食を行う。
     男性のタイを少し引っ張ると、ルビードールは背伸びをして、首筋に牙を突き立てた。
     甘露のような、その味。
    (「『お父さん』の血、おいしくって、たくさん吸っちゃいそう…♪」)
     舞い上がるような気持ちに引きずられそうになるルビードール。
    (「…ッ、時間もないのに、ダメ…!」)
     慌てて自制し、自分のすべき事を思い出す。
     記憶が曖昧になっている男性の目と口を布で塞ぐ。
    (「…でも。解放した後ごまかすのに、もう一回吸ってもいいかも」)
     初めて味わった味を名残惜しそうにしながら、と、仲間の元に戻るのだった。

    ●散る吸血鬼
     階段側にいる者達の方が受けるダメージが大きく感じたのか、レイファスがガンナイフの銃口から銃弾を発射する。
    「貴様のご主人様の望みを叶えさせてなどやらん」
     優志が手にする蒼焔白騎が非物質化し、霊的な部分だけを貫く。
     宿敵ではないまでも、ヴァンパイアに対し執着に似たものを抱くのは、大切な人に関わる者が闇堕ちし、ヴァンパイアとなる道を辿っているからかもしれなかった。
    「逃げられないようにするなら、そちらにも同じ事をしてあげるわ」
     祇鶴は死角から攻撃を仕掛け、足取りを鈍らせる。
     レオンは傷の具合を感じ取り、先ずはレイファスに近くある仲間達からと考え、清らかで優しさを纏う風を誘い、傷を癒していく。
     ご当地ヒーローであるクラレットがご当地名産のずんだ餅を銘に冠したずんだオーラを纏い、拳にオーラを集め、叩きつけるように連打する。
    「アンタの楽しみはココで仕舞いだ!」
     朱那の構えるガトリングガンから無数の銃弾が降りかかり、夜花の様に鮮やかにレイファスの命を削っていく。
    「どうしてこんなにも簡単に人が殺せるんだ! しかも、あんな惨いやり方で…!」
     階段を上がり降りてきた飛鳥は、見ているのだ。
     天井からも滴ってくる雫は、全て命の鼓動を刻んでいた人達のものだった。
     容易く振り落とす事など出来筈もない。ならば、それらの無念を少しでも返してやるために、力になろう。
     階下で嗤っていたレイファスの姿が眼に焼き付いて怒りがこみ上げる。
     参式光刃刀で切り裂く。
    「プライドが無駄に高いようだが、奴隷ってことはヴァンパイアの中での負け組ってことだろ」
     辰巳はレイファスに赤いオーラと共に逆十字を出現させ、引き裂こうとする。
    「何だと」
     気に障る言葉ばかりをぶつけられ、怒りがレイファスの思考を蝕んでいく。
     階段上からルビードールが現れた。
    「ルビー、ちゃんとできたの!」
     先ほどよりも艶ややかに見える瞳を輝かせ、仲間に知らせる。
     その知らせは、仲間の懸念を払拭した。
     同時に、レイファスの注意を引くこととなった。
     魔力の光線でルビードールを貫こうとするが、その前に立ったのは飛鳥。
    「危ない!」
     赤い強化装甲服に身を包んだ飛鳥が、代わりに受け止める。
     それからは、ダメージが澱のように蓄積していくにつれ、高い矜恃も徐々に砕かれていくようだった。
     祇鶴WOKシールドで殴りつけると、ターミナルの屋根を支える柱の一つに背をぶつける。
    「さて、次は私達に命乞いをするのかしら? 貴方がどれ程惨めに、卑屈に、無様に許しを請うのか興味はあるけれど…。 悪いけれど、卑しい狗は嫌いなのよね」
    「誰が…そのような、事をするもの…か」
     首輪を掴み、外そうとし乍らも、それは叶わずに、ずるずると頽れたのだった。
     レオンに傷を癒して貰い、静かな戦場を見渡す。
     優志はレイファスを見下ろし呟く。
    「奴隷でこの強さか…。『彼』はどの程度の強さなんだろうな…」
    「眠い…帰って寝たい…」
     辰巳は戦闘の時とは一転、動きが緩慢になっている。眠気が襲ってきているようだ。

     ルビードールは化粧室の個室に閉じ込めたままの男性を起こしに向かい、いまだ夢見心地の男性をゆっくりと引っ張って歩き、惨劇の跡や戦場となった場所より離れた場所で解放した。
    「あんまり遅いと、家族が探しにきちゃうから…早く帰ってあげて、ね?」
    (「ばいばい、お父さん」)
     その後ろ姿を、クラレットや朱那、飛鳥と共に無事で良かったという想いを胸に見送ったのだった。

    作者:東城エリ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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