『ガイオウガ、そしてスサノオ大神……。
大地を喰らう幻獣種共が「竜種」に目覚める日も、そう遠くはない……。
サイキックエナジーの隆起がゴッドモンスターさえも呼び起こしたこの状況で、未だ十分に動けぬとはいえ、日本沿海を我が「間合い」に収めることができたのは、まさに僥倖。
小賢しき雑魚共の縄張り争いも、王を僭称する簒奪者共の暗躍にも興味は無い。
我が望むは、我と死合うに値する強者のみ!
「武神大戦殲術陣」発動!
眠れる強者よ現れよ。武神の蒼き頂こそが、これより汝の宿命となるのだ!』
五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は灼滅者に挨拶してから、説明を開始する。
「アンブレイカブルによる『武術大戦天覧儀』が行われるのを確認しました」
『武術大戦天覧儀』とは、業大老一派が各地で行う武道大会だ。
その大会の試合の一つが、石川県は能登半島の海岸の、砂浜で行われようとしている。
「場所はこの辺りです」
と、姫子は地図をとりだし、一点を指差した。
「ここで夕方四時に待っていれば、どこからともなくアンブレイカブルがやってきます。
このアンブレイカブルを撃破してください」
幸い、周囲に人の気配はなく、灼滅者は戦いに集中できる。
現れるアンブレイカブルの名は、潰し屋のキョーコ。
元々は、暴走族に所属する20過ぎの女性。人だった頃は毎日喧嘩に明け暮れていていた。
そして喧嘩のスリルと興奮を求め過ぎるあまり、闇堕ちしてしまったのだ。
今も彼女は特攻服を着たまま、より激しいスリルと興奮を感じられる喧嘩相手を探しつづけている。
口癖は『楽しくやろうぜ』『喧嘩はいいなぁ』
ストリートファイターに酷似する技を使うほか、鉄パイプでロケットハンマーに相当する技も駆使する。
「潰し屋のキョーコは、灼滅者三人ほどの強さ。倒せない相手ではありません。ですが……」
姫子はそこで言葉を濁らせた。
「ですが、キョーコに止めを刺した灼滅者は『勝利によって力を与えられる』為、闇堕ちしてしまうのです。
キョーコを余裕を持って撃破し、さらに前もって闇落ちする仲間と戦う心構えをしていれば、連戦して闇落ちから救いだすこともできるでしょう」
もし、連戦するほどの余裕がなかったり、連戦しても仲間を救えなかった場合は、後日助けに行くことになる。
説明は以上のようだ。
「敵に止めを刺したものが闇堕ちしてしまうなんて……」
姫子は悲壮な顔をして俯いたが、顔をあげて微笑んだ。
「でも、皆さんなら、アンブレイカブルを倒した上で、闇堕ちした仲間も救ってくれますよね!
皆さんが解決してくれるのを、私は待ってます!」
参加者 | |
---|---|
巫・縁(アムネシアマインド・d00371) |
式守・太郎(ブラウニー・d04726) |
桃地・羅生丸(暴獣・d05045) |
天羽・梗鼓(颯爽神風・d05450) |
海藤・俊輔(べひもす・d07111) |
龍統・光明(千変万化の九頭龍神・d07159) |
桜木・心日(くるきらり・d18819) |
庭月野・綾音(辺獄の徒・d22982) |
●
絶え間のない波の音。そこに砂を踏む音が混じった。
砂浜で待ち伏せていた灼滅者たちに、特攻服を来た女が近づいてくる。長身で、茶に染めた髪を肩まで伸ばしている。彼女が潰し屋のキョーコだ。
灼滅者まであと数歩の距離まで来て、キョーコは立ち止まる。
灼滅者を見、目を細めた。
「アタシの相手は、アンタらかい?」
キョーコに、巫・縁(アムネシアマインド・d00371)が、頷く。カードを取り出し、
「そうだ、オレたちが相手をするぜ。――アスカロン、アクティヴ!」
封印を解除する。現れた巨大な剣、『斬機神刀アスカロン』を中段に構えた。
仲間達も縁に呼応して戦闘に移行。
天羽・梗鼓(颯爽神風・d05450)は昂りを抑えきれないといった笑みを浮かべていた。霊犬きょしをひきつれ、キョーコに接近。
「潰し屋のキョーコだよね? アタシもキョウコって名前なんだよ! あんたと会えるの、ワクワクしながら待ってたんだ!」
梗鼓は杖をスイングし、キョーコの顔面を打ち据える。魔力を流しこむ打撃。きょしも口に咥えた刀で主に加勢。
縁も姿勢を低くし相手の懐に飛び込む。WOKシールドを振りあげ、顎を打つ。
二人の攻撃を受けて、だがキョーコは目を輝かせる。
「良い攻撃だね。じゃ、礼だ。もっとワクワクさせてやんよっ!」
何処からか鉄パイプを取り出した。
次の瞬間、鈍い音がした。縁が脳天を強打されてしまったのだ。
桜木・心日(くるきらり・d18819)は後衛から状況を観察していた。
敵の攻撃の威力に、心日は一瞬息をのむ。だが、
「……でも、支えてみせるよ」
決意をこめた声で呟くと、小さな光輪を縁の元に集わせた。痛みを払い防御を固める。
心日が回復し守りを固め、縁と梗鼓が敵の攻撃を受け、他の者が攻撃。
が、攻撃のいくつかはキョーコに避けられてしまう。逆に反撃を仕掛けられ、灼滅者は消耗していく。
そんな中、庭月野・綾音(辺獄の徒・d22982)がキョーコへ語りかけた。あまり感情を見せない淡々とした口調で。
「喧嘩は嫌いだけど、道を極めようとするキョーコさんの事は、嫌いじゃない……だから、全力でいきます」
目を閉じる。息を大きく吸い――そして綾音は歌いだす。歌に秘められた魔力で、キョーコを襲う。
「……この歌? ……なんだ?!」
キョーコは鉄パイプを振りおろすが、灼滅者ではなく自らの足を打った。
催眠の力で、キョーコの攻め手が途切れた。
海藤・俊輔(べひもす・d07111)は影を操り、立体化させる
「タイマンじゃーないけどー、そのぶんスリルを味わってねー! とにかくー、まー、楽しくやろーぜー」
俊輔は影をキョーコの胴に巻きつかせ、強く強く締めつける。
締められつつキョーコはいっそう笑う。
「いいねえ。実に良い喧嘩だ!」
腕を強引に動かすキョーコ。俊輔の腹にキョーコの拳、抗雷撃が命中。俊輔は吹き飛ばされてしまう。
式守・太郎(ブラウニー・d04726)は、眼鏡越しにキョーコをみる。キョーコは俊輔に追い打ちをかけようとしていた。
太郎は、仲間――龍統・光明(千変万化の九頭龍神・d07159)へ声を飛ばす。
「龍統先輩、いけますか?」
「勿論だ。――蹴り斬る、九頭龍……龍牙双蹴」
太郎の言葉に応じ、光明が動く。片足を持ち上げ――蹴る! 見えぬ角度からの回し蹴りで、相手の肌を裂く。
太郎もマフラーをなびかせつつ、走り抜ける。キョーコの側面までくると槍の柄を握った。氷の塊を生成し、キョーコへ投擲!
桃地・羅生丸(暴獣・d05045)は畳み掛けるべく、鉄塊のような刀『鏖し龍』を持ち上げる。
「さぁ、楽しいガチンコ勝負を続けようじゃねぇか。いくぜ――ぶちかますっ!」
刀身に炎が宿った。バチッ! 火の粉が飛ぶ。
羅生丸は刀身をキョーコに叩きつける。激しい音。キョーコの膝が、大きく揺れた。
●
キョーコは確実に消耗している。が、彼女の瞳から闘志は消えていない。
「まだまだっ!」
キョーコは腕を伸ばす。鋼鉄の如くの拳が、梗鼓の額にあたる。血が零れた。
梗鼓の足元にきょしが立って、彼女を清らかな瞳で見あげた。瞳の力で梗鼓の血が止まる。
「アタシだってまだまだなんだからっ。――いくよ、全力でっ!」
梗鼓は相手の顔を殴り返す。翼の形した青い気を纏いながら、二発三発と連打。
拳に押されて、二歩後退するキョーコ。
羅生丸は砂の上を駆け抜け、さがるキョーコに迫る。
「こいつで叩き潰す!」
両手で鏖し龍の柄を握り、刃を横に振る。空気を裂く音。
そして、羅生丸の斬撃は、キョーコの腹から大量の血を流させた。
仲間達の奮闘に、士気を高められたのか、灼滅者はさらなる攻撃を仕掛けていく。
キョーコの傷は増えていった。
不意に。キョーコは傷だらけの体を回転させる。
遠心力をつけて鉄パイプで縁を殴打!
縁は軽く呻き、思わず片膝をついた。
それでも巨剣を杖代わりにして立ち上がる。魂を燃やして己を癒しつつ、仲間達に目で合図した。
――攻撃を放ったばかりの今がチャンスだ、と。
「任せてくださいっ!」
綾音は縁の合図を受けとり、キョーコの側面に回り込む。
綾音はクルセイドソードで斬りかかる。白光を放つ刃で、キョーコの胴に横一文字の傷をつけた。
キョーコは痛みに顔を歪め、そして怒りの声をあげた。
「やってくれたな!?」
綾音へ反撃しようと鉄パイプを振りあげるキョーコ。
しかしキョーコの腕を、俊輔が素早く掴む。
「やるのはまだまだここからだぜー!」
次の瞬間、キョーコの体が縦に回転し、背中が地面にぶつかる。俊輔が地獄投げを行ったのだ!
太郎はすかさず、直刃の直刀を変形させる。立ち上がれないでいるキョーコの体を切り刻む。直撃!
キョーコの顔が苦痛にゆがんだ。倒したか? 否。
キョーコは一分かけて立ち上がる。足がふらついていたが、
「ハハハハハ!」
キョーコは声に出して笑う。
「良い喧嘩だなぁ、マジ楽しいぜ!」
キョーコは地面を殴る。砂が飛び散り、衝撃波が発生。
衝撃を受け、灼滅者の前衛は体勢を崩す。
だが、心日が剣を掲げた。癒しの力を持つ風を解放する。
「皆、負けちゃ駄目だ!」
吹きすさぶ風が、前衛の者を回復させ、戦線を維持させた。
そして――光明が腕に気を集中させた。彼の顔に迷いは、ない。
「貴方の業、総餓の名において俺が担う……喰らえ創破」
光明は気を放ち――キョーコの命を断ちきった。
●
アンブレイカブル・キョーコが滅んだ次の瞬間。
「ぐ……これが……?」
光明が呻いた。
そして――光明の表情が変わる。普段の穏やかさが完全に消え、害虫を見るような眼差しで仲間達を見る。
体から発されるのは、肌が痺れそうなほどの濃密な殺気。
光明は闇に堕ち、六六六人衆として目覚めたのだ。
そして光明は、唇で薄く弧を描く。くくく、と冷たく笑った。
「久しい感覚だ……」
「何が久しいか知んねえが、ゴタクは後で聞いてやる。手荒にやらせてもらうぜ!」
羅生丸は光明の言葉を最後まで聞かずに突進。
そして、羅生丸は鉄鋼拳を光明の顔面へ突き刺す。加減の一切ない渾身の一撃。
だが、光明は冷笑を浮かべたままだ。
光明は体からオーラを放つ。そのオーラは九頭の龍の形をしていた。
オーラは空中を生き物の如く動き、羅生丸に迫る。
梗鼓は羅生丸の体を突き飛ばした。自分の体で光明のオーラを受け止める。
地面に倒れながら、梗鼓は顔をあげた。闇に堕ちた仲間へ声も枯れよとばかりに、叫ぶ。
「光明、聞こえるでしょ? 戻ってきて!!」
心日は倒れた梗鼓に駆けよった。掌を肌に当て、光で痛みを消し飛ばした。
心日は視線を光明に移し、語りかける。
「そうだよ、戦う前に約束したでしょ? 皆で一緒に帰ろうよ!」
手を握りしめ、懸命に呼び掛けた。
「帰る……?」
心日達の言に、眉をよせる光明。
綾音と太郎が頷いた。
「うん。帰ろう。……学園の皆も待ってるよ」
綾音は、普段あまり感情を見せない声と表情に、今は精一杯想いをこめて。
「龍統先輩を待つ人たちの為にも、必ず連れて帰りますよ」
と、太郎もいつになく力強い、腹からの声を響かせた。
縁も己の言葉を添える。
「ああ、仲間として連れ戻させてもらうぜ」
そして片足を半歩前に出す。掌を前に突き出し――オーラキャノン!
間髪いれず、綾音が神秘的な歌声で光明の耳と心を惑わし、太郎が灼滅刀でその身を切り刻む。
光明は相変わらず痛みを顔には出さない。が、眉を寄せた。
「効いているだと……こいつらの力が強い……? いや、我の中で……?」
「隙だらけだよー」
俊輔は光明が自問している隙に、影業で相手の首を絞めあげた。
●
灼滅者の言葉が届いたのだろう、光明の動きは精彩を欠いていた。
しかし、闇に堕ちた彼はそれでも強い。一進一退の攻防が続いた。
「その口を閉じるがいい、灼滅者」
告げてくる光明。
梗鼓がすかさず反論した。
「閉じないよ。だって、皆で帰るって決めたんだから!」
梗鼓ときょしは同時に飛びかかる。きょしの刀が光明の足を切り、巨大化した梗鼓の拳が腹にめりこむ!
攻撃を受けた光明は後方に跳んだ。着地と同時、
「さぁ、喰われろ!!!」
再び龍型の気を操る。標的は、後衛の――心日。
だが、気は心日には届かない。
駆けてきた縁が心日を庇ったからだ。
縁は仲間の代りに気の塊を受け止め――そしてうつ伏せに倒れた。
「……俺に構わず、あいつを……後少し、頼んだぜ」
縁が声を絞り出す。
心日は縁に応える。
「分かった。縁さんはゆっくり休んでて――ねえ、光明さん、目を覚まして!」
心日は光明へ顔を向けた。爪先で地面をたたき、影を動かす。
そして――斬影刃! 光明の肌を切る。
光明は負傷しつつも、
「少しはやるようだが……この程度で、我に勝てるつもりか?」
次の一分後には、絶・『形無し』を閃かす。
標的は、自分の正面に立つ、羅生丸。
見えぬほど早く動く刃に、羅生丸の腕や足から血が流れた。
しかし羅生丸は止まらない
「勝てるつもりか、だと? ――負ける気なんぞ、微塵もねぇ!」
血を零しながらも、相手の顎へ雷の力を籠めたアッパーカット!
光明は足をぐらつかせた。体勢を立て直そうとするが、
「龍統先輩を含めて誰ひとり欠けさせませんよ。学園に帰るのは皆で……そう決めたんですから」
「思い出して、龍統君? 学園のことを。学園の皆のことを。私達の間で決めたことを。覚えてるでしょ?」
太郎と綾音が言葉をかけた。
そのためだろうか? 光明が体勢を立て直すのが、一瞬遅れた。
その光明へ、太郎が先のとがった氷柱を放つ。綾音も非物質化した剣で斬りかかった。
はたして太郎の氷が光明の体を覆い、綾音の剣がダークネスの魂を損傷させる。
太郎と綾音、二人が与えたダメージは、敵を戦闘不能寸前まで追いやっていた。
しかし、光明はなお立っている。
「ま……だ……だ……一人ずつ潰し……」
片手を振りあげる光明。
が、俊輔が一瞬だけ早かった。
右の拳で顎を打ち、左で鳩尾を打ち、また右で顔面を打つ――閃光百裂拳。
俊輔の打撃に、光明の体から闇の気配が消えた。
「……ありがとう」
そう呟いて光明は砂浜に倒れる。
梗鼓はきょしとともに、倒れた二人の具合を確認する。
「二人とも深い傷はないみたいだね。よかった!」
顔をほころばせる梗鼓。
心日と綾音が光明を見ながら、会話を交わす。
「……勝てたのは、きっと言葉が届いたからだね……」
「うん。約束をちゃんと覚えていてくれたからだと思う」
仲間を救えてよかったと、二人で頷きあう。
俊輔は腕を組み何かを考えているようだ。
「……じーさんは間合いとか言ってたけど、今日の戦いも全部みてたのかなー?」
首をひねるが、答えは出ない。
太郎が皆に声をかけた。
「とにかく師範代の誕生も阻止できましたし、仲間を助ける事も出来ました。帰りましょう」
皆それぞれ同意し、歩きだした。倒れた仲間を手分けして運びながら、砂をざくざくと踏みしめて。
羅生丸も仲間に続いていたが、ふと戦場だった砂浜を振りかえる。キョーコを思いだしているのだろうか。
「毎日、ケンカに明け暮れる……か、まるで昔の……」
ぽつり呟く。溜息。そして羅生丸は再び、前を向いて歩きだした。共に戦った仲間達ともに、学園へ帰る路を。
作者:雪神あゆた |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年5月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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