ロードローラーだ!(満面な笑顔)

    作者:猫御膳

     白い車と黒い車が並走し、少し街から外れた道路を騒音を響かせ走り続ける。わざとマフラーを吹かせ、時には危険だと思えるような走行を見せながらも、決して止まらない。
    「そろそろ警察が来る頃だ! 先に行くぜ!」
    「おう! 後で追い抜いてやらぁ!」
     白い車が更にエンジンを吹かし、タイヤの跡を残して急発進させる。伊達に改造してないというべきか、騒音を街に響かせてあっという間に小粒ほどになる。それを見届けた黒い車も、ペダルをべた踏みして一気に加速させる。
    「迷惑だよね☆」
     そんな声が真横から聞こえる。馬鹿な。白バイでさえ追いつけないこの加速に追いつくような奴が居のかと、恐れるように真横を向けば、
    「良い夜だよね。死ぬには良い日だね♪」
    「ひ、へ……っな、何だテメェは!?」
     何て表現すれば良いのだろうか。簡単に言えるが、それはとても奇異として映る。とても簡単に表現すれば、
    「タンクロー……じゃなくて、ロードローラだ!」
     ロードローラーの上に人間の頭が乗った化物が信じられない速度で走り、自分の事を自己紹介するように楽しげに笑っていた。
    「というわけで、ロードローラーらしく潰すよ! どーんばきばき♪」
     わざとゆっくり追いつくように車体を後ろから潰される恐怖に、黒い車に乗っていた男は道路の一部になるまで泣き叫んでいた。

    「……まさか彼が? ……ああ、集まってくれて感謝する。大変な事が起きた」
     軽く自分の頭を支えるようにして、曲直瀬・カナタ(中学生エクスブレイン・dn0187)が教室に集まった灼滅者達に向き直る。
    「謎に包まれた六六六人衆『???(トリプルクエスチョン)』が動き、外法院ウツロギという灼滅者を闇堕ちさせた。その闇堕ちした彼は、分裂という稀有な特性を持つ六六六人衆となった。それも序列二八八位『ロードローラー』と名乗っている」
     その名前を聞いた所為か、闇堕ちや分裂という単語に反応したのか、それとも序列の高さに驚いたのか、灼滅者達は顔を強張らせる。
    「序列二八八位『ロードローラー』は、分裂する事で日本各地に散って、次々に事件を起こそうしている。その中の1つを、みんなで阻止して欲しい」
     そういうカナタは素早く地図を見せ、詳しく説明する。
    「深夜の12時頃、街から少し離れた場所で事件は起きる。このロードローラーは、騒音を撒き散らす一般人を轢き殺そうとしているので、これを利用しよう。本来、迷惑な騒音を響かせ走り回る一般人の代わりに、みんなが騒音を響かせ走り回る一般人のフリをして、ロードローラーを誘き寄せるんだ」
     それはどうやって?という灼滅者の質問に、カナタは任せる、と一言だけ返した。
    「それこそ自前で調達、借りる、頼み込む、等あるだろう。乗り物は自転車で構わない。ある程度の速度を出せるならば、最悪、自分の足で走っても問題は無いだろう。騒音さえ響かせれば、な。肝心のロードローラーだが、最初に一般人を轢き潰そうとする。しかしこの行動は、灼滅者であるみんなには、大した被害には成らないのだ」
     あくまでも一般人を轢き潰そうとするからだな、とカナタは説明する。
    「故に、それがチャンスだ。その轢き潰そうとする攻撃に対して、こちらは負傷する事も無く、一方的に反撃出来る。但し、騒音を撒き散らす一般人を演じきれなければ灼滅者とバレて、普通に戦闘に戦闘になってしまうだろう注意してくれ。相手は序列二八八位『ロードローラー』だ。不利になる可能性が高い」
     そこは上手く演じた方が有利になるので、頑張ってくれと言う。
    「このロードローラーだが、殺人鬼、龍砕斧、影業のサイキックを使う。くれぐれも言うが、相手は六六六人衆だ。気をつけてくれ」
     こんな事になるなんてな……と、カナタは遠い目をする。
    「今回のロードローラーは分裂体である為、救出も交渉も出来ない。灼滅するしか無い、とハッキリ言っておく。みんなは全力を持って、灼滅して欲しい」
     それが彼に繋がる道かもしれないから、とカナタは最後に呟くのだった。


    参加者
    緋梨・ちくさ(さわひこめ・d04216)
    八川・悟(人陰・d10373)
    桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)
    ソフィ・ルヴェル(カラフルジャスティス・d17872)
    ハレルヤ・シオン(ハルジオン・d23517)
    川原・香代(異邦のモノ・d24304)
    黒揚羽・柘榴(死を招く蝶は宵闇に舞う・d25134)
    響塚・落葉(祭囃子・d26561)

    ■リプレイ

    ●これが彼等の為である
    「そのリアウイング良いな! 何処で着けたか教えろよ!」
    「バーカ、これは俺専用オリジナルだっつの!」
     真夜中の街から少し離れた場所に、明らかに違法改造と分かるような2台の黒と白の車がアイドリング状態のままされており、2人の青年がお互い車のエンジン音に負けないようにと、怒鳴り合うように話している。一般的に言うならば、先ずは迷惑的行為。しかし、此処では注意するも人も居ないのをいい事に、好き放題しているのが日常だった。
    「この間なんか警察がよ……ぉ……」
    「急にどうし……」
     その2人がガクッと体を崩し、体を車に寄り掛からせたまま地面に座り込む。表情を見る限り、急に寝始めたのだ。
    「ちゃんと寝たようですね」
    「上手くいったのじゃ」
     そこへ桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)と響塚・落葉(祭囃子・d26561)が近寄り眠ってるのを確認し、後方へと声を掛ける。彼女達が眠らせるために魂鎮めの風を使用したのだ。
    「僕は見張っておくからよろしくね!」
    「ボクもそうしようかあ。よろしくねえ」
     そう元気良く宣言した緋梨・ちくさ(さわひこめ・d04216)は、みんなとは少し離れた場所で注意を払い、ハレルヤ・シオン(ハルジオン・d23517)は自転車に乗ったまま笑いながら周囲を警戒する。
    「少しの間なので、ご容赦くださいね」
     川原・香代(異邦のモノ・d24304)は仲間と一緒に手際良く縛り上げ、2人の青年に猿轡を噛ませる。そしてエンジンを切った改造車を尋常では無い力、怪力無双で持ち上げて夕月と一緒に目立たぬようにと隅へ運び始めた。
    「あっという間だったね」
    「簡単に済むのは良い事だ」
     あっさりと一般人を避難出来た事に拍子抜けた事に、黒揚羽・柘榴(死を招く蝶は宵闇に舞う・d25134)は言う。その言葉に八川・悟(人陰・d10373)は、柘榴と落葉と同じ騒音器を手にしたまま答える。
    「後はエクスブレインが言ったようにウツロギさん……12時頃にロードローラーを誘き寄せるだけ、ですね」
     今回の事件を引き起こそうとしている、六六六人衆・序列二八八位『ロードローラー』になった人と知り合いであるソフィ・ルヴェル(カラフルジャスティス・d17872)は、少しだけ深呼吸をする。
    「……予知の時間まで暇じゃのう」
     あっという間に片付いてしまったので、まだ約一時間ほど時間がある事に落葉は呟き、目の前の改造車に視線を移す。我が更に……、とぼそりと呟く声が聞こえる。
    「え、何々? 何かするの?」
     車に対して何も手出しをする気が無い夕月も、面白そうな雰囲気に惹き寄せられるように近づく。
     12時までの約一時間の間に、ここはこうした方が、はいせんすな改造、私のブランの方が、ふふふー、これって良いのかな、という台詞が聞こえ、真・改造車になったのは言うまでも無い。
    「よーし、気合い入れてうるさくするぞー!」
    「ウツロギさんの暴走を止めれば、それはダークネスの陰謀を挫くことにつながるよね」
     何事も無かったように、ちくさと柘榴が気合を入れ直して、全員が自転車に乗るのだった。

    ●六六六人衆・序列二八八位『ロードローラー』
    「では、ソフィさん、乗り心地は保障できませんけれど行きますね」
    「あ、はい。よろしくお願いします、香代さん」
     既に仲間達は騒音をかき鳴らしながら自転車を走り始めている。それこそ多種多様であり、大変騒がしい。
     ちくさはチリンチリンパフパフと鳴らし、フルヘルメットを着けさせたビハインドの僕のヒーロー(通称レッド)を後ろに乗せてタンバリンを振り回させ、爆竹まで撒いている。そして更に、ちくさはちくさで何か歌おうか悩んでいる。
     ハレルヤはギラギラ派手に飾り付け改造施した自転車を皆の自転車と競うように乗り回し、ラジカセと仲間の騒音器を繋げてノリノリに爆走している。
     夕月は籠に入れた音楽プレーヤーから大音量で音楽を流し、同じく頑張って漕ぎながらも歌を熱唱している。
     悟、柘榴、落葉もまた騒音器や音楽プレーヤーで騒音をかき鳴らし、一台だけ空き缶を括りつけてカンカンカンと喧しい。
     ソフィは香代の自転車に後ろに乗せて貰い、ライドキャリバーのブランメテオールの走行音を録音したものを大音量で流し、鍋を叩いている。
    「校歌も歌うよ!」
    「夜中に騒ぐのって楽しいねえ!」
    「うるさくしてごめんなさい!」
    「魔法使いとしては乗り物は箒を使いたいんだけど……灼滅者だってバレちゃったらダメだからね。我慢我慢……」
    「我の落葉号も、この特攻服も格好良いであろう!?」
    「公序良俗に反してますよね……」
    「これ、傍目にはかなり滑稽な気はしますね」
    「…………」
     そんな騒音や感想等が入り混じり、真夜中の道路へ吸い込まれて行く中、地響きのような音が聞こえてくる。その音に、灼滅者達の目付きが変わる。
    「来たか」
    「おお、ほんとにろーどろーらーじゃ……! かっこういいのう」
    「ロードローラー、工事現場以外で見るの初めて」
    「これは……予想より大分大きいかもです」
     後ろを少しだけ振り向いた悟達が見たものは、タンデム式のロードローラー。それが凄い勢いで迫ってくる姿が見えたのだ。それを見た者は結構暢気な事を言っていた。
    「くっそ迷惑だよね☆」
     見えたと思えば、凄い地響きを起こしながら灼滅者達の後ろに瞬時に着くロードローラー。常人に近い感覚の持ち主が居れば、悲鳴を上げたであろう。ロードローラーの上に、虚の一文字が描かれた目隠しをした顔が乗って、楽しそうに喋っているのだから。
    「いくら格好良くともろーどろーらーに我の落葉号が追いつかれるじゃと……?」
    「死ぬには良い日だね♪ みーんな纏めてロードローラーらしく潰すよ!」
     驚愕に染まる落葉の顔を見て更に加速し、8人とサーヴァントを潰そうとするロードローラー。その大きさが仇となったか、ロードローラーには見えていなかった。轢かれる直前に、笑っていた者が居たという事に。
    「……?」
     明らかに轢いた感触が変だと思ったロードローラーは首を傾げる。
    「助けてえって言いながらロードローラーに引き潰される悲しい一般人……だと思ったあ?」
     下から聞こえる声がしたと思った瞬間、ロードローラーの体の一部が斬り裂かれる。首だけ振り向けば、照明で明度を確保して、妖の槍を始めとした殱術道具を持ったハレルヤ。
    「ざあんねん、その立派なタイヤをすっぱり切り裂いてあげる……」
     灼滅者達を轢いたまま方向転換しようとするロードローラーの下が微かに動いたと思えば、
    「外道院さん初めまして! しね!」
    「大きい機械ってわくわくしますよね! て、今はそんな事を言ってる場合じゃないか」
    「我の一撃を喰らうが良い!」
    「さあ、量産された道具なんて、スクラップにしてあげるよ!」
    「アスラ、出番です。いきなさい」
    「先ずは一撃」
     更にロードローラーの巨体の下から、一斉に反撃するちくさ、香代、夕月、落葉、悟。レッドの霊撃と共に押し返すように拳で連打し、片腕を異形巨大化させて2人揃って同時に殴り上げ、空いた隙間からどす黒い殺気を無尽蔵に放出させて殺気と共に黒い影が巨体を包み、足に纏わせた影業で蹴り上げ、縛り上げる。そして召喚された霊犬のティンとアスラが二刀の斬魔刀を交差させて斬り刻む。
    「変身! カラフルキャンディ!」
     そして飛び出したソフィがブランメテオールに飛び乗り、スレイヤーカードを解放させて変身する。
    「彩り鮮やかは無限の正義! ソフィ参ります!」
     そのままキャリバー突撃し、自身は擦れ違い様に霊魂を直接破壊するような斬撃を放つ。
    「ロードローラーなんて面白いよね。けど、学園の先輩の姿をしてるってのは面白くない」
     だからさっさと壊れてくれたら嬉しいかなぁ、と言いながら構える夕月に、ロードローラーはシュールな笑顔を返すだけだった。

    ●分裂体
    「硬い」
     悟は足に纏わせた影業を刃の放つが、傷を残すが弾かれてしまう。最初に灼滅者達の反撃は確かに全部命中した。しかし、ロードローラーは回復して防御力を高めて重機の名に恥じないぐらいに耐久力を誇っていた。
    「だったらその装甲ごと壊すのみです!」
    「その通りじゃな!」
     落葉が先に動き、天葉華斬を非物質化させ、敵の霊魂と霊的防護だけを直接破壊するような斬撃を放つが、巨体に似合わない動きで避けられてしまう。だが、その避けた矢先にソフィに捕まり、持ち上げられて道路へと叩き付けられて大爆発を起こす。
    「見ず知らずのロードローラーを殴るなんて気が引けるよー」
     そう言いながらも満面な笑顔でロードローラーに飛び乗ったちくさが頭を締め、殴ると同時に零距離で射撃する。その姿を餃子を持っているレッドは霊障波を放ちながら、首を振っていた。反撃とばかりにハレルヤを影で飲み込み、そこへロードローラーが大きく跳躍しながら圧し潰そうとする。
    「ハレルヤちゃん!」
     夕月は大声を出しながら激しく渦巻く風を生み出し、割り込ますように風の刃を放つ。同時にティンも六文銭射撃でロードローラへと放つ。
    「その中身ってどうなってるのお? ちょっと見せてよ」
     相殺された影から抜け出し、無理矢理剥がして暴いちゃうんだからあ、と笑いながらロードローラーに踏み込み、ハレルヤは大きく振り被って正確な斬撃で切断する。
    「魔力よ! 敵を貫け! 枷となりて戒めよ! 制約の弾丸!」
     動きが鈍ったロードローラーへ柘榴は魔力を編み込み、動きに制約を加える魔法弾を指輪から放ち貫く。
    「分裂体でこれだけの強さなら、本体の強さは一体……厄介この上ないですね」
     脆そうな場所と言えば顔だと判断した香代は、容赦無く手にバトルオーラを集中させて放つ。それを器用に顔だけ動かしてロードローラーは避けようとするが、途中で曲がって側頭部に命中する。
    「うっとしいなぁ。1人ずつ圧し潰そう♪」
     そう決めたのか悟へと向きを変え、道路を激しく揺るがして迫る。それを悟が避けようとするが足元から影業の触手が伸びて縛り付け、ロードローラーに圧し潰されてしまう。
    「グッ……! この、距離なら全力で行く」
     圧し潰されながらも鋼鉄よりも硬い腕で殴り上げ、ロードローラーは穿かれてまま動きを止める。良く見れば、タイヤの部分が石化している。
    「どう? 動けないでしょ?」
     ロードローラーが圧し潰した時に、魔力を編み込んで石化をもたらす呪いを柘榴が放ったのだ。
    「今なら動けないから、全力で!」
    「分かったのじゃ!」
    「行きます」
     くすくす笑っていた柘榴が指示を飛ばすと、落葉が散華落葉から魔力を雷へと変換させながら迸らせながら走り、殴ると同時に一気に放つ。その雷光が消える前に香代が影業を伸ばし、刃となって斬り上げる。
    「どうせなら分裂体じゃなくて、本体が出て来てよ先輩」
    「キミの身体の一部、お持ち帰りして宝物にしたいんだけどなあ。裂いても部品残らなそうだよねえ」
    「その悪意、蹴り砕きます!」
     夕月、ハレルヤ、ソフィが同時に動き、己の片腕を異形巨大化させて叩き潰し、死角に飛び込んで顔を斬り裂き、最後にご当地パワーが宿った跳び蹴りが炸裂し、爆発して終わったのだった。

    ●暴走の果て
    「あー、やっぱり残らなかったあ。ざあんねん」
     分裂体だからか、ロードローラーの姿は何処にも無い事に、ハレルヤは残念そうに言う。
    「コードとかも繋がってなかった。何にしてもあの顔めっちゃむかつく」
     戦闘中に何処か本体と繋がってないかと見ていたちくさも、小さく呟く。その横でレッドは餃子をご主人へと返している。
    「武器との同一化、そんなのもあるのか……」
     何度思い返してもシュールな姿に、六六六人衆の底知れない力に思わず呟く悟。
    「分裂体とはいえ、行動指針がよく分かりませんね」
    「正に暴走だよね」
     それを答えられるのは本人だけかもしれません、と香代は思いながら溜め息をつき、やはりダークネスは許せないと思う柘榴。
    「満面な笑顔……何だか恐ろしかったです」
     それもその顔が知り合いなのだから、ソフィの言葉に何人かが頷く。
    「とりあえず今回の事件も終わったし、帰ろう」
     その言葉にボロボロになった自転車を持って帰る一同。その時に香代が、ふと思い出す。
    「そういえば、何か忘れている気がしますけれど……気のせいですよね?」
     一方その頃。
    「馬鹿な事をして居た人達へ、お仕置きターイム」
    「なかなかきゅーとな車になったのう。やばいの、我の絵心、ぷろ級じゃの」
     今回で迷惑行為をしてた人には夕月が、そしてその改造車には落葉が笑顔で制裁を与えていたのだった。

    作者:猫御膳 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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