餃子を襲う黄色い重機

    作者:星原なゆた

     千葉県八街市にて、ひっそりと活動をしている怪人がいた。八街餃子怪人である。
     彼は愛する餃子を世間に広めるべく、今日も駅前やスーパーでピーナッツ入りの餃子を振る舞っていた。
     そんな充実した1日の終わりに、事件は起きた。
     アジトに帰る八街餃子怪人が近道として空き地を通り抜けようとした丁度その時。黄色いロードローラーが八街餃子怪人に向かって突進してきたのだ。
    「ぎゃあああああっ! 何故だ!? 何故俺を追いかけるっ!?」
     ロードローラーは答えない。ただ全力で怪人を潰しにかかる。逃げる怪人、追うロードローラー。
     空き地は激しい戦闘の場と化した。しかし、その戦闘もやがては終わる。
    「つ~かま~えたっ☆」
     ロードローラーの言葉と共に、地面に残されたのはぺちゃんこになった餃子怪人。潰された頭部からはピーナッツ餡がはみ出ていた。

    「謎に包まれた六六六人衆『???(トリプルクエスチョン)』が動いたようです」
     園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)は教室に入るなり、険しい顔でそう言った。
    「彼は、特異な才能をもつ灼滅者『外法院ウツロギ』さんを闇堕ちさせ、分裂という稀有な特性を持つ六六六人衆を生み出しました……」
     その六六六人衆こそ、序列二八八位『ロードローラー』だ。二八八位の序列は『クリスマス爆破男』が灼滅された後、空席となっていたのだが、特異な才能を持つ六六六人衆の誕生により、その空席が埋まったのだろう。
    「序列二八八位『ロードローラー』は、分裂により日本各地に散り、次々に事件を起こそうとしています。皆さんには、この分裂したロードローラの起こす事件を解決して欲しいのです」
     槙奈は灼滅者達にそう告げると、手元の資料をめくった。
    「みなさんには、八街餃子怪人をひき殺そうと追い回すロードローラーと戦ってもらう事になります。分裂したものとはいえロードローラーは強敵です。……ですが、餃子怪人と共闘することができれば、有利に戦うことが出来るはずです」
     八街餃子怪人は命の危機に陥っている。うまく話をすれば怪人との共闘も夢じゃないだろう。
    「ロードローラーは殺人鬼と影業のようなサイキックで攻撃してきます。ポジションはクラッシャーです。一方の八街餃子怪人は、ご当地ヒーローのようなサイキックを用いて戦います。こちらもポジションはクラッシャーで、戦闘力は灼滅者3人分といったところでしょうか……」
     ロードローラーが餃子怪人を狙う理由は全くわかっていない。しかし、ダークネス同士の戦いに介入することで漁夫の利を得ることができるだろう。
    「ロードローラー撃破後、余力があれば……八街餃子怪人も灼滅することができるかもしれません。ですが、怪人をどうするかについては、みなさんにお任せしますね」
     槙奈はそう言うと資料を閉じ、灼滅者目を順に見つめた。
    「異質な戦いになるとは思いますが、みなさんなら立派にやり遂げて下さると信じています。どうか、お気をつけて」
     そんな槙奈の言葉に見送られ、灼滅者達は教室を後にしたのだった。


    参加者
    白・彰二(求ム雨過天晴・d00942)
    編堵・希亜(全ては夢の中・d01180)
    桜川・るりか(虹追い・d02990)
    御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)
    白石・めぐみ(祈雨・d20817)
    牙島・力丸(風雷鬼・d23833)
    宵凪・空是(尽きぬ感謝を灯に代えて・d24646)
    タロス・ハンマー(ブログネームは早食い太郎・d24738)

    ■リプレイ

    ●狙われた餃子
    「これは何と言うか、実にシュールな光景だな」
     これが宵凪・空是(尽きぬ感謝を灯に代えて・d24646)の第一声だ。視線の先にはロードローラーに追い回されている八街餃子怪人。何て珍妙な修羅場だろう。
    「やたら餃子怪人襲ってるみてーだけど、ロードローラー……っつーか、ウツロギって何か餃子に恨みでもあんのかね……?」
     白・彰二(求ム雨過天晴・d00942)も眼前の異様な光景を見つめてそう言った。
     何はともあれ、あの重機を灼滅するのが今回の目的だ。灼滅者達はスレイヤーカードを解除し、餃子怪人とロードローラーの間に割って入った。だが、黄色い重機は止まらない。
     このままでは怪人と会話することもままならない状況だ。
    「いっぽーてきに襲うって……全くヒデーことしやがる!」
     彰二は二刀のチェーンソー剣に炎を纏わせ、迫り来る重機にレーヴァテインを繰り出した。編堵・希亜(全ては夢の中・d01180)もパッショネイトダンスで攻撃するが、どちらも手ごたえは軽い。そんな中、ロードローラーの前に御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)が立ちはだかった。
    「何十分の一だか知らないけど。そうか、此れがオマエかウツロギ。……なら存分に殺し合おうぜ」
     白焔が愛用の短刀を無造作に持ち、零からの急加速にて重機の死角へと入る。振り下ろされた斬撃により重機の動きが多少鈍った。その隙に仲間が餃子怪人との会話を試みる。
    「えっと、大丈夫です、か…?」
     白石・めぐみ(祈雨・d20817)が隣を走る怪人に声をかけた。
    「うおっ!? 何故こんな所にうら若き乙女が!?」
     走りながら驚く餃子怪人。逃げる事に必死すぎてこちらの存在に気付かなかったようだ。背後には謎の重機、周りには見知らぬ若者。怪人は摩訶不思議な現状に当惑した。そんな中、希亜も走りながら怪人に告ぐ。
    「……あの重機は、何故か貴方を狙っています」
    「そのようだな。狙われるような事をした覚えは無いのだが……」
     怪人も困惑しつつ、そう言った。
    「……私達が手を貸します。……ここで倒しておきませんか?」
    「わたし達は餃子を守りたいの、です」
     希亜とめぐみがそう告げると、空是も上手く話を続けた。
    「布教のためにも、ここで死ぬ訳にはいかないだろう?」
     怪人心をくすぐるフレーズだった。八街餃子怪人の目に光が宿る。
    「布教……そう、その通りだ。俺には重大な使命がある! こんな所であんな奇人重機に殺されてたまるかッ!!」
     餃子愛をみなぎらせる怪人に灼滅者側の食いしん坊達も身を乗り出す。
    「よう、餃子の大将。あんた面白い餃子を振舞って回ってるんだって? 食い物には目が無いんだ。助太刀するから俺にも食わせてくれよ」
     とタロス・ハンマー(ブログネームは早食い太郎・d24738)が言えば、桜川・るりか(虹追い・d02990)も目をキラキラさせながら怪人を見つめた。
    「ボク、餃子大好きだよ。だから、ここはひとつ協力して切り抜けて、後で餃子の布教手伝ってあげる。それで、ついでにピーナッツ餃子おごって?」
     共闘の申し出なのか餃子のおねだりなのか。まあ、ほぼ餃子のおねだりだろう。だが、そんな2人の様子に餃子怪人は涙を浮かべて喜んだ。
    「おお……! お前達、ピーナッツ餃子に興味があるのか!」
    「なんつーかアレ、美味かったんだよ。手を貸す理由はそんだけだけど」
     牙島・力丸(風雷鬼・d23833)にそう告げられると、餃子怪人は己のガイアパワーが沸き立った……ような気がした。

    ●迫り来る黄色い重機
     いまだかつてこんなにピーナッツ餃子が愛され、求められた事があっただろうか? 地道な活動が実を結んだのかもしれない。そうか、時代はようやく俺に追いついたのだ!
     怪人は溢れ出る涙を拭い、逃げる事を止めた。迫り来る黄色い重機と対峙する。
    「お前達の餃子愛……しかと受け取ったぞ! ならば共に倒そう、あの奇人重機をッ!!」
     何はともあれ、ピーナッツ餃子を褒められた八街餃子怪人は物凄くやる気を出した。怪人は八街の大地を蹴り、跳躍する。高く舞った餃子怪人はロードローラーの後部に手を掛けつつ地面に着地。そのまま背負い投げの要領で重機を大地に叩きつけた。爆音と共に重機が土煙に包まれる。
     見事なご当地ダイナミック。これが共闘の合図と相成った。
    「風雷鬼さまのお通りだぜ!」
     怪人に続けとばかりに力丸も重機に飛び込んだ。激しい衝突音と共に、鬼の腕と化した力丸の右腕が重機の外装をめり込ませる。
    「翻るは銀、刻みて剥ぎて曝露せよ!」
     空是が撓(しな)る刀身を巧みに操り、鉄輪の接続部を斬りつける。しかし、高速回転する鉄輪との摩擦で火花は散れど、切断とまではいかなかった。
    「……なるほど、確かにロードローラーは武器、です、ね」
     めぐみは仲間にソーサルガーダーを施しつつ、苦々しい顔で呟いた。
    「ロードローラー……やっかいな相手だな」
     その身を己と同じ名を持つ神話の巨人のように変貌させたタロスは、ドーピングニトロを己に施す。過剰摂取した薬物が肉体を暴走へと誘(いざな)っていく。
    「み~んなペチャンコにな~れ☆」
     軽い口調でそう言いながら、空き地をどんどん圧し固めていく黄色い重機。轟音と共に高速で灼滅者達を追いまわす。
    「このローラーって工事現場にあったら工事がはかどりそう……」
     るりかは螺穿槍を繰り出しながら、思わずそんなことを呟いた。
    「楽しそうだな、ウツロギ。俺の相手をしろ」
     暴走する重機を蹴り止め、白焔がニヤリと笑う。突き進む重機により白焔の足元に激しい土煙が舞った。素早い身のこなしで間合いを保つ白焔。その鋭い眼光は、まるで死に踊る殺人鬼のようだ。だが黄色い重機は何も言わない。ただ、卑下た笑みを浮かべて白焔のことを見下ろしている。
    「話は通じないか。……まあいい」
     白焔は吹き抜ける風のように駆け抜け重機の死角に回りこむと、先ほど空是が狙った接続部分を斬りつけた。けたたましい金属音が空き地に響くと共に、重機の顔が険しい表情へと変わっていく。禍々しい黒い殺気が重機から無尽蔵に放出される。
    「やべっ、攻撃くるぞ!」
     彰二の声に力丸、めぐみ、そしてカイが素早く反応した。最前列で戦う仲間を庇い、殺気をその身で受けとめた。

    ●戦いの行方
     タロスは流れる血を拭うと己の腕を巨大な砲台へと変え、重機に向けて死の光線を撃ち放った。
    「ッ……どうだ、そろそろ動けなくなったんじゃないか?」
     眼前の重機は外装をベコベコにへこまされ、鉄輪の回転を外装が妨げていた。だが、ボロボロなのは灼滅者達も同じ。戦場にいる皆、満身創痍だ。
    「つ~ぶ~す~……ッ!」
     金属が擦れる甲高い音を立てながら、再び重機が動き出す。
    「……まだ、動けるの?」
     驚きつつも希亜は神秘的な歌声で重機を催眠状態へと陥れる。
     戦いは拮抗していた。仲間の支援により前衛のダメージは最小限に押さえられているし、ステータス異常に対する対応も的確に行われている。灼滅者側の形勢は決して悪くない。ただ、ロードローラーへの決定的なダメージが与えられないのだ。
    「ならば……これはどうだッ! 我が八街の力、受けてみよッ!」
     餃子怪人が軽やかな跳躍で重機に付いている顔を蹴り飛ばす。強烈なキックを受けた重機は体勢を崩し前輪が浮いた。しかし重機は横転する事なく、地響きを立てて着地する。
    「つかまえた~ッ!」
    「何だとッ!?」
     重機から伸びた影の触手が怪人を捕え、ローラーの軌道上に怪人を押し付けた。そのまま潰す気なのだろう。重機が轟音を立てて前進を始める。
    「這い寄るは影、喰らいて惑いて想起せよ!」
     空是の足元で揺れる影。それが大きく伸びて重機を丸ごと飲み込む。その隙に怪人が重機の魔の手から抜け出した。
    「怪人さん、大丈夫ですか?」
    「ああ……大丈夫だ。気遣い痛み入る」
     めぐみが癒しのオーラで怪人を癒す中、再び動き出そうとする重機を力丸が阻止した。
    「うぐ……ッ!」
     鬼の右手で黄色い重機を受け止め、歯を食いしばる。重さに耐える為についた片膝は地面との摩擦で血が滲む。このままでは埒があかない。このままでは相討ち必至だ。
     そんな中、力丸の目に映ったのは前衛の3名。
    「……早く、頼んだぜお前ら!」
     その言葉に、るりか、白焔、彰二が頷いた。
     長剣に炎を宿するりかと細身のチェーンソー剣に炎を纏わせる彰二。2人が同時に駆け出した。
    「っし、ぶった斬ってやんよ! 行くぞ、るりか!」
    「まかせてっ! ……せーのっ」
     るりかの掛け声と共に、2人は重機を両側から叩き斬った。息の合った連携により噴き上がった炎が黄色い重機を包み込む。猛火に包まれた重機は堪らず叫喚した。2人が狙ったのは前部の鉄輪。灼滅者達の度重なる攻撃により、頑強だった鉄輪は崩壊した。
    「これで終いだ。逝け」
     そう言い放ったのは音もなく重機に乗り移っていた白焔だ。その煌青色の瞳に映るのは、重機に付いた後頭部。
    「いつの間、に……?」
     重機が声の方へと顔を向けた瞬間、躊躇いの無い斬撃が重機を襲った。
     断末魔の叫びは、無い。
     声を上げる間もなく頭部を裂かれたロードローラー。鋭い刃は重厚な重機をも斬り裂いていく。声を失くした重機は、やがて完全に崩壊し、跡形もなく霧散した。

    ●共闘の末
    「皆のおかげで奇人重機を倒す事が出来た。本当に感謝している、ありがとう」
     八街餃子怪人は灼滅者に深々と頭を下げ、礼を言った。そんな怪人に空是が語る。
    「今後、人に迷惑をかけないことをピーナッツ餃子に誓えるなら、俺はお前を討とうとは思わないし、布教の手伝いをしてもいいと思っている」
    「……俺を討つ? お前達、もしかして……灼滅者なのか?」
     餃子怪人の表情が硬くなる。思いも寄らぬ怪人の態度に、灼滅者の間にも緊張が走った。
    「もしかして、知らずに共闘してた……とか?」
     彰二が恐る恐る問うと、怪人は大きく頷いた。そして、真剣な顔で口を開いた。
    「まさか本物を拝む日が来るとは……。いや、風の噂では聞いていたのだが、遭遇した事がなかったものでな。そうか、お前達は灼滅者か! こりゃ愉快!」
     餃子怪人はそう言うと豪快に笑った。どうやらこの怪人、物凄く情報に疎いらしい。まあ、ロードローラーの件が無ければ『八街餃子怪人』なんてマイナーな存在、こちらも気づかなかったわけで。お互い様ということか。
    「……せっかくなので、餃子を食べさせてくれませんか? ……ピーナッツ入りって珍しいですし、食べてみたくて。……美味しければ知り合いに勧めますよ」
     希亜がそう言うと餃子怪人は力強く頷いた。
    「ああ、もちろんだ! ぜひ貰ってくれ! 味の保証はするぞ!」
     そう言うと怪人は餃子が入ったパックを差し出した。餃子怪人たるもの、餃子の常備は常識らしい。
    「ピーナッツ入り餃子、初めて食べました……」
     めぐみが感慨深げに呟いた。
     浜松餃子が好きなめぐみだが、ピーナッツ入りも案外美味しい。何というか、餃子の新境地? とにかく、ご当地愛溢れる味がした。
     るりかと力丸も餃子を頬張り笑みを浮かべる。その隣では白焔も満足げだ。
    「よう、餃子の兄弟。じっちゃばっちゃの土産に持ち帰り用の餃子もくれねえか?」
     餃子を振舞ってもらったことに味を占めたタロスは、餃子怪人の肩を組むと親しげに土産用の餃子をねだった。
    「ああ、もちろんだ! 好きなだけ持っていくといい」
     ピーナッツ餃子を愛でる者は皆同志だとばかりに餃子怪人は大盤振る舞い。おかげで灼滅者達は、思う存分餃子を堪能する事が出来たのだった。
     そんな怪人との別れ際、力丸が怪人に向かって声をかける。
    「じゃあまたな。今度はこんなフレンドリーじゃないかもだが」
    「ああ! もしも戦う日が来たら、その時は全力でいかせて貰うぞ!」
     力丸の言葉に怪人は笑ってそう答えた。
     和やかな雰囲気の中、本来ならば敵であるはずの餃子怪人に見送られ、灼滅者達は八街の空き地を後にした。
    「悪くない奴だったな。百聞は一見に如かずと言うが、ダークネスと言っても一概に悪いと決めつけるものではないな」
     帰路の途中、空是が今回感じたことを口に出した。その言葉にるりかは頷く。
    「あんな餃子愛なら、ご当地ヒーローに生まれ変われそうな?」
     八街餃子怪人と灼滅者。ロードローラーにより奇妙な出会いをした両者だが、もし次に会う機会があるのなら、それは彼が事件を起こした時かもしれない。
     そう思うと、何とも複雑な気分になってくる。
     ロードローラーが餃子怪人を襲う理由はわからない。だが、餃子を襲う黄色い重機がある限り、灼滅者の奇妙な戦いは続くのだろう。

    作者:星原なゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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