殺戮印のラストパーティーにようこそ

    作者:志稲愛海

    「さすがは天才俺様チャン! あははー、ちょー綺麗に首ちょんぱー」
     ケラケラと狂ったように嗤うのは、パンクファッションに身を包んだ、血塗れの少年。
     だが彼を赤く染めるその大半は、返り討ちにしたばかりの、序列六百番代の六六六人衆の血であった。
    「あーもっともーっと、強い敵が俺様チャンのトコに遊びにくればいーのにぃー! 興奮するほど刺激的なコト、起きないかなぁー!」
     そうポイッと、今殺したばかりの輩の生首を投げ捨てて。
     少年――序列五四二位の有末・七兎は、イカれたように笑いながら、夜の地下駐車場を歩き出そうとした。
     だが……その時だった。
    「んー?」
     ――……ごろごろ……ごろごろごろごろ……!!
     静かであった駐車場に響き始めた、『何か』の音。
     七兎は足を止め、きょとんと、仄かに灯る照明の先に視線を向けたが。
     この音が何であるのか、すぐに分かるのだった。
     それは。
    「わぁっ、ロードローラーだぁっ!」
     ロードローラーだ!!
     そして理由こそ分からないが、七兎は察する。
     この『殺戮第一』と書かれたロードローラーの標的が、自分であるということ。
     それにこのロードローラーが、先程殺したヤツなんかとは比べ物にならないほど、ヤバイということを。
    「なにコレー!! もしかして俺様チャンちょーピンチってワケ!? まじウケるんですけどぉー!」
     これはかなりヤバイ状況だと、本能の警笛が脳内で鳴り響く中。
     七兎はギャハハッと嗤いながらも、迫るロードローラから逃亡をはかろうとするが。
    「え、ちょっ!? めちゃ早ッ!?」
    「ぺちゃんこになっちゃえばいいと思うよ☆」
     超スピードで、ごろごろー! と追いついたロードローラーが。
    「なにこの最期、ちょー面白いんですけどぉー!! さすがは俺様チャン……ぎゃあっ!」
     ぷちっと、イカレ野郎をぺちゃんこにしたのだった。
     

    「あの下衆いイカレ野郎の未来予測をするのも、これで三度目だね」
     飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)はそう表情を一瞬険しくするも。
     灼滅者達に集まってくれた礼を告げ、そして解析した未来予測を語り始める。
    「謎に包まれた六六六人衆『???(トリプルクエスチョン)』がね、動いたようなんだ。みんなの中にも知り合いがいるかもしれないね、彼は灼滅者『外法院ウツロギ』を闇堕ちさせて、分裂という稀有な特性を持つ六六六人衆を生み出したんだよ」
     そしてその六六六人衆こそ、序列二八八位『ロードローラー』。
     二八八位の序列は『クリスマス爆破男』が灼滅された後、空席となっていたが。特異な才能を持つ六六六人衆の誕生により、その空席が埋まったと思われる。
     そして分裂により日本各地に散った序列二八八位『ロードローラー』は、次々に事件を起こそうとしているという。
     そこで今回は、この分裂したロードローラの起こす事件を皆に解決して欲しい。
    「ロードローラーはね、倒したダークネスのサイキックエナジーを利用して、さらなる分身体を生み出そうとするんだ。だからその前に、狙われたダークネスの撃破をお願いするよ」
     そして今回、ロードローラーに狙われたダークネスとは。
    「もしかしたら過去に対峙したことがある人が、中にはいるかもしれないけど……六六六人衆の序列五四二位、有末・七兎(ありすえ・ななと)だよ」
     七兎は過去、闇堕ちゲームと灼滅者襲撃で、未来予測に引っかかったダークネスだ。
     いずれも逃亡を許しているが、今回はそんな七兎を灼滅する、またとない機会でもあるという。
     だが、それには条件がある。
    「七兎を10分以内に撃破しないとね、ロードローラーが現われちゃうよ。七兎は下位の六六六人衆と戦った後で、手負いの状態なんだけど。もしも七兎を撃破できなくて撤退に失敗した場合はね、背後からロードローラーがきちゃうから」
    「有末とロードローラーに、挟まれるカタチになってしまうわけか」
     集まった灼滅者のひとり・綺月・紗矢(小学生シャドウハンター・dn0017)の言葉に、遥河は頷く。
     制限時間は、10分。
     その間に七兎を撃破しなければ、ロードローラーが現われて。
     攻撃対象をロードローラーに変更した場合は、七兎には逃走されてしまうという。
     この状態でもロードローラーと戦えるが、状況的に勝利はほぼ不可能になるだろう。
     七兎はこれまでと同じ、鋼糸と妖の槍を得物とし、六六六人衆のサイキックも使ってくる。手負いとはいえ、頭の回るトリッキーな動きで翻弄してくる強敵であることには間違いない。
    「制限時間の条件はあるけどさ、みんなも強くなってるから。今度こそ、あのフザけたイカレた野郎をぶちのめして、灼滅して欲しいんだ」
     遥河の言うように、これまで好き放題暴れ回っているイカレ野郎を、今度こそ灼滅者の皆の手で仕留めるためにも。
     そして、ロードローラーに力を与えないためにも。
     事件解決を、お願いしたい。


    参加者
    周防・雛(少女グランギニョル・d00356)
    宮廻・絢矢(はりぼてのヒロイズム・d01017)
    森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)
    楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)
    西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)
    神園・和真(カゲホウシ・d11174)
    御印・裏ツ花(望郷・d16914)
    アレックス・ダークチェリー(ヒットマン紳士・d19526)

    ■リプレイ

    ●薔薇の花を、赤く塗ろうよ
     血塗れ兎は無邪気に嗤う、ボクと楽しくはねようよ、って。
     どっちがどっちの首を先に刎ねるか……よーいどんの競争だよ、って。

     早くおいでこっちだよ、と。まるでそう誘っているかの様に。
     薄暗い地下駐車場を、チカチカ不規則に照らす灯り。
     そしてその先で、狂った様に嗤うのは……血に塗れたイカレ兎。
    「興奮するほど刺激的なコト、起きないかなぁー!」
     六六六人衆、序列五四二位の有末・七兎は、持っていた生首をポイッと投げ捨ててから。ごろごろと床を転がり、べちゃりと血の海に沈んだそれを見て、ケラケラと愉快に嗤い転げる。
     ……その時だった。
    「サフィーロントン? あの日あの時から貴方を探していたの、ずっと会いたかった」
     七兎に声を掛けたのは、ずっとイカレ兎を探していた、フランス人形のような少女ピエロ。
     だが優雅にスカートを摘む周防・雛(少女グランギニョル・d00356)が、スッとその顔に仮面を宛がえば。
    「悪戯が過ぎたアリス……今この場で、貴方をぶちのめして差し上げます」
     オベロンとティタニアを従えた少女ピエロは、その瞬間、殺戮人形へと成り変わる。
     以前、怪我を負わされた相手。いや……それよりも何よりも。
    「……闇に濡れたムッシューは、案外悪くなかったわ。だけど、もう仕舞にしませう」
    「ん? えーっと誰だっけ……あ! 前に俺様チャンが闇堕ちさせた、むっしゅーチャンの恋人チャンかー!」
     そう、大切な人を闇堕ちさせた、因縁の敵。
     そしてこの男と因縁があるのは、雛だけではない。
    (「ロードローラーに潰される最期もなかなかにお似合いだけどね? 横取りされるのはちょっと癪だもん」)
     宮廻・絢矢(はりぼてのヒロイズム・d01017)のまさに目の前にいるこの六六六人衆は、数度相対しては取り逃がしている相手。
    「今まではやられっぱなしだったけど、今日こそ終わりにしてやるよ有末」
     絢矢のそんな言葉に、七兎はケラケラ愉快そうに嗤う。
    「てか、ちゃーんと今度こそ上手く狙ってよぉっ? ほら、ココね! 俺様チャンの頚動脈!」
     この男に待つ未来は、死あるのみ。
     だが、もうすぐ現われるロードローラーによる轢死ではなく。自分達の手で、引導を渡したいから。
     それに直接七兎に過去関わってなくとも、少なからず借りがある者もいる。
    (「こいつには音音が狙われたのだったか」)
    (「部長の音音が来れなかったので代理で参りました」)
     正月早々この六六六人衆に、知り合いの殺雨・音音が命を狙われた事件も起こっている。
     その時は彼女を救う事に成功したものの、七兎は逃がしていた。
     でも。
    「随分暴れて下さったようですが、それも今日までですわ」
     最期を見届けて差し上げます、と。
     御印・裏ツ花(望郷・d16914)が、手にしていた上質な扇子を上品に閉じれば。
    (「ロードローラーの邪魔をするついでにけじめをつけさせてやるとしよう、殺人鬼の流儀でな」)
     森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)も、ロードローラーが来るその前に終わらせるべく、携えた得物に手を掛ける。
     七兎を倒すまでのタイムリミットは、10分。
    (「限られた時間……与えられたチャンスを無駄にするわけにはいかないな!」)
    (「さて、今回の標的は……パンクスか。ロードローラーに邪魔をされないうちに仕留めなければな……」)
     ロードローラーに力を与えぬ為にも、ギャハハ! と下品に嗤うダークネスを確実に葬り去るべく。
     神園・和真(カゲホウシ・d11174)は、自らの姿に良く似た漆黒のビハインドと並び、七兎を見据える。
     物静かにみえるが、冷徹な色を湛えるその瞳で。
     アレックス・ダークチェリー(ヒットマン紳士・d19526)も、当然自分のではない高級外車の陰から姿を現しつつ。
    「やあ、パンクス。殺しに来たよ」
     サングラスをクイッとした後、イカれた血塗れパンクスへと狙いを定める。
     やって来るロードローラーは、眼前の六六六人衆よりもずっと危険すぎる存在だという。
    「ヤダ……ロードローラーのインパクト強過ぎで有末とかキャラ薄過ぎ……?」
     ッてかウツロギサン何ヤッてンの、と。
     そんな七兎を轢き殺すロードローラーこと外法院・ウツロギの行動に、そうツッコミを入れつつも。
     楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)は煽るように言いながら、改めて七兎へと視線を向けて。
    「えー、ンじャ主役のキャラが薄いケド、Let'sパーリー?」
    「じゃあ貴様チャンが、俺様チャンの引き立て役ガンバッてよねェっ! あっさり死なないでよぉー?」
     猛犬の煽りに憤る事もなく、キャッキャと無邪気にはしゃいでみせる七兎も。
    「せっかく灼滅者チャン達が来てくれたんだからぁ……チョー刺激的にもてなさないとだよねぇー!」
     先客の血でべっとりと濡れた妖の槍を構え、赤に染まった鋭い糸を戦場へと張り巡らせて。
    (「我等が怨敵、彼奴等を狩るのは我等だ」)
     その怨敵の赤に刺激されるかの様に、彼奴等の同士討ちなどさせるものか、と。
    (「その血潮を味わうのは我等よ……ク、ヒ、ヒハハハ!」)
     西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)は、狂気と殺意の色に支配されたその目を爛々と輝かせる。
     今度は七兎の血で、危うい正気の裏で激しく蠢く狂気を、一層満たす為に。

    ●兎さんのイカレ遊戯
    「鬼チャンこちらー、手の鳴る方へー!!」
     ギャハハー! と手をパンパン叩きながら、狂った様に戦場を跳び回る七兎。
     そんな七兎へといち早く、握る『露蛍』を振るうのは煉夜。限られた時間の中で少しでもダメージを重ねるべく、青褪めた槍身から瞬火を灯す様に、凍てつくつららを撃ちだせば。
    「テメェ様チャンと、クルクルトチ狂ッた追ッかけッこしてる暇は無ェンだなァ!」
     高そうな車を豪快に踏み台にしつつ、縦横無尽に跳ねる兎の脚を止めるべく。死角から相手の急所へと目掛け、漆黒の三つ首の犬を解き放ち追従する盾衛。
     さらに七兎を包囲すべく位置を取りながら、裏ツ花が異形巨大化した腕から凄まじき威力の打撃を繰り出すと同時に。
    「お疲れのところ悪いねーなんて全く思ってないけど、僕こう見えて執念深い方なんだよね」
     連戦を強いられることになった相手を、今度こそ確実に仕留めるべく。
    「どんな方法を使ってでもあんたには死んでもらう」
    「サァ、アソビマショ!」
     絢矢が番えた弓から魔法の矢が撃ち放たれ、雛の攻撃精度をより一層上げた刹那。
     ――オイデマセ、我ガ愛シキ眷属達! そう2体の殺戮人形と共に素早く距離を詰めた雛の魔力を込めた一撃が、七兎を内部から爆破すべく振るわれて。
    「ク、ククク……我等が怨敵、我等を満たすはその血潮……!」
     ただひたすら怨敵・六六六人衆だけを、そのギラギラした血の如き色の瞳で追いながら。
     同じ彩を孕む血色の炎を纏う『闇器【闇焔】』の刃で、死角からの斬撃を繰り出す織久。
    「おっとー、ととっ!?」
    「あんまりちょろちょろ動かれても困るからね。まずはその足を止めさせてもらうよ!」
     その一撃を、おちょくるような声を出しつつもひょいっとかわした七兎へと。たたみこむ様に見舞われたのは、同じく隙をついて放たれた和真の、鋭き黒死斬の一撃。彼のカゲボウシも皆を護るべき前へと踊り出て、痺れる様な衝撃を繰り出して。綺月・紗矢(小学生シャドウハンター・dn0017)も皆をサポートすべく天魔光臨陣を施せば。
     その間にすかさず間合いを縮めたアレックスが、死角から七兎の脚目掛け、握るガンナイフの刃を鋭く振るう。
     だがこれでもかと飛んでくる黒死斬の衝撃を大きく跳躍してかわすと。
    「残念ー! そんな攻撃、六六六人衆チャン達といつも遊んでる俺様チャンにはお見通しィィー!!」
    「!!」
     灼滅者達の首を刎ねんとするかのように、殺人的に研ぎ澄まされた糸を戦場中に張り巡らせる七兎。
     灼滅者数人を纏めて絡め取るその結界の威力は、さすがに高いが。
    「えー、その、何だ。グズグズしてッとトンでもねェ客が来るンで、さッさと死ンでくれッかネ?」
    「新しいお客チャン? 賑やかでむしろ、いージャンすげージャン!」
     黒き獣の牙と咢の掌から成した拳を叩きつけ、迸る霊力で縛り上げんと仕掛ける盾衛に、七兎はそう嗤う。
     その招かざる客・ロードローラーに自分が轢かれ死ぬ運命にあるなど、七兎は知らない。いや、思ってもいないだろう。
     裏ツ花はそんな彼へと、冷気のつららを撃ち出しながらも。
     ふと、思うのだった。
    (「それにしても、潰されて呆気無く終わる敵なのかと。哀れな最期を遂げるなど、こんなこと誰が予想したでしょうね……序列の高さは嘘をつきませんのね」)
     この強敵である序列五四二位の七兎を、あっという間に轢き殺すという、序列二八八位のロードローラー。
     そしてそんな高序列の六六六人衆が、元学園の灼滅者とは皮肉な気もする……と。

    ●血塗れ裁判の判決
     七兎を追い詰めるべく、まさに今戦いが繰り広げられている、夜の地下駐車場。
     だが血が飛沫き、衝撃がぶつかり合っているはずのこの場所は、異様なくらいに静かだ。
     それは、一般人達に被害が及ばぬように動く、灼滅者の存在があるからである。
     戦場外で衝撃音を打ち消しているのは、トランドの展開しているサウンドシャッター。
     そして少し前に、この駐車場に車を停めているらしき一般人の姿があったが。
     ウツロギが闇堕ちしてしでかした事件だから放っておく訳にもいかない、と。駆けつけたいろはの殺界形成が効いて、以降、一般人が新たにこの場所を訪れる可能性は限りなく低くなって。
    「精々頑張って潰しあってくださいな? うふふ」
     灼滅者とダークネスの激突にそう呟きながらも。最初にこの場所にやって来た一般人も、白雛のパニックテレパスにかかり、難なく追い払うことができた。
    「魔砲少女・真剣狩る☆土星! 土星に代わって灼滅DEATH♪」
     さらに、そう気合を入れる璃理が、ロードローラーの接近をいち早く察知できるよう、警戒にあたって。
     七兎と相対している仲間達が戦いに集中できるよう、しっかりとサポートに徹していた。
     だが……戦闘支援に回っている流希は、目の前の戦況に得物を構えつつ呟く。
    「制限時間は10分か……。それまでに倒しきれれば良いのだがな……」
     首を斬った六六六人衆との戦いで、若干手負いではあるが。
     残り制限時間が半分を切った今も、相変わらずまだ七兎はピョンピョン戦場を跳び回っている。
     とはいえ、これまでの攻撃で、ダークネスがダメージを負っているのは確か。
     効率良く傷を重ねるべく状態異常付与を試み、灼滅者達はあくまで、守りよりも攻めの姿勢で戦う。
    「新しい武器だけど、使いこなせてみせる!」
     ビハインドに仕草だけですかさず指示を出した後。和真が振り翳すのは、車輪状の得物。そして罪業を断ち切るその輪から巨大な法陣が展開され、仲間達に、体力回復と状態異常効果を破壊する力を施し、紗矢と共に連携し戦線を支えれば。
    「ヒャアアアアッ!」
     戦場に響く鋭い奇声。同時に七兎へと見舞われたのは、アレックスのガンナイフによる刺突と、無駄のない体裁きから繰り出される蹴り技のコンビネーション。
     その格闘攻撃を受け、七兎は半歩ほど一瞬後退するも。
    「んじゃ……これは俺様チャンの、ほんの気持ちの倍返しだよぉっ!」
    「!」
     槍の妖気で成した強烈な冷気のつららで、アレックスの身体を貫く。
     だが灼滅者達も負けてなどいない。
    「兎だけあって逃げるのは得意なのかもしれないが……そこまでだ」
     足は貰うぞ、と言の葉が紡がれた刹那。
     煉夜の死角からの一撃が、敵の急所を断たんと繰り出されて。
    「はァいテメェ様チャン、コッチよォン!!」
     冷静に戦況を見極め、さらにその足を鈍らせるべく。
     駐車場の柱の死角から放たれた盾衛の変幻自在な長巻の刃が、七兎からさらに激しい血飛沫を噴出させる。
     時間も僅かとなったが、七兎の体力も底が見え始めている。
     だが……そんな状況にも関わらず。
    「ちーゃんと首を刎ねるか、心臓に確実にぶっ刺さないとぉっ、俺様チャンいつまでも死なないよぉっ! なにやってんだよぅっ、ほらもっとしっかり狙わなきゃー!」
     血塗れになりながら両手を大きく広げ、ノーガード状態でケラケラと嗤い続ける、イカれた六六六人衆。
    (「死ぬその時まで笑っているのかしら」)
     裏ツ花はその奇行に、理解出来ませんと首を振りつつ、巨大な腕型の得物で七兎を殴りつけて。呼吸を合わせ連携した雛が巧みに張り巡らした糸が、彼の赤をさらに濃くさせる様を見ながら。
     ふと、こう問いかけてみる――何で笑うの、と。
     消えれば機もなくなるから。せめてその思いを知ってから葬りましょう、と。
     そんな裏ツ花に、七兎はギャハハッと相変わらず下品に嗤いつつも答える。
    「どっちが首を刎ねるか刎ねられるのかなんて、最っ高にスリル抜群なゲームじゃんッ! それに……やっと死ねるかもしれないなんて思ったらぁ……あっという間にイッちゃうくらい、ぞくぞくワクワクするでしょ! ねぇ、だから俺様チャンの心臓に、早く得物ぶっ刺しちゃってよぉっ! じゃないと、俺様チャンが全員の首を刎ねちゃうんだぞぉ!!」
     完全に思考がぶっ飛んでハイテンションになっている七兎の返答に、やはり理解ができないと裏ツ花は再確認した後。
     残り時間もごく僅かとなった今――彼を灼滅すべく、仲間達と集中砲火を浴びせにかかる。
    「クク、ヒヒヒ……! 今こそ、俺の仇敵を血祭りに……!」
     そんな織久の狂気に呼応する様に、家族の血を吸いし相棒【闇焔】の炎が一気に荒ぶって。
     振り下ろされた死を孕む断罪の刃が、傷を癒す事すら、怨敵に許しはしない。
     そして七兎が自分達を撹乱するべく放つ言動にも、決して手を緩めることなく。絢矢が生み出した冷気の鋭撃が、その太腿を容赦なく貫いて。
    「一緒に潰されて更地にされる前に、ここでアンタを倒す!」
    「かかったな……」
     もうそろそろ、ロードローラーが現われる時間。
     和真やカゲボウシ、確りと敵の様子を見極めていたアレックスも、一気に決めるべく七兎へと攻撃を重ねて。
    「そんなこと言わないで、もっともぉっとずっと殺し合おーよぉっ!!」
    「急ぎ幕引きを。新たな厄介事が訪れる、その前に」
    「ま、テメェ様チャンにも色々あンだろうケドよ。オレらも時間が無ェンだわ。ンじャ、あばよ」
     裏ツ花の握る槍から凍えるほどの冷気のつららが解き放たれて。そわそわ別に気掛かりがある様子ながらも、盾衛も、死角からの鋭い斬撃で七兎の急所を断ちにかかる。
    「……斬る」
     六六六人衆には、殺人鬼として引導を。
     煉夜は攻撃を浴び続けながらもなお立ち続ける七兎へと、防御ごと引き裂く斬撃をお見舞いして。
     己から噴出した血に興奮し高笑いつつも、強烈などす黒い殺気を七兎が戦場に解き放った――その直後だった。
    「貴様との縁も今日まで。茶会は、終わりだ!」
    「!」
     七兎によって、闇に堕とされた過去。
     その因縁ごと斬り捨てるかの様に、孤影のティアーズリッパーが放たれた刹那。
     彼の攻撃とまさに絶妙のタイミングで……七兎自身が、今までそうしてきた様に。
    「お茶会を血で彩り、孤影を闇に堕としたその罪、酌量の余地なし。よって判決は死刑、斬首刑に処す」
     ――アクタ・エスト・ファーブラ!
     この芝居を、罪深き者の斬首刑で幕を下ろすべく。
     自らが成す糸と傍に在るドールズ達を信じて、イカレ兎の首を刎ねにかかる雛。
     そして、ザンッと確かな手応えを感じ、バッと戦場に大量の赤の色が満ちるも。
    「ハ……ハッハァッ!! チョー惜っしいー!! ハズレー!!」
     咄嗟に身を翻した七兎は、右腕を綺麗に刎ね飛ばされながらも尚、愉快に嗤う。
     だが――因縁の相手を仕留めるべく、すかさず踏み出したのは、絢矢。
    「殺す虫は選ばなくちゃいけない、人間を殺す蟻だっているんだから。虫どもに殺されるなんて、あんた最高にイカしてるぜ?」
    「……ッ!」
     そして、誰かから似合うと貰った花柄のストールを、鋭き布槍に変えて。
    「さようなら、悪い人」
     七兎の望み通り、鋭利な冷気のつららが。その心臓をモロに貫いたのだった。

    ●イカレ兎のエピローグ
     七兎が灼滅者達の手で、自らの血の海に沈んだ直後。
    「「ろ、ロードローラーだッ!?」」
     地下駐車場で思わずハモる、盾衛や和真達、灼滅者達の声。
     時間こそなんか止まったりとかしてはいないが、つい叫びたくなる不思議。
     ゴロゴローッとやって来たのは、緑色のロードローラーであった。
     だがこのロードローラーは、ウツロギの本体ではないという。
     しかも連戦で戦って勝てる相手でもない。
    「……外法院先輩、どこ行っちゃったんだろうなあ」
     絢矢は七兎を探しウロウロしているロードローラーを覗き見つつ、そう呟いて。
    「六六六人衆を炙りだすには都合が良いとはいえ、こちらの知らないうちにどれほど目的を達成しているのかと考えると不気味だな」
     煉夜も、ゴロゴロと地下駐車場を彷徨うロードローラーの様子を、静かに窺った。
     ――そして。
    「アデュー、イカレ兎」
     雛は孤影とともに、因縁の敵の最期をしかと見届ける。
     ぐしゃりと、当に息絶えた七兎の上を。
     ロードローラーが無慈悲に通過していった、その様を。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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