負の遺産と人狼少女

    作者:波多野志郎

     東京、夜の公園。
     その少女は、ようやく探り当てた『答え』に、目を輝かせた。
     彼女の手には、幾つものの手書き情報が記されたメモ帳がある。
    「わかったずら! ガッコウを拠点とする灼滅者の組織があるんだべ!」
     ついに真相を突き止めた少女は、メモ帳を大事にズボンのポケットへと仕舞い込む。
    「あの大きさのスサノオを倒せるような人達だべ。きっと、みんなも――」
     そこまで言いかけ、不意に少女の表情が一変する。
     すばやく身構えた視線の先、ジャングルジムの上に、不穏な人影があった。

    「な、何者だべ!?」
    「問われたのならば、返さねば礼儀に反するでしょう」
     そう恭しく下げられたのは、獅子の頭だ。
     背に翼を持つ、白き衣を身にまとう獅子頭人身の『悪魔』は、少女へと堂々と名乗った。
    「ソロモンの悪魔が、百識のウァプラ。以後、お見知りおきを――」
     ガシャンと手甲をならし、ウァプラが右手をかざす。少女は素早く地面を蹴った。
    「――そして、お別れです」
     ゴォ! 吹き荒れるウァプラのフリージングデスに吹き飛ばされて少女が地面を転がる。
     しかし少女は、手足を白く凍てつかせながらも素早く起き上がり、後方へ跳んだ。
     ウァプラはジャングルジムの上から跳躍し、少女を追いすがる。
     圧倒的な力量差を感じ取った少女は、逃げの一手を選択した。
     そのままコンクリート製の階段を跳び下りて、着地しようとする――。

    (「――なんだ、べ!?」)
     しかし、階段の上でウァプラが急停止する。その獅子の顔が目を細め、口元をゆがめる――知性ある獣の笑みに、少女が気付いたその時だ。
    「これ以上、武蔵坂に力をつけさせるわけにはいきません」
    「!?」
     少女が、着地した瞬間に崩れ落ちる。その膨れ上がる気配は、もはや人間――否、灼滅者のそれではない。闇堕ちしスサノオへと変じていく少女を見下ろして、ウァプラは囁いた。
    「あなたは、スキュラの結界の実験体としてあげましょう」
     少女が、悪魔の意図に気付いた時にはもう手遅れだ。
     少女が降り立ったそこには、ウァプラが解析したスキュラ結界が施されていたのだ。
     どこから追い込み、どう追いやれば『そこ』へ少女を誘導出来るのか?
    『百識』の本領を発揮したソロモンの悪魔は、自身の計算通りの結果を見届けた。

    「ふむ、やはり、範囲も効果時間も不完全ですね。まだまだ、研究の予知がありますか」
     ウァプラの言葉は、完全に研究者のそれだ。興味は過程と導かれた結果にあり、その後には無関心だった。
    「後は、武蔵坂に任せておけば、すぐに灼滅してくれるでしょう。そして、仲間を殺された人狼が、武蔵坂に合流する事は無い」
     ウァプラは踵を返す。背後で鳴り響くスサノオの咆哮に、小さく笑みと共に言い捨てる。 「ええ、非の打ち所のない良い作戦です」
     どちらに転んでも、自身の手をこれ以上汚す必要はない――まさに悪魔。
     それは、狡猾な自画自賛であった。

    「――――」
     湾野・翠織(小学生エクスブレイン・dn0039)の状況説明に、越坂・夏海(残炎・d12717)は硬く拳を握り締める。まだ見ぬ少女へと施された悪魔の所業への憤りが、そこにはあった。
    「自分が言える事は、まずはスサノオに闇堕ちした彼女への対処っす」
     集まった灼滅者へ、翠織はそう改めて切り出す。その表情は、むしろ感情を押し殺した静けさがある。
    「幸い、闇堕ちした人狼の子がいる公園には、人通りは少ないっす。そこに行って、戦って止めて欲しいっす」
     今ならばまだ、救える可能性はある。しかし、救う事に執着して逃してしまえば、多大な被害が起こる――それは、避けなくてはいけない。
    「戦場となるのは、夜の公園っす。光源とかは必要はないっす。ただ、ESPによる人払いはしておくに越した事はないっす」
     闇堕ちし、スサノオとなった少女は戦力は未知数だが、ダークネスだ。決して、油断できる相手ではない。
    「……あの女の子は、どうやらこっちに接触しようとした時に、ウァプラに襲われたらしいっす。ソロモンの悪魔らしい、婉曲的で悪趣味な手を使ってきたっすよ」
     翠織の表情が、歪む。押し殺し切れなかったものが、翠織の口元からあふれ出した。
    「――ふざけんなっす。あんな奴の、思い通りにさせる謂れはないっす」
     それは、この場にいた全員の総意だ。だからこそ、灼滅者達は挑むのだ。スサノオへと堕とされた、少女を救うそのために……。


    参加者
    枷々・戦(異世界冒険奇譚・d02124)
    逢瀬・奏夢(番狗の檻・d05485)
    布都・迦月(幽界の深緋・d07478)
    越坂・夏海(残炎・d12717)
    リューネ・フェヴリエ(熱血青春ヒーロー修行中・d14097)
    本間・優奈(無色の灰・d14886)
    榊・セツト(たまに真面目・d18818)
    マルテン・サイト(心の刃は砕けない・d23200)

    ■リプレイ


     東京、既に初夏の気配すらし始めた夜の公園に視線を走らせ、枷々・戦(異世界冒険奇譚・d02124)は殺界形成を展開した。
    「あの子がいるのは、向こうみたいだぜ?」
     戦の言葉に、仲間達もうなずく。公園の奥からする獣の咆哮が、耳に届いたからだ。越坂・夏海(残炎・d12717)もまた、握った拳に力を込めて言った。
    「ああ、しっかりと助けないとな」
    「あれ、だよな?」
     リューネ・フェヴリエ(熱血青春ヒーロー修行中・d14097)が、足を止めて呟く。コンクリート製の階段の下に、その純白の獣が確かに居た。
     白い炎のようなオーラをまとった、真っ白な狼だ。その真紅に燃える瞳が自分達に明確な殺気を向けてくる――その姿に、逢瀬・奏夢(番狗の檻・d05485)は目を細めた。
    (「なるほどな、そういう事か」)
     一瞬、背筋に冷たいものが走る。奏夢も遠目にだが、スサノオを見た事があった。だからこそ、わかる――予兆やエクスブレイン未来予測がなければ、これが完全なスサノオであるのか? 闇堕ちしたばかりの灼滅者なのか? 区別などつかなかったろう。
     ならば、倒す以外の選択肢はなかったはずだ。あのソロモンの悪魔、ウァプラの計略通りに。
    「結界は、もうないようね」
     マルテン・サイト(心の刃は砕けない・d23200)は、スサノオの足元を見て呟いた。人狼の少女を闇堕ちさせたスキュラ結界は、本当にわずかな時間しか発動しないものだったようだ、そうマルテンは意識を切り替える。
     今は、目の前の少女を救う事に、全力を尽くさなくてはいけないのだ。
    「聞こえますか。私達はあなたを救出しに来ました。手荒な手段を取りますけど、私達を信じてください。あなたは、今のあなた自身と戦ってください。お互いに頑張りましょう」
     マルテンはそう鏡を差し出して姿を確認させようとするが、相手は警戒して身構えたままだ。本間・優奈(無色の灰・d14886)も、スピーカー片手に言葉を重ねる。
    「あーあー、うん。こちらは武蔵坂学園、貴様が探していた灼滅者の組織だ」
     優奈の目、否は灼滅者達の目は眼前のスサノオではなく、その中にいる人狼の少女へと向けられていた。言葉の意味もわからないだろうスサノオの視線を受けて、優奈は真っ直ぐに言い切る。
    「当方は人狼達と手を取り合うため、これより貴様の救出作戦に入る。ダークネスは大人しくタコ殴りにされてくれたまえ」
    「辛いよな。俺達が受け止めてやる。だから、遠慮無く……来い!」
     布都・迦月(幽界の深緋・d07478)の言葉と同時、スサノオが階段を駆け上がる。その動きに、榊・セツト(たまに真面目・d18818)は静かに告げた。
    「Allez cuisine!」
     リューネが解除コードと共に、tonnerre fractureを引き抜いた瞬間、ミシリ、とスサノオはその右前足の爪を手に襲いかかった。


     リューネの足が地から引き剥がされ、宙を舞う。受け止め切れなかった、それでもリューネは魔杖を振って着地する。
    「ああ、いいぜ。やっぱ、こうでなきゃな」
     リューネには、後悔がある。愛知や阿佐ヶ谷でのデモノイド事件で、一般人達を道具の様に利用するソロモンの悪魔から彼等を助けられなかった。それは、ソロモンの悪魔への強い憤りとしてリューネの胸に刻まれている。
    「でも、今回は違うぜ?」
     手を伸ばせば、救える相手が目の前に居る――ヒーローを目指す者として、このシチュエーションで燃えなければ、嘘だ。
    「行くぜ!! 俺達、武蔵坂学園の『戦い方』を見せてやる!」
     放たれるリューネのオーラの砲弾が、スサノオに着弾して爆発を巻き起こす。スサノオは、その中を突っ切ろうとする――その真正面に、奏夢が駆け込んでいた。
    「ここで躓いている場合じゃない、お前にはやるべき事が残っているはずだ」
     左手に掴んだバベルブレイカーを、カウンター気味に叩き込む。奏夢の尖烈のドグマスパイクを、スサノオは牙で食い止め――切れない。
     体勢を崩したスサノオが、大きく横へ転がった。そこへ、霊犬のキノが斬魔刀で切りかかる。すかさず立ち上がったスサノオの爪が、その斬撃を受け止めた。
    「俺達がスサノオを倒してきた武蔵坂学園の灼滅者なんだ! この声が届いてるかは分かんねえけど、俺達はお前に協力したい!」
     戦の契約の指輪から放たれた魔法弾と、戦とそっくりの見た目のビハインドである枷々・烽の霊障波が、同時に炸裂した。それに撃ち抜かれながらも、スサノオは地を駆ける。
    「ソロモンの悪魔なんかの思い通りになっていいのか? お前にはやるべきことがあるんじゃないのか? ここで終わってしまって、いいのか?」
     狼の動きを視線で追って、迦月は制約の弾丸を撃ち放った。それを受けながらも、スサノオの加速は衰えない。
     だが、その疾走が不意に止まる。空中、異形の怪腕を振りかぶった夏海がそこにいたからだ。
    「俺は君を助けたい。まだ名前も顔も知らないけど、それでも救いたいんだ!」
     渾身の鬼神変が、スサノオを上から押し潰す。スサノオは四肢を踏ん張り、それを堪え――ゾクリ、と夏海の背筋に悪寒が走った瞬間、異形の拳が弾かれた。
    「この気配は、畏れか!?」
     古の畏れのプレッシャーにも似た鬼気迫る一撃で、相殺されたのだ。それに気付いた夏海が、靴底を鳴らしながら地面に降り立つ。
     その隙に再び駆け出そうとしたスサノオの動きが、ガクンッと大きく乱れた――セツトの影縛りだ。
    「君にしかできない事があるんだ、諦めないで!」
     セツトの影がスサノオの動きを止めた直後、マルテンが微笑と共にリューネへと小光輪を投げ放ち、回復させる。
    「気をしっかりと持って。大丈夫、あなたになら出来るわ」
    「まったくだ。ましてや、ダークネスの術による闇堕ちは不安定――だ」
     優奈は、なはず、という言葉を飲み込んで、あえて断言して見せた。リューネへと癒しの矢を射て、傷を癒させる。
    (「やはり、思う通りに動くを制御するのは難しいな」)
     優奈は、ため息混じりに公園に視線を走らせる。もしも、あの獅子頭のソロモンの悪魔が人狼の少女を寸分違わず誘導したのだとしたら――大したものだ、と呆れてしまう。
     高所から見渡し、敢えて単体攻撃ではなく広範囲攻撃を撃ち込む事によって、大幅に敵の逃げ場を奪い。重ねて、逃げる相手をあの一点へあやしませずに間合いを調整して誘導したのならば、どれだけ入念に策を練ったのか?
    「その結果が一人の女の子を不幸にするだけってのが、小物っぽいけどな」
    「ああ、まったくだ」
     優奈の言葉に、夏海もうなずく。
    「百識だが、何だか知らないがあんな奴の目論見は、必ず覆そう」
     夏海の言葉に、仲間達は身構え直した。そこへ、スサノオが踊りかかる――力と力、そして心と心の戦いが、激しさを増していった。


     公園内に、激しい戦闘音が反響していく。一打一打、渾身と万感を込めた攻撃が戦場に火花を咲かせていた。。
    「今は攻撃しちまってるけど――」
     戦が、疾走する。スサノオを挟んで向こう側、打ち合わせをしなくても烽が挟撃するために駆けてきていた。
    「――全部お前を助けるためなんだ!」
     繰り出されるのは、縛霊手による殴打と刃による斬撃。そのコンビネーションを受けながら、スサノオが強引に抜けていく。
     その目の前に、回り込んだキノが立ち塞がった。
    「お前がすべき事、それを聞かせてくれ。まだ、間に合うと思うのなら……尚更!」
     キノの存在でわずかに加速が緩んだ隙に、奏夢の足元から伸びた影がスサノオを飲み込む。その内側から影を食い破るスサノオの目を見て、奏夢は痺れの走る右手を、硬く握り締めた。
    (「俺達が、諦めてたまるか」)
     衝動に突き動かされた血のように赤い瞳に、理性は見つからない。それでも少女が『そこ』にいるのだと、強く強く信じる事――この『戦い』は、目の前や背後にいる敵との戦いだけではない、己の心との戦いだ。
    「大変なことを抱えているなら、俺達もできる限り手助けする。それにお前を待ってる人達もいるだろう」
     迦月が、左腕を突き上げる。瞬く間に鬼の巨腕へと変化した左腕を、真っ逆さまにスサノオへと振り下ろした。
    「――まだ、堕ちるな!」
     ドォ! と打撃音が鳴り響く。迦月の鬼神変に、砂塵が巻き起こる――その砂煙が、内側から爆ぜた。
     大地に眠る有形無形の畏れを牙にまとっての斬撃、迦月の喉笛を狙ったそれをマルテンが身を盾に受け止める!
     グル、とスサノオの喉が鳴る。自分の肩へ牙を食い込ませたスサノオの頭を、笑みを浮かべてマルテンは撫でた。
    「私は大丈夫。大丈夫だから、自分自身に出来る事を心掛けて」
     スサノオが、大きく跳び退く。そこへ、リューネがtonnerre fractureを振りかぶって駆け込んだ。
    「あのライオン頭の思い通りになっていいのか!? 何より――このまま完全にダークネスになったら、残された仲間達はどんな思いをするんだ!?」
     ゴォ! と振り抜かれたリューネのフォースブレイクが、スサノオを吹き飛ばす。二度、三度、と地面を跳ねながら転がったスサノオは身を捻り体勢を立て直した。
    「人狼の仲間のためにも――」
     そこへ、セツトが天星弓の狙いをつける。キリ、と引き絞る弦、セツトはその一矢に想いを込めて射た。
    「――決して、君が諦めちゃ駄目だ!」
     スサノオの身を、その名通り彗星のごとき軌跡を描いた矢が貫いた。白い炎のように揺らいだスサノオの体へ、夏海が回転するバベルブレイカーの杭を突き刺した。
    「頑張れ」
     全力を尽くしながら、夏海が囁く。ガチガチガチ、と歯を鳴らして踏ん張るスサノオの目を覗き込み、夏海は真っ直ぐに告げた。
    「君を、闇堕ちから救うためには、一度倒さなくちゃいけない。ウァプラの罠になんて、負けるな。君の想いは、あんな策略になんて負けたりしない――」
     ギュガガガガガガガガ! と火花を散らし回転する杭を、夏海は覆い被さるように全体重を乗せる地面へと届かせる! ガゴン! と砕け亀裂の走る大地、貫かれたスサノオは――自分に覆い被さる夏海に、そっと首筋を撫で付けた。

     わかっているから、心配しないで欲しいべ――言葉はなくとも、その温もりが確かに想いを伝えていた。

    「まったく、人の心ってやつは化学じゃ説明がつかないから困る」
     それを見た優奈が、苦笑交じりに言い捨てる。そして、尊大に彼女らしく言い放った。
    「そこがボーダーだと言うのなら――」
    「ああ……俺達が、引き上げてやる!」
     優奈の言葉を継ぎ、全員の決意を代弁するように迦月が駆ける。優奈の爪先が地面を叩いた瞬間、スサノオを影が縛り上げる――そこへ、迦月が鋼糸を躍らせ、その純白の身を大きく切り裂いた。
     スサノオは、抵抗はしない。いや、しようとしているのだ。しかし、あの疾風のように駆けていた脚が、動かない――そこに人狼の少女が戦っているのだ、と気付くのに、十分だった。
    「痛いよな、ごめんな……でも必ずお前を助けてみせるから、今はちょっとだけ我慢してくれ!」
     戦がオーラを集中させた両の拳打を降らせ、烽が下段からの斬撃を走らせる。そして、奏夢はキノが射撃した六文銭に合わせて影の刃を繰り出した。
    「待っている仲間が居る、帰って来いよ」
     ザザザン! と影の刃に切り刻まれスサノオが、地面に転がる。奏夢の声には、わずかに苛立ちが垣間見えた。この状況を作った、ウァプラのやり口に我慢がならない、その想いは必ず少女を救おうという決意になる。
     よろりと立ち上がるスサノオへ、セツトが威風堂々と真正面から挑みかかった。
    「もうすぐです、心をしっかりと保ってください!」
     大上段から振り下ろしたセツトのDMWセイバーが、白い炎を大きく揺るがせた。暴れようとする意思と、想いに答えようとする意志のせめぎあいにスサノオの歯がガチガチガチと鳴る。
    「そうよね、あなたも一緒に『戦って』いたのよね」
     そこに、マルテンは非実体化させたクルセイドソードを薙ぎ払った。セツトとマルテンの斬撃に十字に切り裂かれたスサノオに、リューネが駆け込む!
    「それに答えなくちゃ、ヒーローじゃないよな!」
     スサノオを抱え込んでの豪快な投げ技――リューネのご当地ダイナミックが、爆発を巻き起こした。
     その爆発の中から、ゆっくりとスサノオが姿を現わす。その目の前に、夏海が両手にオーラをまとわせて待ち受けていた。
    「……信じてくれてありがとう!」
     夏海が、踏み出す。一打一打に想いを込めて、夏海が閃光百裂拳を繰り出していった。
     教室で、ウァプラが少女にした事を聞いた時の事を思い出す。あの時も、拳を握り締めた。だが、あの時と今では拳を握る意味が違う。
    「この『戦い』――」
     白い炎が、散っていく。灼滅者達は信じ抜き、それに少女が答えた。だから、これは――。
    「『俺達』の、勝ちだ!!」
     全ての悲劇を打ち砕き、灼滅者達が勝利を掴んだその瞬間だった。


    「ふえ!?」
     ビクン! と大きく体を震わせて、人狼の少女は跳ね起きた。体中が、鉛のように重くて力が入らない。ふと気づくと、自分の手に暖かい感触があった――奏夢の手だ。
    「大丈夫そうだな」
     逆の手でキノの頭を優しく撫でて上げながら、奏夢はうなずく。無意識にだろう自分の手を握り返していた少女の手に、奏夢は確かに人の温かみを感じた。
    「無事で何よりだったわ。もっと、そのかわいい顔を見せて」
    「ハハハ、疲れました。一緒に食べませんか?」
     少女の頬を優しくマルテンは撫で、セツトは持ってきていたお菓子を差し出す。それに、少女は照れくさそうに笑った。そして、夏海の顔を見つけると少女は口を開く。
    「――叢雲ねね子だべ」
    「え?」
    「名前、知らないって言ってたべ?」
     言葉は確かに届いていた、そう言外に告げる少女、ねね子に夏海は微笑んだ。
    「ま、自己紹介とかは武蔵坂学園に帰りながらしようか?」
    「あー、そうずら。その――」
     ねね子の言葉を待たずに、戦が背負う。目を白黒するねね子に、戦は言った。
    「大丈夫、もう『仲間』ですよ」
    「ああ、もう一緒に『戦った』んだからな」
     迦月もそう告げると、ねね子は綻ぶように微笑んだ。ぽりぽりとセツトが差しだすお菓子をかじるその姿に、仲間達から笑い声が漏れる。
    (「ワプラだかファブラだか知らんが、こちらの情報力を侮り過ぎだな」)
     警戒を怠らない優奈が、セツトと目を合わせて視線でうなずく。周囲に妖しい気配はないが、油断をするつもりは毛頭なかった。
    「やっぱり、ヒーローの締めはこうじゃないとな」
     リューネが、笑って言い捨てる。新たな仲間を助けた、敵の策略を打ち砕いた、確かに彼等が『全員』で掴んだ完全な勝利――ハッピーエンドだった……。

    作者:波多野志郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月15日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 56/感動した 8/素敵だった 27/キャラが大事にされていた 0
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