らぶ☆ぐら 恋愛引力の希望的観測

    作者:一縷野望

    ●暴走! らぶ☆ぐら
     それはいつもの校門前。
    「招木くぅん」
     ぴと。
     ちょっと早いすけすけ夏服ノーブラ、ぽよよんって押し付けてくるのは3年のミス……なんだったかなーな美人。これで15歳かよ、的な?
    「招木先輩! あちし、猫耳つけてみたお」
     おっとこっちからは、ついこないだまで小学生だったロリーガールがすーりすり。
    「あっああっあ、ねこみみー」
    「にゅふー。おばたんはあっち行ってな」
    「幼児体型のおこちゃまにそっくりそのままお返しするわっ」
     さえない眼鏡クン、招木・寄(まねき・より)を挟んで、ロリリン猫娘とおっぱい先輩がぎゅーむぎゅむ。
    (「ああ、女の子っていい香り~」)
     そんな彼の左右の女子が、ぱたぱたっと唐突に倒れた。
    「寄ったら、また『らぶぐら』垂れ流して」
     空手チョップの構えのツインテール超級美少女――。
    「奉ちゃん。また出てた?」
    「でーてーたー」
     跡乃・奉(あとの・まつり)……最近、寄の家に暮らしはじめた美少女だ。
     実は彼女が過去からのトリッパーなのは、二人だけの秘密。
     来るべき過去に降臨した『恐怖の女王』を倒せる力を持つ存在――『らぶぐら(恋愛引力)』の持ち主、寄を導くために現れた、時間超越者だ。
    「もうっ、寄は『らぶぐら』のコントロール、いつになったら覚えてくれるのよ。そんなんじゃ恐怖の女王に負けちゃうよ」
     ぷんすこ。
     わかりやすく頬を膨らませて怒る奉に、寄はしょんぼりと項垂れる。
     やたらとモテはじめたのは、奉と出逢い自分ば『らぶぐら』の持ち主と自覚してからだから、相変わらずドギマギするだけで……。
    「ご、ごめん。その……セーブ、お願いできる?」
    「寄のバカ!」
     そう言った後で、キス。奉が寄の力を管理する儀式――これも、もはやこの学校で繰り広げられる日課である。
    「……あ」
    「奉ちゃん、大丈夫」
     よろけ倒れるのをかろうじて抱き留めれば、美少女は荒い息で苦しげに息をつく。
    「寄の力、すっごい。あたし、飲まれちゃいそう――でも」
     役得かな、なんて。
     耳元囁き甘い声。
     彼女は、僕の、僕だけの時間管理者(タイム・キーパー)
     

    「これ全部淫魔の仕込み」
     あ、エクスブレインの一言で男の子の夢とかアレが速効ガシャンしたぞー。
     てことで。
     エクスブレイン・灯道・標(小学生エクスブレイン・dn0085)曰く。
     これは、淫魔である跡乃・奉(あとの・まつり)の壮大なる計画なのだ。
     一般人・招木・寄は強大なダークネスになる素質がある。そんな彼を壮大なラブこコメ的演出で手なづけて、忠実な配下ダークネスとして覚醒させるのが世にも恐ろしい最終目的だ!
    「寄さん、闇落ち寸前」
     ――あかんやん。
     教室に広がるざわめきに、標は唇にひとさし指を当てて片目を眇める。
    「『らぶ☆ぐら 恋愛引力の希望的観測』……的な演出を、みんなが利用すれば、闇堕ちが防げる可能性があるよ」
     そうすれば灼滅すべきは淫魔の奉だけですむ。失敗すれば敵は2体、しかも寄は強大なダークネスなので、単純に2倍って話じゃすまないのだ。
     ここはもう是非、工夫してなんとかするしかない!

     解決方法その1。
    「通り魔的に襲いかかり、速効で奉だけ灼滅」
     小細工なしのこの方法は、寄が闇堕ちする隙を与えずに奉を倒してしまう力押し。でも本当に「通り魔的犯行」になりかねないので、寄が堕ちる危険性は非常に高い。

     解決方法その2。
    「寄さんと奉を引き離して、奉だけ灼滅。これはいかに寄さんに奉が灼滅……『いなくなった』コトを納得させるかが、鍵」
     ラブコメ演出の設定を生かし、どれだけの納得がいく舞台を作りあげられるかが問われる。例えば、イベントを起こして、奉へのラブ度を下げると有効かもしれない。
    「納得しなかったら、みんなが帰った後で闇堕ちしちゃうかもね」

     解決方法その3。
    「寄さんを説得して、彼の目の前で奉を灼滅」
     説得が不十分なら当然寄は闇堕ちしてしまう。だが、成功すれば今回、そして今後も闇堕ちするコトはない。
     方法その2と同じく、いやそれ以上に演出の設定を生かした前振り(舞台)が必要だろう。

    「別にこの3つに限らず、みんなが『いいんじゃないかな』って浮かんだ方法をとってくれてもいいよ」
     いっそ寄を挑発して闇堕ちさせて説得・救出、そのあと奉と戦うという荒技などもありかもしれない。
     
    「能力的なコトを言うと、淫魔の奉はサウンドソルジャーとバトルオーラ相当のサイキックを使用するよ」
     単体であれば灼滅者八人で掛かれば余程の事がない限りは勝てる。
    「闇堕ちした場合の寄さんは『ソロモンの悪魔』になるよ。ぶっちゃけ強い」
     使用サイキックは魔法使いとサイキックソード相当のモノだ。
     
    「あ、もちろんだけど『恋愛引力』とか、寄さんにはないからね」
     全て奉の口八丁手八丁ラブ八丁により、騙されているだけだ。
    「とにかく、みんなで知恵を出しあって作戦を組み立てて。期待してるよ」
     なにしろこんなトンチキなラブコメ演出世界にのりこむわけだから、解決はみんなのフリーダムすぎる発想に掛かっているのだー!


    参加者
    仙道・司(オウルバロン・d00813)
    紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)
    草那岐・勇介(舞台風・d02601)
    結城・桐人(静かなる律動・d03367)
    フィナレ・ナインライヴス(九生公主・d18889)
    黒鐵・徹(オールライト・d19056)
    夜久・葵(蒼闇・d19473)
    六条・深々見(螺旋意識・d21623)

    ■リプレイ

    「どうせあたしも『らぶぐら』で寄ってきてるって思ってるんでしょ?」
    「奉ちゃんは大事な時間管理者だよ」
    「――それだけ?」
     潤む瞳で絡め取り艶やか唇で甘く吐く、いっぱいキスしたけれど……。
    「奉ちゃんこそセーブのためだけ、なんだよね」
     自信無く揺らぐ眼鏡越しの瞳に、奉は内心ほくそ笑む。
    (「うんうん、順調に堕ちてきてるわねぇ」)
     ラブの意味でも闇堕ちの意味でもな!

    ●平行宇宙の責任までもてないわけで
     1時限目は男女別の体育。
     中庭の生い茂る樹の下を通りすがる寄は視線に気づく。
    (「ドキドキする程綺麗な男の子だなぁ」)
     そんな仙道・司(オウルバロン・d00813)の隣に、サラ髪の凛とした佇まいの女性が現れた。
    「むっ。賞金稼ぎの葵さん?! こんな所まで銀河パトロールの邪魔ですか」
    「……黙って」
     ぴしゃり。
     遮断すると夜久・葵(蒼闇・d19473)は熱っぽい瞳を寄へ。
    「らぶぐらって……こんなに強い……のね」
     髪を耳にかける仕草が翳りの中にゾクリとした魅力をつきつける。
    「! この力量は、宇宙法則を越えた存在?!」
     くるり。
     みあげれば、おちょくるように宙をかき混ぜる真っ赤なハイヒール。
    「なるほどなるほど、全て理解したッ!」
     すんなり伸びたフィナレ・ナインライヴス(九生公主・d18889)の脚が、重力に従い落ちたかと思うと、
    「ぐぎゃ!」
     寄の顔面に刺さった。
    「伊達に何億年と宇宙を旅してはないぞ、くふ♪」
     フィナレさん、思いっきり踏んでます。

     ――しばらくお待ちください。

    「つまり――葵さんは恐怖の女王に滅ぼされた平行宇宙の生き残りで、司さんは恐怖の女王を捕まえる宇宙パトロールで、フィナレさんの本体は彗星でー」
     寄はこれでもまとめたつもりだった。
    「ナインテイル彗星、終尾の化身だ――我をこの地に落とさせたこの引力、悪用したらとんでもないことになるな」
     具体的には彗星衝突でさようならー。
    「恐怖の女王が狙うのも、わかる……飲まれちゃいそう……」
     涼しげな葵の瞳が再び熱を帯びて近づいてきたぞ!
    「大丈夫です。寄さんの『らぶぐら』はこの梟男爵が護ります!」
     それを司が遮った。
     火花バチバチ! 今にもとっくみあいが始まりそうな険悪ムードである。
    「奉ちゃーん、どこだよー? らぶぐらおさえきれないよおお!」

    ●過去からの使者が彼女以外にもいたわけで
     這々の体で逃れた寄へ濃厚な殺意が襲いかかる。
    「なっんだこれ?!」
     逃げようとした先に立ち塞がったのは、『きる☆ぐら』使い草那岐・勇介(舞台風・d02601)だ。
    「恋愛引力能力者なら、これくらい中和できるだろ」
    「え、えっと……らぶぐら!」
     残念、出るわけないので怖いままです。
    「測定ー!」
     ぽにゅん☆
     唐突に、背中に柔らかな二つの膨らみ。
    (「奉ちゃんよりおっきい」)
    「あーこれは、ちょっとまずいかも……」
     古めかしいノートを開き、六条・深々見(螺旋意識・d21623)は真正面に回り込みすれすれまで顔を近づける。
    「君の『らぶぐら』、かなり弱っちゃってるねー」
    「え」
    「やっぱり変だと思ったんだ」
    「おお『きるぐら』使い君じゃん。未来に来てたんだー」
    「もうあんた達『研究機関』とは関わりたくないけどな」
    「ふふーん」
     にまー。
     半目で笑う深々見と苦虫噛みつぶした勇介は顔見知りっぽい。
    「過去世界で『吸われた』先輩として教えてあげたらー? 女王の対処方法」
     蚊帳の外をいい事に去ろうとしたが、その台詞には足が止まる。
    「恐怖の女王が来てるんですか?」
     脳裏で瞬くは奉の『恐怖の女王から世界を護って』という願い――絶対に叶えたい、願い。

    「セーブの儀式が使えるのは女王だけだなんだよねー」

    「何、言って……」
     もはや日常に織り込まれている女子達の黄色い声が、遠い。
     遠い。
     マジで遠いよ?
    「素敵……」
    「あの、クラスどこですか?」
     少女達の魅了っぷりは変らない、ただ真ん中にいるのが寄ではなくて長身の違う男だってだけで。
    「半端な力だ。それでは利用されて終わり、だな」
     皮肉めいた結城・桐人(静かなる律動・d03367)になんかきゅんと来た! どうしよう、頬が赤らむのがわかる。
    (「この恋心……彼も『らぶぐら』使い?」)
    「……俺もかつては、利用されかけた。所詮寄せられるのは傀儡だというのにな」

    『らぶぐら』を使えるのはこの世界でたった1人、寄だけだよ!

     かつて奉がくれた言葉が偽りへと瓦解していく。
    「ああああ!」
     頭を抱えて蹲る寄の肩に、慰めるように小さな手が置かれた。
    「落ち着いて、パパ」
     ……え、パパ?

    ●そもそも救えるとしたら『未来』なわけで
    「パパ、良かった……ちゃんと逢えたぁ」
     ふえぇ。
     黒鐵・徹(オールライト・d19056)は手の甲を大きな瞳に押し当てると感極まったか泣き出してしまう。
    「やはり、こんな力はこの時代で滅ぼすべきだ」
    「どういう事だよっ」
     自分も使う癖にと詰れば、桐人は徹と寄を交互に見て冷静に口を開く。
    「お前自身を見てくれる人には一生出会えないまま終わるぞ。つまりこの子にも巡り会えないって事だ」
     ぐすぐすと鼻を啜り徹はきゅっと腕にぶら下がった。
    「らぶ☆ぐら……何の力もなくても、奉はパパを好きになってくれるのかな?」
     涙目上目、破壊力でかい。
    「!」
     娘からの問い掛けは寄の心に猜疑心という棘を突き刺した。
    「奉ちゃんはとってもいい子なんだっ!」
     寄の声はいつしか悲痛な叫びへと変じていく。
    「恐怖の女王だなんてあるわけないだろっ!」
     全てを拒絶するように喚く彼の肩がぽんっと叩かれた。
    「そこの貴方。話があるから保健室に来なさい」
     白衣から見える包帯にぎょっとするのを、紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)はあっさりテイクアウト。

    「単刀直入に聞こう。悩みごとがあるのではないか?」
    「信じてもらえないから……」
     奨められた茶に手をつけず寄はもごもごぼやく。
    「安心したまえ」
     解けた包帯を器用に繰り保健教師はしれと続けた。
    「元よりボクは其方側だ」
    「!」
     全てを見透かすような眼差しに、寄はほんの短い間に起きた事柄を滝のように吐き出した。
    「奉ちゃんが恐怖の女王だなんて……」
    「けれど、彼女が来てから異様にモテるようになった」
    「でもこれは僕の『らぶぐら』の力であって!」
    「なるほど。だがその力は使用者を孤独に追い込み破滅させる」
     思わせ振りな笑みで謡は添える――そうなってしまった少年を知っている、と。
    「先生もまさか、未来から?!」
     答えは、ない。
     寄は大きく溜息をつくと、疲れた声で誰ともなしに呟いた。
    「…………『らぶぐら』って、なんなんですかね?」
    「それを知る友と、既に出会っているはずだ」
     中庭に繋がる窓辺に立ち、謡は心配気に伺う皆の姿を示す。
    「親しくする相手は選びなさい、自分の為にも」
     後押しされるように、寄は窓をよじ登り中庭へと歩を進める――奉が来るであろう廊下とは反対方向へ。

    「寄、俺はお前に孤独の運命を辿って欲しくないんだ」
     開口一番、桐人はそう言い放つ。
    「彼も俺も、時代は違えど『恐怖の女王』に力を奪われかけた」
     勇介は寄の手を握り締めた。
    「収奪のキス……」
     葵は厭世的に口元を歪め二人の『ぐら』使いを眺めやった。
    「どの世界でも、やり方は変ってないのね……」
    「収拾した情報によるとねー」
     ぱらり。
     深々見の開く古ぼけたノートの音がやけに耳についた。
    「寄くん、君の運命を侵食してる彼女……」
    「奉ちゃん」
     続きは聞きたくないと深々見の台詞を遮るようにその名を呼んだ。
     でも今朝までと違う、ちっともドキドキしない。
     ……何故?
    「キミは気づいておるのだろう? 力を利用されているだけだとな」
     人という形が興味深いらしい、磨いた爪を空にかざすフィナレは寄の浮かない顔に答えをつきつける。
    「力あるモノへは常にそういう小物が纏わり付きおる」
    「パパ、辛いのは、わかる……よ」
     背伸びしても泣きそうなパパを撫でられなくて、徹は申し訳なさそうに瞳を伏せた。
    「こう?」
     なにげにしゃがめば、ぱっと破顔。
    「やっぱりパパ♪ しょんぼりしないで、パパはママと結婚して幸せになるんだから!」
     一瞬和やかになるも、暗澹たる面持ちで話は再開される。
    「奉は寄さんの『らぶ☆ぐら』を吸収した後、桐人さんの元へタイムリープし……」
    「……この世界も、喰らいつくす気ね」
     葵はもう廃墟の故郷を描き肩を竦めた。
    「俺は……この時代で『らぶ☆ぐら』なんて滅ぼしたいんだ」
     桐人は初めて見せる穏やかな笑顔で本当の気持ちを口にする。
    「でもっ、桐人くんみたいなイケメンはなくたってモテるだろうけどっ、僕みたいな地味メンはこの力を亡くしたら夢も希望もなくなるよっ」
     ――あ、本音でた。
     勇介は咳払いをすると、ガッと寄の肩を掴んで揺する。
    「恋愛引力関係なく、慕う奴も子供もいんだろ」
     視線はねここと徹、そして桐人、司、葵、フィナレ、深々見……更に自分を指すように胸に手を置き勇介は吼える。
    「俺だって、お前に能力に翻弄されない人生を歩んで欲しいぜ!」
     ――俺が歩めなかった、道を。
    「寄さん」
     頬赤らめた司は、華奢な指で彼の掌を取ると、思い切って引き寄せた。
    「寄さんとボクは地球と月……惹かれ合う引力が二人を繋いでる」
     ――か弱い声は少年ではなくて女の子のモノだ!
    「つ、司さん……」
    「ちょっと!」
     そこへ日常到来! いつものように割って入るは奉のツインテール。
    「もおっ寄ったら、デレデレしちゃってっ」
     サラ髪で寄の鼻先を擽る事は忘れずに、警戒心露わに睨みつける奉。だが内心は厭らしい謀略に満ちているのだ!
    (「あはっ、やっぱり灼滅者達だわ」)
     授業前にESPを感知したので予想はしていた。
     だが『らぶ☆ぐら』妄言世界に完璧に取込まれている寄の目を醒まさせるなど無理な相談。むしろ利用してやると泳がせたのである。
    (「さぁ、攻撃なさい? 寄の闇堕ちイベントとして存分に利用させてもらうわ」)
     大袈裟に眉を顰め、奉は怯えた眼差しを寄へと向ける。
    「……ッ、ど、どうしよう。寄、こいつら恐怖の女王の手先だわ」
    「え」
     奉は「大丈夫」と健気に頷き、陥落の仕上げにかかる。
    「あたしが寄を護るよ。だってあたしは――寄だけの『時間管理者(タイムキーパー)』だから!」
     ――そう高らかに台詞を吟じる彼女はヒロインかはたまた道化か。
    「幕引きの前に、観客に決めて頂こうか」
     いつの間にかいた謡が、風に遊ばせていた包帯で奉を締め上げる。
    「凝れ、きる☆ぐら」
     漆黒ジャケットをばさり。勇介さん殺界形成ありがとうございます。
    「さあ、極悪犯罪人奉、ここが年貢の納め時……」
     学生服を脱ぎ捨てて司はゴージャスパトローラーへチェンジ!
    「ジャッジメントタイムなう!」
     ――これより総決算、クライマックスの最終幕でございます!

    ●彼女は僕を騙していた……わけ、で
    「きゃっ」
     敢えて灼滅者達の攻撃を受け奉はたちまち傷だらけになっていく。
     ちらっ。
     ちらちらっ。
     俯く寄がいつ堕ちるかなー、なんて期待の眼差し。
     だが、
     奉が血だらけになっても寄は一向に動かずしゃべらず。
    「よ、寄……お願い。『らぶ☆ぐら』の力で、助け……て」
     だもんで一芝居、だって葵の杭がかなり致命傷。ここで堕ちてもらわないと終っちゃう。
    「大丈夫……貴方は、らぶぐらがなくても、魅力的……」
     だから使わなくていいと、クールビューティは血だらけの杭を軽く回し手元へ戻す。
    「あのさ、奉ちゃん」
     震える肩、あがったのは泣き笑いでぐしゃぐしゃの顔で、
    「奉ちゃんが恐怖の女王だと、全てつじつまがあうんだ」
     否定して欲しい結論を奉へぶつけた。
    「なに、言ってるの?」
     あ、予想外の展開に素で声が裏返ったー。
    「だって、この人達が言う事全てが符合するんだよっ」
    「そんなわけないでしょ?!」

     ――だって『らぶ☆ぐら』は全てあたしがでっちあげた設定なんだから!

    「否定する根拠はなんだ?」
     朗々と追い詰める桐人の謳は勇介を癒した。
    「くふっ♪ ぐうの音もでまい」
     フィナレが蛇の尾を引けば、奉は転ぶように地面に投げ出される。
     ザ☆見下しポジション。
    「くぅぅ~」
     てか、なんで『でっちあげた設定に彼らの言動が符合している』のかむしろ問い質したい! どんだけ妄想アンテナを広げたんだよ、武蔵坂の灼滅者!
    「手駒化失敗だねー」
     これは演技か本性か、観察者であり観測者でもある深々見は剥き出しのふくらはぎを一文字に裂いた。
    「このっ」
     怒りに塗れた拳は小さな躰が割り入り受け止める。
    「ねこちゃん?!」
    「パパを……たぶらかさないで」
     血だらけで泣きそうな娘はそれでも父の心を護るように言いつのる。
    「寄が、初めての友達が幸せな未来を生きるために……」
     イイ笑顔で勇介は膨らんだ巨碗で奉の頬を思う様叩きつける。
    「今です、寄さん……」
    「司さん」
     ――らぶまっくす☆るな!
     二人を繋ぐ(鋼)糸が『恐怖の女王』を破滅因果へと結びつける!
    「かはっ……」
     謡は息絶え絶えな奉の耳元に優しい笑みを寄せた。
    「貴女、少々演技がベタに過ぎるよ」
     そんな手向けの言葉は嫌だ!
     だが包帯は奉の消滅未来を確定させてしまった。

    ●奉の記憶と悲痛な現実と、滅ばない『未来』の希望と
    「う、うぅぅぅ……奉、ちゃん」
     声を殺して泣きじゃくる寄の前から、つかの間の『時間/世界超越者』達は姿を消していく。
    「女王がいないから、らぶぐらの力も……消えたの……」
    「こんな力なくとも幸せは掴める」
    「ああ、振り回されるのは終わりだ。お互いにな」
     女性が寄ってくるなんて恐ろしい!
     なんて仮面が剥がれそうな桐人に気づかれぬよう、勇介達は真顔でつなぐ。
    「歴史を変えない為に。寄が生きる『今』を護る為に、過去に帰るよ」
    「任務に戻るから真のらぶぐらは紡げないけれど……一生忘れないよ」
    「長生きすれば、空を舞う彗星を見ることができるだろうさ」
    「時間超越のためのエネルギーが……って難しいけど聞く?」
     深々見にはゆるゆる首を振った。
    「パパ、眼鏡外すとかっこいいんだから」
     涙塗れの眼鏡を手にした娘にはしっかり笑う。なさけないトコ見せられない。
     ――斯くして『らぶ☆ぐら』に翻弄された少年は、闇の誘惑を振り切りありきたりな日常へと無事帰還するのであった。

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月16日
    難度:普通
    参加:8人
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