ロードローラーと輪回し少女

    作者:相原あきと

     すでに廃棄され人も来なくなったとある美術館の広い園庭。
     そこには様々な彫刻やオブジェが所狭しと並び、広い空間に様々な陰影を作り上げていた。
    「ふふ、この夕暮れの時間はやっぱり素敵ね!」
     落ち込む夕陽に複雑に伸びていく影、その影と影の間を白いワンピースの少女が輪回し遊びをしつつ言う。
     そう、そこは少女にとっては最高の隠れ家であり、狩り場であった。
     少女はこの視界の悪いオブジェだらけの場所にライバルを誘いこみ、さらには自らの得意な影の力を最大限に活かして序列を上げ続けたのだ。
    「ふふふふふ、そろそろ誰か来ないかなぁ、できれば上の序列の人が良いな」
     少女が無邪気に笑った――その時だ。

     バキバキバキ、メキメキ、ガシャンゴシャン!

     音に気付いて振り向けば、彫刻やオブジェがロードローラーに破壊されていた。
    「え、なに? どういう……こと?」
     手にした輪回し用の棒と輪をカランと取り落とし茫然とする少女。
     だが少女が茫然とするのをいいことに、ロードローラーは次々にオブジェや彫刻を破壊していく。
    「ちょ、ちょっと!」
     少女が非難の声を上げるが、ロードローラーは少女を無視し……そして、少女のフィールドが全て更地となる。
    「なんてことするのよ!」
     我に返りヒステリックに喚きつつロードローラーの正面に立つ少女。
     対してロードローラーは。
    「身を守る隠れ家など六六六人衆には必要ないのだ」
    「は!? 私には必要な場所だったのよ! ゆ、許さない……!」
     少女の足元の影がうごめき、今にもとびかからんとする。
     ロードローラーはニヤリと笑みを浮かべると。
    「更なる高みを目指し! 混沌を駆け巡ろうか!」
     ゴロゴロゴロ……そのまま凄い勢いでバックしていなくなる。
    「な、な、な……なんだったのよいったいーー!?」
     少女は更地になった美術館の庭園の真ん中で、夕陽に向かって叫ぶのだった。

    「みんな、六六六人衆の『???(トリプルクエスチョン)』って知ってる?」
     教室の集まった皆を見回してエクスブレインの鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が言う。
     六六六人衆の中でもかなり上位の存在の『???』だが、どうやら彼が動きだしたらしい。
    「ターゲットとなったのは特異な才能をもつ灼滅者、学園の仲間よ」
     珠希が言うにはターゲットとなった者の名は『外法院ウツロギ』、彼を闇堕ちさせ分裂という稀有な特性を持つ六六六人衆を生みだしたと言うのだ。
     その六六六人衆こそ序列二八八位『ロードローラー』だ。
     元々二八八位は同じ分裂の特性を持つクリスマス爆発男の序列だったが、クリスマス爆発男が灼滅され空席になっていた所をロードローラーが埋めたという事だろう。
     ロードローラーは分裂により日本各地に散り、次々に事件を起こしているという。
    「それで……みなには潰れた美術館に向かって欲しいの。場所はここよ」
     珠希が地図の一点に丸を付ける。
     そこは森の中の広大な敷地に数十年前に建てられた美術館だったらしい。
     だがたった数年で経営不振に陥り放棄され、今では誰も管理者がいないという。
     目的地はその美術館の庭園。
     元々はその庭園には数々のオブジェが所狭しと並んでいたというが……。
    「現れたロードローラーが全てのオブジェを破壊して更地にしてしまったみたいなの」
     そして、その庭園の地の利を活かして序列を上げていた六六六人衆の少女がいたらしく、言うなれば今がチャンスという事らしい。
    「庭園が更地の今の状態だと、その六六六人衆の少女は本領を発揮できないの。こんな灼滅のチャンス、逃す手は無いわ!」
     拳を握って力説する珠希だが、皆に介入して貰うタイミングはロードローラーが去った後だと言う。
    「今回の目的は高位の六六六人衆を倒す事よ。残念だけどロードローラーについては手を出すタイミングが無いわ」
     そう釘をさすと、珠希は相対する六六六人衆の少女について説明を始める。
     少女は殺人鬼と影業、それにリングスラッシャーに似たサイキックを使ってくる。
     守り主体の戦い方だが、自身の得意な能力値での攻撃を回避した場合、影から影へと渡って対象を奇襲するらしい。
    「もっとも、ロードローラーのせいで戦う場所は影一つ無い更地よ。得意な戦法は使えないと思うわ。でも、もしかしたら……」
     珠希が懸念を口にする。
     それは灼滅者が影業のサイキックを持っていた場合だ。
     少女はそこにとんで、その影業を持つ灼滅者に攻撃をする可能性があると言う。
     しかもこの際の攻撃は相当避けにくいとの話だった。
    「とはいえ、相手が得意とする攻撃をしなければそのコンボは封殺できるし、影業を持って行かないのも作戦の1つよ。その辺は実際に戦うみなに任せるわ」
     ちなみに少女が得意な能力は術式らしい。
     高位の六六六人衆だ、術式攻撃を当てるのは難しいと考えた方が良いかもしれない。
    「それと……」
     人差し指を立てて珠希が言う。
    「少女の力は影があることで発揮されるの。皆が到着するタイミングは夕方よ。あまりにゆっくり戦闘をしていると夕陽が落ちて夜になるわ」
     そうなった場合どうなるか……珠希にも解らないとの話だった。
    「とにもかくにも、これは身を守る拠点込みで高い序列をもっていた六六六人衆を灼滅するチャンスよ! ここで取り逃がせば、またどこか自分の得意なフィールドを見つけて活動を再開すると思うわ。そうならないよう絶対に灼滅して来て!」
     珠希はそう言うと、忘れていたとばかりに付け加える。
    「あ、ターゲットの名前を言って無かったわね。少女の名前はキリコ、序列四四九位の六六六人衆よ」


    参加者
    殺雨・音音(Love Beat!・d02611)
    瑠璃垣・恢(エフェメラルマーダー・d03192)
    藤堂・焔弥(赤い狂星・d04979)
    冴凪・勇騎(僕等の中・d05694)
    千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)
    ワルゼー・マシュヴァンテ(教導のツァオベリン・d11167)
    遠野森・信彦(蒼狼・d18583)
    白樺・純人(ダートバニッシャー・d23496)

    ■リプレイ


    「な、なんで、私が……」
     なんとか立ち上がったキリコの目前に、風と桜を模した模様の入った縛霊手が見えた。いつの間にか冴凪・勇騎(僕等の中・d05694)が目の前に立っていたのだ。
    「日没まであと2分って所だ」
    「ねえ、謝ったら、許して……くれる?」
    「悪いな」
     キリコの嘆願をつき放す勇騎、ゆっくりと縛霊手を振り上げ。
     だがその瞬間、キリコがにっこりと笑ったのだ。
    「じゃあ、謝らないで逃げる事にするね」
     キリコの手にはいつの間にか『あるモノ』が握られていた。
     そして――。

    「バイバイ、灼滅者のお兄ちゃん、お姉ちゃん」


     戦いが始まる前まで時間を巻き戻す――……。
     ……――。
     廃棄された美術館の中を8人の学生が歩いていた。日没の迫ったこの時間、ガラスが散乱するだけのガランとした美術館内は、どこか時代から取り残されたようなもの寂しさを感じさせる。
    「それにしても、ウツロギちゃんがこんなに大暴れするなんてビックリ~!」
     分裂したロードローラーは日本各地で事件を起こしている、それらを想起させつつ殺雨・音音(Love Beat!・d02611)が大仰につぶやけば。
    「だが、そいつが六六六人衆の縄張りを更地にして去ってくれたおかげで……こっちはこうやって灼滅しに来れたわけだ」
     にやりと笑うのは勇騎。
    「灼滅者の鏡だよね」
     うんうんと頷きながら勇騎の言葉に相づちを打つのは千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)だ。「?」と勇騎が疑問符を浮かべるも七緒はそのまま。
    「外法院と面識はないけれど、堕ちてなお学園の為に道を拓こうとしているなんて……君の想い、確かに受け取ったよ」
     空に向かって(誰かの顔が浮かんでいる?)ぐっと拳を握る七緒。
     まぁ、なんというか、こういう子です。
     やがて美術館を通過し、目的の庭園に続く外の小道へとでる。
    「なんだかちょっと、複雑だなぁ……」
     傾き出した太陽の下、障害物の無い広い庭園へ足を踏み入れつつそう呟くのは白樺・純人(ダートバニッシャー・d23496)。
    「どうして?」
     七緒が横にきてそう聞き返す。
    「……見た目だけかもしれないけど、小学生くらいの子と戦うのは初めてだから……」
    「そっか……」
    「もちろん、六六六人衆相手に油断とか同情とか、禁物なのはわかってるんだ。でも――」
     少しだけ、かわいそうな気もする……。
     見ようによっては小学生にも見える純人の呟きに、今度は答える者は無く……。

     やがて小道を抜け広い庭園へと出た灼滅者達は、庭園の中央にて膝を抱えて座り込んでいるワンピース姿の少女を見つける。
    「序列四四九位、輪回しキリコを確認」
     赤いロボのようにも見える機械鎧に身を包んだ藤堂・焔弥(赤い狂星・d04979)が抑揚無く告げる。
     その声に少女が顔を上げ、長い黒髪がさらりと揺れた。
    「何、あんた達」
     冷たく言い放つ少女に焔弥は機械的に淡々と。
    「貴様を抹殺し、その序列を剥奪する」
     ギロリ。
     少女、六六六人衆は序列四四九位のキリコが殺気を解放させつつ睨みつけてくる。
    「灼滅者、ね……なによ、人数揃えて私を倒そうっての?」
    「ああ、女性1人に8人がかりなのは我も正直どうかと思う……だが、ダークネスにかける情けは持ち合わせていないのでな」
     そう言うとワルゼー・マシュヴァンテ(教導のツァオベリン・d11167)はぐるりと妖の槍を構え。
    「序列四四九位のキリコ、ここいらで散ってもらおう」
     ワルゼーの槍に驚きもせず、キリコがスッと立ち上がる。
    「ふぅん、灼滅者風情がこの私に勝てると思っているの?」
     キリコの手にはいつのまにかチューブとスポークの無い自転車のタイヤのような黒い輪と、黒い棒が握られていた。
    「思っているさ」
     その言葉にキッとキリコが声の主、瑠璃垣・恢(エフェメラルマーダー・d03192)を見る。
    「もうおまえが渡る影はない。這い蹲れ、叩き潰してやる」
    「どうしてそれを!?」
     初めて驚きの表情を浮かべるキリコ。その後、少女は無意識に太陽をチラリ。
     それで察したのは遠野森・信彦(蒼狼・d18583)だった。
     やはり……。
    「夜になるまでに決着を付ける」
     キリコが再度ハッとする。
     腕を青い鬼の腕に変えつつ信彦が笑みを浮かべ。
    「やっぱり夜になると何か策があるようだな……悪いが、手加減せずにいかせてもらう」
    「――起きろ、D/I」
     キリコが気がついた時、すぐ傍まで恢が距離を詰めてきていた。
     恢のまとう黒き霧のごとくオーラが武器を形成、全力のスライドでキリコに槍を捻り込み――キリコの黒い髪の毛が一房飛び散った。
    「な、なんなのよ! 灼滅者のくせに! そんなに死にたいって言うなら……全員殺してあげるわよ!」


     キリコの足下の影が一気に広がり、同時に殺意の波動が前衛達を襲う。
     だが、それとほぼ同時に炎の羽が舞い散り仲間達の傷を即座に癒す。
    「回復は僕がするよ。みんなはいっぱい殴って!」
     炎の翼を生やした七緒が先頭に立ちつつ心強く宣言する。
     こくり、目だけで頷きあった焔弥とワルゼーが即座にキリコへと攻撃を開始。
     焔弥がリボルバータイプのバベルブレイカーを構えキリコへ肉薄すると、ドリルのように杭を撃ち込むも咄嗟にキリコは自身の影を起き上がらせて杭を受け止める。
     だが。
    「千載一遇、チャンスを逃しはしない……」
     焔弥が呟くと同時、キリコが真横から吹っ飛ばされる。
     そちらを見れば、そこには縛霊手で殴り終わった格好のままワルゼーが立っていた。
    「よくも!」
     キリコが体勢を立て直し、すぐさまワルゼーに飛びかかろうとした……その瞬間、ワルゼーの背後から別の影が飛び出しキリコにカウンターの鬼神変を叩き込む。再び更地に吹っ飛ぶキリコ。
    「短期決着目指してガンガン行っくよ~♪」
     カウンターを決めたのは音音だった。
    「影が……影さえあれば……」
     キリコが立ち上がりながら悔しそうに呟く。
    「あ、そうそう、キリコちゃんお得意の影業はお留守番させてきましたぁ~☆」
     ピース、ピース。
    「はぁ!? そんなの聞いてないわよ!」
     ヒステリックに少女が叫ぶ。
     ちょっと目立ち過ぎたかな? キリコのキレぐらいに少しだけビクリとしつつ。
    「しょうがない♪ 開き直ってガシガシ殴っちゃおう☆」
     グルグルと腕を回転させながら、ペロリと舌を出す。
    「追い打ちかける様でなんだが……」
     キリコの背後で声、ハッと振り向けば三度鬼の手が振り下ろされる。
     白いワンピースを切り裂き、キリコがまとっていた殺気を完全に吹き飛ばした勇騎が。
    「覚悟を決めろ。てめぇの物語はここで仕舞いだ」

     戦い始めて10分が経過する頃には、キリコの体や服の一部が氷り付き始めていた。
    「なによこんなの! あのロードローラーがこなければ、こんな奴らの10人や20人……!」
     氷を邪魔に思いつつも毒づくキリコ。
    「自分の有利な戦場じゃないから、なんて言い訳をしてくれるなよ?」
    「はあ!?」
    「暗殺ゲームなんてふざけたゲームをしてた連中と、同じ穴の狢が」
     呟き地面スレスレを飛ぶように恢が接敵、黒い槍を死角からキリコへ突き出す。
     ガッ!
     白いワンピースがはためき……槍が、空を切った。
    「序列四四九位を、舐めないでよね」
     ドガッ!
     くるりと目の前で回転した少女、同時に少女の輪回し棒で死角からぶっ飛ばされ恢が宙を飛ぶ。
     わずかに意識を飛ばされる恢だが、落下寸前に手を出すとバック転を二度、膝を付いた状態だがぎりぎり着地する。
    「ちっ」
     少女にとっては致命的な一撃だったのだろう、だがこの程度で済んだのは能力値の相性か……。
    「大丈夫ですか?」
     すぐに純人が恢に近づき、猛禽類のような鉤爪で傷つけないよう恢の傷をなでる。
     純人のオーラが恢へ移りみるみる傷を癒していく。
     それを見たキリコがトンッと直線に跳躍。
     一瞬、皆が動きを止める。
     だが、キリコはそのまま自分の影に着地するが……。
    「まだか……もうちょっとなのに……」
     憎々しげに未だ沈まぬ太陽をにらむ。
    「やっぱり、暗くならないうちに倒さなきゃだね」
    「ああ、そのようだ」
     傷を回復してもらった恢が、立ち上がりながら純人に同意する。
    「どうしてこんなことに」
     憎々しげに呟きつつ再び灼滅者達へと向き直るキリコ。
    「どうしてって……まあ、うちの学園の奴が大層なことをしているみたいでね……お前にとっちゃ不幸な事だろうが」
     鬼化させていた腕の爪を、メキメキと凶悪に伸ばしつつ信彦が言う。
    「遠慮なく、ここで灼滅させてもらう」


    「ぴゃ~、ネオンはか弱いから狙わないでっ、お願いっ」
     悲鳴をあげつつキリコの足元から具現化する影の手を回避する音音。
     声の調子と裏腹に、正直集中攻撃で狙われるのはさすがにキツイ。
    「お願いって言ってるのにっ」
     音音が自身の傷を癒さず、槍を構えて何度目かの氷を撃ち込む。
    「怪我を治さないでいいの?」
    「みんなを信じてるから怖くないも~ん♪」
     キリコの問いに笑顔で答える音音。
    「なら……その『みんな』を殺してあげる!」
     キリコの叫びと共に7つの黒い輪が出現、ギュルルと高速回転すると前衛の仲間達へと不規則に襲いかかる。
    「すぐに回復を……天魔光臨陣!」
     純人が手に持つ断罪輪が周すと、巨大なオーラの法陣が展開され前衛の仲間達の傷を癒す。
     キリコは純人が持つ断罪輪を「輪回し遊びはできそうにないね」と揶揄するが、純人はそれどころではない、回復が追いついていないからだ。
     速攻灼滅を狙うならもっと極端に攻撃寄りの布陣にするべきだった。
     逆に今回のバランスで行くなら治癒役がいた方が効率良かっただろう。
     そして、その結果……。
    「まず一人」
     キリコが指差す先にはドサリと倒れる七緒がいた。
    「まだ……だよ……」
     七緒がなんとか立ち上がる。それは魂による凌駕。
    「そんなフラフラで?」
     キリコが七緒を見て笑う。
     ドンッ!
     笑うキリコの首元を、緑色の焔の弾丸が掠めて行く。
     弾丸を放ったポーズで七緒が言う。
    「夜の方が綺麗なんだけどね……お見せできないのが残念だよ」
    「もうすぐ夜になるわ、その時また――え!?」
     緑炎の弾丸が掠めた傷に反応するようにキリコの首を氷が侵蝕する。
    「くっ」
     速攻灼滅とはいかなかった。だがそれでも、戦闘を有為に進められたのはバッドステータスを活かせた故だろう。それが無ければ、追い詰められていたのは灼滅者の方だった。
    「駄目押しだ」
     横合いからワルゼーの声がした事に反応したキリコが身を捻る。
     ワルゼーの槍を間一髪回避するも、わずかに太股を切り裂かれ……パキパキパキ。
    「また!」
     氷の侵蝕が増殖する事にキリコが苛立つ声を上げた。
    「そろそろ終わりだな」
     見ていた恢はそう呟くと、野獣のごとく低姿勢を取り右腕にオーラを集めて巨大な腕を作り出す。それは……殺すためだけに創造られた――。

     ――イーヴィル・アーム。

     滑るように飛ぶように、恢が大地を駆けキリコに迫る。
    「この瞬間は、お前を殺すためだけに生きてやる」
     文字通り叩き潰すかのごとく振り下ろされる悪魔の右腕。
    「きゃあああっ!」
     受け止められず大地を転がるキリコ。
     だが、まだ足りない……それを予期していたかのように機械的な声が響く。
    「……夕日と共に沈め、六六六人衆」
     焔弥が構えていた。
    「他の連中も残らずお前の後を追わせてやる。先に逝って待っていろ」
     無慈悲にDCPキャノンに撃ち抜かれるキリコ。
     それでも、まだ――。
    「な、なんで、私が……」
     ザッ。
     なんとか立ち上がったキリコの視界に、風と桜を模した模様の入った縛霊手が見えた。いつの間にか勇騎が目の前に立っていたのだ。
    「突然の事に多少同情しなくもねぇが……ま、今まで誘い込まれて戦わされた奴らもある意味似たようなもんだろうしな」
     紫色に染まった世界で勇騎が時計を確認。
    「日没まであと2分って所だ」
    「ねえ、謝ったら、許して……くれる?」
    「悪いな」
     キリコの嘆願をつき放す勇騎、ゆっくりと縛霊手を振り上げ。
     だが、その瞬間、キリコがにっこりと笑ったのだ。
    「じゃあ、謝らないで逃げる事にするね」
     キリコの手にはいつの間にか『あるモノ』が握られていた。
    「それは――」
     音音が叫ぶ。
     キリコはソレのボタンを押すと。

    「バイバイ、灼滅者のお兄ちゃん、お姉ちゃん」

     光が瞬いた。
     キリコは手にした『照明』を自分に向かって照射したのだ。
    「まだ夜は来ないけど、これだけ暗ければ……」
     キリコの影が証明の明るさに比例し濃く伸びていく。
     ソレは音音が念の為にと持って来ていた照明だった。
     キリコに執拗に狙われ続けた理由、それこそ……。

     そして――。

    「なにが……どう、して……」
     青い炎に包まれながら倒れたキリコの元へ、最後のトドメを刺した信彦が近づき。
    「寒いのはいい加減シンドイだろ? 最後は暖かくして逝くといい」
     キリコは理解できなかった。
     あの時、強引に自分の影を濃くし、そこに沈んで逃げる予定だった。
     だが、気が付けば自分は炎に焼かれ――。
    「僕の意地……見せてあげれた、かな」
     腕から流れる血を止血しつつ七緒が言った。
     あの時、咄嗟に七緒はキリコの元へ走り込み、自らの傷から炎を出してキリコの作ろうとした影を打ち消したのだ。
     結果、予定していた大きさの影が出来ず、キリコは即座に反応した信彦の一撃をまともに受ける事となった。
     序列四四九位、特別な力を持っていた六六六人衆キリコは、そうして灼滅されたのだった。


     キリコは消滅し、更地となった庭園に夜が来る。
    「一瞬ヒヤっとしたけど、あの序列も灼滅できるものなんだねぇ~? ロードローラーに炙りだされたからかな☆」
     音音が傷の深い七緒にお礼を言いつつ、疑問を口にする。
    「そうかもね……でも、本当は正攻法で勝てるようになりたいよ。彼に報いる為にも、ね」
     彼、七緒が言うのはロードローラーと化した学園の仲間のことだ。
    「ウツロギ……か。奴が何をしたいのか、真意はどこにあるのか……」
     焔弥が言葉を引き継ぎ考え込む、だがすぐに頭を振り。
    「今はそれを考えても仕方が無い、か。序列二八八のロードローラーなら……殺すだけだ」
    「いやいや、殺したら駄目だろ?」
     信彦に言われ、焔弥は静かに言い直す。
    「もちろん、中身の方は返してもらうがな……」
     そんな所で、ロードローラーが去った方向を探していた勇騎が戻ってくる。
     戦果は無かった。もし本気で探すなら事後に時間を費やす必要があるだろう。
    「更地、か」
     恢の呟きが、広々とした更地を拭き抜ける風に乗って消える。
    「せめて花でも捧げようか」
     ワルゼーの言葉に否定を口にする者はいない。
     手を合わせて少女の安らぎを祈っていた純人が、ふと空を見上げる。
     空を邪魔するオブジェの無くなった更地からは、キラリと一番星が輝いて見えたのだった。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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