ラブデスゲームは鐘の聞こえる場所で

    作者:飛翔優

    ●愛は死んだ!
     心を通じ合わせた人と結ばれて大切な人たちに披露する、人生に一度きりの結婚式。どんな式にしようか悩むカップルが、計画を建てるために足を運んでいく結婚式場。
     そんな式場から厳かなる鐘の音が聞こえてくる近くの貸し倉庫。計画を建てたばかりの男女が一組、涙に濡れた瞳で見つめ合っていた。
     手には、ナイフ。
     傍らには、薄ら笑いを浮かべている、首輪をはめた男が一人。
     ――さあ、殺し合え。生き残った方だけは助けてやる事を考えてもいい。
     男女をこの場に拉致し、首輪をはめた男はそう言い放った。
     戸惑い、嗚咽、憤り……様々な感情を見せる男女を眺め、時が訪れるのを待ち望んでいた。
     名を、ラブレス。爵位級ヴァンパイアの奴隷として力を奪われたヴァンパイアの一人。本来は、ロシアンタイガーが所持していた弱体化装置捜索に解き放たれたはずの……。

    ●夕暮れ時の教室にて
     灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は、いつになく真剣な表情で説明を開始した。
    「新潟ロシア村の戦いの後、行方不明になったロシアンタイガーを創作しようとヴァンパイアたちが動き出したようです」
     強大な力を持つヴァンパイアは、その多くが活動を制限されている。が、今回捜索に出て来るのは、爵位級のヴァンパイアに奴隷として力を奪われたヴァンパイア達。
     彼らは奴隷から開放される事と引き換えに、単独での捜索を請け負った。だが……。
    「長いこと奴隷とされていた鬱憤から、捜索よりも、自らの楽しみを優先しているらしいんです」
     つまり、一般人を虐げ、殺し、苦しめて、快楽を得ようとしているのだ。
    「彼らはある程度満足すれば、ロシアンタイガーの捜索を開始するために事件を起こすことを止めるでしょうが、それを待っている理由などどこにもありません」
     今すぐ、現場へと向かってヴァンパイアの蛮行を阻止し、灼滅すること。それが、今回の目的となる。
     前提を話し終えた後、葉月は地図を広げた。
    「皆さんに相手取ってもらう奴隷化ヴァンパイアの名は、ラブレス。ラブレスはこの結婚式場から、結婚の計画を立てている男女を鐘の音が聞こえる貸し倉庫へと拉致。ナイフを持たせて殺し合わせ、途中経過に関わらず両方を殺してしまう……そのような悪行を行っています」
     また、拠点としているのもその貸し倉庫。活動を控える夜中に襲撃を仕掛ければ、問題なく戦いを挑むことができるだろう。
     件のラブレス、性格は傲慢かつ残忍。己の絶対優位を確信し、常に上から目線からの言葉を放つ。また、愛を憎悪しているという性質も持っている。
     力量は、弱体化しているとはいえダークネス、八人で何とか倒せるかもしれない程の力量を持つ。
     妨害能力に特化しており、見えない糸を用いたマリオネット、急所に咲かせるブラッドローズ、コウモリたちによるダークアレスト、の三種の力を使い分けてくる。
     マリオネット、ダークアレストの影響は複数人にも及ぶ。また、愛を騙る者にブラッドローズを放つ性質もあるらしい。
    「以上で説明を終了します」
     地図など必要な物を手渡し、葉月は締めくくりへと移行する。
    「日を追うごとに、被害者が増えていく状況。相手の力量は強大ですが、皆様ならば灼滅する事ができる……そう、信じています」
     頭を下げ、締めくくりへと移行した。
    「ですのでどうか、全力での灼滅を。何よりも無事に帰ってきて下さいね? 約束ですよ?」


    参加者
    六乃宮・静香(黄昏のロザリオ・d00103)
    霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)
    アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)
    五十里・香(魔弾幕の射手・d04239)
    黒蜜・あんず(帯広のシャルロッテ・d09362)
    聖刀・忍魔(無限六爪・d11863)
    月光降・リケ(魍魎猖獗・d20001)
    エクセルシーラ・シュトレイン(グレイスフルコンチェルト・d25796)

    ■リプレイ

    ●失われし愛の在り処には
     白い月が大地を照らし、煌めく星々と共に標となる、街灯乏しき倉庫前。奴隷化ヴァンパイア、ラブレスの根城を前にして、黒蜜・あんず(帯広のシャルロッテ・d09362)はあくびを一つ。
     曰く、いつもならばすでに寝ている時間。戦うために起きていたが、やはり眠気は抑えきれない。
     戦うさなかだけは起きていなければならないと、頬を叩いて気合を入れる。改めて、一軒家のガレージにも似た貸し倉庫へと向き直る。
     総員の準備が整うのを待った上で、エクセルシーラ・シュトレイン(グレイスフルコンチェルト・d25796)が改めて状況を確認した。
    「この場所、ですね。いきましょう。姉様、頑張りましょうね」
     ビハインドのリンセに語りかけながら、意気揚々と貸し倉庫の扉を開く。
     中は、概ね普通の荷物などは置かれていない広い部屋。違和感をもたらす物があるとしたら、それは、最奥部で寝転んでいた男……ラブレスのみ。
     灼滅者たちは一気に内部へと入り込み、ラブレスを取り囲むかのような陣を取っていく。
     薄めを開き、視線を向けてきたラブレスに対し、あんずが静かな調子で語りかけた。
    「こんばんは吸血鬼さん。昼型なんてあたしが知ってるヴァンパイアのイメージとは違うわ?」
    「誰だ」
     細部に応じる様子は見せず、ラブレスは勢いをつけて起き上がる。
     霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)も仔細に構うことはせず、ただただ一方的に告げていく。
    「夜分に失敬しますよ~。愛を語る連中……そう、つまりリア充を狙うなんてRB団的には欲しい人材なんですけどね。ほら、ダークネスですし仕方なしってことで」
     意図しているかどうかはさておいて、最初はわけのわからぬ妄言で。
    「俺がリア充狙いの手本見せます! まずは足!」
     間髪入れずに背後を取り、影を用いてラブレスのかかとを切り裂いた。
    「っ!」
     即座にラブレスは跳躍し。灼滅者たちから距離を取る。
     後を追う形で、あんずが懐へと飛び込んだ。
    「あたしだって、愛がどうのって語れるような立場じゃないけれど、これだけは言える。あなたってほんとに可哀想な人ね」
     挑発的な言葉を投げかけながら前転し、振り向きラブレスの背後を取る。
     やりを真っ直ぐに突き出して、右のふくらはぎを傷つけた。
    「……」
     大きく堪えた様子はない。ラブレスは表情を変えぬままぐるりと灼滅者たちを見回して、合点が言ったかのように口を開く。
    「なるほど、お前たちは俺を倒しに来たのか」
    「ああ、そうだ。愛に無関心なのではなく、あると知って憎んでいる。まるで、期待を裏切られて拗ねる幼子のようなお前を、な」
     五十里・香(魔弾幕の射手・d04239)が冷たく言い放ち、ラブレスの視線を引いていく。
     己への注意が集まっている事を認識した上で、更なる言葉を続けていく。
    「手酷く現実に裏切られでもしたのか、初めから手の届かない場所にいたのか。いずれにしても、かわいそうに」
    「……」
     対するラブレスは無言のまま、人差し指だけでゆっくりと手招きした。
     刹那、香の胸に花が咲く。
     それは赤黒い血の薔薇だ。
    「っ……はっ、いいトシこいて自分探しを始める輩並に恥ずかしいな。見せびらかしたり他者で確認せずに入られない主義主張なんて偽物だ」
     傷口を抑えながらも、香は言葉紡ぐのを止めはしない。ただただ盾から力をもらい、血の薔薇に妨害されながらも傷口を癒やし始めていく。
     対するラブレスは、深いため息を吐き出した。
    「よかろう。そんなに死にたいのならば相手にしてやる。愛への思いなど弱々しい灯火、せいぜい消されぬよう抗うのだな」

    ●ブラッドローズは心に咲いて
     奇襲を終えた後の、本格的な交戦。聖刀・忍魔(無限六爪・d11863)が、影を縄へと変えて解き放つ。
    「覚悟しろ、お前に救いはない」
    「元より、貴様等に救われるいわれなど無い」
     手振り一つで弾き返し、ラブレスは忍魔へと視線を向けた。
     月光降・リケ(魍魎猖獗・d20001)はちらりと香を確認し、未だ傷が癒えていない事を確認。
     己へと意識を惹きつけるため、どことなく演技がかった調子で口を開いた。
    「愛とは甘やかで、暖かくて、輝くもの」
     愛の言葉に反応したか、ラブレスが振り向いてきた。
     後ひと押しすれば良い、と、リケは酷薄な笑みとともに続けていく。
    「愛とは力を勇気を与えてくれるもの。愛を知るわたしを、あなたは倒すことはできない!」
    「ほう。愛を語るか、弱きものが」
     先ほどと同じように、ラブレスは指先一つで手招きした。
     胸にブラッドローズが咲いていくのを感じながら、リケは笑みを崩さない。
    「首輪付き、あなたは愛をしることができない。その資格もない」
    「……どうも、無礼な者が多いようだな」
    「この剣で……貴方の心臓――魂を灼き、貫きます!」
     注意が完全にリケへ向けられている隙を付き、胸元にハートの印を浮かべたアリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)が空色の光焔を纏った鋭き剣を非物質化させて飛びかかった。
     突き出すも、ラブレスが内包しているだろう見えない力へ到達するには至らない。
     続く仲間たちの攻撃もいなされていく様を目の当たりにして、エクセルシーラは思考を巡らせる。
     自身を含め、治療の手段は厚い。
     攻めることも問題なくできている。
     懸念があるとするならば、勝負の天秤がこちら側へと傾くまでに、囮役を買って出た二人が耐えきれるか否か。
     支えていけば耐え切れる。
     そのためのこの場所に立っているのだと、瞳を薄く閉じて祈りを捧げた。
    「私が、おまもりするです……」
     祈りには、ブラッドローズなどものともしない力を込めて。
     リケの、香の胸元に刻まれていくブラッドローズを消し続け、片方が常に万全の状態を整えることができたなら、きっと最後まで支えることができるだろう。
     前線をサポートするために、リンセは霊障を放っていく。
     他の仲間達同様に、軽い手振りで弾かれた。けれど、重ねていけばいつかは通用するはずと、エクセルシーラは背中を押し継続するようお願いした。

    「フレンチ・クルーラーになりなさい!」
     あんずが、握りしめた槍に螺旋状の勢いを乗せてラブレスへと突き出した。
     見えない糸で弾かれて、肉へ到達するには至らない。
    「弱いな」
     あなたほどではない。喉元まで出かかった言葉を、アリスはすんでのところで飲み込んでいく。
     今まで奴隷として虐げられ、辛い思いをしてきたのだろうラブレスに、言いたいことはたくさんある。
     八つ当たりみたいに、一般の方に酷いことを許せない。
     自分にも大好きな人がいる。だからこそ、愛しあう二人を殺しあわせるなんて、絶対に許せない。
     けれど、それは囮役を担う二人の役目。
     自身の役目は、少しでも早くラブレスを灼滅し終えること。
    「己の罪の毒に蝕まれ、悔い改めて下さい」
     ハート細工を施した金色の長大な鍵を銃のように構え、トランプ型の弾丸を発射した。
     無造作に全てをたたき落とした後、ラブレスは小首を傾げて口を開く。
    「罪? はっ、罪科など弱き者をたぶらかすためのまやかしに過ぎん」
     アリスへと注意を向けながら、指先は香を示していた。
     もう何度目になるだろうか? 赤く染まりきっていた香の胸元に、新たな血薔薇が咲いていく。
     血を流しすぎたか、香はバランスを崩しよろめいた。
    「ちっ……」
     気力で身を支え、暖かな光を浴びていく。
     偽物になど負けたりはしないと、気を吐きラブレスを睨みつける。
     少しでも反撃のタイミングを遅らせようという心持ちか、六乃宮・静香(黄昏のロザリオ・d00103)が回転ノコギリの音色を響かせた。
    「血染めの斬花を散らしましょう。あなたの手で、殺された恋人たちの鎮魂の為に」
     ラブレスへと突き出して肩を掠めさせていく。
     即座に刃を上に向け、自身をも回転させて横一閃!
     横一文字のいびつな傷を、今宵初めてのクリーンヒットを刻み込み、冷たい眼差しを向けていく。
    「ボスコウに頂いたその醜悪な首輪、とても似合ってますよ? 愛を失った醜い心の象徴ですね。いえ、愛に見捨てられた奴隷さん、ですか」
     愛を否定する、とても吸血鬼らしいラブレス。己が欲望が第一で、他は全て道具や玩具としかみることができない、愛する人々を殺しあわせる惨劇に哂う者。
     静香も抱える、闇そのもの。
     違いがあるとするならば、愛しさという温もりを覚えている点だろうか。
    「……」
     見つめ続けながら下がった時、ラブレスは傷口を抑えながら口を開いた。
    「……いい加減、飽きてきた。そろそろ終わりにしよう」
     怒気を交えた言葉と共に、静香に向かって一歩踏み出した。
     即座にリケが声を上げていく。
    「臆したか? 首輪付き。それとも、わたしの愛には叶わぬと知ったか?」
    「戯言を」
     ラブレスが言葉を紡ぐとともに、リケの胸には花が咲く。
     表面上は平静を装いながらも、すでにリケの顔に血の気はない。あるいは、香よりも追い込まれているのではないかと思われた。
    「おっと前衛がまずい……」
     故に、刑一が前に出る。
    「……すまない。ケイイチ」
    「何、気にしないでください」
     どことなくリア充を思わせるやり取りを行っている事に気づくこともなく、刑一は槍を握りしめる。
    「さ、嫉妬力を高めましょう」
     螺旋状の回転を加えた上で、ただ真っ直ぐに突き出した。
     受けようというのか、体内から蝙蝠を放ったラブレス。
     が、蝙蝠はさなかで霧散する。槍が、右肩を抉り引き裂いた。
    「……ちっ」
     恐らくは、重ねてきた呪縛が実を結んだ。ラブレスに致命的な隙を生み出すまでに至ったのだ。

    ●愛の形
     バッドステータスを治癒する力を持たぬラブレスに生まれた、致命的かつ断続的に起きる隙。
     優位を獲得した状況で、エクセルシーラは変わらず祈り続けていく。
     油断してはならない。少し天秤が傾けば、香がリケが刑一が倒れてしまいかねないことに違いはない。
     なにせ、彼女が支えてきたからこそ、誰一人として倒れずに済んでいるのだから。
     代わりに、リンセが霊障を放つ。
     ラブレスは苛立たしげに振り払った。
    「耳障り」
    「今の俺が持てる全力……叩き込んでやる」
     言葉のさなかに、忍魔が割り込み背中を杖で強打した。
     魔力を爆発させながら、強く激しく言い放つ。
    「お前がいくら強力な力を持っていようと、負けるわけにはいかない! 俺達は、力の無い人達を救うためにいるんだからな……!!」
     言葉を拳へと送る力に変えて、つんのめるラブレスに殴りかかった。
     五発、六発と重ねた後、ラブレスは膝をついていく。
    「くっ、だが……」
     戦意は失せていないのだろう。ラブレスは刑一を指し示し、胸にブラッドローズを咲かせていく。
     涼しい顔で耐えていく様を確認し、静香は静かな息を吐くと共に言い放った。
    「愛を矜持と宿すからこそ、貴方のような闇を切り裂く黄昏の刃となると知りなさい……!」
     反論は許さぬと、踏み込みけたたましい音色響く斬撃にて肩を深く、激しく切り刻む。
     刑一は胸に花を咲かせたまま、杖を真っ直ぐに突き出した。
    「それじゃ最後に、リア充爆発しろ!」
     喉元を力強く突き上げて、魔力を爆発させていく。
     舌を噛んだか、ラブレスの口の端から血が流れる。
    「ば、馬鹿な……」
    「俺は愛がどんなのか知らない……だが、否定をする貴様を許せない!! お前の遊びはこれまでだ!!」
     空中にてもがくラブレスを、忍魔の巨大な剣が一刀両断。
     言葉紡げぬようになった闇の存在へ、リケは優雅に微笑んだ。
    「……さようなら」
     永久を告げる、別れの言葉。
     伝わったか、伝わらぬか。ただただ驚愕に目を見開いたまま、ラブレスは闇に溶けるようにして消滅した。

    「……何かわかると良いのですが」
     治療を終えた後、静香は両断された首輪を探し拾い上げた。
     倉庫内を捜索していた香は、良しも悪しくも何もない事に小さく肩を落としていく。
    「弱体化装置はともかく、連絡先くらいはあれば良いと思ったのだが……遺体も、すでに処分していたか」
    「……」
     ラブレスの手による犠牲者が辿った悲劇を想像し、あんずは小さく首をふる。
     もしも自分が一般人で、同じ立場に置かれたらなど、考えたくもない。
     悲劇を辿らされた彼らの冥福を祈り、そっと花を手向けていく。
     そんな折、不意に、鐘の音が聞こえてきた。
     風が奏でてくれたのだろうか? 灼滅者たちは静かな息を吐いた後、帰還準備へと移行する。
     最中、忍魔がふとした調子で呟いた。
    「愛って……どういうものだろうな……」
     具体的な答えはない。あるいは、忍魔がぼんやりと思い浮かべているような答えがなかっただけかもしれない。
     愛は無数に存在する。定めることなど、恐らくは……。
    「……ラブレスさんにも愛する方がいたなら、例え奴隷であっても、誇りを失う様な事はなかったのかもしれませんね……」
     静かな声音で、アリスがifを口にした。
     少なくとも、凶行を止めることはできたはずと。それもまた、愛の強さなのだから。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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