魔拳、吹き荒ぶ

    作者:君島世界

     ガイオウガ、そしてスサノオ大神……。
     大地を喰らう幻獣種共が「竜種」に目覚める日も、そう遠くはない……。
     サイキックエナジーの隆起がゴッドモンスターさえも呼び起こしたこの状況で、未だ十分に動けぬとはいえ、日本沿海を我が「間合い」に収めることができたのは、まさに僥倖。

     小賢しき雑魚共の縄張り争いも、王を僭称する簒奪者共の暗躍にも興味は無い。
     我が望むは、我と死合うに値する強者のみ!
     「武神大戦殲術陣」発動!
     眠れる強者よ現れよ。武神の蒼き頂こそが、これより汝の宿命となるのだ!
     
    「――では、今回皆様に向かっていただくアンブレイカブルの戦闘儀式、武神大戦天覧儀についての説明を始めますわ。灼滅者である皆様にとって、極めて重大であると思われる事柄も含まれますので、どうぞ最後までお聞きくださいませ」
     鷹取・仁鴉(中学生エクスブレイン・dn0144)は、悟られぬよう小さく溜息をついて、手元のファイルを開いた。椅子に座り、珍しく脚を組んで、資料の読み上げに没頭してゆく。
    「武神大戦天覧儀とは、先の戦いで有力なダークネスである柴崎・アキラを失った業大老一派が行う、新たな師範代を生み出すための武闘会ですわ。それぞれのアンブレイカブルが日本各地の『海の見える場所』に導かれ、出会った時点で戦闘を開始するという遭遇戦形式で運営されているようですの。
     勝者にはその場で力が与えられ、より強力な武芸者となっていきます。これを何度も繰り返し、柴崎・アキラに匹敵する、あるいは超える力を手に入れよう、というのが彼らの狙いですわね」
     仁鴉は資料のページをめくる。この戦いにどのようにして介入するか、その後灼滅者がどうなってしまうのか……事実は事実として、話しておかなければ。
    「試合会場は、先も申し上げましたとおり『海の見える場所』、開始時間は特に決まっていませんが、必ず『周囲に一般人がいないタイミング』となりますわ。今回におきましては、佐渡島・春日崎近辺の夕方ですの。
     この場所に現れるアンブレイカブルを倒していただけば、作戦はひとまず成功となりますわ。ただ、勝者に力が与えられるというルールは、灼滅者であっても例外なく適用されてしまいますの。……つまり。
     アンブレイカブルに止めを刺した灼滅者は、闇堕ちしてしまうのですわ」
     
     現れるアンブレイカブルは、名を迫・晴嵐(さこ・せいらん)という。パワー・スピードともにかなりの高レベルでまとまった、強力な格闘家だ。ストリートファイターのサイキックに加え、素手でガトリングガンに匹敵するほどの遠当てを放ってくる。
     晴嵐に勝利し、灼滅することがこの作戦の目標となる。ただし、止めを刺した灼滅者は『勝利によって力を与えられる』為、確実に闇堕ちしてしまう。十分に余力があれば、闇堕ちした仲間に連戦を挑み、その場での救出を目指すことも可能だ。さもなくば、闇堕ちした仲間はどこかへと撤退してしまうだろう。
     
    「アンブレイカブルを破り、仲間をも救い出す――という最善の結果を導き出すためには、皆様の協力体制が大きな意味を持つはずですわ。誰一人欠けることなく、この武蔵坂学園に帰ってきてくれることを、祈っております」


    参加者
    椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)
    鈴鳴・梓(修羅の花嫁・d00515)
    殿宮・千早(陰翳礼讃・d00895)
    鈴鹿・夜魅(紅闇鬼・d02847)
    四季・紗紅(中学生ファイアブラッド・d03681)
    清浄院・謳歌(アストライア・d07892)
    高倉・奏(神解き・d10164)
    高城・時兎(死人花・d13995)

    ■リプレイ

    ●遠い果てを眺める者
     新潟県佐渡島、春日崎海岸線。
     海の果てから走り来る夕陽が、灼滅者たちの影を長く伸ばす。
     その先に、見知らぬ男が腕を組んで居た。
    「あいつか」
     装いは真っ白の、染み一つない道着だ。高城・時兎(死人花・d13995)は、手の甲に口付けて、敵の出方を探る。
     カチ。カチ。カチ。
     見ると、男の足元で時々ひとりでに小石が跳ねていた。戦場を前に抑えきれなくなった覇気が、なにかしらの威力となって漏れ出しているかのようだ。四季・紗紅(中学生ファイアブラッド・d03681)はあくまで平静を乱さぬよう、姿勢を正して口を開く。
    「貴方が、迫・晴嵐殿ですね」
    「……左様。しかし、君等の名に興味は無し」
     問いに、男――晴嵐は答える。
    「ただ、強者のみを求める故に」
    「オレは興味津々だぜ、迫・晴嵐」
     鈴鹿・夜魅(紅闇鬼・d02847)が、すっと一歩を前に出た。晴嵐も、腕組みを解く。
    「迫る嵐か……中々強そうな名前だな。名前負けしてないか、その実力見せてもらおうか」
    「フ……」
     それだけで、空気が重くなった。礼の時間は終わったとばかりに、晴嵐は文字通りに牙を剥く。その前髪を揺らす海風に、夜魅は己の呼び出すカミの風を乗せた。
    「いちいちゴングはいらねえよな!」
     言い切るより早く、夜魅の神薙刃が晴嵐に炸裂する。足裏をわずかに沈める晴嵐へ、続けて椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)が詰め寄った。
    「せい、やっ!」
     ギィン!
     ダッキングから全関節を連動しての中段突き。WOKシールドを通じて得た拳先の感触に、なつみはにこりと微笑んだ。
    「あのう……。実は、あまり効いてません?」
    「さて」
     晴嵐の左拳が、瞬く間に大量のスパークに包まれる。急いで構えを戻したなつみを、晴嵐はシールドごと強引に打ち上げた。
    「雷神ッ!」
    「わ、わあっ!」
     まともに受けたなつみは、地面に残ることはできずに身を浮かせてしまう。そのまま背中から落ちた彼女を、メディックの高倉・奏(神解き・d10164)が注意深く見つめ、ダメージ量を計った。
    「~~~~~っ!!」
    「うわ、一発でこれですか……なつみさん! すぐに治しますので!」
     身を縮こませて痛みに耐えるなつみに、奏は迷わずシールドリングを放つ。なつみと同じくディフェンダーに立つビハインド『神父様』
    「ただでさえ、ってレベルなのに、共喰いしてまでさらに強くなろうだなんて……まるで」
     蟲毒の様だ、と、奏は呟いた。殿宮・千早(陰翳礼讃・d00895)も同じ印象を受けているらしく、忌々しいものを見る目つきで晴嵐に対峙する。
    「こんな呪われた儀式で力を得ようなんて、片腹痛いな」
    「邪道とて道程に過ぎん。果てを眺めに行くのみだ」
    「ははは、ぬかせ外道」
     ジャウッ!
     目の前のダークネスに、千早は一切の躊躇なく異形腕を叩き付けた。間髪入れず、時兎が晴嵐の背後を横切る。首を捻った晴嵐は、腰裏に一直線の切傷があることに気づいた。
    「役目、あるケド。……それなりに思い切り、往くよ」
     その延長線上で、時兎のサイキックソードがびゅうと返り血を払う。その赤に負けぬほど鮮やかな炎が、この時鈴鳴・梓(修羅の花嫁・d00515)の背で燃えていた。
    「みんな、ここに来る心構えはいろいろあるのだろうけど。私は一番あなたに近いと思うのよ。つまり――あなたにこの場で会えて嬉しいわ、晴嵐」
     彼女の火翼が、一際明るく輝く。晴嵐は、己を包囲し着々と攻略の準備をする灼滅者たちに対し、おくびにも動揺を見せなかった。ただ、構える。
     大胆不敵。己の力量に、いささかも疑問を持たぬ。恐るべきダークネスを前に、清浄院・謳歌(アストライア・d07892)は拳を握り締めた。
    「強い……なんてことは、ここに来るからには織り込み済みっ」
     その手の中にある新しい力、断罪輪。
    「貴方がどんなに強くても、わたしたちは、絶対に負けないよ!」
     謳歌は心底から叫ぶ。その闘志に呼応するように、溢れ出たオーラが法陣を描き出す。
    「どうかな、奏さん。できてる?」
    「うん、バッチリだよ謳歌さん。自分にも届いてる」
     と、奏はその脈動をまぶしそうに眺めていた。彼女の元に戻ったシールドリングには、いつの間にか法陣と同じ――否、それ以上の力が宿っている。
    「晴嵐さん。自分たちは8人揃って1つの剣。不恰好なれど、必ずや貴方を灼滅してみせましょう」
    「なるほど、な……。百戦危うからずを体現するか」
     謳歌の『天魔光臨陣』と、梓の『フェニックスドライブ』。この二重の加護は、アンブレイカブルの持つ一つの強みを確実に殺ぐ為のものだ。
    「はい。私でも、よく狙えば当てられるんですから」
     紗紅がゆったりと説く。托された力の使い手、その一人として、光剣をかざした。
    「お覚悟を」
    「ッ!」
     唐突に晴嵐が消える。瞬発して背後に逃げこもうとする敵に、紗紅は惑わされず手首の向きを変えることで対応した。放たれた光刃が、纏う力と道着ごと晴嵐を裂く。
     千切れた袖の繊維が地に落ちる間もなく。
    「……っとと。あまり無理はしないようにお願いしますよ、お互いに」
    「ああ。可能なら次は俺が」
     守りの要として、なつみと時兎が立ち位置を変えた。その脇からは千早と夜魅が、それぞれ鋭い視線を覗かせる。
    「まだまだここからって表情だが……そうか、例の遠当てが残っていたな」
    「いいぜ。切り札見せずに灼滅されるのだけは勘弁して欲しいトコだ」
     少なくとも。
    「私たちで言う所の『抗雷撃』のみでは、無駄ですよ?」
     笑顔で圧をかける梓のバトルオーラにも、敵の強化を砕く力が宿っていた。万全の態勢を整えた灼滅者たち――しかし敵は、その8人を相手取って互角以上に戦いうる、ダークネスである。
    「好い。魔拳、存分に使わせてもらう」
     晴嵐は右腕を下ろす。そこから『魔拳』の構えに移行するのかと、全員が注視する。
     ふと、紗紅が炎上した。

    ●魔拳
    (「な」)
     ゴォオオオウウッ!
    (「に、を」)
     くの字に折れ曲がった紗紅。その腹部に、拳大のへこみが付けられている。
     炎にあぶられた視界の中で、紗紅は晴嵐の腕が伸び切っていることを辛うじて確認した。胃を抱えるようにして肩から倒れると、今更になって強烈な不快感が襲ってくる。
    「四季さん……」
    「いい、自分に任せて!」
     時兎が腕を伸ばしかけた所を、奏が制止する。時兎は指先を引き戻すと、その無表情を変えず、晴嵐の間合いへと進んでいった。
    「ダメージは治せますけど【炎】が厄介ですね……でも、自分なら!」
     奏の『防護符』による治療音を背後に、時兎は光剣を抜く。すると、胸の中央から腕を通じて、影がざわざわと刃に纏わりついた。
    「来るか、枯れ尾花」
    「――チ」
     舌打ちではない。時兎は息を鋭く吐いて、殲術道具の切っ先から晴嵐にぶつかっていった。鈍く、短い打音が消える前に、夜魅も近接距離に侵入する。
    「魅せてくれるぜ、晴嵐さんよ」
     最後の一歩が地を砕いた。目の高さにまで跳ね上げられた砂粒が、夜魅の剛腕に消し飛ばされる。
    「こいつはお返しだ!」
     晴嵐の横っ面に、鬼神変がクリーンヒット――とまでは届かない。それでも、頬の横で受け止めた掌ごと、晴嵐の姿勢が傾く。
     その反対側、下を向いたこめかみに、晴嵐は熱の揺らめきを感じた。一瞬の時間の中で、晴嵐は目を細める。鼻骨を削ぐようにして、炎剣が振りぬかれた。
    「炎を得意とするのは、何も貴方だけではないのです」
     逆水平に『レーヴァテイン』で敵を薙いだのは、紗紅であった。赤みの戻った頬には、彼女らしい微笑が無事に戻っている。
    「それでこそ、だ」
     晴嵐は鼻から口にかけてを手で覆い、おそらくは笑みを隠した。そして、今度は両の腕をだらりと弛緩させる。
    「好い物は長く楽しみたいものだ。なあ」
     左右の拳が揺らぎ、消える。すると、乱打空間とでも呼ぼうか、扇状に拡散する拳圧が生み出され始めた。一発一発の間隔が、次第に短くなっていく。
    「あ、あの技……」
     体の軸をまったくブレさせずに遠当てを放っているのではと、なつみはそう見当をつけていた。居合拳だとか無拍子だとか、そういうバトル漫画な言葉を連想する。
    「……立ち向かうしか、ないですしね」
     なつみは仲間の前で背筋を伸ばし、両足を突っ張った。知らず背中に冷や汗が浮くが、ぎり、と歯を食いしばって打撃に備え――。
     バァン!
     眼前で、思ったよりも軽く衝撃が破裂した。それもそのはず、神父様が、そこに立ち塞がっていたからだ。ゆっくりと、倒れていく。
    「あー! 神父様さんに何してくれてんですか、このー!」
     すると、何故か謳歌が激昂した。全身から湯気を吹き上げる晴嵐に、彼女はエアシューズで駆け上がっていく。
     大きな力で引っ張られるかのように、謳歌の姿勢が前傾した。踏み切りに速度のロスはなく、加速の先にある一点へ、何もかもを叩き付ける!
    「これで終わりだよっ!」
    「ぬ――うウッ!?」
     身軽に跳ね返る謳歌とは対称的に、晴嵐の動きは重くなる。その隙を、千早は逃さない。
    「魔拳。もしこの戦いに勝てたならば、『名にし負はば』と詠われもしようが」
     編み上げられた千早の影業が、晴嵐の半身に貼り付いた。もはや十全の動きは望むべくも無い。
    「俺たちをもって見納めだ」
    「抜かせ!」
     フリーの左拳を握り、晴嵐はついに『魔拳の構え』を取った。こちらに対し半身の姿勢となり、肩と顎とをほぼ平行に突き出す。当然、腕は下に向いていた。
    「……我唯是にて拓く。来い、我が御敵よ!」
    「お受けしましょう。どの道、どこかで交錯する運命なのですから」
     梓が受けて立ち、晴嵐が魔拳を放つ。先の乱打空間とは違い、範囲を極限まで狭めた連射回廊を、梓は舞のような歩方で遡上していった。
     ドガガガガガガッ!
     いくつかの直撃弾が、容赦なく体を穿つ。その度に梓は、右に左に体を回し、動きを重ねた。
    「鈴鳴の技、とくと、ご覧あれ!」
     梓は息を吸いなおし、背の不死鳥の羽根を散らすほどの勢いで、己の拳を晴嵐に叩き付けた。彼女の覚悟を象徴するかのように、火の手はさらにさらに強くなって――。

     その炎翼が、全て風に乗って消えた時。
     武神大戦天覧儀は、滞りなく勝者を祝福する。

    ●呼び声と呼び声
     ひとりのアンブレイカブルが居た。
    「……?」
     怪訝な顔で手の平を眺め、指を曲げ伸ばしする。
     足元には消え行く晴嵐。空には星が輝く。夕陽はとうに沈みきっていた。
     そういうことね、とアンブレイカブルは呟いた。つまらなさそうに溜息交じりで。
    (「俺の次に攻撃して、闇堕ちか。俺がもっと力を出し切っていれば……いや」)
     細かいことは考えまいと、千早は頭を振る。アンブレイカブルの前に立ち、同時に腕を振る合図で、仲間たちを周囲に展開させた。
    「梓、聞こえているか! その姿は本意ではないだろう。今、助ける」
    「本意でない……? ふふ、そうね」
     アンブレイカブルは、意外なことに素直な頷きを見せる。しかしその直後。
    「だから、ちょっとストレス発散に付き合ってね?」
     千早の顔が、鉄拳の一撃でひしゃげることとなった。アンブレイカブルの先制攻撃だ。
     間髪いれず、夜魅がアンブレイカブルに殴りかかる。その攻撃をアンブレイカブルは軽い動きで逸らすが、夜魅は諦めず再度食らいついた。
    「戻ってこい! お前なら自分の中の闇にも勝てるはずだ!」
    「お生憎様。私はもう外なのよね、と……あら?」
    「そこだあっ!」
     アンブレイカブルの動きが一瞬淀み、そこに夜魅の強烈な一撃が突き刺さった。強引な攻めを続けた夜魅の、競り勝ちも言えるか。
    「……なに。まぐれだけで勝てるつもりなの……?」
     頬の傷を、信じられないという表情で撫でるアンブレイカブル。その肘に、唐突に飛来した導眠符が貼りついた。
    「!」
     符の打ち手は、奏。千早の負傷は、即時の治療が必須ではないと判断しての攻撃だ。
    「がんばって、梓さん! 闇に打ち勝って、どうか一緒に学園へ帰りましょう」
    「ああ、もう!」
     アンブレイカブルは、呼吸を整えて立ち直る。爪先をとんとんと打ちつけると、着ている服を風に膨らませるような、独特の動きで戦闘姿勢を取った。
    「割と楽しませてくれるじゃない。貴方たちも、私も」
     そこをふいに丸い光が照らし、夕闇の中から浮かび上がらせた。部隊演劇のスポットライトのような効果をもたらしたそれは、紗紅が持ち込んだヘッドライトのものである。
    「全員で帰るのだと、私は決めております。どうか、ダークネスに負けないでください」
     祈りのように言うと、紗紅の背後にプリズムの十字架が降臨した。光はさらに明るく、アンブレイカブルを照らしだす。
     その影、夜色の側から、時兎がゆるりと姿を現した。手にした妖の槍が、寡黙を貫く主の代わりに、きりきりと輝く。
    「……よっ、と」
     びゅう、と、枯れ風のように、穂先が空を裂いて鳴いた。アンブレイカブルは身を躍らせ、上げた腕の下に柄を潜らせる。そのまま踏み込み、時兎へ顔を近づけてきた。
    「どうしました? どうして、貴方は私を呼んでくれないの?」
    「別に……けど、『フリ』に騙される俺たちじゃない」
     アンブレイカブルは目を細め、間合いを離そうとした。しかし時兎と入れ替わりに、謳歌がバベルブレイカーごと突っ込んでくる。
    「大丈夫だよ、すぐに助けるから! これで!」
     何か言いたげなアンブレイカブルに構わず、謳歌はバベルブレイカーを操作し、杭を高速回転させ始めた。何はともあれ、目の前のダークネスをKOしなければならないのだから。
    「みんなで一緒に、帰ろうっ!」
    「…………!」
     アンブレイカブルはオーラを集中させて防ごうとするが、謳歌の突破力がそれを上回った。弾かれて転がるアンブレイカブルの目に、トンファー型のマテリアルロッドを回すなつみの姿が映る。
    「ありがとね、梓さん。あの時ためらわないでくれたおかげで、被害を最小限にできた」
     なつみは手首の返しでトンファーの向きを変えると、視界の外をフックでアンブレイカブルを突いた。魔力のスパークが轟音を立てる。
    「帰ってこない、なんて言わないで。ね?」
     なつみは、首を傾げて優しく微笑んだ。

     そのままダークネスとして灼滅される可能性が、全く無いわけではなかった。ただ、この場の誰一人として、彼女の帰還を疑ったりはしない。
     彼女自身も、そうだった。思いによる戦いは、クライマックスを迎える。
    (「全力で抗い、戦って!」)
     伸ばした手の先に、光を掴んで。
     すれ違った闇の塊は、まどろみに見た夢か、それともダークネスそのものか。振り向く意味はない。
    (「絶対にまた抑えこんで、私の力にしてやるわ」)
     魂だけという朧な感覚の中で、しかし確かに、彼女は最後の一歩を踏みしめた。
     そして彼女は――鈴鳴・梓は、無事に目を覚ます。
     変わらず、灼滅者として。

    作者:君島世界 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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