倒壊的奇蹟餃子

    作者:小茄

    「ついに……ついに完成ヨ! 3000年の歴史を持つ神秘の料理、ミラクルチャオズ(餃子)……この究極の味をもってすれば、この島国の人間を虜にする事など簡単ネ!」
     半透明の皮を持つ一口サイズの餃子を、スープの入った皿に盛りつける餃子怪人。余程味に自信があるらしく、日本征服を確信して疑わない。
     ――ゴゴゴゴォ……。
    「む?」
     そんな怪人の耳に聞こえてくるのは、地鳴りのような低い音。間もなく足下からも震動が伝わり始める。
    「工事? いや……これは……」
     ――ゴ、ゴ、ゴ、ゴ。
    「ロードローラーだっ!?」
     轟音を響かせ、道幅一杯に姿を現したのは、道路舗装などで用いられるロードローラー。
     普通と違うのは、車体の前部に人間の顔がついている事。
    「潰すよー! 潰しちゃうよー☆」
     愉しげに嗤いながら、一層速度を増すロードローラー。
    「なぜ! なぜダークネスが――」
     怪人は逃げようとするが、背後には餃子屋台。自分が逃げれば屋台は潰されてしまう。
    「うぉぉぉっ! ミラクル餃子は伊達じゃない!!」
     ――がしっ。
     なんと餃子怪人は、押し寄せるロードローラーを両手で受け止めた。
     ――ぷちっ。
     が、そんな事はもちろん無理である。
     怪人とミラクル餃子、そして屋台はぺしゃんこに潰されてしまったのだった。
     
    「『???(トリプルクエスチョン)』が動いたようですわ。彼は灼滅者『外法院ウツロギ』を闇堕ちさせ、分裂という特性を持つ六六六人衆を生み出しました……と言うところまではご存じかしら」
     序列二八八位『ロードローラー』となった彼は、分裂によって日本各地に散り、多くの事件を引き起こしている。
    「皆さんには、この事件を解決して頂きたいと言うわけですわ。……所でお一つ召し上がる?」
     有朱・絵梨佳(小学生エクスブレイン・dn0043)は水餃子を差し出しつつ、説明を始めた。
     
    「今回の事件は、神奈川県が舞台ですわ。餃子怪人を潰そうとしているロードローラーを倒すのが目的ですの」
     知っての通り、ロードローラーはかなりの強敵だ。餃子怪人と共闘すると言う手も、この際有効かも知れない。
    「怪人は路地裏でひっそりと屋台を営んでいますわ。さくっと説得出来れば、それだけ有利でしょうし、説得に失敗したり、共闘をしない方針であれば、彼は未来予測通りロードローラーに潰されてしまいますわ」
     もっとも、本来敵同士の灼滅者と怪人なので、説得と言っても一筋縄ではいかないかも知れない。
     とは言え、説得を試みて損をする事も無い。ここはダメ元で思い切ったアプローチを試みても面白いかも知れない。
     
    「ロードローラーがどうして餃子怪人を狙うのかは、今のところ不明ですわ。何にせよ、ダークネス同士の戦いに介入して美味しいところを頂くのは悪くは無い手でしょう? ロードローラーを撃破した後、餃子怪人を灼滅する事も出来るかも知れないけれど、まぁその辺は皆さんにお任せしますわ」
     ともかく今回は、ロードローラーを倒す事が目的だ。
    「では、いってらっしゃいまし」
     そう言うと、絵梨佳は灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    ミレーヌ・ルリエーブル(断頭台のロマンス・d00464)
    華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)
    日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)
    黛・藍花(藍の半身・d04699)
    斉藤・歩(炎の輝光子・d08996)
    逢見・莉子(珈琲アロマ・d10150)
    狩家・利戈(無領無民の王・d15666)
    屍々戸谷・桔梗(血に餓えた遺産・d15911)

    ■リプレイ


    「ついに……ついに完成ヨ! 3000年の歴史を持つ神秘の料理、ミラクルチャオズ(餃子)……この究極の味をもってすれば、この島国の人間を虜にする事など簡単ネ!」
     中華街の片隅、湯気を立たせる水餃子を手に、勝利を確信する餃子怪人が居た。
     彼は横浜餃子怪人。日本国内では珍しく、本場風の水餃子をテーマとした怪人である。その彼が長年の研鑽を経て、ついに完成させたのがミラクルチャオズであった。
    「さて、今日の所はそろそろ……」
    「ミラクル餃子一人前、いただけるかしら」
    「っ?!」
     声を聞いて振り向けば、先ほどまでひとけの無かった裏道に若い男女の姿。
    「い、いつの間に……おまえ達、さては……」
     やはり相手はご当地怪人、警戒されるのはやむなし。
     限られた時間内に、彼と信頼関係を築く事など出来るのだろうか? 声の主であるミレーヌ・ルリエーブル(断頭台のロマンス・d00464)の脳裏にそんな考えがよぎる。
    「ミラクルチャオズの匂いに惹かれてやってきたカ! かなりのチャオズハンターネ!?」
    「はい、まさにそうなんです。その奇跡の餃子を試食に来ました」
     が、淀みなく話を合わせてゆく華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)。
    「あんちゃん、俺にも一つくれや」
    「私にも」
    「全員分よろしく!」
     早速オーダーする狩家・利戈(無領無民の王・d15666)に釣られ、我先にと一同餃子を注文。
    「すぐ作ってやるから待ってるアル!」
     ――しゅばばば!
     生姜、長ネギ、白菜、ニラを凄まじい速度でみじん切りにする怪人。
     ひき肉、ラード、調味料を加えたボウルの中に生姜と長ネギの刻んだものを投入し、粘りけが出るまで良くこねると、更に白菜とニラを加えて尚もこね続ける。
     それらを冷蔵庫で1時間ほど寝かせたものを取り出すと、今度は皮造り。よくこねた皮の塊を棒状に伸ばし、均等に切断。麺棒を使って直径6cm程に伸ばしてゆく。この間、僅か1分足らず。
     具を入れて包み、餃子の形にすると、沸騰した湯の中へ。
     やがて茹で上がった餃子に、三杯酢におろし生姜、おろしにんにく、ごま油を加えたたれを添え、一同の前へ差し出す。
     通常の調理法では考えられない早業は、さすがに怪人と言った所か。
     一同、一口ずつ実食。
    「「!?」」
    「こ、これは……、焼き餃子とは比べ物にならない味わい深さです……」
     普段は無口で無表情な黛・藍花(藍の半身・d04699)だが、僅かに目を見開いてそう呟く。
     奇跡の名に恥じぬ、圧倒的な風味に少なからず感銘を受けたのだろう。
    「これは、一口食べれば水墨画の桃源郷が広がる! スープと合わせると、まさに極楽!」
     同様に、賛辞を惜しまず餃子の余韻に浸る紅緋。
    「餃子っていうとぱりぱりの焼き餃子ばっかりフィーチャーされてるけど、わたしは水餃子の方が好きねー。このスープともちもち感がいいのよね!」
     うんうんと頷きつつ、早くも2つめを口に放り込む逢見・莉子(珈琲アロマ・d10150)。
    「っ! こ、こいつは美味え! あんちゃん、もう一つくれ!」
     利戈に至っては、早くも一皿を平らげるペースだ。
    「ははは、中々の食べっぷりネ! お腹いっぱいになるまで作ってやるヨ!」
     と、怪人が再び餃子を作ろうとしたその時――
     ――ゴゴゴゴ……。
     彼方の方より聞こえ来る地響き。
    「来たみたいなのです」
     餃子を食べず離れた場所に居た日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)が手を挙げて報せる。
    「潰すよー! 潰しちゃうよー☆」
     次第に大きくなってゆく地鳴りと共に、ついに姿を現したのは人面ロードローラー。闇堕ちして分裂した外法院ウツロギである。
    「な、アイツは何アルカ!?」
    「怪人さん、アレはあなたを狙っていますが、私達の敵でもあります、……水餃子を愛する者同士、ここは共に戦いましょう」
     餃子の皿を屋台に置き、共闘を持ちかける藍花。その背後には、彼女に瓜二つの容姿を持つビハインドの姿。他の灼滅者達も既に戦闘態勢を整えている。
    「お、お前達……なんで私がお前達と手を組まなきゃいけないアルか! お前達多くのご当地怪人を倒した不倶戴天の敵、私知ってるヨ!」
     と、さすがに餃子怪人も共闘には難色。こういった状況では無理もない。この程度は灼滅者も予想済みである。
    「ま、考えてみるっすよ。この餃子を日本に普及させて見せる! するとどうっすか? 日本の餃子=横浜餃子になるのも時間の問題。その時、怪人さんは今以上のご当地パワーを得て、全世界に根ざす餃子すら完成させることも夢物語じゃあないんっすよ!」
     動揺する餃子怪人の肩にポンと手を乗せ、語りかけるのは斉藤・歩(炎の輝光子・d08996)。
    「そ、そりゃそうヨ!」
    「そんなチャンスを、お前の店を、そしてなによりお前の餃子を、あんなのに潰されていいのか!? さあ、選択の時は来た! どうする横浜餃子怪人!」
    「む、むむっ……」
    「潰すよ潰すよー☆」
     轟音を立てながら、ジワジワこちらへ進み来るロードローラー。確かに「あんなの」と呼ぶに相応しい、ふざけた外見と態度だ。
    「うまく言えねェが……私は六六六の連中のワケわかんねェ下衆な理由でアンタを潰されるのは癪に障るのさ」
     そんなロードローラーの進路上、犬変身を解いて姿を現したのは屍々戸谷・桔梗(血に餓えた遺産・d15911)。怪人と屋台を守る様に仁王立ちする。
    「むむ……」
    「今だけアンタの味方してやるぜ……うまい餃子のためにもな」
    「解った、解ったヨ! 餃子もまだ完食してないネ。アンタ達今はまだ私のお客ヨ!」
     と、餃子怪人も共闘に同意する。
    (「……不本意ながら今回は共闘しますですよ」)
     怪人を不倶戴天の敵と見做すのは、沙希も同様。だが、今はともかく目の前のロードローラーへと意識を向ける。
     かくして、灼滅者とご当地怪人という奇妙なパーティがここに生まれたのである。


    「それそれーい☆」
     ――ドドドドッ!
     猛然と押し寄せるロードローラー。コミカルな外見とは裏腹に、その迫力は圧倒的。
    「刎ねろ、断頭男爵!」
     愛用の解体ナイフとガトリングガンを手に、ロードローラーの進路から逸れるように位置取るミレーヌ。
     ――ドドドドッ!
     無数の弾丸がローラーに炸裂して炎に包み込む。
    「華宮・紅緋、これより灼滅を開始します」
     次いで動き出すのは紅緋。地面を蹴って跳躍したかと思えば、ビルの側面を蹴って三角跳び。
    「さあ、ぶっ潰しますよ!」
     鬼神の力を帯びたその腕をロードローラーの側部へと叩き込む。
     ――ドガァン!
     強力な一撃に、ぐしゃりと歪む車体。
    「ロードローラーになってしまった変態ダークネスは神からのお仕置きなのです」
     間髪を入れずに逆から間合いを詰めるのは沙希。こちらもその腕に鬼神を宿すと、反対側の車体を痛撃する。
     ――ゴシュッ!
    「……邪魔するなよー☆」
     だが、車体をひしゃげさせながらも、全くその勢いを弱めないロードローラー。
    「上等だぜ……そういや名乗ってなかったな。ストリートファイターの歩だ。さあ、かかってこいよ、車(ボーナスステージ)」
     クイクイと挑発する歩。ロードローラーはこれに乗った様に、猛然と突進を仕掛けてくる。
    「はぁっ!」
     ――がしぃっ。
     その突進を受け止めた、かと思いきや、相手の力を利用して投げ飛ばす歩。
     ――がしゃーんっ!
    「……やったアルか?!」
    「いや、まだだ!」
     ひっくり返ったロードローラーを見て気を抜きかける怪人に、桔梗が注意を促す。
     ――ゴゴゴゴ。
     どの様な仕組みなのかは不明だが、横転したロードローラーが再び元の態勢へと起き上がってゆく。
    「テメエ、俺の優雅な餃子タイムを邪魔しようってのか! 上等じゃねえか、返り討ちにしてやらあ!」
     食事を邪魔された利戈は、真っ向から距離を詰め、バベルブレイカーを突き立てる。
    「しかし、さすがにタフだな……」
     シールドで殴りつけつつ、その硬さに辟易した様に言う桔梗。
     ロードローラーは依然としてその勢いを失う事なく暴走車の如く動き回る。
    「やらせません」
     跳ね飛ばされた前衛の傷を、祭霊光によって回復する藍花。
    「くらうヨロシ!」
     怪人もまた、中華鍋を手に殴りかかる。
     灼滅者プラス怪人の集中攻撃によって、ボロボロになりつつあるロードローラーだが、その勢いはいまだ健在。
     一同は勝負を決めるべく、じわりとその包囲を狭めてゆく。


    「ダークネス、それも分裂体に言っても仕方ないけど……ちょっとは自重しなさいよ!」
     ――ドスッ!
     ミレーヌのナイフ、断頭男爵の鋭牙がタイヤに突き刺さり、そのまま切り裂いてゆく。
    「そろそろ観念して下さい!」
     ――ガシャンッ!
     紅緋はみたびビルを蹴って跳躍すると、運転席へと乗り込み鬼神変を叩き込む。
     計器類のガラスが割れて破片が飛び散る。
    「貴方は何をやっているのですか! お仕置きです」
     尚も爆走を続けるロードローラーに対し、側面から間合いを詰めたのは沙希。炎を纏った神楽鈴を叩き込む。
     ――ぼっ!
     流れ出したガソリンに引火し激しく燃え上がるロードローラー。それはまさに、亡者を地獄へと運ぶ火車の如くだ。
    「さすがにもう動けないはずアル……」
     タイヤもパンクし、炎上するロードローラー。しかし先ほどの事もあり、やや慎重に様子を窺う一同。
     ――ゴゴゴゴ……。
    「……まだまだ潰ーす☆」
     やはりまだ息絶えては居なかった。もはやロードローラーそれ自体が巨大な猛獣の様に、肉食獣の如く飛びかかってくる。
     目標は怪人だ。
    「避けて!」
    「私の屋台ガ!」
     とっさに声を掛ける莉子に対し、怪人は自分の背後にある屋台の事を考えてその場に留まろうとする。
    「行って、……水餃子怪人さんを守ってあげて」
     藍花の指示を受け、これまでにないタイプの指示を怪訝に思ったか否か、ともかく素早くこれに従って動くビハインド。屋台の前の怪人を突き飛ばす。
     ――ドガシャーン!!
     間一髪、怪人は助かったが屋台はぺしゃんこに押しつぶされてしまった。
    「動きが止まった、今だ!」
    「潰し、穿ち、ぶち壊す! 我が拳に砕けぬものは何もない! 食いモンの恨みの恐ろしさを知れやゴルア!」
    「どんな意図でこんな厄介ごとを撒いてるんだろな……考えはわかんねぇが、叩き潰す!」
     屋台の残骸に乗り上げ、隙を見せるロードローラー。莉子の声に応え、利戈、桔梗も一気に三方から間合いを詰める。
     莉子の足下より放たれる影が、利戈の王気・紅が、闘気を帯びた桔梗の拳が次々にロードローラーの車体へ叩き込まれる。
    「効いたかい? じゃ、壊れな」
     ――ガッ!
    「ぐはあっ……」
     雷の闘気を帯びた歩の掌底が、ロードローラーの顔面を打ち抜くと、ロードローラーのエンジン音は次第に小さくなってゆき、やがてうんともすんとも言わなくなった。


    「皆さんお疲れ様でしたっす! けど、ロードローラーってまだ居るんっすよね、ゴロゴロと」
     ロードローラーだけに……と、上手いことを呟く歩。
    「やれやれだぜ……そうだ、あんちゃん。水餃子、土産用に持って帰りたいんだけど、作ってくんねえか? ……あー」
    「……見ての通りアル」
     莉子の問いかけに、かぶりを振る怪人。屋台はぺしゃんこに潰れており。これでは、餃子は作れそうにない。
    「なぁに、また1から出直せば良いアル。レシピは頭に入ってるネ」
    「そうね……餃子、ごちそうさま。早く復旧出来るといいわね」
    「では、私達はこれで失礼します、これからもロードローラーにはお気をつけて」
    「ナイスファイトだったぜ……次に会う時は敵同士かもしれねぇ……でも、今は共に戦ったダチだぜ!」
     ミレーヌ、藍花、桔梗は代わる代わる怪人へ別れを告げ、怪人も片手を挙げてこれに応える。
    (「餃子は好きですが、餃子怪人は大っ嫌いなのですよ」)
     本来ならここで餃子怪人も灼滅しておきたいと考えていた沙希。だが、独力ではさすがに難しい。仲間を強制的に巻き込むよりはと、ここは静かに矛を収める。
    「じゃあな!」
     餃子怪人に別れを告げ、路地裏を後にする一行。
    「今更ですけど、建物も通りも中華風。これだけでも来た甲斐がありましたよ」
     紅緋は中華街の町並みを見回すと、学園のカメラ仲間の為にデジカメで撮影。幸い、まだ観光をする時間もありそうだ。
     かくして無事ロードローラーを灼滅した一行は、中華街をぶらつきながら凱旋の途に就いたのであった。

    作者:小茄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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