厨二心をくすぐってみるテスト

    作者:柿茸

    ●とある中学校
    「なぁ。俺の能力はいつになったら覚醒するんだ?」
    「分からない。けど、現時点でも既に覚醒しかけているわ」
     昼休み。生徒達が遊んでいるグラウンドから離れた木陰にて、1組の男女が隣り合って座り、木に背を預けていた。
     パッとしない風貌の男子生徒の方は、まじまじと自分の眼前に掲げた手を見ている。隣に座る、クールビューティを体現したかのような女生徒は横目でそれを見つめていた。
    「そもそも昨日も護ってくれたでしょう? あんな化け物を1人で撃退するなんて一般人にはできない芸当よ」
    「まぁ、そりゃそうだが……」
     ぼやきながら、男子生徒はここ数週間に起こった出来事を思い出す。
     いきなり目の前に傷だらけで現れたこの少女。そして、それを追ってやってきたと思しき化け物。
     まるで漫画のような展開に足どころか体全体が震え、ショックから意識を失ってしまったが、気が付けば生きていた。それどころか化け物は倒れ伏していて、少女は驚きに目を見開いていた。
     話によれば、意識を失ったと思ったらどうやら俺は暴走していたらしい。力の赴くままに化け物を打ち倒し、力を使い果たしたところで倒れたようだ。
     少女は、裏の世界で生きる重要なナントカカントカで命を狙われているとか言った。よく分からないが、この世界は実は見えている物は幻想で、裏の世界が真実らしい。
     実際、その日以降、何かと化け物に襲われることになった。いや、正確には突如として転校してきたこの少女を狙う化け物を俺が何とか退治する。不思議と激闘を繰り広げているにも関わらず、怪我はなかった。
     少女曰く、それが力が覚醒してきている証拠だと言った。そして、私を護る盾になって欲しいとも。
    「……ああ、護るさ。絶対に」
     こいつはツンと澄ましていて、本当に素っ気ない奴だけど。
    「……ありがとう。期待しているわ。達也」
     こういう、時々見せる微笑みが、凄く可愛い。
     絶対に、護ってやるさ。
     
    ●教室
    「淫魔達が、また良からぬ活動をしているみたい」
     田中・翔(普通のエクスブレイン・dn0109)の話によれば、淫魔達が強力なダークネスになる素質のある一般人男子に狙いを定めて接触し、様々な演出を加えて、忠実な配下ダークネスとして覚醒させようとしているらしい。
    「その演出が上手くいっていて、今現在対象の一般人は闇堕ち直前」
     絶賛大ピンチである。
     ところで、その演出とは一体。と集まった灼滅者の誰かが質問した。素麺を飲み込みつつ1つ頷く翔。
    「厨二、とでもいうのかな?」
     単なる一般人だと思ってたら俺には実は凄い能力が眠っていて、それが突如目の前に現れた少女とそれを襲う化け物を見た瞬間発現してうんたらかんたらという、実に分かりやすいテンプレである。
    「ついでに、演出的に少女がその能力を見込んで、次の日には主人公の学校に転入してきて、あなたの力は覚醒しきれていない。覚醒を手伝うから護ってくれと言う恋愛展開に発展するフラグのおまけつき」
     これはモテない上に厨二心を持つ年頃の男の子にはたまらない出来事。しっかりとこの世界には実は裏の世界があって普段見えている表の世界は平凡だが裏では云々という世界設定まで織り込み済みである。
    「というわけで、その男子生徒……山田・達也って言うんだけど、その演出をまんまと信じて覚醒という名の闇堕ち直前なんだ」
     山田・達也。中学二年生。パッとしない、冴えないただの男子生徒。それなりにゲームもやるし漫画も読むし、こういうことがあったらいいなぁとか思う年頃の男の子である。助けた少女が淫魔だとか知る由もないし、その淫魔の言葉を鵜呑みにしても仕方ない。
    「……それで、君達にとれる方法なんだけど」
     一つ、達也が闇堕ちすること覚悟で有無を言わさず速攻で淫魔を灼滅しに向かう。
     一つ、自然な方法で達也と淫魔を引き剥がして淫魔を撃破する。引き剥がした時に達也へ説得をしておかないと、淫魔が灼滅されたことを知った時に闇落ちしてしまうかもしれない。
     一つ、引き剥がすことなく、淫魔と一緒にいるところで達也を説得し、その後淫魔を灼滅する。説得さえできれば闇堕ちの心配を全くすることなく、淫魔の灼滅に集中できるだろう。説得さえできれば。
     他にもまだまだやりようはあるかもしれない。
    「なんにせよ、達也と淫魔は、君達灼滅者が介入できるタイミングの時には一緒にいる」
     介入できるタイミングは下校時。人気のない道端を2人で歩いている時だ。
     ここで淫魔は今までそうしてきたように、この時も戦闘能力のない眷属を自分に襲わせ、達也に返り討ちしてもらうように見せかける。眷属は本当に戦闘能力がないので、灼滅者ならものの一分とたたず灼滅させられるだろう。
    「この眷属の襲撃タイミングに十分間に合うどころか、先に眷属を灼滅しておくこともできる。放置していたら、眷属を達也が撃退する時、達也は闇堕ちしちゃうね」
     達也は闇堕ちするとデモノイドになる。また、その時に使用するアビリティは、デモノイドの3種に準拠する。
     また、淫魔の方はデモノイドへのエンジェリックボイスの支援のほかに、攻撃には隠し持っていたガンナイフを扱う。
    「淫魔は少し弱めのダークネスみたいだけど、達也が闇堕ちした場合、強力なデモノイドになるから注意してね。戦って勝てないことはないと思うけど……」
     なお、闇堕ち直後なら、非常に厳しいことではあるが、その場で救出できる可能性が残っている。
    「……本当の裏を知らないから、非日常に憧れることってあるよね」
     素麺を食べ終えた翔は、箸を容器の中にしまいながら無表情のまま告げる。
    「でもやっぱり、平和な日常が一番だよね」
     それじゃ皆、頑張ってね。と、一礼して。翔は送り出すのだった。


    参加者
    水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)
    ロロット・プリウ(ご当地銘菓を称える唄を・d02640)
    椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137)
    猪坂・仁恵(贖罪の羊・d10512)
    中川・唯(高校生炎血娘・d13688)
    靴司田・蕪郎(靴下大好き・d14752)
    日向・一夜(雪花月光・d23354)
    ルーナ・カランテ(ペルディテンポ・d26061)

    ■リプレイ

    ●前世とかそういうの
     夕方の、人通りが少ない道。そこを歩く学生の男女が1組。
    「……嫌な予感がするわ」
    「……ということは、来るか」
     女子生徒の言った言葉に、男子生徒―――山田・達也が軽く身構えつつ、辺りをキョロキョロと見はじめた。
     そのまま、緊張の面持ちなまましばらく歩く。だが、緊張しっぱなしの達也とは対照的に、女子生徒―――淫魔の方は軽く眉をひそめた、その時。
    「見つけたわ!」
     後ろからの声に振り向けば、お姫様っぽいフリフリのドレスを着た身長180cm台、かつ精悍な身体の青年が立っていた。靴司田・蕪郎(靴下大好き・d14752)である。うん、好青年らしいけど好青年って言いたくない。
     淫魔と達也がたじろいでいるその間に、そこにいたのか、ようやく見つけたぜ、などと言いながら次々と集まってくる少年少女達。我らが灼滅者である。
     そして最後に駆けつけた猪坂・仁恵(贖罪の羊・d10512)は、立ち止まることなくそのまま達也に、涙目で抱き付きにかかった。思わず受け止める達也。
    「会いたかったです……!」
    「え、ええっと?」
     全く持って状況が呑み込めない達也。淫魔も一体これはどういうことだと動揺している。
    「和也……今世は、ハイナが絶対に守るです!」
    「か、カズヤ? いや、人違いじゃ」
    「和也さん……私達の事まで、忘れてしまったんですか……?」
     前世名ハイナ、もとい仁恵を引き剥がせず困っているところに、ロロット・プリウ(ご当地銘菓を称える唄を・d02640)の追撃の言葉。
     どういうことだと目線を向ければ、日向・一夜(雪花月光・d23354)が一つ咳払いをして、口を開いた。
    「僕らは前世で君と一緒に魔王と戦った仲間なんだ。そして、君を、和也を助けに来た」
    「え、ええとそれってどういう」
    「達也、耳を貸したら駄目。あいつらはあなたを騙そうとしている」
     混乱する達也に、横から淫魔が口を挟んでくる。それを見て悲しい表情を見せた水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)。
    「ありす……違う、君は記憶操作を受けてしまったんだ。組織に入った時に」
    「ありす? 何言ってるの?」
    「何って、前世でのあなたの名前ですよー、ありりん」
     全く訳が分からない、という表情の淫魔にルーナ・カランテ(ペルディテンポ・d26061)が告げる。その間の僅かな隙を縫ってでも現在の状況を説明する一夜。
     曰く、僕らは前世で達也(前世の名前は和也)と一緒に魔王と戦った仲間。
     曰く、達也を狙う組織がある。
     曰く、ありすは前世で達也の恋人で達也を守るために組織を裏切った。
     曰く、だが、組織に入る時に記憶操作を受けて前世の記憶は消し去られてしまっている。
     曰く、裏切ったのは無意識下で覚えていた前世の絆がそうさせたから。
     口を挟ませる隙も無く、仁恵が抱き着いていることで身動きが取れずその場から移動することもできない達也にこれらのことを説明する。
    「ちなみに私は前世では男だった。そして彼は、いや、彼女は、女性だった」
    「だからやっぱり、前世の性別に合わせた格好の方が落ち着くのよねぇ!」
     瑞樹、さりげなく蕪郎の格好をフォローするが、蕪郎はまずそのくねくねやめてください。
     戸惑うように達也は淫魔を見た。
    「嘘、嘘よ! 私を、達也を騙そうとしているのよ!」
     淫魔が叫ぶ。
    「ありりんちゃん、熱くならないで。冷静になって、そして本当の自分を思い出して?」
    「近寄らないで!」
     蕪郎がそれを宥めようとするが、色んな意味で逆効果になっている。まぁ純粋に見た目変態ですもんね。
     その時、あー、もー! と言いながら、中川・唯(高校生炎血娘・d13688)が無遠慮に仁恵をと交代するように達也の腕を掴んだ。
    「あんたがこのまま覚醒すると、ありりんが危険なの!! 本当にありりんを守りたいならすぐに離れてっ!!」
    「は? それってどういう」
    「その力、強大すぎるんですよー。下手に今覚醒したりすると危険なんです」
    「このままあんたが不自然な覚醒をしたら、この町が無くなるかもしれない」
    「なっ……!?」
     ルーナと唯の説明に驚きの表情を見せた瞬間、唯が思いっきり腕を引っ張って淫魔の傍から引き離す。
    「だからちょっとこちらへ!」
    「あ、おいちょっと!!」
    「待ちなさい!」
     そのまま、ルーナの引率の元連れていこうとするが、当然ではあるが、2人はそれをよしとしない。
    「ありりんに近づいちゃダメだって!!」
     どうどうと淫魔と達也の間に入る灼滅者達、そのまま引き摺って行こうとする唯。それでも抵抗する達也の隣に、真顔になったルーナが立った。

    ●引き剥がし
    「何度も言わせないで。……あなたが傍にいると、ありすが危険なのよ」
    「っ……」
     淫魔を引き合いに出されると弱い様子。テレパスで考えを読み取れば、淫魔のことを護りたいと思う彼の気持ちがなだれ込んでくる。
    「はい、和也、行くです。覚醒したいって気持ちでいっぱいなのは凄く伝わってきます。けど今覚醒したら……ありりんも不幸にするですよ」
    「そうだ。今ならまだ間に合う。あの時動いたからお前は……いや覚えてないなら知る必要はないよな、今は」
     仁恵がさらに押し、瑞樹が不安をあおる一言を付け加える。
    「そう、だからわたしと」
    「私が、一先ず覚醒封印の儀をしますから。だから、付いてきてください」
     それでも不安そうに背後を振り返る達也。達也と呼ぶ淫魔の声は聞こえるが、灼滅者の壁に阻まれ追いつくことはできない。
     と、その壁の一端。椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137)がおもむろに振り向いた。
    「忘れたのか、前世での彼女の想いを! いや、覚えている筈。お前の今の気持ち、それが答えだ」
    「前世、でも……俺を……」
    「だが今の彼女は結果としてお前を強制的に覚醒させようとしている。この世界……いや、彼女自身まで滅ぶ事も厭わず」
    「……」
    「なら、お前がやる事は分かってるよな。後は任せな」
    「どうする、気だよ?」
    「彼女の記憶を取り戻させる。……彼女の前世での最後の言葉、覚えてるだろ?『……また、何度でも会えるよ』その言葉を信じるんだ」
     親指を立てる武流。
     また、何度でも。そう達也は呟き、頷いて意を決したように振り返り、連れられて行った。
     だが、その心に。一抹の不安を抱いたままであることを、仁恵、蕪郎、一夜は感じ取っていた。
    「あんたが中途半端な覚醒のままありりんに付き纏うなら、私達はあんたを倒さなきゃならないの」
     そんなの私ヤダ。一応前世じゃ仲間だったし。
     腕を引っ張りつつ、唯が告げれば、達也は悔しそうな顔をする。
    「その気持ち、わかりますよー。私も和也……いえ、達也さんと一緒に戦えないのが悔しいですし」
     そう言いながら、達也を人気のない路地裏に連れ込んだルーナ。
     どうすればいいんだ? と戸惑う達也に、少し遅れてやってきた一夜は冷静に目の前に立った。
    「少し、じっとしていて。封印の儀式で衝撃が来るかもしれないけど……」
     そう言いながら、達也の胸に右手を置く。
    「古の力、静まりたまえ。恒久の平穏を―――」
     これが、封印の儀式。そう思った達也の首筋に衝撃が撃ち込まれ崩れ落ちながら暗くなる視界。何が起こったのか分からないまま、達也はそのまま気絶した。
     後ろから達也の首筋に手刀を打ち込んだ唯。ルーナも演技を解き、ため息をつく。
    「中学二年生ですもんねー……。それなら……仕方ないですねー。なんというか……仕方ないですねー」
    「そうだねー……。まぁ、早く合流しよう」
     そして2人は達也を人目に付かないように軽く偽装を施して、淫魔の元へと駆けだした。

    ●そして戦闘へ
    「忌々しいことをしてくれたわね。あんな嘘」
    「それはどっちだ」
     一方、達也が去った後の場では、既に戦闘が始まっていた。
     淫魔がガンナイフを抜き様に発砲する。ロロットを狙って宙を駆ける弾丸は、しかし途中に割り込んだフリフリドレスの青年に阻まれた。
    「ソォォォックス、ダイナマイツッ!」
     おまけにその言葉と共に何故か衣服が全てはじけ飛び、靴下とムタンガが再着用される。
     剥き出しの胸筋で弾丸を受け止める蕪郎。はじけ飛ぶ瞬間から何故か股間を隠す位置取りで現れていたナノナノのみずむしちゃんがシャボン玉で素早くその傷を癒す酷い絵面。
     その背中から逃れるようにロロットが飛び出し、影にて淫魔を拘束しようとする。
     後ろに跳んで伸びてくる影を避けた淫魔、その頭上に影が落ちる。見上げれば炎の剣を振りかざし飛び込んでくる武流の姿。
     焼き切られる淫魔に、さらに瑞樹の炎が突き刺さる。
     その間に、ルーナの霊犬のモップが癒しの力を溜めた目で蕪郎を見つめ、お礼に頭を撫でられる。感動でぷるぷる震えるモップの隣を、仁恵がエアシューズを燃やしながら滑走していった。
     振り上げる足と構えたガンナイフの銃身が激突し、炎と火花を散らす。その光景を、戻ってきた3人が見る。と同時にエアシューズを穿いたルーナが炎の軌跡を残しながら加速した。
    「戻ってきたか!」
     武流の声を背後に、そのまま仁恵と零距離格闘にもつれ込ませ殴り合う淫魔に蹴り込む。手応えがある一撃に仰け反ったところに、唯のクルセイドスラッシュを筆頭に灼滅者達が攻撃を畳み込んだ。
    「静なるかな、清なるかな。痛みも病も癒したまへ」
     淫魔も逃げる隙を伺いつつも反撃をするが、祝詞を紡ぐ一夜の吹かせる清めの風とみずむしちゃんやモップの援護もあり、灼滅者に疲労の蓄積は僅かにしか見えない。
    「―――っ!」
     優勢かと思われたが、それでも、やはり淫魔はダークネスである。隙を見てガンナイフから放たれた銃弾が、武流の左胸に吸い込まれるようにして撃ち抜いた。
     衝撃に踏み出そうとしたまま崩れ落ちる膝。回復役を筆頭に視線が一瞬、銃弾の先へと集まる灼滅者達。にやりと笑うダークネス。
    「……ま、だだ……ぜ!」
     それでも、武流は踏みとどまった。倒れかけた身体を、もう片脚で踏ん張って立て直す。歯を食いしばりながらもにやりと笑い返す武流に、今度は蕪郎や唯も混じった多量の回復が飛ぶ。
     流石に疲労の色は隠せないが、それでもここで灼滅者1人でも倒せない、という時点で淫魔の運命は決まっていたのだろう。一瞬だけ止まった猛攻は、その後止まることを知らない。
     瑞樹の鎖状の影が伸び、淫魔を縛り上げつつ先端の黒い錐が突き刺さる。身動きが取れないその身体に、ロロットが肉薄する。肉薄しながら構えられるは、魔力を込めた杖。
     その杖が、淫魔の身体に容赦なく叩き込まれ。
     淫魔は地面に崩れ落ちながら、そのまま消えていった。

    ●それは護るための嘘
    「ぅ……」
     達也が目を覚ました時、周りには灼滅者達がいた。
     ぼーっとする頭を振って覚醒させ、皆を見渡す。そして淫魔の姿がないことを確認して口を開きかけたところで、瑞樹が口を開いた。
    「すまない。説得の途中で組織が干渉を仕掛けてきて……」
    「肉体も精神も歪められてしまい……」
     一夜が申し訳なさそうに言葉をつづけるが、最後まで言い切らない。だが、それでも達也がそう思うのは十分だった。
    「そ、んな……」
     立ち上がりかけた手足から力が抜ける。ロロットが悲しげな表情のまま首を振り、その前に身を屈める。
    「大丈夫ですよ。ありすさんの魂はまだ救えます」
    「そう、なのか……?」
     俯いていた顔が上げられる。その顔をじっと見据え、灼滅者全員は頷く。
    「俺達は、これからあいつを助けに行く」
    「じゃ、じゃあ俺も」
     武流の言葉に立ち上がろうとした達也の額を、唯がデコピンする。
    「焦るんじゃないっ!」
     思わず尻餅つく達也に、ルーナがやれやれと息を吐いた。
    「だからー、力が落ち着くまでこちら側に関わっちゃダメですよー? ほんと下手したら世界が、いや、私が巻き込まれますからね!」
    「お前、前世からそんなだよな……」
    「あ、そうそう、私は前世ではあなたの仲間の魔物使いでした!」
     その名残がこちらの不思議な犬でっす! と隣から聞こえてきた言葉を無視して続けるルーナ。紹介されてぐったりとした様子ながらも吠えるモップ。
    「ほら、目から癒しの力的なアレを出してー」
     そしていきなりの無茶振りにおろおろするのだった。
     ちょっとは脱力したのか、その様子に力なく笑う達也の前に一夜が屈みこむ。
    「僕は先祖から、和也を守る使命を受け継いできた」
     和也の力は強大だから……暴走しないように。
    「だから暴走するようなことがないよう、一緒に肩を並べられるその時まで守るよ」
    「焦るなよ? ありすを助けに行くが、どれぐらいかかるかは分からないが……待ってるからな」
     覚醒した時には、導かれるはずだから。そう言い残し、踵を返して歩き出す瑞樹。それに続くルーナ、一夜。逆に達也に一歩踏み出す武流。
    「そういや記憶がないなら忘れてるかもだけどよ、俺とお前って昔は敵同士だったんだぜ?」
    「そう、なのか?」
    「それで何度か刃を交えているうちに友情が芽生えてーってな。漫画みたいなこと、マジでやったんだぜ?」
    「そ、そうなのか……」
    「ああ。だから、今世は敵対なんてしていないしな……前世より、もっと仲良くなれると思うぜ」
     だから、その時はよろしくな!
     そう言い置いて、去っていった面々を追いかける武流。
    「あの、ですね……私、前世では森を司る巫女だったんですよ」
     見た目の名残は、この瞳の色だけですが、とロロットは言い、そして達也の顔を見て軽く頬を染める。
    「その……私、和也さんのことが好きだったんです……でも、巫女は、恋愛禁止でしたし。それに何より、既にあの方が、ありすさんがおいででしたから……」
     そこまで言って、な、何言ってるんでしょう私。と目を反らしもじもじしながら独り言のように呟いている。
     しばらくしてから、再び見つめ直す。
    「私もまた……会いたいです」
     そう言い切ると同時、ロロットは直ぐに背を向けて走り去ってしまった。その背中を見つめていた達也に、不満そうな声が聞こえる。
    「私も和也を愛してるですのに」
     仁恵だった。無表情ながらに達也を見据え、次の瞬間抱き付いた。
    「……今度は、絶対に守るですから」
     それだけ言い残し、達也が反応する前に離れてロロットの後を追いかけていく仁恵。
     思わず、それを追いかけようと立ち上がった少年の前に、靴下とムタンガを装着し頭にも靴下を被った好青年が現れた。何か凄く恥ずかしそうにしてるんですが。
    「あの、もし、あの時の記憶が蘇ったなら今度は私と」
     ……ううんなんでもない。
    「でも、私いつまでも待ってるから!」
     達也の靴を一瞬にして脱がし、靴下に軽くキスをして頬を押さえ走り去る蕪郎。
    「……ああ、待っててくれ、皆」
     呆然としていた達也だったが、数分後。胸にそんな決意を秘め。
     彼は厨二心を持ったまま、日常に帰っていった。
     代わりに靴下をその場に捨てて。

    作者:柿茸 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 16/キャラが大事にされていた 3
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