屍より生まれるもの

    作者:天木一

     虫の鳴き声もしない夜の山。
     そんな闇の中、小さな透明の玉が山道を転がる。まるで何かに導かれるように止まる事なく転がり続ける。
     その先にあったのは骨が覗くかつて人だったもの。今はただ腐臭を放つ死体だった。
     玉はその死体にくっつくと、ぐちゃぐちゃと死体を転がし肉塊へと姿を変える。そしてまた肉玉として転がっていく。
     行く先々で肉片を見つけては肉塊は大きくなっていく。それはまるで雪だるまのように。
     最後に白骨を加えると、大きくなった肉塊の動きが止まった。
     中央の玉が輝き始める。玉には智という文字が浮き出て光は強くなる。
     やがて光が収まると、肉塊の中から白く細い腕が飛び出る。その腕には大きな鎌が握られている。ずぶりずぶりと、腕に続いて顔、体、脚と全身が姿を現す。
     それは水晶で出来た骸骨だった。大きな鎌を持ったまるで死神のような骸骨が肉塊から生まれたのだ。
     カタカタカタと音を鳴らし、生まれたばかりの骸骨は哂う。
     死の香りを振り撒く災厄の誕生を祝うように、空の月が骸骨を照らした。
     
    「みんな以前に灼滅した大淫魔スキュラを覚えているかなぁ?」
     質問しながら能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)は集まった灼滅者達を見渡す。
    「そのスキュラがどうもやっかいな仕掛けを遺していたみたいなんだよ」
     誠一郎は困ったものだと溜息を吐く。
    「実は八犬士が集まらなかった時の保険として、予備の犬士を創り出す仕掛けを用意していたみたいなんだ」
     犬士の霊玉と呼ばれる道具を使い、人間やダークネスの残骸を集めて新たなるダークネスを生み出すシステムのようだ。
    「このダークネスはまだ生まれたばかりで力は強くないよ、だけど時間が経つほど予備の犬士として力に目覚めてしまうんだよ」
     強くなればなるほど倒す事が難しくなる。
    「だから生まれたばかりの今、みんなに倒してもらいたいんだ」
     誠一郎の言葉に灼滅者は頷く。
    「敵はノーライフキング。武器は大鎌を持ってるみたいだね」
     出現する場所は夜の山道。灯りも無く月明かり以外は暗闇に包まれている。周囲に人気は無く戦うのに気を使う必要はないだろう。
    「さっきも言ったように時間を置くほど強くなるんだ。だから短期決戦を心がけて欲しい。それが勝利の鍵だよ」
     逃がすような事があれば手に負えなくなってしまう。
    「生み出されたノーライフキングは、スキュラによって八犬士の空位を埋めるべく創られた存在だからね。強くなればどれほど被害が出るか分からないよ。今を逃せばいつ倒せるかも分からないからね、何としても灼滅して欲しい。お願いするよ」
     誠一郎の見送りを受け、灼滅者達は新たなダークネスの生まれる山へと向かった。


    参加者
    狐雅原・あきら(アポリア・d00502)
    幌月・藺生(葬去の白・d01473)
    詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)
    リーファ・エア(夢追い人・d07755)
    柊・司(灰青の月・d12782)
    アルディマ・アルシャーヴィン(詠夜のジルニトラ・d22426)
    笹川・瑠々(異形を振るう凶殲姫・d22921)
    黒嬢・白雛(煉黒鳳凰クロビナ・d26809)

    ■リプレイ

    ●山道
     闇に包まれた山道。そんな誰も居ない場所を明かりが照らす。
    「夜の山道は何も見えませんのね」
     黒嬢・白雛(煉黒鳳凰クロビナ・d26809)はヘッドライトで周囲を照らすが、すぐに深い山の陰に遮られて遠くまでは見えなかった。
     霊犬のクロウが幌月・藺生(葬去の白・d01473)の袖を引っ張る。示された先に見えるのはごろんと転がった1メートルを超える塊。それは生き物の残骸で出来た肉塊だった。
    「くーちゃん偉い」
     そう言って藺生はクロウの頭を撫でてやる。
    「スキュラも面倒な置き土産をしていきましたね……ただでは死なない根性なのでしょうか」
     見習いたいものですと言いながらも、辺りに漂う腐臭に藺生はハンカチで鼻と口を塞いだ。
    「いやいやぁ、ロクでもない隠し玉とは聞きましたが、これはスゴイデスネ」
     狐雅原・あきら(アポリア・d00502)はそのおぞましい物体を見て目を丸くする。
    「いやあ、でも正面からの戦い! 楽しそうなのでワクワクしマスネ!」
     驚き顔もすぐに一変して楽しそうな表情に声を弾ませる。
    「ノーライフキングと聞けば、それだけで倒さぬ訳にはいかぬのですが、それにしたって醜悪なとこの上ない」
     まるで腐肉の卵ですねと、柊・司(灰青の月・d12782)は不快そうに視線を逸らす。
    「今になってスキュラの置き土産か……。厄介な」
    「本当に厄介な置き土産があったものですね……何にせよ、死者をこうした形で弄ぶのは許される事ではありません。必ず此処で倒します」
     アルディマ・アルシャーヴィン(詠夜のジルニトラ・d22426)は、その異形を目の当たりにして思わず呟き、隣で戦いの邪魔にならないようランプを置いた詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)も、思わず怯みそうになる臭気に眉をしかめながら、強い決意でもって対峙する。
    「犬士を創り出す……そんな事まで出来るだなんて、あの時灼滅出来ててホントよかったですね」
     リーファ・エア(夢追い人・d07755)は、スキュラが倒せてなければどれほど被害が広がったのかと想像する。
    「ま、怖いもの見たさに観察してみたくもありますけど……ここは真面目にお仕事お仕事」
     その時、肉塊の中央の玉が輝き始める。智と言う文字が浮き出ると、肉塊から白く細い腕が突き出た。続いて髑髏が呼吸するように顔を出し、全身が現われる。それは水晶で出来た骸骨だった。手に持った大きな鎌を引き出すと、抜け殻となった肉塊は腐った液体を撒き散らして崩れた。
    「スキュラの八犬士だかなんだか知らないが、骨のある相手の用じゃ。獲物が大鎌と言うのが特にな」
     にっと笑うと、笹川・瑠々(異形を振るう凶殲姫・d22921)は二振りの大鎌の内巨大な一本を地面に突き立てた。

    ●屍の王
     カタカタカタと骨が笑い声のように音を鳴らす。
    「現われましたね」
     腕時計で時間を確認した沙月が、仲間と視線を合わして確認すると刀を抜き放つ。冷気が放たれる刀身に風が集まる。
    「それでは、始めましょう」
     間合いの外から刀を振り抜く。纏った風が刃となって放たれ、骸骨の体に衝撃を与えた。
    『ナンダ、これハ』
     生まれたばかりの骸骨は顔を向ける。目の前には既に灼滅者が迫っていた。
    「生まれたてのノーライフキングさんには悪いですが、ここで眠って貰います。行くよくーちゃん!」
     走り出した藺生は靴のローラーで加速し、炎を纏って跳躍し骸骨の頭部に蹴りを入れた。同時にその後ろを駆けていたクロウが咥えた刀で胴体を斬りつける。
    「態々出てきてもらったばかりで悪いが、ここで灼滅させてもらおう。我が名に懸けて!」
     アルディマはカードを解放し剣を手にすると、剣を鞭のように伸ばし骸骨の体に絡み付かせた。
    「申し訳ございませんが……。もう一度死の世界へと帰っていただきたい」
     司は縛られた骸骨を見据えながら鱗の模様が描かれた朱槍を低く構える。
    「では、化け物退治と行きましょうか」
     弾丸のように加速すると、撥ね上げるように突きを繰り出す。穂先が肋骨を砕き背骨を狙う。だが大鎌の柄で弾かれた。司は槍を捻って引き戻しながらもう1本肋骨を砕いた。
    『何者ダ貴様ラハ! 何故我ヲ襲ウ?』
    「強力なダークネスになってもらっても困りますし、他の犬士と接触したらどうなるかも分からないですしね」
     骸骨の表情は分からぬが、困惑したように周囲を見るところへ、リーファが前に出る。
    「風よ此処に。……さあ、慎重にかつ大胆に、短期決戦、伸びる前に叩きましょう」
     盾から紅く輝く剣を抜き放つと、大きく踏み込み剣を振り下ろす。刃が骸骨の肩に当たり骨を砕いた。骸骨も反撃に大鎌を横薙ぎに振るう。そこへ霊犬の猫が割り込み咥えた刀で受け止めた。
    「敵が何であろうと、遍く闇は断罪ですの! 炎装!」
     白雛の全身が黒炎に包まれ、中から黒い装甲を纏った姿が現われる。その顔は髑髏頭をしていた。
    「影に呑まれろ!」
     足元から髑髏のような影が現われ、骸骨の肋骨を噛み砕く。
    『ヤルト云ウノナラ、遠慮ハスマイ、我ガ鎌ノ錆トシテクレヨウッ!』
    「大鎌使い同士、仲良く殺し合おうではないか」
     骸骨が大鎌を振るい戒めを破ると、嬉々として瑠々は大鎌を担ぐと駆け出す。勢いのまま殺意を込めた一振りが骸骨の首に迫る。
    『カカカカッマズハオ前カラカ!』
     大鎌を盾にして骸骨は受け止める。そして大鎌から放たれた闇の波動が瑠々を覆い吹き飛ばす。瑠々は勢いに逆らわずそのまま後ろに跳んで衝撃を和らげた。
     骸骨が大鎌を振りかざして追い駆けようとしたところへ、横からハイテンションな声が響く。
    「さ、張り切ってぶっ潰しましょうネ! アハハハ!」
     あきらが大きなギターケースを開けると、中から現われたのはチェロ。だがただのチェロではなかった。砲門が付いたガトリングガンとなっていたのだ。銃口を向けると銃身が回転し無数の弾を撃ち出す。
    『ヌウウッ』
     弾丸の雨に晒され、被弾しながら骸骨は身を引く。
    「その邪悪な力を払います」
     その間に沙月は蒼の護符を一枚指に挟むと、瑠々に向かって投げた。符が張り付くと、体を覆う闇と反発するように輝き闇を追い払った。
    『闇ヨ闇ヨ! 全テヲ薙ギ払エ』
     骸骨が手を伸ばすと、宙に漆黒の逆十字が現われる。そこから力が放たれようとした瞬間、人影が飛び込んだ。
    「そうはさせません」
     藺生が流星の如く飛び蹴りを決めて逆十字を砕いた。
    『ナニィ!?』
    「何もさせないまま倒します。一気にたたみかけますよ!」
     攻撃を邪魔され動きが止まった骸骨へ、司は腕を鬼のように異形化させて殴りつけた。骸骨は吹き飛び木にぶつかると地を転がった。
    「そのまま磔にさせてもらう!」
     アルディマが宙に魔法陣を生み出すと、そこから魔法の矢が放ったれ骸骨の体を貫き、地面に縫い付ける。
    『小賢シイ!』
     骸骨は大鎌を振るい気を薙ぎ倒すと旋風のように振り回す。
    「ムキになって怖い怖い」
     リーファは軽口を叩きながらも、大鎌の攻撃を剣で捌き、盾で受ける。そうして剣の間合いに入ると上段から剣を振り下ろす。刃は骸骨の頭を掠め水晶を散らした。
    『刈ラレルガイイ』
     リーファが間合いを離れるより先に大鎌が掬い上げるように迫る。それを瑠々が大鎌で受け止めた。
    「次は妾が相手じゃ」
     止まらぬ骸骨の連続攻撃を凌ぎ続ける、だが徐々に押し負けて後退すると大鎌が弾き飛ばされ木に突き刺さった。だが瑠々は手を伸ばし、先程突き立てておいた巨大鎌を握る。押されると見せて誘導したのだ。
    「戦神の力を用い全てを凌駕する……故に、戦神凌破刃!」
     斬り上げる刃が骸骨の胸を深く斬り裂く。
    『望ミドオリ斬リ殺シテヤル』
     骸骨も大鎌を振り抜こうとする。だがその腕に影が巻き付き自由を奪った。
    「どうした、斬り殺すんじゃないのか?」
     白雛の挑発に骸骨は大鎌に闇の力を宿して放とうとする。その時、美しい歌声が天高く響き、骸骨の体がふらふらとよろめいた。
    「ボクの歌はどうだった? 最高だったデショ!」
     あきらは自慢して言うが、意識を朦朧とさせる骸骨には聞こえていなかった。
    「そのまま眠ってください」
     司が夕暮れ色の杖に魔力を籠めて全力で振り下ろす。
     激しい衝撃に骸骨はバラバラに砕けて散らばった。

    ●死者
    「五分経過です」
     腕時計をちらりと見た沙月が時間を報せる。
    「終わりでしょうか?」
     藺生が思ったより呆気なかったと考えていると、クロウが激しく咆える。バラバラになった骸骨の手から漆黒の光が放たれクロウを貫く。
    「くーちゃん!」
     カタカタカタカタとバラバラになった骨が震える。そして近づいたかと思うと、水晶が増殖し接合していく。
    『不死なる我に挑んだ事を後悔するがいい』
     一回り大きくなった骸骨が大鎌に漆黒の力を纏って薙ぎ払う。
    「私の後ろに!」
     叫びながらリーファと猫が前に飛び出る。剣を地に突き立て盾を構える。猫は六文銭を撃ち弾幕を張った。その後ろに隠れるよう灼滅者達が飛び退く。
     木々を薙ぎ払いながら迫る闇の波動を受けて吹き飛ばされそうになる。だがリーファは剣を支えに耐える。猫もまた傷を受けながら防ごうとするが耐え切れずに吹き飛ばされる。そこへライドキャリバーのキラコマが入れ替わるように突進して穴を埋めた。
    「良いぞ、そう簡単に倒れられても拍子抜けじゃからのう」
     瑠々は巨大鎌を投げて木に突き刺す。跳躍してそれを足場にすると、刺さっていたもう一本の大鎌を抜き、更に跳躍して闇の波動を超え、骸骨の頭上から襲撃する。
    「死の閃きにて永きを断つ……即ち、死閃永断衝!」
     頭を砕こうとする一撃に骸骨は大鎌を構えて受ける。しかし勢いは止めきれずに刃の先端が後頭部を砕いた。
    『この邪魔者め!』
     骸骨は押し返して瑠々を宙に飛ばす。だが注意が逸れた事で闇の波動は消失していた。その隙を突き槍を構えた司が駆け寄る。
    『もう一度喰らえ!』
    「もう撃たせません!」
     骸骨がまた大鎌に闇を纏い構えたところへ、藺生が指輪を輝かせ魔弾を撃つ。弾丸は狙い違わず骸骨の腕を撃ち抜いた。弾は侵食するように傷口から広がり、骸骨の動きを止めた。
    「ここは生きる者達の世界です。死者の居場所はありませんよ」
     司はそのまま槍で左肩を貫くと穂先を木に刺して縫い付けた。
    「火葬してやろう」
     そこへアルディマは剣に炎を纏わせて振り抜く。刃はしなり骸骨の視界から伸びて胸に突き立った。
    『ヌヌォォォ!』
     骸骨は槍を引き抜くと投げ捨て自由となる。だがそこへ髑髏のような影が纏わりつきすぐさま自由を失った。
    「光が照らす限り、闇は逃げられない!」
     白雛は伸ばした影に力を籠め、逃げられぬように戒めを強固にする。
    「アナタもダークネスなら、灼滅者との戦いで灼滅される覚悟は出来てマスよね? アハハ!」
     あきらはチェロを構える。そこから覗く銃口が火を吹いた。弾丸が影ごと骸骨の体を撃ち砕いていく。
    「治療は任せてください。誰も倒れさせたりしませんから」
     沙月が舞うように風を起こし、穏やかな風が流れ傷ついた仲間の傷を癒す。クロウも瞳に力を宿して治療を手伝う。
    『ムゥ、傷の治りが遅くなっているだと!?』
     骸骨は穴だらけになった体を水晶で埋めようとするが、思った以上に傷が深く治りが遅い。
    「そのまま墓穴へ直行すれば傷など気にする必要はなかろう!」
     瑠々が大鎌を投げる。回転して迫るそれを骸骨は大鎌で払い除ける。その目前に瑠々は巨大鎌を引き抜いて追うように迫っていた。振り下ろされる巨大な刃を骸骨は柄で受け止める。
    「斬り刻め」
     死角からアルディマの伸ばした刃が蛇のように襲い掛かり、刃が骸骨の体に巻き付く。動きを封じられ手の力が弱まった。巨大鎌が骸骨の肩に食い込み、左腕がぽとりと落ちた。
    『この程度で!』
     腕を拾おうとする骸骨。それよりも一手速く藺生が飛び込む。
    「再生する時間は与えません」
     腕を大きく異形化させて殴りつけた。胸に強打を受けて仰け反るように吹き飛ぶと、木にぶつかり落下する。
    「本当の死を、教えてあげます」
     司は杖をフルスイングで叩き込む。肋骨を砕き腰椎を折った。だが水晶が骨を繋げようと繁殖する。そこへ傷の癒えたリーファが駆け寄り飛び蹴りを叩き込む。すると骨は完全に断たれ、骸骨は腰の辺りから両断されて地面に這いつくばった。
    「どうですか、これで真っ二つですよ」
     胴体を切断されながらも、骸骨はカタカタカタカタと片腕で大鎌を掲げた。
    『こんなッ! だが不死たる我は死なぬ!』
    「スゴイスゴイ、まだ死なないんデスネ! 粉々にしてみましょうか。さささ! 踊らないと蜂の巣、デスよ」
     あきらは愉快そうに笑いながら引き金を引く。上半身では動けぬ骸骨は、下半身を動かし、上半身を蹴り上げる。その直後に弾丸が降り注ぎ下半身は粉々に砕けた。
    『なら貴様等を挽き肉にしてくれる!』
     灼滅者達を見下ろし大鎌に闇のオーラを集める。そこに木を蹴って沙月が跳び掛かり、上段に構えた剣を振り下ろした。
    「申し訳ありませんが、これで終わりです」
     冷たい刃は大鎌を持った右腕を斬り落とした。
    『まだだ、これを喰らえ!』
     骸骨は大きく口を開けた。中から黒いエネルギーが放たれようと収束していく。だがそこへ矢のように飛ぶ白雛が肉薄した。
    「断、罪ッッ!!」
     黒炎を纏った飛び蹴りが骸骨の頭を打ち抜いた。
    『そん、な……スキュラ様……』
     カタカタと口が動き、溜まった力が暴発して骸骨は砕け散った。

    ●生まれ朽ちる
     水晶の骨はただの朽ちた骨となり風化していく。後には何も残らなかった。
    「……フン、人に仇名す闇にはお似合いの末路だ。何も為せぬまま、朽ちろ」
     消えるのを見届け白雛は呟いた。
    「あの世でスキュラに忠義を尽くすんだな」
     アルディマが鞭状の剣を振るい、元の剣に戻す。
    「いやはや、潰しがいのある敵デシた。なかなか楽しい戦いでしたネ!」
    「ふむ……良き戦いであったぞ。やはり正面から殺し合うのは楽しきものじゃな」
     あきらが清々しい表情で汗を拭うと、瑠々も投げた大鎌を回収しながら満足そうに微笑んだ。
    「どうした経緯があって此処で朽ちていたのかは分かりませんが……どうか、安らかに。そして、来世では幸せになれますように」
     沙月は手を合わせ朽ちた死者達の冥福を祈る。
    「でもよかったよ、みんな無事で。ちょっと心配だったけど、上手くいったね」
    「そうですね、全員無事なのが一番です。くーちゃんも頑張ったね」
     司は安堵の息を吐き、表情を緩めた。藺生も頷き隣に寄り添うクロウの頭を撫でる。
    「こんな敵を量産されたら堪りませんね。でもスキュラからしたら、可愛い犬士がどんどん出てくる! スキュラの犬コレ! ……なんてね」
     冗談っぽくリーファが明るい声を出すと、仲間からも思わず笑い声が起きた。
     死臭は風が、屍骸は大地が、山が全ての命を呑み込む。死者は漸く生の呪縛から解放されたのだ。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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