運動会2014~守るも攻めるも風船割り合戦

    作者:陵かなめ

     5月25日は、武蔵坂学園の運動会だ。
     組連合ごとに力を合わせて優勝を目指すチーム戦。
     その戦いが今、始まろうとしていた。
     
    ●守るも攻めるも風船割り合戦
     配られた風船割り合戦についてのプリントに目を落とす。

     ルール説明。
     ☆陣地と風船の数。
      競技時には、グラウンドに大きな丸が9つ描かれる。それが各連合の陣地になる。
      各陣地内の風船の数は100個である。

     ☆行動。
      陣地に攻め入る人数が多ければ、風船を割れる可能性が高くなる。
      陣地を守る人数が多ければ、風船を守れる可能性が高くなる。
      実際に風船が割れるかどうかは、各々の行動にも左右される。
      なお、武器や道具の使用は一切不可。自分の力を信じて、風船を割って欲しい。
      
     ☆ポイントについて。
      競技終了時点で、陣地内の風船の数と、味方が割った風船の数を掛け合わせたものがチームのポイントになる。

      自軍陣地内の風船 × 味方が割った風船の数 = ポイント。
      ※ポイントの一番高いチームが勝ち。MVPは勝ったチームの中から選ばれる。

     プリントには、このようなことが書かれてあった。
     どうやら、陣地内の風船を割り合う競技らしい。1人でがむしゃらに頑張るもよし、仲間と協力し合うもよし。自分の行動を良く考えて挑まなければならないだろう。
     もしこの戦いに勝つことが出来れば、連合チームの大きな得点につながる。また、参加するだけでも役に立つことがあるはずだ。それに、風船を割るのはきっと爽快だろう。
     来たれ英雄たちよ!! 今こそ風船を割る時!!
     勝利をその手に掴むのだ。


    ■リプレイ

    ●試合開始
     澄み渡った空の下、各連合の陣地が用意された。
    「風船割り合戦、スタァートッ!!」
     教師の掛け声と大きな笛の音が鳴り響く。攻撃役の生徒達が一斉に走り出した。


     1A梅連合では、南谷・春陽(春空・d17714)、クレイ・モア(ドリーミングドリーマー・d17759)、ナーシャ・アタシナ(泡沫の夜歌・d18837)の3名が守りを固めていた。
     そこに9I薔薇連合が徒党を組んで押し寄せて来る。
    「最大勢力を叩く! 行くぜ!」
     相良・太一(再戦の誓い・d01936)が、陣地の周りを走りけん制する。
    「俺の風船、そう簡単に割れると思うなよ!」
     体力と体格には自信あり。クレイが、華麗なステップで太一の動きから逃げた。そう簡単には割らせない。
     その様子を見て、天河・蒼月(月紅ノ蝶・d04910)は思い出した。確か、太一は俺を踏み台にしてでもと、言っていたはず。
    「ごめん、太一くん、肩借りるね!」
     言うなり太一を踏みつけ、見事な大ジャンプで陣地へ切り込んだ。
    「くっ、空襲か!!」
     クレイが必死に背中の風船を庇う。
    「お、俺を踏み台にしただと!?」
     一方、太一は地面に倒れた。
    「あっ、……今がチャンスです!」
     攻めあぐねていた古樽・茉莉(百花に咲く華・d02219)も、チャンスを逃すまいと1A梅連合陣地へ切り込んでいった。
     ……何か踏んだような気がしたが、今はそれどころでは無いのだ!!
     2人の攻撃により、風船が割れる音が響いた。
    「私はこの2つのふくらみの威力を信じる! 行くよ、全身ボディープレス!!」
     喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788)もまた、地面に伏した柔らかい何かを踏み台にして飛んだ。
     全身プレスで風船を同時に数個割る。
    「ちょ、コラお前らー!?」
     敵陣に太一の断末魔が寂しく響いた。
    「あの、ほら、えっと……おかげでちゃんすが出来たわっ」
     最後にやってきた夕永・緋織(風晶琳・d02007)が、突撃するかどうか迷った末、太一を助け起こす。
     1A梅連合に攻め込んできたのは、彼らだけではない。
    「そう簡単に負けるつもりはありませんよ先輩方!」
     見知った顔に、月村・アヅマ(風刃・d13869)が勢いづく。
    「私が一生懸命守ってきた風船、割っちゃうの? そんな酷いことしないわよね?」
     ところが、春陽はうるうると瞳に涙をため、アヅマを見た。
    「て、春陽?! 大丈夫なのですか?!」
     春陽の涙声に、ナーシャが駆けつける。そして必死に砂を蹴り、アヅマを追い払おうとした。
    「えぇ?! って、わ……ぷ」
     アヅマは戸惑い、足を止める。
     瞬間、春陽が口元に笑みを浮かべた。砂を蹴り上げ、容赦無く目潰しを狙う。
    「えぇ?! そ、そんな、まさか!」
     アヅマが驚愕の表情を浮かべた。
     そのまさか。さきほどの涙は、目薬でした!!
    「フッ、勝負の世界は非情なのよ!」
     春陽は、してやったりとニヒルに笑った。
    「おっと。さあ、最後まで頑張りましょう」
     単騎で攻めてきた紅羽・流希(挑戦者・d10975)が、アヅマを助けるように手を貸した。
     まだ、十分に時間はある。
     2人は体勢を立て直し、風船めがけて走った。


     2B桃連合の陣地では見崎・遊太郎(ゆるふわ忍者・d25602)が1人、風船を守っていた。
    「あはは、フルボッコにされたらどうしよう」
     100個の風船を背負う。
    「俺が気合入れるっきゃねーな」
     そこへ、佐見島・允(タリスマン・d22179)が走り込んで来た。
    「マコ大先生についていくしかねーな」
    「マコ大先生さん? のサポートさん、アズくんと一緒に頑張るさんだよぉ!」
     東谷・円(ミスティルプリズナー・d02468)と夜伽・夜音(死蝶星・d22134)が続く。
    「行くぜっ」
     允が鋭いスライディングを繰り出した。
    「ディフェンスディフェンス!」
     ひらり、遊太郎が飛び退き逃げる。しかし反動で風船がいくつか浮き上がった。
     それを見て、允が風船をリフティングした。流れるような動作で、仲間に向かってパスを出す。
    「これを割ればいいんだな!? ていっ」
     慌てて円が風船を受け取り、踏みつける。
     ばんと、風船が割れる音が響いた。
    「ひゃうっ!」
     驚いて、夜音が耳を押さえる。
     だが手を止める暇も無く、風船が飛んでくる。夜音は、必死に風船を掴んだ。
    「うーん。まずいかも。雲隠れの術! でりゃ」
     3人に囲まれた遊太郎が砂を蹴り上げた。
     出来た隙に、走り逃げる。3人に追われながらも、まだ全ての風船を渡したわけではなかった。


    「どっちが多く風船を割れても、恨みっこなしなのよ」
     鏃・琥珀(始まりの矢・d13709)が左に飛んだ。
    「部内ナンバーワンは譲れない」
     山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)が反対側に位置を取る。
     狙うは、影山・弘美(同族恐怖・d23559)の守る4D椿連合の風船。
    「く。とりあえず、迎撃です」
     2人を交互に見て、弘美が表情を引き締めた。
     【古ノルド語研究会】のメンバーは、誰が一番多く風船を割るか勝負しているらしい。
     挟み撃ちは1人では対処できないはず、と、琥珀と透流が風船に迫る。
    「……さて……頑張ろう……」
     透流の背後に隠れ、陸月・空(殺戮系魔王使い・d27315)がチャンスを待っていた。攻守睨み合う隙に、風船を割ろうと言うのだ。
    「よし……、今」
     空が全速で走りこんだ。
    「あっ」
     弘美が驚きの声を上げる。自分を挟んでいた2人に気を取られていたのだ。
     空は風船を1つ割り、さっと逃げていく。
    「先を越された!」
    「やられたの!」
     透流と琥珀が呆然と空の背中を見送った。
    「勝負事だ。やるからには勝たせてもらおうか」
     アルディマ・アルシャーヴィン(詠夜のジルニトラ・d22426)が陣地内へ忍び入る。どさくさに紛れ、1つ風船を手に入れた。
     しかし。
    「ちょ、ちょっと、今、胸触りましたよね……」
     アルディマに向かって、顔を真っ赤にした弘美が声を上げる。
    「えぇ?! いや、何かの間違い……」
     焦ったアルディマを、弘美が素早く放り投げた。
    「ぬお?!」
    「ふう。1つ、守りました」
     風船を取り返した弘美が、安堵のため息を漏らす。
    「今、何個目かな……。ふふっ、まぁどんどん割っていくよ♪」
     その背後で、花衣・葵(桜雨詩・d20215)がいくつか風船を強奪していった。
     どうやら、葵が要領良く風船割り数を稼いでいるようだ。


     さて、どの陣営でも無い場所で、エリザベス・バーロウ(ラヴクラフティアン・d07944)と卦山・達郎(ドラゴンボルケーノスペシャル・d19114)が睨みあっていた。
    「お前とこういう形で戦うことになるとはな」
     かろうじてエリザベスの奇襲を避けた達郎が、相手を凝視する。
    「悪いが、手加減は出来んぞ!」
    「当然。どんな形であれ戦う以上、手加減なんてするつもりはないわ」
     もう風船どころじゃない。2人は肉弾戦に突入した。
     叩いたり避けたりしながら最後の一撃が互いに決まり、結局共倒れ、という形に落ち着いた様子だ。
     防御役が居ない5E蓮連合の陣地は、風船割り放題に思えた。
     しかし敵が居ないとは限らない。
    「せっかく防御の薄そうな場所に来たのになあ」
     小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)が陣地の中で立ち止まる。
    「仲間に守りは任せてきた。私は1個でも多くの風船を割り勝利を掴むっ」
     対峙するのは、祟部・彦麻呂(凶災の継ぎ手・d14003)だ。所城・火華(高校生ダンピール・d20051)と刻漣・紡(宵虚・d08568)も並んでいる。【御殿山1ー9】のメンバーだ。
     互いに風船と相手との距離を測りながら、攻撃のタイミングを狙う。
    「勝つ為には手段を選ばぬ。我が名はダーティひこまろ! 火華ちゃん!! 紡ちゃん!!」
     鋭く研いだ爪を光らせ、彦麻呂が叫んだ。
    「行きますよ」
     掛け声と共に火華が走る。
     あっと思ったその時に、両側から彦麻呂と紡が風船を掠め取った。
    「がんがん、割って、頑張るの」
     手に入れた風船を、様々な方法で紡が割る。
     だが小町も負けてはいない。
    「負けへんで。とりゃあー」
     3人が奪った風船を諦め、残りの風船を踏みつける。
     互いにけん制し合いながら、4人はひたすら風船の破裂音を響かせた。
     防御役が居ないという点では、6F菊連合も同じだった。ここに攻め込んだのは、クーガー・ヴォイテク(神速のグラサン幹部・d21014)ただ1人。
    「おらおらー! 割れろ割れるんだぜー!!」
     とにかく、割って、割って、割りまくる。風船の破裂音が、次々に響いた。
     7G蘭連合では、一対一の戦いが続いていた。
    「そんな防御方法があったなんて、驚きですね」
     四刻・悠花(中学生ダンピール・d24781)が愕然と風船を見上げた。
    「ふっ。目指すべきは組連合の勝利。これも、ひとえに勝利のためだ」
     両肩に風船を背負い、六文字・カイ(死を招く六面の刃・d18504)がニヤリと笑う。
     足で踏み潰そうと意気込み、防御の少ない陣地へ来たのに。悠花にとって、20センチも背の高い相手の、肩の上の風船はあまりにも遠すぎた。
     それでも、悠花は風船を狙いカイに飛び掛る。
    「させるかっ」
     両肩の風船を庇いながら、カイが逃げる。2人の追いかけっこが始まった。まだ風船は割れない。


     グラウンドは、攻守入り乱れ混戦模様だ。どこがトップか分からない。攻めと守りの風船の数を把握するのは難しかった。
     橘・愛美(自称暗殺者・d25971)は、攻める目標を見失い、それでも攻撃しようと目に付いた陣営に飛び込んだ。
    「さぁ、風船を割りたいというなら私を倒して行きなさいっ!」
     待ち構えていたのは、8H百合連合の天瀬・ゆいな(元気処方箋・d17232)だ。
     威嚇するように、したーん、したーんと反復横跳びを繰り返す。
    「武器等がなくても、灼滅者相手に手加減できません」
     大山田・小太郎(はボッチ力高い人・d20172)も防御役だ。女性相手でも容赦無しと言った雰囲気を感じる。
    「行きますっ」
     だが怯むことなく愛美は走る。低い姿勢で逃げながら風船を狙った。
     すぐに小太郎が対処に向かう。肩からのタックルを繰り出し、敵を押し戻す。
     愛美はそれをかろうじてかわした。
    「ふっふっふ。ここは何としても守り切ってみせますからねーっ!」
     そして、辿り着いた先に仁王立ちのゆいなの姿。
     守りの壁はかなり厚い。強引に押し切ることは出来るだろうか? ゆいなの背後にある風船を目標に、愛美は再び疾走した。
     同じく、【西久保2-1】の攻撃メンバーも、攻撃目標がどこなのか決めあぐねていた。
     味方陣地は激しく攻め込まれていて、司令官役が指示を飛ばせなかったのだ。
     顔を見合わせる仲間に、友繁・リア(微睡の中で友と過ごす・d17394)が提案した。
    「アヅマ君の所の風船を狙っちゃおうかしら?」
    「お、アヅマのとこ仕掛けにいくか?」
     川内・梛(スロートランス・d18259)がけらけら笑う。
    「そういや、あそこは守りが薄そうだったぜ?」
     3C桜連合を眺めると、確かに、防御役の姿が見えない。
     シグマ・コード(フォーマットメモリー・d18226)の言葉に2人が頷く。3人は3C桜連合の陣地に向かって駆け出した。
     ロスした時間を取り戻すためにも、急いで風船を割り始める。
     梛とシグマは爪を立て、バリバリと割る。
     リアは腕や足を使い1つずつ割っていく。
     残り時間はあとわずか、これからどこまで記録を伸ばせるだろうか。


     9I薔薇連合の陣地でも死闘が繰り広げられていた。
    「そっちに行ったよ」
     風船を守りながら、霜月・薙乃(ウォータークラウンの憂鬱・d04674)が声を上げる。
    「ありがとう!」
     慌ててフィーネ・シャルンホルスト(終焉の旋律・d20186)が囲まれないよう走った。
    「やらせません」
     立花・銀二(クリミナルビジー・d08733)がフィーネと敵の間を横切り邪魔をする。
     連携が取れており守りが堅い。
     ただ攻撃するだけでは駄目だと、アシュ・ウィズダムボール(ディープダイバー・d01681)が堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)を見た。
    「シューナ、上がガラ空きだと思わない?」
     アシュが指差した空を見上げ、朱那が頷く。
    「イイね、『空部』らしいトコ見せちゃおう♪」
     返事を聞いて、アシュが腰を落とした。両手を組んで踏み台を作って見せる。朱那はそこに足をかけ、空高く跳んだ。空中で回転し、銀二の構える風船向かって急降下した。
     爽快に、風船の割れる音が響く。
    「「やった!!」」
     アシュと朱那が、喜び合う。
    「くっ、やりますね!」
     だが、まだまだ風船は残っている。銀二は風船を高く構え、逃げ出した。
    「よっしゃー! 風船の紐、取った!!」
     素早く走り込んだ高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)が、薙乃の持つ風船の紐に手をかける。
    「風船は必ず守る!」
     だが、風船を取られまいと薙乃も紐の根元を握り締め必死に抵抗した。
     紐の引っ張り合いになる。
     その時、麦の背後にそっとフィーネが近づいた。
    「えいっ、膝かっくん」
    「のぁ?!」
     フィーネの膝かっくんが華麗に決まり、麦の手が緩んだ。急いで薙乃が紐を手繰り寄せる。
     だが直後に風船の割れる音。
    「ふっ。油断大敵です」
     影野・幻(無幻泡影・d23296)が手刀でフィーネの風船を割ったのだ。
     完全に背後を失念していた。フィーネが残りの風船を抱くようにして守りに入る。
    「次の相手はあっちか。躊躇せず一点集中でいくぞ」
     時浦・零冶(紫刻黎明・d02210)が仲間に向かって声を上げた。
    「女子供でも容赦しねえ」
     森田・供助(月桂杖・d03292)が回り込むように走る、
    「ガンガン攻めるわよ!」
     雪椿・鵺白(テレイドスコープ・d10204)も加わり、3人で薙乃を追い込む。
     薙乃を助けようと銀二が動くが、一足遅い。
     供助が風船をひっ捕まえた。
    「雪椿行け、割っちまえ!」
     取った風船を鵺白に渡す。
     頷いた鵺白は爪を立て風船を割って見せた。手元で破裂音が響く。
     案外楽しい。
    「でも、勝負は絶対最後まで諦めないよ」
     薙乃が首を振り、残りの風船を持って走った。

    ●結果発表
     ついにタイムアップの時間が来た。終わりの掛け声と、大きな笛の音が響く。
     競技は終了し、すぐさま得点集計が発表された。
    「最も多く風船を割ったのは、39個の1A梅連合!! 最も多く風船を守りきったのは、99個の7G蘭連合!! 残り数と割り数を掛け合わせたポイントが、最も高かったのは――」
     皆がその発表に耳を傾ける。
    「割り数45、残り数80の9I薔薇連合!! MVPは、頭や肩に足跡を残しながらも果敢に戦った相良・太一君に決定ー!!」
     割れんばかりの拍手と、仲間をねぎらう戦士達。
     こうして風船割り合戦は幕を閉じた。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月25日
    難度:簡単
    参加:46人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 2/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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