運動会2014~勝利に向けて二人三脚!

    作者:零夢

     今年もこの日がやってきた。
     5月25日――すなわち、武蔵坂学園の運動会である。
     組連合ごとに力を合わせ、優勝を目指す熱き戦いが今、幕を開ける!
     
    ●あるクラスの学級会
    「それじゃあ、二人三脚の説明を始めますね!」
     教壇に立った先生の声に合わせ、灼滅者達は配られたプリントに目を通す。
     そこには日時や服装など基本的なことのほか、二人の走者は内側の足首を紐で結び、それを解くことなく、調子を合わせて走らねばならないことなどが書かれていた。
    「コースは直線の100メートル。参加者さんの人数に応じて、5組前後の複数のレースが行われます。すっごくシンプルですけど、だからといって舐めてかかっちゃだめですよ?」
     たかが二人三脚、されど二人三脚。
     定番にして王道な形式だが、単純な身体能力だけで勝敗が決まらないのがこの競技の面白さだ。
     二人の息が合わねば進まないであろうし、慎重になりすぎると他のペアに遅れをとる。かといって、スピードを重視するあまりに転んでしまえば意味がない。どのタイミングでスパートをかけるかなどの駆け引きもあるかもしれない。
     また、パートナーと体格差・体力差をいかにチームワークでカバーするかも大事なポイントだ。
     運動に自信のない者でも、作戦次第でいくらでも活躍のチャンスはある。
    「そしてそして、大事なことにですね、最優秀ペアにはMVPが送られちゃいます!」
     だから気合を入れてくださいね、と先生はぐっと小さく拳を握る。
     なんでも、MVPの所属する組連合にはボーナス得点が加算されるらしい。総合優勝を目指すためには、ぜひとも狙っていきたいところだ。
     尚、最優秀ペアの選考には、二人のチームワークと勝利のための作戦・工夫が考慮される。MVPに輝くためには、二人の信頼も競技における活躍も欠かせない。
     というわけで。
    「二人の長所を生かしつつ、短所を補うように。パートナーと息を合わせて、頑張ってくださいね!」


    ■リプレイ

    ●第1レース
    「位置について、よーい――」
     ドンッ!
     スタート合図と同時に、桃夜とクリス、ポンパドールとニコのペアが集団から飛び出す。
     クリスの腰をしっかりと引き寄せた桃夜の口元は思わずにやけ――って、興奮している場合じゃない。二人で声を掛け合い、突き進む。
    「こうしてがむしゃらに走っていると、走馬灯みたいにトーヤとの思い出が巡るね」
    「一緒に過ごした一年、あっという間だったよね」
     めくるめく走馬灯、しかし彼らのダッシュは止まらない。地味に器用。
     そんな二人を、ポンパドールとニコはあえて見ないことで自分達のペースに集中する。
     掛け声、歩幅、合わせるべき基本は徹底的に練習した。全ては身長が170cmを超えた記念に、ニコに頼りっぱなしでない所を見せるというポンパドールの密やかな野望の為だ。
     徐々に上がる速度、お約束の如く突っ走るポンパドール――それを全力でフォローするのは、やはりニコのお仕事だった。
     その直後を、ノープランのヴィルクスとフィルギアが追う。
     無ぇ頭絞っても、どーせいつも通りに落ち着くんだ――とはフィルギアの言。
     考えるより感じろ。
     十数年も一緒にいる二人なら、感じることはきっと同じだから。
    「やるからにゃ勝ちに行きたくはあるよな、親友?」
    「……奇遇だな、私もそう思っていたところだよ」
     互いに互いは知っている。今さら好きに走っても、余程のことが無ければ転ばない。
     そんな彼女たちの後ろでは、レインと奏がじっくりと機を窺う。
     最初はゆっくり、けれどつかず離れず、勝利のための心理戦だ。
     二人で付き合い始めて早一年、同じクラスだし隣の席だしラブラブだし、とにかく息を合わせる事は難しくない。
     もちろん一緒に走ることに意味があるのだけど、やっぱり狙うは一番で。
     いよいよ中盤に差し掛かり、彼らが速度を上げると同時に、エリスとアイリスもカウントダウンで加速する。
    「3、2、1――」
    「ぶっちぎっちゃうよーっ!」
     エリスの声にハイテンションで飛ばすアイリス。
     二人は学園に来る前からの付き合いで、戦時も最後まで共闘してきた。
     チームワークもコンビネーションも仲の良さも自信を持てたら、あとはひたすら走るだけ。
     ぐいぐいペースを上げる彼女たちに、悟と想希も負けてはいない。打ち合わせなしのガチンコクイズを掛け声に、ひた走る。
    「俺の好きな色は? く・ろ」
    「く・ろ!」
    「俺の好きなものは? く・り」
    「く・り」
    「俺のパンツの色は? く・ろ」
    「そ、それもく・ろ!」
     なぜか不思議なほどに揃うテンポ。これぞ愛のなせる技なのか。
     握りあう手に力を込め、全力で追い上げたら、ゴールと共に悟は叫ぶ。
    「今後も共に突き進むことを誓うで! っしゃー!」

    ●第2レース
    「いよいよ僕らの番か。燈、緊張してない?」
     スタートラインに立ち、理央は燈へ声をかける。彼も(女の子との二人三脚に)緊張しているが、制汗スプレーもちゃんとしたし、色々と大丈夫なはずだ。
     燈は緊張気味に笑うと、小さく頷く。
    「緊張してない……って言ったら嘘だけど、相手が理央くんだから平気だよ」
     ピンクのリボンで足を結び、レースに備えるのはイヅナと深愛。
    「きつくない? 大丈夫?」
    「だいんじょうぶだよ。がんばろうね」
     ピンクは今日のラッキーカラー。二人を結ぶ紐が可愛いと、特別に頑張れる気がする。
     フィアッセは水華と並び、改めて二人の身長や歩幅の違いに気づく。
     顔を上げて目を見れば、交わす視線はいつも通りに柔らかい。緊張はしていても、傍で一緒に走れるのが嬉しいのは水華も一緒だ。
     体格の違いは互いへの信頼と想いでカバーする。
    「転ぶときは一緒に転びましょう。上手くいきましたら……」
    「お互いにご褒美、だな」
     そっと寄り添うフィアッセに頷く水華。
     練習通りにできたら、きっと大丈夫。
     清美と登は作戦を復習する。去年は変な作戦で散々な目に合ったので、今年は徹底的に正攻法だ。
    「竹尾君、1と言ったら右足を出してください。私は左……今さらですね。いつも通りに行きましょう」
    「うん、一年やったんだから、もう体が覚えているよ」
     鳴り響くスタート合図。走り出した清美と登に、応援席からは良太が茶々入れ――を我慢して、声援を飛ばす。
    「二人で頑張ってきたんだから大丈夫だよ! 優勝してくれればクラス的に嬉しいけど、気にせず頑張れ!」
     ほんのりかかるプレッシャー。
     それにも負けることなく、二人は首位を保ちながら順調に進んでいく。一年の練習は伊達じゃない。
     真琴と潤子も、この一年で成長を遂げていた。
    「楽しもうね、真琴ちゃんっ」
    「はい、楽しんでいきましょう、潤子ちゃん」
     去年は転んでしまったけれど、今年はそんなことない。
     何度も練習をして、歩幅もリズムもちゃんと調整してきた。潤子のリードに、真琴は安心して任せる。
     慎重にスピードを上げながらも丁寧に蹴り続ける一歩は、勝っても負けても、ゴールの後に笑顔を交わしたいから。
     組連合は違うけど、アスルは今年も草灯と一緒。
     昨日までの練習はアスル主導だったが、草灯も彼女のペースはしっかり憶えていた。去年とは身長も歩幅も違うけど、二人の呼吸はぴったりだ。
     隣のレーンでは、寛子が海老塚・藍と寄り添い走る。
     恋人同士じゃなかったから誘いそびれた去年。念願叶った今年は、少しでも一体感を感じていたい。
     二本で一つというように結ばれた寛子の右足と藍の左足。さらに言えば藍の左手は寛子の腰に回り、身体も一つになるように密着していた。
     寛子ちゃんの身体柔らかい――などと考える辺り、案外彼は余裕なのか。
    「1、2、1、2」
     声を揃え、二人は同じリズムを刻んでいく。
     イヅナと深愛も、足元をしっかり見ながらせっせと進んでいた。
    「いっち、にー!」
    「いっち、にっ!」
     一歩一歩確実に、カメさん戦法でちょっとずつペースを上げていく。
     燈と理央も、徐々に速度を上げる。ブレイズゲートでの特訓のお陰で、コンビネーションは完璧だ。
     お揃いの髪型と桜色のリボンで走るのはひよりと紗奈。
     足を結んだ紐には二人で触っておまじないを掛けてある。
     頭の中で流れるのは練習中に聞き続けた同じ曲。ひよりが足元に気をつければ、紗奈は前だけを見つめ走り続けられる。
    「いっちに、いっちに」
     そして、ついに。
    「「やったね、ゴール!」」
     手を合わせて笑顔で分け合う達成感。
     一番じゃなくても、この瞬間は二人だけの特別だ。
     続いてゴールしたアスルも、口元を綻ばせ草灯を見上げる。
    「楽しかった、です。そび、来年は。1番、なるです……!」
    「うん。お疲れ様。また来年、ね」
     燃える闘志と新たな約束。
     草灯はアスルの頭を撫ぜ、目を細めた。

    ●第3レース
     小太郎はスタートラインに立ち、初対面の学園生と足を結んでいた。
     知らない人と呼吸を合わせるのも何かの修行。ボッチだからとかでは決してない。
     そしていよいよ合図が響けば、
    「さぁレミっち、いくぜ!」
    「よーし、せーのっ!」
     ずしゃああぁっ。
     直哉とレミ、盛大に転倒。
    「な、直哉さん歩幅! 身長20㎝も違うんすから小さめにしてっ!?」
    「え? 歩幅??」
     そんな二人の声を背に、他のペアは次々進む。
    「ふぁいっおー! ふぁいっおー!」
     元気な声を張り上げるのは、十六夜の腰にしがみついた唄音だ。
     どう見ても十六夜の負担が大きいが、それはそれ。彼は苦笑しながらも声を合わせ、さりげなく強めに肩を抱き寄せる。面倒だが下僕に頼まれたから仕方ない。やるからには勝利だ。
     均等なリズムでしかし速く、テンポ200くらい――って速すぎないか。それでも転ばないのは流石の主従の絆。
     その横では杏子とひかりも存分にチームワークを発揮する。
    「ぬおおおお!!」
     叫ぶ杏子。
     何せ二人の身長差は30cm以上、それをカバーするため、ジャンプした杏子が浮いている隙にひかりが爆走するという凄まじい策を実行しているわけだが、
    「このまま突っ走れひかりんー!」
    「大好きなあんこちゃんのために、ひかりんぱわーで頑張るにぃ☆」
     彼女たち以外に出来る事じゃない。
     椋の目下の敵は相方の岬だった。さっきから体をまさぐる腕と不気味な笑い声が邪魔臭い。
    「うへへへ」
     それでも速度を維持する彼女は凄い――かもしれないが、呼吸が乱されるのはやはりよろしくない。
     そんな二組の後を、抜かないように羅生丸とジャックが続く。
     羅生丸曰く、この競技の醍醐味はかわいこちゃんの後ろ姿を眺める事にあると。
     ジャック曰く、絆を深めるには、相棒の願いを叶えてやるのが一番だと。
     そこで互いの身体能力はあえて封印し、絶妙に成り立つのは海より深い男の絆。まさに心の友。
     と、その時だった。
    「んっ!」
    「あ!(期待)」
     体操服の下に伸びた手に椋が声を上げ、叩き落した瞬間、崩れたバランスに岬は目を輝かせる。
     転倒。
     その隙に羅生丸とジャックは本領発揮だ。
    「行くぜ、ジャック!」
    「うおおおおおおおおお桃地いいいいいいい!!!」
     ガンガン追い上る彼らに、レミと直哉も巻き返す。
    「クロ、ネコ、クロ、ネコ!」
     がっちりと肩を組み前傾姿勢。歩幅が合えば怖いものなどない!
     そしてついに、
    「レミっち、ゴールだ!」
    「こ、転ばずにできたぁぁ! すごいっす直哉さん!」
     興奮のまま、レミは思わず直哉に抱きついた。

    ●第4レース
    「どーせやるなら――勝ちたいよな? 颯人」
     スタート直前、ぎゅ、と紐を縛り直した嵐は彼へと視線を送る。
     返されるのは、肯定の笑顔。
    「もっちろん! 勝ち狙いに行くつもりっス!」
     頑張り屋で、だけど少し危なっかしい君は、いざとなったら俺が受け止めるから。
     逆にもしも颯人が転んでも、
    「大丈夫、あたしが起こすカラ」
     まずは大きく一歩を踏み出そう。
     そしたらきみと、どこまでだって行ける。
     一方、
    「店長はこけないって信じてるから、私がこけないように手、握ってて?」
    「仕方ねぇな……代わりにしっかり走れよ?」
     なんて、智優利は達郎におねだりしてちゃっかり恋人繋ぎ。
     そして鳴ったスタート合図に、
    「行くぞ店長ー☆ ゴー!」
    「ファイッ!」
     息の合った掛け声で智優利は前のめりに走り出す。身長差も歩幅差もあるけれど、ゴールテープを切るまでは、意地でも転ばず走り切って見せる。
     そんな二人の脇からは、麗と鷹飛斗がスタートダッシュで飛び出した。
     互いの腰に手を回して身体を密着させ、ある程度のペースを掴めば、掛け声を止めて走ることに集中する。
     やるからには全力、目指すは勝利。
     血の繋がりがなくとも、相手への想いは実の姉弟以上だ。絆の強さは誰にも負けない。
     ――これを機に麗姉上のお役に立って、一歩踏み出すんです!!
     密かな決意を胸に、鷹飛斗は走り続ける。
     コンビネーションならメイニーヒルトと武流も負けていない。
     何せ今日の為に、比喩でなく物理的に二人三脚で生活を共にしてきたのだ。食事も就寝も、それとまぁ、その他いろいろと。
    「……その、今夜のご飯、カレーでいいか?」
     思い出した『色々』に、空へ視線を逸らした武流が問えば、メイニーヒルトは「うん」と頷く。一緒に作った初日のカレーは美味しかった。
    「今日も勝って、カレーで締めくくろう」
     その後ろからは、ライラと巧がゆっくりとテンポを上げ、追いついてくる。
     足の速いライラが巧みに合わせることで、二人の足並みはばっちりだ。
     すぐそばで触れ合うぬくもりに、巧は必死に平静を装う。
    (「大丈夫だ。ドキドキなんてしてない。してないったらしてにゃい」)
     あっ、噛んだ。
     そんな彼の心を察してか、ライラは小さく微笑する。
     焦らないことと遅いことは違う。練習通りにいけば、大丈夫。
     二人のペースで着実にゴールを目指すのは、ライムとクーガー。
    「イチッニッ! イチッニッ!」
     クーガーが右側からライムの肩に手を回し、リードをとると、ライムは左側からクーガーの肩……は身長的に厳しいので、腰の辺りをしっかり掴む。ライムにとって二人三脚は初めての経験だが、クーガーがいるから心配はしていない。
     周りが早くても焦らずに。
     全力は出しても、無理して転んだら台無しだ。
     レイッツァとエスメラルダも、20㎝の身長差ハンデに負けず、精一杯にレーンを駆ける。
     いつもはバトルでの連携ばかりだけど、こういう場所での連携もすごく楽しい。
     やがて踏み越えたゴールラインに、
    「エーメ、今日は一緒に走ってくれてありがとねー! 大好き!」
     眩しいほどに笑うレイッツァ。エスメラルダも、はにかみながらお礼を返す。
    「え、あの……さ、誘ってくれて、ありがとう、レイッツァ」

    ●第5レース
     ナーシャは健護と足を結び、ふと見上げる。
     彼の顔は遥か30cm上。高っ。
     歩幅も体格も、ついでに言えば組連合も違うが構わない。
     だって、どうしても二人で参加したかったから……そして二人の愛の前には組連合の壁など無力だから!
    「一生懸命頑張るのですよ! ね、健護!」
    「ええ、精一杯頑張りましょう、ナーシャ! せーのっ!」
     気合を入れた健護がナーシャの肩を抱き、合図と共にスタートだ。
    「いっちに、いっちにっ!」
     璃耶は二人三脚初挑戦、でも伊万里がリードしてくれる――と思って隣を見れば。
    「あ、あら……?」
     始まって間もないのに伊万里は息も荒く、必死に(己と)戦っていた。
    (「集中、集中しないと……! あ、でもすごくいい匂い……! シャンプー? 石鹸? はふぅ……!」)
    「い、伊万里さん……?」
    「はっ」
     引き戻される現実。
     いけない、今は競技に集中だ。
     眞白は恋人の緋織に合わせ、控えめに地面を蹴り進む。必死に眞白に合わせようとしてくれる彼女も可愛いけれど、まぁいい。
     緋織の細い指に体操服をきゅっと掴まれれば、眞白は軽く赤面しながらもぎゅっと肩を抱き寄せる。
     ぴたりと触れ合った身体で呼吸を感じて、気遣い合って。こんな幸せな事ってあるだろうか?
     『二人』で走る感じがすごく楽しい。
     調子がつかめたら、いつもみたいに一緒に駆け抜けよう。
     相性ばっちりの双子パワーで頑張るのは射干と綾要だ。
     病院を離れ、二人でこんなに平和な日々を過ごせるなんて夢にも思わなかった。
     ここで一緒に走っていること、生きていることが二人にとっての奇跡。
     嬉しくてちょっと、はしゃいじゃいそうだ。
     月祈は開始前の小夜子の言葉を胸に、ゴールを目指す。
     最後まで楽しく走り切ろうね――前向きで一生懸命な彼女らしい言葉だ。
     幼い頃からいつもそばにいた二人だからこそ、お互いのことはよく知っている。
     練習通りに呼吸と歩幅を合わせれば、ほら、動きは自然と一つになった。
     誰よりも息を合わせ、自分達らしい走りが出来れば、きっと素敵。
     澪と仙花も、完走目指して懸命にペースを合わせる。
    「私がちゃんと歩幅合わせるですから、がんばるですよ」
    「1、2、1、2、なのです~!」
     仙花の声に合わせ、腰に回した腕に力を込める澪。
     仙花の方が『お姉ちゃん』だからちゃんとしたかったのに、無邪気とはいえ、そんなことをされてはやはり『恋人』として意識してしまう。
     どきどきしながら、とりあえずは転ばないことに要注意だ。
     宵帝と東雲・羽衣の一番の目標は、楽しむこと。
     彼の方が高い身長、大きい歩幅。それに合わせようと羽衣が大きく動けば、
    「あっ――」
     踏み外したところを、すかさず宵帝が引き寄せた。
    「大丈夫か?」
     突然の至近距離に、どきんと跳ねる二人の心臓。されどポーカーフェイスな宵帝に、はにかみながら羽衣が答える。
    「あ、宵帝さんが支えてくださいましたから……」
     頬が熱いけれど、今は走ることに集中だ。
     いよいよゴールが近づいたところで、ゆまが持ち前のドジを発揮する。
    「にゃー!」
     悲鳴(?)を上げて崩れれば、必然、心太もつられる。
     引き留めるのは間に合わない……ならば!
     彼は咄嗟の機転を利かせると、ゆまに合わせて地面に倒れ、彼女の手を素早く調節。そのまま結んだ足を空へと伸ばして――
    「よし! 二人三脚側転成功!」
    「えぇ!? どうなってるの、しんちゃん!」
     心太の奇跡的なフォローにより、二人はそのままゴールした。

    ●第6レース
    「なんつーか、ここまで互いが近いのは……」
     照れたようにそう言ったのは日方だった。
     その言葉に、アナスタシアまでつい緊張してしまう。
     スタート前だというのに、二人の心拍数は上昇気味。
    「さて、兄さん。全力で行くよ」
    「頼りにしてるよ、暦」
     暦と梓は作戦の最終確認。
     最初は軽く踏み出して、スピードに乗ってラストスパート。双子特有の以心伝心があれば、きっといける。
    「今年も連覇狙うぞ!」
     慧樹は雪片・羽衣と並び、気合を入れる。
     去年MVPをとった時は、まさか付き合うとは思っていなかった。
     あの頃は身長も歩幅も同じくらいだったのに、今年は慧樹が羽衣よりも頭半分高い。
     でも、心配はしていない。
     ――いつものペースは、スミケイが守ってくれるから。
    「うん!」
     大きく頷く初衣。
     今年は、去年以上に頑張るんだ。
     グラウンドに響いた銃声と同時に二人が踏み出す繋がれた足。
     そのまま好調に駆けだせば、その隣を芹と兵吾が並走する。
     目指すは最速。日々練習に練習を重ねた二人に、もはや掛け声はいらない。40㎝の身長差からくる歩幅差は回転数で補ってみせる。不利は覆してこそ、面白い。
     ――練習通りに駆け抜けるわよ、兵吾。
     ――やってやろうぜ、芹!
     阿吽の呼吸で二人は加速し、グンとトップへ。
     それを統弥と志穂崎・藍がぴったり追う。
     日頃から一緒にいる二人は早々に互いの調子を掴み、二位の位置を手堅くキープ。
     今は体力を温存しつつ、虎視眈々と二人が狙うは優勝だ。
     開始前は緊張していた日向とアナスタシアも、流石は運動部コンビ、競技が始まれば集中力は並じゃない。
     いつも一緒に自転車で走っているおかげで、互いの癖も呼吸も把握済み。ペダルの回転を合わせるように、ひたすら足を動かし突っ走る。
     うずらとケネスは歩幅を狭く速く、声に合わせてしゃかしゃか進む。
    「「うずら、たまご、うずら、たまご!」」
     二人の身長差はうずらがケネスの肩に腕を回し、ケネスがうずらの腰を支えることで安定させる。
     敵は手強いが、散々二人で特訓してきたのだ。勝つしかないでしょ!!
     徐々にペースを上げ、彼らは三位まで追い上げる。
     一方、撫子と惡人が発揮するのは夫婦の絆。全力疾走の撫子に、惡人が合わせる。
     互いに連携しようとすることで生まれる効率の無駄やマイナスを、完全に自由な一方をもう一方が支援することで、ゼロにすることが目的だ。器の広い旦那である。
     残り20mになれば、撫子が惡人に合図を。
    「後少し、飛ばしますよ」
    「ん、おぅ」
     息を合わせて掛けるスパート。同時に、暦と梓も加速する。
    「行くよ、兄さん」
    「OK、合わせるっ」
     しかしここで表れた二人の能力差、それを補うように、暦は咄嗟に兄を脇から抱き寄せた。
    「ちょ、暦っ、この体勢……ええい、頼むぞっ!」
     開き直る梓、上がる速度。
     慧樹と羽衣が連覇を賭けて追いかければ、日方とアナスタシアは無我夢中で土を蹴る。
     最後の勝負に力を振り絞るうずらとケネス、トップに挑む統弥と藍。
    「ケネスちゃん、いくよ! せーのっ」
    「うずら!! たまご!!」
    「統弥さん、ここから本気ですよ」
    「そうだね、勝負はこれからだ」
     無論、芹と兵吾とて容易く首位を譲るわけにはいかない。
     繰り広げられる攻防、ゴール直前で全員の距離は一気に縮まり――
    「MVPは渡さないよっ!」
    「応!!」
     転がるように飛び出たうずらとケネスが、ゴールテープを初めに揺らす。

     ――二人三脚MVP。
     それは白熱の最終レースを制した、うずらとケネスに送られた。

    作者:零夢 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月25日
    難度:簡単
    参加:84人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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