運動会2014~キミと一緒に応援合戦

    作者:春風わかな

     新緑に包まれ心地よい初夏の風が吹く5月最後の日曜日。
     武蔵坂学園では運動会が開催される。
     運動会とは9つの組連合に分かれ競技を行い、得点を競い合うイベントだ。
     ――決戦の日は、25日。
     組連合ごとに力を合わせ、優勝を目指す戦いが今始まろうとしていた。

    「來未ちゃん、『おうえんがっせん』って、どんなきょうぎ?」
     運動会の競技一覧が書かれたプリントを手に、星咲・夢羽(小学生シャドウハンター・dn0134)はちょこんと首を傾げた。
    「おうえんを、きょうそうするの……?」
    「『応援合戦』は、自分の組連合を、応援しあうの」
     応援合戦は、自分が所属する組連合を応援するパフォーマンスを競い合う競技だ。組連合の士気を高め、団結を深めることを目的に行う運動会の定番競技の一つである。
    「結果に応じて、得点が、入る」
     参加は個人でもグループでもどちらでもOK。パフォーマンスは歌やダンス、演武等、何でも良い。組連合が盛り上がるものが良いが、最も大切なのは各自が楽しめること。
     久椚・來未(中学生エクスブレイン・dn0054)の説明を聞いた夢羽は「おもしろそう♪」と笑顔を浮かべた。
     ちなみに、パフォーマンスを行う場合は同じ組連合の仲間以外――例えばクラブの仲間同士で行っても構わない。
    「ね、來未ちゃん。小梅もいっしょにおうえんできる?」
     こくりと頷く來未を見てさらに夢羽の顔が輝いた。夢羽は足元で行儀よく座る霊犬の小梅の頭を優しく撫でる。
    「やったー♪ 小梅もいっしょにみんなをいーっぱいおうえんしようね!」


    ■リプレイ

    ●応援の幕開け
     何処までも続く青い空。競技をこなし汗ばんでいた身体に爽やかな風が心地よい。
     BGMに合わせて羽守・藤乃(君影の守・d03430)が叩くスネアドラムの乾いた音色が空へと吸い込まれていく。藤乃の動きと外れぬように篠村・希沙(暁降・d03465)は指の動きや呼吸にも意識を向けてドラムを叩いた。
     希沙たちが刻む軽快なリズムに合わせ、殿辻・尚都(アルミニウムプライズ・d01744)と荻原・茉莉(モーリー・d03778)が2本の応援旗をくるくると回す。
    (「音楽隊に負けらんねーナー」)
     尚都の視線に気づいた茉莉がにこりと笑顔で頷いた。尚都の旗と茉莉の旗。しゃん、と風を切る旗の心地よい音に自然と藤乃や希沙の顔にも笑みが浮かぶ。
    (「此方も負けへんよ」)
     音楽隊の傍へと下がってきた茉莉と笑顔を交わし、希沙はすぅっと息を吸って藤乃のリズムに全神経を集中させた。それは藤乃も同じ。
     ――視線を交わさずとも、タイミングは心でわかる。
     タンッ!
     空にくるくる放り投げたスティックを見事2人同時に片手でキャッチ。
     希沙と藤乃の一糸乱れぬ動きに観客席からは大きな歓声と拍手が沸き起こった。
     学園の皆が楽しく全力を出し切れるように――。
     青い空にはためく応援旗に描かれた9つの組連合の花に込めた願いをしっかりと届け、演技を終えた4人の少女は観客席に向かってゆっくりと頭を下げる。
    「店長、わたしたちも負けてらんないね!」
     ハイタッチを交わす尚都たちを見つめていた蓬栄・智優利(星の王女様・d17615)が傍らの卦山・達郎(ドラゴンボルケーノスペシャル・d19114)に囁いた。
    「あぁ、――全力で行くぜ!」
     2人は揃いの鉢巻に黒い学ランという昔ながらの応援団スタイルに身を包み、ゆっくりとグラウンドへと進み出る。そして、【6F菊】連合の仲間たちへと向き直った達郎が大きな声を張り上げた。
    「【6F菊】の勝利を願って――!」
     達郎と智優利、2人はリズムに合わせゆっくりと右腕を真横に伸ばす。
    「フレー! フレー!」
    「6・F・菊!」
     笑顔で仲間を鼓舞する2人の背後には白銀の翼を持った赤い竜の姿が見えた気がした。
    「星咲さん、準備はいい?」
     出番を控え、リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)が星咲・夢羽(小学生シャドウハンター・dn0134)に声をかける。
    「うん! がんばろーね、リュシールちゃん!」
     元気よく頷く夢羽の耳にわぁっと大きな歓声が聞こえた。【6F菊】の演技が終わり、次はリュシールと夢羽の番。
     皆の視線を一身に集め、リュシールは澄んだ歌声を空に響かせる。
    「フレー! フレー! み・ん・な!」
     ぴょんぴょんと飛び跳ねるように歌う夢羽の手にはいつの間にかポンポンが握られ、霊犬の小梅の首輪についた鈴がシャンシャンとリズムを奏でた。リュシールが歌うメロディに合わせ、夢羽や小梅の装いも華やかになっていく様はまるで魔法のよう。
     最後の一節をリュシールが歌い切るとグラウンドは水を打ったように静かになるがすぐにパチパチと拍手が聞こえる。
    「――お疲れ様」
     にっこりと笑顔を交わす2人と1匹を大きな拍手が包み込むのだった。

    ●大空に舞う
    「ひゃほー♪ 【2B桃】の皆、がんばってるー!?」
     【5E蓬】の演技の後、グラウンドに現れた若葉・杏子(あんこのだらだらシンデレラ・d16586)の呼びかけに【2B桃】連合は大きな歓声で応える。
     次にパフォーマンスを披露するのはチーム【あんころ☆もち】。お揃いのタンクトップにミニスカ姿で現れた5人に【2B桃】男性陣のテンションが一気にあがった。
    「GO! GO! トゥービーピーチ!(2B桃)」
     東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)の明るい声に合わせて綺羅星・ひかり(はぴはぴひかりん・d17930)の身体を杏子は一気に駆け上がり、ダイナミックなジャンプを見せ、白牛・黒子(とある白黒の地方餅菓・d19838)も愛しの桜花のためにと張り切ってダンスを披露する。
     笑顔いっぱいでパフォーマンスを見せる桜花たちだったが、実は蕨田・優希(ぷるぷにワラビなお散歩ガール・d20998)だけは慣れぬスカートが気になる様子。
    (「うぅぅ……ええーい、ままよ! 気合いれていくで!」)
    「頑張れぇ~、トゥービーピーチ!(2B桃)」
     ぽーんと桜花が空へと放り投げた杏子をパシっとひかりがキャッチ! そのタイミングと合わせ、気持ちを切り替えた優希も思い切り全力でジャンプ! 黒子と一緒にリズムを合わせて空を舞う。
     仲間を鼓舞する激しいチアダンスの締めは組体操の5人扇。キリリと綺麗に開いた扇に【2B桃】から大きな歓声があがった。
    「みんな、ありがとう~!」
     手を振って歓声に応える桜花だったが。
    「きゃー!? 杏子!?」
    「杏子さん、桜花せんぱいに何をー!?
     どさくさに紛れて杏子が桜花の服を引っ張ったから大変! 黒子が慌てて桜花から杏子を引きはがそうとするも、ひかりや優希も加わりもみくちゃになる。
    「ん……? 何だか騒がしいな」
     演武用の木刀を持った朝霧・瑠理香(黄昏の殲滅鍛冶師・d24668)がグラウンドに顔を向けると、そこでは【2B桃】の桜花たちがわたわたしていた。ビリっと何かが破けるような音が聞こえた気もするが今は自分たちの演技に意識を向ける。
    「ねぇ、やるなら本気でやらない?」
     アイリスエル・ローゼスフォルト(戦場のマエストロ・d22427)の誘いに瑠理香は迷うことなく頷いた。
    「……あっさり倒れるなよ」
     【1A梅】連合の仲間たちを鼓舞する瑠理香とアイリスエルの真剣な演武に連合の仲間たちを固唾を飲んで見守る。
    「なかなかやるじゃないか……」
    「当然でしょ。昔とは違うってとこ、見せてあげるわ!」
     左眼のお礼もまだだったしね――。
     不敵な笑みを浮かべ容赦なく打ち込むアイリスエルを瑠理香は流れるような動きで受け流した。
    「でも、まだまだ僕には勝てないね!」
     ピタリ、と切っ先をアイリスエルの喉元にあてた瑠理香に【1A梅】連合は拍手をおくる。
    「すごいね、オレンジさん……」
     盛り上がる【1A梅】連合を横目に上池・乙葉(両手に銃の花束を・d21658)はふよふよと傍らで佇むナノナノのオレンジさんに話しかけた。
    「でも、わたしたちも、負けられない、ね……!」
     オレンジさんの首にホイッスルをかけ、乙葉はぎゅっと拳を握る。黒い学ランに赤鉢巻。オレンジさんとお揃いの勝負服に身を包み、乙葉はグラウンドの中央へと進み出た。
    「フレー、フレー、【9I薔薇】……!」
     ピッピッとオレンジさんが鳴らすホイッスルに合わせ乙葉はお腹の底から声を響かせる。
     誰かを応援するのって、こんなに気持ちいいことだったんだ……。
    「フレー、フレー、【9I薔薇】!」
     さっきよりも、もっと力強く。乙葉は声を張り上げ仲間を励ました。
    (「オレンジさん、行くよ……」)
     最後は乙葉がオレンジさんをぽぉんと上空へ放り投げ。空中大回転からの見事な着地を決めたオレンジさんに【9I薔薇】だけでなく観客席全体から拍手と歓声が湧き上がる。
    「決まった、ね……」
    「ナノ!」
     嬉しそうな声をあげるオレンジさんの頭を乙葉は嬉しそうにそっと撫でた。

    ●ダンスで魅せて
    「なるほど……ポイントはわかりました」
     ふむ、と頷く大山田・小太郎(はボッチ力高い人・d20172)に井瀬・奈那(微睡に溺れる・d21889)は「よろしくお願いします」と頭を下げる。
     同じ【8H百合】の仲間として小太郎はクラスメイトと共にパフォーマンスを披露するという奈那たちのサポートを申し出たのだ。
    「もー、リックったら……ほら、もっと愛想よく!」
     三園・小枝子(トリカゴノユメ・d18230)は霊犬のリックにたまには可愛らしく頑張ってよーと嘆くが当のリックは素知らぬ顔。
    「よかったら、これ、どうぞ」
     希・璃依(シルバーバレット・d05890)が差し出したのは百合モチーフのブローチ。見れば奈那も小枝子も揃いのモチーフの髪留めを付けている。
    「あぁ、ありがとうございます」
     小太郎もブローチをつけ4人はグラウンドに視線を向けた。
     グラウンドでは演技を終えた【3C桜】に続いて【4D椿】のメンバーがパフォーマンスを始めようとしていた。
    「頑張ろうね、あるなちゃん!」
    「うん、よろしくね、奏音ちゃん!」
     にこりと笑顔を交わし、美波・奏音(エルフェンリッターカノン・d07244)と卯月・あるな(正義の初心者マーク・d15875)のパフォーマンスが始まる。お揃いのミニスカートの裾を翻し、奏音とあるなは息ぴったりのチアダンスで連合を盛り上げていった。
    「Let's go! Ready go!」
    「4・D・椿!」
     奏音のリズムに合わせてあるなが大きく足をあげ、元気いっぱいに飛び跳ねる。アクロバティックな動きも華麗にこなす2人。ちらりと見えるおへそもまたセクシーだった。
    「「Let's go! Ready go!4・D・椿!」」
     自然と【4D椿】連合の仲間たちからは奏音が刻むリズムに合わせ手拍子が起きる。
    「お疲れ様でした! 素敵なダンスでしたよ」
    「このまま盛り上げていくよ」
     パフォーマンスを終えたあるなたちに続き、グラウンドに現れたのはナターリア・オルダノヴァ(王子様を待つ少女・d18333)と曹・華琳(武蔵坂の永遠の十七歳・d03934)だ。頑張ってね、と応援の気持ちを込めてあるなは華琳とパチンとハイタッチを交わす。
     2人お揃いの赤いチアリーダー衣装に身を包んだナターリアはくるりと鮮やかなバク転を決めて見せた。おぉ~と観客席からはどよめきと同時に拍手がおこる。ピンと足を伸ばしたラインダンスは足の角度も同じで見た目も美しく、観客はほぅと溜息をついた。
    「4・D・T・S・U・B・A・K・I! Victory!」
     ポップなBGMに合わせ、華琳とナターリアは笑顔を絶やさず最後まで踊りきる。
     残すチームはあと3つ。
     果たして優勝するのはどの組連合か……勝負の行方は、まだわからない。

    ●勝利を願って
     振りかぶった野太刀をゆっくりと動かしたかと思えば、一転して滑らかに踊るように空を斬る。クーガー・ヴォイテク(神速のグラサン幹部・d21014)の美しい剣舞に【7G蘭】の仲間たちは目を離せずにいた。
     1m80cmはあると思われる大きな野太刀【新月】を軽々と操るクーガーの背には傷口から燃え上がった炎がまるで赤い翼のように見える。ひらひらと舞い散る炎の翼が野太刀を照らし、その幻想的な美しさに皆しばしうっとりと見惚れていた。
    「おつかれさま! すっごいキレイだったよ~!」
     はしゃぐ夢羽にそうか、と頷くクーガーの表情は仮面に隠れて見えない。だが、その口元に浮かぶ小さな笑みから満足のいく演技が出来たことは想像することが出来た。
     アナウンスが【8H百合】のパフォーマンスタイムを告げる。
     3人お揃いの手作り衣装に身を包みBGMに合わせてポンポンを掲げる璃依たちの笑顔を見ているうちに、緊張していた奈那の心も落ち着いてきた。
    「GO FIGHT WIN☆ 【8H百合】♪」
     青空の下で響く小枝子の声に合わせ、霊犬のリックとナノナノの王子が応援幕をぱっと掲げる。この後は一番の見せ場であるアクロバット。小太郎のサポートを受けながら璃依と小枝子の手に足を乗せ、奈那は静かにカウントを刻んだ。
    「ナナ、今だよ!」
    「いっけー、奈那ー!」
     ぽーんと2人が奈那を空に押し上げれば彼女の身体がくるりと宙を舞う。
    (「あ、出来ました……!」)
     奈那が着地を決めると同時に小枝子と璃依が空高くジャンプ!
    「青春、努力、ドリーム【8H百合】♪」
     練習の甲斐あり息ぴったりの動きを見せる3人に【8H百合】連合は大きな盛り上がりを見せたのだった。
     いよいよ、応援合戦も次が最後のチーム。
     お揃いの白い聖歌隊制服でグラウンドに現れたのは【星空芸能館】の面々だ。
    「私たちが作った皆の為の応援歌、ぜひ一緒に歌ってくださいね♪」
     星野・えりな(スターライトエンジェル・d02158)の合図に合わせ、ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)がサビのメロディを奏で始めた。
    「がんばれ、がんばる、武蔵坂!……」
     椎那・紗里亜(魔法使いの中学生・d02051)の歌声に合わせ、望月・心桜(桜舞・d02434)が元気いっぱいの笑顔で振り付けのダンスを見せる。
    「簡単じゃろ? みんなで一緒に踊るのじゃ!」
    「さぁ、皆さんもご一緒に!」
     紗里亜の呼びかけに応え、観客席から歌声が聞こえだした。
    「ね? みんなで楽しく仲良くがんばるもん♪」
     にっこり笑顔で歌う榊・くるみ(がんばる女の子・d02009)の横では夢羽も心桜の真似をしながら一生懸命にダンスを踊る。
    「運動会じゃみんなが主役だっ!」
     ギターを奏でるファルケがパチリとウィンクをすれば。
    「ハイパーなんかに負けないのじゃよー!」
     お腹の底から大きな声を出して心桜が叫んだ。
    「最後の最後まで、諦めたらダメですよーっ!」
    「あきらめたら、そこでおわりだもんねっ」
     紗里亜の言葉に夢羽もぴょこぴょこ跳ねながら何度も頷く。
     ――がんばれ、がんばる、武蔵坂!
     組連合の枠を超えた生徒全員の合唱は青い空いっぱいに響き渡っていた。

     全てのパフォーマンスが終わりアナウンスが結果を告げる。
    「……2位、【8H百合】!」
    「やったー!」
     名前を呼ばれ、小枝子は大きく目を見開いた。驚きを隠せない奈那や嬉しそうな璃依とハイタッチを交わす。1位じゃないのはちょっぴり悔しいけど、結果が残せたこと、何よりもすごく楽しかったことが嬉しい。
     それじゃぁ、1位は……。
     ドキドキしながら発表を待つ皆にアナウンスが優勝チームを読み上げる。
    「1位、【9I薔薇】!」
    「え、ウソ……!?」
     優勝を告げられ乙葉は自分の耳を疑った。だが、MVPとして自分の名前が繰り返し呼ばれるとだんだんと実感もわいてくる。おめでとう、と仲間たちの祝福を受け乙葉はオレンジさんをぎゅっと抱きしめた。
    「やった、ね、オレンジさん……!」
    「ナノナノ♪」
     乙葉の腕の中でオレンジさんは誇らしげに胸を張る。
     皆で盛り上げた応援合戦は【9I薔薇】の勝利で幕を閉じた。
     だが、この後もまだ競技は続く。
     最後まで諦めず全力で戦うことを、そしてこの運動会を楽しむことを祈って――。

     がんばれ、がんばる、武蔵坂!
     ファイト、ファイト、ファイトオー!!

    作者:春風わかな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月25日
    難度:簡単
    参加:29人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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