血塗れの殺戮執行者

    作者:泰月

    ●鮮血に染まる
     山奥の川原と言う自然の多い場所に、その男は、異質であった。
     長い金髪に、黒で統一された革靴に礼服と言う出で立ちも。
     その首に嵌められた忌まわしい意匠の首輪も。
     左手に握られた、切っ先のない西洋剣も。
     そして、それら以上に異質であり異常であるのが。
    「ククッ……クハハハッ! 良いぞ。肉と骨を断つ手応えに、血の臭い。実に良い!」
     血溜りの上で、咽返るような血臭の中で。
     返り血を全身に浴びた姿で、愉悦を浮かべて嗤っている事だ。
    「たまには首を刎ね、血を浴びねばな。汝らもそう思うであろう?」
     男の言葉に、答える声は何1つ上がらない。
     手足と首を切り落とされて喋れる人間など、いる筈がない。
    「ふむ。1人は生き血を啜ってから、と思っていたのだが――我とした事が、久し振りの外界に少々浮かれたか?」
     その惨状を自分で作っておいて、男は事も無げに言う。
    「まあ、別の獲物を探せば良いだけの事。下流に向かえば、街の1つも見つかるだろう」
     街中の人間の首を刎ねれば、この無粋な首輪の溜飲も少しは下がるか。
    「どうせ奴もこの『首切り』が素直に捜索すると思ってもいるまい。折角の自由、飽きるまで満喫させて貰うぞ」

    ●首切りニコラ
    「最近、ヴァンパイアの動きが増えてるのは聞いてる?」
     集まった灼滅者達を出迎えた夏月・柊子(高校生エクスブレイン・dn0090)は、挨拶もそこそこにそう切り出した。
     新潟ロシア村の戦いで行方不明になったロシアンタイガー。
     彼の持つ『弱体化装置』を狙ってヴァンパイア達が動き出している。
     強大な力を持つヴァンパイアは、その多くが活動を制限されているが、今回動いているのは『爵位級ヴァンパイアの奴隷として力を奪われたヴァンパイア』達だ。
     彼らは、奴隷からの開放とを条件に捜索を請け負ったらしいが、中には捜索よりも、己の快楽を満たす事を優先する者もいる。
    「今回の予知の相手、ニコラもそう言うタイプよ……もう犠牲も出てる」
     放っておけば、ダークネスの存在を知らない一般人の犠牲が増えるばかりだ。
    「ニコラは山地の川に現れて下流に向かうわ。川原で正面から迎え撃っても良いんだけど、橋を利用すれば奇襲が出来る」
     広げた地図の中で、柊子が指したのは、川が大きく曲がる地点。
     そこにある橋の上下で待ち伏せ、下の者が気を逸らせば、橋の上は視覚と意識の両面で死角になる。
    「奇襲をするなら、最低5人は下で待ち伏せて。ニコラは灼滅者も『活きの良い獲物』としか思ってないから、少人数じゃ気を逸らしきれないのよ」
     そして同じ手が二度通じる相手でもないだろう。
     奇襲のチャンスは一度。
     それでも勧めるのは、力を奪われていても強敵だと言う事だ。
    「先端が平らな変わった形の剣を使うわ。あとは、ダンピールと同じ力。ヴァンパイアミストの性質が少し違うけど」
     霧の展開範囲を自分自身に限定し、ダンピールのそれより回復量を高めていると言う。
    「今回1人だからじゃなくて、元々そう言う性格みたい。尊大で自己中心的な自信家」
     故に挑発にも乗り易く、戦いから逃げ出す心配は殆どない。
    「皆が遭遇する時、ニコラは血塗れの筈よ。本当は、もっと川の上流に現れるから」
     そこで何が起きるのかは、言わなかった。
     間に合う未来予測があったなら、言っている。全ての事件を未然に止められるわけではない。
    「強敵だし無理はして欲しくないけど。今回は、倒して来てって言わせて。あんな光景、繰り返して欲しくないから」


    参加者
    皇・ゆい(始まりの刃・d00532)
    龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176)
    九条・茜(夢幻泡影・d01834)
    北斎院・既濁(彷徨い人・d04036)
    ライラ・ドットハック(蒼の閃光・d04068)
    護宮・サクラコ(猟虎丫天使・d08128)
    唐都万・蓮爾(亡郷・d16912)
    フィオレンツィア・エマーソン(モノクロームガーディアン・d16942)

    ■リプレイ

    ●邂逅
     自然豊かな山間の川に掛かった橋の下で、5人の灼滅者達は既に殲術道具を構えてそこにいた。
     程なく、砂利を踏む硬い足音を立てて現れた礼服の男が、彼らを見て足を止める。
     同時に漂う、鼻に付く臭い。
    「血と業の臭いがするわ。そこの人殺しさん」
    「ほう?」
     フィオレンツィア・エマーソン(モノクロームガーディアン・d16942)の言葉に、その男――ヴァンパイアのニコラは眉根を寄せた。
    「半端者が揃って我に何の用だ? その様子では、偶然ではあるまい?」
     ベルトに吊った剣に手をかけながら、値踏みする様に灼滅者達を見回してくる。
    「これ以上は進ませないよ」
     犠牲者を増やすわけにはいかない。
     内に秘めたその意志で血に塗れたニコラの姿を見据え、九条・茜(夢幻泡影・d01834)がはっきりと告げる。
    「我を止めるつもりか。力の差も理解出来んのか?」
    「そっちこそ口だけじゃねぇか。まさかこの程度の数でびびったとか、言わんよな?」
     呆れた声を上げたニコラに、すぐに北斎院・既濁(彷徨い人・d04036)が小さく鼻で笑って返す。
    「……わたしはあなたのような殺戮を快楽とするタイプは、唾棄すべきゴミだと思っている」
     ライラ・ドットハック(蒼の閃光・d04068)が感情を押し殺した冷たい声を発した。
    「……苦しみ、のたうち回るような死をくれてあげる」
     ニコラに向けるライラの瞳の奥には、いつもの彼女であれば見せないであろう、押さえ切れぬ憎悪と怒りの激情があった。
    「つまりはこう言う事です――貴方の首、貰い受けませう」
     唐都万・蓮爾(亡郷・d16912)がニコラの首元を指す白い手が、蒼に変わり始める。
     傍らに寄りそうは、赤を纏いし者。
    「ククッ……黙って聞いていれば、大口を叩くものだ。我の聞き間違いではないな?」
     重ねた挑発に、ニコラが歪んだ笑みを浮かべる。
    「聞こえなかったなら、もう一度言ってあげる」
     フィオレンツィアの足元で、砂利が砕けて跳ね上がる。
    「ここで貴方の首を刈らせて貰うわ!」
     叫ぶと同時に放った炎を纏った回し蹴りが、ニコラが剣を抜くよりも早くその胴に叩き込まれる。
    「クハハッ! 良かろう。言うからには愉しませて貰うぞ!」
     僅かに橋の外側へと押し込まれながらニコラが剣を抜き切った直後、その頭上に影が差した。
    「成敗でいす!」
     大きなリボンを揺らし飛び降りてきた護宮・サクラコ(猟虎丫天使・d08128)が、ロッドでニコラの頭を打つ。
    「血塗れは私だけで十分だ」
     赤い三日月の描かれた裾を翻し着地した皇・ゆい(始まりの刃・d00532)の影が、ギロチンのような大きな刃に変わる。
     その頭上で、龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176)の無言で構える『叛逆者』の銘を持つ剣が、破邪の輝きを纏う。
     内側で魔力が爆ぜて、影と光の刃が上下から同時にニコラを斬り裂いた。

    ●首切りの愉悦
    「っ……橋の上にもいたのか」
     橋上からの奇襲。
     3人の攻撃をまともに受けたニコラが、たたらを踏んでよろける。
    「感心してる暇はねえぞ」
     間を空けず、その背中に既濁の放った鋭い氷が突き刺さる。
    「成程。少しは力の差を理解していると見える!」
     次の瞬間、ニコラが動いた。
     最後に飛び降りた柊夜をめがけて砂利を蹴って飛び上がり、空中で血の臭いの残る刃を振りかぶる。
    「流石に立ち直りもお早い事で」
     刃が振り下ろされる前に、蓮爾が舞うような動きで間にするりと割り込み、両者を手で押しやった。
     緋色を纏う刃が腕を斬り裂き、蒼い砲身がニコラに向けられた。
    「喜ぶのですか。強敵と殺し合える事を……存分に喰らいなさい」
     自らの寄生体を『蒼』と呼び、それに語りかける様にしながら。至近距離から蓮爾が放った死の光線が、ニコラの体を押し戻す。
    「闇の契約」
     茜が奥底に眠るダークネスの力で仲間を癒すと同時に、ゐづみが霊障で飛ばした川原の岩を飛ばす。
    「挑発で終わらせるつもりはない」
     その岩の陰からライラが飛び出す。内心の怒りを表すかの様に変異した紫色の巨大な怪腕を、猛然と振り下ろす。
     しかし、異形の拳が届く寸前にニコラの体が跳び上がった。
    「中々の威力だが、直線的だな。読み易い」
    「きさ――」
    「肩の力抜いて行こうでいす」
     薄ら笑いを浮かべたニコラの言葉に声を上げかけたライラの肩に、サクラコの手が置かれる。
    「力で押すのは分が悪そうですねい」
     そうサクラコが小声で告げて来るのを聞きながら、ライラは小さく息を吐いた。任務達成が最優先。いつもの彼女の冷静さを、多少なりとも取り戻す。
    「クククッ……良いぞ汝ら。先程の雑魚とは流石に違う。これは長く遊べそうだ!」
     その身を蝕む毒にも氷にも動じた様子を見せず、灼滅者達の視線の先で、ニコラは嗤っていた。
    「もっと我を愉しませよ。誰だ? 次は誰が我の前に立って血を流す?」
    「つける薬が無い上に、いちいち鼻につくわね。気に入らないわ」
     内心の嫌悪を露わにして、フィオレンツィアが跳んだ。
     上空で身を翻すと、流星の煌きと重力を纏った飛び蹴りをニコラへと叩き込む。
     響いたのは、響いたのは金属同士のぶつかる高い音。
    「まずは汝か。ならば、その足を斬り落と――っ!?」
     縦に構えた剣で蹴りを阻んだニコラを、別角度から迫った既濁が同じ技で背後から蹴り飛ばした。
    「なぁ、聞かせてくれ。お前は何がそんなに楽しいんだ」
     たった今蹴り飛ばした足を降ろし、既濁が問いかける。
    「ただの殺しで、何をそこまで気分を昂ぶれるんだ。俺は何も思わない、伴わない。人間でもダークネスだろうと、そこに大した違いはないだろう?」
     理由なき殺人衝動よりも、自分の思考とそれをおかしいと感じる倫理観とのズレに悩むからこその、既濁の問い。
    「ふむ……我の頭を蹴り飛ばした威勢に免じて、少し答えてやろう」
     ゆらりと身を起こしたニコラは、額を伝った自身の血を指で拭い、それを舐めると言葉を続けた。
    「我の殺戮を我が愉しまずにどうする。我が何も感じなければ、我に斬られた者共はただ死んだ事になる。そんな無駄な死に方、汝らの血の上に君臨する闇の貴族の一員として、許さぬよ。同じ死ぬなら、せめて我を愉しませろ!」
     人の側からすれば、身勝手な理屈。
    「愉しもうとせずには愉しめんぞ。我は300以上の首を刎ねたが、愉しいぞ。我と同じ剣を使おうが、出来ぬ奴には出来ぬ事だからな! 汝らに与える死の形は、我の力の証明でもあるのだ」
     ある種の優越感に繋がった愉悦。
     それを朗々と声高に告げながら、ニコラは魔力を持つ赤い霧を展開し、その力を己の内に取り込んでいく。
    「とは言え、容易い蹂躙ばかりではつまらぬ。たまにはこうして、抵抗する者もいなくてはな!」
    (「……血塗れ。私が昔からずっと昔に言われてた二つ名ね……」)
     愉悦を語るニコラを見据えながら、ゆいがその赤い瞳にバベルの鎖を集めていく。
    「それともう1つ」
     と霧が全て消えた所で、ニコラの笑みが突如、消えた。
    「人間とダークネスに大した違いが無いと言ったが……思い上がるなよ、小僧!」
     それは、ニコラがこの戦いの中で灼滅者達に見せた、最も強い怒りの感情。
     ヴァンパイアは、ダークネスの貴族とも称される。
     頭上からの奇襲よりも、己を人と同格に扱われた事に怒りを見せるニコラは、ある意味、とてもらしいと言えるのかもしれない。

    ●広がる赤
    「来るよ!」
     ニコラの足に力が篭ったのに気付いた茜が警告を上げた時には、ニコラは灼滅者達の間を一気に駆け抜けていた。
     数秒遅れて、川原に血飛沫が上がる。
     戦いの中で敵が刃を振るう度、川原の砂利が灼滅者達の血で赤く染まっていく。
    「……外道の刃など、羽虫の一撃より劣る」
     赤く染まった首の痛みを精神力で押さえ込み、挑発的な笑みを浮かべたライラが銃口から暗い想念を集めた漆黒の弾丸を放つ。
     同時にその背後から、サクラコが飛び出した。
    「あなたのために最新の武器を用意してきました。お友達の怒り、その身に受けるでいす!」
     サクラコにしては珍しく戦いの中で怒りを表に出し、断罪輪を手に全身を回転させ、鋭い斬撃を叩き込む。
    「首が血塗れですよ。殺意高いですねえ」
     此方も首を赤く染めながら、柊夜は口調の穏やかさを失わない。
     物質としての形を消した刃を冷徹に振るい、ニコラの霊魂と取り込んだ霧の力を斬り裂く。
    「清めの風。……皆、がんばって」
     茜が招いて優しい風が、前の仲間達の間を吹き抜け、傷を塞いでいく。
    「ちっ……半端物の分際で、しぶとい!」
     茜が癒しに専念している事に加え、それぞれが体力の維持を考えている事もあり、まだ灼滅者達は1人も倒れていなかった。
     その事実に、少しずつ、ニコラの中から余裕が消え始めていた。
     ニコラも攻撃の冴えを失わないとは言え、その足取りは戦いが始まった時に比べれば幾らかは確実に鈍っていた。
    「あら、容易いのはつまらないと言っておいて、少し手こずったらもう楽しめないの? 吸血鬼って、もっと誇り高いものだと思っていたわ」
     鼻で笑って挑発しながら強く地を蹴ったフィオレンツィアが、駆け抜け様に炎を纏った蹴りを叩き込む。
     確かな手応えを感じた直後、背中を斬られた痛みがフィオレンツィアを襲った。足元が一気に赤く染まる。
     同時に、ニコラの足元も赤く染まる。
     躊躇いなく振るう剣を掻い潜った既濁が、手にしたナックルガードの付いたナイフで、燃え移った炎をニコラの内側に刻み付けるように斬りつけていた。
    「貴方の様な化け物は、ここで倒す」
     血を流すニコラを冷徹に見つめて、ゆいは影を操る。
     剣の形を解いた影が、敵を飲み込み覆い尽くさんと膨れ上がり――。
    「小ざかしい!」
     叫んだニコラの振り上げた剣が、ゆいの影を打ち払った。
     ニコラはそのままの体勢から、濃密な死の気配を刃に纏わせて、振り下ろす。
     刃はゆいに届く前に、割り込んだ蓮爾の肩に食い込み、斬り裂いた。
    「僕の首を刎ねるなら、それもまた良し。その代わり、貴方の首は僕が頂戴致します」
     霊力を集めた縛霊手の指先を当てて自らを癒しながら、斬られた腕でニコラの首を指す。
     それを苛立たしげに睨み返すニコラに、現れた時の余裕の色はもうない。

    ●狂気の末路
    「……あなたのような輩に、真っ当に戦う義理はない」
    「顔を洗って出直せって言いたいですねい」
     サクラコがオーラを纏わせた拳の連打を叩き込む背後から、ライラが影を宿らせたグローブを叩き付ける。
     数の利を活かし、灼滅者達はあらゆる方位からニコラを攻め続けた。
    「くそ……奴のこんな首輪さえなければ!」
     首に掛けられた首輪を掴み、苛立たしげな叫びをニコラが上げる。
     力を制限されていなければ。
     ならばそもそも此処にはいない筈だが、押されているニコラはそう思わずにはいられなかった。
    「其処を狙うに良い目印でございます」
     その首輪を指差し、蓮爾が静かに告げる。
    「貴方の血も赤色ならば、刎ねるとさぞ美しく散るのでせう……試してみませうか」
     静から動へ。寄生体の生成した強酸を駆け抜けながら首元へと放つが、髪の毛を数本溶かしたに留まった。
    「む……下手を打ちましたか」
    「なめるなっ!」
     焦った素振りを見せた蓮爾へ、ニコラが剣を振り上げる。
     斬った相手の力を奪う緋色を纏わせた刃は、赤を纏った者をあっさりと斬り裂いた。力尽きたビハインドが消えて行く。
    「ちぃっ。人形風情が邪魔っ!?」
     舌打ちしたニコラの言葉を、背中に突き刺さった氷が遮った。
    「背中ががら空きですよ?」
     その先を辿れば、十文字槍を構えた柊夜の姿。
    「半端物がァァァァッ!」
     ニコラの右腕が宙を引き裂くように動く。
    「させないよ!」
     赤い逆十字が柊夜の精神までも引き裂くが、すぐに茜がダークネスの力を注ぎ込み、その傷と精神を癒していく。
     睨むニコラの頭上から、既濁が星の力を纏わせた悪食の脚を叩き付けた。
    「最初に言ったでしょ。首を刈らせて貰うわって」
     更に背中から、フィオレンツィアも同じ力を纏った蹴りを叩き込む。
     重力を宿した2つの重たい蹴りは、既に幾つもの傷を負っていたニコラの足を更に鈍らせた。
    「これで、終わりよ――化け物」
    「その首を地に晒しなさい、外道」
     ゆいが自らの影を剣の様に引き抜いて、ライラが炎の刃紋に光線を纏わせる。三日月型の影の刃と光を纏った刃が、ニコラの首をすっと抜けた。
    「ククッ……我を負かす、か。見事、と言っておいてやろう。まあ、これはこれで愉しめた……ぞ」
     最期まで戦いの享楽に笑みを浮かべて。吸血鬼は静かに川原に倒れた。

     ニコラの体が消えて行く。
    「……」
     その最期を、既濁はただ黙って見つめていた。
    (「ヴァンパイアになったら、自分もこうなる可能性も……強くならないとね」)
     亡骸すら残さず消え行く末路に、ゆいは己の中に誓いを新たにする。
    「……自業自得、死を冒涜した罰よ。慈悲なく、塵に還りなさい」
     踏みつけるように見つめていたライラの瞳からも、激情が消えいつもの冷静な瞳が戻ってくる。
     他の皆も気を緩め、張り詰めていた空気が穏やかになっていく。
    「……はぁ。これ気に入ってたのよね」
     フィオレンツィアが、被っていた帽子を手に取って溜息混じりにぼやく。
     真っ白だったその帽子は、まだらに赤く染まっていた。
    「気になるの? 傷は大丈夫?」
     川の上流を黙って見つめていた蓮爾を、茜が気遣う。
    「弔いを、と思ったのですが」
     目だけで問う柊夜にも頷き返しながら答えた蓮爾の脳裏を過ぎったのは、愛しき人の顔。
    「ま、行くのならサクラコは止めませんでいす」
     サクラコも上流に視線を向ける。詳しい状況は聞いていないが、行っても助けられる者はいないのだ。
     それでも、彼らはニコラを倒した。
     もうこれ以上、この川が血に染まる事はない。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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