運動会2014~唸れハンマー、武蔵坂の風を切って

    作者:六堂ぱるな

     来たる5月25日、日曜日。
     武蔵坂学園の生徒が9組の連合に分かれ得点を競い合う運動会だ。晴天の下、スポーツマンシップに則り様々な競技で争い、総合得点が高い連合が優勝。
     栄冠を勝ち取るべく、生徒たちは競技に、応援に、お弁当に心血を注ぐことであろう。その点、日本にあまねく存在する一般の学校と何ら変わりはしない。
     しかし同名を冠するスポーツでありながら、他と一線を画する競技がある。
     その名も――ハンマー投げ。
     
     通常ハンマー投げは、砲丸にワイヤーとグリップがついているものを投げる。
     だが武蔵坂学園でそんなものを使ったら、惨劇の予感しかしない。
    「よって、これが正式採用された規定のハンマーである」
     埜楼・玄乃(中学生エクスブレイン・dn0167)取り出した巨大ピコピコハンマーに、一部でざわっと声が上がった。
     小学生でも持てるよう重さと力点バランス調整をされ投げやすく改良済み。武蔵坂学園の科学力が結実した一品だ。科学力の使いどころ間違ってる。
    「競技の採点だが、『飛距離』、『芸術点』、『魂の叫び点』の総合だ」
     なにそれ。という顔になった生徒たちに、玄乃はドライに説明を続けた。
     『飛距離』は通常の規定通り、直径2メートル強の円内からの飛距離を競う。
     『芸術点』はフォームの美しさ、学生らしい清潔感や青春感などが審査の対象、らしい。
     『魂の叫び点』は投げる瞬間に発せられるものを対象とし、投げる前の発言は対象外。
     いずれも先年に定められた規定なので、昨年の運動会を経験済の者は知っていた。
    「一位となった者がMVPを獲得し、その者の所属する組連合にボーナス得点が入る。質問は?」
     ファイルから顔をあげた玄乃へ、宮之内・ラズヴァン(高校生ストリートファイター・dn0164)が手をあげた。
    「ハンマー重くしてもいいか? 投げ応えが」
    「規定を守れ!」
     ピコハンがラズヴァンの顔面を直撃してぴこっと鳴った。
    「ハンマーに加工を施す、他者のハンマーに細工をするなどの妨害、危険行動、ESPやサイキックの使用などが見られた場合、減点および一時的拘留の措置がとられる」
     どこに拘留されて何をされるかは知らんがな、という玄乃の手放し感が超怖い。
     眼鏡のブリッジを押し上げ、玄乃は一同を見回した。
    「これは独力で各組連合の得点に貢献する種目である。個人競技の高得点を記録するチャンスだ。奮って参加して貰いたい。以上!」 


    ■リプレイ

    ●ピコハンと一緒に人として大事なものをぶん投げる競技
     快晴の空の下、競技者たちがグラウンドへと集まった。風はややあり、風向きや風力を読みながら臨みたいところだ。
     進行予定を挟んだファイルを手に、埜楼・玄乃(dn0167)がおもむろに口を開いた。
    「では、これよりハンマー投げの試技を開始する!」

    ●小学生の部
     先陣を切ったのはアウグスティア・エレオノーラ(d22264)。ロザリオを外し、入念な準備運動の上でサークルへ入る。
    「この日の為に……目を回さない特訓をしてきたのですからね」
     力のなさは16回転の遠心力と技術で補う。綺麗なフォームを意識して踏ん張り、投擲!
    「たーまーしーいぃぃ!!」
     遥か彼方でピコハンがびごっと音を立てた。
     続く神条・亜梨子(d08398)はサークルに立つと、遠心力を乗せて高く放った。
    「飛べー」
     声援を受け、ピコハンが飛んでいく。
    「飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んでー戻って戻って戻って落ちーる~♪」
     その歌がでてくる時点で本当に小学生か物議をかもし、ハンマーはぴこっとグラウンドに降り立った。
    「飛距離とか芸術点とかどうでもいいのです」
     エミーリア・ソイニンヴァーラ(d02818)の宣言は清々しかった。
     ぐっとピコハンの柄を持ち、素早い回転から素早い投擲。
    「  わ  ふ  -  -  -  ! ! 」
     全身から絞り出すような叫び。ぜいぜいと呼吸を整え、彼女は微笑んだ。
    「あー……すっきりした☆」
     泉・火華流(d03827)は、実兄・泉星流(d03734)の足を掴んでマルチスイングで回転のイメトレ中。
    「大事にとっておいたプリン食べちゃってぇぇ~~!」
     地獄投げの要領でぶん投げる。
    「お兄ちゃんのぉぉ~~馬鹿あああぁぁぁぁ~~~~!!」
     放物線を描いて飛んだ兄は顔から墜落した。
     あくまでもイメージ。投げたのはピコハンである。

    ●中学生の部
     ハンマー使い、功刀・慧悟(d16781)は口元を覆う包帯を解いた。背筋を真直ぐ伸ばすことを意識して回転。
    「デモノイド朱雀門に引き篭もってないで出てこいやぁぁぁぁーーーっっ!!!」
     彼方でピコハンが跳ね、どよめきが上がる。
     スッキリした顔で包帯を巻きなおす慧悟と行き違い、居木・久良(d18214)が真剣な面持ちでサークルへ向かう。準備運動は入念だ。
     オレがハンマーを一番上手く使えるんだ。気持ちで負けない。
     小柄な身体を考慮して5回転で投げる。
    「今年の目標、誰よりもやさしく!!」
     絶対にそうありたい、という願いを込め。やりきった久良がぐったりと座り込んだ。
     船勝宮・亜綾(d19718)がふらつきながら挑戦。
     ピコハンに命名、「烈光さんMK2」。因みに烈光さんとは普段投げられている霊犬の名である。ひでぇ。
    「必殺ぅ、烈光さんミサイル、ローリングサンダースペシャルいきますよぉ」
     ふらつきは回転方向へ加算して解消する。
    「ハートブレイク、エンド、ですぅ」
     そしてすやっと眠りに落ちた。
     昨年優勝者、九条・泰河(d03676)。叫びたいことはただひとつ。ピコハンを手に回転が始まる。
     ――埋まる事が出来ぬ慟哭、悲しみ、お預けを喰らった時の嘆き。
     ――迎え入れられた歓喜と愉悦。安らぎ、柔らかさ。
    「おっぱぁぁぁぁぁぁいいいいいいい!!!」
     万感の想いを込めた叫びは風の悪戯を呼び、ピコハンの軌跡は豊かな二つの山を描いた。

    ●高校生の部
     一番手はクリミネル・イェーガー(d14977)。昨年優勝の泰河へ強い視線を浴びせながらサークルへ入る。ゆっくりした回転から急激な加速、5回転目で飛び散る汗と共に吠えた。
    「脳筋で悪いかー!!! 胸囲や無くてバストアップしたんやでー!!!」
     ずびっ。ピコハンの柄が地面に突き刺さる。
    「……!」
     振り返り、ニヤつくギャラリーに赤面した彼女は逃走した。
     パニーニャ・バルテッサ(d11070)は乙女の悩みを抱えていた。体重が増えていたのだ。一回転の後に手首の捻りを加え、螺穿槍のイメージでピコハンを振り抜く!
    「後っ、5キロっ、痩せ……るわ……よぉおおおっ!!」
     うっかりシャウトが発動しそうである。
     恐らくその揺れる胸についたと思われるが、彼女は知らない。
     四季・銃儀(d00261)は豪快に笑って試技に臨んだ。
    「シュールな種目だなぁ~」
     深呼吸してから始まる回転は徐々に加速。8回転目でライン内ギリギリに踏み込む。
    「燃えろッ俺の青春ッ! 弾けろッ内なる何かッ!」
     カッと眼が見開かれ、叫びが放たれた。
    「バァァァニングッ! マイ・ラァァァイフッ!」
     ピコハンは最大飛距離をマーク。
     ハンマー投げ限定必殺技――中島九十三式・銀都(d03248)は吠えた。
    「見せてやるよ、漢の魂の叫びってやつをっ!」
     ピコハンを上方で回転させて遠心力をつけ、体ごと回転。上体をそらし後方に向かって投擲!
    「俺の正義が真紅に燃えるっ! これが青春の輝きだっ!! でぇやあああああっ」
     銃儀の位置に迫ったが、及ばず。
     二度目の参加の北斎院・既濁(d04036)はコツを分析していた。重量に引っ張られないようにしつつ、外へとハンマーを回す。要は体重移動、重心がしっかりしていないと重さに負ける。
     背骨から背筋を意識しつつ、勢いをつけて回転。ベストは三回転半。
    「だっしゃああ!!」
     気合いを込めた一投は、鋭く空気を裂いて飛んだ。
     運動会初参加の水無月・飛鳥(d00785)は、体を温めながら自分の番を待った。ハンマーを握り、投げる先を見て回転を始める。
    「おおおおっりゃああああ!!!」
     初めての割には綺麗なフォームだが、無理な力がかかったようだ。足首を捻るわ背中の皮膚が裂けるわ怪我が発生。
    「あ、しまった……」
    「医療班!」
     玄乃の指示がとぶ。
    「シス・テマ教団幹部、クーガーいくぜー」
     クーガー・ヴォイテク(d21014)がサークルの中心でピコハンを掴み、ゆっくり回していく。体が引っ張られる勢いで次第に加速。
    「ゲルマンシャーク様は死んだ!!」
     ぎりぎりまで回転し、正面へと投げ飛ばしながら咆哮。
    「なぜだあああああ!!」
     そう思っている人は、他にもいるに違いない。
     高梨・雪音(d25550)は4回転の後にピコハンを放った。もうすぐ夏。アレが出る。
     厚みのない体――追いかけると隙間に入る
     強靭な生命力――体がほとんど潰れても動く
     高い瞬発力――素早すぎてよく見えない
     脂っこい――あの油は一体
     そして、飛ぶ……。
    「G、全滅しろぉ~~~!!!」
     悲嘆を極める絶叫は、人々の共感を呼んだ。
     花衆・七音(d23621)も気合い十分にピコハンを手にとった。
    「フォームに気を付けて、格好良く魅せたるで!」
     地面を踏みしめるすらりとした脚に、浮かび上がる紫のスペード。回転を始め、徐々に回転面を上げ、4回転目で手を離す!
    「なん・でや・ねえええええんんっ!」
     この学園はツッコミどころが多すぎる。
     大山田・小太郎(d20172)は5回転の加速からピコハンに乗せて、心からの想いを叫ぶことにした。
    「ありがとう!」
     この学校の職員や学生たちへの感謝。それなりに辛いが、それなりに楽しい毎日。
     ネタに走った小気味よい魂の叫びが浮かばない自分が情けない小太郎だが――感謝の気持ちは素敵なものだ。
     競技のしおりを読んだ鴻上・朱香(d16560)の結論は明快だった。
    「ハンマーを投げればいいんだな。だいたいわかった」
     4回転だとあらぬ方向にとんでいったので、3回転で投げてみる。高めに飛ばせば遠くに行かないだろうか?
    「晩御飯は、オム ライ スーーーーー 食いたい」
     飛距離はともかく、フォームは綺麗だった。
     順が回ってくると、鴻上・巧(d02823)は不機嫌そうにピコハンを掴んで立ち上がった。
     1回転。
    「ヤギでも」
     2回転。
    「シカでも」
     3回転。
    「インパラでもねえ」
     最後の一歩を力強く踏み込み、一気に投擲。
    「我は、白い、ト ナ カ イ だああああぁぁぁぁ!!」
     ピコハンを放って我に返る。
    「……何言ってるんだボクは」
     水瀬・ゆま(d09774)は投げやすそうながら、ちょっと重いピコハンに苦労していた。回転して力を乗せる。
    「もふもふは正義ー! 佐藤さん大好きー! あっ!」
     バランスを崩し、手からすっぽ抜けたピコハンがベストタイミングでぶっ飛んだ。まさにドジラック。かなり遠くまで飛んでびっと跳ねる。
    「結果おーらい……かな?」

    ●総合的に競い合う部
    「よし、やるぞー!」
     学校行事が大好きな久篠・織兎(d02057)である。
    「ラズヴァンさんハンマー好きなのか?」
    「好きだなー。特に重量感」
     宮之内・ラズヴァン(dn0164)が即答する。組んでウォームアップをしながら、万事・錠(d01615)が笑って持ち掛けた。
    「俺と飛距離勝負しよーぜ!」
    「おし乗った!」
    「俺楽しく投げてみたいな~」
     サークルを回ってみながら織兎が呟く。
     投擲に入った錠が、日頃ドラムで鍛えたリズム感で回転のスピードとタイミングを捉える。踏み込みは力強く、腕は遠くまで伸ばすように。
     ちらりとラズヴァンを見遣ってからリリース。
    「お前と一生ダチで居てェェェ!!」
     吹き出したラズヴァンが、そっぽを向いて戻ってきた錠にスポーツドリンクを放る。
    「望むところだっての!」
     そこへ初参加の奏川・狛(d23567)が、フォームを見たいとラズヴァンに申し出た。
    「俺も初めてだけどなあ」
    「手本を見るのが速そうなので」
     狛に頷いたラズヴァンがサークルに入る。振り回し慣れか、すぽーんと飛ぶピコハン。
    「皆で無事に卒業するぜー!」
     思うさま叫んだラズヴァンと入れ替わるのは織兎だ。
    「飛んでってくれよな~」
     ピコハンをよしよしと撫でてから、彼は回転を始めた。
    「運動会さいっこおおおおーーー!!」
     のびやかなフォームが人目を惹く。
     続いて入った狛はピコハンを手に集中した。
    「沖縄が長寿日本一から陥落したのも」
     回転ごとに体重を後ろへ。
    「基地がらみの問題も全部貴様のせいだ」
     インパクトの瞬間は体重を身体の正面へ!
    「アメリカンコンドル、その命(たま)ぶっ潰す……慈悲はないっ!」
     気魄のこもった叫びだった。
     と、不意に現れた顔にベルトを嵌めた人物にラズヴァンがのけぞる。
    「うおっ、マスクドM?!」
    「ははは、何のことですか宮之内先輩」
     茂多・静穂(d17863)は視界を狭め、集中力を上げる作戦だ。
    「わかんねえなあ……」
     頬を染める静穂。絞めつけられていい感じに高揚、という人もいるのである。
    「私の昂ぶり、天までとどけええええ!!!」
     やっぱり。という視線が集中し、静穂が更に喜んだという話。

     気合いが入るカフェの店長、卦山・達郎(d19114)に、店員の蓬栄・智優利(d17615)が言い放った。
    「せっかくだから何か賭けて個人的に勝負しよッ☆」
    「お、いいぞ? 俺に勝てるんならの話だがな!」
     挑発を入れつつも、店長受けて立つ。
     試技に入った智優利が、回転と共に元気な声を張り上げた。
    「私はぁ……店長の事がぁ……っ!」
     投擲と同時の半回転で叫ぶ!
    「好きだばかぁぁあああああ!!」
     トリプルアクセルの華麗な着地と叫び。颯爽と戻るものの、胸はどきどき。
    「あの野郎……」
     自信ありげな笑みだけは崩さず。
    「そんな恥ずかしい事、叫ぶんじゃ、ねぇ!」
     回転をかけて放ったピコハンが、意外に近くでぴこっと跳ねる。
     火が出たように赤くなった達郎だった。

     ピエール・メイプルツリー(d26374)は相棒の真坂辺・節(d22483)と参戦。 
    「なーすのたーめなら、えんやこーらどっこいショォォォオオオ」
     ピコハンを放ってからピエールが付け加えた。
    「那須は良いとこ、一度はおいで~! 是非、土産屋「しもの」にも来てくだサーイネ~」
    「あ、ピエールの旦那。はい」
     バイト先の息子であるピエールに耳栓を渡して言うと、節はピコハンを握り、ぐっと歯を食いしばった。粘るだけ粘り、21回転の大台で投擲&絶叫。
    「給料あげろゴラアアアアアアアア」
     ぴちぴちの十六歳の叫びである。
    「明日からもオレ、がんばるっすよ……」
     涙を誘われた者もいたとかいないとか。ピエールが「……給料なんてあげられるわけねぇだろ」と呟いてきゅっと耳栓をしたことを、彼は知らない。

     去年はそれなりに飛ばした武野・織姫(d02912)。今年も室武士・鋼人(d03524)にコツを教えて貰うが、説明が専門的すぎるという罠。でも何となく去年よりは掴んだような気がする。
     左打ちスイングをイメージし、軸をしっかりと意識。
    「今年こそ大ホームラン!」
     ピコハンが綺麗な放物線を描く。
    「室武士さん、どうでしたか~?」
    「いいですね!」
     優勝が視界にない鋼人は冷静に試技に入った。右から左へ身体を捻り加速をかけ、ヘッドスピードより早く身体をターンする。徐々に回転面を40度に近づけ、腕からピコハンまでほぼ水平になったところでリリース。
    「金! メダリストぉぉぉおオッ!!」
     叫びと共にピコハンは宙を奔った。白い歯を光らせた爽やかな笑顔に光る汗。
     大感動の織姫が歓声をあげて飛びついた。

     アーク・バンクス(d27110)は自作のロールパンを使ったサンドイッチを配っていた。腹が減っては戦はできぬ、というし。手渡された玄乃が瞬きをしてから微笑む。
    「ありがとう」
    「ううん。はい、コウスケも」
    「ありがとう……」
     ピコハンの正式な用途も知らぬ月原・煌介(d07908)、サンドイッチをぱくり。
    「……美味しい」
     賛辞を背に、アークがサークルへ向かった。うなぎ入りのパンで力は充分。
    「食パン、あんパン、フランスパン!」
     美しい弧を描き、ピコハンが飛ぶ。
     続く煌介。
     身体の要と書いて腰、だ。踏ん張って腕を伸べて感じ取る。
     人は己のみで生きるに非ず。空へ、宙へと繋がる、それは絆。
     投擲の瞬間、万感の想いをこめて。
    「……感謝、武蔵坂学園と……皆」
     そして、はたりと、くずおれた。
    「ぎっくり?!」
    「医療班ー!」

     昨年から逃亡経路を練っていた、低く笑う紅羽・流希(d10975)。
    「魔人生徒会の! 鬼の所業(地獄合宿)に物申します! ゼッタイに面白がって作ったでしょうがぁぁぁ!」
     渾身の力をこめてピコハンをぶん投げ、同時にダッシュ!
     今年の目的は順位ではない。逃げ切ることだ。
     疾走する流希を追い、校舎や機材の陰からわらわらと黒服が走り出す。
    「去年は見物だったけど、今年は頑張るよ!」
     竹尾・登(d13258)はサークルの後方から勢いをつけて5回転。小柄な身体を活かしてラインぎりぎりから掬いあげるように投擲する。
    「違法行為は禁止と言いつつ、高速道路を自転車で走らすな!」
     トラックにはねられた彼である。サークルから出た途端、不意に現れた黒服が登の両脇をがっちりロックされた。
     柿崎・法子(d17465)はいつもの手袋を滑り止めに、他競技で1位を目指さない気合いをこめてピコハンをふるった。
    「地獄合宿での移動しっぱなしの内容は勘弁してぇ!!!」
     かなり飛んだピコハンが彼方でスピンする。
    「届けばいいんだけど……」
     途端、諦め顔の彼女の両脇ににゅっと黒服が湧いた。
     想いは届いたようである。
     因みに流希は、一年がかりの執念で逃げおおせたという話だ。

    ●大学生の部
     昨年に続いて参加の阿剛・桜花(d07132)、屈伸をしながら意気が高い。
    「筋トレの成果を見せる時が来たようですわね!」
     脚と腰、背筋に力を入れ、後ろに倒れ込まんばかりの回転半径。
    「ふん! ふん! ふん!」
     回転速度を上げて投擲!
    「だりゃぁぁぁあああ!」
     風を巻き上げてピコハンが飛ぶ最中も、桜花はシャウトを続けた。
    「うぉぉぉおおお!」
     ダンスで鍛えたスピン力を活かしにきたのは白咲・朝乃(d01839)だ。
     美しく見せる為の計算はばっちりだ。しゃがんだ状態から7回転、1回転ごとに約25cm進みつつ、約20cmずつ身体を起こしていく。
     最後の1回転だけ大きく1歩踏み出し、両手も一気に伸ばして投げる!
    「人狼もふらせてええ!!!」
     いい仲間が加わったよね、と思う朝乃だった。
     杉凪・宥氣(d13015)は並々ならぬ覚悟で臨んでいた。
     深呼吸から大きく吸うとピコハンを回して加速させ、全身の筋肉でハンマーを巻き上げる様にして更に加速。重心を移し、身体を傾け回転半径を大きくすると、全身の力をこめて投げ放つ。
    「麗夢ーー! 大っ好きだーーーー!! 結婚してくれーーーーーー!!!」
     世界に轟け、日本が揺れんばかりの勢いで叫ぶ。

    ●MVPの行方
     試技を終えた一同の前に、再び玄乃が立った。
    「まずは諸君の健闘を称える。素晴らしい試合となった。では、MVPを発表する」
     咳払いをした玄乃が一拍置いて続けた。
    「9I薔薇連合、阿剛・桜花先輩!」
     わっと歓声があがる。
    「雄々しい魂の叫びと力強いフォーム、飛距離で優位に立ち、覚悟ある魂の叫びで定評のある九条・泰河先輩を制した。もはやその意気、性別を超えている!」
    「ちょっと語弊がありませんこと?!」
     桜花の抗議を圧倒して歓声が広がる。
     立ってみた頂点の意外な虚しさが、桜花の初夏の記憶となったのだった。

    作者:六堂ぱるな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月25日
    難度:簡単
    参加:39人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 13
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