運動会2014~むかで競走、4人1体となって!

    作者:海乃もずく

     今年の武蔵坂学園の運動会は、5月25日(日)。
     1A梅、2B桃、3C桜、4D椿、5E蓮、6F菊、7G蘭、8H百合、9I薔薇の組連合に分かれ、力を合わせて優勝を目指す。小学生から大学生まで全員参加。各種様々な競技に参加し、ポイントを競う。
     仲間との絆を生かし、日頃の練習の成果を発揮し、持てる力をふりしぼり――。
     学生らしく競技に打ち込み、正々堂々と勝利を目指す。
     これも一つの、真剣バトル。
     
    「いかにも学生の行事ですね、運動会!」
     ひなたの手元には『むかで競走』の説明プリント。
     組連合の4人チームで参加。4人で縦一列に並び、専用の紐で足首を結んで走る競技。距離は200メートルで、直線から始まってゆるやかなカーブに入り、直線で終わる。早くゴールしたチームが勝ち。
     言うまでもなく、妨害なしの真剣勝負だ。
     見た目はユーモラスな競技だが、なかなかに奥が深い。メンバーの並ぶ順番、足紐の結ぶ間隔、リズムはどう合わせるか、等。
     当日までにどのくらい練習できたかも重要な要素だろう。この競技をぶっつけ本番でやろうというのは難しい。しかしきっちり噛み合うと、びっくりするくらいのスピードが出るという。
    「これは楽しそうです……極めがいもありますし」
     また、仲のいい仲間と一緒にゴール目指して走ることは、いい思い出づくりになるだろう。この機会に親睦を深めることもできるはずだ。
     参加するだけが競技ではない。競技を観戦し、惜しみない声援を送り、心から楽しむ者が多いほど、参加者のやる気も盛りあがるというものだ。
    「運動が得意でない人でも健闘の余地があるところがこの競技のいいところですね。武蔵坂最強になるチームがどんな走りを見せるのか、とても楽しみです。優勝するためにも、頑張っていきましょう!」


    ■リプレイ

    ●むかで競走、Ready?
     空気は澄み、空はどこまでも高く青い、運動会日和の5月25日。
     選抜『むかで競走』の参加は4チーム。それぞれが自分たちの持ち味を生かし、チームワークと練習の成果を生かし、200メートルのコースを走り抜く。
     一番内側、第1コースは【7G蘭連合・ムカデでGO】。高校生から成る最年長チーム。女子2人が先頭、男子2人が後ろ。
    「それじゃ頑張るぜ! 準備はいいな?」
     クーガー・ヴォイテク(神速のグラサン幹部・d21014)が、威勢よく号令をかける。ゆっくりでも着実に、転ばないよう走ることがこのチームの方針。
     第2コースは【井の頭3G】、中学3年のクラスメイトたち。担任の川崎先生は元気がとりえ、チームももちろん元気がとりえ!
    「登下校も利用して、練習した成果を発揮する時ね!」
     背の順に並び、風花・クラレット(葡萄シューター・d01548)は前から3番目。
     むかで競走のこつを調べて、競技に出ないクラスメイトとも一緒に練習もした。あとは練習の成果を発揮するのみ! 
     第3コースは【吉祥寺キャンパス6年百合組】、小6の4人。仲の良さがチームの武器、一心同体の走りでゴールを目指す。
     ぱっと見は女子チームだけど、しんがりの稲荷・九白(気がつけば食いしん坊キャラ・d24385)はれっきとした男の子。前後を女子に挟まれて、予想以上に近いクラスメートの顔にドキドキ。
    (「この競技……男女混合に問題はないのでしょうか?」)
     とはいえ、特訓の成果を今こそ見せる時! 団結を深めるために、皆でトランプしたり買い食いしてた辛い特訓の成果を今……あれ?
     大外の第4コースは【あすゆひ】。参加者の名前から一文字ずつとったチーム名、玉川上水キャンパス中学3年1組。クラス全体が盛り上がり、辞退者が出るほど希望者がいたとか。
    「河川敷で地道に練習もしましたし、みんなの息もぴったりです!」
     アーサー・ラスティ(アトーンメンタ・d26684)も張り切り気味。
     スタートラインに並ぶ4つのチームを、山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)は応援席からじっと見守る。
    「私も、本当は参加したかったな……」
    「そうですね、みんな楽しそうです!」
     ひなたも、透流の隣でぐっとこぶしを握っている。
    「位置について、用意――」
     準備が整い、かけ声がかかる。
     号砲一発。
     優勝目ざし、4つのチームは200メートルを走り抜ける。

    ●スタートダッシュは大事です
     頭一つ出たのは、第3コース【吉祥寺キャンパス6年百合組】。
    「いっちにっさーんはいっ」
    「「「「ねっこあっおくっしろー、もっこもっここー」」」」
     七代・エニエ(吾輩は猫である・d17974)の合図でスタート。右に、左にとエニエはしっぽを左右に振る。リズムが後ろの人にもよくわかるように。
    (「ちいとこそばゆいが、許せあおりん……」)
     日向野・碧凛(家出少女・d24377)の目の前で、ふぁっさふぁっさと揺れるエニエのしっぽ。
    (「踏まないで済むのは安心だけど、これはこれで気になって集中できないよ……!」)
     碧凛が重心を後ろに倒し気味にすると、意図せずして九白との距離が縮まる。
    (「これはちょっと近……いよう……な」)
     碧凛の肩にかけた自分の手を、変に意識してしまう九白。
     そんな九白の胸中は気にせず、最後尾の瞹昧・模糊(寝落ちしないダンボール・d23065)は九白の腰をしっかりとつかむ。
    「背後の敵はまかせろー」
     バリバリ威嚇する模糊だけど、むかで競走はそういうレースとはちょっと違う、ような……?
    (「転ばないよう気をつけないと。ゴールするまで気は抜かないよ!」)
    「ねっこあっおくっしろー!」
     ちょっと変わった掛け声は、全員の名前。ゴール目指してひたすら進む。
     ――しかし、カーブの入りで距離を詰めてくるチームがある。
     それは第1コース、【7G蘭連合・ムカデでGO】。
    「イッチ! ニ! イッチ! ニ! 優勝目指すぜー!」
     声の中心はクーガー。スタートは右足から、掛け声は簡潔に。シンプルな作戦を全員がきっちりこなす職人チーム。
     一定のペースで。焦らず、慌てず、確実に。その堅実なスタンスが、カーブで強さを発揮する。
     列の先頭はライム・ライト(d24842)。
    (「僕が転んだらみんな転んでしまいかねないし、気をつけないとね」)
     周りを気にせず、自分たちのペースで。ライムの安定感ある一歩一歩が、チームをゴールへと導いていく。
     ライムの肩に手を置くのは、琴吹・誉(白薔薇の蕾・d18771)。
    (「競うのはあまり得意ではないですけれど、折角参加するのですから優勝してみたいですね」)
     掛け声にしっかり合わせて、息の合った走りを心がける。
     クーガーの後ろ、最後尾は口無・骸(死者は口無し生者に毒を・d21360)。喋りはしないが、呼吸はしっかり合わせて足を進める。
     言葉を口にせずとも目標はただ一つ――皆との優勝!
     スタートで飛び出した【吉祥寺キャンパス6年百合組】に、【7G蘭連合・ムカデでGO】が追い上げる展開。残り2チームとの距離もまだまだ近い。勝負の行方は、まだわからない。

    ●大きなカーブは難しい
     カーブをチャンスと、後ろから追い上げるのは2つのチーム。
    「元、気が、とり、え! 元、気が、とり、え!」
     【井の頭3G】は、かけ声に合わせて足を右、左、右、左。だんだん走りもなめらかに。
     先頭の小森・奈穂(焔の穂・d02324)はもう足もとを見ない。びくびくするより前進、前進♪
    (「なんたって元気が取り柄な先生のクラスだし! 3年間ずっと一緒のクラスでやってきたメンバーだもん」)
     奈穂の腰をそっと掴み、アリスティア・グレイヴェルト(月下の不眠姫・d01132)も歩調を合わせる。
    「元気がとりえ……元気がとりえ……♪」
    (「明るく楽しく元気に……、それが……私達が……先生から学んだ事……ですからね……♪」)
     前を向いて楽しく。アリスティアの腰に手を置くクラレット。練習した成果を、今。
    (「私たちの元気さは誰にも負けないわよ」)
     最後尾の山門・新(ドレッドノート・d02429)は、クラレットの腰をつかんで緊張気味。
    (「……先頭なら緊張しないのに」)
     初めてのむかで競走、タイミングも歩幅も、見なくても完璧になるように練習を繰り返した。
    (「みんなと息を息を合わせて……焦らず、練習どおりの動きで」)
     カーブのふくらみで、4チームの距離はどんどん詰まる。
     大外からスピードを上げるのは、四刻・悠花(中学生ダンピール・d24781)が先頭の【あすゆひ】こと玉川上水3Ⅰ。身長差があるチーム、すり足気味で、歩幅は小さめ。
    「最後は応援のテンポに合わせて、一気に行くよう!」
    「うん、なかなか良いリズムで行けているね」
    (「はてさて、どうなるのやら?」)
     鐘・スミス(中学生魔法使い・d27132)も楽しそうに悠花に応え、一歩、一歩と進んでいく。
     クラスの皆の応援リズムに耳を澄ませ、3番手のアーサーも、金の髪をなびかせて無心に足を運ぶ。
    「練習のおかげで順調! 皆の応援も息がぴったりだよっ」
    (「あれ……?」)
     夢中で順調にコースを踏破しつつ、アーサーは内心で首をかしげる。
     ……なんか、応援、だんだん速くなってきてない……?
     最後尾の高工・光(全力全開飛行少女・d25219)は、運動会をめいっぱい満喫中。
    (「いける、このペースなら……!」)
     だんだん早くなる応援に合わせて、前へ、前へ、もっと前へ、もっと速く!

    ●ゴールはもうすぐ!
    「頑張れ、頑張れ! 8H百合!」
     大山田・小太郎(はボッチ力高い人・d20172)の熱の入った応援が、ゴール前に響く。
    「目差せ、優勝……!」
     透流もメガホン片手に、自作の応援旗をめいっぱい振る。自チームの2B桃はいないけれど、むかで競走に出場した4チーム全ての健闘を願って。
    「あと直線20メートル!!」
     響く応援にひなたの声も混じる。むかでレースはゴールまであとちょっと。
    「ねっこあっおくっしろー、もっこもっここー!」
     最初に直線に入ったのは、【吉祥寺キャンパス6年百合組】。
    「元、気が、とり、え! 元、気が、とり、え!」
    「イッチ! ニ! イッチ! ニ!」
     彼らのすぐ後ろを追い上げる【井の頭3G】、続くのはペースの変わらない【7G蘭連合・ムカデでGO】。
     コースは直線、ゴールは目の前。そこに、大外から上がってくる【あすゆひ】!
    「ちょっと!? 速い、速いよ!?」
    「アーサーくんがよろけっ……ゴ、ゴールまでこらえてっ!」
     クラスメイトの応援がゴール前の声援に混じり、応援の音が遠ざかる。前と後ろから同時に引っぱられて、バランスを崩しかけるアーサー。
     その横を抜ける【井の頭3G】!
    「せーのっ! 元、気が、とり、え!」
     リズムが少し崩れても、【井の頭3G】はクラレットのかけ声で踏み出しを再び揃える。聞き慣れた言葉が、強さの理由。
    「頑張れ、頑張れ! 七代さん、日向野さん! 8H百合!」
    「あああっ、転びますっ!?」
    「鈴森さん、苦しっ……!」
     小太郎が応援の声を張り上げる。ゴール前の混戦に、ひなたが思わず透流に抱きつく。
    「――ゴール!」
    「……やったよ、アリスティアちゃん、クラレットちゃん、新くん!!」
     一位は――【井の頭3G】!
    「アーサー君、もう少しゆっくり、うおわっ!?」
    「うわあぁあぁーー無理っーーー!」
     続いてもつれ込むようにゴールする【あすゆひ】、最後の模糊まできれいにゴールインした【吉祥寺6年百合】。ペースを崩さず走り抜いた【7G蘭連合・ムカデでGO】も、無事にゴール!
    「ゴール! みんなお疲れ様です!」
    「やったー、ゴールゴール!」
     ハイタッチを交わす【吉祥寺6年百合】、腰を叩くエニエ。九白の顔は運動とは別の意味で赤い。
    『むかで競走、優勝は【井の頭3G】! MVPは風花・クラレットさんです!』
     放送席の声に、会場が再び拍手と歓声で包まれる。
    「私!?」
     信じられない、というふうにクラレットが目を丸くする。
    「おめでとう……ふふ……、3年間……苦楽を共にした……私達の結束力を……見せることが……できましたね……♪」
     一位の喜びと、やりとげた達成感とでアリスティアが微笑む。応援席からは担任の川崎先生が、それこそ元気いっぱいに手を振っていた。
     最後まで白熱した勝負は、参加者、応援、そして学園の皆に強い印象を残して幕を閉じる。
     武蔵坂学園運動会、むかで競走の部。4チームの全てが――完走!

    作者:海乃もずく 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月25日
    難度:簡単
    参加:18人
    結果:成功!
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