運動会2014~借り物競走のお時間です

    作者:那珂川未来

     5月25日は、武蔵坂学園の運動会です。
     おなじみ、『1A梅』『2B桃』『3C桜』『4D椿』『5E蓮』『6F菊』『7G蘭』『8H百合』『9I薔薇』の9つの組連合にわかれ、各種競技によって得点を競い合う一大イベント。大学の創設にも合わせて、大学生も加わり、盛大なイベントとなることは間違いなし。
     力を合わせ優勝を目指す戦いまでもう少し。
     勝っても負けても楽しめたと思えるような、思い出深い運動会を、学園の皆で作り上げていこう!
     
     
    「ええと……そういうわけで、今日は運動会当日の種目が発表された訳なんだが。何に出るか決めた?」
     相も変わらず机に腰かけ、宿題やらなんやらのプリント隣の席に広げて。サングラスの奥から、種目内容を目で追っている仙景・沙汰(高校生エクスブレイン・dn0101)と、きちんと座ってプリントを読んでいるレキ・アヌン(冥府の髭・dn0073)。
    「まだ決めてないんですが、小学生から大学生の皆さんまで、楽しめるような競技がいっぱいですね! 定番の玉入れとか、組体操とか……今年もMUSASHIあるんですね! うーん……でもどうしよう。僕、足とか遅いし、灼滅者やってますが運動能力はそこそこで……だから何に出ようか迷っちゃいます……」
    「じゃ、これは? 借り物競走とか。完全運要素で勝てる感じの」
    「……なんかオーソドックスなんですが、凄い素敵な内容の借り物競走ですね」
     レキが読み上げた内容によると。
     
    ●種目 借り物競走
     組連合ごとに分かれ、スタート。20m先にある青のカードを一枚拾い、指定された物を借りてきて、ゴールを目指す。

    ●借りる物の例
     ・メガネや帽子などの小物。場合によっては、色や形の指定あり。
     ・机や剣道の防具、脚立など、大物。場合によっては、灼滅道具などの特殊な指定もあり。
     ・小学生や大学生、先生などの人物。場合によっては、性別や組や学科の指定、ビハインドや霊犬との指定もあり。
     ・白衣や、制服、水着等。女性用か男性用かの指定あり。

     などなど、お楽しみに!

    「……お楽しみにってことは、何か他にも面白いものが仕込まれているってことでしようか……」
    「かもね。バレリーナの衣装を借りて、バレエっぽい動きでゴールしろとか、彼女か親友(同性)をお姫様だっこやおんぶしながらゴールしろとか」
     さらっと凄い借り物競走を言われて、レキは遠い目しながら、
    「本当に運ですよね……。もっと凄いこと書かれていたらどうしよう……。僕は普通に眼鏡を借りてゴールするのがいいんですが……。そもそも最近出たばっかりの断罪輪とか言われちゃったら、僕の周りで持っている人いるんだろうか……」
    「そう言う時の、組連合でしょ。友達やクラスメイトなんかと、皆で様々なものをあらかじめ用意しておいて、どんな物でもばっちこーいな状態にしておくっていう」
    「む、そうですね。ここで仲間が居るっていう有り難みを感じられるっていう!」
     レキのおかげで、綺麗に話がまとまったように錯覚しそうに感じられましたけども。
     学園内探せば出てくるようなものしか書かれていないので、あとは運が味方してくれるよう祈るのみ!
     ちょっぴりドキドキな借り物競走。
     さあ、カードに書かれた君の運命はいかに!?


    ■リプレイ

    ●第一レース
     足の速さなんて関係ねぇ。
     攻略法なんてあるわけもねぇ。
     そんな借り物競走が只今スタート。
    「なんですかこれは?」
    「なんか妙に限定的だな」
    「メガネを掛けている男子を……よしっ!」
    「細けぇぇぇぇ! 麺の加水率に太さにスープの指定まで、誰ですかこんな注文つけたやつは!」
    「どないせーっちゅうんじゃっ! 異性のLOVEなんて誰だこのお題書いたヤツっ!」
     愛美は首傾げ、周と希咲良は即、応援席にリターン。フィズィと流羽はカードを地面に叩きつけ、そして美弥子はリタイアして楽になるか、やって恥をかくかの狭間で揺れつつ大地に打ちひしがれ――結果、己の運に一喜一憂する女戦士(アマゾネス)たちの姿が其処に在った。
    「ちょっとおっさん、ラーメン作って! 超特急で!」
     それこそ超特急でフィズィに詰め寄られ、なに無茶言うとんねんと叫ぶ学食のおっさん。
    「……お菓子、あげる……だから、協力、して?」
     異論は認めんと言わんばかりの笑顔で、希咲良は恵夢の腕がしっ!
    「はあ!? 何のお題だよなんの……お、俺しかいないたって!? うわあああああ!」
     ろくに説明されぬまま、凄い勢いでお姫様だっこ&ダッシュされ、しがみ付く恵夢。内容、メガネを掛けている男子をお姫様抱っこでゴールまで運ぶ。
     後れを取るまいと、周はダッシュしながら、
    「レキー。イクパスイ持ってるか!」
    「持ってますですよ!」
     僕のお守りの一つをご存知なんてさすがですと目キラキラ☆
     大学生パワーを如何なく発揮して。レキをお姫様だっこして超特急で恵夢を追い上げる。
     今年も大量のレンタル用品シートに広げ、可愛らしく手を振る瑞央の声援に応えていた実だったのですが、カードに書かれた褌の文字に呆然。
    「瑞央ちゃん……あの……」
     頬染める実が差し出すカードの文字に、アルレットは眉を寄せ。
    「……褌ねぇ」
    「……え、越中褌なら…」
    「……ってマジか、あるのか……」
     侑、瑞央が取り出す褌に、感心のあまり言葉が出ない。実は顔真っ赤になりながらも、おかげさまで二番にゴールイン。
     ひとしきりツッコミ終わった流羽が、『鏡像の4人』チームへ書く物を借りに来て、異性が書いたラブが欲しいんですと、侑へと紙差し出せば、
    「待った待った! 私女ですから!」
    「ナヌ!?」
     そんなやり取りの中、女の子にしか見えない瑞央がそっとLOVEと書いて差し上げた。
    「ええーい、ままよ!」
    「これでどうだコンチクショー」
     ヤケクソ状態でダッシュする美弥子――の借りた物は宇都宮餃子怪人のきぐるみ(装着済)。半ばヤケになりながら、ゴールでLOVEを突き上げる流羽。
    「どうひとし持ってる方いらっしゃいませんか?」
     なかなか借りられなくて焦る愛美。埒が明かないと、同人誌と書かれたカードを掲げアピール。
    「っと、そいつならコレだ」
     何故中間訓読みなのかツッコミたいのをぐっとこらえ、アルレットがレンタル品から同人誌ふぉーゆー♪
     フィズィのラーメンですが、勿論ゴール後美味しく頂きました!

    ●怒涛の借り物
    「高校最後の運動会だしな、楽しんでこうぜ」
     大和の掛け声に、七も双眼細めながら、
    「作戦は迷うな進めー!」
     円陣組んで、えいえいおー! 御殿山3-2の皆さん、気合いたっぷり。ついでにメガホンも貸出品もたっぷり。
    「はっ! こんな所にかわいいナノナノが!」
    「『お洒落なタトゥー』げっと~♪」
     『白くてモチモチしたもの』とも言える笹さん見つけて駆け寄る恩と、笑顔で笹さんにサムズアップする紅太。カード掲げ今にも飛び込んできそうな勢いで走ってくる百花に、七は快く、
    「OK! 行きましょ」
    「目指すは優勝~!」
    「衣幡も葉新もがんばー」
     メガホン片手に大和は沙汰と一緒にチーム盛りたてる。
    「沙汰おにーちゃーん☆」
     陽桜とレキがやってきて。
    「化粧した男の人って……いっぱい居るかもだけど、ひお思いつかないのー」
    「え、今俺に化粧しろと?」
     期待の眼差しに沙汰はたじっとしながらも、速攻ヴィジュアルメイクアップ!
     組連合のテントで休憩している智優利へと駆け寄ってきたのはライム。
    「何かご入り用デスかー?」
    「そうだね、借りたいものは『ピンク色の髪の毛をしたサイドテールの女の子』かな」
    「え、何。お休みする暇もな……あーれー」
     最初から私狙ってマスよね、そうデスよね。とツッコミ繰り出してやりたいくらいお題に、文句を言う間もなくお姫様だっこで連れ去られ。
    「よっしゃ! いっちょ気合い入れて借り物ライフと行こうじゃんか!」
     式夜は軽い足運びで、鮮やかにカードをめくってみたのですが。
    『世紀末』
     軽く思考停止。
    「……しかし、この、なんだろうこの借り物ってどこで借りてくれば良いんでしょうか……」
     式夜、とほいめ。それってモノなの借りれるのどこにあるのモヒカンとかでいいの?
     たぶんひゃっはーでもいいと思うの。
     律のカードには『髪の長い人』。ずさーっとくるみの前へ滑り込むなり、
    「部長、行きますよ!」
    「――え、私?」
    「お姫様みたいな人って書いてあったっす」
     お迎えにあがりましたなんてノリで、こちらもお隣に倣ってお姫様だっこし、 まがおで言い切ってみた、嘘を。連合が違うからと渋られても困るしね!
    「やだー、そんな指定されちゃったら私が行くっきゃないわよね☆」
     あらわかってるじゃないのってノリで可愛らしく照れてみて、素直に抱っこされるくるみ。檀とめいこの応援を背に、ダッシュ! しかしそれを追い上げる様に走ってくる白い何か!
    「こう来ましたか、やりますね」
     全身白タイツと鼻眼鏡を借りて着用するなんて意味不明な難題すらも、小太郎はシリアスな面持ちで鼻眼鏡の位置を正しつつ、クールに言ってのけながら全力疾走。
     続きまして第三レーススタート!
    「今日は勝つ……!」
     勝利目指し、鋭い勢いで走り込んでいったはずのアインが、カードの内容にぴしーっと固まった一方で、お隣の悠花のカードには、
    「……銀髪のレースクイーン……!?」
     ここはサーキット場ではないので、こさえるしかないわけで。
    「え? え? 私がレースクイーンにですか!?」
     ご指名受けて慌てる璃耶をよそに。
    「スミレさん!(あえて)露出の高い方の衣装で!」
    「はい♪ これを……」
     狙ったかのような用意の良さで、すっごく楽しげに準備するスミレと悠花。
    「あらあら、赤くならなくても大丈夫ですわよ……♪」
     パラソルにヒール。何故か網タイツ。あれよあれよというまに着替えさせられて。
     先程固まっていたアインが、いきなり白のタキシードを身に纏い、ドレス抱えてやってきたものだから、梗香はビックリ!
    「え、ちょっと待って。ウェディングドレスって何よ!?」
     見せられたカードの内容に、くらりとしながらも花嫁さんにチェンジ!
    「めーこちゃん、ちょっと手伝って貰えますか」
     檀のカードの内容が、「小学生を肩車してゴール」。
    「はいです!」
     めいこは元気よくお返事して、屈む檀の肩へと手を借りつつよじ登ったのですが!
    「ふえええええ怖いよおおおお高いよおおおおお」
    「怖いですよね、すみません。でも目を覆うのは勘弁して下さい見えません」
     なだめつつ、外野で好き勝手な事言ってる約二名、後で覚えてやがれ的オーラを纏いながらゴールを目指して。
     雅山はお茶を飲みながらのんびり観戦しましょう、そう思っていたのに。
    「だめだめだーめ、坊っちゃんは俺が借りんだから!」
    「まだこの学園に来たばっかで知り合い少ねェ俺に譲るべきだろうが!」
     遵と亮が、雅山の腕をがしぃとホールドしながら激しい火花を散らしていて。いつの間にか巻き込まれた模様。
     借りる物は、遵が「日頃可愛がってる人」、亮が「尊敬する人」。
    「それでは、これで全て解決でしょう」
     雅山にお互いの手を握らされて、
    「はあ!?」
    「ええぇ、こいつを!? 俺がぁ!?」
    「闇堕ちから救った、救われた仲ではないですか、お互いを借りれば済むことだ」
     後光が見えそうなほど悟り切った顔の雅山に促され、仕方なくお互いを借りる二人。
     フローズヴィトニルと雨衣は、和やかに応援中。
    「……あ、ギルが出てるんだね! 何を引いたんだろう……って、ん? なんかこっちに……」
    「向かってきてますね?」
    「フレン、説明は後だ。取り敢えず一緒に来てくれ」
     ギーゼルベルトは、応援席で雨衣と一緒に観戦していたフローズヴィトニルの手を取って。
    「え? 一緒に来てくれって、いいけどわたしじゃ足手まといに……」
     手を引いてゴールへ向かおうとする二人へ、雨衣ははたと思い付き、
    「せ、せっかくですからフレンさんをお姫様抱っこされてはいかがでしょう?」
    「雨衣は何を言っ……ひゃっ……!?」
    「そうだな、抱きかかえた方が早い」
     クールに言ってのけて、ギーゼルベルトはフローズヴィトニルをお姫様だっこ。顔真っ赤なフローズヴィトニル。雨衣は微笑ましげに見送って。
    「青春だ! 浪漫だ! イエーイ!」
     肩を組み、三人四脚バリの足並みの良さでトップを狙う紅太と、似た身長の男というお題で借りられたエアンと沙汰。
    「このまま突っ切……」
     と、エアンが言った矢先。
    「もう、恥かしい……!」
    「おぼえてろぉぉぉ!!」
     ぴゅーっ!
     美ボディレースクイーン璃耶が、F1を彷彿させる勢いで追い越してゆくとかある意味浪漫!
     大勢の前で、彼女を抱えて二つの意味でゴールインするのも青春!
    「一位だよ! 璃耶さんスマイルスマイル♪」
     悠花、私得でご満悦。
    「これ、絶対クラブでからかわれるだろうな……」
     ブーケトスするなり、火照る顔押さえて逃げるように消える梗香。
     因みに、そんなブーケの行き先はというと――。
    「で、結局お題は何だったんだ?」
     エルシャと手を繋いで。わけもわからず借りられているレイヴンが尋ねたけれど。
    『ないしょ』
    「いいだろ。教えてくれよ」
    『ひみつ』
     ほんのり顔を赤くしながら、スケッチブックに文字を走らせるエルシャの顔を見て、ちょっとどぎまぎするレイヴン。
     カードに書かれたものは、気になる男の子。逡巡して、けれど覚悟を決めて、レイヴンの手を繋いだ――秘密。
     無邪気に笑いながらゴールテープをきれば。
     スケッチブックの上、純白ブーケが『ひみつ』を覆い隠す、ちょっとした神様の悪戯。

    ●借り物を越えた戦い
     運動会で『はずれ馬券』を借りてこいとか、茉莉は唖然。お隣ではエアンが『ほくろ』でフリーズ、どうやって借りるの。『変態』の文字に棒立ちしている空。『触手』の文字に劇画チックな形相で走りだす絹代。
    「梅? 梅!? 食堂にでもいけってか!?」
     ちょっと遠すぎやしないかと身を翻したクーガー。
    「はっ! 競馬マニアな勝山先生なら……」
     天啓的思い付きで勝山先生ロックオンする茉莉。
     何やらカードにペンを走らせているナハトムジーク。
    「素晴らしい判断力、流石私」
     フッと笑み零し自画自賛。まな板を、まな板の女性と変えることによって、早期ゴールを狙う作戦!
     柚季は卵クッションと書かれたカード見せつつ、
    「めいにゃん持ってるよね?」
    「どうぞ♪ あ、わたしはちくわです」
     芽生はにこやかに差し出すと、ナハトムジークにちくわおねだり。
     遠慮なくちくわふぉーゆー、した瞬間にぐいっとカードをめくられて。
    「えーと……『まな板の女性』……?」
     不覚にも見られた瞬間、指ポキしている柚季から、全て投げ捨てて一目散に逃げるスタイル――という素晴らしい判断力をここでも発揮!
    「ゆずにゃん落ち着くですよ! お胸がまな板なら、わたしでしょうナハトさん!」
     誰にでも色々なものを貸せるように準備して、光莉は応援席にてスタートを切ったシスティナを見守っていたら。
    「ちょっと一緒に来て」
    「わ、わたし?」
     物を借りに来たと思ったら。差し出した左手に、光莉自分がまさか借り物にと驚いて。
     カードのお題は『三つ編みの女の子』。彼女以外には考えられなかったから。
     繋いだ手。走るのが苦手な光莉を、システィナは転ばないように気遣いながら、無事ゴール。
    「お疲れ様、一緒に着てくれてありがとね?」
     ふんわりと笑みを浮かべて、光莉の頭に優しいお礼を。
    「ダークネスになれぇぇ!」
     といった具合に、人造灼滅者の方を探しては誤解を招きそうなことを、妙な勢いで脅し回って――いたその絹代を、空は変態認定し、借りることに決定。
    「……取り敢えず……頑張ろう、かな……」
     触手を手に入れれば捕まえられるかな。なんて思いながら、空は触手探しの迷走へ。方向音痴の彼女の運命いかに。
     そんな混沌とした空気を背に。エアンはカードを提示しながら大和を見つめ、
    「他に思い当たらなかったんだ」
     口元のほくろしか、と真顔のエアン。
    「……ああ、なるほど」
     超納得の大和。そして全力疾走している二人を追い上げる――
    「さぁ借り物を借りてコースに戻ってまいりましたマツリンフェスティバル後続を遥かに置き去り!」
     実況……いや馬、もとい茉莉!
    「お梅さんのすっぱさが……たまらないですね……」
     桜は持ち歩いているカリカリ梅を食べつつ、応援席で饒舌な実況楽しんでいたら、
    「さくらー! さくらーいるかー!?」
     聞き覚えのある声に、桜が応援席から身を乗り出すようにして伺えば。
    「ちょっとすまないぜ!」
     といって、クーガーが有無を言わさず右肩に担いで走りだしたけれど。桜は状況をちっとも理解していなかったとか何とか!
     スタート位置では何やら火花。
    「手加減はしないから」
    「望む所だ!」
     軽口叩く史明へ、朔之助は敵意露わに言いかえし。
    「負けないよ!」
     拳を掲げる茉莉に、握り拳で応じる南守。
     紅葉は混雑ダッシュで潜り抜け、一番にカードをめくれば。
    「……えっと、『黒髪のイケメン』……? イケメン?!」
     紅葉はきょろきょろと。そんな紅葉へ、そういえば中学生だったかと呟きながら、宵帝は駆けてゆく。
    「あの……宵帝さんをお借りしていいの?」
     宵帝が言うより先に、紅葉はカードを見せながら尋ねれば。
    「ちょうどいい。俺も紅葉を借りていいか?」
     借り合う偶然。それは他でも起きていて。
     史明のカードには『好きな人』。ふと朔之助と目が合って。
    「僕の借り物、朔みたいなんだけど」
    「丁度良かった! 僕もお前だから」
     朔之助イイ笑顔――と思った瞬間、史明の足元がふわっと浮いた!
    「えっ、なんで姫抱っこ!?」
     史明、女の子に抱えられるという衝撃の展開!
     そして『エジプト』という漠然とし過ぎたお題を前に、立ち尽くす詩乃。国ごと借用して参れと申しますかとツッコミ繰り出したくなる程度には、呆れていたに違いない、まさにその時。エジプト娘なレキを発見!
    「レキさん、一緒に来て下さいませんか!」
     借りるという意識が強いのか、詩乃はレキをお姫様だっこしてゴールへ運び出す。
    「そうだ荻原のタロー! ってナヌ!?」
     南守がお目当てのタローを探していたら、すでに茉莉が向かってて。お題見事に被ってるの巻。
    「こうなればタローを連れていく権利をかけて南守さん勝負だー!」
    「その勝負受けて立つー!」
     と言った瞬間、宵帝の袖を引っ張る様にして走っていた紅葉が、真横で抱え上げられる様を見て、
    「って待て待て、んな事してたら二人で最下位争いだ」
     更に華麗にお隣を走り抜けたお姫様だっこ総数四に、我に返る南守。
    「は、そうかここで勝負してたらリレーに負けちゃう」
    「よしタロー、荻原に乗っかれ! でもって荻原はしっかり掴まってろよ」
    「いっけー南守さん! 勝利を掴むんだー!」
     茉莉は頭にタローを乗せトーテムポール状態。組違いなんて気にしない!
     見事一等賞で上機嫌の朔之助へ、屈辱の姫抱っこの仕返しに、史明からチョップが贈られるシーンも。
     そしてとうとう最終レース。
    「運動神経クッソ鈍い俺でも、借り物競争なら1位になれるんじゃね?」
     円が遅れ気味にカードをめくれば、お題は親友。
    「おっ玲仁!」
    「……ん? 円ジェルではないか」
     借り物は親友なんだと言う円に、少し眉寄せ、
    「お前の親友というと別の顔が浮かぶのだが」
    「って、何人親友が居たっていいだろー」
     始まる問答。時間ないんだってば!
     倉庫の中で一番大きいものを借りる為、悟は適当に目星付けたキャンパスの倉庫の扉、パーンと勢いよく開け放てば。大きい神輿にイイ笑顔。
    「祭提灯って、どこにあるんだろ……」
    「い、衣装って。なんでもいい……のかなあ……って、悟君と仙さん」
     ばったり。
     仙と壱琉も同じ倉庫へ捜索、気が合うな!
    「ちょ、これ見てや!」
     紙差し出して神輿指差し。
    「成る程、文句なく一番大きいね」
     私はこれと、神輿の傍の段ボールに入っていた提灯を取り出す仙。
    「じゃあ僕の借り物ははっぴ、これに限るね! ふふっ」
     折角だし雰囲気合わせるよーと壱琉。
    「ほーれわーっしょい! わーっしょい!」
     悟が前を一人で担うとかいう荒技で、借り物三つをパーフェクトにこなした御神輿、只今倉庫より出陣!
    「大吉 告白に失敗してもめげずに頑張れ……」
    「は? 凶 運気が不安定になりやすい傾向に?」
    「セイヤッ! セイヤッ!」
     ここは神社か。提灯掲げた神輿が通り過ぎる借り物競走とは思えぬ罠の中、
    「何で籤が混ざってんだよ」
    「……次」
     おみくじ燃やしながらキレる治胡とクールに投げ捨て詞貴。引き直したら大切な人っていうのも被っている辺り仲が良い。
    「シキ、ツラ貸せ」
    「ちょうどいい。俺の借り物もお前だ」
    「ってオイ、何で担ぐ!」
    「たまにはお前より前を走りたくなっただけだ」
    「……この負けず嫌いが」
     言いながらも口元に笑み。
     『妹分』として借りられたスティーナと、『眼鏡のお姉さん』として借りられた星子。お互いを見つけるのは簡単で、ゴールもあっという間に出来ると思っていたのですが。
    「……ごめん姉ちゃん、疲れた。おんぶ」
    「おんぶ!?」
     だからあれほど運動をしろと言ったのにと唖然として。
    「さて、出走したはいいものの……」
     旭が借りるものは『メガネの女性』。当然星子さんだよねと、迷いなくそちらへ向かっていたら、へろへろのスティーナを引き摺っていて。
     どうやらスティーナとも内容被っているらしいので、
    「どうせなら一緒にゴールしちゃおうか!」
     スティーナをおんぶ、星子さんをお姫様抱っこという荒技に出た!
    「あ、あのちょっと旭さん!?」
    「さっすが兄ちゃんやるじゃない!」
     吃驚しつつも、身はしっかりくっ付いて。高さにはしゃぐスティーナ。
    「……RB団に狙われたら一溜まりもないよなぁ……」
     なんて言いつつも、旭は昂然と星子を抱えて。
     思いっきり青春している旭と星子が通り過ぎてゆく横で、その青春っていうよりによって縁遠いお題を引いたものだと、喬市は十八年余りの生に思いを巡らしてみたものの――そう呼べる時間に一つの心当たりもなくて。
     一方、地味に同じお題の十織はというと。
    「……いや違う、何故最後ブルマが浮かぶ」
     青春、若さ、若さゆえのすれ違いや過ち、ほろ苦い思い出、ブルマ――とここまで0.05秒という瞬きほどの時間で、驚きの青春連想ゲームを完成させちゃうんだもん、人並み以上の何かにとおいめ。
     青春を手に立ち尽くしている喬市に、同じお題かと十織はにやにやしながら呑気な口調で。
    「しかし俺にとっての青春て何だ。つか正に今が青春じゃ!? 青春、学園生活、学園らしいもの……」
     再び突拍子もない連想を繰り出す十織を、到底理解できないと感じながらも。
     そんなつもりはなくても、何かにつけていつも何故か争う破目になる目の前の十織との学園生活も、まぁそれも青春といえば青春、なんだろうか、と。
     悩んだ果てに持ってきた青春と一緒に、最後のゴールテープを切る十織と喬市。
     最後の銃声響いて、MVPの結果が出るまであと少し――。

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月25日
    難度:簡単
    参加:71人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 10
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