報いなき忠心~蒼い火薬庫~

    作者:叶エイジャ

     最初は、硬い音を響かせていたのかもしれない。
     いずれにせよ、それは今や醜悪な肉の塊だった。人の死体やダークネスの残骸などなど。創造主の命を果たすべく、必要なものを巻き込み纏い、あてどなく転がっていく。目的が明確で、しかしいつ終わるともしれない旅だ。
     創造主が放ってから相応の月日が経った頃、転がっていた肉塊は、とある山中で唐突に動きを止めた。
     続いて生じたのは、纏った肉の変化だった。蠢きながら形を変え、より目的に適した形態へと変貌していく。
     現れたのは蒼い巨体。カタチは人に近いが悪魔の如き異形。
     巨大な機銃がその両腕に取り込まれていき、胸元には『忠』の宝玉が浮き出て輝く。
     おぞましい産声を上げて誕生した存在はしかし……不思議そうに頭を揺らした。
     待てども待てども、創造主からの呼びかけは、ない。

    「時が……来たようだな!」
     教室に入ってきた灼滅者たちを見て、神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は口を開いた。
    「敵は、大淫魔の迷惑な置き土産だ。だが無明の闇を恐れるな。お前達の生存経路を、俺の脳に秘められた全能計算域(エクスマトリックス)が導き出す!」
     灼滅された大淫魔、スキュラ。彼女には強力な八犬士という配下がいたが、万一八犬士が集結しなかった場合に備え、「予備の犬士」を生み出す手段を開発していたようだ。
    「それが『犬士の霊玉』だ。こいつは死体やダークネスの残骸を集めながら、やがて新たなダークネスを生み出す」
     生み出された直後のダークネスは力も弱いが、時が経つにつれ「予備の犬士」にふさわしい能力を持つようになるという。
    「肉塊の段階で倒しても霊玉の状態で飛び去っちまう。倒すなら肉塊から生み出された直後の短期決戦。これしかない」
     もし戦いが長引けば、闇堕ちでもしないと勝てないほどの強さになってしまう。
    「ダークネスはデモノイドだな。胸に『忠』の霊玉が見える。あと両腕に機銃を取り込んでいるから、気を付けてくれ」
     サイキックはデモノイドヒューマンと、ガトリングガンのものを使う。自らを癒すサイキックこそ持たないが、元来「予備犬士」として生み出された存在だ。その耐久力と火力は非常に高く、油断は禁物だろう。
    「戦闘場所は、山の中の河原になる。開けた場所だし周囲に人もいない。夕方だから光源の心配もない。戦闘に関する支障はなにもないな。」
     しかしヤマトは表情を緩めることはなかった。
    「今回の敵はただ倒すことが目的じゃない。素早く倒すことだ……タイムリミットは、戦闘が始まってから十五分以内だ。それを過ぎないよう気を付けてくれ」
     普通の敵なら、戦っているうちに疲弊してくる。だがこの敵、スキュラダークネスは戦っている内に脅威が増すから、十分に注意してほしい――ヤマトはそう締めくくった。


    参加者
    米田・空子(ご当地メイド・d02362)
    日輪・かなめ(第三代 水鏡流巫式継承者・d02441)
    香坂・天音(煉獄皇女・d07831)
    異叢・流人(白烏・d13451)
    永舘・紅鳥(熱を帯びて闇を裂く・d14388)
    ミスト・レインハート(追憶の影・d15170)
    片倉・純也(ソウク・d16862)
    北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)

    ■リプレイ


     日暮れの刻である。遠く見える山々は赤く燃え、その影に闇が根を深く下ろしていく。
     白化粧をした石を踏みしめ、ミスト・レインハート(追憶の影・d15170)は漂い始めた薄闇へと目を凝らした。耳に届くのは流れる水と、風に揺れる草木の鼓動。地虫や鳥の声がうるさいくらい、河原は静かだった――もうすぐ壊れる静寂だ。
    「スキュラの残した予備の犬士……なんとしてもここで始末してみせる!」
     犬士の宝玉なる道具で生まれる敵。放っておけば碌なことにならないのは明らかだ。永舘・紅鳥(熱を帯びて闇を裂く・d14388)も、なんで強い奴ほどメンドクサイ物を残すかねぇと、ぼやくように息を吐いた。
    「ま、スキュラを倒した俺らがカタつけるのが、筋ってやつか」
    「てーか、八犬士つっても八人なわけじゃないんだな」
     北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)は、自らの髪に混じる赤毛を指でいじる。敵は戦う為に生まれたコマ――そう考えると、主のいない現状は幸なのか不幸なのか。いずれにしろ、厄介なことこの上ない。
     虫の声が、消えた。
     香坂・天音(煉獄皇女・d07831)は、森の中から転がり出てきたそれに、眉根を寄せる。
    「……冒涜も大概にしてほしいわ」
     『肉塊』は、気持ちの悪い腐肉の塊でしかなかった。死と滅びを巻き込みながら肥大した球体は、本来あるべき姿を歪められ、不浄の生を受けた存在。
     醜悪な卵の表面が波打ち、その形状を変えた。蠕動する表面に大きな穴が生まれ、耳を弄する音が撒き散らされる。口だ。怨嗟のようなおぞましい産声に、森の鳴き声がやむ。生命を遠ざけながら、やがて青き異形となっていくそれに、片倉・純也(ソウク・d16862)が口を開く。デモノイドなのに、と。
    「スキュラが、創造主か……」
     表情を変えぬ彼の独白は、軋んでいた。自らの在り処を確かめるように右手を開き――そして閉じた時には、瞳に酷薄な光を湛えている。
    「『忠』の異形か」
     胸部にせり上がってきた宝玉の文字。忠義――それは異叢・流人(白烏・d13451)にとって、己の扱う流派の源泉というべき心だ。そして仕える相手がいなければ、その心は決して報われない。
    「……時間制限付きの戦闘だ。迅速かつ確実に、気を引き締めて赴くとしよう」
    「メイドとして、忠義の心では負けられません!」
    「ナノ!」
     米田・空子(ご当地メイド・d02362)の言葉に、ナノナノの白玉ちゃんが応える。時は満ちた。完全なダークネスとして誕生した敵に、灼滅者たちが動き出す。不思議そうに頭を巡らせるデモノイドに、日輪・かなめ(第三代 水鏡流巫式継承者・d02441)が僅かに顔を曇らせた。このダークネスが主とする相手、スキュラはもういない。その滅びを誰よりも間近で見たかなめは、ダークネスの仕草に一瞬、憐憫に似た感情を意識した。
    「でも、これがスキュラさんの企みなら、責任を持って後始末を務めさせて頂きますなのです!」
     自らにそう言い聞かせた彼女の前で、デモノイドが戦意に反応した。巨躯からサイキックエナジーが放出し、掲げられた腕からガトリング砲が飛び出してくる。近づく気配を殲滅対象とみなし、デモノイドの凶声が轟いた。

    ●14:59:46
     両腕から突き出した砲身が、不吉な音を響かせて旋回し始める。機械じみた動きで向けられた黒い口腔に、レインの身体を雷鳴のような予感が駆け抜けた――あれは、まずい。
    「我が意志に応えよ」
     力の解放と共に顕現させた大剣を構えるのと、砲身が火を噴いたのは同時だった。炸裂音を纏う数十発の死神は、しかし喰らいつく寸前、出現した淡い障壁によって阻まれる。
    「空子のメイドバリアは、その程度の攻撃じゃ破れないのですよ!」
     空子のソーサルガーダーが機関銃弾の群れを防いだ時には、ダークネスへと加速したレインの手に煌めく炎が宿っている。レーヴァテインの炎はそのまま漆黒の孤狼残月を彩り、一閃。描いた炎弧の軌跡が、デモノイドの巨大な腕へと吸い込まれていく。
     生じた結果に、葉月が吐き捨てた。
    「タフすぎだろうが」
     連携の末生じた威力は、強襲の一撃――にも関わらず、デモノイドの青い細胞は即座に断たれた部分を塞ぎ、なおかつ淀みのない動きで反撃に移ろうとしている。高い耐久性は、さすがに八犬士候補か。だが十五分の足かせがある葉月達にとって、それは大きな障害だ。
    「敵ながら報われねぇ境遇だが――ココで仕留める」
     見逃すわけにはいかない。そして、そのためには一手たりとも遊びに使うわけにはいかなかった。葉月は吸血鬼の霧を呼び出した。吹きつけた霧が仲間の力を高め、瞬間的に目標を見失った敵の射撃が、あらぬ方向へと飛び去っていく。
    「その程度の弾幕、貫いてあげるわ。クラヴィア、連携せずなるべく後から来なさい」
     撒き散らされる機関銃弾が土煙を上げる中を、天音が駆け抜けた。効果的な攻撃順を取りたくとも、ダークネスの動きは速く、機を逸する恐れもある。ライドキャリバーのハンマークラヴィアに指示を出した天音の足が、大気の力を得た。エアシューズで砂礫を撒き散らし霧の中から飛び出した天音へと、当然の如くデモノイドが仕掛ける。腕にガトリング砲が沈み込み、代わりに奇生体の長大な刀が形成され、振り下ろされる。天音は頭上へと迫った刀をギリギリまで引き付け、ローラーで加速。刃が目標を捉え損ねて大地を穿った時には、青い腕を彼女の細身が駆け昇っている。デモノイドが反応するよりも早く、その頭部を煌めく光を纏った蹴りが薙いだ。
     重い音を響かせ仰け反ったダークネスが、さらにバランスを崩した。流人の手刀が、死角から脚部を深く切り裂いている。
    「日常を脅かす異端の存在……俺はただ、その異端なる存在を滅ぼす」
     癒着を始めた部位に更なる一打を加えようとして、流人は後方へ跳んだ。デモノイドの放った刃は、瞬前、体を捌いた流人を掠めて地面を切り裂く。着地した流人が拳に闘気を収束しようとするが、視界を埋めながら迫りくる腕に中断を余儀なくされた。回避するもすかさず横殴りが襲う――異形の常識外れの肉体が、力学を無視した攻撃動作を可能としていた。それは粗暴だが、無視しえない力と凶器になっている。暴力をいなしていた足運びが、その時別の感覚を伝えた。水――ダークネスの連撃に、河原まで追い詰められている。
     流人はしかし、僅かに笑みを浮かべて地面を蹴り抜いた。噴き上がる土と水。派手ながら、目くらましにもならぬそれを殴り貫こうとしたデモノイドは、転瞬、その動きを縫い止められていた。
    「前と見せかけて後ろ、駆け引きの基本手段だ」
     デモノイドの背後で生まれた言葉は、純也のものだ。その足元から伸びた影が触手のように分かれ、青い巨体へと絡み付いている。ギターを構え、純也が淡々と告げた。
    「……そして拘束は、序の口だ」
     その意味をどう理解したのか。ソニックビートを放とうとする純也に、ダークネスは影を引き千切りながらガトリング砲を向ける。そして砲身が回転するより早く、新たな衝撃が攻撃を中断させた。
     下と見せかけて、上だ。
    「水鏡流…雨龍鵬ぉぉぉ!!」
     垂直落下の蹴り落とし――かなめのスターゲイザーがデモノイドを捉え、巨体を地面へ叩きつける。紅鳥が、己が殺意にサイキックを絡めたのはその時だった。
    「我が身に宿る鳥獣よ……羽ばたけ、彼奴を喰らい尽くす為にッ!!」
     かなめ、そして音の衝撃波を放った純也が飛び退いた頃合いで、どす黒い殺気は無数の小さな鳥のように戦場へと飛翔する。そして黒い帳のように戦域を覆うと、起き上がった獲物へと向かって一斉に降下。全身へとあまねく貫き刺さる殺気に、ダークネスが苦鳴とも怒号ともつかぬ咆哮を上げた。
     戦闘開始、一分。被弾はゼロ。戦果としては、順当な滑りだしだ。


     この時は、誰もがそう思った。

    ●07:32:04
     肉の弾ける異音が響く。
    「まずいな」
     咄嗟に葉月が屈まなければ、直撃だっただろう。デモノイドが腕を砲台と化し、毒の光条を立て続けに放ってくる。射線をかいくぐりながら放った葉月の妖冷弾は、腕を凍らせ攻撃を止める――かと思いきや、ダークネスは腕を振って氷結部分をちぎり棄てた。短くなった腕から飛び出してきた機関砲の砲身が高速回転し、今度は周囲に弾丸の嵐を巻き起こす。
    「動きのバリエーションがまた増えたな」
    「戦いながら学習してるようだ。残念だが筋がいい」
     戦いの余波でめくれ上がった岩盤を盾に、流人と紅鳥が短く言葉を交わした。
     当初は変化に気付かなかった。だが、時間が経つにつれダークネスの戦闘能力は高まり、加速度的にその技術は洗練されていく。戦闘開始数分後には受ける被害が増加し、回復のひと手間が要るようになっていた。氷や炎、機動力を削ぐなどの戦法を用い、更に攻撃に重きを置く布陣をしてなお、十五分以上灼滅者たちと戦い得る実力。今回の敵はまさにそれだった。癒し手の対象分担や相性の良い防具を選んでなかったなら、より劣勢であったかもしれない。
     一際大きな激突音が鳴り響いた。天音の縛霊手を、刃へと変じた左腕が弾き、天音の肩口をも切り裂く。後ろも見ずに、デモノイドは左腕のガトリング砲を駆動。剣を掲げて防いだミストの足や腕を弾丸が掠め、血が舞い飛んでいった。
     純也がミストへと癒しの矢を放つ。追撃を受けないよう、前に出た葉月の槍が青い刃とぶつかり、擦過音と火花を撒き散らした。葉月の端末から音が鳴り響く。勢いを利用して後退した葉月が声を大きくして伝える。
    「あと五分だ……俺は、ここまで来て堕ちるなんて予定はないぜ?」
     格好悪いしな、と葉月がニヤリと笑えば、純也は当然、と無表情に頷く。
    「武蔵坂が無様を晒すことは認めない」
    「幸い、まだ全員戦闘の継続が出来ます――負けませんっ、絶対に!」
     空子がかなめへの攻撃を受けながら、祭霊光をミストへと放つ。白玉ちゃんもかなめへと癒しの力を送り、戦線の維持を務めている。
    「そうなのです、負けませんよ。必殺――」
     地を擦る軌道で描いたかなめの足が、炎を纏ってデモノイドの顎を蹴りあげた。着地したかなめへと返された青い拳を、立ち上がったミストの剣が弾いて相殺。衝撃にもっていかれそうになった身体を踏みしめて留まり、柄を強く握る。気持ちが揺らいでしまえば、勝利は遠のくと、分かっているから。
    「私も全力で守るから、安心しなさい」
     天音が呟いた。敵と残りの攻撃機会を比べれば、際どいだろう。最後の追い込みでどこまで削れるか、開戦から積み上げてきた要素が花開くかは、これからの動き次第だ。
     残り時間は、四分を切っていた。

    ●03:35:68
     ダークネスのガトリング砲が、回避する紅鳥の後を追って土煙をあげる。喰らいつこうとする弾丸を、茜色の十文字槍で弾くも、見切れない攻撃が多くなっている。弾丸への対応で動けない紅鳥へと、デモノイドの胸元で『忠』の宝玉が光り、周囲の細胞を強酸として射出させた。ドリフトしつつ割り込んだキャリバーが代わりにそれを受けるも、装甲が腐食していく。溶けて力尽きるのは時間の問題だった。
     その時、二度目のアラームが鳴り響いた。
    「後三分だ、総攻撃に移るぞ!」
     葉月の声と同時に、天音が鬨の声をあげた。ただならぬ気配に敵が砲台を形成し撃ち放つも、光条のことごとくをかわして跳んだ天音。そのエアシューズが炎を宿した。
    「もう眠りなさい。ここで全部焼き尽くしてあげるわ」
     左右の蹴りが立て続けにデモノイドの頭を蹴りあげる。
    「ッッッせあぁ!!」
     渦巻く大気の中を彼女の身体が旋回し、強烈な後ろ蹴りを叩きこむ。衝撃に揺れた敵へと、葉月の持つ剣が白光を迸らせた。
    「炎と氷、たっぷり喰らったよな? 遠慮しないで、こいつももらっとけ!」
     神霊剣。この日最大の威力を叩きだした斬撃が、大上段から打ち降ろされる。掲げられた刃をすり抜け、非物質化した一撃がダークネスの体内でスパークを引き起こした。
    「目覚めたばっかで悪いが、また眠っとけ……永遠にな」
    「絶招、『驟雨』、参るのですッ!!」
     体勢を立て直す間を与えずに、デモノイドの懐に飛び込んだかなめが拳に閃光を宿らせた。迎撃に振るわれた奇生体製の刃が、強烈な拳打によってへし折れる。ガードを突き破って打ち込まれた拳の嵐に、ダークネスは胸元の細胞から強酸を放つ。すんでのところで回避したかなめへと、長い砲身が駆動音を響かせて動き出す。
     ガトリングガンの砲身が、鋭利な断面を見せて断ち切られた。
    「あと二分だ。畳み掛けるぞ!」
     ミストは両断に使った大剣をしまうと、新たにロッドを取り出す。月下黎明――魔力が白銀の刃のように濃縮したそれを、ミストは渾身の力でデモノイドに叩きこんだ。
    『――!』
     耳を弄するダークネスの叫びが、灼滅者たちの攻撃を中断せんと轟いた。空子が、縛霊手を構え、負けじと突貫していく。
    「白玉ちゃん、行きますよ!」
    「ナノ!」
     必死に主の耳を押えようと頑張るナノナノと共に、空子は縛霊の一撃を叩きこんだ。展開した霊力網に動きを制限されたデモノイドだが、残る武器を駆使してくる。
    「天原流古武術の力……存分に味わうが良い」
     火線の渦へと飛び込んだ流人が、杖に宿した魔力を打ちつけた。デモノイドが呻き、動きが鈍っていく。
    「歪なデモノイドは、滅びるがいい」
     純也の右手――その肘から先の影が、突如として異形の如く膨れ上がった。床をたゆたう闇の鉤爪は、巨大な手となってダークネスを押し潰さんとする。
     デモノイドが吠えた。その胸元で一際宝玉が輝くと、拘束する影を振りほどかんと押しのけていく。力を供給しているように、宝玉がその輝きを増した。
    「本好きとしては、その玉めっちゃ興味あるんだが……」
     紅鳥が跳んだ。勢いをつけて蹴撃の姿勢に入った時には、その足に履いたエアシューズから炎が立ち上っている。
    「だが、後も残さず消した方が良さそうだな――これで終わりだ!」
     振り下ろされた足が霊玉を突き刺さり、砕いた瞬間、デモノイドもまた絶叫を上げている。
     その叫びを最後に、ダークネスは灰となって消えた。

    「……間に合いましたね」
     空子がふうと息をつく。残り一分弱。際どくも作戦が生きた形だ。
    「同情すれども手は抜けなかった……本当に厄介だ」
     葉月が苦笑する。周囲に静寂が戻りつつある。手足を投げ出せば寝てしまいそうだ。
    「もしスキュラさんが生きていれば、予備犬士さんはひとりぼっちではなかったのでしょうか? 少し複雑なのです」
     誕生した直後の仕草を思い返し、思案するかなめ。流人は瞑目で返した。
    「業を思えば悲しいものだ。だが、ここで負けるわけにはいかないからな」
     倒さねば悲しむ者が生まれる。その人達を守れた。灼滅者たちにとって、それが確かなことだった。

    作者:叶エイジャ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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