勝者となる者

    作者:猫御膳

     ガイオウガ、そしてスサノオ大神……。
     大地を喰らう幻獣種共が「竜種」に目覚める日も、そう遠くはない……。
     サイキックエナジーの隆起がゴッドモンスターさえも呼び起こしたこの状況で、未だ十分に動けぬとはいえ、日本沿海を我が「間合い」に収めることができたのは、まさに僥倖。

     小賢しき雑魚共の縄張り争いも、王を僭称する簒奪者共の暗躍にも興味は無い。
     我が望むは、我と死合うに値する強者のみ!
     「武神大戦殲術陣」発動!
     眠れる強者よ現れよ。武神の蒼き頂こそが、これより汝の宿命となるのだ!

    「まだ続いていたのだな……。ああ、済まない。集まってくれて感謝する」
     曲直瀬・カナタ(中学生エクスブレイン・dn0187)が、教室に集まった灼滅者達に向き直り、礼を言う。
    「武神大戦天覧儀、というのを知ってる者も居るかもしれないが、これがまた行われる」
     武神大戦天覧儀。
     それは柴崎・アキラを失った業大老一派が新たな師範代を生み出すべく、一般人が居ない時間の日本各地の海が見える場所に導かれたアンブレイカブル同士が訪れ、それぞれ勝手に試合を行うというもの。
     この大会で勝利すると、より強い力を得る事ができる。それを繰り返せば、柴崎・アキラを超える者も出てくるかもしれない。
    「これを阻止して欲しい。但し、注意して欲しい事がある。それはアンブレイカブルに止めを刺した灼滅者は、『勝利によって力を与えられる』為に、闇堕ちしてしまう事だ」
     これは避けられない事だ、と思わず目を逸らしたくなるのを堪え、神妙に言葉を紡ぐ。
    「時間帯は昼。場所は東北の、この岬。みんなが相手をするアンブレイカブルは、九軌・寛(きゅうき・ひろし)という者だ。白い学ラン姿な上に周囲に人気も無いから、直ぐに分かるだろう。主にストリートファイターとエアシューズのサイキックに似た攻撃をしてくるので注意してくれ」
     地図を見せながら、カナタは言う。
    「それよりも大事なのは先ほどを言ったように、止めを刺した者が闇堕ちする事だ。危機に瀕しての闇堕ちとは違うのだから、闇堕ちした仲間をその場で助ける事も出来る筈だ。しかしその場合は、この九軌を余裕をもって撃破しないと厳しい事になる。何せ、連戦になるからな」
     だから生半可な気持ちで挑まないでくれ、と1人1人の顔を見ながら頷く。
    「必ず闇堕ちするとは、恐ろしい事だ。だが、みんなであれば闇堕ちした仲間も助け出せると信じさせてくれ」
     良い報告を期待している、とカナタは灼滅者達を最後まで見送るのだった。


    参加者
    巽・空(白き龍・d00219)
    月代・沙雪(月華之雫・d00742)
    館・美咲(四神纏身・d01118)
    沢崎・虎次郎(衝天突破・d01361)
    祀火・大輔(迦具土神・d02337)
    賀上・沖経(居合撃ち・d05529)
    黒木・唄音(儚き旋律・d16136)
    樫木・祐(翠炎・d18922)

    ■リプレイ

    ●武神大戦天覧儀
    「んー……」
     時刻は昼。8人の灼滅者達は目的地へと歩いている。その中の1人、祀火・大輔(迦具土神・d02337)は何故か唸り声を漏らしながら歩いている。
    「どうかしましたか? 後少しで着きますよ?」
    「いや、『竜種化』っていう言葉がどうもこう、何ていうか気持ちがザワつくというか……なんかモヤモヤするっす!」
     それを訝しげに賀上・沖経(居合撃ち・d05529)が尋ねると、大輔は自分の両頬を叩いて気分を切り変える。
    「……来たか」
     そんな事をしていると、いつの間にか目的地に着いていた。白い学ランを潮風に靡かせ腕を組んでいた男は、灼滅者へと向き直る。その顔は優男に見えない事も無い、20歳前後ぐらいの男。顔だけを見れば、街に行けば似たような人は居るだろう、と言われても納得しそうなぐらい普通である。しかし、纏う雰囲気は違う。常人であれば、息を強制的に止められそうなぐらいに威圧感が凄まじい。
    「白い学ラン、アンタが九軌・寛さんっすね? 同じ武の探究者としてアンタとの手合わせを所望するっす。ただ、俺達は灼滅者なんでこれだけ頭数揃えさせてもらいましたが」
    「一対多ではありますが、手合わせ、宜しくお願いいたします」
     そんな雰囲気に呑まれないように大輔が声を掛け、月代・沙雪(月華之雫・d00742)が礼節を持って、頭を下げる。
    「構わない。どれだけ居ようと、僕の武で打ち砕く」
     九軌・寛は人数が多い事も意に介さず構える。構えると、重圧的な威圧感を解放するようにと、地面を踏み抜くように陥没させる。
    「ボクは巽・空。貴方を『破壊する』者です」
    「四神降臨、纏え玄武!」
     巽・空(白き龍・d00219)が名乗りながらキーワードを持ってスレイヤーカードを解放し、館・美咲(四神纏身・d01118)がスレイヤーカードを天に掲げて、一瞬でスーツを装着して身構える。それが戦闘開始のゴングの代わりか、唐突に始まるのだった。
    「全力でいくよ。……今回は、マジだ」
     パーカーのフードを被り、黒木・唄音(儚き旋律・d16136)は一番最初に動き出す。その動きは何か駆られるようにと瞬時に寛の死角へと潜り込み、影業で斬り上げる。それを寛は予想していたかのように、上半身を仰け反るように避ける。そこへ沖経が両足の腱を狙うように斬撃を放ち、対抗するように寛は瞬時に見を伏せて地面に手を着きながら水面蹴りで迎撃する。
    「儀式もそうですが、貴方自身も厄介極まりないようですね」
    「……ここですっ!」
     畳み掛けるように樫木・祐(翠炎・d18922)が、破邪の白光を宿した斬撃と共に自身も光を纏わせ、沙雪は潮風とは別に激しく渦巻く風を生み出し、風の刃を放つ。破邪の斬撃を後方へとバックステップで避けた所に、その動きに追尾するように風の刃が寛を斬り裂く。
    「この戦い、絶対に負けられない……いつも以上にしっかりしなきゃ!」
    「さあ、お主のその貧弱な足で妾の盾を打ち抜けるかのぅ?」
     緊張気味の自身に活を入れながら空は更に踏み込んで、闘気を雷に変換し、その雷を身に纏わせながら拳を振り抜く。それを寛は鋼以上の固く靭やかな蹴りで吹き飛ばそうとするが、背後からWOKシールドを展開して突撃をし掛ける美咲。
    「貧弱かどうかは、その身を持って知れ」
     迎撃や相殺よりも攻撃を優先とした寛は2人の攻撃を食らいながらも、暴風を思わせるような強烈な回し蹴りを前衛へと繰り出す。
    「ッ、守れ!」
     沢崎・虎次郎(衝天突破・d01361)は自分のライドキャリバーに素早く指示をし、祐を庇ってフルスロットルで回復する。
    「見た感じ、俺達全員と互角って感じっすね。けど、それほど防御は上手く無い感じがするっす」
    「攻撃一辺倒、という感じか。防御よりも攻撃を優先っすね」
     虎次郎がローラーダッシュの摩擦を利用して炎を巻き起こし、エアシューズで薙ぎ払うように蹴りだし、大輔も同じように強烈な蒼い焔を纏わせながら、交差させるように爆焔の玉璽で蹴りだす。
    「蹴り技が豊富のようだな。それは良い鍛錬になる」
     白い学ランが燃やされようと、一向に寛は怯まずに灼滅者達を見据えるように観察し、更に重圧感をもたらすような雰囲気を醸し出す。灼滅者達は気付く、アンブレイカブルである寛が本気になったのだと。
    「僕はもっと強くなる。その為に、勝たせてもらう」
     灼滅者達は素早く目配せし、布陣を整えるように身構える。それは、これからの戦いの熾烈を物語ってるようだった。

    ●闇堕ち
     結論であれば、アンブレイカブルと灼滅者達は互角。いや、灼滅者の方が連携も上手く押し切りつつある。だがしかし、この戦いは武神大戦天覧儀なのだ。灼滅者の誰かが止めを刺した時、新たな戦いが起こる事を考えると、灼滅者達の方が余裕が無い。満身創痍に近いアンブレイカブルとの戦いは激しく、それでもお互い一向に攻撃の手を緩める事は無い。
    「……仲間と送る今の日常を大事にしたいんですよ、俺としては」
     自分の魂の奥底に眠るダークネスの力を一時的に解放し、前衛を癒やす沖経は自身も含め、いざとなれば闇堕ちを覚悟している心情を零す。
    「くくく、不謹慎といえど、やはり強者との戦いは心躍るのぅ」
    「……!」
     美咲は雷を纏いながら血を拭い、寛と蹴り技の武を競いながら笑う。個人の力ではアンブレイカブルには劣るが、そこは仲間との連携と手数で押し切り、炎を纏わせたエアシューズで蹴り落とす。本来であれば美咲のように戦いを楽しめる筈の唄音は、何度もマテリアルロッドと影業を振るい、フェイント気味に日本刀で刺突すると同時に魔力を注ぎ込み爆発させる。どうしてもこの後の誰かが必ず闇堕ちする事が気に掛かるように、荒い息のまま自身の腕を握りしめてしまう。
    「1人ずつ崩せると思ったが、互いに弱さを補う……これが、君達の武か。しかし、そんなに闇堕ちが怖いのか?」
    「怖いですよ。だけど、その覚悟はしてきたつもりです」
     寛は構え直し、闘気を雷に変換させて身に纏いながら唄音へと拳を突き上げる。それを祐が割り込み、拳を纏った白き光と幾重の護符で受け止め、血を吹き出しながらも逆に雷を纏わせた拳で殴り返す。
    「私達はそれぞれの大切な日常がありますから!」
     流星の煌きと重力を宿したような仕込み靴から輪状の刃を表わせ、飛び蹴りを炸裂させる沙雪。それを腕で交差して受け止める寛は、微かな困惑を見せる。
    「おっと、解せぬという顔をしてるっすね。だけど理解しなくても良いっす」
     突き放すような言葉と共に、縛霊手の指先に集めた霊力を味方に撃ち出して仲間を回復する虎次郎。彼のサーヴァント、ライドキャリバーは激戦の末に既に姿を消している。
    「業大老もトンデモない爆弾仕込んだ戦場を用意したもんっすねぇ」
     全員が全員、闇堕ちを覚悟して戦いに挑む。それは普段では考えられないような覚悟であり、ありえない事。大輔はぼやきながらも気を引き締め、全力で人が造りし神剣、薩摩刀『天之尾羽張』に炎を過剰に纏わせて袈裟斬りに斬撃を放つ。
    「だけど、仲間が居るからこそ……全力で戦えるっ!」
    「ならばその全力を持って、応えよう!」
     空が駆け出し神秘的な淡い青色の光、龍の波動を拳に集中させて真っ向から凄まじい連打を見せる。瞬時に数えきれない連打を食らいながらも、足元から炎を噴き出しながら連続的な蹴りで対抗し、最後に拳と蹴りをぶつけ合う。
    「……見事だ。……ようこそ。そして行こうか、果てしない武へ」
     先に膝を崩したのは空。しかし、地面に膝を着く前に寛の方が仰向けに倒れる。アンブレイカブルとの戦いは終わった。しかし、空の様子が、雰囲気が激変する。見た目も髪とオーラの色が紫に近いピンク色に、徐々に変化していく。
    「巽さんっ!」
    「狼狽えるでないっ! 構えよ!」
     空に駆け寄ろうとした沙雪を、美咲が一喝して止める。そして注意を促した瞬間、美咲が吹き飛ばされる。何とかスーツが切り破られてもWOKシールドで受け止める事が出来たのは運が良かったとしか言いようが無い。
    「アハ……アハハハハッ。凄い凄い! あれで壊れないなんて!」
     殴り飛ばした空の顔が見える。それは心底楽しそうな笑顔で、壊れたような笑い声を上げる彼女は、龍の波動を迸っている。しかし、その顔は何処か苦しそうな顔をしながら上空を見上げていた。

    ●巽・空
    「連戦……行ける?」
    「撤退条件には達してませんよ。行きましょう」
    「俺はディフェンダーに移ります」
     素早く仲間に問い掛ける唄音に祐と沖経が宣言しながら手早くポジションを交代する。寛との戦いで戦闘不能者は幸いながらライドキャリバーしか出ていない。そこは各々が上手く連携が出来た上に、役割をしっかりとこなしたからである。
    「空がなったすか。年下の女の子に辛い役を任せちまったっすね……、何としても戻って来させるっすよ!」
    「アハハ! 沢崎先輩、それじゃ駄目駄目ですよっ!」
     虎次郎は軽く跳躍して疾走し、ローラーダッシュの摩擦によって炎を生み出し纏わせた蹴撃を放つ。対して空は龍が巻き起こす旋風のように体を捻り、同じような炎を巻き起こして蹴り合わして相殺する。そのまま虎次郎を受け流すように避け、唄音へとオーラを拳に集中させながら駆け出す。
    「良いぞ、お主。先ほどのアンブレイカブルよりも強いかもしれん。しかし、早く正気に戻らんか馬鹿者!」
    「褒めてくれてありがとうね、館先輩! 今度こそ壊してあげる!」
     その前に立ち塞がる美咲は空と笑いながら蹴り合わせる。しかしそれはお互いフェイントであり、美咲は雷を纏わせた一撃の拳を、空は凄まじい連打を互いに炸裂させる。
    「空ちゃん、ごめんね」
     闇堕ちを怖がった事、年下の女の子を闇堕ちさせて事、そしてこうやって戦う事になった事の全てに謝り、その殴り合いの最中に唄音が素早く死角へと回り込んで日本刀で龍の波動や服ごと斬り裂く。
    「足止めします。悪く思わないでください」
    「巽さん、戻ってきてください」
     皆が揃って帰るのが一番ですから、と呟いて躊躇無く魔力を編み込んだ石化の呪いを放つ沖経。そして祐は真摯に呼び掛け、素早く闘気を雷に変えながら拳を突き上げるように放つ。
    「巽さんを、返して貰うです。ダークネスは消えて下さい」
    「これは見てて辛いな。だが、本人が一番辛いんだ。泣き言は言ってられんっす!」
     激しい風を呼び起こして風の刃を幾つも展開させ、返してもらうと断言する沙雪は一斉に放ち、大輔は風の刃に紛れるように爆焔の玉璽を煌めかせながらも浴びせ蹴りを炸裂し、当たった瞬間に重力を宿わせて足を止めさせる。
    「何だか体が動かし難いな……。まだ慣れてないか!」
     先程から空は攻撃しようとした時、そして避けようとした時に限って動きが微かに鈍くなるように感じられる。灼滅者達の攻撃を食らいながらも首を傾げ、何か思いついたように大きく頷いてみせる。
    「巽さん?」
    「……! 駄目っす! もっと包囲を固めるっす!」
     祐はその表情を見て、何か嫌な予感がしながらも呼び掛け、虎次郎は空が考えた事を逸早く感付いて、仲間に素早く指示する。
    「何か『コレ』は人をみんなを傷付けたくないみたいだからねっ! ちょっとだけ時間を貰うよ!」
     そう言いながらも一番傷を負っている美咲の方を向き、空がTwisterで駆け出す。そう、彼女は逃げ出そうとしているのだ。
    「そうはさせません」
     空の前に立ち塞がるように沖経が割り込み、ガンナイフを構えて自動的に狙う特殊な弾丸を数発連射する。空は庇いに来る事を予想していたようにTwisterから炎を生み出し、その弾丸を蹴り弾きながら炎をまるで広げるようにして視界を遮る。
    「全力っす! 逃がさないっすよ!!」
     更にそこに横から虎次郎が鍛え抜かれた鋼よりも固い拳を振り切る。これが一番命中し易いと瞬時に判断し、兎に角当てて動きを少しでも止めようとする。しかし、
    「おーっと、危なかったっ! それじゃ、バイバイっ!!」
     その拳は空に当たる事は無く、髪を通り過ぎるようにして結わえていた髪が広がる。そして、大きく跳躍して最後に笑顔を見せ、素早く戦場から抜け出す。
    「巽さんっ!? ダークネス! 巽さんを返しなさい!!」
     そんな沙雪の悲痛の叫びでも、空は決して振り返らない。慌てて何人もが追いかけようとするが、逃げに徹した彼女のスピードに追い付ける気がしなかった。
    「…………」
     重い雰囲気に包まれながらも、灼滅者達は黙る。
    「……早く帰って報告しましょう。そして連れ戻します」
     暫くした後、祐がそう宣言すると何人かの灼滅者が力強く頷き返し、彼等は学園に急いで戻るのだった。

    作者:猫御膳 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:巽・空(白き龍・d00219) 
    種類:
    公開:2014年6月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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