ガイオウガ、そしてスサノオ大神……。
大地を喰らう幻獣種共が「竜種」に目覚める日も、そう遠くはない……。
サイキックエナジーの隆起がゴッドモンスターさえも呼び起こしたこの状況で、未だ十分に動けぬとはいえ、日本沿海を我が「間合い」に収めることができたのは、まさに僥倖。
小賢しき雑魚共の縄張り争いも、王を僭称する簒奪者共の暗躍にも興味は無い。
我が望むは、我と死合うに値する強者のみ!
「武神大戦殲術陣」発動!
眠れる強者よ現れよ。武神の蒼き頂こそが、これより汝の宿命となるのだ!
「業大老一派のアンブレイカブルが動き出しています。お手数ですが、対処をお願い致します」
五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は集まった灼滅者たちに一礼すると、ペンギン型のメモ帳を開いてサイキック・アブソーバーの解析結果の説明を始めた。
「先日倒された有力なダークネス――柴崎・アキラに変わる強者を生み出すため、『武神大戦天覧儀』というある種の儀式が執り行われています。日本各地でアンブレイカブル同士がそれぞれ勝手に試合を行い、その勝者に強大な力が与えられるという形をとります」
海の見える場所、一般人がいない時間等、幾つかの条件が揃ったときにそこに導かれてきたアンブレイカブル同士が戦い、勝負を決する。そして勝ち続けることによってアンブレイカブルの力はさらに増していく。
「手に負えない力を持った者が生み出される前に、どうかアンブレイカブルを倒してしまって下さい。今回、皆様にお願いするのは神奈川県、湘南海岸の早朝に現れる相手で――」
名前は金田・章。リングネームはライトニング金田。ボクサー崩れだ。素早い一撃に定評があったがボクサーとしては結局大成せず、しかし執念のみが残って闇堕ちしてしまったらしい。
「使うのはストリートファイターと同等のサイキック――ただしこだわりがあるのか投げは決して使わないようですが――と、グローブによる強烈なボディブロー、縛霊撃相当の技と思えばいいでしょう。決して弱くはない相手ですが、現在の皆様8人相手に勝てるほどの実力ではありません。悪くても苦戦で済むでしょう。ですが、被害を少なくする工夫は絶対に必要です。なぜなら」
武神大戦天覧儀。その儀式は「勝者」に力を与える。強制的にだ。
つまり。
「彼にとどめを刺した者は強制的に闇堕ちし、ダークネスへと変貌します。仲間を闇堕ちから救おうとすれば、皆様は一人を欠いた状態での連戦を強いられることになります」
誰かが金田にとどめを刺さなければ儀式の阻止は成らない。しかしとどめを刺すことは新たな、より不利な条件での戦いの始まりを意味する。
いかに最初の戦いをどのように切り抜けるか。
誰が自ら堕ちるか。
仲間を救出する戦いを挑むか、またその場合は確実に厳しくなる状況下でどのように戦い抜くか。
確かな戦略とチームワークが必要だ。
「無理、と思った場合は撤退することも視野に入れて下さい。皆様が生きている限り、救い出せる可能性は必ずあるのですから」
そう告げると姫子は皆に向かってもう一度頭を下げた。
「厳しい戦いになると思いますが、力を合わせればきっと最高の結果を得られるはずです。一人も欠けず無事に帰ってこられることをお祈りさせて頂きます」
参加者 | |
---|---|
三兎・柚來(無垢な記憶の探求者・d00716) |
巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647) |
相良・太一(再戦の誓い・d01936) |
御盾崎・力生(ホワイトイージス・d04166) |
天雲・戒(紅の守護者・d04253) |
長沼・兼弘(キャプテンジンギス・d04811) |
ジグバール・スィーラ(欠け満ちぬ柘榴・d15196) |
英田・鴇臣(拳で語らず・d19327) |
観光地として人気の人気の湘南海岸といえど、晩春の早朝ともなれば人の姿はほとんどない。早出のサーファーや海辺の散策を楽しむ者たちが、ごく稀に通り過ぎる程度だ。
曙光に照らされて淡く輝く波ののざわめき、海風が吹きすぎる音、遠くから微かに聞こえる鳥のさえずり――この海岸の本来の姿である穏やかな自然の姿。だがその朝に限っては、普段と変わらぬそんな風景のなかに奇妙に溶け込むように、思い思いに佇む8つの人影があった。
「何それマジ!? そんなんでいいの?」
相良・太一(再戦の誓い・d01936)の明るい問い返しの言葉に、巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647)は微かな頭痛を堪えつつ、筋肉に覆われた身体を揺らしつつ頷き返した。
「ああ、俺にとってはその一言で十分だ。そこに必要な全てのものがある」
「了解。主将さんの言うことだからな、信用しとくぜ。俺のは『エンジョイ学園生活、ダチ』だ。説明はいらないよな? で、お前のは確か……」
首を向けて確認した太一に、ジグバール・スィーラ(欠け満ちぬ柘榴・d15196)が穏やかに頷き返す。
「さきほどの説明通り、『教会、義弟』でお願いする。忘れないように頼む」
仲間を堕とすわけにはいかないからな。
彼のそんな決意の呟きは、波の音に紛れて他の者には聞こえなかった。
「ん……」
闇堕ちしたときに互いを説得するための言葉。来るべき戦いを前にそれらを確認し合う仲間たちを余所に、ぼうっと空を眺めていた三兎・柚來(無垢な記憶の探求者・d00716)が振り向いた。一瞬遅れて他の皆も一斉に振り返る。
陸側の、少し小高くなった場所。そこに一人の人影が佇んでいた。上半身裸の身に纏うのはトランクスと両手のグローブ、そして強大で異様な殺気。人の道を踏み外した者、アンブレイカブル。
「ライトニング金田! あんたを待っていたぜ」
天雲・戒(紅の守護者・d04253)がライドキャリバー『竜神丸』から降りつつ笑顔で声をかけると、男は微かに顔をしかめつつ歩み寄ってきた。
「同類ではないな? 灼滅者というヤツか。8人がかりとは……」
「ルール違反かもしれないが、そもそも参加する意思はないものでね」
ヒーロー装束に身を包んだ長沼・兼弘(キャプテンジンギス・d04811)が言葉を返し、頭に載せた鍋――断罪輪を手にした。
「構わん。勝てば力が手に入ることには変わりない」
無表情の金田はグローブに覆われた右手を天に向かって突き上げた。
「俺はこの拳で、今度こそ頂点を掴む」
どこか子供っぽいその仕草を見て、英田・鴇臣(拳で語らず・d19327)は小さく笑った。
「投げは使わないんだってな。ボクサーだからなんだろうが、堕ちてもそういう信念があんのは素直にカッコイイと思うぜ。でもな」
笑みをそのままに手にした槍を構える。揺らめくオーラがその全身を覆っていく。戦闘態勢。
「勝つのは、俺らだ」
小気味よく切られた啖呵に応えるように金田も構えた。顎の前で両手を構えるピーカーブースタイル。
「始めようか」
これから闘う相手に刀礼をするように、顔の前でバベルブレイカーを立てた御盾崎・力生(ホワイトイージス・d04166)が短く告げて。
それ以上の言葉は無かった。ゴングの音もなかった。
ただ闘志が高まり、そして弾けた。穏やかな曙光のなかで。
●第一戦
「ボクシング……殴り合い?」
小さな声と共に、細い腕が巨大に膨れ上がった。
「おもいっきり、殴り合い……しよ」
真っ先に躍り出た柚來の、あどけないとさえ言える声と共に豪腕が振り下ろされ、それを真っ正面から受け止めた金田が叫び返した。
「ああ、互いが誇りをかけて殴り合う、それがボクシングだ!」
「ハッ! でも残念だが、あんたはここで負ける。連勝はここまでだぜ」
戒が突進、右腕に装着したバベルブレイカーが光を放つ。
「たわごとを!」
回転しつつ打ち出された杭と金田の右フックはクロスカウンター、二人の身体が同時に吹き飛んだ。
「つう、効くなあ。でも……」
膝は突かずに態勢を立て直した戒が口の端に滲んだ血を親指で拭き取り、その横で兼弘が叫ぶ。
「勝てぬ強さではない!」
放たれたビームがとっさにかわした金田の肩を浅くえぐる。さらに冬崖の爪が躍り太一の拳が唸り、ジグバールのオーラが光の槍と化す。その幾つかをかわしあるいはくらいながら動き続ける金田が、ステップワークで急転換し鴇臣に襲いかかる。
「来い!」
拳には拳と、右腕に鋼鉄拳の力を宿し迎え撃つ鴇臣、その瞬間に力生が横から金田にロッドを叩き付けた。とっさに振り向いた金田の一撃は力生に向かい、楯代わりとなったバベルブレイカーが鈍い音と共に揺れる。
「なかなかいいパンチだ」
他人事のように冷静に評する力生を金田が一瞬、睨み付ける。
「拳の勝負の邪魔をするか」
「悪いが集団戦だ」
「だな。あくまでスタイルを貫くあんたに敬意を表してこその……」
鴇臣が大きく腕を引いた。
「全力だ!」
吐気と共に放った鋼の拳が、金田の右頬に食い込んだ。
そして激闘は続く。
拳対拳。槍。爪。杭、影、オーラ。ライドキャリバーの突撃。
様々に繰り出される攻撃に反撃を繰り出しつつも、次第に金田の旗色は悪くなっていった。ときに強烈な一撃が決まるも素早く兼弘が放つ癒しの光で対応され、致命傷には至らない。
「ゴメンよライトニング! 悪りぃがあんたじゃ役不足だ!」
炎の一撃、と見せて太一がフェイント気味に突き出した殺人注射器が、金田の残り少ない生命力を容赦なく吸い取る。
「認めて……たまるか! 俺は! 何としてでも! この手で!」
叫びつつ脚をもつれさせた金田を鴇臣の槍と戒の剣が容赦なく切り裂いた。
「最後まで……殴り合い、だね?」
激しく動き回りつつも茫洋と問いかける柚來の右腕が再び鬼神のそれに変じる。
「ああ、そうだ!」
金田の鋼の左アッパーが柚來の顎を直撃、だが柚來は相手の腕を抱え込むようにして右腕を薙いだ。逆袈裟――「スマッシュ」と呼ばれるパンチの軌道で繰り出された豪腕に金田が大きくよろめいた。 狙い澄ましたようにジグバールが走り出る。
仲間を堕とすには忍びない。堕ちるなら自分を、と。
そう思い定めた彼は、戦いの中でタイミングを注意深く量っていた。狙い澄ましたようにマテリアルロッドが繰り出され、同時に決意の一言が響く。
「これを食らって、馬鹿げた試合も終わりだ!」
それを聞いた瞬間、満身創痍の金田が弾かれたように顔を上げた。
「馬鹿げた試合など、一つもない!」
叫びながらの強烈な右ストレートが、繰り出されたロッドを強引に弾き飛ばす。ボクサーの執念だ。
しかしそこまでだった。よろめく金田の前に、強烈な苦痛をこらえるように眉をしかめた冬崖が、微かに憐憫の色を浮かべて立った。
「あんたの言う通りだと思うがな。だが」
両腕で構えたロケットハンマーが炎を吐きだし、爆発的に加速する。
「これでノーサイド……いや、テンカウントだ」
なおもかわそうとする金田をハンマーが追う。直撃したのは心臓の真上だった。
「あ……」
何か言いたげに顔を上げた金田の、その姿が薄れる。一片の闇へと変じ、やがてそれも曙光の中に消えた。
そして。
誰かが、何かが、勝者を祝福した。
●凶念
「……くるよ」
無垢な予言者のような柚來の言葉。それを待つまでも無く皆が悟っていた。かつての仲間にして新たな強敵の誕生を。
「は、はは」
ロケットハンマーを振り切った姿勢のままで、顔だけ伏せて。冬崖だったものの笑い声が響き渡る。
「はは、ははははは、はははははは!」
変貌は声のみならず姿にも及んでいた。上半身にまとった縞のユニフォームが張り裂けその下の胸と顔の左側面には異形の蟲の刺青が浮かび上がり、さらに疵痕のように縦横に走る血管の中心となる心臓の上に、幾つもの眼球を集合させたような奇妙な核が結節する。
ごぉ、と炎じみた異様な息を吐きだし、「それ」は満足そうに呟いた。
「……痛みが消えた。久々に良い気分だ」
そのまま歩きだそうとして、「それ」はわずかに顔を歪めた。目の前にヒーローが立っていた。
「どこへ行くんだ、帰り道はそっちじゃないぞ?」
ヒーロー対怪人。そんな構図を思わせる姿で仁王立ちした兼弘は、道を誤った仲間の前で断罪輪を握りしめた。
「そうそう、逃がさねぇよ」
後方、立てた槍の柄で軽く己の肩を叩きながら退路を塞ぐのは鴇臣。さらに太一、力生、戒と竜神丸が側面を固め、兼弘と並んだジグバールが真剣な表情で告げた。
「全員で帰ると誓った。仲間を返してもらおう」
「返すも何も……」
「それ」はむしろ楽しげだった。
「これが本当の俺だが?」
そのまま準備動作も無しに跳んだ。振りかぶった、と認識する間もなく旋回したロケットハンマーが叩き付けられる。金属がひしゃげる異様な音は遅れて響いた。
「竜神丸!」
とっさに避けた戒のすぐ横で、一瞬で半壊させられたライドキャリバーが悲鳴のような作動音を立てる。
「ハハ! 俺の、俺だけのための闘いの! 初陣だ!」
哄笑する「それ」の声が途中で止まる。殺気も無しに歩み出た柚來が、背後から軽くロッドで触れたのだ。
「ぬっ」
フォースブレイク、流し込まれた神秘の魔力の威力に「それ」は顔を歪ませた。
「戻るまで……殴る、よ」
素朴な宣言への返礼は銀光の斬撃だった。
「…………!」
幻狼銀爪撃、だが以前の冬崖のものとは比べものにならぬ強烈な一撃が、かろうじてブロックした柚來の全身を揺さぶる衝撃と化して叩き込まれる。
「まかり通るぞ!」
笑いと共に発せられた異形の咆哮が第二戦の開始を告げた。
●死闘
闇色の鋼の暴風。
一言で形容するならそのような感じだった。己の魂の闇を解放した冬崖は、それほどの猛威だった。金田戦を数段上回る速さで、厳しさで、7人の灼滅者たちの体力が磨り減らされていく。
「くぅ。……連戦とかキツイぜ、マジで」
太一が笑う。全身に傷を負い、なお普段と変わらぬ風に。
「だが、約束したもんな! 帰ろうぜ!」
己の影を伸ばして捕縛を試みるが、巨体とは思えぬ俊敏な動きに振りほどかれる。
「聞こえるか、巨勢くん! 自分を取り戻せ、ダークネスに負けるな!」
バベルブレイカー『サンザシの境界杭』を打ち込みながら力生が呼びかけるがほぼ反応はない。
「『ラグビー』……でしょ?」
すでに数度の攻撃を受け、治癒も間に合わず瀕死に近い状態の、しかし表情の変わらぬ柚來が呼びかける。
「好き、なんだ、ラグビー。……憶えてる、でしょ?」
「それ」の動きが一瞬、止まった。振り向いた。
「……頭痛がする」
鴇臣に爪を振り下ろしかけていた巨体が一瞬で反転した。
「口にするな! 二度と、その言葉を!」
避ける間すら無かった。凄絶な横薙ぎの斬撃に細い身体が吹き飛ぶ。10m以上も転がったあと懸命に立ち上がろうとして果たせず、柚來は砂浜に倒れ込む。
「おい」
「ああ」
鴇臣とジグバールは互いに目を見交わした。
キーワードはやはり効いている。冬崖の心に届いている。だが、ある種トラウマ的に響くらしい言葉は、同時にそれを発した者への集中攻撃を誘発しかねない。
「構わねーって。一人でも残りゃこっちの勝ちだ」
太一の表情にためらいは無かった。
「ラグビー! はは、ラグビー、好きなんだろ? 忘れんなよ!」
「がぁ!」
魔人の咆哮、そして跳躍。その背にジグバールの、鴇臣の、力生の攻撃が次々に命中するが、動きは止まらない。
「ラグビー! って!」
ハンマーの殴打、爪の斬撃。最初のは止めたが、次のはかわせなかった。まともにくらった首筋から血を吹き出しつつ、太一が崩れ落ちる。その影から躍るように舞い上がったサイキックソードが巨体に次々に突き刺さった。剣と共に言葉を飛ばしたのは戒。
「あんたにも守るべきものがあるだろ、主将! 俺にもある! 仲間のために、仲間と一緒に闘うのがラグビーだろ!」
「それ」の顔の歪みがさらに深まる。
「俺に、頭痛を」
凶眼が向き直る。
「起こさせるなぁっっ!!」
突き刺さったまま肉をえぐるソード、さらにはすれちがいざまの鴇臣の強烈な槍の一閃すらものともせずに魔人が突進する。爪の一撃に続き、もはや注射器とも呼べぬ鉤爪めいた針を首筋に打ち込まれ、戒はたまらず倒れ伏した。
すでに3人が倒れ、残るは4人。だが敵も満身創痍だ。
「そう、人から生まれたものに人が負ける道理はない! 己の魂を取り戻せ、巨勢・冬崖!」
兼弘が吠え、唸る鋼糸が「それ」の腕に絡まる。
「はっ!」
力生が合わせた。脇腹を正確にえぐった強烈な拳は必殺ともいえる見事さだったが、なおも魔人は動きを止めなかった。兼弘が同時に前に出る。互いに手が出ぬままに距離が詰まる。兼弘が呟いた。
「……ワンインチだ」
密着から軽く相手の腹に拳を添えた、ビームの零距離射撃。溢れた白光が一瞬、周囲を覆い隠す。それが消えたとき、兼弘はすでに立っていなかった。ハンマーの柄が彼の脳天を直撃していた。
だがその一瞬が勝負を決めた。隙とも言えぬその隙に、ジグバールが背後から迫っていた。
「本来は俺が堕ちるつもりだった」
呟きと共にバベルブレイカーが唸りを上げる。
「過ちは自分の手で償う。目を覚ませ!」
神速の反射で振り返った「それ」の心臓の上に、回転する杭が突き刺さる。
「おおおっ!」
「ああっ!」
二つの絶叫が木霊して。
凶念が消え、静寂が戻った。
●執念の先
すでに立っている者は一人もいなかった。まだ動ける者も砂浜に腰を下ろし、荒い息を吐いていた。
「終わったな。気分はどうだ?」
大の字になったままの冬崖の脇に座り、力生は問いかけた。
「大丈夫……だな?」
ジグバールも気遣わしげに問う。冬崖は視線だけを二人に向けると、呟くように言った。
「ああ。元通り最悪だ。……しかし、わかったこともある。執念とか妄念ってのは、どこまでいっても己一人のもんだ。今日はその強さを実感したが……さらにその先ってやつも、見えた気がする」
倒れたまま複雑な笑みを浮かべる。
「迷惑をかけた。だがみんな、ありがとう」
「気にする必要はないぜ」
竜神丸と支え合うように身体を起こしながら、戒が笑った。
「うむ、一つ歯車が違えば他の誰かがそうなっていた」
破れ、血まみれのヒーロースーツという壮絶な姿で兼弘が頷く。
「今回は冬崖だった。……それだけ」
横たわったままの柚來の眼は、次第に青みを増していく空を眺めていた。
「まあ、ともあれ一件落着だ」
少々おどけた風に鴇臣が言い、全身の痛みに堪えつつ立ち上がった太一が明るく声を張り上げた。
「さあ、帰ろうぜ!」
……その朝、一つの執念が闇に堕ち、一つが解放された。
己の信ずる道を全うした8人と1人はそれぞれの闘いを終え、そして今日も普段と同じ日々が始まる。
作者:九連夜 |
重傷:三兎・柚來(無垢な記憶の探求者・d00716) 相良・太一(再戦の誓い・d01936) 長沼・兼弘(キャプテンジンギス・d04811) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2014年6月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|