素敵なロードローラー

    作者:奏蛍

    ●目的は舗装!
     でこぼこした道を走る灰色のロードローラーがいる。軽快な鼻歌を響かせながら、それはもう綺麗に道を舗装していく。
     こんな田舎の道路を整備したって、正直利用者は少ない。少ないが、それはもう一心不乱に丁寧に舗装されていく。
     確かに利用者が少なかろうと、利用者にとってはでこぼこしているより綺麗な方が歩きやすい。お年寄りにも非常に優しい計らいだ。
     どんな素敵な人がこんな慈善活動をと思うところである。しかし、ロードローラーには操縦者がいない。
     街灯に映し出されたロードローラーには、顔がついている。そう、慈善活動しているのは人でなく、ダークネスなのだ!
     舗装する意図は全くわからないが、その表情を見るにダークネスだってたまにはいいことするんだよとでも言いたそうだ。それほどに達成感を感じている。
     そう、余は満足じゃとでも言い出しそうな勢いだ。舗装を止める者は誰もいない。
     夜な夜なロードローラーは舗装を続けるのだった。
     
    ●灰色ロードローラー
    「どういうことなのか、私も混乱しているんだ!」
     少し困ったように首を傾げた須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が言葉を探している。ダークネスの持つバベルの鎖の力による予知をかいくぐるには、彼女たちエクスブレインの未来予測が必要になる。
    「???(トリプルクエスチョン)が動いたみたいなんだけど……」
     謎に包まれた六六六人衆???によって外法院ウツロギが闇堕ちし、クリスマス破壊男のものだった序列二八八位に埋まったのだ。その名もロードローラー。
     得意な才能で分裂できるロードローラーなのだが……。今回は事件と言うより世のため人のためな雰囲気が漂っている。
     そのため意図が測れず、まりんも戸惑っているようだ。何とでこぼこの道を綺麗に舗装してくれてしまっているのだ。
     しかしいくら良いことをしてくれてしまっているロードローラーであっても、ダークネスはダークネス。皆には現地に赴き、灰色のロードローラーを灼滅してもらいたい。
    「ロードローラーが気持ちよく舗装している道はここだよ」
     地図で見る限り、静かな田舎といった感じだろう。しかし全く人が住んでいないということではない。
     対策が可能であれば、一般人を巻き込まない配慮をお願いしたい。道幅はロードローラー三台分くらいとなっている。
     まりんが言う様に、気持ちよく舗装しているところなので、邪魔されない限りは戦闘意欲はなさそうだ。しかし舗装の邪魔をされたが最後、排除しようと襲って来る。
     何を邪魔と感じるかはロードローラー次第ということで、不確定要素となっている。しかしもしも一般の方が注意することがあれば……と考えると恐ろしくなるので、しっかり灼滅をお願いしたい。
     ロードローラーは殺人鬼のサイキックとロケットハンマーに類似したサイキックを使ってくる。
    「他の色のロードローラーとはちょっと違うみたい」
     しかし詳しいことはわからないと、まりんがしょんぼりする。しかし戦闘力は高い。
    「絶対無事に帰ってきてね!」


    参加者
    獅子堂・永遠(ブレイラビイド・d01595)
    由井・京夜(道化の笑顔・d01650)
    無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858)
    蜂・敬厳(エンジェルフレア・d03965)
    ピアット・ベルティン(リトルバヨネット・d04427)
    龍田・薫(風の祝子・d08400)
    レイン・ティエラ(氷雪の華・d10887)
    高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)

    ■リプレイ

    ●やはり慈善事業?
    「何やってるんだか」
     遠目にロードローラーを発見したレイン・ティエラ(氷雪の華・d10887)が呆れ顔で呟いた。
    「いや、まあ、ロードローラーとしては正しいんだけどね?」
     そう、ロードローラーは道を舗装するのがお仕事なのだ。しかしそれがあったとしても、何やってんだかの状態と言える。
     嬉しそうな鼻声は離れた灼滅者たちの耳にも聞こえてきている。
    「……何でこんな事になっちゃってるんだろうね」
     何とも言えないレインの気持ちに共感出来てしまう由井・京夜(道化の笑顔・d01650)が苦笑する。ウツロギとは一回依頼を一緒したことがある。
     しかし闇堕ちしてしまい、さらには分裂してしまった以上、灼滅しなければいけないのはわかっている。わかっているのだが、すごく爽やかな笑顔で鼻歌交じりで全力で良いことしている感に困惑する。
     本当に何でこんな事に……。とりあえず、真面目にやるしかないとさらに苦笑が漏れるのだった。
    「相変わらず何がしたいのかさっぱりわからない相手なの」
     しゅんと叱られた子犬の様に頭を下げたピアット・ベルティン(リトルバヨネット・d04427)が呟く。どこか人懐こい子犬の様で、構いたくてたまらなくなってしまう。
     しかし本人は犬より猫派なのである。
    「道路を舗装して歩きやすくしてくれるのは凄く助かるけど……」
     こうやって遠目にロードローラーを観察する限り、本当に嬉しそうに舗装を続けている。
    「確かに道を平らにしてくれるのは、とても素晴らしいですね!」
     ピアットの言葉にうんうんと頷き、快活な声を出したのは蜂・敬厳(エンジェルフレア・d03965)だった。
    「ホントにステキなロードローラーさんですよねー!」
     ぐっと拳を握り感動する様な仕草を見せた高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)が瞳を輝かせる。バイク乗りとしては道路の舗装はものすごくありがたいのだ。
     さらに地元のお年寄りにも非常にためになる。むしろお礼を言いに来た! くらいの勢いの麦だ。
     良いことをして満足そうにしているロードローラーをもう少し見守っていたい麦ではあるが、そうも言ってはいられないのだ。
    「ダークネスだからしょーがないっスね!」
     スパッと完結した麦の表情も、ロードローラーに負けず劣らず爽やかだ。
    「そうです。手加減はしませんよ!」
     よくわかっていらっしゃると言う様に、再び敬厳がうんうんと頷く。
     見る限りでは良いことをしている様に龍田・薫(風の祝子・d08400)には見える。麦が言うとおり、お年寄りは非常に助かるだろう。
     しかし巡り巡って大変なことになってしまっても困るので、やはり倒せるものは倒しておくしかない。
    「行きますの」
     青いうさうさ耳を揺らして獅子堂・永遠(ブレイラビイド・d01595)が一歩を踏み出すのと同時に、トランプのスペードを胸元に具現化させる。そして魂を一時的に闇堕ちへと傾け、生命力と攻撃力を高める。
     さらに見た目を十八歳に変えた永遠がロードローラーに向かっていく。
    「さ、行こうかギン」
     霊犬のギンに声をかけるのと同時に、レインが音もなく走り出した。それに合わせて無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858)が身体から殺気を放つことで一般人を遠ざけるのだった。

    ●綺麗な道
     うちの田舎にも来て欲しいかも。それが舗装された道を駆けた薫が思ったことだった。
     非常に綺麗に舗装されているのだ。あの山道を均してもらったら……そんな夢を見てしまった薫の表情が一変する。
     間近で見たロードローラーは何だかちょっと……。
    「やっぱ、なんかイヤかな」
     六六六人衆と言うより、何だかご当地怪人みたいなのだ。気持ち的な意味で。
    「―歩法、天女」
     後ろから迫った薫が無駄なく疾り、上機嫌で舗装を続けるロードローラーの顔面に踵をたたき込んだ。その間に前に回り込んだ理央が、利き腕ではない方の拳に障壁を纏わせてまっすぐ打つ。
     しかし硬い。ロードローラーだからと言われたらそれまでなのだが、決まった! と言う手応えが感じられないのだ。
    「蒼穹を舞え、軍蜂!」
     力を解放するのと同時に、敬厳の影が走り出す。舗装を続け前に進むロードローラーに触手となった影が絡みつき、動きを止めようとする。
     動きを止められた瞬間、死角からレインが飛び出す。
    「やあ。こんばんはウツロギさん」
     声と同時に斬り裂いたレインがその硬さに微かに眉を寄せる。手に伝わってきた振動が、重く感じるのだった。
     すぐに間合いを取るように離れたレインは改めてロードローラーを見る。
    「……今はなんて呼べばいいんだろうね?」
     レインが問いかける目の前で、敬厳の影を引きちぎるように前に飛び出したロードローラーが動きを止めた。慈善事業をしている所を奇襲したわけなのだが、そのことで少し気が引けてしまうピアットだった。
     しかし手加減することはしない。
    「先手必勝なの。どかーんとやっちゃうの!」
     ロードローラーに攻撃される前にと、ピアットが地面を蹴る。ふわりと身軽に跳躍して、容赦なく捻りを加えた一撃を穿つ。
     キーンと言う金属がぶつかるような音が響く。これでは拉致があかないと、さらにピアットが力を込めた。
     同時に京夜と麦がロードローラーに迫る。二つの異形巨大化した片腕が、左右を挟み込むように振り下ろされた。
     普通なら力が殴られた反対側から抜けていくわけなのだが、左右からきた力は真ん中でぶつかりロードローラーに大きなダメージを与える。
    「舗装ごくろーさまでーっす!」
     元気よく声をかけた麦がすぐにロードローラーから離れる。そして爽やかな笑顔を向ける。
    「地元の人たちも大喜びですよきっと!」
     出来たての道路きもちいーっ! とさらに声を上げる。攻撃されて、間違いなく邪魔者判定したはずのロードローラーだが純粋に褒められると悪い気がしないらしい。
    「だよね☆」
     キラっと輝くような笑顔を浮かべる。
    「……ところで何で舗装してるの?」
     上機嫌に返事を返してくれたところで、レインが思っていた疑問を口にした。
    「それがロードローラーの仕事だからだよ!」
     バーンと言う効果音が入りそうな勢いで返答した後、むしろ何でそんなわかったこと聞くの!? と言う表情を見せるロードローラーに、レインはまたもや呆れ顔をする羽目になるのだった。
     その瞬間、ものすごい音が響き渡る。超弩級の一撃を永遠がお見舞いしたのだった。
    「邪魔者は排除だね♪」
     いくら褒められようと、邪魔者は邪魔者。ロケット噴射を伴ったような強烈な勢いで、ロードローラーが理央に迫るのだった。

    ●のらりくらり
     信じられないスピードと勢いで迫ったロードローラーに避けられないことを悟った理央が身構える。少しでも衝撃を減らそうと言う考えだ。
     強烈な殴りつけというか体当たりをくらった理央の体が後方に吹き飛ばされる。
    「任せるのじゃ」
     さっと小光輪を分裂させた敬厳が理央を回復させると共に、盾とすべく放つ。お礼を言いながら、痛みを飛ばすように軽く頭を振った理央がすぐに駆け出す。
     さすが六六六人衆と言うべきか、一撃の威力の大きさを身をもって知った理央が強く拳を握った。長期戦になる前に壊す。
     超硬度に鍛え上げられた理央の拳が、ロードローラーをへこませていく。さらにオーラを拳に集束させた京夜もロードローラーに迫る。
    「何でこんな誰も使いそうに無い道を舗装してるのかな、意味無いんじゃない?」
     殴りつけながら、気を引くように京夜が声をかけた。大きく硬い分、攻撃はなかなか入らない。しかし小回りが効かない分、連続で繰り出される拳を避けるのは困難なようだ。
    「そこにでこぼこの道があるから!」
     良い笑顔で答えたロードローラーに麦が感動の声を上げた。歴史上の偉いひとも、大きいことを成す人も、みんな道路の整備に力を入れると言う。
     それだけ道路整備が大切だと言うことだろう。
    「ロードローラーさんてば大物ーっ!」
     さすがですという様に声を出してみてから、麦の動きが止まる。そもそも何で道路整備に力を入れるのか……。
     物資の運搬とか、軍隊を動かすためだっけ? と首を傾げてから瞳を見開く。
     道路がよくなる事で物流も良くなって、もしかするとなんやかんやでガイアパワーが高まって……いずれは世界征服!?
    「……って、ソレは怪人の目的かー!」
     勘違い勘違いと麦が笑う。薫もそうだが、なぜか怪人と一瞬勘違いされてしまうロードローラーなのだった。
    「そういやロードローラーって合体したりとかする?」
     再び死角から斬り込んだレインが四色のロードローラーを思い出して呟いた。
    「合体とか燃えるよねー♪」
     合体するかしないかの答えには全くなっていないが、想像するロードローラーは悦に入っている。そしてそのままぶわっとどす黒い殺気がロードローラーを包み込む。
     そして無尽蔵に一気に放出された。まさに暗闇が前にいた灼滅者たちを覆い尽くす。
    「ギン!」
     レインの声に瞬時に反応したギンが回復に走る。一緒にしっぺも駆け出した。
    「しっかりするのじゃ」
     敬厳もまた、闇に覆われた仲間を回復させるべく小光輪を向かわせる。
    「今日は美味しい餃子は出ないのか?」
     自らを回復させるために、再びスペードを胸元に具現化させた永遠が呟く。
    「餃子はないよね」
     それに至極真面目に答えてくれたロードローラーに氷のつららが突き刺さる。
    「舗装って楽しいのかなぁ」
     良い笑顔で舗装していたのが気になって、つららを向かわせながらピアットが質問してみる。尋ねる声も首を傾げたところもまさに子犬らしくて愛らしいのだが、攻撃は全く愛らしくない。
     凄まじい音を立てて、ロードローラーに穴を空けていく。
    「ロードローラーの仕事だからね☆」
     答えになっているのかいないのか、またもやいい笑顔で返してくる。そんないい笑顔の横を薫が放った魔法弾が貫いていくのだった。

    ●塵と夜空
    「素敵なパーティーありがと。でもそろそろ終わりにしようか」
     レインが倶楽部でパーティーと言っていたウツロギのことを思って口にした。殺人鬼であるレインにとっては、本体にしか興味はないのだ。
     分裂したロードローラーでは意味がない。
    「ご退場願おうか」
     さっさと連れ戻さないと面倒だしねと呟いて、弓を構える。すっと音もなく放たれた矢は、彗星の様な強力な威力を秘めてロードローラーに向かっていく。
    「俺も行くっすよ」
     拳にオーラを集束させながら、麦が一気にロードローラーとの間合いを詰めていく。レインの矢に貫かれたロードローラーが奇妙な声を上げるのと同時に、麦の拳が何度も叩きつけられる。
    「しっぺ、合わせるよ!」
     ここが畳み掛けるときと、薫が魔法弾を放つのと同時にしっぺも攻撃にかかる。息をつく暇もない連携から逃れようとロードローラーが動きを見せた。
     しかし走り出していた敬厳の影が一気にロードローラーを絡めとった。
    「道を平らにして、どこに行きたかったんじゃ?」
     もうどこにも行かせる気はないけれどと言う様に、敬厳の影がきつく締め付けていく。音もなく闇夜に舞った京夜のくせっ毛が微かな風に揺れた瞬間、異形巨大化した片腕が真上から叩き潰すように振り下ろされた。
     同時に下からピアットが影の刃で貫いた。嫌な騒音を立ててロードローラが半分に割れる。
    「こっちは任せて」
     割れた片方に理央が拳を突き出す。
    「では私はこっちだな」
     構えた永遠が、無敵の振り下ろしで残りの半分を斬り裂く。
    「ロイヤルストレートフラッシュ」
     言葉と同時に破壊されたロードローラーは粉々に砕け塵となって舗装された道路を流れていく。
    「所詮は量産型か……面白くない」
     呟いた永遠が青い髪を揺らす。その横で舗装された道を見ていた京夜が微かに首を傾げた。
    「彼がどこら辺から舗装していたのかっての調べられないかな?」
     始まりの場所が分かれば、何かしら意図が掴めないものかと思ったのだ。ロードローラーの謎は深まるばかりだった。
    「舗装、治せるかなぁ……」
     戦いによって舗装されたばかりだった道が少し荒れてしまったのを見てピアットが呟く。
    「可能な限り片しましょう」
     そんなピアットに口調が元に戻った敬厳が大丈夫と言う様に頷いてみせる。戦いになると武士となる敬厳なのだ。
     目の前には舗装されていない道。そして後ろは舗装された道。
     これからロードローラーが何を起こそうとしているのかはわからない。しかし目の前にいた灰色のロードローラーは灼滅者たちのおかげで倒された。
    「猟奇の部長さんは何をやっているのやら……」
     微かにため息をついて、レインが空を見上げるのだった。

    作者:奏蛍 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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