深夜。静まり返った工業団地内の道路を疾走する、ひとつの人影があった。
あどけない少女だった。歳の頃は10を過ぎるかどうか。フリルのワンピースを着て、小さなポシェットをななめ掛けにした姿は、その場にひどく不釣り合いに見える。
「さぁて……このへんでいいかなっ!?」
大型車も楽に曲がれるほどの広い交差点で立ち止まると、少女は背後から迫り来る巨大な影へと振り返った。
「はぁ~い、楽しい楽しい押し潰し(プレス)のお時間だよっ☆」
地響きと共に姿を現したのは、六六六人衆の序列二八八位『ロードローラー』。
「どうしてケナゲのことを追いかけてるのかは知らないけど、お兄さん、とぉっても強いんでしょ? 顔だけしか見えなくてもわかるよっ」
ポシェットから取り出した可愛らしいピコピコハンマーを構え、ケナゲ――かつて武蔵坂学園の灼滅者達と戦ったアンブレイカブルの少女は、楽しそうに笑った。
「……だから、久しぶりに本気で戦えそうっ!!」
ピコピコハンマーを振りかぶり、ケナゲはロードローラーへと跳びかかる。
――到底、敵う相手ではないと感じ取っていても、戦いを避けることは不可能だった。
アンブレイカブルとして、ケナゲはそういう生き方しか出来ないのだ。
●
灼滅者達が揃ったことを確認し、神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は硬い面持ちで口を開いた。
「既に知っている者も多いと思うが、謎に包まれた六六六人衆『???』が武蔵坂学園の灼滅者『外法院ウツロギ(毒電波発信源・d01207)』を闇堕ちさせ、分裂という稀有な能力を持つ六六六人衆へと仕立て上げた事件が起こった」
序列二八八位『ロードローラー』。
『クリスマス爆破男』の灼滅後、空席となっていた序列に収まった六六六人衆である。
「ロードローラーは分裂により日本各地に散り、次々に事件を起こそうとしている。今回予測されたのは、以前にも遭遇報告のあるアンブレイカブルの少女『ケナゲ』がロードローラーに襲われ、倒される事件だ」
ロードローラーは倒したダークネスのサイキックエナジーを利用し、更なる分裂体を生み出す力を持つ。
「だから、お前達にはロードローラーより先回りして、ケナゲを灼滅してもらいたい。ただでさえそこら中でロードローラーの出現が予測されているのに、これ以上増えたら厄介だからな」
ため息混じりでそう口にして、ヤマトは事件の説明を始めた。
事件が起こるのは、深夜の工業団地内に走る道路。人も車も通ることはない。
ケナゲは広々とした交差点で、追ってくるロードローラーを待ち受けている。
「ロードローラーは強力なダークネスだからな。アンブレイカブルのケナゲは、戦いたくて仕方ないらしい。……たとえ、敵うことのない相手だと気付いていても」
難儀な生き方だよな、とヤマトは肩を竦めて。
「ケナゲが交差点に到着してから、ロードローラーの到着までに10分の猶予がある。短い時間ではあるが、その間にケナゲを灼滅、撤退してくれ」
10分以内に灼滅できなかった場合、ロードローラーの到着により、灼滅者は挟み撃ちに遭う。
その場合、攻撃対象をロードローラーへ移すことも可能だが、ケナゲには逃げられてしまうだろう。加えて、この状況でロードローラーを灼滅するのはほぼ不可能。10分経過後は、ケナゲを倒せていなくても撤退する方がよさそうだ。
ケナゲはストリートファイターと同じサイキックに加え、ピコピコハンマーを用いたロケットスマッシュ、大震撃を使用する。
「ケナゲは以前『自分が子供だから相手は本気で戦わない』と憤り、お前達へ襲い掛かった。けれど、今回は『ロードローラー戦に備えての準備体操』程度の感覚でお前達と戦おうとするだろう」
つまり、侮られることに憤っていたケナゲが、今回は灼滅者達を無意識のうちに侮っているということだ。
「だが、お前達は以前よりもずっと強くなった。全力で戦って、こちらを侮ったことを後悔させてやれ!」
参加者 | |
---|---|
橘・蒼朱(アンバランス・d02079) |
日野森・沙希(劫火の巫女・d03306) |
ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954) |
弥堂・誘薙(万緑の芽・d04630) |
清浄院・謳歌(アストライア・d07892) |
雛本・裕介(早熟の雛・d12706) |
禍薙・鋼矢(剛壁・d17266) |
牛野・たん(自由牛・d19433) |
●
深夜、静まり返った工業団地の広い交差点へと走ってくる小さな人影。
場に不似合いなほど可愛らしいその姿は、予測されたアンブレイカブルの少女、ケナゲ。
『……あれ、こっちにも?』
待ち受ける灼滅者達の姿を認め、ケナゲはちょこんと首を傾げた。
『困ったなぁ。ケナゲ、今すごぉく忙しいのに。でもまあ、準備運動にはいいかなっ?』
ポシェットからピコピコハンマーを取り出したケナゲ目掛け、問答無用と接近するのは雛本・裕介(早熟の雛・d12706)。
(「準備運動と高を括るならば、その身を以って思い知らせる迄」)
ダークネス殺すべし――殺意に膨れ上がったその巨体が、エアシューズにより軽々と地を駆けた。繰り出されるグラインドファイアが激しい摩擦熱を生み出す。
「行くよ、五樹」
ほぼ同時に、弥堂・誘薙(万緑の芽・d04630)も傍らの霊犬と視線を交わし、共にケナゲへと飛び込んだ。
敵を牽制する斬魔刀の一撃の後、流れるような激しい蹴りが更なる炎を燃え上がらせる。
「僕たちと戦って、体を温めてみてはどうですか?」
問いかけながら片手でタイマーを起動。以後、戦闘時間の管理は誘薙の大事な役割となる。ケナゲと戦えるのはわずか10分。それを過ぎれば、彼女を追う『ロードローラー』が到着し、灼滅者達の圧倒的不利へと陥るためだ。
「自称、宇宙一の歌手を目指す男、ファルケ・リフライヤだ!」
ケナゲの前に立ち塞がると、ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)は親指で自らを指し示し。
「戦いよりも俺の歌を聞けっ!」
勢いのままに歌いながら、軽々とした動作で跳び蹴りを放つ。狙いは敵の足止めだ。
『んー、なんか不思議な歌だねっ』
動作の軽さとは裏腹に重い蹴りを受け止め、ケナゲは不思議そうに首を傾げた。ファルケの音痴を、逆に『そういう歌』だと認識したらしい。
「あんな重機が相手なのに、楽しそうに立ち向かおうとするなんて、ちっこくてもアンブレイカブルの端くれって訳だな」
ケナゲの動きが僅かに鈍ったことを見逃さず、禍薙・鋼矢(剛壁・d17266)も続けざまにスターゲイザー。一撃でも多く攻撃を当てるべく、敵へ足止めを重ねていく。
「お前から見りゃ半端もんの存在だが、少しは楽めると思うぜ?」
「まぁ、存分に侮っていてね。返り討ちにしてやるからさ」
と、橘・蒼朱(アンバランス・d02079)は懐からスレイヤーカードを取り出し、一言。
「行こうか、相棒」
刹那、片腕にはバベルブレイカーが、傍らには無言で付き従うビハインドが現れる。
小柄なケナゲの体を、尖烈のドグマスパイクと霊撃が掠めた。気魄攻撃に強いアンブレイカブルとはいえ、足止めが重なれば回避も難しくなる。
『ふぅん。お兄さん達、自信満々ってやつだねっ』
頬に滲んだ血を拭い、ケナゲは笑った。その瞳に浮かぶのは好奇心と――期待。
『なら、試してみよっか?』
次の瞬間、凄まじい速度で振り下ろされたハンマーが大地を激しく揺らした。
すかさず防御行動へと移るディフェンダー達。庇い切れず負傷した仲間には鋼矢の霊犬、伏炎が回復に走る。
ケナゲが次撃へ移るよりも早く妖冷弾を放ったのは、清浄院・謳歌(アストライア・d07892)。
「させないよっ!」
吸い込まれるように命中した氷柱が、ケナゲのあちこちを凍らせる。
「わたし達のこと馬鹿にしたら、許さないんだから!」
柔和な顔立ちに厳しさを浮かべ、謳歌はきつく敵を見据えた。
「なんかよく分かんないですけど。ぷっぷくぷー」
生まれた隙を逃すことなく、牛野・たん(自由牛・d19433)がケナゲに肉薄。ゆるい言葉とは裏腹に鋭い眼光で、炎を纏った刃を振り抜く。
「本気で来るといいのです、がきんちょ。あなたと違って、たんは手を抜きませんよ」
『なっ……手なんか抜いてないもん! ほんとだよ! ほんとだってば!!』
焼肉レーヴァテインにしゅぼぼぼと燃えるケナゲの顔が、ぱっと赤く染まった。
恐らくは、怒りと――羞恥。かつて侮られることに憤ったケナゲが、今は灼滅者達を侮ったことについての。
自分より幼いたんに図星を突かれたことも、それに拍車を掛けているようだ。
『そっちこそ、本当にケナゲと本気で戦うつもりなのかなっ?』
「当然ですっ!」
ケナゲの繰り出した抗雷撃を、日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)も片腕を鬼神の如く変じて迎え撃つ。
「準備体操としか認識してないのであれば、その思い違いを後悔させてあげますですよっ!」
刹那、交錯する互いの拳。
沙希の傷口から零れた血が、夜の闇に微かな火を灯した。
●
制限時間内に撤退されないよう、灼滅者達は敵の包囲を心がけて戦っていた。謳歌の用意した照明器具が、それを助けるように足元を照らしている。
だが、ケナゲのハンマーは幾度となく地面を揺るがし、灼滅者達の動きを鈍らせて。
「五樹、合わせて回復するよ!」
誘薙はその都度、傍らの霊犬と息の合った様子で回復を行っていた。手にした断罪輪から法陣を展開させ、動きの鈍った仲間達を癒していく。
アンブレイカブルの一撃はやはり凄まじい。傷の深い者には浄霊眼を重ね、誘薙は冷静に戦況を確認する。
灼滅者達が採るは、攻撃を重視した作戦。ケナゲのダメージは確実に蓄積されているはずだが、未だ彼女に苦痛の色は見えない。むしろ、戦えば戦うほどその姿は生き生きと輝いていくようだ。
『ほらほら、いっくよー!』
小さな体ごと飛び込むように、雷を纏ったケナゲの拳が謳歌へと迫る。
「おっと、させるかよ!」
だが、素早く割り込んだ鋼矢がWOKシールドで謳歌を庇った。雷のオーラとエネルギー障壁がぶつかり合い、ばちばちと火花を散らす。
やがて、弾かれるように後方へ下がったのは――鋼矢。その顔には、はっきりと苦痛の色が見て取れて。
「伏炎! 頼んだ!」
自身の傷を集気法で回復しながら、鋼矢は霊犬へ斬魔刀での援護を命じた。状態異常を回復するケナゲの闘気が、一刀の下に切り裂かれる。
「今度はこっちから行くよっ!」
鋼矢の頭上を飛び越えて謳歌が繰り出すは、更なる足止めを重ねるスターゲイザー。
「どう? もう準備運動だなんて言わせないんだから!」
くるんと回って着地する謳歌。軽やかな軌跡が流れ星のように尾を引いて煌めく。
一方、ファルケは周囲の戦況をこまめに確認しながら、仲間達へ癒しの歌を届けていた。
攻撃重視の作戦において、消耗が激しくなるのは必然。結果、時には前衛も攻撃の手を休めて回復する必要が生まれる。
「歌声に乗せて、俺達の力を見せてやるっ」
回復が足りれば、口ずさむ歌はそのままに、ケナゲへご当地ダイナミック。ご当地パワーの大爆発が戦場を揺るがす。
「俺たちだって、日々強くなっているんだ!」
『すごい、すごいね! ケナゲと、本気で戦ってくれるんだねっ!』
「俺は見た目がどうとかで舐めたりしないよ。大人気なくても気にしない」
傷だらけになりながらはしゃぐケナゲへ、静かに告げる蒼朱。と、彼のビハインドがふわりとその前に進み出て霊障波を放つ。
「だから、舐めてかかったこと後悔させてやるよ。ここにはノウンも、霊犬もサーヴァント達もいるんだ」
と――刹那、蒼朱はビハインドの陰から刃を閃かせた。
「……こんなところから来るとは思わなかっただろう?」
急所を的確に抉る一撃に、たたらを踏むケナゲ。そこへ素早く迫るのは、たん。手にした解体ナイフをジグザグに振り回す。
――子供だから本気で戦ってくれない、と。
以前のケナゲはそんな不満を抱き、武蔵坂学園の灼滅者達と戦ったと聞いている。
「でも、それは貴方が弱いからなのです。たんは大人にも相手にされるのです」
たんは無表情でそう言い切って。
「やーいやーい、がきんちょー」
『むきーっ! あなたの方がずーっとケナゲよりちっちゃいくせに!』
振り回されたハンマーをすいーっと上体逸らしで避けるたん。見た目は完全に子供の喧嘩である。
そのとき、戦場に誘薙の声が響き渡った。
「皆さん、頑張ってください……!」
一見、何の変哲もないその言葉こそが、戦闘開始から5分経過を告げる合図。
(「急がないといけませんねっ」)
沙希は表情を引き締める。ケナゲを逃せば、ロードローラーに楽しい押し潰し(プレス)のお時間を与え、その数をまた増やしてしまうこととなる。
そう。増えるのだ。あれが。
それだけは何としても避けなければ、と。沙希は力いっぱい神楽鈴を振り下ろした。
流し込まれた魔力の爆発が、幾重にも足止めされたケナゲの体を大きく吹き飛ばす――!
その先には、拳を構える裕介の姿。
「儂は、戦で手を抜くようなことはせぬ」
オーラを拳に収束させ、裂帛の気合いと共に無数の連打を放つ。
「なれば、存分に喰らい……滅せよ!」
『負けないよっ!』
ケナゲもまた、対抗するように空中で姿勢を立て直す。
閃光の如き拳と鋼鉄の如き拳の競り合い。紙一重の攻防が、戦闘をより激しく燃え上がらせて。
あらかじめ気魄攻撃への対策を取っていたため、裕介が致命傷を負うことはない。
増えていくのは浅い傷。呼応するように、裕介の瞳に宿る殺意がより強く、より鮮烈に膨れ上がっていく。
対するケナゲも、その顔に浮かぶ笑みを深めていた。
戦うのが楽しくて楽しくて仕方ない、とばかりに――ひどく、幸せそうに。
●
夜空の下、激しい戦闘は徐々に灼滅者達の有利へと傾いていた。
元より予測されていた戦力差に加え、絶え間なく付与される足止めや炎がケナゲを苦しめているためだ。
だが、ケナゲに負けず劣らず、攻撃優先に動く灼滅者達の消耗も激しい。
『あははっ! すごいね、楽しいねっ!』
喜びのままに抗雷撃を繰り出すケナゲ。その一撃で、護りを務める蒼朱のビハインドがついに掻き消えた。
だが、蒼朱が反応するよりも早く、耳朶を打つのは誘薙の声。
「猛攻を仕掛けましょう!」
――残り時間、僅か2分。
事前の打ち合わせどおり、灼滅者達はそれぞれ総攻撃に移る。
誘薙は癒しの矢を放つ手を止め、霊犬と共にエアシューズで飛び出した。立て続けに繰り出されるスターゲイザーと斬魔刀を、ケナゲはしかし嬉々として受け止める。
だから、誘薙は思わず尋ねたのだ。
「死ぬかもしれないのに、どうしてそんなに楽しそうなのですか?」
今を逃れれば、これからも戦うことができる。それは、彼女にとっての喜びではないのか――と。
『ううん、それは違うよっ』
ふるふると首を振り、ケナゲはハンマーを振り上げた。
『1度でも戦うことから逃げれば、それでおしまいっ。だって、それは弱い人のすることでしょ?』
猛烈な勢いで振り下ろされたそれを、鋼矢はWOKシールドで逸らすように回避する。
仲間を護るようにワイドガードを展開した後、鋼矢もまた攻勢へ。傍らに付き従うは、傷だらけの霊犬。
「派手に燃えな、お嬢ちゃん!」
摩擦熱が炎を生み出し、斬魔刀が一閃――と、ケナゲの体勢が大きく崩れた。
すかさず、蒼朱のバベルブレイカーが激しい回転と共に杭を打ち込む。敵を見据え、静かに問うた。
「……だから、敵うはずのない相手とも戦うのか?」
『うんっ! ケナゲはそのためにここにいるんだよっ!』
戦いこそが存在理由。強敵との死合いこそが至上の喜び。
狂気すら垣間見える、アンブレイカブルの闘争本能。
ダークネスの気持ちなんて、沙希には理解できない。
けれど、こちらも最後まで付き合うまでだ――と。
「1人1人の力はあなたより弱くても、信頼できる仲間との絆こそが真のつよさなのですっ」
沙希は凛と言い放ち、鬼神の如き腕を振るった。
「きて、ルナルティン!」
謳歌は愛用の杖を出現させ、力いっぱい魔力を叩き込む。
「絶対に、最後に勝つのはわたし達なんだからっ!」
神秘能力に劣るケナゲにとって、それは致命の一撃。好機とばかりにファルケが続いて。
「燃え上がれ俺のソウル、刻み込め、魂のビートっ」
マテリアルロッドをマイクに見立て、くるくると回し、構える!
「堪能しな? これがサウンドフォースブレイクだぜっ」
「これぞ全力の死合い……図らずともお主の望み通りという訳じゃな」
ファルケに続いて裕介が振り抜くは黒鞘・鏨。重い一撃が、ケナゲの急所を抉るように炸裂する。
刃を返すが如く、もう一撃。確実に相手の弱点を突く。
やがて、小さな体が高々と打ち上げられるのを、裕介は鋭く見据えた。完全に動きが止まるまで、殺したと確信するまで決して気は抜くまい、と。
そして、次の瞬間――たんが軽々と飛び上がり、ケナゲへ不思議そうに尋ねた。
「理解しかねますのです。相手がほしいなら、なぜ1人でいるのか」
『……戦いは、勝つか負けるか。それだけ、だよ?』
残るのは勝者だけだ、と暗に示すケナゲの返答に、けれどたんは無表情のまま。
「……きめぇー」
風を踏み締めるように空中を跳び、炎を纏う蹴りでケナゲの体を地面へ叩き落とす。
小さなアンブレイカブルの少女が、再び立ち上がることはなかった。
●
『あー、楽しかったぁ』
地面へ大の字に横たわったケナゲは、夜空を仰ぎ、満面の笑みを浮かべて。
『……ありがとっ!』
最期にそう告げ、瞳を閉じた。その体が急速に消滅を始める。
「これで満足ですか…?」
やっぱり理解できない、と誘薙が呟く。だが、感慨に浸っている場合ではない。
ポケットの中のタイマーが最後の振動を伝える。
「時間です!!」
誘薙の言葉と共に急速接近するのは、重々しい地響き。ロードローラーがすぐそこまで迫っているのだ。
灼滅者達は即座に撤退を開始する。
「次こそは、お主とも拳を交えたいものじゃな」
と、裕介は顔だけを背後に向け、迫り来るロードローラーへ小さく独りごちる。
「とりあえず、急ごう」
「うんっ。戦略的撤退だよっ」
続くのは蒼朱と謳歌。無言で走る鋼矢の横には、霊犬の伏炎が付き従う。
たんは無表情のまま何かを考えている風に見えた。が、その真意は見て取れず。
「……きめぇー」
と、走りながら小さく呟く。
念のために、と殿を務めるのは沙希とファルケ。
「……外法院さんはいつか必ず学園に取り戻させていただきますですよ」
「俺の歌、必ず聞かせてやるからなっ」
灼滅者達が去って行く背後、やがて戦いはその残滓すら掻き消えて。
後に残ったものは、静まり返る夜の交差点だけだった。
作者:悠久 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年5月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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