リスと触れ合う癒しの庭へ

    作者:春風わかな

     窓から吹き込む5月の爽やかな風が頬を撫でる。
    「來未ちゃーん!」
     授業も終わり帰宅しようと教室を出た久椚・來未(中学生エクスブレイン・dn0054)の姿を見つけ、星咲・夢羽(小学生シャドウハンター・dn0134)が大きく手を振りながら駆け寄ってきた。名前を呼ばれ、來未は振り返って少女に小さく手を振る。
    「あのね、いっしょにお出かけしよう?」
    「どこ、へ?」
     唐突な誘いに來未は怪訝そうな顔で首を傾げた。そんな來未に夢羽は得意気に一枚のチラシを差し出す。
    「リスさんとあそぼうよ!」

     夢羽が來未を誘った場所は、都内にあるリス園。
     そこではフェンスに囲まれた広場の中で約200匹のタイワンリスが放し飼いにされているという。
     広場内にはリスたちが暮らす木々の他に手作りの巣箱や丸太を積み重ねて作られたオブジェに多数のロープが張り巡らされている。元々ツタの生い茂った森に住む彼らが綱渡りが得意。子供たちにもよく見えるようにあまり高くない位置に張られたロープをするすると器用に渡る様子を近くで見ることが出来るだろう。
     この広場にはタイワンリスの他に少数ではあるがシマリスも暮らしている。
     タイワンリスに比べて小さくすばしっこいシマリスは警戒心が強くなかなか会うことは出来ないが、運が良ければ出会うこともできるかもしれない。
     また、広場内にいるリスたちには彼らの好物であるヒマワリの種を直接あげることもできる。エサによってくる愛らしいリスたちの姿を間近で見れるのはこのリス園ならではといえる。ただし、手を噛まれないように餌をあげる時は広場の入り口で貸し出される手袋をつけることを忘れずに。
    「ほかにもね、うさぎさんやモルモットさんともあそべるの!」
     リスたちが遊ぶ広場を出ると、すぐ傍にウサギやモルモットを抱っこできる『ふれあい広場』もある。ここではだっこしたウサギたちを撫でてぬくもりを感じたり、餌のキャベツを直接あげることが出来るという。さらに、今の季節ならこの春に生まれた可愛いモルモットの赤ちゃんたちに会うこともできる。
    「リスも、ウサギも、みんな可愛い」
    「うん、ユメね、來未ちゃんぜったいすきだとおもうの!」
     チラシを真剣に読む來未を見て、夢羽は嬉しそうに笑顔で何度も頷いた。
     ぽかぽかと暖かい初夏の日差しに包まれ、リスたちと触れ合う午後はきっと日頃の疲れを癒してくれるだろう。
    「ユメ、みんなもさそってくるね!」
     ぱたぱたと廊下を走っていく夢羽を來未は静かに見送っていた。

    「……と、いうわけなの」
     夢羽は教室の仲間たちに向かって一緒にリス園へ行こうと改めて誘いかける。
    「來未ちゃん、おたんじょうびだから。みんなといっしょにお出かけしたらきっとたのしいとおもうんだ~」
     可愛い動物が好きな來未は絶対に喜ぶはずだと夢羽は周囲の皆に笑顔で告げるのだった。

     愛らしい動物たちと一緒に過ごす癒しの午後。
     こんな誕生日も、いいかもしれない――。


    ■リプレイ

    ●迎
     入り口の扉を開けるとそこはリスたちが住む癒しの楽園だった。
     大切な親友と過ごす久しぶりの休日に彩歌の心は弾む。
    「シマリスもいるらしいけど……見つかりますかね?」
    「大丈夫、彩歌ちゃんならきっと見つけられるわ」
     心なしかはしゃぐ彩歌の傍らで樹はぐるりと庭を見回した。
     ぐるりと高いフェンスに囲まれた箱庭は手作りの巣箱や丸太を組み合わせたアスレチックが設置され、ちょこまかとリスたちが縦横無尽に動き回る。
     ――こんな他愛もない会話も風景も全部大切なもの。
     帰ってきたという実感を胸に樹はぐっと初夏の空気を思い切り吸い込んだ。
    「こっちおいで……」
     ぱたぱたと尻尾を振って駆け寄るリスは羽衣と誘宵の視線を独り占め。
    「いっぱい食べていいよ~♪」
     両手で握った餌をパクリと頬張るリスにくすりと羽衣は笑みを漏らした。
    「可愛い。誘宵ちゃんを見てるみたい……」
    「え? ボクとリス似てるかな?」
     誘宵のにっこり笑顔は見ているだけで今日も羽衣の心をぱぁっと照らす。
    「ねぇ……リスたちに餌をあげてみない?」
     飛燕の提案に蒼妃はぱっと顔を輝かせ二つ返事で頷いた。
     掌をそっとリスたちの前に差し出せば餌を求めてひょぃっと飛び乗る。
    「ね、餌いっぱい載せたらもっといっぱいリスさん来るかなぁ」
    「ふふ……やってみようか」
     はしゃぐ蒼妃の掌に飛燕がそっと餌を載せ。
     リスに囲まれ顔を綻ばせる蒼妃を見つめ飛燕は満足そうに微笑んだ。
     小さな体にふさふさとした尻尾。
     ちょこまかと動くリスの姿は眺めているだけでも癒される。
    「可愛いです~」
     しゃがみ込んで餌をあげる亜梨子の背中を何かが走り抜けた。
     はっと肩を見ればそこにいたのは頬袋をぷくりと膨らませたリス。
     膨れた頬を気にも留めず『もっと!』とばかりに餌をねだる。
     そんなリスの仕草に雪音もめろめろ。
    (「可愛らしいですねぇ……」)
    「マイス! 今、リスが私の服で泥を拭いたぞ!」
    「それは……可愛いですね」
     声を弾ませはしゃぐ雪音ににこりとマイスも頷きシャッターを切った。
    「……」
     無言無表情で餌を差し出す紋次郎にリスたちがちょこまかと餌を求めてやってくる。
     ふさふさな尻尾をもふりたいのをぐっと堪え。
     紋次郎は目を細めてリスたちを優しく見守っていた。
     ――たんと食って、元気に長生きしろよ。
    「ヘルせんぱいのところリスさんいっぱい来てますねぇ」
     わぁっと声をあげる雛の視線の先ではヘルマイがリスたちに囲まれ大人気。
     おおおと美菜はニホンリスのもみじと一緒に羨望の眼差しで見つめる。
    「いいな、羨まし……!」
    「なんかコツは……って」
     奏詩の視線はヘルマイと対局の男に向けられた。
    「らぎ、すげぇ逃げられてンじゃねぇか!」
    「ちょっと、らぎってばなんか出してるえの?」
     怪訝そうな顔で壱は司(d12782)に問うが別に本人に自覚はない。
     ただ司が手を差し出すだけでリスたちが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
    「あれぇ? 僕、なんか餌を見せるだけで寄ってきちゃったよ」
    「そ、そう……いや、ナイスアイディアです、ヘル君!」
     ヘルマイのアドバイスにウキウキと餌を差し出す司だったが。
    「あー……あっさり餌だけ取られたね……」
     ご愁傷様と奏詩と壱が司の背中をポンと叩いた。
    「司おにーさん、もみじ撫でていいですよ!」
    「ひいの分のひまわりの種、あげます?」
     少女たちの気遣いだけを有難く受け取り、司は隅っこでリスを眺めることにする。
     カシカシ餌を食べるリスの姿は見てるだけで癒されるけど。
    「ち、ちょっとだけ……!」
     ふわふわ尻尾をそっともふればさらにほっこり癒された。

    ●喜
    「こっちだよ、おいで~♪」
     リスを呼ぼうと百花は懸命にエアンの肩の傍で餌を振る。
     するりとエアンの肩へ登ってきたコを見て2人はにこりとと視線を交わした。
     懸命に餌を頬張るリスは嬉しそうに夢中でケーキを食べる彼女みたいで。
     無意識のうちにエアンの頬は緩む。
    (「ベストショット……♪」)
     微笑みを浮かべ餌を差し出すエアンに百花はカメラを向けた。
     笑顔の理由はわからないけど、幸せな時間に頬が緩む。
     気が付けば足元に群がる沢山のリス。
    「……もしかして、ごはん欲しいの?」
     狭霧の言葉にチロルはぱぁっと顔を輝かせてリスたちにヒマワリの種を差し出した。
    「ま、待って待って、順番こ、ダヨう……!」
     リスに囲まれ楽しそうなチロルの笑顔に狭霧の口元にも笑みが浮かぶ。
    「……チロルちゃんってリスに似てるかも」
    「えっ、そう、カナ?」
     へへーと嬉しそうに微笑む少女の頭を狭霧はそっと撫でた。
    「葉くん……なんでわたしの手袋にばかりヒマワリの種置くの?」
     訝しがる千波耶には答えず。
     葉はひょいひょいっと彼女の手袋の上に餌を並べ続ける。
     はっと千波耶が気付いた時には餌を求めるリスたちに取り囲まれ。
    「ちょっと! もう、葉くん!」
    「やっべー、その膨れっ面、リスそっくり」
     笑いすぎと膨れる千波耶を横目にけらけらと楽しそうに葉は声をあげて笑うのだった。
    「どう? 美味しい?」
     しゃがんで両手を差し出すイヅナ。餌を握り締め嬉しそうに鳴き声をあげるリスを見つめる姿をイヅルはパシャっと写真に収めた。
    「せっかくだからイヅルも餌あげなよ」
     カメラと餌を交換し今度はイヅナがカメラを向ける、が――。
    「あれ? リスさんいない……」
    「イヅナ、撮るのが遅いんだよ」
     ベストショット目指して頑張れ、とイヅルは妹の背をポンと叩く。
     巣箱の上に立ったリスがぎゅっと掴んだヒマワリの種をポイっと口へ放り込んだ。頬を膨らませてもちゃもちゃと餌を食べるリスの姿に誘薙の口元も緩む。
     ご飯に満足したリスの尻尾をそっと撫でると見た目通りふわふわな感触。
    「いいなー、誘薙くん。ユメもしっぽさわる!」
     真似をして尻尾を撫でる夢羽と遊ぶリスの姿を携帯に収め。
    「これは、五樹へのお土産にしよう」
    「五樹、きっとよろこぶね!」
     彼の反応が楽しみだねとにっこり笑顔で頷いた。
     リスさんかわいいかわいい傍に来てくれたらいや来なくても見てるだけでもかわいいからいいのでもやっぱりひまわりの種あげたいっすぷっくりほっぺをツンツンしたいっすちょっと触らせてくれるっすかまじでああ幸せリスさん最高バンザイ!
    「うーん、あれは完全にトリップしてるねー」
     リスとの戯れを満喫する善四郎を陰からこっそりと見つめる【駅番】の友人たち。
    「いやぁ、遠目からでもめちゃくちゃはしゃいでるのがわかるなー」
     今までで一番イキイキしてるよね、と蓮次が見守る横で夏蓮もこくこくと頷く。
    「あんなに幸せそうな顔してる……」
    「だよなぁ、お母さん、リス好きだもんなー」
     しみじみ呟く熾。当の善四郎は念願叶ってリスを膝の上に乗せてほっぺを突き全力で愛でていた。
    「……お母さんはリスと遊んでいると本当、幸せそうね……あら?」
     しみじみと呟く舞依の視線の先でリスにデレていた善四郎がゆっくりと立ち上がりこちらへやってくる。ようやく友人たちに気が付いたらしい。
    「写真……いや、ムービー撮って欲しいっす!」
     二つ返事で撮影を引き受けた仲間を代表して熾が動画を撮る。
    「本当にリスが好きなんだな……善四郎」
    「だよねー……って、あれ? ドラゴン?」
     龍暁の声はすれど姿は見えず。首を傾げる蓮次の奥では相変わらず善四郎が幸せオーラを振りまいていたのだった。

    ●触
     動物を求めふれあい広場へ来た龍暁はモルモットを抱え全力でもふっていた。
     餌を差し出せば次々とモルモットがやってくる。
     誘われるがままに集まるモルモットに埋もれ龍暁は幸せだった。
    「モルモル可愛いー♪」
     差し出したキャベツをパクパク食べるモルモットの姿にはしゃぐ桃。
     おちょぼ口のモルモットの口元をツンと突き微かに微笑む時兎を写真におさめたくて。
     桃は無言でスマホを向けるがさっと時兎は身をかわす。
    「こーら、モモ?」
    「えっと……た、食べル?」
     咄嗟にキャベツを差し出す桃のレンズをすっと塞ぎ、時兎は飛び切りの笑顔を向けた。
     ぎゅっとモルモットを抱きしめるアルビナの頭をよぎる疑惑。
    (「今でもモルを食用としてる地域があるとか……」)
     危険を察しバタバタと膝の上のモルモットが暴れ出す。
    「あれ? なんで!?」
     可愛らしいウサギにモルモット。カピバラがいないのはちょっと残念。それでも心桜とかごめのテンションは上がる。
    「モルモットってたまに噛むんだってさ」
    「へー、こんなに可愛いお口なのに……」
     明莉の言葉にナディアは意外そうにモルモットの口元をツンとつつけば。
    「っぁぁ、今、このコ噛んだぁ!」
     がじっと齧られ慌てふためくナディアの頭を「大丈夫?」と優しくかごめが撫でた。
    「ほれ、心桜」
    「なんじゃ、明莉先輩……」
     ウサギを抱っこしながらかごめたちを優しく見守る心桜が「ん?」と明莉に顔を向けたところで待っていたのはウサぱんち。
    「むぅぅ、先輩の意地悪ー!」
     ぽかぽかパンチでお返しをする心桜。それを笑顔で受け止める明莉。
     じゃれ合う2人を見つめるかごめの膝にふわっと生き物の温もりが広がる。
    「……ふふ、楽しいねナディア先輩」
     笑顔のかごめを見るだけでナディアの心もふんわり温かくなるのだった。
     依頼で出会ったウサギに想いを馳せ緋織はクリーム色のウサギをそっと抱き上げる。
    「この子、温かくてふわふわあ……♪」
     ――目を細めうっとり幸せそうに微笑む緋織を見ているだけで嬉しい。
     眞白もひょいっとパンダ柄のウサギを抱きしめた。
    「こっちのパンダさんだってふわふわさじゃ負けてねぇぜ?」
     癒しの時をくれた2羽へのお礼にと餌を差し出し願いを込めて優しく撫でる。
     いつか、うちのコに来てね――。 
    「わーい、うさぎー!」
     早速足元で跳ねるウサギを一羽抱きかかえて喜ぶ七を横目にかまちもそっとウサギを抱き上げた。
    「ね、もっともっとだっこしてみてよ」
     笑顔の七はかまちを座らせると次々とウサギを手渡していく。
    「ちょっとお前……おい」
     かまちが気付いた時にはすっかりウサギに囲まれ身動きが取れず。
     笑顔の七と共に写真をパチリ。
     満足そうな七を見て誘った甲斐があったなとかまちも独りごちた。
     腕に広がる生き物の温もりは癒される。
     嬉しそうにレイは傍らのシュウにも触るようにとウサギを差し出した。
     遠慮がちに手を伸ばしたシュウもその心地良さに心癒され微かに笑みを浮かべた。
     ウサギたちが戯れる姿にいりすは大はしゃぎ。
     だが、一方のシュヴァルツは怪訝そうにウサギたちを指さした。
    「なぁ、これどうやって触んの?」
     シュヴァルツにウサギの抱き方を見せたいりすはこっそり姿を変えてウサギたちと遊び回る。
    (「あれ? シュヴァルツ君寝ちゃった……?」)
     ウサギたちにぽふぽふ揺すられ、ばっとシュヴァルツも目を覚ますのだった。
    「そうだ、よかったら、これ……」
     ウサギをもふっていたレイが「ん?」と顔を向ける。
    「この前、誕生日だったろう? おめでとう、レイ先輩」
     シュウが差し出した小箱を受け取り、レイは笑顔で微笑んだ。
    「ありがとう、シュウ」
     そっと伸ばしかけた手を流希はすっと引込める。
     小さくて繊細なウサギたちは触れるだけで怪我をさせそうで。
     惑う流希などお構いなしにウサギたちは餌を求め寄ってくるのだった。
     差し出したニンジンにウサギたちは夢中でかぶりつく。
     そのもふもふした毛並をにあは優しくそっと撫でた。
     ぴょこぴょこと元気よく跳ね回るウサギたちに夢羽はうわぁっと顔を輝かせる。
    「ウサギさん、いっぱいだね~」
     はしゃぐ夢羽のためにタロウはひょいとウサギを抱き上げた。
    「ユメハには大きいから気を付けて」
     タロウにウサギを抱っこさせてもらってご満悦。
    「ウサギさん、キャベツおいしいー?」
     口元へ持って行った餌をもしゃっと美味しそうに齧る姿は愛らしく。
    「可愛いですね」
     太郎の言葉にこっくりと來未は頷いた。
    「……來未さん……」
     どこからか自分を呼ぶ声がする。
     声の主を辿って視線を巡らせれば、人だかりならぬウサギだかり影から一樹の声が。
    「すみません、ちょっと助けていただけますか」
     言われるがままに一樹を助け出し。ウサギを抱っこしながら2人はほっと安堵した。
     広場の片隅で白馬は熱心に色鉛筆を動かす。
     スケッチブックに描かれたウサギたちは今にも動き出しそうで。
     満足の行く出来栄えに白馬は静かにスケッチブックを閉じた。

    ●歓
    「はこちゃん餌だけとられてやんの」
     そっと差し出した種は素早い動きでぱっととられ。
     お目当ての餌がなくなればツンとそっぽを向いてしまったリスを見つめ残念そうに肩をすくめるはこを見て芥汰は笑う。
    「はこ先輩……あくたん、見て見テ!」
     餌を頬張ってまんまるほっぺのリスと一緒に振り返る夜深に「かわいーね」とはこも目を細めた。
    「もっと、撫で撫デ、させて、欲シ、のヨ……!」
     ぱたぱたとリスを追いかける夜深の姿を動画に収めつつ芥汰もはこに誘われ餌を差し出す。
    「おー食ってる」
    「頬袋つっついちゃおーっと」
     2人こっそりツンツンとリスの頬を突くのだった。
    「来た! 陽菜さん、来ましたよ!」
     そぉっと差し出した手からひょいっと餌を掴むリスにゆまはメロメロ。
    「食べた! 食べましたよ!」
    「わぁぁ……可愛い……っ」
     可愛いよぅっと悶える愛らしい先輩に向け陽菜はにっこり笑顔でシャッターを切る。
    「あ、來未さん!」
     ――よかったら、一緒に写真撮りませんか?
     陽菜たちの誘いに來未はこくんと頷き。
     リスと一緒に撮った写真は幸せな誕生日の想い出。
    「文太、可愛いコいっぱいいるねー♪」
     向日葵の肩に乗ったエゾリスの文太が嬉しそうな声をあげた。
     文太の友達にと餌を片手に美人リスを探す【びゃくりん】の仲間たちに誘われ來未も一緒に可愛いコ探しに参戦。
    「こら、それは玩具じゃありませんよ」
     さっそく來未の白いマフラーを齧ろうとするリスにセカイが「めっ」と可愛く怒り。
     可愛いコを見つけたと文太をけしかける咲哉の傍で真琴はおっかなびっくり餌を差し出す。
    (「きゃー!?」)
     一斉に群がるリスに驚き勢い余ってぺたんと尻餅をついた。
    「ほらほら大丈夫か?」
     咲哉に助け起こされ照れ笑いを浮かべる真琴も傍で新たな悲鳴があがる。
    「わきゃー!」
    「向日葵、大人気じゃないか」
     楽しげに笑う咲哉につられセカイもにこにこと笑顔で見守って。
    「笑ってないで助けてー!」
     ご主人の悲鳴にちょこんと首を傾げる文太の横には新たな友達がいたのだった。
    「御機嫌よう、來未」
     心地よい風に髪をなびかせ佇む來未を見つけ恵理が静かに声をかける。
     ふっと顔をあげた來未に【空色小箱】の面々が駆け寄ってきた。
    「ハッピーバースデー久椚さんっ!」
     笑顔の紗月を皮切りに、皆口々に來未への祝いの言葉を口にする。
    「ほら、このコもお祝いしたいみたいですよっ」
     はいっと笑顔で紗月が差し出すのリスを來未は手袋を嵌めた両手で包み込んだ。
    「ふわふわ……かわいい……」
    「ね、かわいいよねー♪」
     見て! とみとわも手の上にリスを乗せて相好を崩す。
     食べるかなぁ……と餌を差し出した花火の手からひょいと受け取ったリスはもくもくと種を頬張った。
    「わぁ、食べたよ!」
     リスと触れ合う友人たちを恵理はぐるりと見回し。
     何事も一生懸命楽しむ仲間たちを愛おしそうに見つめる。
    (「大好きよ、みんな……」) 
    「あ!」
     來未の姿を見つけた司(d00813)はぶんぶんと大きく手を振った。
    「來未さん、両手出して~♪」
     言われるがままに両手を差し出した來未の手にどさどさと餌を乗せる。
    「あ……」
     餌に惹かれてリスたちがわらわらと集まってきた。
     もぐもぐと餌を食べる姿を間近で見て和む司と來未。
    「そういえば、シマリスさんはどこでしょう?」
    「なんか、あっちに、いた、けど」
     きょろきょろする司に來未は逆の方向を指さした。
    「わかりました! 行きましょう!」
     ぐいと司は來未を引っ張って歩き出す。
     餌やりを楽しむイーファたち【夜天薫香】の仲間からふらりと離れ天嶺はきょろきょろと辺りを見回した。
    (「シマリスさん、どこかな……」)
    「いたか?」
     同じように視線を巡らせる優志の問いに天嶺は首を横に振る。
    「きゃー!?」
     うっかり餌を溢したましろの周りをあっという間にリスたちが取り囲んで。
     おろおろ助けを求める少女を慌てて美夜が助けに向かった。
     ゆったりと流れる時の中、視界の端でささっと動く小さな影。
     天嶺と優志がぱっと同時に顔を見合わせる。
    「あまね、シマリス会えた?」
    「ん、こっち……」
     手招きをする天嶺にイーファはぱっと顔を輝かせパタパタと駆け寄った。
    「よく見つけたね……」
     感心したように呟く美夜はじぃっとシマリスから視線を動かさない。
    「ん? どうした?」
    「あぁ、美味しいものを頬張ってるましろにそっくりだなって……」
     ぱっと顔をあげた優志の視線の先にはぷぅっと頬を膨らませるましろ。
    「えぇ!? わたし、あんな風じゃないよぅ」
     堪えきれず皆が一斉に笑うのだった。

     夕暮れの庭を忙しなくリスたちが駆けまわる。
     心なしか涼しくなった風が運ぶ明るい笑い声に耳を傾け來未は静かに目を閉じた。
     ――幸せな誕生日を、ありがとう。

    作者:春風わかな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月4日
    難度:簡単
    参加:70人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 13/キャラが大事にされていた 3
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